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平成17年2月23日判決言渡 
平成13年(ワ)第1718号 労働契約上の地位確認等請求事件
判決
主文
1 別紙「請求額一覧表(1)」及び別紙「請求額一覧表(2)」各記載の原告らが,被告に
対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 被告は,別紙「請求額一覧表(1)」の「原告番号」「氏名」欄記載の各原告に対し,
同「未払額(円)」欄記載の金員及び平成13年5月28日から本判決確定まで(ただ
し,本判決確定前に同「60歳誕生日」欄記載の日が到来する者については,その
前月まで)毎月28日限り1か月当たり同「月額(円)」欄記載の割合による金員を支
払え。
3 被告は,別紙「請求額一覧表(2)」記載の「原告番号」「氏名」欄記載の各原告に対
し,同「未払額(円)」欄記載の金員及び平成13年5月28日から本判決確定まで毎
月28日限り1か月当たり同「月額(円)」欄記載の割合による金員を支払え。
4 被告は,別紙「請求額一覧表(3)」の「原告番号」「氏名」欄記載の各原告に対し,
同「請求額」欄記載の金員を支払え。
5 被告は,原告A14に対して136万3284円,原告A61に対して6万4072円,原
告A64に対して41万3967円及び原告A102に対して20万8608円をそれぞれ
支払え。
6 別紙「請求額一覧表(3)」記載の原告ら,原告A14,原告A61,原告A64及び原
告A102のその余の請求を棄却する。
7 訴訟費用は被告の負担とする。
8 この判決は,第2項から第5項までに限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1章 請求
1 原告らが,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
2 主文第2項から第4項までと同じ。
3 原告A64が被告に対して41万8815円の支払を求めるほかは,主文第5項と同
じ。
第2章 事案の概要
第1 事案の概要
 本件は,紡績業と不動産業を営んでいた被告が,再生手続開始を申し立てた
後,その紡績業部門を廃業するとして,原告ら(原告A14については被訴訟承継
人である亡B。以下この趣旨で単に「原告ら」と呼称する場合もある。)を含む紡績
業に従事する従業員のほぼ全員を解雇した(以下「本件解雇」という。)ことが解雇
権の濫用であるとして,原告らが,被告に対し,労働契約上の権利を有する地位に
あることの確認と労働契約による賃金支払請求権に基づき未払賃金及び将来の
賃金の支払を求める事案である。
 原告らは,本件解雇は整理解雇に当たり,判例法理により形成された整理解雇4
要件を充たす必要があるが,本件解雇はそれを充たしていないなどと主張する。こ
れに対し,被告は,本件は再生手続開始の申立て後という状況下での解雇であっ
て整理解雇事案ではないし,仮に整理解雇事案であったとしても,整理解雇の4要
件は要件ではなく要素であると解すべきであり,紡績業部門の閉鎖の必要性が高
かった本件では,第2要素,第3要素,第4要素を充たす必要はないなどと争って
いる(それぞれの主張の詳細は後記のとおりである。)。
第2 争いのない事実等(特に証拠を掲げたもの以外は,当事者間に争いがない。)
1 原告らは被告と労働契約を締結し,被告の紡績業務に従事してきた労働者で
ある。
 各原告の勤続年数は最長43年8か月,最短1年9か月であるが,20年以上
の者が31人,10年以上20年未満の者が17人という構成である。
 なお,別紙「請求額一覧表(1)」,別紙「請求額一覧表(2)」及び別紙「請求額一
覧表(3)」各記載の原告番号53から60まで,62,63,65から84まで,88から
100まで,103から107までの各原告,原告A61,原告A64及び原告A102
に対して,「臨時・パート」という呼称が使用されていたが,契約期間の定めのな
い契約であった。
 被告には,労働組合として,ゼンセン同盟山田紡績労働組合(以下「組合」とい
う。)が存在する。
2 被告は,綿,スフ,麻,化学繊維及び合成繊維を主たる原料とする紡績業,不
動産の売買・賃貸並びに駐車場の経営,スーパーストア又はスーパーマーケット
の経営などを目的とする株式会社であり,愛知県半田市(以下「半田市」とい
う。)に本店を置き,資本金は1億円である。
3 被告は,平成12年10月4日,名古屋地方裁判所に対し,再生手続開始を申し
立てた。
4 名古屋地方裁判所は,平成12年11月15日,被告に関して再生手続開始決定
をした。
5 被告は,平成12年11月21日付けの辞令書により,別紙「請求額一覧表記
載(1)」,別紙「請求額一覧表(2)」及び別紙「請求額一覧表(3)」各記載の原告番
号1から13まで,15から60まで,62,63,65から84までの各原告,亡B,原
告A61及び原告A64に対し,同年12月29日付けをもって解雇する旨の本件
解雇の意思表示をした(なお,辞令が各原告に伝達された経緯と伝達時期につ
いては当事者間に争いがあるが,同日又はその後の数日以内の期間に解雇の
意思表示が上記原告らに到達した事実については,争いがない。)。
6 被告は,平成13年1月9日,別紙「請求額一覧表(1)」,別紙「請求額一覧表(2)」
及び別紙「請求額一覧表(3)」各記載の原告番号86から100まで,103から10
7までの各原告及び原告A102に対し,同年2月20日付けをもって解雇する旨
の本件解雇の意思表示をした。
7 被告は本件解雇の理由として「事業部門閉鎖」を挙げ,これは,就業規則19条
5号所定の解雇事由である「事業の縮小,設備の変更等により剰員を生じたと
き」又は同条6号所定の解雇事由である「その他各号に準ずるやむを得ない事
由があるとき」に当たる旨を主張する。
8 本件解雇直前の被告の事業活動の構成と従業員166人の内訳(役員10人を
除く。)は次のとおりである。
(1) 繊維製品の製造・販売の事業
ア 製造(半田市)
          紡績部門(綿花から糸を製造する部門)    64人
          織布部門(糸から布を織る部門)
            広巾部門(巾の広い布を織る部門)    28人
            小巾部門(巾の狭い布を織る部門)25人
          製造共通(一般部門)            10人
         (製造部門小計127人)
    イ 営業部門(半田市)
          営業一課(紡績の受注・販売担当)3人
          営業二課(織布の受注・販売担当)3人
          営業三課(繊維製品製造の外注委託部門)    2人
         (営業部門小計                 8人)
    ウ 東京営業所(東京都)
            (自社製造品・外注製品の販売担当)   22人
   (2) 大規模小売事業向けの建物・駐車場の賃貸部門(半田市)  4人
(3) 総務部門(半田市)           
          人事                     2人
          経理                     3人
         (総務小計                   5人)
9 被告の上記事業活動について,被告が部所収支を算出する際には,①半田市
所在の工場(以下「半田工場」という。)の紡績部門,広巾部門,小巾部門,外注
部門,及び東京営業所の各部門のそれぞれの営業利益を算出して,「営業利
益(1)」を算出し,②「営業利益(1)」から,人事部門・管理部門の一般管理費を控
除して,「営業利益(2)」を算出し,③「営業利益(2)」に不動産部門の損益を加算
して,最終的な全社的営業利益を算出しており,これらの各部所ごとに収支を算
出することが可能であった。
10 被告は,平成12年1月から同年8月まで(本件解雇の約1年前から3か月前)
の期間の部所別の経営状態を明らかにする目的で,次の資料(乙2)が作成さ
れていた。
(1) 別紙「平成12年1月~8月度 部所別収支(累計)」
(2) 「平成12年度 経費配賦一覧表(累計)」
11 原告らは,前記10記載の資料について,工業簿記の方式にのっとって修正した(甲
39添付資料4)。
12 前記10記載の部所別営業利益及び原告ら主張の前記11による修正後の部所
別営業利益は次のとおりであり(甲39添付資料1,4),被告の算出していた営
業利益と原告らが算出する営業利益とを比較したとき,半田工場の各部門にお
いて約50万円程度の差異があるにすぎない。
(単位:円)
前記10の資料前記11の資料
①半田工場 紡績部門△858,222△861,036
②同広巾・小巾部門△44,455,016△43,947,337
③同    外注部門/営業三課12,018,71111,509,516
(半田工場小計)(△33,294,527)(△33,298,857)
④東京営業所25,629,87625,629,876
⑤不動産部門△193,272,824△193,272,824
⑥人事・経理部門△25,570,580△25,566,250
⑦①~⑥総計(全社的営業利益)△226,508,055△226,508,055
13 平成12年8月の時点で,広巾・小巾部門と不動産部門が営業損失の大きな要
因であることは,前記10,11のいずれの資料によっても明らかであった。
14 平成12年8月の時点において,不動産部門は,次の状況にあった。
(1) 不動産部門の営業損失の原因は,被告が大型小売店用に賃貸していた2
か所(愛知県知多郡a町のユニーサンテラス店及び半田市のネクステージ半
田)が,賃借人の営業停止と明渡しに伴い空きビル状態となっていたことに起
因するものである。
(2) 当該物件について新たな賃借人を確保し,賃料を得ることができるようにな
れば,不動産部門の再建は可能である(ただし,どの程度の賃料によって賃
貸するのが相当であるかについては,当事者間に争いがある。)。
15 平成12年8月の時点において,広巾・小巾部門は,次の状況にあった。
(1) 広巾・小巾部門の営業損失は,当該部門が価格競争力を失ったことに起因
する。
(2) 広巾・小巾部門が価格競争力を回復できる見込みはない。
(3) 広巾・小巾部門が操業を続ければ続けるだけ,営業損失が拡大する。
16 原告らが本件解雇がなければ支給されるべき月給額は,少なくとも,亡Bは22
万9600円,原告A61は16万5521円,原告A64は14万4191円,原告A10
2は13万9072円,その余の原告らは別紙「請求額一覧表(1)」,別紙「請求額
一覧表(2)」及び別紙「請求額一覧表(3)」の各「月額(円)」欄記載のとおりである
(甲62,原告A86本人)。
17 原告らの月給の締切日は毎月15日であり,支給日は毎月28日である(甲28
の2)。
18 原告らは,平成13年4月27日,名古屋地方裁判所に対し,本件訴えを提起し
た(当裁判所に顕著)。
19 被告においては,60歳の誕生日の経過をもって定年となるところ,原告らの6
0歳の誕生日は,原告A61は平成13年1月10日,原告A64は平成13年3月2
5日,原告A102は平成13年4月8日,その余の原告ら(原告A14及び本件解
雇時に既に60歳以上であった別紙「請求額一覧表(2)」記載の原告らを除く。)
は,別紙「請求額一覧表(1)」,及び別紙「請求額一覧表(3)」の各「60歳誕生日」
欄記載のとおりである(弁論の全趣旨)。
20 亡Bは,平成13年7月25日死亡し,原告A14がこれを承継した(弁論の全趣
旨)。
第3 原告らの金銭請求
1 別紙「請求額一覧表(1)」記載の原告らについて
 本件口頭弁論終結時である平成16年12月3日時点で60歳未満である原告
らの請求である。
(1) 各解雇日から本件訴え提起の直前の締切日である平成13年4月15日ま
での賃金
ア 平成12年12月29日に解雇された原告番号81までの原告ら
 平成12年12月30日から平成13年1月15日までの期間 0.54か月分
 平成13年1月16日から同年2月15日までの期間 1か月分
 平成13年2月16日から同年3月15日までの期間 1か月分
 平成13年3月16日から平成13年4月15日までの期間 1か月分
 以上3.54か月分の未払賃金の内金として別紙「請求額一覧表(1)」の「未
払額(円)」欄記載の額
イ 平成13年2月20日に解雇された原告番号86以降の原告ら
 平成13年2月21日から同年3月15日までの期間 0.82か月分
 平成13年3月16日から同年4月15日までの期間 1か月分
 以上1.82か月分の内金として別紙「請求額一覧表(1)」の「未払額(円)」
欄記載の額
(2) 平成13年4月16日以降の賃金
 月給の支払の始期 平成13年5月28日
 月給の支払の終期 本判決確定の日(ただし,本判決確定前に60歳の誕
生日が到来する者については,その前月の28日まで)
 毎月の支払日 毎月28日
 毎月の支払額 別紙「請求額一覧表(1)」の「月額(円)」欄記載の金員
2 別紙「請求額一覧表(2)」記載の原告ら
 本件解雇時に既に60歳以上の者であり,再雇用されていた者である。
(1) 本件解雇時から平成13年4月15日までの賃金
 上記1(1)と同じ(ただし,平成12年12月29日付けで解雇された原告らは原
告番号84までであり,平成13年2月20日付けで解雇された原告らは原告番
号88以降である。)。
(2) 平成13年4月16日以降の賃金
 月給の支払の始期 平成13年5月28日
 月給の支払の終期 本判決確定の日
 毎月の支払日 毎月28日
 毎月の支払額 別紙「請求額一覧表(2)」の「月額(円)」欄記載の金員
3 別紙「請求額一覧表(3)」記載の原告ら
 本件解雇時には60歳未満であったが,本件口頭弁論終結時である平成16年
12月3日には60歳を超えていた者である。
(1) 本件解雇時から平成13年4月15日までの賃金
 上記1(1)と同じ(ただし,平成12年12月29日付けで解雇された原告らは原
告番号82までであり,平成13年2月20日付けで解雇された原告らは原告番
号89以降である。)。
(2) 平成13年4月16日以降の賃金請求
 平成13年4月16日から別紙「請求額一覧表(3)」の「60歳誕生日」欄記載
の年月日の前月の15日までの月数である同「月数」欄記載の数値に,毎月
の支払額である同「月給(円)」欄記載の額を乗じた額となる。
4 60歳となる前に死亡した者
 亡Bは,60歳となる前の平成13年7月25日に死亡した。
(1) 本件解雇から平成13年4月15日までの賃金
 亡Bの月給22万9600円の3.54か月分の内金として67万4484円
(2) 平成13年4月16日以降の賃金
 平成13年4月16日から同年7月15日までの3か月に亡Bの月給22万96
00円を乗じた68万8800円となる。
5 本件解雇後本件訴え提起前に60歳となった原告ら
(1) 原告A61
 原告A61は,平成12年12月29日に解雇され,平成13年1月10日に60
歳となり,12日分の未払賃金を有し,その額は,同原告の月給16万5521
円を31で除して12を乗じた6万4072円となる。
(2) 原告A64
 原告A64は,平成12年12月29日に解雇され,平成13年3月25日に60
歳となり,2.9か月分の未払賃金を有し,その額は,同原告の月給14万419
1円に2.9を乗じた41万8815円となる。
(3) 原告A102
 原告A102は,平成13年2月20日に解雇され,同年4月8日に60歳とな
り,1.5か月分の未払賃金を有し,その額は,同原告の月給13万9072円に
1.5を乗じた20万8608円となる。
第3章 争点及び当事者の主張
第1 争点1(整理解雇4要件の法的性質)
1 本件解雇において整理解雇4要件は適用されるか。
(原告らの主張)
 本件解雇において整理解雇4要件は適用される。
(1) 整理解雇とは,労働者に帰責事由のない経営上の理由によって,労働者の
同意なしに,使用者の一方的意思表示によりされる労働契約終了を意味す
る。整理解雇は,事業の一部である部門閉鎖による一部解雇であれ,全事業
の閉鎖に伴う全員解雇であれ,また,破産や民事再生等に伴うものであれ,
労働者に経済上,生活上,人格上の様々な不利益を及ぼす。そのため,労働
者の雇用保障と不利益回避を図るために,使用者は,労働契約上の信義則
(民法1条2項)に基づき,解雇権行使に伴う配慮義務(雇用保障義務)を負
う。
  期間の定めのない契約についての経営上の理由による解雇の場合における
配慮義務(雇用保障義務)の具体的内容は,次のとおりである。
ア 使用者は,経営上の正当事由が認められる場合を除き,雇用関係を維持
し,一方的にその雇用関係を終了させないという「雇用維持義務」を負う。
具体的には,次の(ア)から(ウ)までを充たす場合でなければ,雇用を維持す
べき義務を負う。
(ア) 雇用の廃止・削減,職務内容変更への労働者の不適応,又は,使用
者が労働条件変更権を有さない場合で当該労働条件変更の申込みに
対して労働者の承諾がないことを原因として余剰人員が発生し,かつ,
当該雇用の廃止・削減,職務内容の変更,又は,労働条件変更の必要
性があること。
(イ) 当該労働者を解雇対象者とすることの合理性(解雇対象労働者の選
定基準・適用の合理性)。
(ウ) 解雇回避義務が履行されて解雇という結果に妥当性があること。
イ 雇用維持義務を履行しても雇用関係が維持できない場合,使用者は,一
方的労働契約終了に伴う不利益をできるだけ緩和すべき「不利益緩和義
務」を負う。
ウ 使用者は,対象労働者に対して解雇決定前に個別に説明・協議をし,解
雇を決定したときは,労働契約終了の通知時に契約終了理由を明示すべ
き義務を負う。使用者は,労働者集団に対して,各労働者に対する信義則
上の義務を根拠として,説明協議の義務を負う(労働組合に対しては,集
団的労使関係における信義則上のルールも根拠となって,説明協議の義
務を負う。)。
エ 使用者は,事情変更がある場合に「再雇用義務」を負う。
(2) 判例法理でいう整理解雇4要件は,日本食塩製造事件最高裁判決(最高裁
判所昭和50年4月25日第2小法廷判決民集29巻4号456頁)で示された解
雇権濫用法理の適用要件,すなわち「客観的に合理的な理由」「社会通念上
相当」を具体化したものであり,前記(1)アとウを内容とする。
(3) 本件解雇において,被告は,解雇権の行使要件として,前記(1)の配慮義務
(雇用保障義務)の履行が要求される。
  また,これと同時に,本件解雇の有効性判断枠組みとして,従前の判例法理
である整理解雇4要件も適用される。
(4) 本件解雇は,我が国の労働裁判史上,整理解雇の有効性が争われて訴訟
となったものうち,原告数で見る限り2番目の規模の訴訟である。
  過去の我が国において,様々な分野で事業閉鎖,整理解雇がされてきたが,
そのほとんどにおいては,解雇無効を争う訴訟に至っていない。それは,企業
がいわゆる整理解雇4要件に定式化される手法を尽くすのが通例であり,そ
れらの措置を尽くすことが我が国の中規模以上の企業における労使の公序と
なっているからである。
  被告は,この公序の一切を無視して本件解雇をしたのであり,この公序を破
壊するものである。
(5) 本件解雇は,突然の解雇であり,被告で就労し賃金を得て生計を維持して
いた原告ら従業員にとっては大変な打撃であった。
  しかも,原告ら従業員の中には,被告に勤めながら短大卒業資格を得ようと
被告の寮に居住して学校法人半田学園に通っていた女性労働者も多数い
た。しかし,これらの就学生である女性労働者らは,半田学園に在籍途中で
あったにもかかわらず,平成12年12月29日に寮から退去させられた。
(6) さらに,借り上げ社宅に居住していた従業員らは,被告から平成12年12月
29日をもって直接家主と賃貸借契約を締結するようにと言われ,解雇と同時
に大きな住居費の負担(家賃のみならず,被告が敷金礼金を引き上げたため
に,新たに敷金礼金も負担)を負うことになった。
(7) 解雇される従業員の打撃や負担がこれだけ大きいのであるから,事業の閉
鎖とこれに伴う該当部門でも人員整理の必要性を慎重に検討し,事業の一部
閉鎖と人員整理がやむを得ない場合に限ってこれをし,事業の一部閉鎖をす
るとしても,他部門への配置転換や希望退職募集その他の解雇を回避する
努力をすべきであり,さらに,解雇をするとしても,労働者の被る不利益を緩
和する措置を講ずるべきであったが,そのような努力や措置は一切されなか
った。
  (被告の主張)
 本件解雇は,整理解雇4要件が適用される事案ではない。
(1) 従来蓄積された判例及び学説により,不当解雇の該当性の判断について,
いわゆる「整理解雇4要件」が論証されてきたことは事実であり,それが原告
らが主張するような内容であることは事実である。
(2) しかし,本件解雇は,いわゆる「整理解雇」ではない。本件解雇の結果数人
の管理部門の人員だけが残されているが,実質的には本件解雇は全員解雇
の事案である。したがって,整理解雇4要件のうち整理解雇対象者の選別に
問題はなかったかを問う要件については,そもそも議論が成立しない。
(3) 本件解雇は,再生手続開始の申立てをした被告が,再生手続の中で,採算
性のない事業を廃止することとしたことに伴う解雇であり,解雇が無効であっ
たか否かの争いは,その前提として雇用を継続することが被告において可能
であったか否かによるものである。
(4) 被告が原告らを雇用していた事業には採算性がなく,営業継続は不可能で
あった。よって,本件解雇は,やむを得ない事由に基づくものであり有効であ
る。
2 (本件解雇において整理解雇4要件が適用されるとした場合において)整理解
雇4要件と就業規則との関係
(原告らの主張)
 使用者は,就業規則所定の解雇事由に当たる理由なしに解雇をすることはで
きず,また,就業規則所定の解雇事由に当たる事実があっても,解雇について
は前記の配慮義務(雇用保障義務)の履行を免れ得ず,さらに,経営上の理由
による解雇については,整理解雇4要件の適用をも受ける。
 なお,経営上の理由による解雇については,「就業規則の解雇条項の解釈基
準として整理解雇4要件が存在し,整理解雇4要件を充たさない解雇は,就業規
則の解雇事由に当たらない」ということも可能である。
(被告の主張)
 本件解雇は,就業規則19条5号又は6号の規定に基づいてされたものであ
り,有効である。
3 (本件解雇において整理解雇4要件が適用されるとした場合において)整理解
雇4要件と呼ばれるものは要件か要素か。
(原告らの主張)
 要件である。
 民法1条2項に基づく信義則上の配慮義務(雇用保障義務)の履行は,解雇権
の行使要件であり,前記の具体的内容の一つ一つが独立した要件である。
 従前の判例法理に基づく整理解雇4要件論に立つとしても,日本食塩製造事
件最高裁判決によって確立した解雇権濫用法理は,「説明としては解雇権の濫
用という形を採っているが,解雇には正当な事由が必要であるという説を裏返し
たようなものであり,実際の運用上は正当事由必要説と大差はないとみられる」
と評価されている(越山安久「解説番号20事件」「最高裁判所判例解説民事篇
昭和50年度」法曹會(1979年)175頁)。したがって,解雇権濫用法理が実質
的に正当事由必要説と大差ないことに照らしても,これを具体化した4項目は,4
要素ではなく4要件というべきである。民法1条3項を基礎としているという形式
的な法律構成を根拠に4要素であると主張するのは誤りである。
(被告の主張)
 整理解雇4要件は,解雇の不当性を判断するための要素にすぎない。
 整理解雇4要件は,解雇の不当性を論じる際の判断基準として従来論証され
てきたものである。いうまでもなく,議論の対象となるのは解雇の不当性であっ
て,形式的な4要件の充足ではない。4要件は,一般的な判断基準としてはある
程度の通有性を有しているものといえるが,事例によっては通有性を維持できな
い場合がある。
 したがって,「4要件」といわれるものは,不当解雇判定の要素にすぎず,絶対
的に充足を必要とする要件ではない。
4 (本件解雇において整理解雇4要件が適用されるとした場合において)整理解
雇4要件に関する証明責任(事実の存否につき裁判官の心証形成がグレーの
場合に当事者が負担する敗訴の危険)の分配
(原告らの主張)
 4要件すべてについて使用者が負担する。
(1) 期間の定めのない労働契約について使用者は解雇権を有する(民法627
条)が,この解雇権の行使は民法1条2項(信義則)によって規制され,信義則
に基づく労働契約上の配慮義務(雇用保障義務)の履行は,解雇権の行使要
件であるから,使用者が証明責任を負う。
(2) 従前の整理解雇4要件に基づく下級審裁判例の多くにおいて,4要件を充
たしていることは被告側の抗弁事由とされてきた。それは,解雇権濫用法理
においては,民法1条3項の原則が修正され,「客観的に合理的な理由」がな
い場合に解雇権行使が濫用とされ,「客観的に合理的な理由」の主張立証を
使用者に行わせ,「客観的に合理的な理由」の存在について,裁判官の心証
形成ができない場合には,使用者の敗訴としているからである。
  したがって,日本食塩製造事件最高裁判決の解雇権濫用法理の下におい
て,実質的な証明責任は使用者が負担してきたのである。このことは,労働基
準法18条の2の規定の新設に伴う衆議院と参議院の各厚生労働委員会の
附帯決議でも確認されている。
(3) 就業規則の解雇条項は,使用者が有する解雇権について,使用者自らが
その行使要件を限定したものである。よって,解雇権行使に当たって就業規
則の解雇条項所定の解雇事由を充たすことについての証明責任は,使用者
が負担する。
   (被告の主張)
 解雇は,民法上の雇用契約の解除であるから,解除権の存在については会社
側に立証責任がある。立証責任の対象である事実は,就業規則19条5号及び
6号の解雇事由の存在である。
 いわゆる4要件は,上記の要証事実を立証するための必要性の範囲で会社側
において立証の必要性が生じる場合はあるが,原告らが指摘する個々の事実
(「4要件」とされている事実)は,それ自体,厳格な意味での要件事実ではな
い。なお,労働協約には,事業所閉鎖の場合の特別の定めはない。
第2 争点2(本件解雇につき,営業・人事・経理部門の数人を除く全員についての,
人員削減の必要性)-いわゆる第1要件
 ただし,本件の場合,小巾・広巾部門の閉鎖とこれに伴う人員削減の必要性があ
ったことについては当事者間に争いがないので,本件における争点は,小巾・広巾
部門の閉鎖とこれに伴う人員削減にとどまらずに,紡績業部門の全面的閉鎖とこ
れに伴う紡績業部門のほぼ全人員の削減の必要性の有無であり,より具体的に
は,必要性のある人員削減の範囲がどれだけであったかという点である。
(被告の主張)
 本件解雇においては,工場部門の全員について解雇の必要性があった。
1 解雇に至るまでの採算性
(1) 被告は,長い歴史を有する紡績会社であり,その営業の中心は「紡績業」で
あるが,再生手続開始申立てに至る過去12年間は,不動産部門を除いて営
業利益において赤字であり採算性を喪失していた(乙1添付資料)。
(2) 被告は,経費の振り分けが困難であるため,従来広巾,小巾,紡績という区
分による集計をしていないが,申立て前2年間についてあえてこれを行った結
果(乙2),紡績業についても売上高の低下,利益率の低下により営業利益は
赤字であり採算性を喪失していた。
2 再生手続開始の申立て
(1) 被告は,平成12年10月4日名古屋地方裁判所に対して再生手続開始の
申立てをした。直接の原因は,当月の手形決済資金に不足を生じたためであ
る。
(2) 裁判所が監督委員に選任したC弁護士(以下「C監督委員」という。)の補助
者としてD公認会計士(以下「D公認会計士」という。)が被告の財務状況につ
いて調査し,その結果が裁判所に報告されているが(乙6),その中において
も営業継続は不可能であると指摘されている。
3 事業閉鎖の必要性
(1) 被告は,工場部門が採算性を喪失した後も組合と協議の上での人員整理を
含め事業を縮小しつつ,工場部門の赤字を不動産の賃貸業で補てんしてきた
が,不動産賃貸業の要であるヤオハン株式会社(以下「ヤオハン」という。)が
会社更生手続を申立て,ネクステージ半田から撤退し,以後特殊な形態の建
物であるがゆえに新たな賃借先を見いだすことができなかったために資金繰
りに窮して再生手続開始の申立てに及んだものである。
(2) 採算性の有無については,従前から再三にわたり検討が加えられてきた
が,申立て後,結局紡績業を含めて事業継続は不可能と判断し,事業を閉鎖
することとしたものである。
  その時期についても,事業そのものに採算性回復の見込みがない以上,で
きる限り早期に事業を閉鎖することはやむを得ない判断である。
4 全員解雇の必要性
 半田工場全部門の事業廃止はやむを得ない理由に基づくものであり,被告は
これに伴う取引先に対する影響を最小限にとどめ得る時期を選択して,部門別
に就業規則にのっとって解雇をしたものである。
(原告らの認否・反論)
 争う。小巾・広巾部門について人員削減の必要性はあったが,それ以外の紡績
業部門については人員削減の必要性がなかった。
1 解雇に至るまでの採算性
(1) 認否
ア 前記1(1)の「被告が再生手続開始の申立てに至る過去12年間は,不動
産部門を除いて営業利益において赤字であり採算性を喪失していた」との
主張は否認する。採算性を喪失していたのは,不動産部門を除く全部では
なく,広巾・小巾部門にすぎない。
  紡績部門の赤字は,別紙「平成12年1月~8月度 部門別収支(累計)」
記載のとおり,再生手続開始の申立て直前の8か月間で86万円前後にす
ぎず,被告が主張するような「採算性を喪失」した状態ではなかった。
イ 前記1(2)の「経費振り分けが困難」との主張は否認する。経費振り分けは
工業簿記の基本である。従来,広巾,小巾,紡績という区分での集計を行
っていなかった事実,及び,申立て前2年間に区分して集計した事実は認
める。前記1(2)の集計の結果,紡績部門が採算性を喪失していたとの主張
は否認する。乙2の集計結果によっても紡績部門が採算性を有することは
明らかである。
(2) 積極否認
 本件のような場合においては,不採算部門を閉鎖して,事業継続できるか否
かを検討するのが,初歩的常識である。しかるに,被告の経営陣の中には,
不採算部門(広巾・小巾部門)の閉鎖による事業継続を求める意見があった
にもかかわらず,被告の代表取締役会長であるE(以下「E会長」という。)はこ
の点についての具体的な検討を行わず,部門別の正確な収支計算をすること
さえもせずに,全面的工場閉鎖の結論を下した。なお,乙2の資料は,一般的
な会計処理にのっとって作成されていないため,これでは正確な実態の把握
ができないが,これによってさえ,紡績部門が採算性を有していたことは確認
できる。
2 再生手続開始の申立て
(1) 認否
ア 前記2(1)の再生手続開始の申立てがされた事実は認める。直接原因が
手形決済資金に不足を生じたためであるとの事実は否認する。
イ 前記2(2)のD公認会計士が摘示の指摘をした事実は認めるが,不採算部
門(広巾・小巾)とそれ以外を分離して,採算性を検討する方法を採ってい
ないから,不採算部門を閉鎖し,それ以外を残した場合でも営業継続が不
可能であるとの判断を示しているものではない。また,被告は,C監督委員
やD公認会計士に紡績業の存続について相談していないし,C監督委員や
D公認会計士も部所別収支を分析したこともないし,紡績業の営業継続が
不可能であるか否かを判断する必要もなく,現にしていない。
(2) 積極否認
ア 被告の主張するがごとき再生手続開始の申立原因(再生債務者の窮境)
があったかどうか自体に疑義がある。その理由は次のとおりである。
(ア) 被告は平成12年9月中旬ころから急いで返済を各社にしていた経緯
がある。また,再生手続開始の申立て前に1500万円程度を各社に前
倒しで支払っている。同年10月10日の支払手形の金額が1600万円と
するなら,支払期日前に支払ったこの1500万円程度を弁済資金に充て
れば決済に窮することはなかった。
(イ) 被告はその後続けてやってくる手形を決済することが不可能だったと
いうが,再生手続開始の申立書添付の資金繰り表を見ても資金繰りの
見込みはついており翌月の繰越金も出ることになっている。申立書から
はどの手形の支払がどれくらいの額不足していたのか,どのくらい収支
予測が狂ったのか全く不明である。資金繰り計画で同年10月以降の決
済金額は当然分かっていたはずであり,短期融資を受ける努力をするな
ど資金繰りはついたはずである。債務者の抽象的な説明だけでは本当
に資金繰りに困っていたのか,それが継続して続くものだったのか疑問
である。
(ウ) 再生手続開始申立時点と再生計画認可時点での債権者数と負債額
を比較すると著しいかい離がある。申立時の負債総額は158億余円とさ
れていたのに,再生債権は11億余円にすぎず,関連会社の分を除く再
生債権は5億余円にすぎない。
イ 債務の実質的な額からみても,従来の営業を全般的に換価することにより
取引関係の負債の全額を早期に弁済する必要があったのか疑問である。
ウ 被告の再生手続開始の申立ては,「労働者を解雇したり労働組合を排除
するために再生手続を利用するなど事業体を生かすためではない申立て」
に当たり,民事再生法25条の申立棄却事由に当たる。
エ 被告は民事再生手続中に無断で営業や機械の譲渡をした。これは,被告
が工場閉鎖を一方的に強行することのみに関心があり,整理解雇について
法を遵守しようという意思がなかったことを示している。
オ 被告の再生手続開始の申立ては,紡績事業の継続ということを全く前提
としておらず,紡績業をストップして事業資産を解体清算するために再生手
続開始の申立てをしたものとみられるから,事業の再生を図るという民事
再生法の基本的目的に反する違法なものである。
  被告の再生手続開始の申立ては,従業員を全員解雇した上,紡績業を廃
止して不動産業に転換するために民事再生手続を濫用したものである。
  一般の再生債権者に100%配当が実施されるため,一般の再生債権者
が再生計画に反対しないことを利用して,民事再生手続に基づく工場閉鎖
と解雇が強行されたのである。
3 事業閉鎖の必要性
(1) 認否
ア 前記3(1)「工場部門が採算性を喪失した」との主張は否認する。「組合と
協議の上で,人員整理を含め事業縮小」がされた事実は認める。「ヤオハ
ンが会社更生手続を申し立て撤退」した事実は認める。前記3(1)の新たな
賃借先を見いだせなかった理由についての主張は否認する。相場より高い
賃料を希望し続けたため,条件が折り合わなかったのが真相である。
イ 部門別の採算についての検討は皆無に等しいから,前記3(2)の「採算性
の有無について再三検討をした」ことにはならない。客観的な判断材料によ
る裏付けを伴わないE会長の主観的な独断により,工場部門の全部を閉鎖
することが決定された。
  前記3(2)の被告において「事業継続は不可能と判断し,事業を閉鎖した」
事実は認める。その判断の時期に関して,「申立て後に事業閉鎖を決定し
た」旨の主張は否認する。被告は,申立て前から事業閉鎖を決定してい
た。
(2) 積極否認
 被告は,全面工場閉鎖・全員解雇を決める前に,事前に,自らの手で,不採
算部門閉鎖による事業継続の可能性を探求する経理資料を整備し,その可
能性を真しに検討すべきだった。しかし,被告は,その検討をせずに,全部閉
鎖・全員解雇を決定したのであり,そのこと自体が誤りである。
4 全員解雇の必要性
(1) 認否
 前記4の「全部門の事業廃止はやむを得ない理由に基づくものである」との
主張は否認する。
 そもそも,「やむを得ない理由」の存在を証するとして提出された経理資料
は,乙1と2しか存在せず,乙2によってさえ部門閉鎖の必要性がなかったこと
が裏付けられる。
 被告のいう「やむを得ない理由」とは,客観的な経理資料の裏付けのない,
E会長個人の主観的判断以外の何物でもない。
(2) 積極否認
 工場の全部門を閉鎖し全員解雇する必要性はなかった。
 広巾・小巾部門のみを閉鎖し,紡績部門は存続させるという方法で被告を再
建することは可能であった。
 被告はるる反論するが,再生手続開始の申立て直前の8か月間に半田工
場で紡績部門は86万円前後の赤字を出していたにすぎないのであって,被
告は,それを超えて工場の全部門を閉鎖し全員解雇する必要性について十
分に立証していない。
ア 原告らは次の経緯で,再建可能との専門家の鑑定意見を得た。①乙2や
被告が任意に提出した財務資料に基づいて,ゼンセン同盟愛知県支部と
組合が平成12年9月1日以降の「山田紡績再建計画案」を作成し(甲3
3),②社団法人日本経営士会の会員として経営コンサルタント業(F経営
研究所)を営むFに,その「山田紡績再建計画案」(甲33)に対する鑑定意
見を求め(甲38),③Fの具体的かつ詳細な財務分析を経て,同人から「再
建可能である。」との鑑定意見(甲39)を得た。その要点は,次のとおりで
ある。
(ア) 組合及びゼンセン同盟愛知県支部は「山田紡績再建計画案」(甲33)
を作成した。その骨子は次のとおりであった。
a 広巾・小巾部門は不採算部門であるから閉鎖し,紡績部門と東京営
業所は存続させる。これに伴う人員削減は,解雇ではなく希望退職に
よる。希望退職を実現させるために正社員の退職金を100%上積み
し,パートタイマーには退職金100万円を支払うことにする。この条件
であれば,組合も協力し,同部門の全従業員が希望退職に応じた。
b 役員の削減
c 広巾・小巾部門の閉鎖に伴い,他の部門の合理化を行う。具体的に
は,①人事部門と経理部門は統合して総務として2人に(もとは人事
部門2人,経理部門3人),②営業部門は3人に(もとは8人),③一般
部門では10人から7人を削減し1人を紡績部門に異動させ,産業医と
電気主任の2人だけ(いずれも非常勤)にし,④存続する紡績部門に
おいても64人から管理職2人を削減し(ただし他部門から3人を編入
するので65人体制となる。),⑤不動産部門では4人から2人を削減
(残る2人は紡績部門に異動)する。前記aの退職条件での希望退職
募集であれば,これらの人員削減も達成できることが見込まれる。
d 残った役員の報酬,従業員の賃金を減額する。組合も被告再建のた
めに協力する。
e 賃貸借料など冗費の節減。
f 遊休施設となっている不動産の有効活用。
(イ) 経営コンサルタントFの鑑定意見によれば,「山田紡績再建計画案」は
補正と改善をすれば実現可能である。鑑定意見の結論は以下のとおり
である。
a 鑑定依頼事項1(再建計画の骨子)について
  広巾・小巾部門を閉鎖し,紡績部門,外注部門,東京営業所を存続さ
せることによって,再建を図ることは十二分に可能である。ただし,次
のbの再建計画の改善が必要である。不動産収入を再建計画の中に
織り込まなくても再建は可能である。
b 鑑定依頼事項2(組合作成再建計画案の補正改善等)について
  組合作成の再建計画案について補正と改善をすれば,別紙「計画損
益計算書総括表」(甲39添付資料7)のとおりとなり,被告の再建は可
能である。
c 鑑定依頼事項3(資金繰り) 
  平成12年10月と同年11月の立ち上がりの資金繰りにやや不安が
あったが,裏書譲渡手形を用いることにより問題は解決し,別紙「資金
計画表」(甲39添付資料13)記載のとおり,再建は十分可能である。
  希望退職に応じる者の退職金の支払については,平成12年9月に
通常退職金を全額一括して支払い,加算部分(正社員100%,パート
100万円)を平成13年1月から4月に4回分割払いが可能である。
(ウ) Fが考える希望退職に応じる者に対する退職金支払計画の内容につ
いて,組合は異存がない。
イ 我が国の繊維産業の現状と被告の技術力・商品力などの観点から見て
も,被告は,紡績部門を残す方法で再建可能であった。その要点は次のと
おりである。
(ア) 紡績業の将来性について
a 我が国の繊維産業は,依然として幅広い産業を支える基幹産業とし
ての重要な役割を負っている。従業員数は繊維産業だけで約68万
人,雇用面では製造業全体の約7%を占め,これに繊維卸と小売を併
せると国内の関連雇用者数は約190万人にも上る。事業所数は国内
に約8万か所(製造業全体の約13.6%)であり,全国に約160の産地
が存在しており,地場産業として地域経済の発展を支える重要な産業
である。
b また,我が国の繊維産業において培われてきた高いレベルの技術力
は,衣料や生活資材分野において高機能製品を生産するだけでなく,
環境や医療福祉,情報,建築土木分野などの幅広い産業分野におい
て多様な用途が可能であり,基礎素材として我が国の幅広い産業を
支える基幹産業となっている。
c 近年,中国を中心とするアジア諸国から,二次製品を中心に安価な繊
維製品の輸入が急増しているが,それは定番の低級汎用商品であ
り,これに対して,我が国の繊維産業の強みは,幅広い業種,製品分
野で高度な技術力を有し,様々な機能を繊維に付加する後加工技術
では高い競争力を有している。衣料・非衣料分野における高付加価値
製品・ニッチ(隙間)製品の生産や,QR(クイック・レスポンス)と多能
工を活用した「少量多品種生産」により生き残りを図っている。
d さらに,名古屋地方裁判所管内で紡績業を営む都築紡績において
も,紡績業の継続を前提として会社更生手続が開始されているし,日
本銀行名古屋支店のレポート(甲59の2)によっても我が国の紡績業
の存続は見込まれている。
(イ) 被告の将来性
a 被告も,我が国の繊維産業の中の一つとして生き残ってきたし,今後
も,赤字部門である織布部門を廃止して紡績部門を残すなら,十分に
利益を上げながら生き残ることが可能であった。被告は,多品種少量
生産方式によりQRと消費者立地を生かした特殊品の製造を可能とす
る技術力を有し,普通の紡績工場では不可能な,同一工場内で同時
に何種類もの特殊品を作る多品種同時生産技術を誇っていた。
b 例えば,多様な国の原綿使用と製品の差別化を行い,取り扱う原綿
の原産国の多さと品質の良さは他のメーカーを寄せ付けない特徴が
あった。ことに,自然の色が付いている「カラードコットン」を使った綿素
材は被告が先駆的に手がけ,世界の中でもカラードコットンを使った
綿糸を製造していたのは当初,被告だけであった。
c また,綿布の風合いや肌触りを良くするために欠かせない極細糸(細
番手)の製造も手がけ,細番手の糸はハンカチや高級下着などに使
われていた。抗菌作用のある特殊品,抗菌加工布「マーサクリーン」の
原材料となる混紡糸を開発製造し,売上げは好調であった。また,選
綿による高い品質を保持し,高い評価を得ていた。
(被告の認否・再反論)
1 前記「1 解雇に至るまでの採算性」について
 原告らは,紡績部門の赤字は再生手続開始の申立て直前の8か月で86万円
前後にすぎないと主張するが,これは棚卸較差勘定を考慮していない。すなわ
ち,被告においては,原価を通常の相場価格に合わせるために現実の仕入価
格と市場価格である棒値との差額を棚卸較差勘定として計上していた。
 被告の紡績部門の営業利益は,85万円程度の赤字とされているが,これは
会計手法上の数値であり,実際はこの期間について別紙「平成12年1月~8月
度 部所別収支(累計)」記載のとおり9517万円の棚卸較差勘定が計上されて
おり,同額の支払原価がかかっているから,この勘定を設けなければ営業利益
は9602万円の赤字を示しており,現実的には採算点を大きく下回っていた。
2 前記「2 再生手続開始の申立て」について
 前記2(2)ア(ア)については,1500万円の買掛金の支払を認める。取引のある
主な下請業者には零細なところが多く,その倒産の危機を極力避けるために支
払った。
 前記2(2)ア(イ)については,短期融資を受けられる可能性はなかった。
 前記2(2)ア(ウ)については,債権者数の減少は報告書で説明したとおりであ
り,「水増し」の意図はない。
 前記2(2)イについては,再生手続開始の申立時の総債務額は別除権者も含
めてのものであり,再生計画の対象となる債権総額は「支払の対象となる再生
債権額」であるから,結果的に20分の1になったことは不自然ではない。
 前記2(2)ウについては,否認する。
 前記2(2)エについて,営業や機械の譲渡についての手続に違背が生じた事実
は認める。最終的にC監督委員の同意を経て適法に処理されている。
 前記2(2)オについては,否認する。
3 前記「4 全員解雇の必要性」の(2)アについて
(1) 再建可能性に関する被告の反論
ア 別紙「資金計画表」について
(ア) 定期預金に関して金融機関による相殺が現実にされているのである
から,別紙「修正・資金計画表」(乙5添付資料2)の2枚目に記載のとお
り,平成12年9月初めの現金預金合計9447万8000円をもって,手持
流動性のある資金とみるべきである。
(イ) 在庫に関して,在庫年齢の高い商品が翌日に売れることは考えられ
ない。原価外処理の評価損を計上しなければ,正しい損益計算はできな
い。
(ウ) 鑑定意見書(甲39)は,売掛金未収金について取立不能額を控除
し,材料商品仕入れについて現金仕入れとし,買入債務や銀行借入金,
支払利息の支払を考慮していないので,8か月間に資金繰りが余剰する
のは当然であり,資金繰りから見て,再建可能という判断にはならない。
イ 別紙「計画損益計算書総括表」について
(ア) 適正な期間損益計算をするために減価償却費を計上すべきである。
(イ) 仕入先に2%の値引きを要請するなど不可能であり,見切り率の改善
も,返品リスクがあり現実的でない。
(2) 再建計画に関する被告の反論
ア 「採算性」に係る議論の指針について
 検証されるべきは,原告らが行った「検証結果」が原告らの主張するよう
に継続可能性を十分に示し,かつ雇用の確保が可能である程度に被告の
財政を運用し得た,という事実を明らかにするに足りるものであるか否かで
ある。
イ 再生手続開始の申立時の被告の財務状況について
 平成11年12月の8800万円,平成12年4月の4320万円,同年9月の
3億5000万円のE会長又は関連会社からされた貸付けがなければ,被告
の資金繰りは「到底成り立ち得ない」状態であった(乙5添付資料6「資金繰
り表」の「その他」の欄参照)。
ウ 原告らが行った検証の相当性について
 原告らの提示した方式は全く不完全であり,一般再生債権及び金融機関
への返済の計画が示されていないから,何ら被告の採算性を示すものとは
なっていない。
(ア) 原告らの試算では,平成13年4月末で現金2億円余,手持手形3億
円余の金員が残る。
(イ) 平成13年4月末で,(ア)の手持資金によって,一般債権(経営者関連
の6億を除く。)約5億5000万円を全部支払えば,存続不可能である。
(ウ) 弁済原資は被告自らが捻出できる資金により議論されるべきであり,
原告らにおいて一般債権者及び金融機関への返済についての計画性を
示すのでなければ,採算性と存続性について論証したものといえない。
エ 原告らの行った試算の問題点について
 原告らの試算は現実とかい離している。かい離の事実を明らかにするた
め,原告らの行った方式にのっとって検算を加えた。その結果が,別紙「計
画損益計算書総括表」(甲39添付資料7)に対応する別紙「修正・計画損
益計算書」(乙5添付資料1)であり,別紙「資金計画表」(甲39添付資料
13)に対応する別紙「修正・資金計画表」(乙5添付資料2)である。
(ア) 鑑定意見書(甲39)の問題点は次のとおりである。
a 在庫の売上げは争わない。原告ら算定の数値のままとした。ただし,
この数値は一応評価減後のものとされているが,不確定なものであ
る。
b 在庫以外の売上額は争わない。ただし,原告らの行った売上予測は
鑑定意見書(甲39)の14頁に記されているが,被告の予測は別紙
「売上高予測(紡績部門)」,「売上高予測(外注部門)」,「売上高予測
(東京営業所)」(乙5添付資料7から9まで)のとおりである。その手法
は,平成12年8月の実績値を基に,平成11年の前月対比割合を乗じ
て予測するという方法である。
c 原告らの数値に減価償却費を算入する修正を加えた。
d cの修正により,売上原価が増加し,売上総利益率が修正される。
e 2%の仕入値引きは不可能であるから,修正した。
f 在庫の評価は争わない。原価以外で棚卸評価損が計上されるべきで
あるが,指摘にとどめる。
g 退職金について争わない。ただし,割増退職金について,「特別損失」
ではなく,「営業外費用」に計上する。
h 社内振替の修正もしない。ただし,被告が従来行ってきた手法によれ
ば乙5添付資料11記載のとおりとなることを指摘する。
i 上記c,eの修正によって,売上総利益率は3.5%,営業利益は-0.7
%となる。
(イ) 平成12年8月末時点で担保設定されていない現金・当座預金・普通
預金・定期預金の合計額が1億7969万9000円であることは認める。
ただし,別紙「資金計画表」(甲39添付資料13)を次のとおり修正し,別
紙「修正・資金計画表」(乙5添付資料2)とする。
a 手続開始時の利用可能資金は,金融機関から預金を相殺されること
になるから,預金額全部を利用可能資金とすることはできない。
b 仕入値引きは期待できないから,値引きは算定しない。
c 上記修正によって,平成13年4月末日で繰り越される現預金は587
0万円に修正される。
オ 原告らの試算に対する検討結果について
 原告らの試算は,一般再生債権及び金融機関への返済の計画が示され
ていないから,被告の紡績事業の採算性,存続可能性を主張するのであ
れば,再生計画と金融機関への返済予定を示すべきである。
 これと同様の主張として,「継続可能」というのであれば8か月間ではな
く,どのような再生計画によれば紡績業を維持して,かつすべて別除権者
の手中にある被告の資産を別除権の行使を回避しつつ営業が可能である
かを明らかにすべきである。ただし,この点は原告ら側に立証責任があると
主張するものではない。
4 前記「4 全員解雇の必要性」の(2)イについて
(1) 紡績業の将来性について
 愛知県内の紡績業は,最盛期といわれる昭和47年には52社が稼動してい
たが,現時点では近藤紡績と同社系列の豊橋紡績だけであり実質的には1社
である。この傾向は,全国的なものであり労働集約型の紡績業は,原告らが
指摘する技術力の優位性があっても,もはや国内産業としては存続が不可能
な業態となっている。
 なお,原告らは卸売業と小売業とを併せて論じているが,これを含めて繊維
業として,もって紡績業の将来性を論じる論法は誤りである。
(2) 被告の将来性について
 原告らが指摘する事実は,被告が平成12年まで生き残ってきた要因の一
つである。しかし,多品種少量生産とQRにおいて外国に比して優位性があっ
ても労賃の著しい相違を克服するには限界がある。愛知県内の他の紡績業
者が廃業したのも同様の理由である。
 なお,原告らが指摘する「カラードコットン」は確かに被告が先駆的に行った
ものであるが,これが思うように販売できず,材料が大量の在庫として残り,
経営圧迫の一因ともなっていた。
(原告らの認否・再反論)
1 前記1の被告の反論に対する原告らの再反論
(1) 被告の棚卸較差勘定に関する主張は,時機に後れた攻撃防御方法として却
下されるべきである。
ア 被告の棚卸較差勘定に関する主張立証は,被告の従前の主張や第23
回弁論準備手続調書に添付された争点整理結果のいずれにもないもので
あり,被告代表者本人に対する再主尋問で初めてされたものであり,時機
に極めて後れている。また,その再主尋問は,天候による代理人の不出頭
という偶然の理由で延期された期日でされたものであり,偶然生じた機会に
行われたものにすぎない。
イ 被告は,前記主張立証の提出が遅れた理由について説明しない。
ウ 「棚卸較差勘定」は,乙2に記載があり,かつ,被告の営業損益計算のた
めの重要な項目の一つであって,弁論準備終結の前にこれを提出すること
ができなかった合理的理由はない。
 また,棚卸較差勘定に関する主張は,紡績部門が再生手続開始の申立
ての時点で86万円前後の営業損失しか発生していなかったことは争いが
ないとするこれまでの争点整理の結果を覆す重大なもので,かつ,営業損
益の計算方法に関する初歩的かつ基礎的な事実を巡る主張であり,これを
争点整理の段階で提出しなかったことには重大な過失がある。
エ 本件では,23回に及ぶ弁論準備手続が重ねられて争点が整理され,そ
の結果を踏まえて集中的な人証調べがされ,双方の主張立証が一応尽き
ていることを確認した上で,最終弁論が開かれたものであり,この経緯に照
らすと,被告の前記主張は訴訟の完結を遅延させるためのものであるとい
わざるを得ない。
(2) 被告の棚卸較差勘定に関する主張への反論
ア 被告の前記主張によれば,被告は,紡績部門で9602万円の営業損失を
発生させていたが,経理操作をして営業損失が86万円程度にすぎないと
いう粉飾決算をしていたことになる。しかし,被告が粉飾決算をしていた証
拠はない。
イ 平成12年10月4日締めの決算については,D公認会計士の報告書(乙
6)において,粉飾等は指摘されておらず,8月末棚卸高についても適正な
ものと評価されており,棚卸較差勘定9517万余円によって市場価格とか
い離している期首棚卸高を補正しなければ,正確な損益計算をすることは
できなかった。
2 前記3(1)「再建可能性に関する被告の反論」に対する原告らの再反論
(1) 被告の主張の根拠となっている乙5の「指摘事項」の大半は,論拠や証拠が
摘示されておらず,その作成者の経歴や実績も不明である。
ア(ア) 前記3(1)ア(ア)は,否認する。
 第1に,大半の定期預金の相殺がされた時期は,再生手続開始の申
立て後相当に時間が経過した後である。そればかりか,紡績事業を含む
全面的工場閉鎖の方針をE会長が発表し,これを金融機関が知った時
期になって,相殺がされているのであるから,このような信用不安がなけ
れば金融機関は相殺していない。
 第2に,倒産時に企業の再建を図ろうとする場合には,初期段階にお
ける手持流動性を確保するため,担保性預金以外は速やかに「疎開」さ
せ,金融機関による相殺を防ぐのが常識である。被告は,金融機関によ
る相殺がされるまで,担保設定されていない預金を悠長に放置し,銀行
の相殺に任せていたのであるから,相殺を考慮することは無意味であ
る。
(イ) 前記3(1)ア(イ)は否認する。
 鑑定意見書(甲39)は,棚卸資産の評価について,被告の帳簿,及
び,被告が名古屋地方裁判所に提出した平成12年11月15日付け「財
産評定」(甲54)記載の「評価率」を用いて行われたのであるから,それ
を論難するのは自己どう着である。
(ウ) 上記3(1)ア(ウ)は,否認する。
 前記3(1)ア(ウ)で被告が主張する3点は,企業再生を目指している通
常の民事再生事件,会社更生事件においては,極めて一般的な手法で
あり,これを論難すること自体が失当である。
 会社更生手続や民事再生手続において,企業を再建できるか否かを
検討しつつ再建計画案を立案する際には,まず,営業損益(=「売上高」
-「売上原価」-「販売費及び一般管理費」)を検討することが必要不可
欠である。
 この計算は,事業活動を継続することによって弁済原資を捻出できる
か否かを検討する目的でされるものであるから,負債の元本・利息の弁
済と減価償却を除外して営業利益(弁済原資)を算出した上で,債権者
集会に諮る再生計画や更生計画の中核である分割弁済の計画を立案
するのである。
イ(ア) 前記3(1)イ(ア)は,否認する。
 民事再生申立事件,会社更生申立事件において,申立時から再生計
画や更生計画立案までの期間の損益計算をする際に,減価償却費を計
上している前例はほとんどない。その理由は,民事再生事件,会社更生
事件において,申立時から再生計画や更生計画立案までの期間中に,
損益計算書を作成する目的は,弁済原資を捻出できるだけの営業利益
が得られるか否かを見極めるためだからである。この計算の際には,元
利弁済や減価償却費は除外し,再生計画案や更生計画案において,債
権者への債務弁済の原資として現実にいくら計上できるかを見極めるの
である。
 鑑定意見書(甲39)では,平成13年5月以降,毎月5000万円程度の
弁済原資を確保できることが示されており,この月間5000万円程度の
弁済原資を,債権者への分割弁済や設備投資その他にどのように振り
分けるかについては,再生計画立案の段階で債権者らと協議を重ねな
がら,考えられるべきことである。
(イ) 前記3(1)イ(イ)は,否認する。
 自主再建方式により民事再生手続,会社更生手続を軌道に乗せるた
めには,企業が営業利益を産み出すことが必要不可欠で,そのために
は,経費削減が必要不可欠である。
 このため,自主再建方式による民事再生計画や会社更生計画におい
ては,経費削減を必ず掲げているのであり,これを「不要」とか「無理」と
するような計画案は存在しない。
 鑑定意見書(甲39)は,まず,被告のデータに基づき合理化をせずに
従前の経営を踏襲した場合の変動費に即して,平成12年9月から平成
13年4月までの8か月の変動費を算定した上で,これを基礎に,部門別
の経費削減策を提示している。
 さらに,会社更生手続や民事再生手続の場合,仕入先への支払方法
が手形であったものは現金仕入れに移行するのが通例であり,この場合
には,仕入先の手形割引コストの軽減や資金繰り負担の軽減に対応す
る値引きをお願いするのが常識である。
(2) 前記3(2)「再建計画に対する被告の反論」に対する原告らの再反論
ア 前記3(2)アは,否認又は争う。
(ア) 被告の主張は,証明責任の分配について明白な誤りを犯している。被
告は,就業規則所定の解雇事由によって自ら解雇権を制限しているので
あり,就業規則19条所定の解雇事由に当たることの証明責任は,被告
が負担する。この事由に当たるか否かについては,整理解雇4要件を尽
くしているか否かによって判断される。
(イ) 被告は,本件解雇の前に,広巾・小巾部門の閉鎖による紡績事業の
継続の可能性を検討していない。
イ 前記3(2)イは,否認する。
 平成12年9月の3億5000万円は再生手続開始の申立てに伴うもので
あり,検討の対象外である。
 紡績部門での賃加工の拡大による資金繰りの改善によって,再生手続開
始申立ての直前の8か月の間に被告の金融機関からの借入金総額を3億
円以上も圧縮できたのであるから,十分に資金繰りはできた。
ウ 前記3(2)ウは,否認する。
(ア) 前記3(2)ウ(ア)は,認める。
(イ) 前記3(2)ウ(イ)は,無意味な主張である。紡績部門の操業を継続する
のであるから,一般債権を一気に弁済する必要などない。
(ウ) 前記3(2)ウ(ウ)は,弁済原資は被告が捻出できる資金であるべきこと
は認め,その余は否認する。本件においては,紡績部門,外注部門,東
京営業所の事業活動で毎月5000万円を超える弁済原資が捻出できる
ことが証明されているのであり,それによって,採算性と存続性について
は十二分に証明されている。債権者への弁済方法は,債権者らとの具
体的協議を重ねてその同意を得ながら決定されるべき事項にすぎない。
エ 前記3(2)エは,否認ないし争う。
 被告主張の少なくない部分は,「具体的かつ客観的な証拠の裏付けのな
い弁論」というほかない性質のものである。そのことは,乙5と対比してみれ
ば一目瞭然である。
 被告の論理は,企業再建計画を立案する際の売上予測の立て方に即し
て詳細に検討されて作られた鑑定意見書(甲39)の売上予測に関して,真
っ正面から批判をすることができないために,「平成12年8月の売上げを
基礎に予測した」とのでたらめな思いつきの数値をぶつけて,「水掛け論」
に持ち込もうとするものといわざるを得ない。
(ア)a 前記3(2)エ(ア)aについては,在庫売上げの数値は,被告自身が民
事再生手続で用いた貸借対照表,財産評定に基づき算出した上,そ
の一部を計上したものであり,被告の主張は失当である。
b 前記3(2)エ(ア)bについては,この手法の問題点は,起点となる数値
にその後が大きく左右されるという点である。各月の売上高はいろい
ろな事情で変動し,その変動の幅も大きいから,ある1か月の実績値
を起点にしてその後の数値全部を予測するのは,妥当でない。そのた
め,仮に被告の手法によるとしても,平成12年8月実績だけを起点と
した乙5添付資料7ないし9の予測値だけで,Fの売上高計画値(甲3
9資料7ないし11)の妥当性を検討するのは,正確ではない。現に,被
告主張の平成12年8月実績を起点とせず,同年9月の実績を起点と
して,被告主張と同じ方法で売上予測をして,これとFの売上計画値
(甲39添付資料7から11まで)と比較すれば,同人の予測値は,紡績
部門と外注部門について控え目な数値であり,東京営業所についても
達成可能な数値であることが明らかである。
c 前記3(2)エ(ア)cについては,本件訴訟では,費用の適正配分という
趣旨の減価償却を考慮する必要はなく,再建可能性判断のための試
算に当たっては,被告が主張するような減価償却費の計上は不要で
ある。
d 前記3(2)エ(ア)dについては,前記cのとおりであるから,修正は不要
である。
e 前記3(2)エ(ア)eについては,繊維産業界では,手形サイトや売掛期
間が長いなどの取引慣行があるので,現金決済にすることは仕入先
にとっても手形割引料負担軽減や資金繰りの容易化などの大きなメリ
ットがあるのであり,交渉により仕入れを数%程度値引きしてもらうこ
とは十分可能である。また,民事再生,会社更生の手続開始後は,現
金取引であることをテコにして,仕入れの値引きの実現を図るのが通
例であり,場合によっては,仕入先の変更さえも検討するのが常識で
ある。
f 前記3(2)エ(ア)fについては,減価償却費と同様,棚卸評価損計上によ
り現実の支払が発生するわけではないので,抽象的な費用計上をし
て,その分の内部留保をさせるのは,倒産からの再建を図ろうとする
時期には,無意味である。
g 前記3(2)エ(ア)gについては,被告の主張するような項目への計上は
誤りである。
h 前記3(2)エ(ア)hについては,被告が引用する乙5の記載は,「計画損
益計算書」とは何か,どのようにして作成するのか,その中の「社内振
替」とはいかなる意味を持つのかについて全く理解さえできていない,
初歩的な誤りに満ちたものである。
i 前記3(2)エ(ア)iについては,前記のとおり,被告が指摘した「問題点」
なるものは的はずれであり,被告が主張する修正は不要である。その
ような修正を前提とした売上総利益率,営業利益率を基に被告の再
建可能性を判断するのは妥当でない。
(イ)a 前記3(2)エ(イ)aについては,民事再生法の適用を受けて本気で企業
の再建を図ろうとする場合には,初期段階における資金の手持流動性を
確保するため,担保性預金以外は速やかに「疎開」させ,金融機関によ
る相殺を防ぐのが常識である。結果的に被告の預金が金融機関債権と
相殺されたのは,被告が紡績事業を継続させる意図を最初から放棄し,
紡績業継続のための資金繰りについて金融機関団と交渉することもせ
ず,担保設定されていない預金を漫然と放置して,金融機関の相殺に任
せていたからである。そもそも,金融機関は,債務者が再生手続開始を
申し立てただけで,直ちに預金相殺をするわけではない。金融機関に対
して再建計画案をきちんと説明し,金融機関債権の弁済計画,預金を運
転資金にする必要性,人的保証である連帯保証人の資産状態等を説明
し,金融機関の理解と協力を得ることによって,預金を運転資金として利
用することが可能な場合もある。現に,被告が再生手続開始を申し立て
たのは平成12年10月4日であるが,乙5添付資料4を見ても分かるよう
に,金融機関は再生手続開始の申立ての直後に預金相殺に走っている
わけではない。被告が再生手続開始の申立てをした後,金融機関は,被
告の動きを見た上で,預金相殺するか否かを検討し,平成12年11月,
同年12月及び平成13年3月に預金相殺している。
   したがって,仮に担保性預金以外の預金を直ちに「疎開」させなかったと
しても,この間に被告が金融機関と話し合う時間は十分にあるのであり,
再建計画,弁済計画,運転資金等について被告が金融機関と話し合え
ば,預金を運転資金に回すことは可能だったのである。
b 前記3(2)エ(イ)bについては,仕入値引きが交渉により可能であること
は,前記のとおりである。
オ 別紙「計画損益計算書」(甲39添付資料8)によれば,前半の4か月の間
に,まず,紡績部門,外注部門,東京営業所による経営を軌道に乗せて,利
益を出せる体制を構築しながら,平成12年9月に通常退職金1億6014万2
000円を一括して払い,さらに,後半の4か月の間に,特別退職金合計2億0
914万2000円を次の4回分割で完済できることが明らかである(別紙「計画
損益計算書」の一番下から2段目の「特別退職金」と下から6段目の「退職金」
欄参照)。
  すなわち,平成13年1月から同年4月までに毎月5000万円ずつ支払って
(4月のみ5900万円強),通常退職金と特別退職金の支払を完了させること
が可能であり,支払完了後はその分の資金負担が消えることから,平成13
年5月以降には,毎月5000万円程度の弁済原資を確保できることが確実で
ある。
  本件では,平成12年11月に再生手続開始決定がされており,それから8か
月後の平成13年4月ころまでには再生計画案を債権者に示す必要がある。
その際には,平成13年4月までの8か月間に,広巾・小巾部門の閉鎖に伴う
希望退職応募者への特別退職金を完済しつつ,同時に残存部門の収益力強
化を図り,弁済原資として平成13年5月以降毎月5000万円程度を確保でき
ることに関して,各債権者に8か月間の実績を示すことによって納得と了解を
得るのである。そして,鑑定意見書(甲39)の考え方では,この実績を前提に
債務弁済計画を具体的に立案し,その承認を債権者に求めることとしている
のである。
(被告の認否・再々反論)
1 前記1の原告らの再反論に対する被告の再々反論
(1) 前記1(1)については,被告の棚卸較差勘定に関する主張は,既に提出され
た乙2についての説明を加えたものにすぎず,時機に後れた攻撃防御方法で
はない。
(2) 前記1(2)については,被告は,棚卸較差勘定を粉飾のために用いたと主張
するものではない。
  短期間での「採算性」を論じる場合には,長期の会計手法として組み入れら
れる棚卸較差勘定を取捨しなければ,実際の営業継続の実態を示すもので
はないと主張するものである。
2 前記2の原告らの再反論に対する被告の再々反論
(1)ア 前記2(1)については,作成者の経歴や業績と事実の正誤とは関係ない。
イ 前記2(1)ア(イ)については,被告に残された在庫品は,それまでに売却で
きなかった商品である。もし原告らが指摘するように8か月間で2億5000
万円の売上げができるのなら,資金繰りに行き詰まることはない。
 そして,仮に売却できるとしても販売額は更に低減せざるを得ないであろ
う。
ウ 前記2(1)ア(ウ)については,論難していない。そのような諸条件で行えば
余剰が生じるのは当然であるという事実を指摘したにすぎず,この期間こ
の手法によっては再建可能という判断にはならないと指摘したにすぎない。
(2)ア 前記2(2)イについては,「検討の対象外」の意味が不明である。被告での
賃加工率は全生産量の3割に満たないものであるが,これが拡大した事実
はない。原告らが指摘する在庫減少は在庫品の中の不良在庫(カラードコ
ットン)の評価減をしたためである。
イ 前記2(2)エ(ア)eについては,仕入値引きを不可能と断定することはできな
いとしても,それを当然のものとして予定することはできない。
ウ 前記2(2)エ(イ)aについては,預金は実質的な担保とされている。現に被
告は従来から預金の一部であれ利用可能となるように金融機関に申し入
れてきたが,聞き入れられることはなかった。
(原告らの再々々反論)
1 棚卸較差勘定は,平成11年度末の期末棚卸高が,平成11年度末の市場
価格と差があるため,それを適正なものとするために設けられたものであり,
平成12年1月から同年8月までの収支とは無関係である。
2 原告らは,部所別の営業損益を算出するためには棚卸較差勘定が必要不可
欠であり,被告がこれを計上したことは是認できると判断したものである。
3 原告らは,平成12年9月から平成13年4月までの収支見込みを算定する際
に,在庫品の棚卸高について,従前の原価計算でされていた数値を引き継が
ずに,厳密に洗い直した数値を用いており(甲39の15頁,添付の付表2),棚
卸較差勘定の数字は捨象している。
第3 争点3(解雇回避努力義務の履践ないし人員削減の手段として解雇を選択する
必要性)-いわゆる第2要件
 ①広巾・小巾部門の閉鎖に伴う人員削減に関して,解雇以外の措置を講じること
が可能であったか,また,この措置が解雇のされる以前に尽くされたか,②(仮に
紡績業部門の閉鎖とこれに伴う人員削減が必要であるとした場合において)人員
削減の手段として,他部門への配置転換,希望退職募集その他の解雇以外の措
置を講じることが可能であったか,また,この措置が解雇のされる以前に尽くされた
か。
 (被告の主張)
 本件においては,紡績業部門の全面的な閉鎖をせざるを得なかったのであるか
ら,解雇は不可避であり,整理解雇4要件の第2要件とされるものは適用されな
い。
 したがって,被告は,整理解雇4要件の第2要件の内容に関する主張をしたり,
整理解雇4要件の第2要件の内容に関する原告らの主張についての反論をする必
要もなく,整理解雇4要件の第2要件を充たす具体的事実を挙げる必要もない。
(原告らの認否・反論)
1 「紡績業部門の全面的な閉鎖をせざるを得なかった」,「解雇は不可避」との主
張は否認する。本件において,被告は,整理解雇4要件の第2要件の適用を免
れることはできない。
2 なお,仮に紡績業部門の全面的な閉鎖の必要性が肯定されるケースにおいて
も,使用者は希望退職募集,配置転換等の解雇回避努力義務を負うのであり,
これらの解雇回避努力義務を一切負わないとの被告の主張は主張それ自体が
失当である。
3 本件において,被告は前記のとおり整理解雇4要件の第2要件を充たしたとの
主張立証を放棄しているのであるから,直ちに原告ら勝訴の判決を言い渡すべ
きである。
4 また,被告は,工場閉鎖の意図を秘匿し,紡績業の再建を図るがごとく装って
再生手続開始の申立てをし,その後,紡績業を続けると表明しておきながら,再
生手続開始決定がされるやいなや,C監督委員もD公認会計士も工場閉鎖を肯
定する意見を出していないのにかかる意見が出されたと強弁し,それを口実にし
てC監督委員と一切相談することもなく,工場全閉鎖と解雇を一方的に強行し
た。すなわち,被告は,解雇回避努力義務の履践を潜脱する目的で,民事再生
手続を利用したものである。
5 整理解雇4要件の第2要件に関する原告らの主張は以下のとおりである。
(1) 広巾・小巾部門の閉鎖と他部門の合理化に伴う人員削減に関して
 正社員の退職金を100%上積みし,パートタイマーには退職金100万円を
支払うことを内容とする希望退職募集により,人員削減を行うことが可能であ
った。
 しかし,被告はそれを実施せず,検討すらしなかった。
(2) 仮に紡績業部門の閉鎖とこれに伴う人員削減が必要だとした場合の人員削
減に関して
 直ちにほぼ全員を解雇するのではなく,事業として残す不動産管理部門で,
できる限り雇用を確保すべきであったのに,被告はそれをしなかった。
 直ちにほぼ全員を解雇するのではなく,できる限り労働者側の犠牲を少なく
する措置(希望退職募集,再雇用の保障,他企業への再就職斡旋等)を実施
すべきであったのに,被告はそれをしなかった。
 特に,希望退職募集は,解雇回避努力義務の一つとして重視されているが
(あさひ保育園事件最高裁判所昭和58年10月27日第1小法廷判決),被告
はこれをしていないし,希望退職募集が客観的に不可能であったことの立証
もしていない。また,被告は,配置転換の可能性について一切検討しておら
ず,これを実施していないし,配置転換が客観的に不可能であったことの立証
もしていない。
  (被告の再反論)
1 本件解雇は,事業所閉鎖に伴うものであり,事業の閉鎖には前記のとおりやむ
を得ない理由があったものであるから,本件解雇に当たり,解雇以外の方策あ
るいは配置転換等を検討した事実はない。
  整理解雇4要件の第2要件は,その適用がないか,あるいは本件においては判
断基準とはならない。ただし,被告は不動産収益をもって半田工場を継続する努
力を永年にわたりしており,より広範囲な意味においては解雇回避のための努
力を続けてきている。
2 不動産部門は契約管理のための事務部門であり,紡績業等の大量の人員を吸
収することはもとより不可能である。
  組合に事業閉鎖の通知を行って以来,組合との交渉の焦点は退職金の上乗せ
にあった。
 第4 争点4(被解雇者選定基準とその運用の合理性)-いわゆる第3要件
 (被告の主張)
 本件解雇は,事業所閉鎖に伴うものであり,事業の閉鎖には前記のとおりやむを
得ない理由があったものであるから,本件解雇に当たり,被解雇者を選定した事実
はない。
 整理解雇4要件の第3要件は,その適用がないか,あるいは本件解雇において
は判断基準とはならない。
  (原告らの反論)
 本件において,広巾・小巾以外の部門について事業閉鎖の必要性がなく人員削
減の必要性もなく(整理解雇4要件の第1要件の不充足),広巾・小巾部門は希望
退職募集により人員削減をすることが可能であったにももかかわらずこれをせず
(前同第2要件の不充足),その結果として,半田工場の現業部門の全員を被解雇
者に選定するという誤った基準の策定に至った(前同第3要件の不充足)であるか
ら,第3要件を巡る論点は,すべて,第1要件と第2要件を巡る論点に包含される。
 第5 争点5(本件解雇手続の妥当性の有無)-いわゆる第4要件
 ①労働組合・労働者への事前説明,労働組合との事前協議をすべき義務の有無
及びその履践の有無,②民事再生手続を利用し,整理解雇4要件の適用を回避し
ようとした事実の有無。
(原告らの主張)
1 「事業所閉鎖」,「閉鎖のやむを得ない理由」,「解雇不可避」は,整理解雇4要
件の第4要件の適用を免れる理由となり得ない。
 本件の場合には,「閉鎖のやむを得ない理由」はなく,「解雇不可避」とはいえ
ないが,仮に「閉鎖のやむを得ない理由」があり「解雇不可避」の場合であって
も,使用者は,事業閉鎖の理由,一部存続ができない理由,解雇の理由等を誠
実に説明して労働者の納得を得る努力をし,かつ,配置転換の可能性の追求等
の解雇回避義務の履践,不利益緩和措置義務の履践等について誠実に協議
し,これらを実行すべき義務を免れることはできない。
 使用者は,最終的に解雇を実施するとしても,その決断の過程において,労働
者の被る苦痛や損害を最小限にとどめるための努力と工夫をすることが信義則
上要求され,このため,使用者は,労働組合に対しては説明協議を行い,労働
組合の質問事項や批判事項を誠実に検討し,具体的には,使用者の方針が正
しいか否かを自ら十二分に再検討し,人員削減の必要性の有無を検証し,解雇
回避努力を尽くしたか否かを検討し,人選基準とその運用が妥当か否かを検証
し,さらに,不利益緩和のためにできることを尽くしたかを検証し,これらの事項
について改めるべきところは改めることが必要不可欠である。
 したがって,解雇手続の正当性は,整理解雇4要件において極めて重要な位
置を占めているのである。
2 本件において,被告は整理解雇4要件の第4要件を充たしたとの主張立証を放
棄しているのであるから,直ちに原告ら勝訴の判決を言い渡すべきである。
3 整理解雇4要件の第4要件に関する原告らの主張は以下のとおりであり,被告
は,組合はおろか,裁判所,C監督委員にも一切相談することなくE会長の独断
で本件解雇を強行したものであって,その過程は余りにずさんである。
(1) 労働組合・労働者との説明協議の不存在
ア 組合は,被告と定例的な労使交渉の場を持っていたが,その際に,被告
から,再生手続開始の申立てをしなければならないような経営状況にある
という説明を受けておらず,その申立てがされることを全く知らされていな
かった。
 被告が,再生手続開始の申立てをした後も,組合に対して,申立てをした
事実は通知されず,組合の代表者である原告A86(以下「A86組合長」と
いう。)が再生手続開始の申立ての事実を知ったのは申立てから3日後の
朝刊記事によってであった。
イ 被告は,再生手続開始の申立ての当初は,債権者及び組合に対して,事
業存続の方針であると説明していた。
 しかるに,被告は,申立てから1か月後に,本業である紡績業を廃業する
と通告してきた。
 その間,被告は組合に対し,何らの提案も協議もしていない。
ウ 現在,被告は,E会長の独断により,再生手続開始の申立て以前から紡
績業を廃業する方針であったことが判明している。
エ このような解雇通告に至るまでの被告の行為は,次の二つの事実に照ら
しても,組合と労働者に対するだまし討ちに等しいものといわざるを得な
い。
(ア) 被告は,平成12年11月17日の団体交渉において,初めて組合に対
し,「本業はやめる」と述べたが,「いつ,操業をやめるのか。」という質問
に対し,「今のところ分からない。」と回答した(甲7の2)。
 しかし,その4日後の同月21日,組合は,被告から,突然,同年12月
29日限りで操業を停止する旨を通告する文書を受け取った。
(イ) 被告は,平成12年11月21日,広巾・小巾部門に所属する従業員に
対しては本件解雇に関する辞令書を交付したが,紡績部門に所属する
従業員57人に対しては,職場の休憩所の机上に辞令書を置き,これら
の者に対して辞令書を受け取るようにとの通知も行わず,これら原告ら
は従業員相互の連絡により,辞令書の存在を知った。
オ さらに,上記操業停止・解雇通知に至るまで,被告は,組合,従業員らに
対して,「紡績業は厳しい」,「大きな財源がない」などという抽象的一般論
を述べる以外には,何ら具体的な説明をせず,協議もしていない。
(2) 財務資料の不開示
 被告は,再生手続開始の申立て以前から,各部門ごとの経営状況を見るた
めに,各部門別の財務資料を作成していたが,これを組合に対して開示した
ことはなかった。この部門別財務資料は,被告の紡績業の再建案を立案した
り,その再建可能性を判断するには必須の資料であるが,被告が紡績業全部
の廃業の理由を組合に説明するのであれば,必ず必要になる資料のはずで
あった。
  しかし,被告は,民事再生手続の申立て後もこれらの部門別財務資料を組合
に開示せず,紡績業全部の廃業の理由も具体的に説明しないまま,本件解
雇を強行した。
  被告は,本件訴訟で,文書提出命令の申立てがされてからようやくこの部門
別財務資料を任意に開示したが,組合にとってはもはや手遅れであった。組
合は,この部門別財務資料によって紡績業の再建可能性を検討する機会も,
それに基づいて被告と交渉する機会もないまま,本件解雇を強行された。
(3) 民事再生手続の濫用
 民事再生手続の濫用に関する事実は,前記「第2 争点2(本件解雇につ
き,営業・人事・経理部門の数人を除く全員についての,人員削減の必要
性)」の項の「(原告らの認否・反論)」の「2 再生手続開始の申立て」の「(2) 
積極否認」の部分に記載したとおりである。
 これらの事実に照らせば,本件における再生手続開始の申立ては,「労働
者を解雇したり労働組合を排除するために再生手続を利用するなど事業体を
生かすためではない申立て」であって,不当目的あるいは不誠実申立てと解
釈される場合に当たり,民事再生法25条4項に当たる疑いが濃厚であって,
このような手続的瑕疵は,整理解雇4要件の第4要件である解雇手続の履践
を怠った違法を構成する。
(4) 裁判所,監督委員らに対する相談の欠如
 E会長は,紡績業全部の廃業と従業員ほぼ全員の解雇について,裁判所,
C監督委員,D公認会計士にも相談していない。
 C監督委員の報告書(甲19添付資料3,乙11添付資料2)にも,D公認会
計士の報告書(乙6)にも,紡績業全部の廃業と従業員ほぼ全員の解雇を肯
定する表現は見当たらないにもかかわらず,被告は,これらを解雇の口実とし
て利用し,E会長の独断で本件解雇を強行した。
(被告の認否・反論)
1 本件解雇は,事業所閉鎖に伴うものであり,事業の閉鎖には前記のとおりやむ
を得ない理由があったものであるから,解雇は不可避である。
 整理解雇4要件の第4要件は,その適用がないか,あるいは本件においては
判断基準とはならない。
 なお,被告には「民事再生手続を利用して,整理解雇4要件の適用を回避しよ
うとした」事実も意図もない。被告に与えられていた選択肢は民事再生手続の申
立てを除いては破産申立て以外にはない。
2 被告が再生手続開始の申立書及び債権者説明会において「再建が可能であ
る」と説明した事実は認める。なお,債権者説明会には組合代表者も出席してい
る。
3 前記3(1)イ及びウの主張は争う。上記3(1)エ(ア)の事実の経緯については認め
る。ただし,「今のところ分からない。」と述べたとの点について,団体交渉時に操
業停止の時期を確定的に明示しなかったことは認めるが,引用された表現自体
は確認できない。前記3(1)エ(イ)は否認する。紡績部門の従業員に対しても,辞
令書を交付した。前記3(1)オは,平成12年11月17日以前に操業停止に関す
る説明をしていないことは認め,その余は争う。
4 前記3(3)は否認する。民事再生手続は,事業の再建を第一義とする手続であ
るが,そのためには裁判所の関与の下で営業・資産の状況が調査され,再建が
不可能であれば,清算型の計画案となることもあるし,破産に移行する場合もあ
る。被告の再生手続において,D会計士の報告書では事業継続は不可能である
との意見が提出されている。この意見を機に被告は廃業の方向性を明らかにし
たものである。よって,民事再生法25条4項に当たる事実はない。
5 本件の場合には,次の特段の事情が存在するから,被告は,原告らが前記
3(1)で主張するような労働組合・労働者との説明協議を尽くす必要はない。
(1) 再生手続開始の申立て
 E会長が愛知県内の紡績業が次々と閉鎖されていく実情を踏まえ,かつ,ヤ
オハンの倒産,店舗の撤退という事態を迎えて,紡績業を含む生産部門の全
体の閉鎖を視野に入れていたことは事実である。ヤオハン撤退後は,事業を
いつまで維持できるかとの戦いであった。それでも被告はヤオハン後の新規
テナントの募集に全力を挙げ,場外馬券売り場の誘致という方法にまで尽力
した。原告らは,高額の賃料を求めたため新規のテナントを長期にわたり確保
できなかったというが,高額でなければ累積した負債の返済,事業の維持は
不可能であった。これらすべての方策が尽きた時点で被告はやむなく再生手
続開始の申立てに及んだものである。
 また,会社の資金繰り等は高度な判断事項であり,再生手続開始の申立て
等の際の債権者らとの混乱を防ぐために,申立てが秘密裏にされることは避
け難い。現に,被告においても,破産申立てを避けるため,実質1週間程度の
準備で再生手続開始を申し立てたのであり,被告に原告らが指摘するような
計画性もなく,また,計画を立てる余裕もなかった。
 また,被告が申立てをした時点では,民事再生手続はいまだ新制度であっ
て,いわゆる清算目的も考え得ることが指摘されていた。
(2) 経営困難性に関する労使の共通認識
 原告らは,再生手続開始の申立てが説明義務を尽くさないだまし討ちに等し
い行為とするが,ヤオハンが経営を支えていた事実,その撤退により被告が
窮状にあった事実,不動産を運営しての高収益の確保のため場外馬券売り
場誘致のため労使ともに尽力した事実から,方策が尽きれば事業の閉鎖は
やむを得ないことは,いわば共通理解として存在していた。
(3) 操業停止と解雇の容認
 被告は,平成12年11月22日,組合に対し,解雇と操業停止の通知を文書
でしているが,これに対し,組合は同月29日付けの文書で,「会社の提案に
ついては条件付きで受け入れます。」と回答し,以後は退職金等の上乗せの
要求がされた。当初の組合の要求は上乗せ金額が8億円というものであっ
た。これに対し被告側は退職金の20パーセント上乗せを提示していた。すな
わちこの時点では組合側も操業停止についてはやむなしとの判断を有してい
たものと考えられる。
(原告らの認否・再反論)
1 上記5(1)は争う。民事再生その他の法的手続を講じることと労働組合・労働者
との説明協議を尽くすこととは,別個の問題であり,使用者は,民事再生その他
の法的手続を講じたからといって,労働組合・労働者との説明・協議義務を免れ
ることはできない。被告が主張する清算目的の民事再生手続の利用について
は,民事再生手続の利用実態に関する一般論にすぎない。
2 前記5(2)は否認する。組合と労働者は,事業経営が良好ではないという程度の
認識はもっていたとしても,「全面的な事業閉鎖もやむを得ない」という認識は全
くもっていなかった。
3 前記5(3)指摘のとおりの回答をした事実は認めるが,操業停止もやむなしとの
判断を組合がしていたとの主張については争う。その理由は次のとおりである。
(1) 組合側が操業停止もやむなしと判断した事実はない。
(2) 上記組合回答は,飽くまでも条件付きであり,無条件で被告の提案を受け
入れたものではない。その後,結局,被告は組合の求めた条件を受け入れ
ず,従業員ほぼ全員解雇についての労使合意は成立しなかったのであって,
組合が「被告提案を受け入れ」たということにはならない。
(3) 被告は,経営情報の開示や組合との説明協議もせずに,再生手続開始の
申立てをし,さらに,突如,操業停止・解雇の通告に及び,工場閉鎖の既成事
実を作ろうとしたものである。
  この通告を受けた組合の側は,当初の段階では,全面的操業停止の必要性
の有無について判断材料のないまま,被告から十分な生活保障が得られるな
らばという条件付きで,被告の提案を受け入れて,労使の協議と合意による
平和的な解決を図ろうとした。
  しかし,被告は,組合側が提示した条件を拒絶した。また,組合は,事件の全
体像を掌握し,全面的工場閉鎖と本件解雇の不当性を理解するに至ったので
ある。
  したがって,組合の条件付き受入れの回答は,被告の側の説明協議義務違
反に起因するものであり,かつ説明協議の放棄を認める内容のものではない
から,この回答を理由に説明協議義務が不要であると主張するのは本末転
倒である。
第6 争点6(本件解雇が無効であった場合の賃金請求に対する予備的主張)
1 定年(抗弁1)
(被告の主張)
 仮に本件解雇が無効であったとしても,就業規則及び組合との協定に基づく6
0歳の定年を超える期間については,該当する原告らには賃金の請求権はな
い。
(原告らの反論)
 本件解雇時に定年を超えていた者については,60歳定年制度の効力が生じ
た後に,被告が再雇用していた者であり,定年制の効力は及ばないから判決言
渡時までの賃金請求権を失わない。
2 労務提供(抗弁2)
(被告の主張)
 本件解雇後,他に就労した者は,被告に対し労働力を提供することは不可能
であるから,賃金の請求権はない。
(原告らの認否・反論)
 被告は,「他に就労した者」とその収入額を特定していないから,抗弁としては
無意味な主張であり,認否不能である。
 なお,仮に就労者とその収入額を特定したとしても,被告に対する労働力提供
がされなかったのは,被告が労務受領を拒絶したことに起因するのであるから,
原告らは他に就労しても被告に対する賃金請求権を失わない。
3 中間収入控除(抗弁3)
(被告の主張)
労働力の提供不能が被告の責めに帰すべき事由によるとしても,本件解雇
後,他に就労して賃金を得ている者は,収受した賃金相当額を民法536条2項
ただし書所定の「利益」として被告に償還すべき義務を負う。
(原告らの認否・反論)
(1)被告は,「他に就労した者」とその収入額を特定していないから,主張自体
が失当であり,認否不能である。なお,法律論として,中間収入に民法536条
2項の適用があることは認める。
   (2) 原告らの仮定再抗弁
 仮に被告が他に就労した者を特定し,かつ,その賃金額を特定したとして
も,中間収入のあった期間において,原告らは労働基準法26条に基づく休業
手当請求権を有するから,解雇期間中の賃金のうち平均賃金の6割までの部
分については民法536条2項による利益償還の対象とし得ず,被告は原告ら
に対し,次の額の支払義務を負う(米軍山田部隊事件最高裁判所昭和37年
7月20日第2小法廷判決民集16巻8号1656頁)。
ア 当該期間中の中間収入が被告から支払われるべき賃金の平均賃金額の
4割以内である場合には,平均賃金額から中間収入を控除した額。
イ 当該期間の中間収入が被告から支払われるべき賃金の平均額の4割を
超えている場合には,平均賃金額の6割。
第7 争点7(臨時・パート従業員であった者の処遇)
(被告の主張)
1 臨時・パートであった従業員については,本人の明示的意思の下において採ら
れた雇用形態であり,いわゆる正社員と同一の待遇(退職金の支給等)ではな
い。臨時社員就業規則10条は,臨時社員(パートを含む。)の解雇については,
30日前の予告若しくは予告手当をもってするものと定めており,本件解雇はこ
れに準拠しており,有効な解雇である。
2 仮に臨時・パート従業員についても正社員と別異の取扱いは許されないとして
も,争点6において述べたとおり,定年後の賃金請求権はなく,また,解雇後他
に就労している者については,以後賃金請求権がないか,あるいはその就労に
より得た利益は民法536条2項ただし書により被告に償還されるべきである。
(原告らの反論)
1 臨時・パートという名称の社員であっても,解雇の有効性要件は,正社員の場
合と同じであり,これが軽減されることはない。
2 定年制及び中間収入控除についても,正社員の場合と同じである。
第4章 当裁判所の判断
第1 前記争いのない事実等,後掲各証拠及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が
認められる。
1 被告は,E会長の父が大正2年に個人営業で始めたものであり(被告代表者本
人),昭和26年10月に法人化された(乙1)。
2 被告の紡績業部門は,半田工場に置かれ,最も狭義の紡績部門,織布部門,
一般部門に分かれていた。原綿から糸を作るのが狭義の紡績部門である。糸か
ら布を織るのが織布部門で,織布部門は,製造する布の巾の違いに応じて,広
巾部門と小巾部門に分かれていた。一般部門は,紡績や織布そのものを行う部
門ではなく,食堂等での庶務的業務や常勤ではない電気主任・産業医の業務で
ある(甲60)。
 さらに,被告の半田市所在の事業所(以下「半田事業所」という。)には,営業部
門があり,営業一課から三課に分かれていた。そのうちの,営業一課は狭義の
紡績部門に対応する受注・販売を担当し,営業二課は織布部門に対応する受
注・販売を担当し,営業三課は,「外注部門」とも呼ばれ,繊維製品の製造を外部
委託していた。
 そして,被告の半田事業所には,被告所有の建物・駐車場を賃貸する不動産
部門及び人事・経理を担当する総務部門が存在した。
 被告は,半田事業所以外に,東京営業所を置き,東京での自社製造品や外注
製品の販売を担当させていた。
3 被告を含む半田市周辺の紡績会社においては,九州等出身の若い女性が,会
社の寮に住んで,学校法人半田学園という通信制の短期大学に通いながら働
いており,被告においても,本件解雇時,17人がそのような形で働いていた(被
告代表者本人)。
4 被告は,株式会社ユニーに月額1200万円(甲35)で愛知県知多郡a町の不動
産を賃貸し,ユニーサンテラス店が昭和58年12月にオープンした(争いがな
い。)。
5 E会長は,昭和62年4月に半田市長に当選し,その子であるGが,同年5月に
被告の代表取締役社長に就任した(争いがない。)。
6 被告は,ヤオハンに半田市の不動産を賃貸し,ネクステージ半田という名称の
商業施設が,平成2年9月,オープンした(争いがない。)。
7 E会長は,平成3年3月に半田市長選に落選したため,被告の代表取締役社長
に復帰した(争いがない。)。
8 ヤオハンは,平成9年9月に倒産し,これを受けて,ネクステージ半田の全テナ
ントは,平成10年1月に撤退し,ネクステージ半田は閉鎖された(争いがな
い。)。
9 被告は,平成10年9月ころ,組合に対して経営合理化案を提示した。その内容
は,紡績部・広巾部・小巾部・その他の部門で人員削減するというものであり,組
合はこれを了承し,その年から翌平成11年にかけて従業員の人員削減がされ
た(甲60,乙3)。
  しかし,その後は,人員削減はなく,従業員全員に対して賞与も支給され,賞与
の支給額も愛知県紡績労連に加盟する他社と同等の水準であった(甲60)。ま
た,組合と被告は,平成12年4月以前に昇給の交渉をし,平成13年1月以降昇
給することになった(甲62,原告A86本人)。
10 被告が,株式会社ユニーに賃貸していたユニーサンテラス店が,平成11年2
月,閉鎖された(争いがない。)。
11 被告は,組合の協力を得ながらネクステージ半田跡のテナント誘致活動をし,
組合との定例の交渉の場で,誘致できるまで諦めないと説明していた。そして,
被告は,平成11年7月,ネクステージ半田の施設再利用として公営ギャンブル
(競馬・競輪・競艇)の場外発券場を誘致する計画を発表した(甲60,乙13)。
  被告と組合は,再生手続開始の申立てまで,夏・冬の賞与の時期と春の昇給の
時期に,定例的に交渉をしていたが,組合は,被告が再生手続開始の申立てを
しなければならないような経営状況にあるという説明を受けたことはなかった。ま
た,実際に民事再生手続を取るということについても,事前に被告から組合に対
して,何の説明も相談もなかった。そのため,組合は,再生手続開始の申立てが
されることを全く知らず,予測できなかった(甲60,原告A86本人)。
12 平成12年9月18日,半田市議会で公営ギャンブル(競馬・競輪・競艇)場外発
券場誘致請願が不採択となり,ネクステージ半田の施設再利用計画がとん挫し
てしまった。この誘致計画の失敗を重要な契機として,被告は民事再生手続を
利用するという方針へと大きく方向転換した(被告代表者本人)。
13 被告は,平成12年9月20日に月末の決済資金が不足することになったため,
やむを得ず子会社である山田殖産株式会社の土地を早期に売却することにし,
月末までにミツカン酢株式会社に売却した(甲52)。
14 E会長は,そのわずか1週間後の平成12年9月25日,役員会において,再生
手続開始を申し立て,同年12月末に紡績業を廃業し,債権者には100%配当
するという方針を発表した。しかし,H専務取締役(以下「H専務」という。)ら複数
の役員は,反対意見を表明した(甲51,52)。
15 被告の役員会において,平成12年9月30日,E会長の強い意向により,再生
手続開始の申立てが決まった。E会長は紡績業廃業が民事再生計画の骨格で
あると考えていた(甲51,被告代表者本人)。しかし,紡績業の廃業の方針につ
いては,社内の役員ら一部の者に伝えられるにとどまり,公表されなかった(甲5
2,60)。被告内部では,同年9月30日から同年11月16日まで,以下のとおり
の紡績業の廃止に向けた動きがあったが,これらの事実を組合が知ったのは,
後記26のとおり同月17日以降である。
16 被告は,平成12年10月4日,名古屋地方裁判所に対し,再生手続開始を申し
立てた。その申立書には,「申立人は平成12年10月10日が支払期日となって
いる支払手形(額面合計約金1600万円)の決済資金を調達することが困難で
あり,・・・仮に10日の決済ができたとしても,その後続けてやってくる手形を決
済することは不可能な状況にあり,取引先も多く金額も多大である申立人が資
金不足により不渡処分を出せば大きな混乱が生じることとなり,事業の継続に著
しい支障をきたすこととなる。」,「紡績業については,従来賃料収入が大きかっ
たことに依拠して合理化,効率化が遅れており,事業を再構築することによって
再生させることが可能であると思われる。」,「今後の方策としては,紡績業につ
いては更に効率化を図るとともに・・・」という記載がある(乙1)。
  前記再生手続開始の申立ては,組合や従業員に対して何の通告も説明もなく,
A86組合長でさえ,申立ての事実を知ったのは申立てから3日も経った同年10
月7日の中日新聞朝刊の記事によってであった(甲60,原告A86本人)。A86
組合長は「民事再生」という言葉を聴くのはその時が初めてであり,何のことなの
か分からなかった。他の組合員の反応も同様で,民事再生が倒産ということも分
からず,皆きつねにつままれたような状態であった(原告A86本人)。組合は,平
成12年10月13日,被告に対して団体交渉を申し入れた(甲6の1,2)。
  名古屋地方裁判所は,平成12年10月6日,被告に対して監督委員による監督
を命じ,C監督委員を選任した(甲61添付資料1)。
17 E会長は,平成12年10月9日,「民事再生法に基づく債権者に対する一切の
当社の債務(労働債権を含む)は,平成12年9月末現在の当社の資産をもって
全額返済する努力を致します。しかし,その資産をもってしても返済に充当でき
なかった残額は,E会長個人及び関連会社の資産をもって速やかに完済致しま
す。」と記載した書面を作成した(甲22)。
18 債権者説明会が,平成12年10月18日,開かれた(甲4の2,甲5)。被告は,
その場において,「紡績業については,更に合理化,効率化を検討し,事業を再
構築することによって再生させることが可能であると思われる」,「今後の方策と
しては,紡績業については効率化を図ると供(ママ)に」と記載した「民事再生申
立にかかる経緯」と題する書面等の資料を配付し(甲4の2),E会長は,すべて
の債権者に対して,紡績業は存続させるという基本方針を表明した上で,債務
は100%支払うと言って理解を求めた(甲60,原告A86本人)。このように,E
会長は債権者に対し紡績業の再生を約束していたものであり,組合からもA86
組合長を含む2人が債権者説明会を傍聴し,E会長の上記説明を直接聞いた
(原告A86本人)。
  しかし,E会長は,同年10月18日から同月30日までの間,営業担当従業員に
対し,同年12月末に紡績業をやめることになるので先の方の受注を手控えるよ
うにという指示をしていた(甲52,53)。
19 組合と被告との間の第1回団体交渉が,組合の申入れを受けて,平成12年1
0月20日,開かれた(甲6の3,原告A86本人)。出席者は,被告側がE会長,I
常務取締役(以下「I常務」という。),人事のJの3人,組合側が上部団体である
ゼンセン同盟愛知県支部とゼンセン同盟愛知県紡績労連から3人及びA86組
合長ら組合3役であった。
  E会長は,その席で,「紡績業の存続は再生計画に盛り込んでおり,来年2月中
旬を目途にしている再生計画の認可ではっきりすると思っている。」と説明し,紡
績業は続けるという基本方針を改めて組合の前で表明した。しかし,その場にお
いては,被告から平成12年9月30日現在の貸借対照表が渡されただけで,そ
の他の会社経理や財務資料は一切なく,財務内容に関する説明はなかった。ま
た,紡績業をどのような形で続けるのかという具体的な再建案の説明もなかった
(甲6の3,60,原告A86本人)。
20 E会長は,平成12年10月30日に開かれた定例営業会議において,「紡績業
は年内でやめる。」,「裁判所で再生の開始決定が出るまではこのことはここだ
けの話にしておいてほしい。取引先にも内緒にしておけよ。」という趣旨の発言を
した(甲52,53)。
  E会長の上記発言があったことを聞いたH専務は,翌31日,紡績業廃止につい
てE会長に対して抗議したが,E会長は,同年11月1日,H専務に対し,「自分の
意向に沿わない人間は辞めてもらう。」という趣旨の通告をした(甲52)。
  H専務は,同年11月2日,紡績業廃業方針に反対して辞任した(甲52)。
21 半田信用金庫は,平成12年11月1日,中京銀行は,同年11月8日,知多信
用金庫は,同年11月9日,東海銀行は,同年12月6日,それぞれ被告との間で
預金相殺をした(乙5添付資料4)。
22 D公認会計士は,平成12年11月9日付けで,C監督委員あての報告書(乙6)
を作成した。
  その報告書には,「本業の繊維業では構造的に赤字が続いていた。」,「売上総
利益は平成7年度で8百万円とほぼゼロに近く,平成8年度,平成9年度とマイ
ナスになっている。平成10年度は減価償却費が前年に比べ1億3千万円程少
なく計上されている為実質上はマイナス,平成12年度も減価償却費は未計上の
為約4億円を計上すれば同じくマイナスである。したがって,年間878百万円(1
0年平均)の販売費及び一般管理費を控除する前から赤字のため,全く営業を
続けることは不可能な状態であった。」という記載がされている。
23 C監督委員は,平成12年11月10日付けで,「報告書(3)」と題する報告書を作
成した(甲19添付資料3)。
  その報告書には,業務及び財産状況等の調査結果について,再生債務者であ
る被告に再生手続申立前において否認すべき行為等疑いのある行為は認めら
れなかったこと,再生計画の認可の見込みについては,被告は,固定資産税評
価額で約54億円相当の土地を所有するほか,その所有する建物(ネクステージ
半田)の有効利用を図って,同建物を有利な条件で賃貸すべく努力していること
などから,被告が現在所有する土地及び建物の有効利用さえできれば,再生は
可能であると認められるなどと記載されていたが,紡績業に関する言及はされて
いない。
24 被告と組合との第2回目の団体交渉は平成12年11月7日に予定されていた
が,被告側から「11月15日に名古屋地裁から民事再生手続の開始決定が出さ
れるから,それ以降でないと詳細な説明ができない。」との申入れがあり,同月1
7日に変更された(甲7の2)。
25 名古屋地方裁判所は,平成12年11月15日,被告に関して再生手続開始決
定をした。
26 組合と被告との間の第2回団体交渉が,平成12年11月17日に開かれた。第
2回団体交渉の被告側出席者はE会長,I常務ほか2人,組合側は組合執行部,
及び上部団体であるゼンセン同盟愛知県支部から2人であった。
  被告はこの団体交渉においてそれまでの態度を一変させ,紡績業を全部廃業
する方針を明らかにした。すなわち,被告は,今後の操業について,「本業の操
業は難しい。幅広(広巾部門の意味)を来年の2月目途と考えている。」,「本業
はやめるということ。」と述べ,突然これまでの基本方針を覆したが,それは被告
が重視していた再生手続開始決定がされてからわずか2日後のことであった。
 A86組合長が「債権者集会やみんなの前で言ってきたことと違うではないか。」
と問いただすと,被告側は「紡績業界のこのような状況の中,やっていくことが大
変なものだということは皆さんにも十分理解していただけると思う。」と述べ,いつ
操業をやめるのかという質問に対し,「今のところまだ分からないが,近いうちに
やめる考えでいる。」などと答えた(甲7の2)。紡績業を廃止するとの被告の方
針を組合が知ったのは,この時点が最初である(原告A86本人)。
27 ところが,被告は,第2回団体交渉のわずか4日後の平成12年11月21日,
組合に対して紡績業全部の操業停止の時期について一方的に通告した。その
通告によれば,紡績部門と広巾部門の操業停止は平成12年12月29日限り,
小巾部門は平成13年2月20日限りであり,寮生は「同日をもって」退寮してもら
うというものであった(甲13の1)。この通告文書には,どうして紡績業全部を直
ちに廃業しなければならないのかという理由について,具体的なことは何も書か
れていなかった。その通告文書に書かれていた理由らしきものといえば,「監督
委員C弁護士の裁判所への報告書「平成12年(再)第11号報告書(3)」によって
も操業を続けるよう指導する文言は一切ありませんでした。」というものであった
が,前記のとおり,C監督委員の前記報告書(甲9添付資料3)には,紡績業に
関する言及がなく,紡績業全部の廃業を肯定するような記述はどこにもなかっ
た。
28 被告は,平成12年11月21日付けの辞令書により,同年12月29日付けをも
って解雇する旨,紡績業部門の従業員の大半に対する本件解雇の予告をし,同
辞令は,同日又はその後の数日以内の期間に各従業員に到達した(甲2の1,
甲19添付資料4)。
29 組合は,平成12年11月28日,被告との労使協議をし(甲16),同月29日,
「操業停止に伴う解雇について(回答)」と題する文書を被告あてに提出した(甲
13の2)。この文書に,「会社の提案について条件付きで受け入れることにいた
します。」と記載してあり,その別紙には組合から退職金の上乗せ要求の記述も
あった(甲14)。
30 組合と被告との間の第3回団体交渉が平成12年12月6日(甲8),第4回団体
交渉が同月14日(甲9),それぞれ開かれ,退職金の上積み等に関する協議が
されたが,結局,その後,被告は組合が提示した条件を受け入れなかったので,
組合は,やむなく通告された解雇日付より前の平成12年12月20日,被告に対
して,「全員解雇は不当解雇として,抗議行動を行う」という通告をし(甲15),代
理人弁護士から被告に対して,解雇は無効であり協議を申し入れる旨の内容証
明郵便を送付した(甲3の1,2)。
31 組合と被告との間の第5回団体交渉が,平成12年12月26日,開かれ,被告
は,初めて退職金規定者に対して20%の加算金を支払い,臨時・パート・勤続3
年未満社員に対して1人当たり15万円を支払うという回答を書面でしたが,組
合はこれを受け入れなかった(甲19添付資料4)。
32 被告の紡績工場は,平成12年12月29日,閉鎖され,被告は,同日,組合に
対して組合事務所の明渡しを要求したが(甲17の1,3),組合は明渡しを拒否
した(甲17の2)。
  また,被告は,同日,被告の寮に住んでいた者に対し,寮を明け渡させ,被告が
借り上げていた社宅に住んでいた者に対し,同日,それぞれ敷金,礼金を自ら
支払って直接契約に切り替えることを求めた(被告代表者本人)。
  被告は,平成13年1月5日,組合に対し,組合事務所の明渡しと18時に電源
を切る旨を通告をした(甲17の4)。これに対し,組合は組合事務所使用の権利
を主張したが(甲17の5),電源を切られた(争いがない。)。
  組合と被告との間の第6回団体交渉が,同年1月9日,被告からの申入れを受
けて開かれたが,被告は,従前と同じ退職金の上積みを提示するのみであった
ので,組合はこれを拒否した(甲10の1,3,甲19添付資料4)。
  被告は,同日,前記解雇予告の対象となっていなかった紡績部門の従業員に
対し,同年2月20日付けをもって解雇する旨の本件解雇の意思表示をした。
  被告は,同年1月15日,組合に使用させないため,組合事務所横の休憩室を
封鎖した。これに対し,組合は書面によって抗議した(甲17の6)。
33 名古屋地方裁判所は,平成13年2月19日,再生計画案提出期限について同
年3月26日までの延期を認めた(甲20)。
  組合と被告との間の第7回団体交渉が,同年3月1日開かれ,組合は,被告に
対し,解雇無効と未払賃金の支払を要求したが,被告はこれを拒否した(争いが
ない。)。
  被告からの申入れを受けて労使だけの話し合い(単組労使交渉)が,同年3月
19日に開かれたが,被告は裁判で決着したいと表明した(争いがない。)。
  被告は,組合員らの退職金を供託することとし,その供託通知書が,同年3月2
3日,組合員に届いた(争いがない。)。
34 被告は,平成13年3月26日,再生計画案を提出した(争いがない。)。
35 債権者説明会が平成13年4月6日に開かれた。C監督委員立会いの下,債権
者らに対して再生計画案が説明された(争いがない。)。
36 被告は,平成13年4月19日,修正再生計画案(甲21)を提出して,再生計画
案の弁済計画を一部修正した。
37 原告らは,平成13年4月27日,名古屋地方裁判所に対し,本件訴えを提起し
た(当裁判所に顕著)。
38 C監督委員は,平成13年6月22日,報告書を作成した(甲25)。
  その報告書には,本件訴訟の結果,被告が従業員に対して給与等の支払義務
を負った場合,E会長も重畳的にその支払債務を引き受ける旨約定しており,し
たがって,被告が本件訴訟に敗訴しても,E会長は相当の資産を有していること
から,同従業員に対する支払は可能であり,再生計画の実行見込みは否定でき
ないという記載がある。
39 債権者集会が,平成13年6月26日,開かれた(争いがない。)。被告は,再生
計画補正書(甲24)を提出し,再生計画の債権の弁済計画について,被告が本
件訴訟の結果解雇従業員に対し何らかの金銭負担を負うこととなったときは,E
会長が重畳的に当該債務を引き受けて支払うという条項を追加した。しかし,組
合は弁護士を通じて再生計画案は承認できない旨の意見陳述をした(甲26)。
40 名古屋地方裁判所は,平成13年6月29日,再生計画認可の決定をした(争い
がない。)。その決定書(甲27)には,被告には,再生手続上,法律の規定及び
その趣旨に違反する行為が散見されたが,再生計画を不認可とするものとまで
は認め難い,解雇した従業員との訴訟につき被告が債務負担を行うべきことと
なった場合にはE会長が重畳的に債務を引き受けるものとしていることなどに照
らすと,再生計画が遂行される見込みがないものとは認められない旨の記載が
ある。
第2 前記第3章「第1 争点1(整理解雇4要件の法的性質)」について
1 本件解雇において整理解雇4要件は適用されるか。
(1) いわゆる整理解雇とは,労働者に帰責性のない経営上の理由によってされ
る解雇をいい,事業の一部である部門閉鎖による一部解雇だけでなく,全事
業の閉鎖に伴う全員解雇も含まれるものと解すべきである。
  前記認定事実よれば,本件解雇は,労働者に帰責性はなく,紡績業の廃業
という経営上の理由によってされた解雇であり,しかも,被告が破産手続を申
し立て,破産宣告がされた結果,管財人による解雇が行われた場合とも異な
るものである。そうすると,本件解雇は,整理解雇に当たり,これまでの判例
法理によって形成されてきたいわゆる整理解雇法理が適用されると解され
る。
(2) これに対し,被告は,実質的には全員解雇の事案であり,整理解雇事案で
はないと主張する。
  しかし,前記のとおり,本件では,被告の紡績業に従事する従業員を解雇し
たが,不動産管理部門の従業員は解雇しなかったのであるし,仮に全員解雇
の事案であったにせよ,それが従業員の帰責性によるものではない以上,整
理解雇の概念に含まれることは否定できないから,被告の前記主張を採用す
ることはできない。
2 整理解雇4要件と就業規則との関係
 前記のとおり,被告は,就業規則19条5号所定の解雇事由である「事業の縮
小,設備の変更等により剰員を生じたとき」又は同条6号所定の解雇事由である
「その他各号に準ずるやむを得ない事由があるとき」に当たる旨を主張している
が,前記のとおり,本件解雇が整理解雇法理の適用を免れない以上,本件解雇
が有効となるには,被告がこの解雇事由に当たることを主張立証しただけでは
足りず,さらに,整理解雇法理の適用を受けて,その法理を充たすことが必要で
あると解される。
3 整理解雇4要件と呼ばれるものは要件か要素か。
(1) 整理解雇も解雇の一種であることに変わりはなく,結局当該解雇が権利の
濫用(民法1条3項)に当たるか否かが問題となるものであり,従前の判例法
理によって形成されてきた,第1人員削減の必要性,第2解雇回避努力の履
践,第3被解雇者選定基準の合理性,第4解雇手続の妥当性といういわゆる
整理解雇4要件と呼ばれるものは,そのいずれかを欠けば直ちに解雇が無効
となるという意味での要件であるとはいえないというべきである。ただし,これ
らの整理解雇4要件と呼ばれるものは,これまでの裁判例の蓄積によって形
成された法理であって,当該解雇が権利濫用に当たるかの判断をするに当た
っては重要な要素となるというべきである。
(2) 原告らは,整理解雇の4要件と呼ばれるものは要件であると主張する。
 しかし,整理解雇には,広く様々な事案のものが含まれるのであって,整理
解雇の4要件と呼ばれるものを要件としてとらえると余りに硬直的になりすぎ
るから,これを採用することはできない。
4 整理解雇4要件に関する証明責任の分配
 解雇に客観的で合理的な理由があることは,解雇する側,すなわち使用者の
側で主張しなければならないが,整理解雇も解雇の一種であることには変わり
がないから,その合理性を基礎付ける事実については,使用者の側が証明責任
を負うというべきであり,整理解雇の4要素に相当する事実についても,前記第
1要素から第3要素までは,解雇の合理性を基礎付けるものとして,使用者の側
が証明責任を負うというべきである。
第3 前記第3章「第2 争点2(本件解雇につき,営業・人事・経理部門の数人を除く
全員についての,人員削減の必要性)」について
 被告は,本件においては,広巾・小巾部門のみならず半田工場全部門の全員に
ついて解雇の必要性があったと主張する。
1 証拠(乙1)によれば,被告の平成12年8月31日時点での同年度の営業利益
が1億8707万4235円の赤字であり,当期利益が3億6175万9503円の赤
字であったことが認められるが,これは,新たな賃借人を確保しなければ再建可
能とならない被告の不動産部門や,価格競争力を回復できる見込みがなく,操
業を続ければ続けるだけ営業損失が拡大する広巾・小巾部門も含めた収支であ
って,直ちに広巾・小巾部門以外の紡績業部門を含む半田工場全部門の事業を
廃止して,これに従事している従業員全員を解雇する必要性があったことの根
拠とはなるものではない。
2 もっとも,証拠(乙6,被告代表者本人)によれば,被告の売上総利益は,平成
元年に6億1000万円,平成2年に6億2600万円,平成3年に4億6100万円,
平成4年に4億9400万円,平成5年に2億2200万円,平成6年に1億8900万
円,平成7年に800万円,平成8年は4100万円の赤字,平成9年は7300万円
の赤字と減少しており,平成10年は会計上は1億0700万円の黒字であるが,
減価償却費が前年に比べ1億3000万円ほど少なく計上されているため実質は
マイナスであり,会計処理上は,平成11年度は3億2900万円,平成12年度は
3億3100万円の黒字であるが,平成12年度も減価償却費は未計上のため約4
億円を計上すれば同じくマイナスであること,被告の販売費及び一般管理費は
平均で年間8億7800万円を要すること,被告の売上総利益から販売費及び一
般管理費を差し引いた営業利益は,平成元年度は3億5900万円の赤字,平成
2年度は1億8700万円の赤字,平成3年度は6億3500万円の赤字,平成4年
度は3億6800万円の赤字,平成5年度は6億2000万円の赤字,平成6年度は
6億8400万円の赤字,平成7年度は8億8500万円の赤字,平成8年度は9億
5600万円の赤字,平成9年度は9億08000万円の赤字,平成10年度は会計
処理上は7億1200万円の赤字,平成11年度は3億7900万円の赤字,平成1
2年度は会計処理上1億9200万円の赤字であるというように,平成元年以降は
赤字が続いていたことが認められ,これらに照らせば,被告の紡績業全体の採
算性は極めて悪いものであったことが認められる。
3(1) しかし,証拠(甲39,乙2)によれば,被告が試算した被告の平成12年1月
から同年8月までの,紡績部門での収支は,売上高は6億0232万6932円
に社内振替分4937万6839円を加えた額であり,これらから製造原価5億4
575万7486円を控除した売上総利益は1億0594万6285円となり,これ
から一般管理費を控除した営業利益は85万8222円の赤字にすぎず,Fが
修正した計算によっても,86万1036円の赤字にすぎなかったことが認めら
れる。
(2) 被告は,上記の紡績部門の平成12年度1月から8月までの約86万円程度
の赤字について,別紙「平成12年度1月から8月度 部所別収支(累計)」の
とおり,9517万円の棚卸較差勘定が計上されており,この勘定を設けなけれ
ば営業利益は9602万円の赤字であり,現実的には採算点を大きく下回って
いたと主張し,被告代表者本人もこれに沿うような供述をする。
  これに対し,原告らは,被告の「棚卸較差勘定」に関する主張が,時機に後れ
た攻撃防御方法であるから却下されるべきであると主張する。
  しかし,被告の「棚卸較差勘定」に関する主張は,既に取調べ済みの証拠に
基づいてされたものであり,これについて新たな証拠調べ等を必要とするもの
ではないから,「これにより訴訟の完結を遅延させることとなる」(民事訴訟法1
57条1項)とまでは認めることができない。
  したがって,原告らの前記主張を採用することはできない。
  ところで,証拠(乙14)及び弁論の全趣旨によれば,被告においては棚卸高
は製造原価により算出されるが,平成11年1月から同年12月までの平成11
年度の年度末において,製造原価により算出された「原材料」,「仕掛品」,
「製品」の棚卸高は12億8810万余円であり,これに「貯蔵品」1億0883万
余円を加えた合計13億9693万余円が,損益計算の際の「期末棚卸高」であ
り,かつ平成12年度の期首棚卸高となるが,被告は,平成11年度の「原材
料」,「仕掛品」,「製品」の棚卸高について,市場価格(棒値)でも算出を行
い,原価計算による棚卸高から市場価格による棚卸高を差し引いたものが
「棚卸較差勘定」であることが認められ,この「棚卸較差勘定」は飽くまでも平
成11年度末に存在した棚卸関係物品の市場価格下落分を集計したものにす
ぎず,平成12年1月から8月までの損益とは直接関係がないことなどに照ら
すと,被告の前記主張を採用することはできない。
4(1) また,証拠(甲33,39)によれば,原告らが提出してその後に修正した「山田
紡績再建計画案」及びそれに対するF作成の鑑定意見書において,広巾・小
巾部門を除く被告の紡績業部門は,採算性を有するとされ,しかも,原告らは
一定の賃金カットに応じる態度を示していることが認められる。
(2) これに対し,被告は,原告らが提出してその後に修正した上記「山田紡績再
建計画案」に対して次のとおりるる主張するが,いずれもたやすく採用するこ
とができない。
ア 被告は,原告らの再建計画案が,一般債権及び金融機関への返済計画
が示されていないから不十分であると主張する。
  しかし,一般債権及び金融機関への返済計画は当然債権者らとの具体的
協議を経ながら決められるべきものであるし,原告らの再建計画案は一定
の弁済原資が発生するとしているのであるから,返済計画が示されていな
いからといって直ちに不十分であるとはいえない。
イ 被告は,原告らの再建計画案に対し,預金は金融機関から相殺されるか
ら利用可能資金とすることはできないとする。
  しかし,前記のとおり,被告の取引金融機関は,被告の再生手続開始申立
ての直後ではなく,被告が紡績業の廃業を決定した後に相殺をしているの
であるから,金融機関と交渉の余地もなく預金は利用可能資金とすること
ができないとまでは認められない。
5 被告は,紡績業の将来性はないと主張する。また,証拠(乙12の1,被告代表
者本人)によれば,愛知県内の紡績工場の大半が廃業していることが認められ
る。被告代表者も,「(我が国における紡績業が極めて困難な状況にあるという
ことは,業界ではある意味皆さん共通の理解だったとお伺いしてよろしいです
か。)ええ,もう全員がそれは痛感しておりました。しかし,ただ,残れば残り物に
福があるかなというような気持ちがありましたから,私も残っておりましたけれど
も,中国の力はそういうもんじゃないということを痛感してから,中国の国有の工
場を見に行ってましたから,国有の工場を見ておったときはまだまだ残れるかな
あという気持ちもありましたけども,あれが民営になってからはもう問題にならん
ですね。」などとこれに沿う供述をする。原告A86も,「(皆さん自身も大変な業種
なんだという意識はあったんではないの。)業種で言えば,当然そうだというのは
もちろん分かっています。」と供述する。さらに,証拠(甲59の1,2,原告A86本
人)によれば,被告の紡績業部門の主力製品は綿糸であるが,一般的には素材
別で,綿,合成繊維,毛の順に,工程別では縫製,紡績,織布の順で必要な技
術が高度化・複雑化するものであり,紡績産業の衰退,淘汰も素材別では綿や
合成繊維,工程別では紡績で先行していたこと,紡績などのいわゆる川上分野
は川下分野に比較して利益率が低いことが認められる。
  しかし,証拠(甲56)によれば,愛知県内においてもなお稼働してる工場は数社
あることが認められるし,証拠(甲57の1,2)によれば,被告と同じく綿糸等を製
造していた都築紡績株式会社が,会社更生手続において紡績業を継続する決
定がされたことなどが認められ,これらに照らせば,紡績業の将来性が厳しいも
のであり,被告において,広巾・小巾部門のみならず紡績業全体の廃業を決定
することに経営判断としての一定の合理性が認められるとしても,そこから直ち
に紡績業部門の従業員を全員解雇する必要があったとまで認めることはできな
い。
6 以上のとおり,被告の紡績部門の平成12年1月から同年8月までの営業利益
が86万円程度の赤字であったこと,原告らが提出しその後修正した「山田紡績
再建計画案」の内容に照らせば,前記のとおり被告の紡績業部門全体が赤字続
きであり,殊に広巾・小巾部門が廃業がやむを得ない状況にあったからといっ
て,紡績業部門全体において相当程度の人員削減をする必要性があったことは
認められるとしても,それを超えて,被告が平成12年12月末ないし平成13年2
月の時点で,紡績業部門のほぼ全員について直ちにこれを解雇する必要性が
あったとまでたやすく認めることはできない。
7 また,仮に,被告の紡績業部門の全面的な閉鎖が不可避でありその従業員を
全員解雇する必要性があったと認められたとしても,解雇が労働者にとって極め
て不利益の大きい処分であることに照らせば,その必要性は財務資料等に基づ
いて慎重に検討されるべきであるが,証拠(被告代表者本人)によれば,E会長
は,本件解雇をするに際し,他の取締役の反対を押し切り,再生裁判所やC監
督委員に一切相談せず,自らの判断で行ったこと,被告の部門別に分かれた財
務資料(乙2)は,原告らが平成13年10月5日付けでした文書提出命令の申立
てを受けて作成しているなど本件解雇前に部門別の採算性等が検討されたこと
はないことなどが認められ,これらに照らせば,被告は,本件解雇をするに際し,
紡績業部門全体の従業員全員を解雇する必要性について誠実に検討していな
いといえる。
第4 前記第3章「第3 争点3(解雇回避努力義務の履践ないし人員削減の手段とし
て解雇を選択する必要性)」について
1 被告は,紡績業部門の全面的な閉鎖をせざるを得なかったのであるから,解雇
は不可避であり,整理解雇4要件のいわゆる第2要件とされるものは適用されな
いと主張する。
  しかし,前記のとおり,被告の紡績業部門の全面的な閉鎖が不可避でありその
従業員を全員解雇する必要性があったとまでは認められないし,仮に紡績業部
門の全面的な閉鎖が不可避であったとしても,解雇が労働者にとって極めて不
利益が大きい処分であり,しかも本件解雇が100人を超える労働者を解雇する
という規模の大きいものであることや,被告は破産手続を申し立てたものではな
く,企業としての存続を図ったものであることなどに照らすと,被告は,希望退職
募集,配置転換等の解雇回避努力義務を免れないというべきである。
  したがって,被告の前記主張を採用することはできない。
2 被告は,前記のとおり,平成10年に人員整理をした以降,本件解雇に至るまで
希望退職の募集はしていないし,不動産部門や関連会社への配置転換の可能
性について検討すらしていないのであるから,被告は解雇回避努力義務を怠っ
たといわざるを得ない。
3 被告は,不動産部門は契約管理のための事務部門であり,紡績業等の大量の
人員を吸収することはもとより不可能であると主張する。
  しかし,そもそも被告はこの配置転換による解雇の回避について検討すらして
いないのであって,不動産部門において紡績業部門の大量の人員をすべて吸
収することはできないとしても,本件解雇の対象とされた原告らのうち不動産部
門等への配置転換等により解雇を免れる可能性がある者が一人でも存する以
上,その可能性について被解雇者全員の関係でこれを検討しなければならない
ものというべきである。
第5 前記第3章「第4 争点4(被解雇者選定基準とその運用の合理性)」について
 被告は,本件解雇は事業所閉鎖に伴うものでありやむを得ないものであったか
ら,整理解雇のいわゆる第3要件は本件解雇には適用されないと主張する。
 しかし,前記のとおり,被告の紡績業部門の全面的な閉鎖が不可避であったとま
では認められないし,仮にこれが認められたとしても,前記のとおり,被告は,配置
転換等といった解雇を回避する方策を採る努力をすべきであったから,それらの方
策を尽くしたとしてもなお,一部の者については解雇せざるを得ない状況にあった
のであれば,被告としては当然被解雇者を合理的な方法によって選定すべき義務
を負うことになるというべきである。
 しかし,被告はこれを怠ったものであるといわざるを得ない。
第6 前記第3章「第5 争点5(本件解雇手続の妥当性の有無)」について
1 被告は,本件解雇は事業所の閉鎖に伴うものであったのであり,事業の閉鎖は
やむを得なかったから,整理解雇のいわゆる第4要件は本件解雇には適用され
ないと主張する。
  しかし,前記のとおり,被告の紡績業部門の全面的な閉鎖が不可避であったと
までは認められないし,仮に,これが認められたとしても,解雇は労働者にとって
極めて不利益の大きい処分であり,しかも,本件解雇が100人を超える労働者
を解雇するという規模の大きいものであることや,被告は破産手続を申し立てた
ものではなく,企業としての存続を図ったものであることなどに照らすと,被告
は,解雇の必要性等を原告ら従業員や組合に対して誠実に説明すべき義務を
負っていたというべきである。
  したがって,被告の前記主張を採用することはできない。
2 前記のとおり,原告ら従業員と組合は,E会長が半田市長選に立候補したとき
の選挙活動に協力したり,場外馬券売り場の誘致活動にも協力するなど,被告
に協力的で被告との関係は良好であった。しかるに,被告は,原告ら従業員や
組合とは全く事前に相談することなく,再生手続を申し立てたものであり,しか
も,被告は,再生手続開始決定申立て時や第1回債権者集会においては,紡績
業を継続すると明言していたにもかかわらず,再生裁判所による再生手続開始
決定がされるや否や前言を翻して,紡績業を全面的に廃業し,紡績業部門の従
業員のほぼ全員を解雇するに至ったものである。これはこれまで原告ら従業員
や組合との間に築かれてきた信頼関係を裏切るものであるし,被告は,原告ら
や組合に対し,本件解雇に至るまで財務資料を開示していないこと,E会長自身
は,当初から紡績業部門の従業員全員の解雇をするつもりであったことなどに
照らすと,被告の行った解雇手続は著しく妥当性を欠いたものというべきであ
る。
第7 以上のとおり,本件解雇は,解雇した従業員が100人を超える大規模なもので
あるにもかかわらず,E会長がその独断で行ったものであり,かつ,その判断は,
民事再生法等に違反する不正がないかを監督するにすぎないC監督委員やその
補助者であるD公認会計士の意見を強引に自己の見解の裏付けとして解釈し,い
わばそれらを口実にしてされたものであって,いわゆる整理解雇法理の第1要素を
完全には充足していないばかりか,第2要素,第3要素及び第4要素については全
くこれを充たしておらず,しかも,その検討すら全く行っていないものである。したが
って,本件解雇は,これまで裁判例等により形成されてきた整理解雇法理をないが
しろにするものであって,極めて乱暴な解雇であるといわざるを得ず,解雇権の濫
用に当たり無効というべきである。
第8 前記第3章「第6 争点6(本件解雇が無効であった場合の賃金請求に対する予
備的主張)」について
1 定年(抗弁1)
 前記争いのない事実等によれば,別紙「請求額一覧表(2)」記載の原告らは,
本件解雇時に既に定年である60歳を超えていたが,これらについては,60歳
定年制度の効力が生じた後に,被告が再雇用していたものと認めざるを得ず,
定年制の効力は及ばないと解されるから,本件解雇後の賃金請求権を失わな
いと認められる。
2 労務提供(抗弁2)
 被告は,本件解雇後,他に就労した者は,被告に対し,労働力を提供すること
は不可能であるから,賃金請求権はないと主張する。
 しかし,被告は,原告らのうち「他に就労した者」を特定していないし,これを認
めるに足りる証拠もないから,この主張を採用することはできない。
3 中間収入の控除(抗弁3)
 被告は,労働力の提供不能が被告の責めに帰すべき事由によるとしても,本
件解雇後,他に就労して賃金を得ている者は,収受した賃金相当額を民法536
条2項ただし書所定の「利益」として被告に償還すべき義務を負うと主張する。
 しかし,被告は,原告らのうち「他に就労した者」とその収入額を特定していな
いし,これを認めるに足りる証拠もないから,この主張を採用することはできな
い。
第9 前記第3章「第7 争点7(臨時・パート従業員であった者の処遇)」について
1 被告は,臨時・パートであった従業員については,正社員と同一の待遇でなく,
臨時社員就業規則10条によれば,30日前の予告若しくは予告手当をもってす
るものと定めており,本件解雇はこれに準拠しているから有効であると主張す
る。
  しかし,証拠(甲50,原告A86本人)によれば,被告には,男女それぞれ正社
員,臨時・パート従業員がいたが,平成12年の時点で半田工場においては,女
性の臨時・パート従業員が63人,男性の正社員が52人,女性の正社員が22
人,男性の臨時・パート従業員その他が6人と,臨時・パート従業員が,従業員
の半数以上を占めていたのであるし,臨時・パート従業員の勤務実態は,毎日
ほぼ8時間勤務であり,半田学園に通学していた女性の正社員よりも勤務時間
が長かったことが認められ,これに照らすと,臨時・パート従業員は,正社員とは
別に,解雇予告手当を支払えば自由に解雇できると解することはできない。
  したがって,被告の前記主張を採用することはできない。
2 定年制,労務提供及び中間収入の控除に関する主張についても,前記第8の1
から3までと同じである。
第10 認容額等
1 労働契約上の権利を有する地位にあることの確認請求について
(1) 前記のとおり,本件解雇は無効であるところ,前記争いのない事実等のとお
り,別紙「請求額一覧表(3)」記載の原告らについては,本件解雇時には60歳
未満であったが,本件口頭弁論終結時には60歳を超えていたものであり,6
0歳の定年制により既に労働契約上の権利を有する地位を喪失したものと認
められる。
(2) 原告A14については,前記争いのない事実等のとおり,被相続人である亡
Bが平成13年7月25日に死亡しており,労働契約上の地位は一身専属的な
もので相続の対象とならないから(民法896条ただし書),原告A14が労働契
約上の権利を承継することはない(最高裁判所平成元年9月22日第2小法廷
判決参照)。
(3) 原告A61,原告A64及び原告A102については,前記争いのない事実等
のとおり,本件解雇時には60歳未満であったが,本件訴え提起時には60歳
を超えていたものであり,60歳の定年制により既に労働契約上の権利を有す
る地位を喪失したものと認められる。
(4) その余の原告らについては,本件解雇が無効であることにより,被告に対し
て労働契約上の権利を有する地位にあるものと認められる。
2 賃金請求について
(1) 別紙「請求額一覧表(1)」記載の原告らについて
 前記争いのない事実等のとおり,上記原告らは,本件口頭弁論終結時であ
る平成16年12月3日時点で60歳未満であったと認められる。
ア 本件訴え提起までの賃金
(ア) 平成12年12月29日に解雇された原告番号81までの原告ら
 前記争いのない事実等によれば,この原告らが,平成12年12月30
日から本件訴え提起の直前の締切日である平成13年4月15日までの
3.54か月分の内金として,別紙「請求額一覧表(1)」の「未払額(円)」欄
記載の賃金債権を有することが認められる。
(イ) 平成13年2月20日に解雇された原告番号86以降の原告ら
 前記争いのない事実等によれば,この原告らが,平成13年2月21日
から同年4月15日分までの1.82か月分の賃金の内金として,別紙「請
求額一覧表(1)」の「未払額(円)」欄記載の賃金債権を有することが認め
られる。
イ 本件訴え提起後の賃金
 前記争いのない事実等によれば,この原告らが,本件訴え提起後の賃金
として,本件訴え提起後の最初の月の賃金の支払日である平成13年5月
28日から本判決確定の日(ただし,本判決確定の日までに別紙「請求額一
覧表(1)」の「60歳誕生日」欄の日が到来する者は,その前月の28日)ま
で,毎月28日を支払日とする別紙「請求額一覧表(1)」の「月額(円)」欄記
載の賃金債権を有することが認められる。
(2) 別紙「請求額一覧表(2)」記載の原告らについて
 前記のとおり,上記原告らは,本件解雇時に既に60歳以上の者であり,再
雇用されていたと認められるものである。
ア 本件訴え提起までの賃金
(ア) 平成12年12月29日に解雇された原告番号84までの原告ら
 前記争いのない事実等によれば,この原告らが,平成12年12月30
日から本件訴え提起の直前の締切日である平成13年4月15日までの
3.54か月分の内金として,別紙「請求額一覧表(2)」の「未払額(円)」欄
記載の賃金債権を有することが認められる。
(イ) 平成13年2月20日に解雇された原告番号88以降の原告ら
 前記争いのない事実等によれば,この原告らが,平成13年2月21日
から同年4月15日分までの1.82か月分の賃金の内金として,別紙「請
求額一覧表(2)」の「未払額(円)」欄記載の賃金債権を有することが認め
られる。
イ 本件訴え提起後の賃金
 前記争いのない事実等によれば,この原告らが,本件訴え提起後の賃金
として,本件訴え提起後の最初の月給の支払日である平成13年5月28日
から本判決確定の日まで,毎月28日を支払日とする別紙「請求額一覧
表(2)」の「月額(円)」欄記載の賃金債権を有することが認められる。
(3) 別紙「請求額一覧表(3)」記載の原告らについて
 前記のとおり,上記原告らは,本件解雇時には60歳未満であったが,本件
口頭弁論終結時である平成16年12月3日には60歳を超えていたものであ
る。
ア 本件訴え提起までの賃金
(ア) 平成12年12月29日に解雇された原告番号82までの原告ら
 前記争いのない事実等によれば,この原告らが,平成12年12月30
日から本件訴え提起の直前の締切日である平成13年4月15日までの
3.54か月分の内金として,別紙「請求額一覧表(3)」の「未払額(円)」欄
記載の賃金債権を有することが認められる。
(イ) 平成13年2月20日に解雇された原告番号89以降の原告ら
 前記争いのない事実等によれば,この原告らが,平成13年2月21日
から同年4月15日分までの1.82か月分の賃金の内金として,別紙「請
求額一覧表(3)」の「未払額(円)」欄記載の賃金債権を有することが認め
られる。
イ 本件訴え提起後の賃金
 前記争いのない事実等によれば,この原告らが,本件訴え提起後の賃金
として,本件訴え提起後に支払日が到来する平成13年4月16日から別紙
「請求額一覧表(3)」の「60歳誕生日」欄記載の年月日の前月15日までの
「月数」欄記載の月数に毎月の支払額である「月給(円)」欄記載の額を乗じ
た賃金債権を有することが認められる。
ウ 以上によれば,別紙「請求額一覧表(3)」記載の原告らは,前記ア及びイ
の合計額である別紙「請求額一覧表(3)」の「請求額」欄記載の賃金債権を
有することが認められる。
(4) 60歳となる前に死亡した亡Bの承継人である原告A14について
 前記争いのない事実等のとおり,亡Bは,60歳となる前の平成13年7月2
5日に死亡した。
ア 本件訴え提起までの賃金
 前記争いのない事実等によれば,亡Bの月給は22万9600円であり,亡
Bが,平成12年12月30日から本件訴え提起の直前の締切日である平成
13年4月15日までの3.54か月分の内金として67万4484円の賃金債権
を有していたことが認められる。
イ 本件訴え提起後死亡までの賃金
 前記争いのない事実等によれば,亡Bが,少なくとも平成13年4月16日
から平成13年7月15日までの3か月分の68万8800円の賃金債権を有
していたことが認められる。
ウ 以上によれば,亡Bは,上記ア及びイの合計136万3284円の賃金債権
を有していたものであり,これを原告A14が承継取得したことが認められ
る。
(5) 本件解雇後本件訴え提起前に60歳となった者について
ア 原告A61
 前記争いのない事実等によれば,原告A61は,平成12年12月29日に
解雇され,平成13年1月10日に60歳となったから,12日分の賃金債権を
有しており,同原告の月給は16万5521円であったから,同原告は,少な
くとも6万4072円の賃金債権を有することが認められる。
 16万5521円÷31日×12日=6万4072.64・・・円
イ 原告A64
 前記争いのない事実等によれば,原告A64は,平成12年12月29日に
解雇され,平成13年3月25日に60歳となったから,同原告は,平成12年
12月30日から平成13年1月15日までの17日分,同月16日から同年3
月15日までの2月分,同月16日から同月25日までの10日分の賃金債権
を有しており,同原告の月給は14万4191円であったから,同原告は,41
万3967円の賃金債権を有することが認められる。
 14万4191円÷31日×17日=7万9072.48・・・円≒7万9072円
 14万4191円×2か月=28万8382円
 14万4191円÷31日×10日=4万6513.22・・・円≒4万6513円
 7万9072円+28万8382円+4万6513円=41万3967円
ウ 原告A102
 前記争いのない事実等によれば,原告A102は,平成13年2月20日に
解雇され,同年4月8日に60歳となったから,同年2月21日から同年3月1
5日までの23日分,同月16日から同年4月8日までの24日分の賃金債権
を有し,同原告の月給は13万9072円であったから,同原告は,少なくとも
20万8608円の賃金債権を有することが認められる。
 13万9072円÷28日×23日=11万4237.71・・・≒11万4238円
 13万9072円÷31日×24日=10万7668.64・・・≒10万7669円
 11万4238円+10万7669円=22万1907円
第5章 結論
 よって,原告らの請求は,別紙「請求額一覧表(3)」記載の原告ら,原告A14,原告A
61,原告A64及び原告A102の労働契約上の権利を有する地位にあることの確認
を求める請求と原告A64の賃金請求のうち4848円の支払を求める部分の請求は
理由がないが,その余はいずれも理由があるからこれを認容することとし,訴訟費用
は全部を被告の負担とするのを相当と認め,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第1部
       裁判長裁判官   橋本昌純
          裁判官   上村考由
          裁判官   鈴木基之
別紙請求額一覧表(1)ないし(3)以外添付省略

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