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平成18年9月8日判決言渡同日原本交付裁判所書記官
平成17年()第14399号職務発明対価請求事件

口頭弁論終結日平成18年6月26日
判決
徳島市<以下略>
原告甲
同訴訟代理人弁護士飯沼春樹
同児玉譲
同黒澤基弘
同竹山拓
同櫻井和子
同武内正樹
同平田啓子
同長町真一
東京都千代田区<以下略>
被告大塚製薬株式会社
同訴訟代理人弁護士松本司
同山形康郎
主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
被告は,原告に対し,金1億円及びこれに対する平成17年7月28日から
支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は,被告の有していた,テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体
とそれを含有する医薬成分に関するアメリカ合衆国(以下「米国」という。)
特許権(以下「本件特許権」という。)に係る発明について,被告の元従業員
である原告が,同発明は,被告在職中に生物系研究者として化合物の生物活性
測定等に関与した原告を含む複数の発明者による職務発明であり,原告は,発
明者の一人として,被告に特許を受ける権利(共有持分)を承継させたとして,
特許法35条3項(予備的に,被告の発明考案取扱規程11条1項)に基づい
て,その相当の対価として内金1億円及びこれに対する,本訴状送達の日の翌
日である平成17年7月28日から支払済みに至るまで年5分の割合による遅
延損害金の支払を求めたのに対し,被告が,①外国の特許を受ける権利につい
て特許法35条3項の適用はない,②原告は,本件特許権に係る発明の発明者
ではない,③被告の発明考案取扱規程に基づく実績補償金を生じさせる事情が
認められないから同補償金の請求権は発生していない,と主張して争っている
事案である。
1前提となる事実等(争いがない事実以外は証拠を末尾に記載する。)
⑴当事者
ア原告は,昭和48年9月,被告徳島工場第1研究所に技術員として入社
し,以下のような異動を経て,平成15年2月に被告を退社した,被告の
元従業員である。
昭和49年4月徳島工場第3研究室(後に徳島研究所生物研究部と
改称)研究員,研究主任(呼吸循環器Ⅱ班リーダ
ー)
昭和60年1月大阪支店開発課課長
昭和61年1月徳島研究所新薬研究1部主任研究員
昭和62年1月徳島研究所新薬研究3部部長
昭和63年1月徳島研究所応用研究部部長
平成10年4月育薬研究部血栓血管研究所所長
平成11年10月医薬第1研究所応用研究部部長
平成13年8月薬効開拓研究所兼医薬営業本部学術支援担当部長
イ被告は,医薬品,栄養製品,飲料等の製造及び販売等を業とする株式会
社である。
⑵本件特許権
本件特許権の内容及び特許請求の範囲は,以下のとおりである(以下,本
件特許権に係る特許を「本件特許」と,本件特許権の特許請求の範囲記載の
発明を「本件発明」と,それぞれいう。)が,同特許権は,平成11年(1
999年)8月29日,存続期間満了により消滅した(甲1の1,1の2,
26,乙11,12)。
本件特許権は,発明者を乙及び丙として出願された(甲1の1,1の2,
26)。
発明の名称テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体とそ
れを含有する医薬成分
特許番号米国特許第4,277,479号
出願年月日昭和54年(1979年)8月29日
(昭和53年9月1日の出願(特願昭53-10
7869)に係る優先権主張)
登録年月日昭和56年(1981年)7月7日
特許請求の範囲別紙「米国特許第4,277,479号特許請
求の範囲」記載のとおり
⑶本件発明の内容
ア本件発明は,血管拡張作用を併せ持つ抗血小板薬として開発された化合
物であるシロスタゾール(6-[4-(1-シクロヘキシルテトラゾール
-5-イル)ブトキシ]-3,4-ジヒドロカルボスチリル)を含む一群
の化合物(テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体,以下「本件誘
導体」,「本件誘導体群」ともいう。)に係る物質発明及びこれらの化合
物の特定の性質を専ら利用する物の発明(用途発明)である。
シロスタゾールは,病的血栓に対応するため,血小板凝集阻害作用・抗
血小板作用を有するものとして設計され,加えて,虚血に陥っている臓器
を救済するため,血管拡張作用,血流増加作用を有し,心臓に対する心拍
数上昇作用が少なくなるように設計されたものである。
イシロスタゾールを有効成分とする製剤は,適応症を慢性動脈閉塞症,商
品名を「プレタール」として,日本を始め,韓国,中国,タイ,インドネ
シア,フィリピン,台湾等のアジア諸国,米国等において,被告の現地法
人により販売されている(以下「本件製剤」という。)。米国では,慢性
動脈閉塞症患者を対象とした臨床試験で有効性と安全性が認められて治療
薬として承認され,1999年に販売が開始された。米国における適応
()は,慢性動脈閉塞症の一つの病態である間歇性跛行
Indication
()の症状の改善である(甲2の1,2の2)。
IntermittentClaudication
⑷本件発明に係る特許出願について
本件発明に係る最初の物質特許の出願は,昭和53年(1978年)9月
1日に行われた,後記⑸アの特許権に係る出願である。同特許権に係る発明
は,シロスタゾールを含まないが,シロスタゾールの類縁化合物に関する。
その後,この関連化合物についての研究が実施され,昭和54年(197
9年)8月25日にシロスタゾールを含む一連の化合物群の物質特許及び製
造方法の特許として後記⑸イの特許権に係る出願が行われた。
そして,米国では,上記の両特許権に係る発明は,化学的に一つの化合物
群として扱えるため,同月29日,これらを併せて(製造方法に関する特許
を除く。)本件特許の出願がされた。
⑸本件発明に係る日本における特許権
ア本件特許権の優先権主張の基礎とした出願に係る特許権
被告は,本件特許権の出願において優先権主張の基礎とした出願に係る
以下の特許権(以下「日本国特許権①」という。)を有していたが,同特
許権は,平成10年(1998年)9月1日,存続期間満了により消滅し
た(甲1の1,1の2,4)。
日本国特許権①は,発明者を乙及び丙として出願された(甲4)。
発明の名称カルボスチリル誘導体
出願番号特願昭53-107869号
出願年月日昭和53年(1978年)9月1日
出願公開番号特開昭55-35019号
出願公開年月日昭和55年(1980年)3月11日
特許番号特許第1386527号
登録年月日昭和61年(1986年)6月26日
特許請求の範囲
⑴一般式(式中,Rは低級アルキル
基またはシクロアルキル基を示す)
で表わされるカルボスチリル誘導
体。
イシロスタゾールを含む化合物群の物質特許
被告は,以下の特許権(以下「日本国特許権②」という。)を有してい
たが,同特許権は,平成11年(1999年)8月25日,存続期間満了
により消滅した(甲5,乙1,弁論の全趣旨)。
日本国特許権②は,発明者を乙及び丙として出願された(甲5)。
発明の名称テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体
出願番号特願昭54-108389号
出願年月日昭和54年(1979年)8月25日
出願公開番号特開昭56-49378号
出願公開年月日昭和56年(1981年)5月2日
特許番号特許第1471849号
登録年月日昭和63年(1988年)12月27日
特許請求の範囲別紙「特許第1471849号特許請求の範囲」
記載のとおり
⑹従業員の発明に関する被告の定め
被告は,従業員のなした発明に関し,昭和47年1月1日から施行され
た「発明考案取扱規程」(以下「被告規程」という。)(乙10)を定め
ている。被告規程には,以下の規定がある。
(工業所有権の譲渡)
第4条従業員は,前条によって届け出た発明等でそれをなすに至っ
た行為がその者の現在または過去の職務に属する場合(以下特
許法第35条の職務発明という)のものについては,それに基
づく日本国および,外国における工業所有権を受ける権利およ
び工業所有権を会社に譲渡しなければならない。
(出願補償)
第9条第7条により特許等の出願を行った場合,会社はその発明等
をなした者に対して次の補償金を支給する。
区分特許実用新案意匠
金額3,000円2,000円2,000円
第2項補償金を支給される発明等が2人以上の共同のものであると
きは,原則として補償金額はこれを各人に等分して支給するも
のとする。
(登録補償)
第10条第7条による特許等の出願が登録になった場合には,会社はそ
の発明等をなした者に対して次の補償金を支給する。
区分特許実用新案意匠
金額5,000円5,000円5,000円
第2項補償金を支給される発明等が2人以上の共同のものであると
きは,第9条第2項の規定を準用する。
(実績補償)
第11条委員会は工業所有権として登録された発明等の実施状況を調査
し,委員会が当該発明等の実施効果が顕著であって会社業績に貢
献したと認めた場合においては,その発明等をなした者に対して
補償金を支給する。(50,000円以上)
第2項補償金を支給される発明等が2人以上の共同のものであると
きは,第9条第2項の規定を準用する。
第3項第7条第2項の会社が特許等の出願を行わずかつ発明者に返
却をもしない発明等については,その実施状況を調査し,委員
会が当該発明等の実施効果が顕著であって会社業績に貢献した
と認めた場合においてはその発明等をなした者に対して第11
条第1項に準じた補償金を支給する。ただし,その発明等が工
業所有権として登録される性質を有しないものと認められた場
合はこの限りではない。
⑺特許を受ける権利の被告に対する承継
本件発明は,被告の従業者によりなされた被告の職務に属する発明であり,
この発明についての特許を受ける権利は,被告規程4条に基づいて,被告に
承継された。
2争点
⑴特許法35条3項の適用の有無(争点1)
⑵原告は,本件発明の共同発明者であるか。(争点2)
⑶本件発明に係る特許を受ける権利の対価の額(争点3)
3争点についての当事者の主張
⑴争点1(特許法35条3項の適用の有無)について
(原告の主張)
ア外国の特許を受ける権利等の譲渡についても,特許法35条3項の規定
が適用される。
イ被告は,外国の特許を受ける権利等の譲渡について,特許法35条3項
の適用はない旨主張し,その理由として,①特許法35条4項(平成16
年法律第79号による改正前のもの。以下同じ。)に基づく対価額の算定
方法は,職務発明に関する特許権について使用者等が無償の法定通常実施
権を取得する制度の存しない国においての承継対価額の算定には妥当しな
いこと,②対価請求権を認める同条3項は,強行規定と解されているとこ
ろ,これを外国の特許を受ける権利の承継対価に適用することは,対価請
求権に関する規定が強行規定とはされていない外国特許法(特に米国にお
いては,対価額は当事者間の譲渡契約で定められた額とされている。)に
おける従業者等の保護内容以上の保護を与えることになること,③従業員
発明者の保護に偏すると我が国の産業発達への寄与の目的を果たし得ない
こと,④特許法33条及び34条にいう「特許を受ける権利」は,日本の
特許を受ける権利を意味するところ,35条3項における「特許を受ける
権利」についてのみ外国の特許を受ける権利を含むと解釈することはでき
ないこと,⑤平成16年法律第79号による特許法35条の改正の立法過
程において,職務発明の補償金算定において外国の特許から得られる利益
をも考慮することを肯定する見解はとられていないこと,を述べる。
しかしながら,被告の上記主張は,以下のとおり失当である。
()上記①の主張について

外国の特許を受ける権利の承継について特許法35条4項を適用する
とした場合でも,考慮すべき「使用者等が受けるべき利益の額」は,各
国の特許制度の下において使用者等が受けるべき利益を算出すべきなの
であって,同項の適用が,法定通常実施権の取得を前提として算出する
ことまでも強制するものではないから,同項の適用を否定する理由とは
ならない。
()上記②の主張について

特許法35条4項は,従業者と使用者間の雇用契約上の利害関係の調
整を図り,発明を奨励するとの趣旨に基づく規定であるところ,職務発
明の承継対価は,使用者と従業者とが属する国の産業政策に基づき決定
された法律により一元的に決定されるべき事柄と考えられるから,外国
の特許を受ける権利の承継対価についても一律に同項が適用されるべき
である。このような趣旨に基づく以上,その結果,諸外国の特許法の定
める保護内容以上の保護が従業者に与えられることになったとしても何
ら不合理ではない。
()上記③の主張について

特許法35条は,使用者と従業者との利害関係を適切に調整すること
を趣旨とし,現実に適切な調整基準として機能している以上,譲渡の対
象が日本の特許を受ける権利か外国の特許を受ける権利かによって適用
の有無が左右されるべき理由はない。これによって,従業者の保護に偏
することになるものではない。
()上記④の主張について

特許法35条は,使用者と従業者との雇用関係における利害関係を調
整しながら特許法1条の定める目的を達成することを趣旨とする,労働
法規としての性格をも有する規定である。したがって,このような労働
法規としての性格から,同条3項の「特許を受ける権利」について,外
国の特許を受ける権利を含む意味であると解することは当然であり,他
の規定と同様に解すべき理由はない。
()上記⑤の主張について

被告の主張は,産業構造審議会知的財産政策部会特許制度小委員会報
告書「職務発明制度の在り方について」(案)(乙9)に基づくもので
あると思われるが,同報告書は,外国における権利の承継の対価に関す
る法の適用関係について見解が一致していないことを前提に,外国にお
ける権利について特許法35条の適用範囲とする旨の規定をおいても必
ず同条が適用されるとは限らない,適用される場合であっても,発明や
特許権といった概念が各国において異なるなどの立法上・運用上の問題
を解消することはできない,などの理由から,同条に外国における権利
について同条を適用範囲とする旨を明示する規定を置くことを見送るべ
きとの意見を示したにすぎず,同条が外国の特許を受ける権利の承継の
場合に適用されることを否定したものではない。
(被告の反論)
特許法35条は,日本の特許権(特許を受ける権利)を適用対象としてい
るのであって,以下のとおり,日本の特許権とは内容の異なる外国特許権に
適用することは,その前提を欠く。
ア特許法35条4項は,職務発明の対価額の算定に際しての考慮要素の一
つとして「その発明により使用者等が受けるべき利益の額」を挙げている
が,この「使用者等が受けるべき利益」とは,同条1項において,使用者
等が従業者等の職務発明に関する特許権について無償の法定通常実施権を
有することから,当該実施権を除く,独占権の発現により使用者等が受け
ると想定される利益と解されている。
この解釈に基づく対価額の算定方法は,日本特許権には妥当しても,使
用者等が無償の通常実施権を得るという制度には,必ずしもなっていない
外国特許権の対価額算定には妥当しない。
イ特許法35条3項の対価請求権は,強行規定と解され,また,勤務規則
等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合
においても,これによる対価の額が同条4項の規定に従って定められる対
価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相
当する対価の支払を求めることができると解されている。
すなわち,使用者等の定めた勤務規則の定め,あるいは,使用者等と従
業者等との合意に基づく対価額は,同条4項の対価額算定の考慮要素とは
されていない。
これに対して,外国特許法においては,必ずしも対価請求権は強行規定
とされているとは限らず,また,特に米国においては,対価額は当事者間
の譲渡契約で定められた額とされているのである。
この職務発明に係る外国特許権(特許を受ける権利)の承継対価につき,
日本特許権(特許を受ける権利)を前提に,対価請求権を強行規定とし,
当事者間で定めた対価額は考慮要素としないとする同条を適用することは,
外国特許法での従業者等の保護内容以上の保護を日本特許法で与えること
になる。
ウ外国特許権について特許法35条の適用を認める立場は,発明を奨励す
るという同法1条の目的の達成のために従業員発明者を保護すべきである
との前提で,従業員発明者がいずれの国においても保護を受けられない事
態が生じることを回避するというものであるが,従業員発明者の保護に偏
する場合は,発明の母体たる使用者企業の経営を圧迫し,発明に対する投
資へのインセンティブを減退させることにもなり,特許法の究極の目的で
ある,我が国の産業の発達に寄与することにはならないから,相当ではな
い。
エ特許法33条及び34条に規定される「特許を受ける権利」とは,日本
の特許を受ける権利のみを意味するが,同法35条3項における「特許を
受ける権利」についてのみ外国の特許を受ける権利をも含むと解釈するこ
とはできない。
オそもそも,職務発明の補償金の算定において外国の特許から得られる利
益をも考慮するか否かは,我が国の産業政策ないし立法論の問題であるが,
平成16年法律第79号による特許法35条の改正の立法過程においては,
少なくともこれを肯定する見解はとられていない。
⑵争点2(原告は,本件発明の共同発明者であるか。)について
(原告の主張)
ア医薬品の物質発明の場合の合成系研究者及び生物系研究者の協働関係
医薬品の物質発明,すなわち創薬は,一般に,①疾患の選択,②薬物標
的の選択,③バイオアッセイの確立,④リード化合物の発見,⑤構造活性
相関の検証,⑥薬理活性の基本骨格の同定,⑦標的との相互作用の向上,
⑧薬力学的特性の向上,⑨薬物の特許取得という経過をたどる。
④のリード化合物とは,目標とする薬理活性を有しているが,その強さ
が弱い,物性が悪いなどの医薬品として具備すべき条件を充たしていない
化合物のことであり,「出発化合物」とも称され,薬物開発の出発点とな
るものである。
また,⑤の構造活性相関の検証は,一般的には「スクリーニングテス
ト」と呼ばれているものと表裏一体のものである。すなわち,目標とする
活性を持った化合物(リード化合物)の構造が決定されると,医薬化学者
は,リード化合物に修飾を施し,その化合物の構造活性相関の研究を開始
する。その研究の目的は,当該化合物(分子)のどの部分が,生物学的活
性に重要なのか(目的医薬品の働きを高めることができるか)又はそうで
ないのかを明らかにすることである。このような目的達成のため,もとの
分子の構造を少しだけ変えた一連の化合物を合成し(合成系研究),動物
や細胞等を用いてその生物活性を検証していく(生物系研究)のである。
具体的には,合成系研究者において構造を少しだけ変えた化合物を合成し
た後,生物系研究者において動物や細胞等を用いてそれらの生物学的性質
を検討し,目的とする活性の有無・強弱によりふるい分けをし,その後,
合成系研究者が,合成した化合物の構造を更に変化させた化合物を合成し,
生物系研究者が,同じように生物学的性質によってふるい分けを行い,目
的化合物に一歩ずつ近づく。このような過程を何度も繰り返すことによっ
て,目的とする性質を持つ化合物,すなわち,医薬品の候補化合物にたど
り着くのである。
このように,医薬品の発明に至るには,合成系と生物系の高い専門性を
持った共同研究が必要不可欠である。
イ本件物質発明の成立過程
()原告の主体的な関与

本件発明に至る発端は,被告が開発中であったカルテオロールに抗血
小板作用があることを原告が発見したことにあった。そこで,薬物標的
を血小板とし,疾患を動脈血栓症に規定し,血小板凝集測定というバイ
オアッセイを確立して創薬研究に突入した。このバイオアッセイである
血小板凝集測定の方法は,当時,一般的ではなかったもので,これを用
いたスクリーニングの方法は原告が確立したものである。
そして,カルボスチリル骨格を用いて誘導体をデザインし,合成し,
血小板凝集阻害作用のスクリーニングに供した。それを繰り返してリー
ド化合物の前段階のシード化合物に至り,さらに,リード化合物にたど
り着き,生体内でも効くシロスタミドに至ったものである。ところが,
シロスタミドが薬物として好ましくないという生物情報(心拍数の上昇
作用等)が得られたことから,抗血小板作用に加えて血管拡張作用を持
たせるようにコンセプトを再考し,心拍数を上昇させないことをバイオ
アッセイしながら合成を進め,構造活性相関を研究して,抗血小板作用
及び血管拡張作用を有するシロスタゾールに至った。原告は,脳血流増
加作用,血小板凝集阻害作用及び心拍数増加指標という3要件の関係を
明解に表した「代表的化合物のスクリーニング結果」の図を編み出して,
これらの目標を達成する化合物の選択という困難な課題の解決に貢献し
た。
()本件発明におけるスクリーニングの実態

a本件発明に至る過程で研究者が作成した月報では,合成系研究者が
作成する月報(以下「合成部門月報」という。)(乙6の1~6の5
3)において,スクリーニングを意味する「検索」という用語と生物
実験の結果が継続的に記載されており,合成系研究者と生物系研究者
とが,頻繁に情報をやりとりして,共通の課題である医薬品創製,す
なわち,スクリーニングに取り組んでいたことが示されている。
他方,生物系研究者が作成する月報(以下「生物部門月報」とい
う。)(乙7の1~7の52)においても,「側鎖の2重結合は効力
にあまり影響を与えないが,側鎖のつく位置は重要でのよ
OPC-3399
うに5位にしたものでは明らかに効力が弱くなっている。骨格はオキ
シインドール骨格では効力が弱い。」(乙7の9),「血小板凝集抑
制における作用は直鎖型が強いと思われた。」(乙7の12),「側
鎖にテトラゾールを持つ化合物の中で,抑制効果が強かったのは,
,であった。またの側鎖を5,6,7,
OPC-3988OPC-3971OPC-3971
8位と換えたものは6位についたが最も強く,次いで7位
OPC-3971
ので,5,8位の,はほとんど抑制効
OPC-3953OPC-3996OPC-3997
果を示さなかった。また今回のスクリーニングの中でカルボスチリル
以外の骨格を有する化合物はほとんど抑制効果を示さなかった。」
(乙7の51の1)と記載され,構造上の方向性の示唆や,構造と活
性の相関についての考察を行っている。
このように上記月報には,生物系研究者が重大な構造上の方向性示
唆を行い,また,構造と活性について考察を加えながら一連のスクリ
ーニングを行っていたことが示されているから,これらのスクリーニ
ングが,本件発明において必須であり,重要な役割を担っていたとい
うことができる。
bそもそも,スクリーニングとは,無数の化合物の中から目的とする
1個又は数個の医薬品候補化合物を選択する作業であり,実際には,
構造を比較できる対としてサンプリングされた化合物について生物活
性を測定し,活性の弱い方をふるい落とし,残った化合物について構
造要素が異なる次の対を合成,比較し,弱いものをふるい落とす,と
いうように,筋道立てて合成と活性比較を繰り返していく手法により
行われるものである。実際には,活性比較について明確に強弱判定す
ることができない場合も多く,その場合,より多くの構造比較が必要
となる。すなわち,優良な生物活性測定系がなければ,一連のスクリ
ーニングに供さなければならない合成個数は増加の一途をたどるので
あり,迅速かつ正確な生物活性測定がスクリーニングの生命線なので
ある。
ここで,公知の方法を用いてスクリーニングを行うのは通常のこと
ではあるが,当該公知の方法が,個別の目標に即した測定方法ではな
い場合,当該方法をそのまま用いた実験を何度繰り返しても化合物を
合理的に選択することはできず,何らの成果も果たし得ない。
原告は,被告が公知の方法として主張する丁による実験の方法につ
いて,その問題点を認識し,①使用する専用試験管及び攪拌子のサイ
ズを統一することにより血液が攪拌される速度を一定化し,②被検サ
ンプルと対照とするサンプルとを常に時間的に「対」として実験を行
うことにより,血小板の凝集活性が時間とともに変動するという問題
を解決した。また,当時まだ珍しかったシリコンを調査購入し,使用
するガラス器具の表面処理等の施策により血小板の活性変化そのもの
を最小限に抑えるなどの方策も施した。さらに,原告は,③多くの化
合物を効率よくスクリーニングするため,同時に複数のテストが可能
となるような測定機械の改良と,1回の測定に要する血液量を減らす
ための改良を機械メーカーに特注し,また,④血小板は凝集と放出と
いう2つの主要機能を持つところ,ヒトではなくウサギの血小板を用
いれば,凝集を計るだけで当該2つの機能に対する評価が可能なこと
を発見し,ウサギ血小板をスクリーニング系に採用したのである。
()被告の主張に対する反論

aカルテオロールに抗血小板作用があることを発見したのは丁である
との主張について
被告は,被告による特許出願(特開昭50-82218号(特願昭
48-125930号),出願日昭和48年11月10日,発明の名
称「血栓症の予防および治療剤」)(甲10)(以下「甲10出願」
という。)の明細書に記載された実験(以下「甲10実験」とい
う。)の結果を示し,カルテオロールの抗血小板作用を発見したのは
原告ではなく,丁である旨主張する。
しかし,上記実験結果は,カルテオロールがシロスタゾールの10
00倍ないし100万倍もの凝集阻害作用を持ち,投与量を増やすと
作用が弱くなるという不自然な結果を示すなど,科学的に看過できな
い全く誤ったものであり,再現性を欠くという,科学的に意味のない
誤った実験結果であった。
原告は,上記実験結果に再現性がないことを見いだし,独自に創意
工夫を施した実験方法による実験を行ったことにより,初めて,抗血
小板作用を実証したのである。
また,原告が被告に入社した昭和48年9月は,カルテオロールの
化合物群の創製後であり,本件発明の対象である本件誘導体群の研究
開始時期である昭和49年の直前であるが,被告における血小板研究
は,原告入社後に原告が中心となって行ったものであり,甲10出願
の明細書に記載されたデータは,原告が行った初期実験のデータで
あって,原告がカルテオロールの抗血小板作用の発見者であるとして
も,何らの不自然さはない。
b血管及び血小板を薬物標的にすることは明らかになっていたとの主
張について
被告は,甲10出願の出願時点で,同出願に係る書類に示されてい
るように,血管及び血小板を薬物標的にすることは明確に分かってい
たのであり,この標的の選択に際しての原告の貢献はない旨主張する。
しかし,血管を標的としたのは,シロスタミドから更に展開を図っ
た時期,すなわち,シロスタミドに心拍数の上昇作用等の情報が得ら
れ,血管拡張作用を持たせるようにコンセプトを再考した時期以降で
ある。血小板についての研究も,当初,緒に付いたばかりで,明確に
薬物標的とするほど一般化してはいなかった。
なお,甲10実験の結果は,上記aのとおり,科学的に何らの意味
のないものであるから,甲10の記載によって,薬物標的が既に明確
になっていたということはできない。
cバイオアッセイの確立は公知の測定方法が使用されたにすぎないと
の主張について
被告は,本件発明の過程で採用された測定方法は,既に,甲10実
験において採用された公知の方法である,社製のアグリゴ
BRYSTON
AggregometerBorn,G.V.R.,Nature,194,
メーター()による比濁法[
()および()]のうちの
927-9291962O'Brien,J.Clin.Path.,15,452-4551962
前者の方法(以下「ボーンの方法」という。)が用いられたにすぎな
い旨主張する。
しかし,ボーンの方法では,超遠心分離器という本件発明に関わる
実験とは全く関係のない器械に使われる試験管を流用し,汎用の光学
強度測定器により血小板凝集を測定しているところ,光学強度の測定
は,連続的にではなく30秒間隔で手作業で読取り及び記載を繰り返
し,後にグラフ用紙に記入されるというものである。ここでは,30
秒間隔の測定ごとに多血小板血漿の攪拌(凝集惹起には攪拌が必須で
ある。)を停止させているが,活性変化の激しい血小板について,3
0秒に1回攪拌を停止することは,正確な活性評価に致命傷となるも
のである。そして,30秒間隔で攪拌の開始及び停止を繰り返し,メ
ーターを手作業で読み取る作業は,極めて煩雑である上に,1回の測
定に3の多血小板血漿を使用しており,多数回の測定は困難であ
ml
る。このように,被告が指摘する公知の方法は,正確な活性比較から
はほど遠い方法である。
したがって,本件発明は,原告によるスクリーニング系の構築が
あって初めてなし得たものである。
d本件発明における合成は慣用技術ともいえる生物学的等価性の知見
に基づきされたとの主張について
被告は,本件発明において重要な過程であった,テトラゾール基の
導入合成も,医薬化合物の合成系研究者においては慣用技術ともいえ
る生物学的等価性()の知見に基づきなされたものであ
bioisosterism
り,原告が関与し,寄与する余地はない旨主張する。
しかし,テトラゾール基導入後のスクリーニングも,原告の技術的
思想の創作による独自の測定方法をもって実施していること,テトラ
ゾール基導入後の化合物構造変換には,アミド体をスクリーニングす
る過程で得られた構造と生物活性の相関情報を必須情報として利用し
たことからすれば,テトラゾール基導入後における構造活性相関情報
も,乙と原告とが主となり構築したものであることは明らかであり,
テトラゾール基導入が慣用技術の知見に基づくことは,原告の発明者
性を否定する論拠となるものではない。
ウ他の特許の発明者との整合性
被告は,特許第2964029号の特許権を有している(甲12,以下
「甲12特許」という。)ところ,この特許に係る発明と本件物質発明の
過程はほとんど同じであるにもかかわらず,この特許では原告が共同発明
者として記載されている。
また,被告が出願登録している他の特許についてみると,医薬品に関わ
る物質特許と考えられるものについては,平成元年を境に,生物系研究者
が発明者として加えられるようになっており,被告の発明者に対する考え
方に関する変貌が明らかである。
エ共同発明者である丙及び乙の認識
本件発明の合成系研究責任者である丙は,著書(「創薬:十六年間
()の軌跡」(甲11)において,「合成分野では乙が中心に
なり,と実に精力的に誘導体の合成を行うとともに,
estertype,amidetype
1-位置換基がのになり得るのではと考え始めて
tetrazoleesterbioisoster
実証しての創製に結びつけた。…薬理生化学分野では甲が中心
Cilostazol
となり,開発の方向を模索しながらスクリーニングを行い抗血小板剤とし
て仕上げた。他に最初に手掛けたのが丁であり,戊が協力した。乙と甲の
コンビが多くの壁を乗り越えて目的を成就したのであった。」(53頁2
~9行)と記載しており,原告が医薬品としての方向を見据えつつスクリ
ーニングを継続実施したことにより本件発明を完成させ,さらに,開発の
方向も決定したことが示されている。
また,乙は,本件発明における原告の貢献として,「私が抗血小板剤
(血小板凝集阻害剤)の合成を始めた時(昭和49年),甲から『血小板
凝集阻害作用を,以前はうまく測定できなかったが,改良して再現性のあ
る良い試験法が確立できた』との報告を受けました。事実それ以降,合成
した化合物の信頼性のある生物活性(血小板凝集阻害作用)データにより
得られた構造活性相関をドラッグデザインに生かし,最終的にシロスタゾ
ールに到達することができ,またシロスタゾールを含む物質特許を昭和5
4年に出願することができました。…これには,上述しましたように,創
薬(医薬品の発明)には信頼性のある薬効評価法の確立と継続的実施が必
須であり,シロスタゾールの創製においても,甲が行いました信頼性のあ
る血小板凝集試験法の確立(改良)と,その方法を用いてのスクリーニン
グの実施が大きな貢献をいたしました。」と述べ,さらに,特許出願書の
作成においても,原告の関与なしには生物系部分の記載をなし得なかった
ことを記載して,「甲が共同発明者であることは明らか」であると結論付
けている(甲14)。
オ原告が被告社内外で表彰等を受けていること
原告は,平成元年(1989年)6月29日,被告において,「第25
期社長賞」を受賞している。表彰理由は,「血小板凝集抑制作用の生化学
的な解明につとめ,抗血小板薬プレタールの特性を発見,新たな医療への
可能性を見いだしたことを認め,当該知見は,学問的に評価されるのみな
らず,被告研究所の活性化にも大いに貢献した」というものであった(甲
15)。
さらに,原告は,平成12年(2000年)3月28日,乙及び丙とと
もに,財団法人日本薬学会の「平成12年度技術賞」(現在の創薬科学
賞)を受賞し,抗血小板剤シロスタゾールの研究開発に関し,特に独創性
に優れた医療に大きく貢献した学術応用上の成果を称えられた(甲16)。
カ原告が,シロスタゾールを含む化合物群の物質に関する学術論文等を著
作していること
一般に,医薬品の科学論文は,特許防衛後に,その内容を含めて科学界
に発表するのが通例であり,発表に際しては,実際の研究実施者は漏れな
く記載することが,科学界の不文律であるところ,シロスタゾールを含む
ChemicalandPharmaceutical
化合物群の物質特許の内容を含む論文は,
に投稿されており,それには原告名が明記されている(甲17の
Bulletin
1)。
キ小括
以上から,本件物質発明に至る過程において,生物活性測定すなわちス
クリーニングを担当した原告は,単なる補助者ではなく,発明者の一人で
ある。
(被告の反論)
ア原告の主張についての認否
()原告の主張アは,それに沿う記載のある文献(甲6)があることは

認めるが,同文献は,平成13年(2001年)3月31日初版発行の
ものであり,本件発明当時(昭和54年)の方法とは必ずしも一致する
ものではなく,本件における創製過程とも異なる。
()原告の主張イ()は否認する。カルテオロールに抗血小板作用があ
イア
ることを発見したのは,丁であり,これにより甲10出願が行われた。
また,薬物標的の選択,バイオアッセイ(テスト系の選択)は,公知の
方法が用いられたものである。原告は,発明者が合成した化合物の薬効
薬理を公知の測定方法で測定し,その結果を発明者に報告する作業をし
たにすぎない。
原告の主張イ()は争う。

()原告の主張ウのうち,原告が甲12特許の発明者の一人であること

は認め,その余の主張は争う。
甲12特許は,化合物群の創製(合成)の発明であるところ,原告は,
同化合物群の創製には関与していたので発明者とされたのであり,他方,
本件発明は,本件誘導体群の創製(合成)に関するものであり,原告の
関与がなかったので発明者とされなかったにすぎない。
原告は,本件誘導体群の創製(合成),すなわち,物質発明の完成と,
完成された本件誘導体群の中から,製薬として製造承認を受ける化合物
(以下「開発化合物」といい,開発化合物につき製造承認を受けるため
の動物実験,臨床試験等のデータ等の採取活動を「開発活動」とい
う。)を決定するための選別,さらには開発化合物の薬理機序ないし作
用機序の研究とを区別せずに主張している。
本件に即していえば,カルボスチリル誘導体の創製(本件誘導体群の
創製)により物質発明である本件発明が完成し,この本件誘導体群の中
から,シロスタゾールが開発化合物に決定(スクリーニング)されたの
である。
原告は,本件発明完成前では,合成部の丙及び乙が合成した化合物の
薬理データを報告するだけで,化合物の構造決定(ドラッグデザイン)
に係る提案,示唆などは一切していない。原告が本件製剤に貢献したの
は,主としてシロスタゾールの薬理機序,作用機序を研究したことであ
る。
これに対して,甲12特許に係る発明の場合は,原告が,本件誘導体
群とは構造が異なるカルボスチリル誘導体の構造の決定(ドラッグデザ
イン)に関与したことから発明者となっているのである。すなわち,原
告は,既に,本件誘導体の用途発明(特許第2548491号,出願日
平成4年7月10日,発明の名称「内膜肥厚の予防,治療薬」)(乙
8)を完成しており,この用途発明は,本件誘導体の薬理効果により発
明となるものであるから,原告が発明者の一人となったのである。そし
て,原告は,上記用途発明に連続する研究成果により,上記本件誘導体
群とは構造が異なるカルボスチリル誘導体の構造決定に関与したことか
ら甲12特許の発明者とされているのである。
()原告の主張エのうち,甲11及び甲14に,引用された記載がある

ことは認め,その余は争う。原告が引用する記載には,乙が中心となっ
て本件誘導体群を創製したこと,これに対して,原告は,開発活動とし
て,本件発明完成後に,本件誘導体群の中からシロスタゾールを開発化
合物に選定(スクリーニング)するなどの貢献をしたことが示されてい
る。
()原告の主張オのうち,原告が記載された受賞等をしていることは認

めるが,表彰内容は,いずれも,シロスタゾール自体の合成ではなく,
その合成後に,血小板凝集抑制作用の生化学的な解明,すなわち,薬効
の作用機序の研究により,その特性の発見に貢献したことにある。
()原告の主張カのうち,原告が記載された論文の著者の一人であるこ

とは認めるが,それによって,本件発明の発明者であることにはならな
い。
イ本件発明における発明者及び原告の関与
()発明者概念

発明者とは,当該発明の創作行為に現実に加担した者を指し,単なる
補助者は発明者ではない。発明は技術的思想の創作であるから,思想の
創作自体に関係しない者,例えば,研究者の指示に従い,単にデータを
まとめた者又は実験を行った者は単なる補助者であって,発明者ではな
い。
原告は,合成部の合成した化合物の薬理データを公知の測定方法によ
り測定し,その結果を丙及び乙に報告しただけであるから,単なる補助
者であって,共同発明者とはいえない。すなわち,本件発明は,本件誘
導体群を内容とする物質発明であるところ,物質発明における発明者と
は,当該物質の構造の決定(ドラッグデザイン)に加担した者でなけれ
ばならない。しかし,原告は,これには加担せず,その後の化合物群,
特に,開発化合物として選定されたシロスタゾールの薬理機序,作用機
序の研究について成果を上げた者であるから,本件発明の共同発明者で
はない。
()本件特許と日本国特許権①及び②

日本国特許権①の化合物群にはシロスタゾールは含まれておらず,シ
ロスタゾールが発明対象である化合物群の一つに掲げられたのは,日本
国特許権②の出願が最初である。
本件特許の出願は,日本国特許権①の特許請求の範囲記載の発明に,
日本国特許権②の出願を加味して行われたが,日本国特許権②及び本件
特許の出願時には,シロスタゾールの薬理試験は完了していなかったた
め,その薬理効果は日本国特許権②の出願明細書,あるいは,本件特許
の公報に記載されていない。
()本件発明をめぐる経緯

a時系列
本件発明をめぐる経緯について時系列で記載すると,以下のとおり
である。
昭和47年1月カルテオロールの合成
4月13日カルテオロールを含む化合物群の製造法の
特許出願
昭和48年9月原告が被告に入社
11月10日カルテオロールの抗血小板作用に基づく
「血栓症の予防および治療剤」の特許出願
昭和49年抗血小板剤の合成研究開始
昭和50年以降エステル体からアミド体の合成及びその特
許出願
昭和52年3月シロスタミド()の合成
OPC-3689
6月10日アミド体の特許出願
昭和53年6月テトラゾール誘導体の合成
9月1日本件特許の優先権主張となった日本出願
(日本国特許権①に係る出願)(特開昭5
5-35019号)
昭和54年7月シロスタゾール()の合成
OPC-13013
8月25日日本国特許権②に係る出願
8月29日本件特許出願
昭和55年10月シロスタゾールを開発化合物に選定
11月6日日本国特許権②に係る出願の手続補正書提
出(シロスタゾールの記載追加)
昭和56年7月7日本件特許の登録
昭和58年12月6日日本国特許権②に係る出願の手続補正書提
出(シロスタゾールを実施態様項に掲げ
る)
昭和61年1月本件製剤の製造承認申請
昭和63年1月本件製剤の製造承認
平成元年6月29日原告が被告社長賞を受賞
平成4年7月10日原告を発明者の一人とする本件誘導体の用
途発明についての特許権(特許第2548
491号)に係る出願
平成7年10月5日甲12特許の出願
平成11年1月15日本件製剤の米国内製造販売承認
平成11年8月29日本件特許の存続期間満了
bカルテオロールの合成
⒜被告は,昭和47年(1972年)1月,β-(交感神
Blocker
経遮断薬のうち,交感神経のβ受容体の興奮によって現れる作用
(β効果)を遮断する薬物)であるカルテオロールを合成していた。
カルテオロールは,狭心症,心臓神経症等を適応症とする製剤ミケ
ランの有効成分であり,カルテオロールを含む一群の化合物の製造
法の特許は,昭和47年4月13日に出願され(乙2の1),昭和
51年11月18日に登録された。
この構造がカルボスチリル骨格
であり,この骨格の5位の位置に
「側鎖」が結合されているのがカ
ルテオロールであり,6位の位置
に側鎖が結合されているのがシロ
スタゾールである。
⒝丁によるカルテオロールの抗血小板作用の発見
昭和48年ころ,被告の徳島研究所生物研究部課長待遇であった
丁は,カルテオロールに,血小板凝集阻害作用(抗血小板作用)が
あることを発見した。この知見に基づき,被告は,同年11月10
日,発明者を丁として,甲10出願を行った。
甲10には,以下の記載があるが,と略された化合物がカ
OPC
ルテオロールであり,丁が上記発見をしたことが示されている。
「本発明者は血栓の治療および予防に有効な薬剤について種々検
索した結果,前記(原文では「前起」となっている。)構造式で
示される5-(ヒドロキシ-3-t-ブチルアミノ)プロポキシ
-3,4-ジヒドロカルボスチリル(以下「」と称す)が低
OPC
濃度で特異的に血小板の凝集を阻止することを発見した。この
の化合物について更に研究を行つた結果,この化合物を人
OPC
を含めた動物に経口または静脈内投与した場合に血栓の予防およ
び治療に有効であることを見出した。」(2枚目右上欄12行~
左下欄1行)
この点について,原告は,甲10に示された実験結果は,カルテ
オロールがシロスタゾールの1000倍ないし100万倍もの血小
板凝集阻害作用を有するという誤ったものであり,科学的に意味が
ない旨主張する。
しかしながら,誤った実験結果の記載であっても,カルテオロー
ルに抗血小板作用(血小板凝集阻害作用)があることを見いだした
のは,丁であり,この丁の知見に基づき,本件誘導体の創製研究が
開始された。このことは,甲10出願が昭和48年11月10日で
あるのに対し,本件誘導体群の研究開始が昭和49年であること,
丙の著書「創薬」(甲11)に,「に,β-遮断作用以外
Carteolol
に弱いながらも血小板凝集抑制作用のあることが,その開発過程で
明らかにされた。この血小板凝集抑制作用に興味を持った。最初は
どの分野の治療薬へ導くのが最適であるのか深く考えないまま,丁
度抗炎症剤の合成研究が行われていたので,そのスクリーニング系
を利用することにして,血小板凝集抑制作用を有する抗炎症剤の創
製を目指してとりあえずスタートした。」(34頁1行~6行)及
び「他に最初に手掛けたのが丁であり,戊が協力した。」(53頁
8行)との記載があることから,裏付けられるものである。
また,カルテオロールの化合物群の創製後であり,本件誘導体の
研究開始時期である昭和49年の直前である,昭和48年9月に入
社した原告が,カルテオロールの抗血小板作用があることを最初に
見いだした者とは到底いえない。
⒞薬物標的の選択が行われていたこと
甲10には,以下のような記載があり,薬物標的が明確になって
いることが記載されている。
「しかしながら,循環系疾患の中でも虚血性疾患,動脈硬化症お
よび脳血栓症については有効かつ信頼性のある治療薬剤および治
療手段はいまだに確立されていない。…血栓は,血管内を流れる
血液が固化したものである。そしてこれが形成される機転および
それにより生じる病態を血栓症と称している。血栓は血小板が
『ひきがね』となり,血管損傷部の補強および連続性出血の防止
に役立つ反面,血管内腔を閉塞させてしまい,あるいは血流によ
つて他の部位に運ばれ,臓器,体肢等の血管を閉塞させ,塞栓閉
塞を起すという面をもつている。従つて心臓,肺,脳等の主要臓
器に血栓が形成された場合は重篤な症状を呈する。即ち,脳血栓
(塞栓),心筋梗塞(原文では「硬塞」となっている。),肺梗
塞(原文では「硬塞」となっている。)として知られるものであ
る。…血管壁の性状が変化し,二次的に血栓が形成かつ伸展され
易い(松岡聰三:出血性素因と血栓症)。血栓形成の成因として
①血液の性状の変化,②血流の変化,および③血管壁の変化の3
つがあげられる。…ここで血小板が『ひきがね』として働き正常
な流血中では血小板凝集と解離,凝固と線溶がダイナミツク・バ
ランスを保つているのであるが,ストレス,病的状態によつてこ
のバランスがくずれると血栓が起る。」(1枚目右欄5行~2枚
目右上欄3行)
この点,原告は,シロスタミドの問題点が判明して,研究のコン
セプトの再考がされた際に薬物標的の変更が行われたものであり,
その際の原告の関与を主張するが,乙,原告及び丙による「抗血小
板剤シロスタゾールの研究開発」(甲8)において,「この時点ま
での目標は血栓形成に関与する血小板のみに作用する薬剤であった
が,虚血性疾患である血栓症の臨床での治療効果を考えた場合,抗
血小板作用に虚血部の血流増加作用(血管拡張作用)を付加すれば,
臨床での症状改善をも期待できると考え,『血管拡張作用のある抗
血小板剤』をめざすこととした。対象疾患(臓器)は脳梗塞(脳),
心筋梗塞(心臓)及び慢性動脈閉塞症(四肢)が考えられたが,医
療ニーズの一番高い脳梗塞を選択した。したがって,抗血小板作用
と脳血流増加作用(脳血管拡張作用)の両作用を有する化合物を目
標に,スクリーニングは脳血流増加作用を追加した以下の系で行っ
た。」(1251頁左欄31行~右欄4行)と説明されているよう
に,創製する化合物の目標(コンセプト)の変更に伴って,薬物標
的も血小板から,血小板及び血管とされただけである。
⒟測定方法が公知のものとなっていたこと
甲10出願の明細書には,薬理試験として,「測定法は
社製のアグリゴメーター()による比濁法
BRYSTONAggregometer
Born,G.V.R.,Nature,194,927-9291962O'Brien,J.Clin.Path.,
[()および
()]に従った。」(2枚目右下欄3~7行)と記載
15,452-4551962
されているが,この前者の測定方法(ボーンの方法)は,日本国特
許権②における「血小板凝集抑制作用」〔薬理試験1〕の測定方法
(乙1,13枚目右下欄(50欄)17~19行)と同じものであ
り,測定方法が公知のものとなっていたことが示されている。
cエステル体とアミド体の合成
カルテオロールの合成後,カルテオロールの側鎖を,種々の基に置
換することにより,抗血小板作用を有する化合物の合成を目的とする
研究が,被告の当時の徳島研究所合成研究部において,丙及び乙によ
り開始された。
まず,カルボスチリル骨格の6位の側鎖をエステル体とする一群の
in
化合物を合成したが,該化合物群は,「目標の活性に到達したが,
ではエステラーゼによりカルボン酸()に代謝され不活性となっ
vivo26
た。したがってこれをリード化合物として経口投与()で活性
invivo
を示す化合物の探索研究を続け,アミド誘導体(A)を見出すことが
できた」(甲8,1248頁左欄下から4行~右欄2行)とされてい
るように,アミド体へと研究の対象が移っていった。
このアミド体の一つの化合物であるシロスタミド()は
cilostamide
「強い血小板凝集阻害活性とマウス肺塞栓モデル(経口投与)で抗血
栓作用を示し,目標の生物活性に達していたが,イヌ(経口投与)で
の心拍増加作用が強く開発を断念せざるを得なかった」(甲8,12
50頁左欄7~11行)ものである。
dテトラゾール誘導体の合成
⒜被告においては,昭和53年6月ころから,シロスタミドに代わ
る次の候補として,テトラゾール誘導体(1位置換テトラゾール誘
導体,正確には,テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体)
の創製研究が始められた。
その結果創製(合成)された一群の誘導体(ただし,シロスタゾ
ールは含まれていない。)を対象として,昭和53年(1978
年)9月1日に,本件特許権の優先権主張の基礎となる日本国特許
権①の出願が行われた。
⒝その後,昭和54年7月にシロスタゾール()の合成
OPC-13013
が行われた。また,それまでに創製した化合物群の一部についての
薬理効果の確認が行われており,それを踏まえて,被告は,日本国
特許権②(乙1)の出願,日本国特許権①の出願に日本国特許権②
の出願の内容を加味して,本件特許の出願を行った(したがって,
本件特許出願の化合物群にはシロスタゾールが含まれている。)。
⒞ただし,日本国特許権②及び本件特許の出願時点では,製造承認
申請する開発化合物の選定,すなわちスクリーニングが終了してい
なかったため,出願明細書の特許請求の範囲では一般式で示される
化合物群が記載されている。
そして,これら化合物群の薬理効果の測定方法については,日本
国特許権②の出願明細書(乙1)上,次のような公知の方法が,す
なわち,血小板凝集抑制作用に関してはボーンの方法が(13枚目
右下欄(50欄)17~19行),サイクリツクホスホジエ
AMP
ステラーゼ阻害作用に関しては「バイオシミカ・エ・バイオフイジ
カ・アクタ()第巻~頁
BiochimicaetBiophysicaActa429485497
1976Biochemical
(年)」及び「バイオケミカル・メデイシン(
)第10巻,~頁(年)」に記載された方法
Medicine3013111974
が(15枚目右下欄(58欄)4行~16枚目左上欄(59欄)3
行),脳血流増加作用に関しては「ジヤーナル・オブ・サージカル
・リサーチ(),第8巻,第10号,~
J.ofSurgicalResearch475
頁(年)」に記載された方法が(16枚目右下欄(62
欄)下から5~末行),降圧作用に関してはテイル・カツフ法
()が(17枚目右上欄(64欄)3~5行),それぞれ
TailCuff
記載されている。
⒟また,日本国特許権②の出願時点において,シロスタゾールの薬
理試験は完了していなかったため,その明細書(乙1)上,以下の
とおり,シロスタゾールの薬理効果は記載されていない。すなわち,
①薬理試験1(血小板凝集抑制作用)に関する記載(13枚目右下
欄(50欄)15行~15枚目右下欄(58欄)第2表),②薬理
試験2(サイクリツクホスホジエステラーゼ阻害作用)に関
AMP
する記載(15枚目右下欄(58欄)1行~16枚目右下欄(62
欄)第3表),③薬理試験3(脳血流増加作用)に関する記載(1
6枚目右下欄(62欄)1行~17枚目右上欄(64欄)第4表)
及び④薬理試験4(降圧作用)に関する記載(17枚目右上欄(6
4欄)1行~右下欄(66欄))のいずれにも,シロスタゾール
(6-[4-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)ブト
キシ]-3,4-ジヒドロカルボスチリル)は含まれていない。
(e)被告は,その後,化合物群であるテトラゾール誘導体をスクリ
ーニングし,かつ,その薬理効果の比較検討をし,日本国特許権②
の出願後である昭和55年10月,シロスタゾールを開発化合物に
選定した。
したがって,日本国特許権②の出願において,昭和55年11月
6日付け手続補正書により,シロスタゾール(6-[4-(1-シ
クロヘキシルテトラゾール-5-イル)ブトキシ]-3,4-ジヒ
ドロカルボスチリル)に関する記載を追加し(乙1,22枚目右下
欄),さらに,昭和58年12月6日付け手続補正書により,シロ
スタゾールを第2,4,6,8,10及び12項の実施態様項とし
て具体的に掲げる補正を行ったものである。
これに対し,本件特許においては,上記のような補正はされてい
ない。
()生物学的等価性の観点からみたシロスタゾールの創製の経緯

以下では,生物学的等価性の観点からシロスタゾールの創製の経緯を
みて,原告の関与の程度を検討する。
a側鎖の選択
シロスタゾールの合成研究は,抗血小板作用の認められたカルテオ
ロールの側鎖(官能基)を種々の基に置換することによりなされたが,
この置換基の選択は,生物学的等価性()等の知見に基
bioisosterism
づき行われた。乙,原告及び丙が「薬学雑誌」に掲載した論文「抗血
小板剤シロスタゾールの研究開発」(甲8)では,以下のように説明
されている(1251頁右欄下から7行~1252頁右欄3行)。
「2-4.シロスタゾール()
cilostazol
bioisosterism
医薬品化学における古典的な構造変換方法として,
の概念があり,エステル基とアミド基は互いにである。
bioisoster
その代表的な例としてカルボン酸(B)とテトラゾール(C)
1H-
が広く知られているが,本探索研究においてはカルボン酸誘導体
(D,例:)が不活性(血小板凝集阻害作用)であるため,この
概念は使えない。しかしエステル体(E,例:4)は高活性であつ
たため,テトラゾールの1位に置換基を導入した化合物(F)
1H-
はエステル体(E)のように活性を示すかも知れないと考え,1位
置換テトラゾール誘導体を合成した()。これまでに得られた
Fig.3
構造活性相関の知見を参考に,テトラゾールの1位置換基にアルキ
ル基,シクロアルキル基,フェニル基,シクロアルキルアルキル基
Table5
などを選択して合成し,その代表的な化合物の生物活性を
に示した。」
b生物学的等価性()
bioisosterism
⒜生物学的等価性とは,医薬化合物の構造設計(ドラッグデザイ
ン)に際して,置換基の選択等の指針に用いる概念であり,「最新
創薬化学上巻」(乙5)(以下「乙5文献」という。)において,
次のように説明されている。
「等価性()の概念に基づく分子の変換とは,活性分子
isosterism
上の原子や原子団を,それと同等の電子的または立体的配置を
もった他の原子や原子団に置き換えることを意味する。等価性と
いう用語は,1919年に物理学者により導入された
Langmuir
もので,主に等価分子()間の物理化学的性質の
isostericmolecule
関連性に興味があった。一方,(1951年)は,たと
Friedman
え物理化学的な類似性が明確でなくても,化合物に共通の生物学
的性質があるとき,生物学的等価性()という言葉
bioisosterism
を用いている。」(乙5,236頁9~14行)
「生物学的等価性()の概念:との
bioisosterismFriedmanThornber
定義
生理活性分子の設計における等価性の概念の有用性を認識し,
は同じタイプの生理活性をもつ等価体をより広い定義に
Friedman
適合させ,生物学的等価体()と呼ぶことを提案した。
bioisostere
この定義はすぐに受け入れられ,現在一般的に用いられてい
る。」(乙5,240頁1~4行)
「によれば,生物学的等価体とは広く同様な生理効果を
Thornber
示し,化学的および物理的な類似性を有する原子団や分子を表
す。」(乙5,240頁10~11行)
⒝そして,本件発明に関連する具体的な基(側鎖)についての生物
学的等価性ないし等価体については,乙5文献において,次のよう
に説明されている。
「1.カルボキシル基の代替基
活性化合物中のカルボキシル基は,…,またはテトラゾールや
…などの平面性の酸性ヘテロ環や,非平面性の硫黄またはリンを
含む酸性基への変換が検討されている(表13.8)。

平面構造の酸性ヘテロ環の代表例は,テトラゾールと…である。
テトラゾールのメディシナルケミストリーは総説となって,さま
ざまな領域で最近の例が報告されている。テトラゾールへの代用
は,その応用が広い分野で行われている。」(248頁3~25
0頁3行)
「2.エステル基の代替基
エステルからアミドへの変換(…)は,古典的な等価体の例と
してすでに図示している。…
これらの古典的変換に加え,ベンゾジアゼピンやムスカリン受
容体の一連のリガンドのカルボン酸エステル代替基として,
オキサゾールやチアゾールが広く用いられている」
1,2,4-1,2,4-
(253頁4~13行)
c本件における合成の経緯
本件では,まず,側鎖をエステル基とする一群の化合物を合成した
が,動物体内において不活性となったので,乙5文献において古典的
変換と説明されているエステル基からアミド基への置換を試みた。と
ころが,そこで開発化合物として有力視されたシロスタミドも,心拍
数増加作用が強かったことから開発を断念し,エステル体のカルボキ
シル基()を生物学的等価体であるテトラゾール体に置換し
-COOH
た一群の化合物を合成していったものである。
この経緯を,乙,原告及び丙は,上記aで示したとおり説明してい
る(甲8,1251頁右欄下から7行~1252頁右欄3行)。
すなわち,生物学的等価体の代表例として,カルボン酸(B)と
テトラゾール(C)が周知であったが,
1H-
カルボン酸誘導体(D)が血小板
凝集阻害作用がなかったため,カル
ボン酸(D図の枠線内)をテト
1H-
ラゾール(C)に変換することは意
味がない。
ところが,エステル体(E)は高
活性であったため,テトラゾールの1位に置換基を導入した化合
1H-
物(F)をエステル体(E)のように活性を示す可能性があるとして,
1位置換テトラゾール誘導体(その一群の化合物を以下「テトラゾー
ル体」という。)を合成していった。
そして,この経緯について,「このようにからの推論
bioisosterism
は的を射て凝集阻害活性を発現し,また目標の脳血流増加作用も有し
ていたが,…」(甲8,1252頁右欄13~15行)と説明してい
るのである。
以上の経緯を図示すると,以下のようになる。
()月報の記載

a乙作成の合成部門月報(乙6の1~6の53)
乙が作成した合成部門月報における本件に関係する記載及びその意
味は,以下のとおりである。
⒜エステル体の合成研究
①昭和49年12月(乙6の2,2枚目)
「カルボスチリル誘導体の合成
β様化合物の末梢血管拡張剤として,
を母核とした下記の化合物(Ⅰ)を合成した。
carbostyril

又血小板凝集抑制剤として,誘導体を
3,4,5-trimethoxyphenyl
3種(Ⅱ~Ⅳ)を合成した。」
②昭和50年2月(乙6の3,2~3枚目)
「カルボスチリル誘導体の合成
)血小板機能抑制剤の合成
血小板機能抑制剤の検索を以前より行ってきたが,第3研生化
学部門及びでのにおける1次の結果活
PanLabs.invitroscreening
性を有するものが種々見い出されている(原文では「見い出させ
ている」)。活性物質を大別すれば,次の3種類に分類される。
glycerolderiv.
ⅰ)

-blocker
ⅱ)β

carboxylicester
ⅲ)
OPC-3093etc.
()
ⅰ)及びⅱ)に関しては昨年大部分合成を終了している。
本月よりⅲ)のの化合物から,より高活性な
carboxylicestertype
物質の検索及び特許拡大のための合成を開始した。」
③以上のとおり,乙6の2,6の3では,β遮断剤として合成し
たカルテオロールの類縁化合物に血小板凝集作用(抗血小板作
用)があることが判明しているので,エステル体の合成を開始し
たことが記載されている。なお,乙6の3の「第3研生化学部
門」とは,原告が配属されていた第3研究室の生化学部門である
が,同部門に薬理活性の分析()を依頼した結果が届いて
invitro
いることが記載されている。
⒝エステル体の合成の終了
①昭和50年5月(乙6の6,2枚目)
「カルボスチリル誘導体の合成
本年2月より血小板機能抑制剤として一般式(Ⅰ)で示される
カルボスチリル誘導体及びその関連化合物の合成をより高活性物
質の検索及び特許取得のために合成を行って来た。本月にてこの
エステルタイプの化合物については一応終了した。

合成検体を構造活性相関検討のため数個薬理試験に依頼した。」
②昭和50年6月(乙6の7,2枚目)
「これまでに,血小板機能抑制剤として,一般式(Ⅰ)で示され
るカルボスチリル誘導体の合成を行い,生化学部門での
invitro
生物試験の結果が,最も活性が強いことが明白になっ
OPC-3162
た。
そこで,今月は,構造活性相関を検討するため,数種のエステ
ル誘導体(Ⅱ~Ⅴ)ならびに,新しいタイプ,すなわち
のエステル基をメチレン,および酸素に変換したアル
OPC-3162
キル体(Ⅵ),エーテル体(Ⅶ),(Ⅷ)を合成した。」
③ここでは,エステル体の合成を終了すること,及び合成したエ
ステル体の構造活性相関を検討するため,原告が配属されていた
生化学部門に薬理試験を依頼したことが記載されている。
この記載より,合成前に生化学部門に何らかの相談をするので
はなく,合成後に合成化合物の薬理データを求めるため,薬理試
験を依頼していることがわかる。
⒞昭和50年9月から昭和51年11月まで(乙6の8~6の2
0)
エステル体の中で抗血小板作用の高いの類縁化合物を
OPC-3162
合成したり,アミド体の合成を試みたり,急性毒性試験に提供する
化合物の合成をしている。
⒟アミド体,テトラゾール体の検討
①昭和51年12月(乙6の21,2枚目)
「血小板機能抑制剤の合成を行っている。
ⅰ)本年7月より行ってきた下記式(Ⅰ)のの部の
esteralcohol
変換主として()の合成を終え特許出願した。
aminoalcohol

ⅱ)腎毒性の低減化(での安定性の向上)
invivo
,は共に腎毒性が発現する。
OPC-3162OPC-3599
OPC-3162OPC-3599OPC-3360
イ)第三研毒性班で行われた,,
(カルボン酸)の亜急性毒性試験より,この3剤とも共通し
て腎毒性が発現すること。
ロ),,の投与後の尿中の
OPC-3162OPC-3599OPC-3360rat,p.o
析出(不溶)物がであること。(前月月報参照)
OPC-3360
以上より類縁化合物において,で安定性と腎
OPC-3162invivo
毒性の発現はパラレルと考えられる。
それ故,a)エステル基のエステラーゼに対する抵抗性をもた
せることb)エステル基を生体内で安定な官能基に変換する
ことの二点について検討を開始した。」
②昭和52年1月(乙6の22,2枚目)
「ⅰ)エステル基を安定な官能基への変換
生体内で不安定なエステル基を他の安定な官能基へ変換すべ
く検索を開始した。

Rとして,へ変換した
thiadiazole,tetrazole,triazole,pyridineetc
化合物の合成を下記により始めた。」
③昭和52年2月(乙6の23,2~4枚目)
「Ⅰ)エステル基をアミド基への変換
エステル基を他の安定な官能基への変換としてまずアミド基
への検討を行った。以前のによりアミド基を有する
bioassay
は10オーダーでの活性の強さであった。…そこで,
OPC-3457-4
本月はアミド誘導体として,イ)無置換アミド,ロ)置
N-N-1
換アミド,ハ)置換アミドの合成を行い,3研生化学へ
N,N-2
を依頼した。その結果が,アミド誘導体における構造
bioassay
と活性の相関として次の2点が判明した。
a)アミド基として置換体(原文では「置体」となっ
N,N-2
ている。)が最上である。
b)骨格は真性体が,ジヒドロ体より良好である。
3,4-

Ⅲ)エステル基を置換テトラゾールへの変換
置換テトラゾール基へ変換した化合物2種のの結果
bioassay
は低活性であったが,テトラゾールがカルボン酸に替り得ると
考えられるため置換テトラゾールを今後も行う予定である。」
④ここでは,動物で行った急性毒性検査により,エステル体に問
題があることが判明し,エステル基を他の基へ置換することが検
討されたが,その置換基の候補としてアミド基のほか,テトラゾ
ール基が掲げられていること,そして,エステル基をテトラゾー
ル基に置換した合成化合物の(ここでは動物試験の意
bioassay
味)の結果は低い活性しか示さなかったので,エステル基のうち
のカルボキシル基をテトラゾール基に置換した化合物の合成を予
定していることが記載されている。そして,乙6の23でも,第
3研究室である生化学部門に,化合物の合成後にを依頼
bioassay
している。
⒠アミド体,シロスタミド()の合成
cilostamideOPC-3689
①昭和52年3月(乙6の24,2~4枚目)
「A)アミド誘導体の合成
エステル基を生体内で安定な官能基への変換としてアミド基
への検討を行い,ジ置換アミドである(EC
N,N-OPC-3670
=10が得られた。…そこで,アミドのアミン部の検討
M
を行い,活性がに劣らないを得た。
OPC-3162OPC-3689

B)チアジアゾール誘導体及びテトラゾール誘導体の合成
1,3,4-
エステル基を生体内で安定な官能基への変換として,
チアジアゾール環(),テトラゾール環
OPC-3685
()を有する化合物の合成を行った。」
OPC-3695
②昭和52年4月から昭和53年10月まで(乙6の25~6の
42)
シロスタミドの類縁化合物の合成,特許出願,大量合成方法の
研究に入っている。なお,シロスタミドの類縁化合物の合成は,
昭和53年11月までが主な期間であるが,一部の類縁化合物の
合成はシロスタゾール合成の昭和54年8月以降も継続された。
③昭和53年3月(乙6の36,2枚目)
PDEinhibitors
「A)
血小板機能抑制剤に阻害作用を有していること
OPC-3689PDE
が判明している。そしてその阻害作用はⅰ)特異
PDEC-AMP
的である。…ⅱ)血小板凝集抑制活性と平行しない。ⅲ)臓器
invitroC-AMP
特異性がある。以上の現象()より,本月より
の合成を開始した。の
specificPDEinhibitorsPDEinhibitors
は生物研,生化学部門においてのを
screeningrabbitplateletPDE
用いて行われており,現在までにを中心に
OPC-3689analogues
60余種終了している。その化合物の構造と活性の相関は次月
に述べるが,現在が10程度の化合物は下記の4種で
ICM
ある。」
④以上のように,抗血小板作用が高いアミド体であるシロスタミ
ドが合成されたため,類縁化合物の合成のほか,工業的生産のた
めの研究にも入っている。
乙6の36でも,阻害作用()についてのス
PDEPDEinhibitors
クリーニングを生物研生化学部門に依頼していることが記載され
ている。
(f)テトラゾール体の合成
①昭和53年6月(乙6の38,2~3枚目)
「A)テトラゾール誘導体の合成
血小板機能抑制剤の検索においてのから
estertypeOPC-3162
のへと展開してきた。
amidetypeOPC-3689

との作用機作上の比較をすると,血小板機
OPC-3162OPC-3689
phosphodiesterase
能抑制作用は両者はほぼ同等の活性であるが,
阻害作用はがの約100倍の活性を有し
OPC-3689OPC-3162
ている。
そこで,の基を薬理学的に同等と考えられる
OPC-3162ester
に変換した化合物[Ⅰ]の検討を行った。
tetrazole

基に薬理的に同等と考えられるとして,上記
estertetrazole
[Ⅱ]の5位()にの部の置換基を1位
Restercarboxylicacid
()にの部の置換基を有する必要がある。そこ
Resteralcohol
で,を,とした上記[Ⅰ]を合成目標とした。
REtcyclohexyl

目的化合物(=)を得た。」
RcyclohexylOPC-3930
②昭和53年7月から昭和54年6月まで(乙6の39~6の5
0)
テトラゾール体の合成が,アミド体の合成と平行して行われて
いく。
③昭和54年7月(乙6の51,2枚目)
「血小板機能抑制剤の合成を行っている。
骨格をとし,側鎖に基を有するは
carbostyriltetrazoleOPC-3930
血小板凝集抑制作用,脳血流増加作用等の生理活性を有してい
る。」
OPC-3930
④以上のように,乙6の38,6の51で記載された
の類縁化合物として合成されたのがのシロスタゾー
OPC-13013
ルである。
両者の相違は,骨格は前者が真性カルボスチリル体であるのに
対し,後者は,ジヒドロカルボスチリル体であり,側鎖のア
3,4-
ルキル鎖の数は,前者が3であるのに対して後者は4である。
以上の合成部門月報の記載でも,乙らの合成研究者が合成後の
化合物についての薬理試験等を原告らの生物生化学部門に依頼し
たことはあっても,逆に生物生化学部門より合成研究に関する示
唆を受けたことなど一切記載されていない。
b原告ほかが作成した生物部門月報(乙7の1~7の52)
⒜原告が所属していた第3研究室(後に生物研究部と改称。)の生
物部門月報においても,原告が本件誘導体群のドラッグデザインに
関して合成研究部門に示唆を与えるような記載はない。
⒝第3研究室(生物研究部)の研究テーマの中心は,「血小板機能
抑制剤のスクリーニング」であるところ,本件において,スクリー
ニングとは,合成部の合成した新規物質の薬効を測定し,これを合
成部に報告することである。
生物部門月報の結果及び考察に関して,以下のような記載がされ
ている。
①昭和50年9月(血小板機能抑制剤のスクリーニング)(乙7
の11,3枚目)
「各化合物の(%)を~に示した。
InhibitionrateTable112
まず,側鎖の炭素数をと同じにした,
OPC-3162OPC-3434
OPC-3435OPC-3206OPC-3434OPC-3435
,についてであるが,,
Table1,2OPC-3206Table
()は,ほとんど抑制作用がなく,(
)は比較的強い抑制作用が見られたが,それでもなお,
5,6
には及ばなかった。よって,側鎖の炭素数だけが抑制
OPC-3162
作用の要因ではないと思われる。
次に,側鎖のエステル結合であるが,この官能基を別のものに
かえると,抑制作用はほとんどなくなり(),側鎖
Table3,4,9,10
にエステル結合を持つのような化合物の抑制効果の強
OPC-3162
さが確認できた。
また,カルボン酸であるが,これらはに比較す
typeOPC-3162
ると,抑制作用が弱い事が認められた。
なお他にも骨格,側鎖を換えた化合物についてスクリーニング
を行なったが,今のところ,と同程度あるいはより強
OPC-3162
い抑制作用を有するものは認められない。」
②昭和53年3月(血小板機能抑制剤のスクリーニング)(乙7
の34の3,1~2枚目)
「スクリーニングの結果を~に示した。
Tables116
のジヒドロ体であるの側鎖の位置について
OPC-3689OPC-3670
みると6位以外は5位(),7位(),8位
OPC-3710OPC-3787
()共に抑制作用はみられなかった。わずかに
OPC-3784
が10でコラーゲン凝集を抑制した。以前
OPC-3787M
の側鎖の位置検討を行なった際,6位>5位>7位>
OPC-3162
8位の順で抑制作用の差が認められたのとは異なった結果を得た
()。
Tables13,14
次に側鎖の末端にある6員環を3員環(),5員環
OPC-3891
()7員環()8員環に置換してそれぞれ活
OPC-3892OPC-3893
性を比較したところ,にみられるように,5員環,
Tables11,12
6員環,7員環,8員環でほぼ同程度,3員環は少し効力が低下
していた。
また,末端の-は,以前のスクリーニングで-,-
CHCHCH
に換えてもほとんど効力の低下は認められなかったが,今回,-
(),-(),-(),-
CHOPC-3886CHOPC-3895CHOPC-3896
()についてみたところ(~)
CHOPC-3897Tables1316
に比べ抑制力は弱かった。特にC数を増やすと効力が
OPC-3689
弱くなっていた。(は,ジヒドロ体なので真性にすれ
OPC-3886
ば活性はやや上がると考えられる。)」
⒞以上の記載からも明らかなように,生物部門月報の記載は,合成
部(丙及び乙)の合成した化合物の薬理データを公知の測定方法に
より測定し,これを報告していただけであり,本件誘導体群の合成
に示唆を与えるようなものではない。
なお,シロスタゾールはであるが,これが生物部門
OPC-13013
月報に登場するのは,本件特許出願後である昭和54年9月の月報
(乙7の51の1)である。
()小括

以上のいずれの観点から検討しても,原告は,本件発明に係る本件誘
導体群を創製したものであるとはいえず,本件発明の共同発明者とはい
えない。
⑶争点3(本件発明に係る特許を受ける権利の対価の額)について
(原告の主張)
ア被告における本件特許の自己実施
被告は,平成11年(1999年)より,血小板凝集抑制作用と末梢血
管拡張作用とを併せ持つ,新しいタイプの抗血小板剤であるシロスタゾー
ルを有効成分とした本件製剤(プレタール錠)を,慢性動脈閉塞疾患者の
治療薬(効能・効果:慢性動脈閉塞症に基づく潰瘍,疼痛及び冷感等の虚
血性諸症状の改善)として米国で販売している。
イ対価又は実績補償金の算定
()特許法35条が適用される場合

本件特許は,被告において自己実施されており,第三者に使用許諾さ
れていないところ,原告の特許発明の対価を算定するに当たっては,使
用者等が受けるべき利益として,被告が第三者に有償で本件発明の実施
を許諾した場合に得られる実施料相当額を基礎とし,これに共同発明者
全体での貢献割合を乗じた上で,共同発明者間の貢献割合を乗じて算定
すべきである。
後記ウで検討した結果を上記の算定方法に当てはめると,次のとおり,
本件発明に係る譲渡の対価は,14億円となる。
特許存続期間中の被告の本件製剤売上額350億円×ライセンス
実施料率30%×共同発明者全体の貢献度30%×共同発明者間に
おける原告の貢献度4/9=14億円
()被告規程11条1項が適用される場合

本件特許権の特許を受ける権利について,特許法35条が適用されな
いとしても,被告規程11条1項が適用され,「当該発明等の実施効果
が顕著であって会社業績に貢献した」と認められる場合に,実績補償金
が支払われることになる。
その場合の「実施効果が顕著であ」るとは,当該発明を単に実施でき
ることによる利益を超えた利益がある場合を意味するものであり,その
具体的な算定方法は,特許法35条が適用される場合の対価の算定方法
と同様に考えられる。
したがって,被告規程11条1項による実績補償金についても,上記
()のとおり,14億円と算定される。

ウ対価等の算定の基礎となる事情
()対象となる期間

a実施料相当額を計算する際に対象となる期間は,本件特許権の実施
をした期間であり,出願日である1979年8月29日から20年間
の本件特許権の存続期間と,米国の「医薬品価格競争・特許期間回復
法」による排他権を与えられていた期間,すなわち,米国の「医薬品
価格競争・特許期間回復法」(以下「米国薬価競争法」という。)に
より,新薬の製造承認から後発医薬品の簡略新薬申請手続(AND
A)の適用が遮られることの反射効として,排他的独占的に実施し得
た5年間を加えた2004年1月15日までの期間となる。そして,
実質的には,米国において本件製剤の製造承認を受けた平成11年
(1999年)1月15日から,後発医薬品が製造承認を受けた20
04年11月までの期間となる。
bなお,被告は,排他権により得られた利益は,特許権とは因果関係
のない利益であり,対価あるいは実績補償金の算定の基礎とはならな
い旨主張する。
しかし,対価又は実績補償金の算定の基礎となるべき使用者等が受
けるべき利益の額は,厳密に特許権の実施に限られるものではない。
したがって,被告が,本件発明を排他的独占的に実施したことによ
り得た利益は,特許期間中のものだけでなく,期間満了後のものも当
然に実績補償金算定の基礎となるべきものである。
排他権とは,上記のとおり,新規化合物からなる医薬品が製造販売
承認された後5年の範囲で,後発医薬品による簡易な手続による承認
申請(ANDA)が遮断されることにより認められる地位であるとこ
ろ,当該権利(地位)と特許権とは,同じ機能,すなわち,後発医薬
品の製造販売を一定期間遮る機能を有するものである。したがって,
発明の排他的独占的実施を保護するという観点において,両者を区別
して扱うべき合理性はない。
()対象期間中の本件製剤売上高

被告は,平成11年(1999年)に米国において本件製剤の販売を
開始し,2004年8月29日までの期間に,少なくとも350億円の
売上げを得た。
()ライセンス実施料

医薬品の技術のライセンスにおける実施料率は,医薬品に対するニー
ズの大きさから,他の技術分野の場合と比して,極めて高率となってい
る。そして,本件特許は,前記のとおり,抗血小板作用や血管拡張作用
を併せ持つ新薬に関する物質特許であり,極めて革新性が高いものであ
る。
このような医薬品ライセンス契約の一般的傾向及び本件特許の重要性
に照らし,本件特許のライセンス実施料率は,少なくとも30パーセン
トと評価される。
()共同発明者全体の貢献度

本件発明は,前記のとおり,抗血小板作用及び血管拡張作用を併せ持
つ画期的な新薬に関するものであるところ,抗血小板剤という新しい分
野の研究を早くから開拓してきたことは言うに及ばず,実際の病気治療
に重要であり,かつ,医薬品開発を速やかに実現できることを重視して
血管拡張作用を持たせるという前例のない薬剤プロファイルを目標設置
したことが成功の要因であったこと,3つの目標を達成する目標化合物
にたどり着くまでの構造活性相関研究(合成系と生物系の協働)は困難
を極めたことに鑑みれば,発明者の貢献度は30パーセントを下ること
はないと考えられる。
()共同発明者間における原告の貢献度

本件発明に至る過程で,単一の候補化合物の選択において,原告が,
生物系の主担当者として多大な役割を果たしたことは前記のとおりであ
る。
他方,本件特許については,特許出願の願書上,発明者として乙及び
丙の2名が記載されている。このうち,乙は,合成系の主担当者として
本件発明に多いに貢献したものであるが,丙は,合成研究所所長という
職務に就いている関係から発明者として記載されているにすぎず,発明
に対する貢献度は小さいというべきである。
したがって,本件発明における共同発明者間の貢献度割合は,以下の
とおりであり,原告の貢献度は4/9である。
原告:乙:丙=4:4:1
(被告の反論)
ア原告の主張の認否
原告の主張のうち,被告が,平成11年から米国において本件製剤を販
売していること,本件特許権の特許を受ける権利について,被告規程11
条1項が適用されることは認め,その余は,否認ないし争う。
米国での本件製剤の認可日は平成11年(1999年)1月15日であ
り,本件特許期間の満了日は同年8月29日であって,本件特許の実施期
間は7か月間にすぎない。このような場合には,被告規程11条1項に定
める「実施効果が顕著であって会社業績に貢献したと認め」られる場合と
はいえず,実績補償金の支払義務はない。
イ排他権(先発権)について
原告は,対価又は実績補償金の算定の対象には,米国における排他権
(先発権)に基づいて得た利益も含まれると主張する。
しかし,米国薬価競争法により,新薬製造承認から5年の範囲で,後発
医薬品の承認申請が遮断されることの反射効として,先発医薬品しか製造
販売されないだけであって,特許権の効果により独占的な製造販売が行わ
れるわけではない。
すなわち,米国薬価競争法では,同法成立後(1984年9月24日)
に製造承認がされた新薬については,承認後5年間は,ANDA申請
(:簡略化新薬申請。既に市場にある医薬
AbbreviatedNewDrugApplication
品と活性成分が同じ医薬品(いわゆる後発医薬品)を会社が製造承認申請
する場合,先発医薬品との生物学的等価性の証明等の必要な資料を提出す
ることによって製造承認を受けることができる手続である。)を受け付け
ないと定めている。これにより,結果的に,後発医薬品の製造承認が遮断
され,先発医薬品が排他的に販売できる地位を確保することができるもの
であるが,これは,あくまでも,同法により認められた排他権であり,特
許権とは関係のない権利(地位)である。
したがって,特許権の存続期間満了後に,本件製剤の販売により得られ
た利益は,対価又は実績補償金の算定の対象となるものではない。
第3争点に対する判断
1争点1(特許法35条3項の適用の有無)について
⑴原告は,主位的に,特許法35条3項に基づいて,米国特許である本件特
許を受ける権利(共有持分)を被告に承継したことによる対価の支払を請求
しているところ,被告は,外国の特許を受ける権利を使用者に承継したこと
による対価請求権について特許法35条3項は適用されない旨主張するので,
この点について検討する。
⑵まず,本件特許は,米国特許であることから,外国の特許を受ける権利の
承継に基づく対価請求である点で渉外的要素を有するものであり,その準拠
法を決定する必要がある。
特許を受ける権利の承継については,当該権利の承継についての効力発生
要件や対抗要件等の法律関係と,承継に関する合意の成立,効力,対価請求
の有無等の法律関係とは,必ずしもその法的性質を同じくするものとは解さ
れないから,一応両者を区別してその準拠法を検討すべきものといえる。そ
して,権利自体の承継の効力発生要件や対抗要件等の法律関係については,
対象である特許権と密接に関連する問題であるから,その特許を受ける権利
についても,各国の特許法令の規律を受けるものと考えられる。これに対し,
承継に関する合意の成立,効力,対価請求の有無等の法律関係については,
合意(契約)の準拠法に従うこととなり,法例7条によって決定される準拠
法の規律を受けるものと解するのが相当である。
原告及び被告は,本件弁論準備手続期日において,本件特許を受ける権利
についての対価請求に関する準拠法が,日本法であることを争わない旨を述
べており,また,本件特許を受ける権利の承継の原因である被告規程におい
て「外国における工業所有権を受ける権利および工業所有権」についての規
定が置かれている(乙10,4条)ことからすれば,双方,権利の承継に基
づく対価請求権について日本法を準拠法とする意思を有していたと推認でき
るものであるから,いずれにしても,日本法が準拠法となるというべきであ
る。
⑶そこで,準拠法として選択された日本の特許法により,外国特許である本
件特許を受ける権利の承継に基づく対価請求権について,同法35条3項が
適用されるか否かを検討する(なお,仮に,特許法35条3項が,使用者等
による支払額を補完するものとして片面的に適用されるという強行法規的な
性格を有すること,あるいは,使用者等と従業者等との間の雇用関係を規律
する労働法規的な性格を有することなどを理由として,我が国における職務
発明の対価請求について,抵触法的処理による準拠法決定を経ずに直接的に
適用されるとの見解に与するとしても,同様の結論となる。)。
まず,特許法には,外国の特許を受ける権利の承継に基づく対価請求権に
関する規定がないだけでなく,外国の特許発明や外国の特許権に関する規定
も全く存しない。また,特許法35条と同様に,「特許を受ける権利」につ
いて,その移転や担保権の設定,承継等を定める同法33条及び34条が,
日本の特許を受ける権利のみを対象とすることは明らかである。さらに,特
許法35条1項は,職務発明についての特許を受ける権利の承継の有無を問
わず,使用者等が,当該特許権について無償の法定通常実施権を有する旨を
定めるところ,特許権についての属地主義の原則,すなわち,各国の特許権
は,その成立,移転,効力等につき当該国の法律によって定められ,特許権
の効力が当該国の領域内においてのみ認められるとの原則(最高裁平成7年
()第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299

頁参照)によれば,特許権に対して無償の法定通常実施権のような権利を設
定することは,日本の特許権についてのみなし得ることであると解さざるを
得ないから,同条1項にいう「特許を受ける権利」及び「特許権」とは,外
国の特許を受ける権利及び外国の特許権を含まず,日本の特許を受ける権利
及び日本の特許権のみを意味するものと解される。そうすると,外国の特許
を受ける権利の承継に基づく対価請求権についても同条3項が適用されると
すれば,同条3項にいう「特許を受ける権利」及び「特許権」には,外国の
特許を受ける権利ないし外国の特許権も含まれることになり,同一の条文内
で,「特許を受ける権利」あるいは「特許権」について,異なる解釈をする
という不整合な事態を生ずることとなる。
そもそも,特許法35条は,職務発明について特許を受ける権利が当該発
明をした従業者等に原始的に帰属し,これについての通常実施権が使用者等
に帰属することを前提に(同条1項),当該職務発明について,特許を受け
る権利及び特許権の承継等とその対価の支払に関して,使用者等と従業者等
のそれぞれの利益を保護するとともに,両者間の利害を調整することを図っ
た規定である(最高裁平成13年()第1256号同15年4月22日第三

小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。すなわち,同条は,その1項
において,使用者等には,特許を受ける権利の承継の有無を問わず法定の通
常実施権が認められることを規定するものであり,そのことを前提として,
当該特許を受ける権利等の承継等の対価の算定に当たっても,同条4項にお
いて考慮される使用者等が受けるべき利益は,通常実施できる限度を超えた
独占の利益であると解するのが一般である。したがって,この前提を欠く外
国の特許を受ける権利について,同条3項の規律対象となるとする見解は,
同条に関する上記の理解を踏まえると,法解釈上,相当でないといわざるを
得ない。
⑷以上のことからすると,外国の特許を受ける権利の承継に基づく対価請求
権について,特許法35条3項の適用はないと解され,同項に基づく対価請
求権は認められない。
原告は,予備的に,被告の定めた被告規程11条1項に基づく実績補償金
の請求をするところ,このような債権的合意の成立及び効力についての準拠
法は,契約の準拠法に従うものと解され,法例7条によって決定される準拠
法の規律を受けると解される。そして,上記のとおり,被告規程において
「外国における工業所有権を受ける権利および工業所有権」についての規定
が置かれている(乙10,4条)ことからすれば,双方,権利の承継に基づ
く補償金請求権について日本法を準拠法とする意思を有していたと推認でき
るものであり,日本法が準拠法となるというべきである。そして,本件特許
を受ける権利の承継について,被告規程が適用されることは当事者間に争い
がないので,以下,原告に,同規程に基づく同補償金請求が認められるか否
かについて検討する。
2争点2(原告は,本件発明の共同発明者であるか。)について
⑴事実認定
争いのない事実,証拠及び弁論の全趣旨によれば,創薬についての一般的
手順,本件発明に至る経緯等について,以下の事実が認められる。
ア創薬についての一般的手順
本件発明は,テトラゾリルアルコキシカルボスチリル誘導体とそれを含
有する医薬成分である(甲1の1,1の2,26)ところ,創薬(医薬品
の発見,開発)は,一般に,以下のような段階を経て行われる(甲6,2
7)。
①対象疾患の選択
②薬物標的(酵素,受容体,細胞等)の選択
③バイオアッセイ(テスト系)の確立
④リード化合物(目的とする薬物活性のある化合物)の発見
⑤構造活性相関の検証(その分子において,生物活性に重要な部分とそ
うでない部分を明らかにすること。スクリーニングテスト。)
⑥ファルマコホア(生物活性に必要で重要な官能基とそれら相互の相対
的な空間配置を要約したもの。基本骨格。)の同定
⑦標的との相互作用の向上
⑧薬理学的特性の向上
イカルテオロールの合成及びその作用
()カルテオロールの合成

被告内では,昭和47年(1972
年)ころ,右図に示すカルボスチリル
骨格を用いた医薬品の探索研究を行っ
ており,同年4月までに,右図の骨格
の5位の位置に側鎖が結合されている
カルテオロール(5-(ヒドロキシ-3-t-ブチルアミノ)プロポ
キシ-3,4-ジヒドロカルボスチリル)が合成されていた(甲7,
8,乙2の1)。
カルテオロールは,βブロッカー(交感神経遮断薬のうち,交感神
経のβ受容体の興奮によって現れる作用(β効果)を遮断する薬物)
であり,本態性高血圧症,心臓神経症,不整脈,狭心症を効能・効果
とする製剤ミケランの有効成分である(乙2の2)。カルテオロール
を含む一群の化合物の製造法に関する特許は,発明の名称を「3,4
-ジヒドロカルボスチリル誘導体の製造法」として,昭和47年4月
13日に出願され,昭和51年11月18日に登録された。同特許出
願においては,丙を含む4名が発明者として示されている(乙2の1,
弁論の全趣旨)。
()カルテオロールの抗血小板作用の発見

被告は,昭和48年11月10日,カルテオロールについて,「血
栓症の予防および治療剤」として,甲10出願を行った(甲10)。
甲10出願においては,被告従業員であった丁のみが発明者として示
されており,同出願の明細書には,以下のとおり記載され,カルテオ
ロールに血小板凝集阻害作用(抗血小板作用)があることが発見され
たことが開示されている。
「本発明者は血栓の治療および予防に有効な薬剤について種々検
索した結果,前記(原文では「前起」となっている。)構造式で示
される5-(ヒドロキシ-3-t-ブチルアミノ)プロポキシ-3,
4-ジヒドロカルボスチリル(以下「」と称す)が低濃度で特異
OPC
的に血小板の凝集を阻止することを発見した。このの化合物に
OPC
ついて更に研究を行つた結果,この化合物を人を含めた動物に経口
または静脈内投与した場合に血栓の予防および治療に有効であるこ
とを見出した。」(甲10,2枚目右上欄12行目~左下欄1行
目)
また,薬物標的(当該薬剤の標的とする対象)について,以下のと
おり記載され,血小板が薬物標的であったことが開示されている。
「しかしながら,循環系疾患の中でも虚血性疾患,動脈硬化症お
よび脳血栓症については有効かつ信頼性のある治療薬剤および治療
手段はいまだに確立されていない。これらの疾病は直接死に結びつ
くものであるだけに,これらの疾病の治療および予防薬が開発され
ることは多くの人が望むところである。これらの疾病による死因は
血栓症と言われている。
血栓は,血管内を流れる血液が固化したものである。そしてこれ
が形成される機転およびそれにより生じる病態を血栓症と称してい
る。血栓は血小板が「ひきがね」となり,血管損傷部の補強および
連続性出血の防止に役立つ反面,血管内腔を閉塞させてしまい,あ
るいは血流によつて他の部位に運ばれ,臓器,体肢等の血管を閉塞
させ,塞栓閉塞を起すという面をもつている。従つて心臓,肺,脳
等の主要臓器に血栓が形成された場合は重篤な症状を呈する。即ち,
脳血栓(塞栓),心筋梗塞(原文では「硬塞」となっている。),
肺梗塞(原文では「硬塞」となっている。)として知られるもので
ある。」(甲10,1枚目右下欄5行目~2枚目左上欄8行目)
「血栓形成の成因として①血液の性状の変化,②血流の変化,お
よび③血管壁の変化の3つがあげられる。…ここで血小板が「ひき
がね」として働き,正常な流血中では血小板凝集と解離,凝固と線
溶がダイナミツク・バランスを保つているのであるが,ストレス,
病的状態によつてこのバランスがくずれると血栓が起る。」(甲1
0,2枚目左上欄15行目~右上欄3行目)
甲10出願において薬理試験の測定方法については,以下のとおり
記載されている。
「凝集能の測定
採血量の1/10量の3.8%クエン酸ソーダを加えた注射器中
に採血した健康な成人男子の血液より軽遠心法で血小板浮遊血漿
()を分離して実験用の試料を得た。測定法は社製の
PRPBRYSTON
AggregometerBorn,G.V.R.,Nature,
アグリゴメーター()による比濁法〔
()および()〕に
194,927-9291962O'Brien,J.Clin,Path.,15,452-4551962
従つた。すなわち,上記で得られたの試料のに,対照の場
PRP0.9ã
0.1OPC
合は生理的食塩水のあるいは実験試料として種々な濃度の
ã
水溶液のを加え,得られた混合物をそれぞれ1分間インキユー
0.1ã
ベーシヨンした後,これにコラーゲンまたは(7.5×10
ADP
)のを添加し,添加後8分間における最大透過度を測定し,
M0.1ã
この透過度をと無血小板血漿の透過度差で除して凝集率を算出
PRP
した。」(甲10,2枚目左下欄19行目~右下欄15行目)
ウ被告内における,抗血小板作用を有するカルボスチリル誘導体の研究
()研究開発の開始

被告内では,昭和49年ころから,抗血小板作用を有するカルボス
チリル誘導体の研究(以下「本件研究」という。)が開始された(甲
7ないし9)。
具体的には,上記のとおり,カルテオロールに抗血小板作用がある
ことが発見され,これが端緒となり,また,当時,被告内において,
カルボスチリル骨格を用いた医薬品の探索研究を行っており,カルボ
スチリル誘導体の化学(合成法,反応性)と生物の情報(薬物動態の
性質が良いこと等)が蓄積されつつあったことから,カルボスチリル
骨格を用いた誘導体を合成(側鎖を種々の基に置換)し,血小板凝集
作用のスクリーニングに供して,抗血小板作用のある新規化合物を探
索することとされた(甲7ないし9)。
本件研究では,乙,丙らが合成系研究者として,化合物の合成等に
関与し,被告徳島工場第3研究室に在籍していた原告その他の者が生
物系研究者として,化合物のスクリーニング等に関与した(争いがな
い)。
()測定方法

原告は,本件研究において化合物のスクリーニングを担当した。血
小板凝集測定についての方法は,本件特許の出願明細書に「血小板凝
集阻害試験」として記載されている方法が用いられた。すなわち,
「[()]によって開示された方法に近似し
G.V.R.Born:Nature,927-9291962
た方法に従い,Ⅱ型凝集計()を用いて」
AG-BrystonManufacturingCo.
(甲1の1,15欄,甲1の2,2頁)測定された(弁論の全趣旨)。
エエステル体とアミド体の合成
()エステル体の合成

本件研究では,まず,カルボスチリル骨格の側鎖にエステル基を有す
る化合物を合成した(甲7,8)。
この経緯について,合成部門月報には,以下のとおりの記載がされて
いる(乙6の3)。
a昭和50年2月(乙6の3,2~3枚目)
「カルボスチリル誘導体の合成
)血小板機能抑制剤の合成
血小板機能抑制剤の検索を以前より行ってきたが,第3研生化
学部門及びでのにおける1次の結果活性
PanLabs.invitroscreening
を有するものが種々見い出されている(原文では「見い出させて
いる」)。活性物質を大別すれば,次の3種類に分類される。
glycerolderiv.
ⅰ)

-blocker
ⅱ)β

carboxylicester
ⅲ)
OPC-3093etc.
()
ⅰ)及びⅱ)に関しては昨年大部分合成を終了している。
本月よりⅲ)のの化合物から,より高活性な物
carboxylicestertype
質の検索及び特許拡大のための合成を開始した。」
b昭和50年5月(乙6の6,2枚目)
「カルボスチリル誘導体の合成
本年2月より血小板機能抑制剤として一般式(Ⅰ)で示されるカ
ルボスチリル誘導体及びその関連化合物の合成をより高活性物質の
検索及び特許取得のために合成を行って来た。本月にてこのエステ
ルタイプの化合物については一応終了した。

合成検体を構造活性相関検討のため数個薬理試験に依頼した。」
c昭和50年6月(乙6の7,2枚目)
「これまでに,血小板機能抑制剤として,一般式(Ⅰ)で示される
カルボスチリル誘導体の合成を行い,生化学部門での生物試
invitro
験の結果が,最も活性が強いことが明白になった。
OPC-3162
そこで,今月は,構造活性相関を検討するため,数種のエステル誘
導体(Ⅱ~Ⅴ)ならびに,新しいタイプ,すなわちのエス
OPC-3162
テル基をメチレン,および酸素に変換したアルキル体(Ⅵ),エーテ
ル体(Ⅶ),(Ⅷ)を合成した。」
()エステル体の急性毒性試験

昭和50年9月から昭和51年11月までは,カルボスチリル骨格の
側鎖をエステル体とした化合物のうち,「」を急性毒性試験
OPC-3162
に提供するなどして,エステル体の腎毒性が明らかになった(乙6の8
~6の20)。
()アミド体の合成

エステル体の腎毒性が明らかになったので,以下の合成部門月報の記
載のとおり,エステル基を他の安定な官能基に変換する探索が開始され
た(乙6の21~6の23)。
a昭和51年12月(乙6の21,2枚目)
「血小板機能抑制剤の合成を行っている。
ⅰ)本年7月より行ってきた下記式(Ⅰ)のの部の変換
esteralcohol
主として()の合成を終え特許出願した。
aminoalcohol

ⅱ)腎毒性の低減化(での安定性の向上)
invivo
,は共に腎毒性が発現する。
OPC-3162OPC-3599
イ)第三研毒性班で行われた,,(カ
OPC-3162OPC-3599OPC-3360
ルボン酸)の亜急性毒性試験より,この3剤とも共通して腎毒性
が発現すること。
ロ),,の投与後の尿中の析出
OPC-3162OPC-3599OPC-3360rat,p.o
(不溶)物がであること。(前月月報参照)
OPC-3360
以上より類縁化合物において,で安定性と腎毒性
OPC-3162invivo
の発現はパラレルと考えられる。
それ故,a)エステル基のエステラーゼに対する抵抗性をもたせる
ことb)エステル基を生体内で安定な官能基に変換することの二
点について検討を開始した。」
b昭和52年1月(乙6の22,2枚目)
「ⅰ)エステル基を安定な官能基への変換
生体内で不安定なエステル基を他の安定な官能基へ変換すべく検
索を開始した。

Rとして,へ変換した化合
thiadiazole,tetrazole,triazole,pyridineetc
物の合成を下記により始めた。」
c昭和52年2月(乙6の23,2~4枚目)
「Ⅰ)エステル基をアミド基への変換
エステル基を他の安定な官能基への変換としてまずアミド基への
bioassayOPC-3457
検討を行った。以前のによりアミド基を有する
は10オーダーでの活性の強さであった。…そこで,本月はアミ
ド誘導体として,イ)無置換アミド,ロ)置換アミド,ハ)
N-N-1
置換アミドの合成を行い,3研生化学へを依頼した。
N,N-2bioassay
その結果が,アミド誘導体における構造と活性の相関として次の2
点が判明した。
a)アミド基として置換体(原文では「置体」となってい
N,N-2
る。)が最上である。
b)骨格は真性体が,ジヒドロ体より良好である。
3,4-

Ⅲ)エステル基を置換テトラゾールへの変換
置換テトラゾール基へ変換した化合物2種のの結果は低
bioassay
活性であったが,テトラゾールがカルボン酸に替り得ると考えられ
るため置換テトラゾールを今後も行う予定である。」
()シロスタミド()の合成
エOPC-3689
そして,昭和52年3月,の活性に劣らない活性を有する
OPC-3162
シロスタミド()を合成した(乙6の24)。
OPC-3689
()コンセプトの再考

上記のシロスタミドの合成成功に先立つ昭和50年から昭和51年に
かけて,海外における研究開発が進み,アラキドン酸代謝物として,
(血小板で産生され,血小板凝集作用と血管収縮作用を示す)と,
TXA2
この作用に拮抗する(血管内皮細胞で産生され,血小板凝集阻害
PGI2
作用と血管拡張作用を示す)が発見され,脈管系の恒常性は,
の両物質のバランスにより保たれていることが判明した(甲
TXA-PGI
7,8)。
これにより,抗血栓剤の開発研究の大勢は,の受容拮抗剤,安
TXA2
定な誘導体を対象とするようになったが,上記のとおり,昭和5
PGI2
2年3月にシロスタミドの合成に成功した被告においては,議論の結果,
その大勢には従うことなく,シロスタミドを参考に探索研究を続けるこ
ととした。しかし,その議論の際,本件研究でのコンセプトが再考され,
従前の,血栓形成に関与する血小板のみに作用する薬剤を目標とするこ
とから,脳血流増加作用(脳血管拡張作用)をも有する化合物を目標と
することとなった(甲7,8)。
また,シロスタミドは,強い血小板凝集阻害活性及び脳血流増加作用
も有していながら,心拍増加作用が強いために,開発が断念されたもの
であるが,シロスタミドで見られたこの心拍増加作用も同時に測定し,
同作用の弱い化合物を選択することが目標に掲げられることとなった
(甲7,8)。
したがって,本件研究は,血小板凝集阻害作用に加えて,脳血管拡張
作用及び心拍上昇抑制作用の3つを目標として進められることとなった。
オテトラゾール誘導体の合成
()テトラゾール誘導体合成の研究

昭和53年6月ころから,本件研究において,シロスタミドに代わる
候補化合物として,テトラゾール誘導体の合成が始められた。そして,
同年7月までの間に,以下の構造で示される化合物の合成が行われ,そ
の結果に基づき,日本国特許権①の出願が行われた(甲4,7,8,乙
6の38,6の39)。
一般式(式中,Rは低級アルキル基
又はシクロアルキル基を示す)で表
されるカルボスチリル誘導体。
この合成の経緯については,合成部門月報において,以下のとおり
記載されている。
a昭和53年6月(乙6の38,2~3枚目)
「A)テトラゾール誘導体の合成
estertypeOPC-3162amide
血小板機能抑制剤の検索においてのから
のへと展開してきた。
typeOPC-3689

との作用機作上の比較をすると,血小板機能抑
OPC-3162OPC-3689
制作用は両者はほぼ同等の活性であるが,阻害作
phosphodiesterase
用はがの約100倍の活性を有している。
OPC-3689OPC-3162
そこで,の基を薬理学的に同等と考えられる
OPC-3162ester
に変換した化合物[Ⅰ]の検討を行った。
tetrazole

基に薬理的に同等と考えられるとして,上記[Ⅱ]の
estertetrazole
RestercarboxylicacidRester
5位()にの部の置換基を1位()に
の部の置換基を有する必要がある。そこで,を,
alcoholREt
とした上記[Ⅰ]を合成目標とした。
cyclohexyl

目的化合物(=)を得た。」
RcyclohexylOPC-3930
b昭和53年7月(乙6の39,2枚目)
「A)誘導体の合成
Tetrazole
先月よりより類推される化合物として側鎖アミド基を
OPC-3689
tetrazoleR=cyclohexyl
に変換した化合物[Ⅰ]の合成を開始し,
()については終え,今月は()につい
OPC-3930R=CHOPC-3931
て行った。」
また,この合成の経緯について,乙,原告及び丙は,本件研究に関
する論文(甲7,8)において,以下のとおり,生物学的等価性
()の観点から進められた旨を説明している。
bioisosterism
bioisosterism
「医薬品化学における古典的な構造変換方法として,
の概念があり,エステル基とアミド基は互いにである。そ
bioisoster
の代表的な例としてカルボン酸(B)とテトラゾール(C)が広
1H-
く知られているが,本探索研究においてはカルボン酸誘導体(D,
例:)が不活性(血小板凝集阻害作用)であるため,この概念は使
41H-
えない。しかしエステル体(E,例:)は高活性であったため,
テトラゾールの1位に置換基を導入した化合物(F)はエステル体
(E)のように活性を示すかも知れないと考え,1位置換テトラゾ
ール誘導体を合成した。
これまでに得られた構造活性相関の知見を参考に,テトラゾールの
1位置換基にアルキル基,シクロアルキル基,フェニル基,シクロ
アルキルアルキル基などを選択して合成し…た。

このようにからの推論は的を射て凝集阻害活性を発現し,
bioisosterism
また目標の脳血流増加作用も有していた…」(甲8,1251~1
252頁)
()シロスタゾールを含む化合物の合成

その後,更に研究が進められ,昭和54年7月,上記のの
OPC-3930
類縁体として,シロスタゾール(6-[4-[1-シクロヘキシルテト
ラゾール-5-イル)ブトキシ]-3,4-ジヒドロカルボスチリル,
以下の図で示される化合物)を含む41個の化合物の合成が行われた
(甲7,8,乙6の51)。
この結果,日本国特許権②の出願が行われる
とともに,日本国特許権①の出願に係る優先権
主張をして,シロスタゾール等の化合物も含め
て(すなわち,日本国特許権①及び②の内容を併せ,かつ,日本国特許
権②より製造方法の特許に関するものを除いて),本件特許の出願が行
われた。
⑵事実認定についての補足
以上の認定事実のうち,カルテオロールに血小板凝集阻害作用があるこ
との発見について,原告は,当該発見をしたのは原告であり,当該発見に
基づく特許の出願(甲10出願)に発明者として記載されている丁ではな
い旨主張する。すなわち,原告は,甲10実験について,カルテオロール
が,後に合成されて本件発明に含まれるシロスタゾールの1000倍ない
し100万倍もの凝集阻害作用を持ち,投与量を増やすと作用が弱くなる
という不自然な結果を示している点等において,看過できない誤りを含ん
でおり,再現性を欠いた,科学的に意味がないものであるから,甲10出
願の明細書の記載をもって,カルテオロールに血小板凝集阻害作用がある
ことの発見を示すものとはいえないとした上,原告が,創意工夫を施して
実験を行ったことにより,初めて,カルテオロールの血小板凝集阻害作用
を実証した旨主張する。また,原告は,甲10出願の明細書に示されたデ
ータは,原告が行った初期実験のデータであり,その点からも原告がカル
テオロールに血小板凝集抑制作用があることを発見した者といえる旨主張
する。
しかしながら,甲10実験の方法が誤ったものであるとしても,甲10
出願の明細書には,カルテオロールに血小板凝集阻害作用があることの着
想は示されており,また,甲10出願の明細書に示された,血小板凝集の
測定方法(アグリゴメーターによる比濁法)は,それ自体として技術的に
誤ったものであると認めるに足りる証拠はない。
したがって,上記実験結果の誤りがあるとしても,丁が,甲10出願に
おいて本件研究の契機となるカルテオロールの血小板凝集阻害作用を発見
したことの科学的,技術的意義が失われるものではないと考えられるから,
原告の上記主張は,その前提において誤認があり,これを採用することは
できない。
なお,甲10出願の明細書に記載されたデータが原告による実験のデー
タであることを示す証拠はなく,また,仮に原告が実験のデータを提供し
たものであるとしても,そのことと,甲10出願の明細書に記載された上
記作用の発見とが直ちに結びつくものといえるか否かも明らかではないか
ら,この点に関する原告の主張も採用することはできない。
⑶検討
以上の認定事実をもとに検討すると,原告は,本件発明の共同発明者であ
るとは認められない。以下詳述する。
ア共同発明者の意義
本件請求は,上記1において検討したとおり,被告規程11条1項に
基づく実績補償金請求として理解されるところ,同項の対象とされてい
るのは,「工業所有権として登録された発明等」,すなわち,本件発明
である。したがって,被告規程11条1項に基づく実績補償金請求権を
有する共同発明者といえるか否かは,本件発明の共同発明者といえるか
否かを検討することとなる。
発明とは,自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものを
いい(特許法2条1項),特許発明の技術的範囲は,特許請求の範囲の
記載に基づいて定めなければならない(同法70条1項)。したがって,
発明者とは,当該特許請求の範囲の記載に基づいて定められた技術的思
想の創作行為に現実に加担したものをいうと解され,当該創作行為につ
いて,補助,助言,資金の提供,命令を下すなどの行為をしたのみでは,
創作行為に加担したということはできない。
これを本件発明についてみると,本件発明は,物質発明及び当該物質
の特定の性質を専ら利用する物の発明(用途発明。請求項25ないし2
8)であるところ,物質発明の本質は,有用な物質の創製,すなわち,
新しい物質が創製されることと,その物質が有用であることにあるとい
うことができる。また,本件の用途発明(請求項25ないし28)は,
既に存在する物質の特定の性質を発見し,それを利用するという意味で
の用途発明ではなく,物質発明に係る物質についてその用途を示す,い
わば物質発明に基づく用途発明であり,その本質は,物質発明の場合と
同様に考えることができる。
そうすると,物質発明及び物質発明に基づく用途発明における共同発
明者,すなわち,当該特許請求の範囲に基づいて定められた技術的思想
の創作行為に現実に加担した者とは,新しい物質の創製,あるいは,有
用性の発見に貢献した者であると解される。そして,物質発明は,本来,
物の発明であって,そこで求められる有用性は,発明の要件ではあるが,
特許請求の範囲に含まれず,また,その物質が化学構造に付随して必然
的に備えている性質であることからすれば,ここで,有用性の発見に貢
献するとは,未だ明らかになっていない有用性を見いだしたり,目標と
する有用性(作用)の設定を行うなどの貢献をしていることを必要とす
るものと解される。
イ物質の創製(合成)への貢献
そこで,まず,原告が,新しい物質の創製,すなわち,合成に貢献し
たといえるか否かについて検討する。
()直接的な貢献の有無

本件研究において,物質の合成そのものを担当していたのは,乙や
丙らの合成系研究者であり,原告は,生物系研究者として,物質の生
物活性測定及びその分析等に従事していたのであるから,直接的な意
味での合成に貢献したとはいえない。
()合成の方向性の示唆の有無

この点,原告は,生物系研究者として重大な構造上の方向性示唆を
行い,また,構造と活性について考察を加えながら一連の生物活性測
定を行っていたのであり,本件発明において,必須の重要な役割を
担っていた,すなわち,合成についての貢献があった旨主張する。
たしかに,原告が指摘するように,生物系研究者が作成した生物部
門月報には,「側鎖の2重結合は効力にあまり影響を与えないが,側
鎖のつく位置は重要でのように5位にしたものでは明らかに
OPC-3399
効力が弱くなっている。骨格はオキシインドール骨格では効力が弱
い。」(乙7の9),「血小板凝集抑制における作用は直鎖型が強い
と思われた。」(乙7の12),「側鎖にテトラゾールを持つ化合物
の中で,抑制効果が強かったのは,,であった。ま
OPC-3988OPC-3971
たの側鎖を5,6,7,8位と換えたものは6位についた
OPC-3971
が最も強く,次いで7位ので,5,8位の
OPC-3971OPC-3953
,はほとんど抑制効果を示さなかった。また今回の
OPC-3996OPC-3997
スクリーニングの中でカルボキシル以外の骨格を有する化合物はほと
んど抑制効果を示さなかった。」(乙7の51の1)等の記載がされ
ており,原告を含む生物系研究者が生物活性測定を行い,それに伴っ
てされた分析と考察とが示されているといえる。
しかし,これらの記載は,測定結果から直接的に読み取ることがで
きる見解を示したものにすぎず,これを超えて,他の生物学的知見・
実験データなどを踏まえた検討を積極的に行って,一定の構造上の方
向性を示すまでのものであるとは認められない。原告が指摘するよう
に,優良な生物活性測定がなされなければ,目標とする化合物にはた
どり着けないのであり,その意味で,優良な測定は合成の方向を誤ら
せない役割を担うものということができるが,それだけでは,合成の
結果を正しく検証するにとどまるのであって,それを超えて,生物学
的知見に基づく一定の有意な選択肢を提示するなどの関与があること
により,合成の方向性を示唆すると評価できるものと考えられる。上
記の記載から,このような示唆を読み取ることはできず,そうであれ
ば,これらの記載から,原告が合成に貢献したものということはでき
ない。
また,他に,構造上の方向性についての原告による示唆を示す証拠
はなく,原告にこの点の貢献があるとは認められない。
なお,原告は,テトラゾール基導入後の化合物構造変換には,アミ
ド体をスクリーニングする過程で得られた構造と生物活性の相関情報
が必須情報として利用されたことを指摘するが,これについても,上
記の検討と同様,構造上の方向性を示唆するとまで認めることはでき
ない。
()測定方法の工夫

また,原告は,甲10出願に示された丁による実験方法の問題点を
認識して,血小板凝集阻害作用に係る測定方法を工夫したのであり,
これにより,本件発明が実現した旨主張する。具体的な工夫としては,
①使用する専用試験管及び攪拌子のサイズを統一して,血液が攪拌さ
れる速度を一定化したこと,②被検サンプルと対照とするサンプルと
を常に時間的に「対」として実験することにより,血小板の凝集活性
が時間とともに変動するという問題を解決し,また,シリコンを調査
購入し,使用するガラス器具の表面処理等により血小板の活性変化そ
のものを最小限に抑えたこと,③同時に複数のテストが可能となるよ
うな測定機械の改良を行い,また,1回の測定に要する血液量を減ら
すような改良を機械メーカーに特注したこと,④ヒトではなくウサギ
の血小板を用いることにより,凝集を計るだけで,凝集と放出の双方
の機能に対する評価を可能としたことを主張する。
たしかに,新規な,あるいは,独自の測定方法を研究開発し,それ
を用いてスクリーニングを行ったのであれば,それをもって,合成へ
の間接的な貢献があったと評価できる場合があると考えられる。
しかしながら,上記2⑴ウ()記載のとおり,原告は,血小板凝集阻

害作用についての測定方法として,[()]
G.V.R.Born:Nature,927-9291962
によって開示された方法に近似した方法に従い,Ⅱ型凝集計
AG-
()を用いて行ったのであり,この方法自体は,
BrystonManufacturingCo.
凝集惹起物質を添加して,試験化合物含有試料と対照試料の透過度を
測定し対比する,公知のものである。そして,原告が指摘する上記の
各工夫のうち,①及び②は,再現性の向上,すなわち,試験化合物含
有試料相互間,あるいは,試験化合物含有試料と対照試料との間で,
試験化合物に起因する以外の因子による影響を少なくすることに関し
て当業者が通常行う程度の工夫である。上記の工夫③及び④について
も,多くの試料を短時間に効率よく測定するための効率性,迅速性の
改良に係る工夫であるということができる。そうすると,いずれの工
夫も,透過度を測定し対比するという,上記測定方法における基本的
枠組を変更するものではないから,これらをもって,測定方法を独自
に考案したと評価することはできない。
他の作用についての測定方法も,公知の方法又はそれに準ずる方法
がとられている(甲1の1,17欄,19欄,20欄,甲26,10,
12頁)。
そうすると,測定方法の観点からの,原告による合成への貢献を認
めることもできない。
ウ有用性の発見への貢献
本件発明の有用性は,本件研究において目標として設定された,血小
板凝集阻害作用,血管拡張作用,心拍上昇抑制作用であると認められる
ところ,そのいずれについても,原告がその設定に関与したことを認め
るに足りる証拠はなく,この点の貢献を認めることはできない。
原告は,カルテオロールに血小板凝集阻害作用があることを発見し,
それが発端となって本件研究が開始されたのであるから,原告が,目標
を血小板凝集阻害作用と設定したと評価できる旨主張する。
しかし,上記2⑴イ(),⑵記載のとおり,カルテオロールに血小板凝

集阻害作用(抗血小板作用)があることは,甲10出願の明細書に開示
されているのであり,その実験結果に誤りがあるとしても,上記明細書
の開示をもって,カルテオロールに血小板凝集阻害作用があることが発
見されたと評価することができ,上記開示は甲10出願の出願時に発明
者として示された丁によってなされたと認められるのであって,原告の
前記主張を採用することはできない。
また,血管拡張作用,心拍上昇抑制作用については,原告がその目標
設定に関与したことをうかがわせる証拠がないだけでなく,かえって,
上記2⑴で認定した事実によれば,昭和50年から昭和51年にかけて
の,(血小板で産生され,血小板凝集作用と血管収縮作用を示す)
TXA2
及び(血管内皮細胞で産生され,血小板凝集阻害作用と血管拡張作
PGI2
用を示す)の発見並びに脈管系の恒常性がの両物質のバランス
TXA-PGI
により保たれていることの解明を契機として,本件研究において血管拡
張作用が目標に加えられたと考えられるのであるし,心拍上昇抑制作用
については,その後間もなくして合成されたシロスタミドの副作用とし
て検出されていたことから,この副作用の発現を回避すべく設定された
ものとうかがえるところである。
さらに,原告は,脳血流増加作用,血小板凝集阻害作用及び心拍数増
加指標という3要件の関係を明解に表した「代表的化合物のスクリーニ
ング結果」の図を編み出して,これらの目標を達成する化合物の選択と
いう困難な課題の解決に貢献した旨主張するところ,原告が,上記の3
要件の関係を表した図を作成したことがあるとしても,同図の作成が,
これらの作用を目標として設定することに実質的に関与したことを示す
ものであるとは認めることができない。
したがって,有用性の発見に対する原告の貢献も,認めることはでき
ない。
エその他原告の主張
()他の特許における発明者の範囲との整合性

原告は,被告が有している甲12特許(特許第2964029号)
については,同特許に係る発明と本件発明の過程はほとんど同じであ
るにもかかわらず,甲12特許では原告も共同発明者とされているの
であり,この場合の取扱いとの整合性からも,原告は本件発明の共同
発明者と考えられるべきである旨主張する。
甲12特許は,本件特許と同様,カルボスチリル誘導体に関するも
のであるが,本件発明の誘導体群とは構造が異なっており(甲12),
甲12特許の明細書においては,本件特許にはない「血管内膜肥厚抑
制作用」が掲げられている(甲12,【0026】【0027】)。
これらの点に係る貢献があれば,それによって,共同発明者となり得
ることは,上記において検討しているとおりである。
そうすると,発明に至る経緯に共通する部分があったとしても,そ
れだけで,本件発明において,甲12特許と同様に共同発明者とされ
るべきであるということはできず,他に,原告が,甲12特許におい
て共同発明者とされたことから本件特許においても共同発明者とされ
るべき旨の合理的根拠についての主張立証はないから,原告の上記主
張を採用することはできない。
()乙及び丙の認識

原告は,本件発明の共同発明者とされている乙及び丙が,原告の貢
献の大きさを認め,原告が共同発明者である旨認識しており,このこ
とからも,原告が共同発明者としての貢献を行ったものである旨主張
する。
この点,本件発明の過程において,原告を含む生物系研究者が生物
活性測定やその分析等において一定の役割を果たしていたことは上記
のとおりであり,乙及び丙がこれらを評価していたことはうかがわれ
るが,原告(を含む生物系研究者)のこうした関与が,本件発明の共
同発明者と認めるに足りるものではないことは既に述べたとおりであ
り,その他,原告が,上記アで述べた共同発明者と評価できるだけの
貢献をしたと認めることもできない。
したがって,乙及び丙の認識という主観的事情に基づいて,原告の
共同発明者性を認めることは相当ではない。
()原告が被告社内あるいは外部において表彰等を受けていること

原告は,平成元年に,被告において,「第25期社長賞」を受賞し
ていること,及び,平成12年に,財団法人日本薬学会の「平成12
年度技術賞」を受賞していることも,原告が共同発明者であることを
示すものである旨主張する。
しかし,被告における「第25期社長賞」は,「血小板凝集抑制作
用の生化学的な解明につとめ抗血小板薬プレタールの特性を発見」し
たことが受賞内容となっている(甲15)ところ,血小板凝集抑制作
用の生化学的な解明やプレタールの特性の発見は,本件発明における
新規物質の合成や有用性の発見ということとは異なるものである。す
なわち,本件発明により合成された新規物質の血小板凝集抑制作用の
生化学的解明と,同物質の中から実際の薬剤として選択されたシロス
タゾールを有効成分とするプレタールの特性を解明することは,物質
の発明そのものではなく,本件発明によって合成された物質のうちの
シロスタゾールに関する研究成果を示すものである。したがって,こ
のことから,上記において検討した本件発明への貢献が直ちに導き出
されるものではない。
また,平成12年度技術賞についても,「抗血小板剤シロスタゾー
ルの研究開発」が受賞内容となっており(甲16),上記社長賞と同
様,本件発明とはその内容を異にするシロスタゾールの研究開発をも
含むものであるから,上記社長賞と同様,この受賞内容をもって,原
告が本件発明の共同発明者であるとの結論を導くことはできない。
()原告によるシロスタゾールを含む化合物群の物質特許に関する学術

論文等の著作
原告は,シロスタゾールを含む化合物群の物質特許に関する学術論
文等を著作しており,このことにより,原告が共同発明者であること
が裏付けられる旨主張するが,上記()記載の受賞の場合と同様に,本

件発明とその内容を異にするシロスタゾールを含む化合物群に関する
学術論文の著作をもって,上記において検討した,本件発明の共同発
明者性を認めることはできないから,原告の同主張を採用することは
できない。
3まとめ
上記2において検討したとおり,本件発明について原告が共同発明者であ
ると認めることはできないので,争点3について論ずるまでもなく,原告の
請求はいずれも理由がないことになる。
第4結論
以上の次第で,原告の主位的請求,予備的請求のいずれも理由がないから,
これらを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第29部
裁判長裁判官清水節
裁判官山田真紀
裁判官片山信
(別紙)
米国特許第4,277,479号特許請求の範囲
1一般式の化合物
(Ⅰ)
ここでは水素原子,低級アルキル基,低級アルケニル基,低級アルカノイル基,ベン
R
ゾイル基またはフェニル-アルキル基である。は水素原子,低級アルキル基または次
CR
式で示される基である。
は低級アルキル基,のシクロアルキル基,のシクロアルキル-アルキル基,
RCCC
フェニル基またはフェニル-アルキル基であって,は低級アルキレン基であって,カ
CA
ルボスチリルの3位と4位の間の炭素-炭素結合は一重結合または二重結合を示す。そして,

で示される基のカルボスチリル骨格上の置換位置は4,5,6,7位または8位であって,
これらの置換基はカルボスチリル骨格上に1個のみ置換可能である。したがって,4位の
が式
R
である場合は5,6,7位または8位にはこの置換基が置換することはない。さらに,前記
のベンゾイル基,フェニル-アルキル基あるいはフェニル基におけるフェニル環上に低
C1-4
級アルコキシ基,低級アルキル基,ハロゲン,ジ低級アルキルアミノ基,ニトロ基,そして
低級アルケンジオキシ基から選択された基を含んでいても良い。
2クレーム1に従った一般式(Ⅰ)の化合物の次式の置換位置はカルボスチリル骨格の5位
である。
3クレーム2に従った一般式(Ⅰ)の化合物のはシクロアルキル基あるいはシク
RCC
ロアルキル-アルキル基である。
C1-4
4クレーム2に従った一般式(Ⅰ)の化合物のは低級アルキル基またはフェニル-ア
RC
ルキル基であり,その基は低級アルコキシ基,低級アルキル基,ハロゲン,ジ低級アルキル
アミノ基,ニトロ基,そして低級アルケンジオキシ基,フェニル基から選択された基を含ん
でいてもよい。そしてそのフェニル基は低級アルコキシ基,低級アルキル基,ハロゲン,ジ
低級アルキルアミノ基,ニトロ基,そして低級アルケンジオキシ基から選択された基を含ん
でいてもよい。
5クレーム1に従った一般式(Ⅰ)の化合物の次式の置換位置はカルボスチリル骨格の6位
である。
6クレーム5に従った一般式(Ⅰ)の化合物のはシクロアルキル基あるいはシク
RCC
ロアルキル-アルキル基である。
C1-4
7クレーム5に従った一般式(Ⅰ)の化合物のは低級アルキル基またはフェニル-ア
RC
ルキル基であり,その基は低級アルコキシ基,低級アルキル基,ハロゲン,ジ低級アルキル
アミノ基,ニトロ基,そして低級アルケンジオキシ基,フェニル基から選択された基を含ん
でいてもよい。そしてそのフェニル基は低級アルコキシ基,低級アルキル基,ハロゲン,ジ
低級アルキルアミノ基,ニトロ基,そして低級アルケンジオキシ基から選択された基を含ん
でいてもよい。
8クレーム1に従った一般式(Ⅰ)の化合物の次式の置換位置はカルボスチリル骨格の4,
7または8位である。
9クレーム8に従った一般式(Ⅰ)の化合物のはシクロアルキル基あるいはシク
RCC
ロアルキル-アルキル基である。
C1-4
10クレーム8に従った一般式(Ⅰ)の化合物のは低級アルキル基またはフェニル-
RC
アルキル基であり,その基は低級アルコキシ基,低級アルキル基,ハロゲン,ジ低級アルキ
ルアミノ基,ニトロ基,そして低級アルケンジオキシ基,フェニル基から選択された基を含
んでいてもよい。そしてそのフェニル基は低級アルコキシ基,低級アルキル基,ハロゲン,
ジ低級アルキルアミノ基,ニトロ基,そして低級アルケンジオキシ基から選択された基を含
んでいてもよい。
116-[3-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]カルボスチ
.
リル
.
126-[3-(1-ベンジルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]カルボスチリル
135-[3-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]-3,4-
.
ジヒドロカルボスチリル
.
146-[3-(1-フェニルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]カルボスチリル
154-メチル-6-[3-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)プロポキ
.
シ]カルボスチリル
166-[3-(1-シクロヘキシルメチルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]カル
.
ボスチリル
176-[3-(1-シクロオクチルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]カルボスチ
.
リル
186-[3-(1-シクロペンチルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]カルボスチ
.
リル
196-[4-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)ブトキシ]カルボスチリ
.

206-[3-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]-3,4-
.
ジヒドロカルボスチリル
216-[3-(1-シクロヘキシルメチルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]-3,
.
4-ジヒドロカルボスチリル
227-[3-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]-3,4-
.
ジヒドロカルボスチリル
238-[3-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]-3,4-
.
ジヒドロカルボスチリル
244-[3-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)プロポキシ]-カルボス
.
チリル
25クレーム1の一般式(Ⅰ)の化合物の薬理活性を有する量の成分と薬物として可能な担
体を含む血小板凝集阻害剤
26クレーム1の一般式(Ⅰ)の化合物の薬理活性を有する量の成分と薬物として可能な担
体を含むフォスフォジエステラーゼ阻害剤
27クレーム1の一般式(Ⅰ)の化合物の薬理活性を有する量の成分と薬物として可能な担
体を含む脳血流改善剤
28クレーム1の一般式(Ⅰ)の化合物の薬理活性を有する量の成分と薬物として可能な担
体を含む降圧剤
以上
(別紙)
特許第1471849号特許請求の範囲
1一般式:
[式中,は水素原子,低級アルキル基,低級アルケニル基,低級アルカノイル基,ベ
R
ンゾイル基またはフエニルアルキル基であり,は水素原子,低級アルキル基または式:
R
(式中,はシクロアルキル基,は低級アルキレン基)
R'A
で示される基であり,は水素原子または式:
Z
(式中,は低級アルキル基,シクロアルキル基,シクロアルキルアルキル基,フエニ
R
ル基またはフエニルアルキル基,は低級アルキレン基)
A
で示される基であつて,その置換位置は5,6,7または8位であり,カルボスチリルの3
位と4位の炭素間結合は一重結合または二重結合を示す。更に上記のベンゾイル基,フエニ
ルアルキル基およびフエニル基のフエニル環は置換基を有していてもよい。ただし,が式
Z

で示される基である時は,は水素原子または低級アルキル基であり,が水素原子の時は,
RZ
は式:
R
で示される基であり,また,およびが水素原子,がトリメチレン基,式:
RRA
で示されるの置換位置がカルボスチリルの6位であつて,カルボスチリルの3位と4位の
Z
炭素間結合が二重結合を示す場合には,は低級アルキル基またはシクロアルキル基以外
R
の基である]
で示される化合物。
2該化合物が6-[4-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)ブトキシ]-3,
4-ジヒドロカルボスチリルである前記第1項の化合物。
3一般式:
[式中,は水素原子,低級アルキル基,低級アルケニル基,低級アルカノイル基,ベ
R
ンゾイル基またはフエニルアルキル基であり,は水素原子または低級アルキル基であり,
R
は式:
Z
(式中,は低級アルキル基,シクロアルキル基,シクロアルキルアルキル基,フエニ
R
ル基またはフエニルアルキル基,は低級アルキレン基)
A
で示される基であつて,その置換位置は5,6,7または8位であり,カルボスチリルの3
位と4位の炭素間結合は一重結合または二重結合を示す。更に上記のベンゾイル基,フエニ
ルアルキル基およびフエニル基のフエニル環は置換基を有していてもよい。ただし,お
R
よびが水素原子,がトリメチレン基,式:
RA
で示されるの置換位置がカルボスチリルの6位であつて,カルボスチリルの3位と4位の
Z
炭素間結合が二重結合を示す場合には,は低級アルキル基またはシクロアルキル基以外
R
の基である]
で示される化合物を有効成分とする抗血栓剤。
4該化合物が6-[4-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)ブトキシ]-3,
4-ジヒドロカルボスチリルである前記第3項の抗血栓剤。
5一般式:
[式中,は水素原子であり,は水素原子であり,は式:
RRZ
(式中,はシクロアルキル基,シクロアルキルアルキル基,フエニル基またはフエニ
R
ルアルキル基,は低級アルキレン基)
A
で示される基であつて,その置換位置は6位であり,カルボスチリルの3位と4位の炭素間
結合は一重結合または二重結合を示す。ただし,がトリメチレン基であつて,カルボスチ
A
リルの3位と4位の炭素間結合が二重結合を示す場合には,は低級アルキル基またはシ
R
クロアルキル基以外の基である]
で示される化合物を有効成分とする脳循環改善剤。
6該化合物が6-[4-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)ブトキシ]-3,
4-ジヒドロカルボスチリルである前記第5項の脳循環改善剤。
7一般式:
[式中,およびカルボスチリルの3位と4位の炭素間結合は後記と同じであり,は水
RZ'
素原子またはヒドロキシ基であり,は水素原子,低級アルキル基またはヒドロキシ基であ
R'
る。ただし,ととはいずれか一方がヒドロキシ基であり,かつ,両者が共に水素原子
Z'R'
であることはない]
で示されるヒドロキシカルボスチリルと一般式:
[式中,およびは後記に同じであり,はハロゲン原子である]
RAX
で示されるテトラゾール誘導体とを反応させることを特徴とする一般式:
[式中,は水素原子,低級アルキル基,低級アルケニル基,低級アルカノイル基,ベ
R
ンゾイル基またはフエニルアルキル基であり,は水素原子,低級アルキル基または式:
R
(式中,はシクロアルキル基,は低級アルキレン基)
R'A
で示される基であり,は水素原子または式:
Z
(式中,は低級アルキル基,シクロアルキル基,シクロアルキルアルキル基,フエニ
R
ル基またはフエニルアルキル基,は低級アルキレン基)
A
で示される基であつて,その置換位置は5,6,7または8位であり,カルボスチリルの3
位と4位の炭素間結合は一重結合または二重結合を示す。更に上記のベンゾイル基,フエニ
ルアルキル基およびフエニル基のフエニル環は置換基を有していてもよい。ただし,が式
Z

で示される基である時は,は水素または低級アルキルであり,が水素原子の時は,
RZR
は式:
で示される基であり,また,およびが水素原子,がトリメチレン基,式:
RRA
で示されるの置換位置がカルボスチリルの6位であつて,カルボスチリルの3位と4位の
Z
炭素間結合が二重結合を示す場合には,は低級アルキル基またはシクロアルキル基以外
R
の基である]
で示される化合物の製造法。
8式:
で示される化合物を,式:
(式中,はハロゲン原子である)
X
で示される化合物と反応させて,式:
で示される6-[4-(1-シクロヘキシルテトラゾール-5-イル)ブトキシ]-3,4
-ジヒドロカルボスチリルを製造する前記第7項の製造法。
以上

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