弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     被告人を懲役五年に処する。
     原審における未決勾留日数中一四〇日を右刑に算入する。
     押収してある納税証明書七通(東京高裁昭和五〇年押第五三六号の一な
いし五、七、九)、納税証明書写九通(同押号の一八、三一、四四、五〇、五九に
各添付)の各変造部分及び納税証明書八通(同押号の七ないし一四)、納税証明書
写八通(同押号の八五、九一、九七、一〇三に各添付)の各偽造部分を没収する。
     訴訟費用は、別紙記載のとおり被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人平岡俊将、同坂間孝司、同笠原力連名の控訴趣意書及
び控訴趣意補充書、弁護人田原義衛作成名義の控訴趣意補充書、同その二及び同そ
の三(但し、同弁護人は、当審第四回公判期日において、「理由齟齬」の主張の点
は裁判所の職権調査を促す趣旨であり、同第五回公判期日において右「控訴趣意補
充書その三」は裁判所の職権発動を促す趣旨及び量刑事情として述べる趣旨である
旨それぞれ陳述した)に各記載するとおりであり、これに対する答弁は、東京高等
検察庁検察官検事西村常治作成名義の昭和五〇年一一月一九日付、同五一年一月一
七日付各答弁書に各記載するとおりであるから、ここに、これらを引用する。
 弁護人平岡俊将、同坂間孝司、同笠原力の控訴趣意第一及び弁護人田原義衛の控
訴趣意第一点の(一)(法令解釈適用の誤の主張)について、
 所論は、要するに、原判示第一ないし第四の原判示各証明書の原判示各事項欄の
改ざんは、これに続く複写文書の作成のためのものであつて、被告人らには原判示
の改ざんの各証明書の原本をいずれも真正なものとして使用する意図が全くなく、
「行使の目的」を欠くから、犯罪が成立せず、また、右各証明書の改ざんは、その
複写文書を作成するための準備行為であつて、刑法上の「予備」を構成するに止
り、犯罪を構成せず、更にまた、原判示第一ないし第四、第七、第八、第一二、第
一四の改ざんの各証明書の複写文書は、原本ではなく、あくまでも写であつて、い
ずれも被告人らが自由に作成することのできる内容虚偽の私文書に過ぎないから、
右各複写文書の作成行為は、いずれも公文書偽造罪を構成せず、仮に、右各複写文
書が、公文書に当たるとしても、いずれも無印公文書と解すべきであるから、原判
示第一ないし第四の各事実に対し有印公文書変造・同行使の、原判示第七、第八、
第一二、第一四の各事実に対し有印公文書偽造・同行使の該当法条を各適用した原
判決は、法令の解釈適用を誤つたものであり、右誤りは、判決に影響を及ぼすこと
が明らかである、というのである。
 そこで、所論にかんがみ検討すると、文書偽造罪における「行使の目的」とは、
他人に対し、偽造(変造)文書を真正な文書と主張して、当該文書の作成名義、内
容につき他人を誤信させようとする目的をいうものと解すべきところ(大審院大正
二年四月二九日判決・大刑録一九―五三二頁参照)、なるほど被告人らにおいて原
判示第一ないし第四の原判示各証明書の原判示各事項欄の改ざん行為(変造)はそ
の各改ざんした各証明書の原本をいずれも真正な文書としてそれ自体を証明用に使
用する意図がなかつたことは所論指摘のとおりであるが、右各証明書の改ざん行為
は、これを複写機を用いてその改ざんに係る公文書と同一作成名義、同一内容の複
写文書(以下写真コピーという)を作成しこれを原判示用途に使用するためであつ
たことは原判決の認定<要旨>するとおりであるから、被告人らとしては、物理的に
右改ざんに係る原判示各証明書自体を他人に対し、行使する目的がなかつた
にせよ、右各証明書と同一の作成名義、内容でその原本自体の存在に取引上疑問を
抱かせない後記各写真コピーを作成することにより、これを介して、右改ざんに係
る原判示各証明書を真正な文書として他人に対し主張する意図であり、かかる場
合、たとえ写真コピーを介するにせよ、改ざんした証明書の内容の真正を主張せん
とするものである以上、行使の目的をもつて原判示各証明書を改ざんしたものと認
めるに支障はないというべきである。そして、原判示各証明書の改ざんに行使の目
的を認めうる限り、改ざんによる変造行為は完成し、これを単に写真コピー作成の
ための準備行為ないし予備行為として不可罰視することは許されない。この点の論
旨は理由がない。また、公文書偽造(変造)罪は、公文書に対する公共的信用を保
護法益とし、公文書が証明手段としてもつ社会的機能を保護し、社会生活の安定を
図ろうとするものであるから、公文書偽造(変造)罪の客体となる文書は、これを
原本たる公文書そのものに限る根拠はなく、原本の写であつても、それが原本と同
一の意識内容を保有し、証明文書としてこれと同様の社会的機能と信用性を有する
ものと認められる限り、偽造(変造)の客体たる文書に含まれるものと解するのが
相当であり、複写機等を使用し、機械的方法により原本を複写した写真コピーは、
写ではあるが、複写した者の意識が介在する余地のない機械的に正確な複写版であ
つて、紙質等の点を除けば、その内容のみならず筆跡、形状にいたるまで原本と全
く同じく正確に再現されているという外観をもち、これを見る者をして、同一内容
の原本の存在を信用させるだけでなく、印章、署名を含む原本の内容についてま
で、原本そのものに接した場合と同様に認識させる特質をもち、複写した者の意識
内容でなく、原本作成者の意識内容が直接伝達保有されている文書とみうるもので
あり、このような写真コピーは、そこに複写されている原本が右コピーどおりの内
容、形状において存在していることにつき極めて強力な証明力をもちうるものであ
り、それゆえに、公文書の写真コピーが実生活上原本に代わるべき証明文書として
一般に通用し、原本と同程度の社会的機能と信用性を有するものとされている場合
が多いから、公文書偽造(変造)罪の客体たりうるものであつて、原本と同一の意
識内容を保有する原本作成名義人作成名義の公文書と解すべきであり、右作成名義
人の印章、署名の有無についても、写真コピーの上に印章、署名が複写されている
以上、原本作成名義人の印章、署名のある文書として文書偽造(変造)罪の客体た
りうるものと認めるのが相当であり、原本の複写自体は一般に禁止されているとこ
ろではないが、原本の作成名義を不正に使用し、原本と異なる意識内容を作出して
写真コピーを作成することは、もとより原本作成名義人の許容するところではな
く、行使の目的をもつてするこのような写真コピーの作成は、公務所又は公務員の
作成名義を冒用して本来公務所又は公務員の作るべき公文書を偽造(変造)したも
のに当たることは、最高裁判所昭和五一年四月三〇日第二小法廷判決に示すとおり
である。そこで、これを本件についてみると、本件各写真コピーは、いずれも公務
員である税務署長等がその職務上作成すべき同税務署長等の職名及び記名押印のあ
る法人税納税証明書等を改ざんし、これを複写機で正確に複写した形式外観を有す
る写真コピーであつて、いずれもA協会からの信用保証決定を得るための添付資料
として提出され、同協会においてこれと同一内容の原本の存在を信用して異議なく
受理され原本と同一の証明力を有する文書として扱われていたものであることは明
らかであるから、本件写真コピーは改ざんにかかる原本と同様の社会的機能と信用
性を有する文書と解しても差支えない。してみると本件各写真コピーは、いずれも
原判示の税務署長等の記名押印のある有印公文書に該当し、これらを原判示の方法
で作成行使(ただし、原判示第二の変造公文書行使は、後記のとおり当裁判所判示
の方法による)した被告人の原判示第一ないし第四の各所為は、有印公文書変造・
同行使罪(ただし、原判決は、原判示第二の事実につき変造有印公文書行使の事実
摘示を欠く)、原判示第七、第八、第一二、第一四の各所為は有印公文書偽造・同
行使罪に該当するものというべきであるから、原判決には所論のような法令解釈適
用の誤は存しない。所論は、確かに聴くべき見解を展開するものではあるが、複写
技術が格段に飛躍し、証明手段として写真コピーが原本に代わるものとして一般的
に使用されている現在の社会の状況を考えれば、文書偽造の客体を原本に限るとす
る理論にも確たる根拠がないこととあいまち、最高裁判所の前記引用判例は解釈論
として十分説得力のあるものと考えられるので、当裁判所もこの判例に従うことに
した。従つて、この点の論旨も採るを得ない。
 なお、職権をもつて調査すると、原判決は、その理由「罪となるべき事実」第二
において、被告人の原判示変造法人税納税証明書及び同事業税(法人)・都民税納
税証明書の一括行使の事実の摘示がないのにかかわらず、その理由「法令の適用」
の項において、右第二の事実に変造有印公文書行使に関する刑法六〇条、一五八条
一項、一五五条二項、同条一項を適用し、原判示の一所為数法、牽連犯の罪数処理
をしたうえ、一罪として変造有印公文書行使罪(法人税納税証明書)の刑で処断
し、かつ、納税証明書写二通の各変造部分は原判示第二の変造有印公文書行使の犯
罪行為を組成した物として同法一九条一項一号、二項により没収しているから、原
判決は、理由相互間にくいちがいのあることが明らかであるから、原判決は、この
点において到底破棄を免れない。よつて、その余の控訴趣意に対する判断を省略
し、刑訴法三九七条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により被告事件につ
き更に判決する。
 当裁判所の認定した被告人に対する罪となるべき事実は、原判示第二事実中の
「事実無根の内容を記載した信用保証委託書等を提出し、」とあるのを「事実無根
の内容を記載した信用保証委託書等に、前記変造のうえいずれも複写機械にかけ原
本と同一のものとして用意していた芝税務署長作成名義の法人税納税証明書写一通
および東京都港税務事務所長作成名義の事業税(法人)・都民税納税証明書写一通
を真正なもののように装つて一括提出して行使し」と付加訂正するほか、原判決に
摘示するところと同じであるから、ここに、これを引用する。
 証拠の標目は、原判決に掲げるところと同一であるから、ここに、これを引用す
る。
 (法令の適用)
 被告人の判示各所為につき、原判決と同一の刑罰法令を適用し、同一の科刑上の
一罪の処理をし、同一の併合罪加重をした刑期の範囲内で被告人を処断すべきとこ
ろ、本件は、被告人が、主犯者たる地位にあつて、原判示の共犯者らを指示命令
し、右共犯者らと共謀のうえ、綿密な計画のもとに本件各犯行の重要な役割を分担
実行し、多数回にわたる納税証明書等関係書類の偽造、変造、その行使等によつて
ばく大な金員を騙取した事案であつて、その社会的影響が大きいなど、犯情が悪質
であること、被告人は、昭和四二年五月八日詐欺罪により懲役二年六月及び同六
月・いずれも四年間執行猶予に処せられた前科があるのに、本件各犯行の一部が右
執行猶予期間中に犯されたものであつて、被告人の刑責は重大であること、しかし
ながら、本件は、原判示のA協会の信用保証決定に至る審査についても問題がない
わけではなく、又右保証決定があると融通手形であつても安易にこれを割引してい
る金融機関の措置にもとがめられるべき点がないわけではないこと、被告人は結果
は得られなかつたとしても、病弱の身体をおして示談、弁償のため努力を払つてき
たこと、その他被告人の年齢・健康状態・反省の程度・共犯者らに対する量刑等諸
般の情状を考慮して、被告人を懲役五年に処し、原審における未決勾留日数の算入
につき刑法二一条を、没収につき同法一九条一項一号、二号、二項を、原審及び当
審における訴訟費用の負担につき刑訴法一八一条一項本文を各適用して、主文のと
おり判決する。
 (裁判長判事 谷口正孝 判事 金子仙太郎 判事 小林眞夫)
 (別紙)
 (一) 原審における訴訟費用のうち、左記証人に支給した分の全額
 証人B、同C、同D、同E、同F、同G、同H、同I
 (二) 同左記証人に支給した分の二分の一
 証人J、同K、同L、同M、同N、同O、同P、同Q、同R、同S、同T、同
U、同V、同W、同X
 (三) 当審における訴訟費用の全部

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