弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1(A事件)
(1)処分行政庁が原告に対し,平成17年2月10日付けでした別紙物件目
録記載の各不動産に係る平成14年度分の固定資産税賦課処分(ただし,平
成17年9月9日付け減額賦課決定処分(17台税固賦第134号)及び平
成19年3月9日付け減額賦課決定処分(18台税固賦第1341号)によ
り減額された後のもの)のうち,税額32万6400円を超える部分を取り
消す。
(2)処分行政庁が原告に対し,平成17年2月10日付けでした別紙物件目
録記載の各不動産に係る平成15年度分の固定資産税賦課処分(ただし,平
成17年9月9日付け減額賦課決定処分(17台税固賦第135号)及び平
成19年3月9日付け減額賦課決定処分(18台税固賦第1342号)によ
り減額された後のもの)のうち,税額31万3500円を超える部分を取り
消す。
(3)処分行政庁が原告に対し,平成17年2月10日付けでした別紙物件目
録記載の各不動産に係る平成16年度分の固定資産税賦課処分(ただし,平
成17年9月9日付け減額賦課決定処分(17台税固賦第136号)及び平
成19年3月9日付け減額賦課決定処分(18台税固賦第1343号)によ
り減額された後のもの)のうち,税額31万3300円を超える部分を取り
消す。
2(B事件)
処分行政庁が原告に対し,平成18年6月1日付けでした別紙物件目録記載
の各不動産に係る平成18年度分の固定資産税賦課処分(ただし,平成18年
9月8日付け減額賦課決定処分(18台税固賦第00269号)及び平成19
年3月9日付け減額賦課決定処分(18台税固賦第01345号)により減額
された後のもの)のうち,税額100万6100円を超える部分を取り消す。
第2事案の概要
本件は,博物館を設置し有形文化財を公衆の観覧に供する事業等を行うこと
を目的とする独立行政法人である原告の所有不動産のうち,レストラン営業や
物品販売に使用する目的で契約により他の会社等に貸し付けられた部分が固定
資産税の課税対象であるとして,処分行政庁が固定資産税の賦課処分を行った
ことから,同部分は課税対象ではないと主張する原告が,当該処分(ただし,
減額賦課決定処分により一部取り消された後のもので,原告が課税対象である
ことを争わない部分に係る税額を超える部分に限る)の取消しを求めている。
事案である。
1関係法令の定め
(1)独立行政法人・原告の設立根拠の関係規定
ア独立行政法人とは,国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から
確実に実施されることが必要な事務及び事業であって,国が自ら主体とな
って直接に実施する必要はないが,民間の主体にゆだねた場合には必ずし
も実施されないおそれがあるか,又は一の主体に独占して行わせることが
必要であるものについて,これを効率的かつ効果的に行わせることを目的
として,独立行政法人通則法等の定めるところにより設立される法人であ
る(独立行政法人通則法2条1項。)
イ原告は,博物館を設置して有形文化財を収集し,保管して公衆の観覧に
供するとともに,文化財に関する調査及び研究等を行うことにより,貴重
な国民的財産である文化財の保存及び活用を図ることを目的として設立さ
れた独立行政法人である(独立行政法人国立文化財機構法3条。)
(2)独立行政法人所有の固定資産に係る固定資産税の関係規定
ア市町村は,非課税独立行政法人(その資本金の額若しくは出資金の額の
全部が国により出資されることが法律において定められているもの又はこ
れに類するものであつて,その実施している業務のすべてが国から引き継
がれたものとして総務大臣が指定したものをいう)が所有する固定資産。
(当該固定資産を所有する非課税独立行政法人以外の者が使用しているも
のその他の政令で定めるものを除く)に対しては,固定資産税を課する。
ことができない(地方税法348条6項,25条1項,地方税法施行令5
1条の16の2第1項。)
イ固定資産税の標準税率は,100分の1.4とする(地方税法350条
1項。)
(3)国所有の固定資産に係る固定資産税及び「国有資産等所在市町村交付金
及び納付金に関する法律」の関係規定
,,,,,,ア市町村は国並びに都道府県市町村特別区これらの組合財産区
地方開発事業団及び合併特例区に対しては,固定資産税を課することがで
きない(地方税法348条1項。)
イ国又は地方公共団体は,毎年度,当該年度の初日の属する年の前年の3
月31日現在において所有する固定資産で,当該固定資産を所有する国又
は地方公共団体以外の者が使用しているものにつき,当該固定資産所在の
市町村に対して,国有資産等所在市町村交付金(以下「市町村交付金」と
いう)を交付する(国有資産等所在市町村交付金及び納付金に関する法。
律(以下「交納付金法」という)2条1項1号。。)
ウ市町村交付金として交付すべき金額は,固定資産の価格にそれぞれ10
0分の1.4を乗じて得た額とする(交納付金法3条1項,2項。)
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記の証拠及び弁論の全趣旨に
より容易に認められる事実)
(1)当事者及び本件各不動産の所有関係
ア原告は,平成13年4月1日,独立行政法人国立博物館法に基づいて設
立された独立行政法人であって,総務大臣が指定した非課税独立行政法人
である。なお,原告は,平成19年4月1日,独立行政法人国立博物館法
の一部を改正する法律(平成19年法律第7号)の施行に伴い,独立行政
法人文化財研究所の権利・義務の一部を承継するとともに,その名称を独
立行政法人国立博物館から独立行政法人国立文化財機構に改めたものであ
る(同時に「独立行政法人国立博物館法」であった法律の題名も「独立行
政法人国立文化財機構法」と改められている。。)
イ別紙物件目録1記載の土地(以下「本件土地」という)及び同土地上。
に存する同目録2から5まで記載の各建物(以下,それぞれ同目録の各番
号に付記してある名称で特定することがあり,本件土地と併せて「本件各
不動産」という)は,国がもと所有していたところ,平成13年4月1。
日に原告(当時の名称・独立行政法人国立博物館)が設立されたことに伴
い,原告が出資を原因としてその所有権を取得したものである(乙2の1
∼5,25の1∼5。)
(2)本件課税の経緯
ア平成14年度分から平成16年度分までに係る課税処分関係
(ア)当初の賦課処分
a東京都知事は,平成17年1月31日付けで,本件各不動産のうち
課税対象部分に係る価格(平成14年度分から平成16年度分まで)
を決定した。処分行政庁は,同日,当該価格を固定資産課税台帳に登
録するとともに,そのころ,原告に対し同価格等の決定を通知した。
b処分行政庁は,原告に対し,平成17年2月10日付けで,本件各
不動産に係る平成14年度分から平成16年度分までの各固定資産税
の賦課処分を行い,その旨通知した。
各年度分の税額は以下のとおりである。
平成14年度分258万2200円
平成15年度分253万2800円
平成16年度分253万2800円
c上記の価格の決定及び税額の決定は,①建物については,賃付契約
に基づいて原告以外の者が使用しているものと認定した部分を課税対
象とし,②土地のうち,上記①の建物の敷地相当部分については,当
該建物の建築面積を0.7(建ぺい率等を考慮して設定した割合)で
除して得られた敷地相当地積に,当該建物の総床面積に対して上記①
の課税対象となる部分の床面積が占める割合を乗じて得られた地積を
課税対象地積とし,③土地のうち,屋外を原告以外の者が使用してい
るものと認定した部分については,賃付契約における貸付地積をその
まま課税対象地積とすることにより,算定されたものである。
(イ)第1次減額処分
a処分行政庁は,平成17年8月31日,本件各不動産のうち課税対
象部分に係る価格(平成14年度分から平成16年度分まで)を修正
することを決定し,同日,当該価格を固定資産課税台帳に登録すると
ともに,そのころ,原告に対し同価格等修正の決定を通知した。
b処分行政庁は,原告に対し,平成17年9月9日付けで,本件各不
動産に係る平成14年度分から平成16年度分までの固定資産税の減
額賦課処分(この項アにおいて,以下「第1次減額処分」という)。
を行い,その旨通知した。
減額後の各年度分の税額は以下のとおりである。
平成14年度分242万3800円
平成15年度分236万1800円
平成16年度分240万3800円
cこれらの価格の修正及び税額の減額は,①資料館(建物)のうち,
P1株式会社が自動販売機を設置して使用したとされていた部分を非
課税対象に変更し(ただし,平成14年度分に限る,②平成館(建。)
),(「」。)物のうち東京都国立博物館運営協力会以下協力会という
が刊行物等の販売のために使用した部分及び特別展ショップのために
使用した部分として,当初の賦課処分では37.25平方メートルを
課税対象としていたところ,平成14年度分では課税対象なし,平成
15年度分では課税対象21.65平方メートル,平成16年度分で
は課税対象34.76平方メートルに変更するなど,課税対象として
いた建物の部分の一部を非課税対象に改めたことによるものである。
なお,これに伴い,本件土地のうち,非課税対象に改められた建物の
部分に対応する敷地対象地積から得られた課税対象地積(前記(ア)c
②)についても,非課税対象に改められている。
(ウ)第2次減額処分
a処分行政庁は,平成19年2月28日,本件各不動産のうち課税対
象部分に係る価格(平成14年度分から平成16年度分まで)の修正
を決定し,同日,当該価格を固定資産課税台帳に登録するとともに,
原告に対し同価格等修正の決定を通知した。
b処分行政庁は,原告に対し,平成19年3月9日付けで,本件各不
動産に係る平成14年度分から平成16年度分までの固定資産税の減
額賦課処分(この項アにおいて,以下「第2次減額処分」という)。
を行い,その旨通知した。
減額後の各年度分の税額は以下のとおりである。
平成14年度分231万5200円
平成15年度分218万4000円
平成16年度分217万9700円
cこれらの価格の修正及び税額の減額は,①平成館(建物)のうち協
力会が特別展ショップのため使用した部分,並びに②東洋館(建物)
厨房棟のうち株式会社P2(以下「P2」という)が賃付契約に基。
づいて使用している部分と一体として利用している,ファンルーム部
分及び便所部分について,課税対象としていたものを非課税対象に改
めたことによるものである。なお,これに伴い,本件土地のうち,非
課税対象に改められた建物の部分に対応する敷地対象地積から得られ
た課税対象地積(前記(ア)c②)も非課税対象に改められている。
(エ)不服申立て及び訴訟提起
原告は,平成17年4月13日,東京都知事に対し,本件各不動産に
係る平成14年度分から平成16年度分までの各固定資産税の賦課処分
の取消しを求めて審査請求をしたが,東京都知事は,平成17年9月1
2日付けで,当該審査請求をいずれも棄却する旨の裁決をした(甲3,
6。)
原告は,平成18年3月13日,本件各不動産に係る平成14年度分
から平成16年度分までの各固定資産税の賦課処分(ただし,第1次減
額処分により減額された後のもの)の取消しを求めて,訴えを提起し。
た(A事件。なお,原告は,第2次減額処分がされたこと等に伴い,)
訴えの変更をした。
イ平成18年度分に係る課税処分
(ア)当初の賦課処分
a東京都知事は,平成18年3月31日,本件各不動産のうち課税対
象部分に係る価格(平成18年度分)を決定した。処分行政庁は,同
日,当該価格を固定資産課税台帳に登録し,同年4月3日,同価格等
を固定資産課税台帳に登録した旨の公示を行った。
b処分行政庁は,原告に対し,平成18年6月1日付けで,本件各不
動産に係る平成18年度の固定資産税の賦課処分(以下「平成18年
度分に係る本件賦課処分」という)を行い,その旨通知した。。
その税額は次のとおりである。
平成18年度分297万5800円
c上記の価格の決定及び税額の決定は,前記ア(ア)cと同様の根拠に
基づいて,算定されたものである。
(イ)第1次減額処分
a処分行政庁は,平成18年8月31日,本件各不動産のうち課税対
象部分に係る価格の修正を決定し,同日,当該価格を固定資産課税台
帳に登録するとともに,原告に対し固定資産税価格等修正通知書を送
付した。
b処分行政庁は,原告に対し,平成18年9月8日付けで,本件各不
動産に係る平成18年度の固定資産税の減額賦課処分(この項イにお
いて,以下「第1次減額処分」という)を行い,その旨通知した。。
減額後の税額は次のとおりである。
平成18年度分297万1800円
cこれらの価格の修正及び税額の減額は,①平成館(建物)のうち協
力会が特別展ショップのため使用した部分の一部,及び②東洋館(建
物)本館のうち協力会が商品見本ケース設置のため使用した部分につ
いて,課税対象としていたものを非課税対象に改めたことによるもの
である。なお,これに伴い,本件土地のうち,非課税対象に改められ
た建物の部分に対応する敷地対象地積から得られた課税対象地積(前
記ア(ア)c②)も非課税対象に改められている。
(ウ)第2次減額処分
a処分行政庁は,平成19年2月28日,本件各不動産のうち課税対
象部分に係る価格の修正を決定し,同日,当該価格を固定資産課税台
帳に登録するとともに,原告に対し固定資産税価格等修正通知書を送
付した。
b処分行政庁は,原告に対し,平成19年3月9日付けで,本件各不
動産に係る平成18年度の固定資産税の減額賦課処分(この項イにお
いて,以下「第2次減額処分」という)を行い,その旨通知を送付。
した。
減額後の税額は次のとおりである。
平成18年度分276万1800円
cこれらの価格の修正及び税額の減額は,前記ア(ウ)cと同様の理由
によるものである。
(エ)不服申立て及び訴訟提起
原告は,平成18年7月31日,東京都知事に対し,平成18年度分
,,に係る本件賦課処分の取消しを求めて審査請求をしたが東京都知事は
平成18年10月19日付けで,当該審査請求を棄却する旨の裁決をし
た(甲43,46。)
原告は,平成19年4月16日,平成18年度分に係る本件賦課処分
(ただし,第1次減額処分及び第2次減額処分により減額された後のも
の)の取消しを求めて,訴えを提起した(B事件。。)
3被告の主張する本件課税処分の税額等の計算根拠
(1)本件各不動産のうち,被告の主張する固定資産税の課税対象となる部分
及びその床面積・地積は,別紙「独立行政法人国立博物館課税対象部分一覧
表」の「平成19年3月9日賦課決定後」欄記載のとおりであり,その評価
額,課税標準額及びこれに対応する税額は,別紙「独立行政法人国立博物館
税額一覧表」の「平成19年3月9日賦課決定後」欄記載のとおりである。
また,本件土地のうち,被告の主張する課税対象となる建物部分の敷地相当
部分として課税対象地積としたものの算定方法は,別紙「課税対象家屋の敷
地相当地積算定一覧表」記載のとおりである。
(2)原告は,被告の主張する上記課税対象となる部分のうち,①社団法人P
3に対して貸し付けた平成館(建物)の1階の一部(P3事務室)44.7
7平方メートル及びこれに対応する敷地相当部分,②P4株式会社に対して
貸し付けた本件土地の一部(駅舎用地)144.84平方メートル,並びに
③株式会社P5に対して貸し付けた本件土地の一部287.94平方メート
ル(ただし,平成18年度分に限る)が固定資産税の課税対象となること。
については,いずれも争っていない。
そして,本件各不動産について,原告が課税対象であることを争っている
部分を,課税対象に含めた場合の固定資産税の課税標準及び税額が上記(1)
のとおりとなることは,弁論の全趣旨により認められる。
4争点(争点に対する摘示すべき当事者の主張は,後記第3「争点に対する判
断」において記載するとおりである)。
原告から貸付契約に基づいて他の会社等に貸し付けられレストラン営業,物
品販売(自動販売機の設置の方法によるものを含む)に使用されている本件。
各不動産の部分(ただし,原告が課税対象であることを争わない部分(上記3
(2))を除く。以下「本件各貸付部分」という)は,地方税法348条6項に。
いう「当該固定資産を所有する非課税独立行政法人以外の者が使用しているも
の」に当たり,固定資産税を課することができるか。
第3争点に対する判断
1地方税法348条6項は,非課税独立行政法人の所有する固定資産について
は,原則として,固定資産税を課さないものとしている。これは,独立行政法
人が公共性の高い業務を行うことを予定されており,特に,資本金の額等が全
額国の出資によっており,その実施している業務のすべてが国から引き継がれ
たもの(非課税独立行政法人)にあっては,その業務の円滑・確実な実施とい
う観点から,課税関係においても可能な限りこれを国と同視することの必要性
・相当性が認められることによるものと考えられる。
他方,非課税独立行政法人の所有する固定資産であっても,当該法人以外の
使用するものにあっては,固定資産税の課税対象になるものとしている。これ
は,私人の通常の固定資産と同様の状態で使用されているものについてまで非
課税とするのは,その使用の実態に照らして均衡を欠き相当でないことによる
ものと考えられる。そうすると,非課税独立行政法人の所有する固定資産であ
って,当該法人以外の者が契約等による独立した権限に基づいて使用している
ものと認められるならば,法律的性質からみても,また,外形的にみても,そ
の使用の実態において,私人の通常の固定資産の使用との間に差異はなく,固
定資産税の課税対象になるものというべきである。
2本件各貸付部分に係る契約内容は以下のとおりである。
(1)原告とP1株式会社とは,平成16年4月1日付けで,資料館(建物)
1階の一部0.67平方メートルにつき「自動販売機設置」の用に供する,
ものとし,貸付期間を平成16年4月1日から平成18年3月31日までの
2年間,貸付料を1年1万0229円(消費税及び地方消費税を含む)と。
定めて貸付契約を締結した(乙8。)
(2)原告と協力会とは,平成16年4月1日付けで,法隆寺宝物館(建物)
2階の一部1.28平方メートル,平成館(建物)中2階の一部0.87平
方メートル東洋館建物本館1階7067平方メートル等につき刊,().,「
行物等の販売並びにこれに伴う経理事務のため」の用に供するものとし,貸
付期間を平成16年4月1日から平成17年3月31日まで,同期間の貸付
料を430万1614円(消費税及び地方消費税を含む)などと定めて貸。
付契約を締結した(乙10。)
(3)原告とP6株式会社とは,平成16年4月1日付けで,平成館(建物)
1階及び3階並びに本館建物地下1階の一部合計7.02平方メートル並び
に本件土地4.05平方メートルにつき「自動販売機設置」の用に供する,
ものとし,貸付期間を平成16年4月1日から平成18年3月31日までの
2年間,貸付料を平成16年度38万9588円,平成17年度38万99
33円(いずれも消費税及び地方消費税を含む)などと定めて貸付契約を。
締結した(乙12。)
なお,被告は,上記本館建物については重要文化財に指定されており,地
方税法348条2項8号により非課税とされていることから,上記の建物の
貸付部分の床面積合計を,平成館と本館それぞれに設置されている自動販売
機の台数の割合で案分して得られた平成館の床面積相当分5.60平方メー
トルを課税対象と認定したものである。
(4)原告とP2とは,平成16年4月1日付けで,東洋館(建物)厨房棟1
階の一部94.80平方メートル及び同付属棟1階の一部408.26平方
メートルにつき「一般観覧者および職員向け軽飲食の調理提供」の用に供,
するものとし,貸付期間を平成16年4月1日から平成18年3月31日ま
での2年間,貸付料を1年につき372万7725円(消費税及び地方消費
税を含む)と定めて(ただし,上記付属棟に関しては無償貸付)貸付契約。
を締結した(乙13。)
なお,被告は,上記東洋館付属棟に係る貸付面積のうち,屋内部分である
307.00平方メートルのみを建物の貸付部分とみて課税対象と認定し,
その余の101.26平方メートルについては,屋外のテラス部分であるこ
とから,本件土地のうち当該地積を別途課税対象と認定したものである。
(5)原告と株式会社P7とは平成16年4月1日付けで法隆寺宝物館建,,(
物)1階の一部173.16平方メートルにつき「一般観覧者および職員,
向け軽飲食の調理提供」の用に供するものとし,貸付期間を平成16年4月
1日から平成18年3月31日までの2年間,貸付料を1年につき219万
2520円(消費税及び地方消費税を含む)と定めて(ただし,賃貸部分。
のうち147.24平方メートルに関しては無償貸付)貸付契約を締結した
(乙14。)
なお,被告は,上記法隆寺宝物館にかかる貸付面積のうち,屋内部分であ
る88.68平方メートルのみを建物の貸付部分とみて課税対象と認定し,
その余の84.48平方メートルについては,屋外のテラス部分であること
から,本件土地のうち当該地積を別途課税対象と認定したものである。
(6)原告と株式会社P8とは,平成16年4月1日付けで,本件土地の一部
3.00平方メートルにつき「自動販売機設置」の用に供するものとし,,
貸付期間を平成16年4月1日から平成18年3月31日までの2年間,貸
付料を1年につき3万2262円(消費税及び地方消費税を含む)と定め。
て貸付契約を締結した(乙15。)
そして,弁論の全趣旨によれば,上記(1)から(6)までの各契約の借主は,当
該契約内容に従って,自動販売機の設置,物品販売又はレストラン営業を行う
ことにより,本件各貸付部分を使用しているものと認めることができる。そう
すると,本件各貸付部分は,原告以外の者によって独立した権限に基づいて使
用されているものといえ,地方税法348条6項にいう「当該固定資産を所有
する非課税独立行政法人以外の者が使用しているもの」に該当し,固定資産税
の課税対象になるものというべきである。
3これに対して,原告は,本件各貸付部分が課税対象にはならないとし,その
根拠について,次のように主張している。
(1)ア国所有の固定資産のうち,国以外の者が使用している固定資産につい
ては,交納付金法2条1項1号に基づき,国から当該固定資産の所在市町
村に対して固定資産税相当額を市町村交付金として交付するものとされて
いる。
イここでいう「国以外の者が使用している固定資産」の意義については,
「国が専ら公用又は公共の用に供している固定資産の一部をその設置目的
に違背しない範囲において,かつ,当該固定資産の公用又は公共用として
の効用を高めるような用途において他の者に使用させている場合を含まな
い(こうした場合には市町村交付金の交付対象とならない)との確定し」。
た解釈が存在する。
ウ地方税法348条6項が非課税独立行政法人が所有する固定資産を原則
として非課税としつつ「非課税独立行政法人以外の者が使用している固,
定資産」を課税対象としたのは,非課税独立行政法人の高度の公共性にか
んがみ,固定資産税に関して国と同等の取扱いをするのが妥当であって,
国に対する非課税措置を受け継いだことによるのであるから,ここでいう
課税対象である「非課税独立行政法人以外の者が使用している固定資産」
,「」は市町村交付金の交付対象である国以外の者が使用している固定資産
と同義に解すべきものである。
エしたがって「非課税独立行政法人以外の者が使用している固定資産」,
とは,その使用が何ら公用又は公共用資産として機能していないようなも
のに限定されることを予定しており,その使用により公用又は公共用資産
として利用している固定資産の設置目的が阻害されず,かつ,全体として
公用又は公共用資産としての効用を高めている場合には,非課税独立行政
法人が当該固定資産を公用又は公共用資産として一体として包括的に使用
しているものであって「非課税独立行政法人以外の者が使用している固,
定資産」には当たらないというべきである。
(2)本件各貸付部分は,原告の設立以前に,国の機関である「国立博物館」
が管理・運営をしていた当時から,同様の形態で貸し付けられていたが,こ
うした貸付けは,有形文化財の収集,保管,公衆の閲覧といった博物館の設
置目的に違背せず,かつ,入館者を満足させることにより公衆の閲覧に供す
るという博物館としての効用を高めることから,交納付金法2条1項1号に
いう「国以外の者が使用している固定資産」に当たらないものとして,市町
村交付金の交付の対象とされていなかった。
原告の設立に伴いその所有主体に形式的な変動が生じたものの,その実態
,,に従前と変更はなくその利用により博物館としての設置目的が阻害されず
かつ,博物館としての効用を高めている場合に当たることから,上記(1)エ
のとおり,原告が本件各貸付部分を含め,本件各不動産を一体として包括的
に使用しているものであって「非課税独立行政法人以外の者が使用してい,
る固定資産」には当たらないとみるべきである。
(3)さらに,原告の業務の範囲については,①博物館を設置すること,②有
形文化財を収集し,保管して公衆の観覧に供すること,③②に関連する講演
会の開催,出版物の刊行その他の教育及び普及の事業を行うこと,④これら
の業務に附帯する業務を行うことなどとされており(独立行政法人国立文化
財機構法12条1項1号,2号,3号,10号,文部科学大臣の認可を受)
けた原告の業務方法書においても,同旨が定められるとともに,その業務の
一部を外部の者に委託して行うことができるものとされている。
また,文部科学大臣の定めた原告の中期目標,これを実施するために原告
が作成して文部科学大臣の認可を受けた中期計画,さらには,原告が作成し
て文部科学大臣に届け出るものとされている各年度計画においても,ミュー
ジアムショップやレストラン等の館内施設を充実させることが明記されてい
る。
これらのことからすれば,ミュージアムショップやレストラン,自動販売
機の設置は,原告自身の業務とみるべきものである。
4原告の上記3の主張について,以下に検討を加える。
(1)確かに,国所有の固定資産のうち,交納付金法2条1項1号にいう「国
以外の者が使用している固定資産」を市町村交付金の交付対象とし,固定資
産税相当額を国から当該固定資産所在の市町村に交付することにしたのは,
国所有の固定資産に関しては国自体の公的性格から原則として固定資産税を
非課税としつつ,私人の通常の固定資産と同様の状態で使用されているもの
についてまで非課税とするのは均衡を欠き相当でないことから,これを課税
対象にした場合と同様の経済的・財政的結果となることを企図したものとみ
ることができる。そして,独立行政法人制度が創設されるに当たっては,一
定の要件を満たし,課税関係において国と同視し得る非課税独立行政法人に
対しては,従前から国に対して認められている非課税措置と同様の措置を講
ずるものとされ,このうち固定資産税に関しては,非課税独立行政法人所有
の固定資産を原則非課税としつつ,交納付金法2条1項1号にいう「国以外
の者が使用している固定資産」に相当するものとして,地方税法348条6
項において「非課税独立行政法人以外のものが使用しているもの」を課税対
象とするものとしたという立法に関する経緯を認めることができる(甲8か
ら10まで。)
また,旧自治庁税務部長通知(国有資産等所在市町村交付金制度の運用「
について・昭和31年6月20日自丙市発第44号)では「地方公共団体」,
が専ら公用又は公共の用に供するものとして設置し,現に自らこれらの用に
供している次の各号に掲げる固定資産の一部を食堂,売店,理髪店等の用途
に供するものとして,他の者に貸し付け,又は使用させている場合において
は,それが当該固定資産の公用又は公共用資産としての効用を高めるもので
あり,従つて,当該固定資産は全体として公用又は公共の用に供するものと
して観念さるべきもの」は,市町村交付金の対象から除外することが適当で
あるとし,当該各号には,庁舎の用に供する家屋や公会堂,博物館,図書館
等の用に供する家屋を掲げている(甲11。そして,原告の主張するよう)
に,原告が設立される以前,本件各貸付部分に相当するものが,市町村交付
金の交付の対象とされていなかった(弁論の全趣旨)のは,博物館の用に供
,,,する家屋の一部を食堂売店の用途に供するものとして他の者に貸し付け
又は使用させている場合であって,上記通知の掲げる場合に該当することか
ら,その内容に倣った措置をとったものと推認することができる。
しかしながら,地方税法348条6項は固定資産税の課税対象(非課税措
置の例外となるもの)について,単に「非課税独立行政法人以外の者が使用
」,。しているものと規定するのみであってそれ以上の限定は付されていない
国有財産等に関する市町村交納付金の運用が上記のようなものであったとし
ても,上記通達のいう「当該固定資産の公用又は公共用資産としての効用を
高めるものであり,従つて,当該固定資産は全体として公用又は公共の用に
供するものとして観念さるべきもの」の範囲は,非課税の根拠とするには,
広範かつあいまいなものといわざるを得ないのであって,交納付金法2条1
項1号に規定する「国以外の者が使用している固定資産」という文言から,
上記通達のような限定を当然に導くことはできない。ひいては,そうした運
用を地方税法348条6項の規定の解釈に反映させ,その文言から離れた解
釈の根拠とすべきものでもないというべきである。
これを本件各貸付部分との関係で実質的に考えてみても,本件各不動産は
博物館として使用されており,そこにある展示物等を広く一般の観覧に供す
ることをもって,本来の設置目的とみることができるところ,観覧者の便益
につながるものであれば,展示物に関連する物品の販売や飲食物の提供に限
らず,それ以外の様々な物品を販売しサービスを提供する施設を設置した場
,。,合にも博物館としての効用を高めるものとみることが可能であるしかし
こうした施設全般について,他人が独立した権限に基づいて使用し営業して
いる場合についても,広く非課税の扱いとすることを認めるならば,非課税
独立行政法人所有の固定資産について,非課税財産と課税財産との区分の基
準について定めた地方税法348条6項の存在意義を否定するにも等しいも
のになるというべきである。
(2)さらに,法令上並びに業務方法書上及び原告の運営に関する目標・計画
上,ミュージアムショップにおける物品販売やレストラン営業等を原告自身
の業務として行い得ることは,原告主張のとおりであるとしても,そのこと
と,実際に営業を行っている主体が誰であるか,ましてや,その営業を行っ
ている建物や土地を使用している主体が誰であるかとは別の問題というべき
である。
この点に関連して,原告は,博物館本来の機能を発揮させるために,各借
主は貸付契約上の目的にそった使用を義務付けられており,その営業内容等
についても原告から意見を述べてこれを反映させていること,博物館の開館
時間内において,入場料を支払った入場者のみが利用できる区画における営
業であること,レストラン営業の軽飲食提供部分については無償貸付けとさ
れていることを根拠に挙げて,本件各貸付部分は原告の包括的使用の下に置
かれており,原告の自己使用に当たるものとみるべきであるとも主張してい
る。
しかし,建物所有者・賃貸人とテナント・賃借人との間で,その営業内容
・営業時間等に関する取決めを行い,不動産管理等の観点から,賃借人に対
して相応の義務を課すことは,商業ビルその他の賃貸借においても特段不自
然なことではない。すなわち,たとえ,ミュージアムショップやレストラン
の運営,メニュー・価格の設定等について,原告から借主に対して意見を述
べることがあり,また,その営業時間が博物館の開館時間内に限定され,利
用者が入場者に限定されているとしても,そうした形態をもって,賃貸借契
約において貸主が有する一般的な管理権以上の特別な権限を有することには
ならず,これを原告の自己使用とみることはできない。また,レストラン営
業の軽飲食提供部分が無償貸付けとされていることについても,そこでの営
業者に独立使用を認める趣旨ではなく,飽くまでも原告自身を占有主体とす
る趣旨であるならば,貸付契約の対象から除外すれば足りるところ,前記2
(4)及び(5)の各貸付契約(乙13,14)にあっては,有償部分と無償部分
の区別はあるものの,それ以外の利用形態等の契約内容に差異を設けること
なく一体として貸し付けられていたものと認められる。いずれにしても,本
件各貸付部分が原告の自己使用に置かれているとみる根拠にはなり得ず,借
主の独立した権限に基づく使用に供されている事実を否定することはできな
いというべきである。
(3)なお,このように考えると,従前,非課税措置がとられていた国所有の
固定資産が,非課税独立行政法人所有となったことを契機として新たに課税
の対象とされる結果となり,課税関係において国と同視し得る非課税独立行
,,政法人に対しては国に対する非課税措置と同様の措置を講ずるものとした
独立行政法人制度創設時にとられた基本的方針(前記(1))に反する結果に
なるのではないかという疑問がある。
しかし,既にみたように,市町村交納付金の交付対象の範囲に関する取扱
いが運用によるものと解される一方,固定資産税の課税対象・非課税対象の
区分の第一義的な基準となる地方税法348条6項の規定がそうした運用を
直接反映しない形で整備された以上,それに従って課税対象の範囲を確定す
るほかないといわざるを得ない。見方を変えれば,他人使用の財産であるか
どうかを課税対象・非課税対象の区分の基準にしている点においては,国に
対する非課税措置の基本的内容を踏襲したものと評価することも可能である
から,運用面を含めた非課税対象の範囲が国所有の固定資産と厳密な一致を
みないことをもって,直ちに独立行政法人制度創設時の基本的方針に反する
結果とみるのは相当ではないというべきである。
,,(4)以上のとおり本件各貸付部分が非課税であると原告が主張する根拠は
いずれも採用できない。
5以上判断したところによれば,本件各貸付部分は,地方税法348条6項に
いう「当該固定資産を所有する非課税独立行政法人以外の者が使用しているも
の」とみることができ,固定資産税の課税対象に該当するものというべきであ
る。その場合の本件各不動産の固定資産税の課税標準及び税額の計算根拠は,
前記第2の3(1)記載のとおりであって,これと同額を賦課した本件各課税処
分はいずれも適法であるというべきである。
よって,原告の請求はいずれも理由がないから棄却することとし,訴訟費用
の負担につき,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用し,主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第2部
大門匡裁判長裁判官
田徹裁判官吉
倉澤守春裁判官

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛