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平成24年8月8日判決言渡同日原本領収裁判所書記官
平成23年(行ケ)第10358号審決取消請求事件
口頭弁論終結日平成24年7月18日
判決
原告ローベルトボツシュ
ゲーエムベーハー
同訴訟代理人弁護士加藤義明
木村育代
松永章吾
原澤敦美
同弁理士星公弘
高橋佳大
被告特許庁長官
同指定代理人堀川一郎
田村嘉章
槙原進
樋口信宏
守屋友宏
主文
1特許庁が不服2009-13910号事件について
平成23年6月21日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
主文1項と同旨
第2事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記
2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,同請求は
成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のと
おり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯
(1)原告は,発明の名称を「過電圧保護回路を備えた制御形の整流器ブリッジ
回路」とする発明について,平成11年7月27日(パリ条約による優先権主張
日:平成10年(1998年)8月5日,ドイツ連邦共和国)を国際出願日とする
特許出願(特願2000-564288)をした(甲4)。
(2)原告は,平成21年4月1日付けで拒絶の査定を受けたので,同年8月5
日,これに対する不服の審判を請求した(甲9,10)。
(3)原告は,平成23年4月19日付けで手続補正書(以下,同日付けの補正
を「本件補正」という。甲13)を提出した。
(4)特許庁は,上記請求を不服2009-13910号事件として審理した上,
平成23年6月21日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,そ
の謄本は同年7月6日原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載
本件審決が対象とした本件補正後の請求項1の記載は,以下のとおりである(以
下,請求項1に記載された発明を「本願発明」などという。また,本件出願に係る
本件補正後の明細書(特許請求の範囲につき甲13,その余につき甲4)を「本願
明細書」という。)。なお,「/」は,原文の改行部分を示す。
【請求項1】MOS電界効果トランジスタとして構成された整流器素子を有してお
り,/該整流器素子は発電機の相巻線に接続されており,該整流器素子により前記
発電機から送出された電圧がバッテリ(B)および電気的負荷へ供給される前に整
流され,/前記発電機の電圧のレベルが電圧制御回路を介して励磁巻線を通って流
れる励磁電流に影響することにより制御され,/前記励磁巻線に保護回路が配属さ
れており,/該保護回路により前記電気的負荷が迅速に低減する際に前記励磁巻線
に蓄積された磁気エネルギが電気エネルギに変換されて前記バッテリ(B)へフィ
ードバックされ,前記励磁巻線が遮断される,/複数の相巻線と1つの励磁巻線と
を有する発電機のための制御形の整流器ブリッジ回路において,/前記保護回路が
2つの半導体スイッチ(V11,V21)を有しており,該2つの半導体スイッチ
は前記励磁巻線に直列に接続されかつ前記バッテリ(B)に対して並列に接続され
ており,/第1の半導体スイッチ(V11)および前記励磁巻線(E)の直列回路
に対して並列に第1のダイオード(V31)が配置されており,さらに第2の半導
体スイッチ(V21)および前記励磁巻線(E)の直列回路に対して並列に第2の
ダイオード(V41)が配置されている/ことを特徴とする複数の相巻線と1つの
励磁巻線とを有する発電機のための制御形の整流器ブリッジ回路
3本件審決の理由の要旨
(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例に記載された
発明並びに下記イ,ウの周知例1及び2に記載された事項に基づいて,当業者が容
易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により,特許
を受けることができない,というものである。
ア引用例:特開平9-107697号公報(甲1)
イ周知例1:特開昭59-194697(甲3)
ウ周知例2:特開平8-205588(甲14)
(2)なお,本件審決は,その判断の前提として,引用発明及び本願発明と引用
発明との相違点を以下のとおり認定した。そして,本願発明の「保護回路が2つの
半導体スイッチ(V11,V21)を有しており」という構成は,①「保護回路が
半導体スイッチを2つ以上有しており」(解釈1)という構成と,②「保護回路が
半導体スイッチを2つのみ有しており」(解釈2)という構成の2通りに解釈する
ことができるとして,それぞれの解釈をした場合の本願発明と引用発明との一致点
及び相違点を以下のとおり認定した。
ア引用発明:ダイオードによって構成される整流回路の素子を有しており,
該整流回路の素子は自動車用交流発電機の固定子巻線の3相出力端子に接続されて
おり,該整流回路の素子により前記自動車用交流発電機から送出された電圧がバッ
テリへ供給される前に整流され,前記自動車用交流発電機の直流発電電圧が電圧調
整器のロジック回路を介して界磁巻線に流れる界磁巻線電流を調整することにより
制御され,前記界磁巻線に,H型に構成されるトランジスタを有する回路が接続さ
れており,該トランジスタは前記界磁巻線に直列に接続されかつ前記バッテリに対
して並列に接続されている3相の固定子巻線と1つの界磁巻線とを有する自動車用
交流発電機の制御回路
イ解釈1の場合の一致点:整流器素子を有しており,該整流器素子は発電機の
相巻線に接続されており,該整流器素子により前記発電機から送出された電圧がバ
ッテリへ供給される前に整流され,前記発電機の電圧のレベルが電圧制御回路を介
して励磁巻線を通って流れる励磁電流に影響することにより制御され,前記励磁巻
線に所定の回路が配属されており,前記所定の回路が2つの半導体スイッチを有し
ており,該2つの半導体スイッチは前記励磁巻線に直列に接続されかつ前記バッテ
リに対して並列に接続されている複数の相巻線と1つの励磁巻線とを有する発電機
のための制御形の整流器ブリッジ回路
ウ解釈2の場合の一致点:整流器素子を有しており,該整流器素子は発電機の
相巻線に接続されており,該整流器素子により前記発電機から送出された電圧がバ
ッテリへ供給される前に整流され,前記発電機の電圧のレベルが電圧制御回路を介
して励磁巻線を通って流れる励磁電流に影響することにより制御され,前記励磁巻
線に所定の回路が配属されており,前記所定の回路が少なくとも2つの半導体ス
イッチを有しており,該少なくとも2つの半導体スイッチは前記励磁巻線に直列に
接続されかつ前記バッテリに対して並列に接続されている複数の相巻線と1つの励
磁巻線とを有する発電機のための制御形の整流器ブリッジ回路
エ相違点1:本願発明は,整流器素子が「MOS電界効果トランジスタ」によ
り構成されるのに対し,引用発明は「ダイオード」により構成される点
オ相違点2:本願発明は,発電機から送出された電圧が電気的負荷にも供給さ
れるのに対し,引用発明は,かかる特定がなされていない点
カ解釈1の場合の相違点3:本願発明は,励磁巻線に,第1の半導体スイッチ
及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第1のダイオードが配置され,さらに
第2の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第2のダイオー
ドが配置された保護回路が配属され,電気的負荷が迅速に低減する際に前記励磁巻
線に蓄積された磁気エネルギが電気エネルギに変換されてバッテリへフィードバッ
クされ,前記励磁巻線が遮断されるのに対し,引用発明は,そのような構成とされ
ていない点
キ解釈2の場合の相違点3:本願発明は,励磁巻線に,2つの半導体スイッチ
を有し,第1の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第1の
ダイオードが配置され,さらに第2の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路
に対して並列に第2のダイオードが配置された保護回路が配属され,電気的負荷が
迅速に低減する際に前記励磁巻線に蓄積された磁気エネルギが電気エネルギに変換
されてバッテリへフィードバックされ,前記励磁巻線が遮断されるのに対し,引用
発明は,そのような構成とされていない点
4取消事由
本願発明の容易想到性に係る判断の誤り
第3当事者の主張
〔原告の主張〕
(1)本願発明及び一致点の認定の誤り(解釈1)について
ア本件審決は,本願発明と引用発明の過電圧に対する保護思想の違いと,そこ
から発生する作用の違いを看過した結果,半導体スイッチの数に関する認定を誤っ
たものである。本件審決は,本願発明の保護回路が,半導体スイッチを2つ以上有
している場合(解釈1)と,2つのみ有している場合(解釈2)とに場合分けして
判断している。
しかし,請求項1には「前記保護回路が2つの半導体スイッチを有しており,該
2つの半導体スイッチは前記励磁巻線に直列に接続され」と記載され,詳細な説明
においても半導体スイッチが2つだけの場合の実施例を説明している。したがって,
本願発明が,半導体スイッチが2つだけの場合を想定しているのは,請求項及び本
件明細書の記載から明らかである。
また,保護思想及び作用の観点からも,半導体スイッチの数は2つ以外に考えら
れない。本願発明のように,残留した励磁エネルギを回路現象により消滅させる場
合には増磁機能のみで足り,半導体スイッチは2つになるからである。被告は,本
願発明と引用発明とを一致させたいために無理にこのような解釈を行ったものと考
えられるが,このような誤った解釈は,本願発明と引用発明の技術的な違いを正し
く理解していないことから生じている。
したがって,本願発明の励磁回路の半導体スイッチを4つとする解釈1に基づく
本願発明の認定は誤りであり,解釈1の場合の一致点に関する判断が誤りであるこ
とは明白である。
イ被告は,「請求項1には,「2つのみ」と記載されているわけではないから,
保護回路内に半導体スイッチが2つ以上あればよく,したがって,半導体スイッチ
が4つのものも含まれる」とするが,このような解釈であれば,本件審決において,
解釈1と解釈2とに場合分けして判断したことを意味のないものとしている。そし
て,被告は,本訴において,励磁巻線は解釈1の場合も解釈2の場合も存在し,増
磁機能を司るスイッチング素子がオフした際に励磁巻線に発生する過電圧に関して
は,解釈1と解釈2に差異はない旨の主張をするが,このように,被告の論理が,
本件審決と本訴における主張で異なることからも,被告が,解釈1においても,解
釈2においても,本願発明の真の作用である,発電機の励磁回路にフィードバック
回路を設置することにより励磁巻線に蓄積されたエネルギを早急に消滅させて,フ
ィードバック回路を設置した励磁回路とは別回路である発電機出力の過電圧を抑制
するという機能を理解していなかったことは明らかである。
(2)本願発明の認定の誤り及び相違点の看過(解釈1及び解釈2)について
ア本件審決は,第1のダイオード及び第2のダイオードからなる回路(フィー
ドバック回路)の技術的意味について,正しく理解していない。
(ア)被告は,本願発明のフィードバック回路は,当該回路が設置された励磁回
路の過電圧を防止するためのものであると理解しているようである。しかし,本願
発明のフィードバック回路は,発電機出力の過電圧を防止するためのものであり,
このような本件審決の理解は誤りである。
(イ)本願発明のフィードバック回路は,励磁回路の過電圧を防止するのではな
く,発電機出力の過電圧を防止又は抑制し,ひいては発電機出力に接続されている
電気負荷の過電圧保護に資するものである。発電機出力に接続されていた電気負荷,
特に大容量の電気負荷が切り離されると,発電機の供給電力と電気負荷の需要電力
との間にアンバランスが生じ,供給電力量が需要電力量を上回ることにより発電機
出力が過電圧状態になり,残りの電気負荷に過電圧が印加される。
発電機出力を迅速に低減させるには,励磁回路において,第1の半導体スイッチ
及び第2の半導体スイッチを非導通にすることにより励磁エネルギの供給を停止す
るとともに,励磁巻線に蓄積された励磁エネルギを早急に消失させて発電量を低減
させる必要がある。なぜなら,半導体スイッチを非導通状態にするだけでは,励磁
巻線に蓄積された磁気エネルギが励磁巻線に残存するため,当該磁気エネルギが引
き続き磁束を形成し,発電量の低減に時間がかかるからである。発電量を低減する
ために,この励磁巻線に蓄積された励磁エネルギを早急に消失させるための回路が
フィートバック回路の設置目的である。励磁巻線に蓄積された励磁エネルギは,フ
ィードバック回路のダイオードを利用した回路現象により早急に消失される。ここ
で重要なことは,単に増磁用の励磁エネルギの供給を停止するだけではなく,励磁
巻線に蓄積された励磁エネルギを早急に消失させるという作用である。これにより
効果的に発電量が減少し,発電機出力の過電圧状態を抑制するのである。
(ウ)本件明細書によれば,本願発明のフィードバック回路が,励磁回路の過電
圧を抑制するためのものではなく,発電機出力の過電圧を抑制するためのものであ
ることは明白である。
(エ)仮に,本件審決が判断するように,励磁回路の過電圧を抑制することを目
的とするのであれば,本願出願時には多数の過電圧抑制手段が既に公知であったの
であるから,過電圧抑制手段として本願発明のフィードバック回路に限定される理
由はない。しかし,これらの過電圧抑制手段は,励磁回路の過電圧抑制は可能であ
っても,本願発明のフィードバック回路のように,励磁巻線に蓄積された磁気エネ
ルギを回路現象によって早急に消失させる機能を有しておらず,したがって,発電
量を低減させて発電機出力の過電圧を抑制する機能は有していない。
(オ)したがって,本件審決が本願発明のフィートバック回路が励磁回路の過電
圧抑制のために設置されていると解釈したのは誤りであり,さらに,励磁回路の過
電圧抑制のために本願発明のフィードバック回路を選択した根拠は本件明細書の内
容を知った上の後知恵によるものである。よって,本願発明は引用発明に基づき容
易に推考できる発明ではない。
イ本件審決は,解釈1及び解釈2における相違点3の判断において,発電機出
力の過電圧抑制に対する本願発明の保護方法と引用発明の保護方法とを,励磁巻線
への励磁電流の遮断という観点で同じ保護方法であるかのように論じている。しか
し,このような理解は,両発明の技術的意味を理解していないことから生じる誤っ
たものである。
(ア)保護思想の相違
引用発明は,発電機の負荷開放時における発電機出力の過電圧に対し,励磁回路
をフィードバック制御し,かつ,励磁回路に減磁電流を流すことにより対処するも
のである。一方,本願発明は,励磁回路には増磁電流しか流せず,かつ,フィード
バック制御ではなく,第1,2のダイオードから構成されるフィードバック回路の
回路現象によって対処する。
そして,引用発明は,励磁巻線に逆方向の電流(減磁)させることにより励磁エ
ネルギを強く消滅させる効果を有するという長所がある。しかし,引用発明は,発
電機出力の電圧を検出し,検出した電圧に基づき制御回路がスイッチング素子の制
御端子に指令を出すというフィードバック制御を採用しているため,効果が発揮さ
れるまでに長い時間を要し,発電機出力が急速に過電圧になった場合,当該過電圧
の抑制が間に合わない危険があるという短所を持つ。
一方,本願発明は,上記のようなフィードック制御ではなく,第1,第2のダイ
オードにより構成されるフィードバック回路の回路現象によるものであるから,過
電圧に対し引用発明より高速に対応できるという長所がある。
このように,発電機出力の過電圧に対し,引用発明はフィードバック制御による
減磁機能で対処するのに対し,本願発明は,増磁機能しか有さず,かつ,制御では
なくフィードバック回路の回路現象で対処するという点において,その思想に大き
な相違がある。
(イ)本願発明は,第1及び第2の半導体スイッチを非導通状態にして増磁エネ
ルギの供給を停止し,それにより孤立した励磁巻線に蓄積されたエネルギを,スイ
ッチと並行にダイオードを設置することにより放出するルートを確保し(フィード
バック回路),バッテリにそのエネルギをフィードバックする。これにより,エネ
ルギが消失する。一方,引用発明は増磁用の半導体スイッチをオフさせて増磁エネ
ルギの供給を停止させるが,それと同時に減磁用の半導体スイッチをオンさせて減
磁エネルギを供給する(逆方向の電流を供給する)。励磁巻線に蓄えられた増磁エ
ネルギと逆極性のエネルギが供給されることによって,増磁エネルギが打ち消され
るとともに,減磁エネルギが蓄積される。
そもそも,引用発明の保護思想は「一方向にのみ電流を流す構成(本願発明の励
磁回路に相当する)」を否定した保護思想を基礎としたものであって,この保護思
想が上記相違点を生み出す要因となっている。このように,本願発明と引用発明と
は保護思想及び作用に関して大きな相違点があり,この相違点は,本件審決の解釈
1,解釈2にかかわらず,どちらの解釈においても共通する相違点であるが,この
点について,本件審決は一切触れていない。
(ウ)以上のとおり,本願発明と引用発明とは保護思想及び作用に関し,明らか
な違いがある。
(3)相違点3の判断の誤り(解釈2)について
ア引用発明は,発電機の負荷開放時における発電機出力の過電圧に対し,励磁
回路をフィードバック制御し,かつ,励磁回路に減磁電流を流すことにより対処す
るものである。一方,本願発明は,励磁回路には増磁電流しか流せず,かつ,フィ
ードバック制御ではなく,第1,2のダイオードから構成されるフィードバック回
路の回路現象によって対処する。
引用発明は,発電機出力の電圧を検出し,検出した電圧に基づき制御回路がスイ
ッチング素子の制御端子に指令を出すというフィードバック制御を採用しているた
め,効果が発揮されるまでに長い時間を要し,発電機出力が急速に過電圧になった
場合,当該過電圧の抑制が間に合わない危険があるという短所を持つ。一方,本願
発明は,第1,2のダイオードにより構成されるフィードバック回路の回路現象に
よるものであるから,過電圧に対し引用発明より高速に対応できるという長所があ
る。
引用発明の保護思想は「一方向のみに電流を流す構成」を否定した保護思想を基
礎とするものであって,この思想が相違点を生み出す要因となっている。
イ本件審決は,半導体スイッチを4つ有する引用発明のH型ブリッジ回路を設
置したまま周知例2のフィードバック回路だけを追加することは周知であると判断
している。しかし,これは,本願発明の半導体スイッチが2つのみの場合の解釈2
であるから,半導体スイッチを4つ有する引用発明に周知例2のフィードバック回
路を追加しても,本願発明と同一の構成にならない。
〔被告の主張〕
(1)本願発明及び一致点の認定の誤り(解釈1)について
請求項1には,「2つのみ」と記載されているわけではないから,保護回路内に
半導体スイッチが2つ以上あればよく,したがって,半導体スイッチが4つのもの
も含まれる。また,本件明細書の記載はあくまで一実施例であるから,解釈1に基
づいて相違点3を判断した本件審決に誤りはない。
(2)本願発明の認定の誤り及び相違点の看過(解釈1及び解釈2)について
アコイル等のインダクタンス分は,電源の供給が停止しても,インダクタンス
に蓄積されたエネルギは電源停止と同時に零にはならず,当該エネルギを蓄積し続
ける。そのため,当該エネルギーを何らかの手段で解放しなければスイッチング素
子の損傷等に至るから,電動機・発電機のコイルには,通常記載はなくても並列に
ダイオードが接続され,このように蓄積エネルギを解放することは技術常識である。
イ引用発明は,通常動作時の発電機の界磁側の磁場の制御が目的であって,発
電機の負荷開放時における発電機出力の過電圧に対処することを目的としておらず,
過電圧保護は,コイルに並列にダイオードを接続することで対処することが技術常
識であり,原告の主張は失当である。
(3)相違点3の判断の誤り(解釈2)について
ア原告は,引用発明のH型トランジスタが発電機出力の検出電圧によりフィー
ドバック制御されていることを問題視しているようであるが,そもそも本願発明の
2つのトランジスタにおいても,発電機出力の検出電圧によるフィードバック制御
が行われていることは明らかである。
すなわち,特許請求の範囲には,「前記発電機の電圧のレベルが電圧制御回路を
介して励磁巻線を通って流れる励磁電流に影響することにより制御され」と記載さ
れ,【0008】【0009】の記載によれば,励磁電流の遮断時に励磁巻線に誘
導される逆電圧(励磁巻線に蓄積された磁気エネルギ)をフィードバックするダイ
オードの構成は,技術常識であるダイオードの構成に他ならず,励磁巻線に蓄積さ
れた磁気エネルギを速やかに解放するという点において何ら相違しない。
イ発電機の励磁電流を制御するためには,当該電気回路にスイッチング素子を
設ける必要があり,励磁巻線に接続するスイッチング素子の個数は,1個であるか
(甲2),2個であるか(本願発明),4個であるか(引用発明)のいずれかであ
る。
そして,スイッチング素子の個数を,1個,2個,4個とすることは,いずれも
周知技術であるから,スイッチング素子の個数をいずれの個数とするかは,ダイオ
ードの個数の節約と発電機の制御態様との兼ね合いに応じて,当業者が必要に応じ
て選択し得るものである。
また,スイッチング素子を2個用いる第1,2のダイオードから構成されるフィ
ードバック回路も,周知技術である(乙1~3)。
そうであれば,引用発明においても,過電圧保護はコイルにダイオードを接続す
ることで対処する技術常識の下,解釈2に基づいてスイッチング素子の個数を2個
として上記周知技術のように第1,2のダイオードから構成されるフィードバック
回路とすることは当業者が容易に考えられたことであり,相違点3について,本件
審決の認定・判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断
1本願発明について
(1)本願発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであり,本願
明細書には,以下の記載がある(甲4)。
ア本願発明は,発電機,特に独立請求項の上位概念に記載の車両内で使用され
る三相発電機に対する過電圧保護回路を備えた制御形の整流器ブリッジ回路に関す
る(【0001】)。
イ本願発明の利点
本願発明の過電圧保護回路を備えた制御形の整流器ブリッジ回路は,従来の技術
に比べて負荷の開放の際に発生する電圧のピークが低減される利点を有する。この
電圧ピークの低減はMOS電界効果トランジスタを備えた自己制御形の整流器ブリ
ッジ回路を使用する場合に必須である(【0004】)。
この利点は,過電圧保護回路を備えた制御形の整流器ブリッジ回路を請求項1の
特徴部分を組み合わせて使用することにより得られる。過電圧保護回路を備えた制
御形の整流器ブリッジ回路を用いれば,負荷の開放時に発生する過電圧,すなわち
発電機の励磁巻線に蓄積された磁気エネルギに起因する過電圧が迅速に低下される。
これは蓄積されたエネルギをバッテリへフィードバックすることにより行われる
(【0005】)。
本願発明の別の利点は従属請求項に記載された手段によって得られる。ここで特
に有利には,励磁電流のフィードバックにより負荷の開放に起因するロード‐ダン
プ電圧の迅速な低下が達成される。その際にロード‐ダンプ電圧に起因する短絡電
流を特に小さく維持することができる。この短絡電流をMOS電界効果トランジス
タによって短絡の場合に制御しなければならない(【0006】)。
ウ図面の説明
2つのトランジスタV11,V21により電圧制御回路は励磁巻線Eを通って流
れる励磁電流IEを調整し,これにより発電機の出力電圧が所望のレベルを取る。
発電機の出力電圧の低減は励磁電流の遮断により達成される。励磁電流IEの遮断
時には励磁巻線に逆電圧が誘導されるので,図1の回路には2つの半導体弁V31,
V41,例えばダイオードが設けられている。これらのダイオードは励磁電流の遮
断時,すなわちトランジスタV11,V21が阻止される際に励磁巻線Eに蓄積さ
れた磁気エネルギをバッテリBにフィードバックする。特にロード‐ダンプの場合,
すなわち発電機の負荷が極めて迅速に低減される動作状態においては,例えば負荷
の開放又は強度の電気的負荷の遮断により,発生するロード‐ダンプ電圧を迅速に
低下させる必要がある。この低下は半導体弁V31,V41により特に迅速に達成
される(【0009】)。
図4に示されたローサイドトランジスタを短絡する際のロード‐ダンプ時の電流
特性に対しては,通常動作中はIK1[A]に強い電流の上昇があり,緩慢にしか
低下しないが,バッテリフィードバックによる遮断の際には最大の電流強度がはる
かに小さく,しかも短絡電流は100ms後には既に再びゼロまで降下している。
この電流特性はIK2[A]として時間tに関して示されている(【0014】)。
(2)本願発明の特徴
前記認定のとおり,本願発明は,車両内で使用される三相発電機に対する過電圧
保護回路を備えた制御形の整流器ブリッジ回路に関するものであり,従来の技術に
比べて負荷の開放の際に発生する電圧のピークが低減される利点を有する。
発電機の出力電圧の低減は励磁電流の遮断により達成されるが,励磁電流の遮断
時には励磁巻線に逆電圧が誘導されるので,2つのダイオードが設けられている。
励磁電流の遮断時,すなわちトランジスタV11,V21が阻止される際に励磁巻
線に蓄積された磁気エネルギをバッテリにフィードバックする。
特にロード‐ダンプの場合,すなわち発電機の負荷が極めて迅速に低減される動
作状態においては,発生するロード‐ダンプ電圧を迅速に低下させる必要があるが,
この低下は半導体弁V31,V41により特に迅速に達成される。
したがって,本願発明は,励磁電流の遮断によって生じる励磁巻線に誘導される
逆電圧を「過電圧」として保護しようとするものではなく,発電機の負荷が極めて
迅速に低減される動作状態において,発電機の出力電圧に発生するロード‐ダンプ
電圧を「過電圧」として迅速に低下(保護)させるものである。
2引用例に記載された発明について
(1)引用例には次の記載がある(甲1)。
ア発明の属する技術分野
本発明は車両用交流発電機の充電システムに関する。
イ発明が解決しようとする課題
従来技術では,バッテリが満充電の時には発電機が発電しないように逆方向の電
流を流すように制御するために,バッテリの充電状況を検出する手段が必要である。
検出手段の一つにバッテリ電圧を検出する手段があるが,バッテリ電圧だけでは負
荷状況により正確な充電状況を把握することはできない。よって,比重等を測定す
る必要があり測定器が複雑となる。また,バッテリが満充電以外の時には充電する
ように界磁巻線電流を制御しなければならないために逆方向に電流を流すモードは
通常の運転モードではほとんどない。よって,常に界磁巻線電流を流すために界磁
巻線電流による銅損が発生してしまう。本発明の目的は自動車用交流発電機の出力
向上と界磁巻線電流を低減して界磁巻線で発生する銅損を低減できる自動車用交流
発電機の制御方法を提供することにある。
ウ課題を解決するための手段
上記目的を達成するために,本発明は発電機の爪形磁極ロータの磁極間に比較的
強い永久磁石を配置し,最も使用する回転時で一定負荷電流時(平均使用電流時)
に界磁巻線電流が零の状態で,その永久磁石のみで発生する直流発電電圧がバッテ
リの充電電圧とほぼ同じ大きさになるように使用する永久磁石の数と種類を選択し
たものである。そして,負荷電流の増減及び車速の変化に応じて発電電流を制御す
るために界磁巻線電流を増減磁制御するようにした。交流発電機のロータ内部に配
置した補助励磁用の永久磁石が作る磁束の方向は,界磁巻線が作る磁束に対して並
列に配置されるために,界磁巻線に電流を流さなくても固定子巻線に磁束を差交さ
せることができる。よって,ロータの速度に応じた誘起電圧を固定子巻線に得るこ
とができる。そして,この3相交流電圧を全波整流して直流電圧に変換しこの電圧
でバッテリを充電するように作用する。そして,直流の発電電圧が低いときには界
磁巻線電流を増磁側に流し,発電電圧を上昇させる。また,逆の場合には界磁巻線
電流を減磁側に流し直流発電電圧がバッテリの充電電圧と同じになるように界磁巻
線電流を制御するものである。
次に,図2を用いて発電機の制御回路構成について説明する。バッテリは自動車
用交流発電機のB端子及びアース端子に接続され,内部に配置される整流回路にそ
れぞれ接続されている。また,アース端子はエンドブラケット及び固定子鉄心に電
気的に接続されている。また,自動車用交流発電機の内部に配置される固定子巻線
の3相出力端子はダイオードによって構成される整流回路に接続される。また,電
圧調整器には自動車用交流発電機の直流発電電圧を検出できるようにバッテリ端子
のB端子とアース端子の電圧が発電電圧検出信号として接続される。また,この検
出電圧と基準電圧とを比較する比較器と,H型に構成されるスイッチング素子を制
御するためのロジック回路が配置されている。界磁巻線はH型に構成されるトラン
ジスタ等のスイッチング素子に接続され界磁巻線電流をどちらの方向にも流せるよ
うに構成されている。よって,界磁巻線に流す電流方向を永久磁石に対して増磁又
は減磁のどちらの方向にも起磁力を発生させることができるようにした。次に動作
について説明する。電圧調整器はB端子とアース端子間に発生する直流発電電圧が
バッテリを充電するための充電電圧になるように界磁巻線に流れる界磁巻線電流を
調整する役割を持っている。そのために実際の発電電圧を発電電圧検出信号として
フィードバックして基準電圧と比べて発電電圧が高い場合には界磁巻線電流を減少
させるように制御する。
界磁巻線はH型に構成されるトランジスタ等のスイッチング素子に接続され界磁
巻線電流をどちらの方向にも流せるように構成されている。よって,界磁巻線に流
す電流方向を永久磁石に対して増磁又は減磁のどちらの方向にも起磁力を発生させ
ることができるようにした。次に動作について説明する。電圧調整器はB端子とア
ース端子間に発生する直流発電電圧がバッテリを充電するための充電電圧になるよ
うに界磁巻線に流れる界磁巻線電流を調整する役割を持っている。そのために実際
の発電電圧を発電電圧検出信号としてフィードバックして基準電圧と比べて発電電
圧が高い場合には界磁巻線電流を減少させるように制御する。しかし,永久磁石を
爪形磁極間に配置した場合,永久磁石の漏れ磁束によって界磁巻線電流を零にして
も発電電圧が発生してしまう。よって,従来のように一方向にのみ電流を流す構成
では高速回転時や低負荷時に発電電圧が上昇し整流ダイオードやバッテリを壊す危
険がある。そこで,高速回転時や低負荷時には永久磁石の磁束を打ち消すように界
磁巻線に電流を流す必要がある。つまり,永久磁石をロータに設けたことで自動車
用交流発電機の回転数が高速になったときにもバッテリの充電電圧以上に直流発電
電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護できるように
したものである。
(2)引用発明の特徴
前記認定のとおり,引用発明は,発電機の爪形磁極ロータの磁極間に比較的強い
永久磁石を配置し,最も使用する回転時で一定負荷電流時(平均使用電流時)に界
磁巻線電流が零の状態で,その永久磁石のみで発生する直流発電電圧がバッテリの
充電電圧とほぼ同じ大きさになるように使用する永久磁石の数と種類を選択してい
るものである。
そして,界磁巻線は,4つの半導体スイッチを有するH型ブリッジ回路に接続さ
れ,直流の発電電圧が低いときには界磁巻線電流を増磁側に流し,発電電圧を上昇
させ,逆の場合には界磁巻線電流を減磁側に流し直流発電電圧がバッテリの充電電
圧と同じになるように界磁巻線電流を制御する。
引用発明のように永久磁石を配置すると,界磁巻線電流を零にしても発電電圧が
発生するため,一方向にのみ電流を流す構成では高速回転時や低負荷時に発電電圧
が上昇する危険がある。そこで,高速回転時や低負荷時にもバッテリの充電電圧以
上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すように制御し保護
するものである。
3取消事由について
(1)解釈1に基づく判断について
ア本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構
成(解釈1)と2つのみ有している構成(解釈2)の2つの解釈があり得るとした
上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到することができると判断した。
イしかしながら,そもそも,特許請求の範囲には,「2つの半導体スイッチ」
と記載され,本願明細書の発明の詳細な説明にも,2つの半導体スイッチ(トラン
ジスタ)がある場合の実施例が記載されており,それを超える数の半導体スイッチ
がある場合についての記載はない。
したがって,本願発明は,保護回路が2つの半導体スイッチを有しているのであ
って,保護回路が2つ以上の半導体スイッチを有していることを前提とする解釈1
は,保護回路が2つのみの半導体スイッチを有していることを前提とする解釈2と
別個に判断する必要がなく,あえて解釈1に基づく判断をした本件審決の認定判断
は,その点において,誤りである。
ウ仮に,本願発明について,保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している
と解釈したとしても,その場合の相違点3の判断については,以下のとおり,誤り
がある。
(ア)本願発明は,前記1のとおり,励磁電流の遮断によって生じる励磁巻線に
誘導される逆電圧を「過電圧」として保護しようとするものではなく,発電機の負
荷が極めて迅速に低減される動作状態において,発電機の出力電圧に発生するロー
ド・ダンプ電圧を「過電圧」として迅速に低下(保護)させるものである。すなわ
ち,本願発明の「過電圧保護」は,発電機として動作するのに必要な励磁回路の電
流を遮断することによって,発電機の出力電圧を下げる作用を奏するものと解すべ
きである。
これに対し,引用発明は,前記2のとおり,高速回転時や低負荷時にもバッテリ
の充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すよう
に制御し保護するものである。
(イ)本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している
構成(解釈1)があり得るとした上,解釈1の場合の相違点3は,容易に想到する
ことができたと判断した。
そして,被告は,引用発明は,通常動作時の発電機の界磁側の磁場の制御が目的
であって,発電機の負荷開放時における発電機出力の過電圧に対処することを目的
としておらず,過電圧保護は,コイルに並列にダイオードを接続することで対処す
ることが技術常識であると主張する。
しかしながら,引用発明のように永久磁石を配置すると,界磁巻線電流を零にし
ても発電電圧が発生するため,一方向にのみ電流を流す構成では高速回転時や低負
荷時に発電電圧が上昇する危険がある。そこで,高速回転時や低負荷時にもバッテ
リの充電電圧以上に直流発電電圧がならないように逆方向に界磁巻線電流を流すよ
うに制御し保護するものであるから,被告の上記主張は理由がない。
そして,仮に引用発明に被告のいう技術常識を適用し,界磁巻線(又は半導体ス
イッチ)に並列にダイオードを接続して,界磁巻線に発生する過電圧を急速に低減
させて,界磁巻線に流れる電流を遮断するように構成しても,永久磁石によって生
じる磁界により発電機出力が発生するから,発電機の出力電圧の過電圧を低減させ
ることはできず,本願発明にいう「過電圧保護」にはならない。
エよって,解釈1に基づく本件審決の判断は,誤りである。
(2)解釈2に基づく判断について
ア本件審決は,本願発明の保護回路が半導体スイッチを2つ以上有している構
成(解釈1)と2つのみ有している構成(解釈2)の2つの解釈があり得るとし,
解釈2の場合の相違点3(本願発明は,励磁巻線に,2つの半導体スイッチを有し,
第1の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して並列に第1のダイオー
ドが配置され,さらに第2の半導体スイッチ及び前記励磁巻線の直列回路に対して
並列に第2のダイオードが配置された保護回路が配属され,電気的負荷が迅速に低
減する際に前記励磁巻線に蓄積された磁気エネルギが電気エネルギに変換されてバ
ッテリへフィードバックされ,前記励磁巻線が遮断されるのに対し,引用発明は,
そのような構成とされていない点)は,容易に想到することができると判断した。
そして,被告は,引用発明においても,過電圧保護はコイルにダイオードを接続
することで対処する技術常識の下,解釈2に基づいてスイッチング素子の個数を2
個として周知技術(乙1~3)のように第1,2のダイオードから構成されるフィ
ードバック回路とすることは当業者が容易に考えられたことである旨主張する。
イしかしながら,引用発明の「4つの半導体スイッチを有するH型ブリッジ回
路」を「2つの半導体スイッチを有する回路」に変更すると,増磁電流と減磁電流
を流すために用いられるH型ブリッジ回路とした引用発明の基本構成が変更され,
減磁電流を流すことができなくなり,引用発明の課題を解決することができなくな
るから,仮に被告主張の周知技術があったとしても,このような変更には阻害要因
がある。
そして,4つのスイッチング素子を用いる引用発明に対して,スイッチング素子
の数を変更することなく周知例2に記載された周知技術を適用すると,4つのスイ
ッチング素子に4つのダイオードが逆方向に並列接続される構成になり,解釈2に
係る本願発明(保護回路が半導体スイッチを2つのみ有しているもの)の構成とな
らないことは明らかである。
ウよって,解釈2に基づく本件審決の判断は,誤りである。
エなお,被告は,本訴において,乙1ないし3を周知技術として提出した。本
件審決は,界磁回路が4つの半導体スイッチング素子を有するH型ブリッジ回路に
接続された引用発明に周知例1及び2に記載された技術を適用して本願発明を容易
に想到することができたとするものであり,乙1ないし3は,本件審決において引
用されず,これらに基づく容易想到性は判断されなかったものである。そこで,再
度の審判手続においては,乙1ないし3を引用した上,原告に意見を述べる機会を
与えるべきである。
(3)小括
以上のとおり,本願発明は,本件審決が引用した引用例に基づいてはこれを容易
に想到することができたということはできず,原告の主張する取消事由には理由が
あり,審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
4結論
以上の次第であるから,本件審決は取り消されるべきものである。
知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官髙部眞規子
裁判官井上泰人
裁判官齋藤巌

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