弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中340日をその刑に算入する。
押収してある果物ナイフ2本(平成17年押第27号符号1,同号符
号6,筋引包丁1本(平成17年押第27号符号2,洋出刃包丁1本(平成17年押第))
27号符号3)及び出刃包丁1本(平成17年押第27号符号5)を没収する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,かねてから自己を人間として扱ってくれないとして恨みを抱いていたAを殺
害して金品を強取しようと企て,B及びCと共謀の上
第1平成17年3月7日午後2時30分ころから同日午後2時45分ころまでの間,神
戸市D区E町a番b号Fc号室において,被告人及びBが,上記A(当時32歳)に対し
,ひそかに睡眠薬を混入しておいたアイスティーを飲ませた上,同日午後4時45分ころ
,被告人が,ソファー上で眠り込んでいる上記Aに対し,殺意をもって,所携の筋引包丁
(刃体の長さ約22センチメートル。平成17年押第27号符号2)でその腹部を1回突
き刺し,そのころから同日午後5時50分ころまでの間,所携の出刃包丁(刃体の長さ約
18センチメートル。平成17年押第27号符号5)等を用いて,同人の胸腹部,頚部等
を多数回突き刺すなどし,よって,そのころ,同所において,同人を左腎臓及び右鎖骨下
動脈刺創並びに右内頚静脈切損等に基づく失血により死亡させて殺害した上,同所にあっ
た同人所有の現金約300万円等在中のセカンドバッグ1個を強取した
第2業務その他正当な理由による場合でないのに,前記日時場所において,前記筋引包
丁,前記出刃包丁及び洋出刃包丁(刃体の長さ約15センチメートル。平成17年押第2
7号符号3)各1本並びに果物ナイフ2本(刃体の長さ約10センチメートル。平成17
年押第27号符号1,同号符号6)を携帯した
ものである。
(証拠の標目)―括弧内の甲,乙に続く数字は検察官請求証拠番号―
省略
(事実認定の補足説明)
1弁護人は判示第1の犯行以下本件犯行というについて被告人には強取の,(「」。),
意思が存しなかったから,強盗殺人罪は成立せず,殺人罪が成立するにとどまると主張し
,被告人も,当公判廷において,これに沿うかのような供述をしているので,当裁判所が
強盗殺人罪の成立を認めた理由を補足説明する。
2関係各証拠によれば,(1)被告人は,被害者である前記A(以下「被害者」という)。
に対し,自己を使用人扱いされたり,売春していることを理由に笑いものにされたとして
恨みを抱くなどしたことから,同じく被害者からの借金の返済や転借していた事務所の家
賃の支払いに苦しむなどして,被害者を疎ましく思っていたBに対し,その殺害をほのめ
かすなどしたところ,Bは,これに同調し,被害者を殺害すれば被告人がかねて心苦しく
思っていたBの内妻からの借金を免除することを約束した上,同じく被害者の言動等への
対応に困り果てこれを疎ましく思っていたCに被告人の意向を伝え,Cとの間でこれを機
会に被害者の金品を奪おうなどと話し合うに至ったこと(2)被告人B及びC以下被,,(「
告人らというは会合等を重ねた挙げ句被害者を睡眠薬で眠らせて殺害しその所」。),,,
持する現金等を奪った上,被告人が単独犯として警察に出頭するとともに,B及びCが現
金等を取得して出頭後の被告人の面倒を見ることなどを取り決め,本件犯行についての謀
議を遂げたこと(3)被告人及びBはCから提供してもらった資金で判示の包丁等を購入,,
するなどした上,睡眠薬を混入しておいた飲物を被害者に飲ませて眠り込ませ,被告人が
,携帯電話のメールで被害者の状況等をBに逐一報告,相談するなどしながら被害者を殺
害して判示のセカンドバッグを持ち出したこと(4)同バッグ内の現金約300万円のほ,,
とんどはB及びCが取得し,被告人は,そのうちから1万円等のみを受け取った上,様子
を見計らって翌日の深夜にG警察署に出頭し,単独犯行による単純な殺人であるとして供
述したことなどの事情が認められる。
なお,以上の各事実を認めた主要な根拠である被告人及びBの捜査段階における各供
述の信用性について付言すると,いずれも自己に不利益な内容を具体的かつ詳細に供述し
ており,自然かつ迫真的なものであること,その内容も互いにおおむね合致している上,
両名が謀議を重ねた状況や犯行の際の具体的状況等,上記各供述の根幹部分については,
犯行現場や被害者の遺体の状況等のほか,両名の携帯電話間で交わされたメールによる動
かぬ裏付けがあることなどに照らし,それらの信用性は極めて高いと認められる。
3そして,上記の事実関係にかんがみると,被告人が本件犯行を敢行するに至った主要
な動機は,被害者に対する恨みを晴らすということであったとしても,B及びCとの謀議
の過程で,被害者の所持する大金を強取して上記両名に交付するということが両名の犯行
加担や警察への出頭後における被告人に対する援助の当然の前提となっていたといわざる
を得ない上,被告人としても,これを前提とする両名の有形無形の支援の下で本件犯行を
敢行した上で,両名と比較すればはるかに少額とはいえ,自己の分け前をためらうことな
く受け取るとともに,出頭後における両名の援助を期待してもいたのであるから,被害者
の殺害と強取とは不可分一体の関係にあって,被告人には強取の意思も存したと認めざる
を得ず,両名との共謀に基づく強盗殺人罪が成立することは明らかである。これに対し,
被告人の当公判廷における供述が上記のような認定をも否定する趣旨であるとすれば,到
底信用することができない。
4なお,弁護人は,被告人が被害者を殺害してそのバッグを持ち出したことは争わない
ものの,被告人らの間では,被害者の殺害については詳細な打合せがなされていたのに対
し,バッグの持ち出しについてはBが持ち出すという程度のことしか決まっていなかった
ところ,Bが,バッグの持ち出しについて特段の指示をしないまま,殺害現場となった事
務所から外出して戻らなかったため,被害者を殺害する時点では,被告人としては,バッ
グの持ち出しは中止になったと考えていたといわざるを得ないから,強取の意思はなくな
っていたと主張するしかしながら上記2(2)のとおり本件当日までに被害者に対す,。,,
る強盗殺人罪の共謀が成立していたことは明らかであるところ,被告人が,Bが事務所に
戻ってこなかったのに,バッグの持ち出しについて何の確認もすることなしに被害者を殺
害していることや,犯行後にBからバッグの持ち出しについて念を押されるや,これに特
段異を唱えることもなくバッグを持ち出していることに照らすと,被告人が殺害行為に及
ぶ前の時点で強取を中止する旨被告人とBとの間で意を通じたなどとみる余地は皆無であ
って,Bが事務所に戻ってこなかったこと自体は,単にバッグ持ち出しの担当者がBから
被告人に変更されたことを意味するにすぎないから,被告人らの間で強取の共謀が解消し
たなどとは到底いえない。
5以上のとおり,弁護人の主張は理由がない。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は,貸金業を営んでいた被害者との間で仕事上のつながりを有していた被告人ら3
人による強盗殺人及びその際の銃刀法違反各1件からなる事案である。
被告人らは,さまざまな立場で被害者と仕事上のかかわりを持つ中で,それぞれ被害者
のことを疎ましく思うに至ったことから,被告人が被害者の殺害をほのめかすや,他の2
人もこれに同調し,これを機会に被害者の金品を強取することをも企てた上,強盗殺人の
犯行に及んだものであって,本件犯行は,短絡的かつ自己中心的で利欲的な犯行といわざ
るを得ない。また,被告人らは,殺害方法や犯行後の隠ぺい工作を含む入念な謀議を重ね
,スタンガンや判示の包丁等を用意し,睡眠薬入りの飲物を飲ませて被害者を眠り込ませ
た上,多数回にわたり包丁等で突き刺すなどして被害者を殺害するなどしたものであって
,本件犯行は,周到かつ綿密な計画に基づく,執よう,残忍かつ冷酷な犯行というほかな
い。しかも,被告人は,警察署に出頭して単独で被害者を殺害したと供述するなどしてお
り,後記のメールの解析がなされるまでは,被告人らの真相隠ぺい工作が成就する可能性
もあり得たのであって,犯行後の事情も芳しくない。
加えて,犯行の結果も誠に重大である。信頼を寄せていた被告人らに裏切られ,十分な
抵抗をすることも,妻や幼い子供らと別れの言葉を交わすこともできないまま,1時間余
りにわたって執ような攻撃を受け無惨にも生命を奪われた被害者の心身の苦痛や無念の情
は,誠に察するに余りある。一家の大黒柱を失った妻や被害者の実母など遺族の悲しみは
深く,その憤りもまた峻烈であって,処罰感情には誠に厳しいものがある。また,被害者
から奪った金品も合計約300万円もの多額に達しており,財産的被害も相当に大きい。
しかるに,被告人からは,積極的な慰藉や被害回復の措置は何ら講じられていない。
ところで,被告人は,長期の服役を覚悟しつつ実行犯として自ら被害者を殺害して金品
を強取しているのであって,被告人なしには本件犯行は実行され得なかったといわざるを
得ず,その果たした役割にはすこぶる大きいものがある。また,被告人は,借金を重ねる
ため偽装結婚したり,その小口貸金業を手伝うなどしていたBを通じて貸金業を営む被害
者と知り合うようになり,食費や住居にも困る状態であったことから,Bが被害者から転
借していた事務所で寝泊まりするなどしていたが,同人から使用人扱いされたり,売春し
ていることを理由に笑いものにされたなどとして,同人に対する恨みを募らせた挙げ句,
B及びCと謀議を重ねた上で本件犯行に及んだものである。しかしながら,仮に被告人の
供述するような言動が被害者にあったとしても,被害者が被告人に種々の援助や便宜を与
えていたこともまた明らかであって,生命を奪われるほどの落ち度や理由などなかったと
いうほかない。そして,これらの諸事情に照らすと,被告人の刑責は極めて重大であると
いわざるを得ない。
そうすると,他方で,被告人が本件犯行に及んだ主要な動機は,被害者に対する恨みを
晴らすためであって,利欲的な動機が大きいとは認められないこと,被害者の殺害を最初
に口にしたのは被告人であるが,Bにおいても,被告人をしかったり激励するなどして犯
意を固めさせている上,被害金品のほとんどを取得するなどしているのであって,被告人
がBに利用されたという面もあること,起訴後のこととはいえ,B及びCら共犯者の存在
も含め,本件犯行について率直に捜査官に供述するに至っており,それが本件事案の解明
に資していること(なお,弁護人は,被告人が上記のような供述をするに至ったことをも
って自首が成立すると主張するが,その当時は,被告人とBとの間のメールの解析が進め
られるなどした結果,捜査機関においても本件の全体像を把握するに至っており,その請
求によって被告人に接見等禁止決定が付された後に,ようやく上記のような供述がなされ
たものであるから,捜査機関に発覚する前になされたものという余地はなく,自首は成立
しない,被害者の命日等には願い出て手を合わせるなど,反省の態度を示していること。)
,もとより前科前歴もないことなど,被告人のために酌むべき事情も認められるが,これ
らの事情を十分に考慮しても,酌量減軽をするに足りる格別の情状が存するとまでいうこ
とはできず,被告人に対しては,無期懲役刑に処して,しょく罪の日々を送らせるのが相
当といわざるを得ない。
よって,主文のとおり判決する。
平成18年7月10日
神戸地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官的場純男
裁判官西野吾一
裁判官三重野真人

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