弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1原判決のうち上告人の敗訴部分を破棄する。
2前項の部分のうち,被上告人X1及び同X2の請求
に関する部分につき,同被上告人らの控訴を棄却す
る。
3第1項の部分のうち,被上告人X3の請求に関する
部分につき,第1審判決を取り消し,同被上告人の
請求を棄却する。
4被上告人X1及び同X2の請求に関する控訴費用及
び上告費用は同被上告人らの負担とし,被上告人X3
の請求に関する訴訟の総費用は同被上告人の負担と
する。
理由
上告代理人南部孝男の上告受理申立て理由第3~第7について
1本件は,京都市立の小学校又は中学校の教諭である被上告人らが,平成15
年4月から12月までの間(ただし,8月を除く。以下「本件期間」という。),
時間外勤務を行ったところ,これは,義務教育諸学校等の教育職員に原則として時
間外勤務をさせないものとしている「国立及び公立の義務教育諸学校等の教育職員
の給与等に関する特別措置法」(平成15年法律第117号による改正前のもの。
以下「給特法」という。)及びこれに基づく「職員の給与等に関する条例」(昭和
31年京都府条例第28号。平成16年京都府条例第19号による改正前のもの。
以下「給与条例」という。)の規定に違反する黙示の職務命令等によるものであ
り,また,各学校の設置者である上告人は被上告人らの健康保持のため時間外勤務
を防止するよう配慮すべき義務に違反したなどと主張して,上告人に対し,国家賠
償法1条1項に基づく損害賠償等を請求する事案である。なお,上記の「時間外勤
務」とは,正規の勤務時間以外の時間における勤務のほか,「国民の祝日に関する
法律」による休日及び年末年始の休日等における正規の勤務時間中の勤務を含むも
のをいう(給特法11条,給与条例37条2項。以下,「時間外勤務」又は「勤務
時間外」というときは,後者を含む意味のものをいう。)。
2給特法及びこれに基づく給与条例の規定では,京都府の公立の義務教育諸学
校等の教育職員(給与条例2条6号,7号)で,市町村立学校職員給与負担法(平
成16年法律第49号による改正前のもの)1条又は2条に規定する職員に該当
し,管理職員に該当しないなど所定の要件を満たす者(以下,単に「教育職員」と
いう。)の勤務条件について,次のとおりの特例が定められている。
(1)教育職員には,給料月額の100分の4に相当する額の教職調整額を支給
する(給特法8条,3条1項,給与条例7条の2第1項)。教職調整額は,諸手当
等の計算上給料とみなす(給特法8条,9条,給与条例7条の2第2項)。
(2)教育職員には,時間外勤務手当及び休日勤務手当を支給しない(給特法1
0条,地方公務員法(平成15年法律第104号による改正前のもの。以下同
じ。)58条3項本文,給与条例22条の5第2項,15条,18条)。
(3)教育職員には,原則として時間外勤務をさせないものとし,これをさせる
場合は,生徒の実習に関する業務など所定の四つの業務のいずれかに従事する場合
で,臨時又は緊急にやむを得ない必要があるときに限り(給特法11条,7条,給
与条例37条2項,3項),かつ,その健康及び福祉を害しないように考慮しなけ
ればならない(給特法10条,地方公務員法58条3項本文)。
3原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)被上告人らは,本件期間中,上告人の設置する小学校又は中学校の教育職
員(教諭)であった。各人の勤務する学校(以下「勤務校」という。)は,被上告
人X1がA小学校,同X2がB中学校,同X3がC中学校である。各人の勤務時間
は,月曜日から金曜日までの5日間において,被上告人X1が午前8時40分から
午後4時40分まで(午後4時40分から午後5時25分まで休憩時間),同X2
及び同X3が午前8時25分から午後4時25分まで(午後4時25分から午後5
時10分まで休憩時間)であった。
(2)被上告人らの本件期間中の勤務状況等の概要は,次のとおりである。
ア被上告人X1は,小学5年の学級(児童数36名)の担任であり,1週間の
受持ち授業時限数は合計26時限であった。
被上告人X1は,勤務校が京都市教育委員会から研究発表校に指定されたことに
伴いその研究主任としての活動を行ったほか,新規採用者の支援指導に当たり,上
記研究発表とも関連する年間110時間に及ぶ総合学習の準備において中心的役割
を担った。平成15年6月下旬の14日間及び同年12月上旬の8日間における職
務等の状況は,おおむね第1審判決別紙「原告X1勤務表1・2」記載のとおりで
あり,上記期間中,職務に関連する事務等で勤務時間外に行ったものの時間数は合
計で約70時間50分であった。
イ被上告人X2は,中学3年の学級(生徒数39名)の担任であり,1週間の
受持ち授業時限数は合計19時限(国語15時限,総合学習2時限,学級活動及び
道徳各1時限)であった。
被上告人X2は,担任する学級の生徒の関係で児童自立支援施設への出張や家庭
訪問を行うなどしたほか,養護施設指導部長及び生徒指導部長としての活動や,ワ
ンダーフォーゲル部の顧問としての生徒の引率等の活動も行っていた。退校時刻は
おおむね午後6時30分頃であり,下校指導のため午後7時から午後8時頃までパ
トロールを行うこともあった。授業の空き時間には校内パトロールも行っていたた
め,教材研究,プリント作成,テスト採点などは放課後又は自宅で行わざるを得な
い状況であった。平成15年6月下旬の14日間及び同年12月上旬の14日間に
おける職務等の状況は,おおむね第1審判決別紙「原告X2勤務表1・2」記載の
とおりであり,上記期間中,職務に関連する事務等で勤務時間外に行ったものの時
間数は合計で約86時間30分であった。
ウ被上告人X3は,中学3年の音楽の教科担任であり,1週間の受持ち授業時
限数は合計22時限(音楽18時限,総合学習2時限,学級活動及び道徳各1時
限)であった。
被上告人X3は,勤務校が京都市教育委員会から研究発表校に指定されたことに
伴い,その研究発表を冊子にまとめる作業を行った。音楽の授業や期末テスト用の
独自の教材の作成や事前の準備,吹奏楽部の顧問としての生徒への指導等により,
退校時刻は平均して午後8時頃であり,吹奏楽部の顧問としての生徒への指導は休
日に及ぶこともあった。平成15年6月下旬の14日間及び同年12月上旬の14
日間における職務等の状況は,おおむね第1審判決別紙「原告X3勤務表1・2」
記載のとおりであり,上記期間中,職務に関連する事務等で勤務時間外に行ったも
のの時間数は合計で約101時間40分であった。
(3)本件期間中,A小学校,B中学校及びC中学校の各校長は,それぞれ,被
上告人X1,同X2及び同X3に対し,授業の内容や進め方,学級の運営等を含め
て個別の事柄について具体的な指示をしたことはなく,また,被上告人らを含めた
各学校の教育職員に対し,書面又は口頭で時間外勤務を命じたことはなかった。
4原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断し,国家賠償法1条1
項に基づく被上告人らの上告人に対する請求をいずれも55万円(慰謝料50万
円,弁護士費用5万円)及び遅延損害金の支払を求める限度で認容すべきものとし
た。
(1)教育職員の時間外勤務は,それが自主的,自発的,創造的に行われるもの
ではなく,校長等から勤務時間外に強制的に特定の業務をすることを命じられたと
評価できるような場合には,違法となるものと解される。しかし,被上告人らの時
間外勤務は,上記のような場合に当たるとまではいえないから,被上告人ら各自の
時間外勤務について,勤務校の各校長に違法な行為があったとまでいうことはでき
ない。
(2)被上告人らが勤務する公立学校の設置管理者である上告人は,教育職員に
対し,労働時間の管理の中で,その勤務内容,態様が生命や健康を害するような状
態であることを認識,予見し得た場合には,事務の分配等を適正にするなどして勤
務により健康を害することがないよう配慮すべき義務を負うものと解される。被上
告人らには,春季,夏季及び冬季における休業期間との関係等を包括的に考察して
も,上記の配慮を欠くと評価せざるを得ないような常態化した時間外勤務が存在し
たことを推認することができ,勤務校の各校長は,そうした状況を認識,予見し得
たといえるので,事務の分配等を適正にするなどして被上告人らの勤務が過重にな
らないように管理する義務があったにもかかわらず,必要な措置を採ったとは認め
られないから,上記の義務違反があるというべきである。
教育職員には時間外勤務手当等が支給されないこともあってその勤務時間管理が
行われにくい状況にある上に,被上告人らが健康の保持に問題となる程度の少なく
ない時間外勤務をしていたことを踏まえると,それによって法的保護に値する程度
の強度のストレスによる精神的苦痛を被ったことが推認され,各人の精神的苦痛を
金銭的に評価すると慰謝料50万円が相当である。
5原審の上記4(1)の判断は結論において是認することができるが,同(2)の判
断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1)前記事実関係によれば,本件期間中,被上告人らはいずれも勤務時間外に
職務に関連する事務等に従事していたが,勤務校における上司である各校長は,被
上告人らに対して時間外勤務を命じたことはない上,被上告人らの授業の内容や進
め方,学級の運営等を含めて個別の事柄について具体的な指示をしたこともなかっ
たというのである。そうすると,勤務校の各校長が被上告人らに対して明示的に時
間外勤務を命じてはいないことは明らかであるし,また,黙示的に時間外勤務を命
じたと認めることもできず,他にこれを認めるに足りる事情もうかがわれない。
したがって,勤務校の各校長は,本件期間中,教育職員に原則として時間外勤務
をさせないものとしている給特法及び給与条例に違反して被上告人らに時間外勤務
をさせたということはできないから,上記各校長の行為が,国家賠償法1条1項の
適用上,給特法及び給与条例との関係で違法の評価を受けるものではない。
(2)使用者は,その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理する
に際し,業務の遂行に伴う疲労や心理的負荷等が過度に蓄積して労働者の心身の健
康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当であり,使用者に
代わって労働者に対し業務上の指揮監督を行う権限を有する者は,使用者の上記注
意義務の内容に従ってその権限を行使すべきものである(最高裁平成10年(オ)
第217号,第218号同12年3月24日第二小法廷判決・民集54巻3号11
55頁参照)。この理は,地方公共団体とその設置する学校に勤務する地方公務員
との間においても別異に解すべき理由はないから,以下,この見地に立って検討す
る。
前記事実関係によれば,被上告人らは,本件期間中,いずれも勤務時間外にその
職務に関連する事務等に従事していたというのであるが,上記(1)のとおり,これ
は時間外勤務命令に基づくものではなく,被上告人らは強制によらずに各自が職務
の性質や状況に応じて自主的に上記事務等に従事していたものというべきである
し,その中には自宅を含め勤務校以外の場所で行っていたものも少なくない。他
方,原審は,被上告人らは上記事務等により強度のストレスによる精神的苦痛を被
ったことが推認されるというけれども,本件期間中又はその後において,外部から
認識し得る具体的な健康被害又はその徴候が被上告人らに生じていたとの事実は認
定されておらず,記録上もうかがうことができない。したがって,仮に原審のいう
強度のストレスが健康状態の悪化につながり得るものであったとしても,勤務校の
各校長が被上告人らについてそのようなストレスによる健康状態の変化を認識し又
は予見することは困難な状況にあったというほかない。これらの事情に鑑みると,
本件期間中,被上告人らの勤務校の上司である各校長において,被上告人らの職務
の負担を軽減させるための特段の措置を採らなかったとしても,被上告人らの心身
の健康を損なうことがないよう注意すべき上記の義務に違反した過失があるという
ことはできない。
(3)以上によれば,本件期間中,被上告人らの勤務校における上司である各校
長の職務上の行為に,被上告人らとの関係において国家賠償法上の違法及び過失が
あるとは認められず,上告人は,被上告人らに対し,同法1条1項に基づく賠償責
任を負わないというべきである。
6上記と異なる見解の下に,国家賠償法1条1項に基づく上告人の賠償責任を
肯定し,前記の限度で被上告人らの請求を認容すべきものとした原審の判断には,
判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうもの
として理由があり,原判決のうち上告人の敗訴部分は破棄を免れない。そして,以
上に説示したところによれば,上記部分に関する被上告人らの請求はいずれも理由
がない。そうすると,上記部分のうち,被上告人X1及び同X2の請求に関する部
分については,請求を棄却した第1審判決は正当であるから,同被上告人らの控訴
を棄却すべきであり,また,被上告人X3の請求に関する部分については,第1審
判決のうちこれを認容した部分を取り消し,同部分に係る同被上告人の請求を棄却
すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官大谷剛彦裁判官那須弘平裁判官田原睦夫裁判官
岡部喜代子裁判官寺田逸郎)

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