弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件各上告を棄却する。
         理    由
 被告人A弁護人鍛治利一の上告趣意第一点について。
 原判決摘示事実中第一及び第三の事実はその挙示する証拠から優にこれを認定す
ることができるのであつて、原判決には、所論の如き社会通念に反する点も理由不
備の違法も存しない。従つて論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判決の証拠説明には、原判示第一及び第三の事実認定の証拠として「被告人A、
同Bに対する検事の第二回聴取書中夫々判示同旨の供述記載」が掲げられているこ
と所論の通りである。しかし、記録を見ると、被告人Aに対する検事の聴取書は第
一回乃至第三回聴取書の三通が存し、被告人Bに対する検事の聴取書は第一、二回
聴取書の二通が存するのであるが、その内容を検討すると、いずれも第一回聴取書
には判示同旨の供述記載があり、その余の各聴取書には全然別個の事実についての
供述記載だけがあるので、原判決に前示の如く「第二回聴取書」とあるのは、いず
れも「第一回聴取書」の誤記であることは極めて明瞭である。そうしてその誤記を
右の如く訂正して読めば、所論のような虚無の証拠を罪証に供した違法は存しない
のであるから、論旨は理由がないといわなければならない。
 同第三点について。
 被告人Aが所論の如き趣旨の下に金千円を支払つた事実は原審の認定しなかつた
ところであるばかりでなく、原判決挙示の証拠を見ると、被告人Aは相被告人C及
び原審相被告人Bに所論とは全く異つた趣旨の下に金千円を渡し、右両名において
これを二分し金五百円宛取得したことが判るのであるから、この点に関する所論は
全然理由がない。
 次に原審が精米一斗の価格を金百三十七円六十二銭相当と認定したことは、右精
米について当時適用のあつた昭和二二年七月六日物価庁告示第三五六号に定めてい
る統制額に照らし正当であるが、判示玄米七斗については、当時適用のあつた昭和
二二年一一月一日物価庁告示第九六〇号に定めている統制額に基ずいて算出すべき
ものであつて、同告示により算出すれば、原判示金額より若干多額になること算数
上明らかであり、原判決はこの点において違法が存するものといはなけれはならな
いが、原判示価格は被告人Aに有利に算出されている結果、同被告人に対する追徴
の金額もそれだけ少額になつているので、右玄米七斗の価格の誤謬を指摘する論旨
は結局被告人に不利益な主張となるのであるから、上告適法の理由とならない。
 同第四点、第五点及び第六点について。
 原判示第四の(一)、(二)及び同第五の各事実はその挙示する証拠から優に肯
認できるのであつて、被告人Aが農地委員の職務に関し、それぞれ判示の如き趣旨
の下に交付されるものであることを知りながら判示各金員を収受したことが明らか
であるから、同被告人の判示各所為に対し、原審が刑法一九七条一項を適用したこ
とは正当というべく、所論の如く職務行為の解釈を誤つた違法は存しない。所論は
結局原審の採用しなかつた証拠に基ずき、或は原審の採用した証拠について独自の
解釈を施して立論し、原判決の法律適用を論難しているに過ぎない。されば論旨は
いずれも理由がない。
 被告人C弁護人松本重夫の上告趣意第一点について。
 記録を精査するに、Dに対する検事の聴取書には各葉に書類作成者たる検事の契
印がなく、従つて右聴取書はその点において旧刑訴七一条二項所定の方式に違反し
ているものであることは所論のとおりである。しかし右聴取書は契印が欠如したい
る以外はすべて適式であつて、各葉の筆跡、文言の連続関係等に徴すれば、一つの
まとまつた聴取書として、その全体が検事によつて真正に作成されたものであるこ
とが認められるから、右聴取書は有効のものというべく、これを罪証に供して原判
決には違法はない。従つて論旨は理由がない。
 同第二点について。
 原判示第四の(一)及び(二)の各事実認定の証拠として、相被告人Aに対する
検事の第二回聴取書、原審相被告人Eに対する検事の聴取書、関係人F、同G、同
Dに対する検事の各聴取書が採用されていることは所論のとおりである。しかし、
相被告人A、原審相被告人Eは被告人Cと共に本件の共同被告人として、第一審裁
判所及び原審裁判所の同一公判廷において、同時に審理を受け、何時でも相被告人
を尋問する機会が与えられていたものであり、また、関係人F、同G及び同Dにつ
いては、第一審第二回公判において、被告人Cの弁護人中村義夫は右三名の証人喚
問を申請し、その申請はいずれも採用され、右申請に基ずく証人尋問は裁判所外に
おいて右弁護人立会の下になされ、しかも、右各証人尋問調書については、同第三
回公判において適式な証拠調が行われ、その際被告人はこれに対し意見弁解等なき
旨を答えている。そうして、原審においても、前記各聴取書については適式な証拠
調が行われ、且つその際裁判長から関係人に対する尋問を請求することができる旨
を告げられたが、被告人は別段尋問の請求をしなかつたのであつて、これらの事実
は第一審及び原審の各公判調書の記載等に徴し明らかである。かような審理手続の
経過に徴すれば、第一審及び原審において被告人に与えられている審問権を実質的
に害しない措置が十分に講ぜられていることが判るのであるから、原判決には所論
のような憲法三七条二項の違反は存しない。そうして、この事は当裁判所大法廷累
次の判例の趣旨に照して明である。(昭和二二年(れ)第二五三号、昭和二三年七
月一四日宣告大法廷判決、昭和二三年(れ)第二九四号、昭和二三年七月二九日宣
告大法廷判決、昭和二四年(れ)第一八七三号、昭和二五年三月一五日宣告大法廷
判決、昭和二四年(つ)第九三号、昭和二五年三月六日、大法廷決定参照)。それ
故論旨は理由がない。
 同第三点について。
 本件犯行当時における農地調整法四条一項には「農地ノ所有権、賃借権、地上権
其ノ他ノ権利ノ設定又ハ移転ハ命令ノ定ムル所ニ依り当事者ニ於テ地方長官ノ許可
又ハ市町村農地委員会ノ承認ヲ受クルニ非ザレバ之ヲ為スコトヲ得ズ」、同条三項
には「第一項ノ許可又ハ承認ヲ受ケズシテ為シタル行為ハ其ノ効力ヲ生ゼズ」、農
地調整法施行令二条一項には「農地ノ所有権、地上権……ヲ取得セントスル者……
ハ命令ノ定ムル所ニ依リ地方長官ノ許可ヲ受クベシ」、同条三項には「前二項ニ掲
グル権利ノ取得又ハ設定ノ登記ノ申請ヲ為スニハ其ノ申請書ニ地方長官ノ許可書又
ハ市町村農地委員会ノ承認書ヲ添附スルコトヲ要ス」、さらに農地調整法施行規則
六条一項には「農地ノ所有権、地上権、……ヲ取得セントスル者ガ農地調整法施行
令第二条第一項ノ規定ニ依ル許可ヲ受ケントスルトキハ左ニ掲グル事項ヲ記載シタ
ル申請書ヲ当該農地ノ所在スル都道府県ノ地方長官ニ提出スベシ」、(一号乃至八
号略)、同条二項には「同項ノ申請ハ当該農地ノ所在スル市町村ニ設置セラレタル
市町村農地委員会ヲ経由シテ之ヲ為スベシ」、同条三項には「前項ノ場合ニ於テ市
町村農地委員会ハ遅滞ナク意見ヲ附シ之ヲ地方長官ニ進達スルコトヲ要ス」と規定
している。従つて農地所有権の移転についての地方長官の許可申請書に意見を附し、
之を地方長官に進達することは右農地委員会の職務権限に属するものと認むべきで
ある。而して、本件農地の売買について、地方長官の許可申請書に意見を附し、地
方長官に進達することは、原判示農地委員会の職務権限に属する事項であり、被告
人がその農地委員の資格においてその権限の行使につき便宜の取扱を受けたい等の
趣旨の下に判示金員を受け取つたことは原判決挙示の証拠から肯認できるのである
から、原判決には所論のような理由不備の違法はない。
 同第四点について。
 本件土地が仮りに所論のように荒廃地であるとしても、自作農創設特別措置法三
条所定の農地に当る以上政府の買収の対象となるのであつて、現に、本件農地は政
府が之を買収し且つ売渡手続のとられていることは原判決挙示の証拠から認められ
るところであるから、所論のような審理不尽の違法は存しない。
 よつて旧刑訴四四六条により主文のとおり判決する。
 この判決は、裁判官全員一致の意見である。
 検察官 松本武裕関与
  昭和二六年一〇月一二日
     最高裁判所第二小法廷
            裁判官    栗   山       茂
            裁判官    小   谷   勝   重
            裁判官    藤   田   八   郎
 裁判長裁判官霜山精一は出張につき署名押印することができない。
            裁判官    栗   山       茂

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