弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人網野誠、同鈴木茂、同江口俊夫の上告理由について。
 原判決は、片仮名で「ジム」と横書きされて成り「事務用機械器具」を指定商品
とする本願商標につき、右指定商品の取引者需要者を含む一般世人にとつて右「ジ
ム」の語は多様な意味をあらわすものと解されるため、それがどのような意味を特
定表現したものかを意識しないで、その仮名文字または「ジム」の音自体としてそ
のまま認識されるに至るのが自然であり、従つて、簡易迅速を旨とする取引の実際
において広範囲の取引者需要者をもつ指定商品「事務用機械器具」に関しては、右
「ジム」の語は、ことさら「事務用」という用途表示ではなく、せいぜい固有の名
称として認識されるであろうことが容易に考えられるとの趣旨を説示したのであつ
て、それは、もちろん本願商標がその指定商品について使用された場合を想定した
うえの判断であることは疑いない。されば、これを指定商品との関係を離れた判断
と非難する所論はあたらない。
 また、「ジム」の語が一般世人に「寺務」、「時務」等の意味までを意識させる
ものでないことは所論のとおりであるとしても、なお外国人男性の名としての「ジ
ム」(Jamesの通称Jim)、あるいは近時においては体育館(Gymnas
ium)の「ジム」をも連想させるものであることは否定しがたく、他面「事務」
の語は日常広く多方面において用いられるが、それが片仮名横書きで表示されるよ
うなことは、現在なお異例に属することにかんがみれば、「ジム」の語が「事務用
機械器具」に使用されるならば当然「事務」の意味がまず想起されるものとする所
論もたやすく肯認しがたい。
 のみならず、原判決は、本願商標の「ジム」がその指定商品の用途を普通に用い
られる方法で表示するものでない理由として、「ジム」の語自体から直ちに「ジム
ヨウ」あるいは「事務用」の意を連想ないし認識しがたいことを挙げているのであ
つて、一般に「しごと」、「つとめ」、「取り扱う業務」等の意に広く用いられて
いる「事務」の語について、「事務用機械器具」の用途、効能等を表示するような
取引上の慣例も認められない本件においては、結局、原判示は相当であり、原判決
に所論の違法は存しない。
 論旨は、原判決が本願商標の「ジム」の意味をいかに直感するかをその指定商品
たる「事務用機械器具」の取引者需要者についてではなく、一般世人について  
 たのを失当と非難する。しかし、右指定商品の取引者需要者が文房具のごとき普
通の事務用具の需要者のように広範囲にわたるものではないとしても、前叙のよう
に、右商品の取引上でそれらの者が「ジム」の語について、特に世人一般と異なる
意味に使用することも認められない以上、所論は肯認しがたい。
 なお、論旨は、「事務用機械器具」の取引者にとつて「ジム」の語の使用は商標
法二六条により開放されているものとし、そのような文字の商標の登録は当然同法
三条によつて許されるべきでないと論じ、原判決は右三条の解釈適用を誤つたもの
と主張する。しかし「ジム」の語の商標以外の使用は、右二六条の関するところで
はない。従つて、所論はひつきよう「ジム」の語が「事務用機械器具」の用途を表
示するものであることを前提とし、それを普通に用いられる方法で表示した商標を
事務用機械器具について使用することは、右二六条により何人にも開放されている
はずであるから、右の語の商標としての使用を独占することになる本願商標は三条
一項によつて当然許されるべきでないというに帰し、その前提としたところに誤り
のあることは、前叙によつて明らかである。また、商品の広告や宣伝のうえで「ジ
ム」を「事務」の意味に使用できるからといつて、本願商標の登録が無意味となり、
あるいは公益を害するとも認めがたい。
 論旨はいずれも採用できない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文の
とおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    横   田   正   俊
            裁判官    田   中   二   郎
            裁判官    下   村   三   郎
            裁判官    松   本   正   雄
            裁判官    飯   村   義   美

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