弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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(主 文)
被告人を無期懲役に処する。
未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
(犯行に至る経緯)
被告人は,千葉県で出生し,同県内の市役所で職員として働いていたが,麻雀,競馬等
の遊興費に充てるため妻に内緒で消費者金融から多額の借金をしたことで妻と離婚し,市
役所も退職した。その後,被告人は,借金の取立てを免れるため住居地を転々とし,定職
にも就かずに短期間のアルバイトをして生活していた。被告人は,知人の紹介で埼玉県川
越市内の土木会社で土木作業員をしていた際,青森市から出稼ぎに来ていた他の作業員
と親しくなり,土木会社を退職した平成7年ころ,青森市を訪れた。被告人は,同市内の旅
館に宿泊しながら,実兄から仕送りを受けて無為徒食の生活を送っていたが,借金の取立
ても来ないことから,生活保護を受けて同市内に居住することを決意し,平成8年9月ころ
から,知人に紹介された青森市Aa丁目b番地c木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建集合住宅(以
下「本件建物」という。)の2階d号室に賃借人として居住するようになり,その後2階e号室
に転居し,同年11月ころから月額約10万円の生活保護支給を受けることとなった。
被告人のギャンブル好きは,青森市に来てからも一向に収まらず,パチンコや競輪にの
めり込み,生活保護費までそれらに注ぎ込んだ上,それだけでは足りず,市内の消費者金
融から借金をするようになった。また,被告人は,実兄から再び送金してもらうようにもなっ
たが,そのほとんどをパチンコ等の遊興費や借金の返済に費消してしまった。
被告人は,平成16年12月27日に銀行に振り込まれた翌月分の生活保護費約11万円
のほとんどをわずか4日余りでパチンコや競輪で費消し,手元に1万円しか残らなかったた
め,生活に困窮し,大家から灯油を借りた他,米等ももらい受けるまでになった。この間,被
告人は,実兄に重ねて送金を依頼したが,実兄からは平成17年1月4日と17日にそれぞ
れ2万円が送金されただけで,18日の2万円を最後にその後の送金を断られた。被告人
は,実兄からの最後の送金もその日のうちにパチンコに費消してしまった。
被告人は,所持金が底をつき,実兄からの送金も断られたため,借金の返済や今後の
生活について考えあぐねていたところ,同月19日午後8時ころ,自室出入口ドアと壁の隙
間に封書が差し込まれた。被告人は,これを借金の督促状と思い込み,次の生活保護費
を受給するまでの約10日間,金が入るあてもなかったことから,借金の返済や今後の生活
について一層悩んだ。そして,被告人は,同月20日午前3時ころ,借金の返済ができなけ
れば取立てが厳しくなり,そうなれば,借金をしていることが市役所にも分かってしまって生
活保護費の支給が打ち切られ,今後の生活が出来なくなるし,唯一の楽しみであるパチン
コや競輪などのギャンブルもできなくなってしまうと悲観し,それなら死んだ方がましである
から,自殺してしまおうと考えるに至った。被告人は,自殺するにあたり,身の回りの物も全
て始末するためには自己の部屋に火を放って焼死するのが最良の方法であると考え,放
火すれば他の部屋にも燃え移り,他の居住者を巻き添えにして死亡させるかもしれない
が,それでも構わないと考え,自己の部屋に放火することを決意した。
(罪となるべき事実)
被告人は,前記のとおり,借金の返済ができなければ取立てが厳しくなり,そうなれば借
金をしていることが市役所にも分かってしまって,生活保護費の支給が打ち切られ,今後
の生活ができなくなるし,唯一の楽しみであるパチンコや競輪などのギャンブルもできなく
なってしまうと悲観し,それなら死んだ方がましであるから,甲ほか6名が居住している青森
市Aa丁目b番地c木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建集合住宅の2階e号室の自室に放火して自
殺しようと考え,その際,他の部屋にも燃え移り,他の居住者を巻き添えにして死亡させる
かもしれないが,それでも構わないと決意し,平成17年1月20日午前3時50分ころ,上記
自室において,絨毯敷きの室内中央辺りに半分に折りたたんで置いた膝掛け毛布から,絨
毯及び同室内窓側に3つに折り畳んで置いた布団にかけて,同室内にあったポリタンク内
及び石油ストーブの灯油カートリッジ内の灯油(合計で少なくとも約10リットル程度)をすべ
て撒き,前記毛布に所携の簡易ガスライターで点火して放火し,同室内の柱,天井等に順
次燃え移らせ,よって,本件建物の所有者甲及び妻乙,丙他賃借人4名が現に住居に使
用している本件建物の2階部分を全焼させて焼損するとともに,上記日時頃,本件建物2
階において,丙(当時84歳)及び丁(当時65歳)をそれぞれ火傷により死亡させ,戊(当時
79歳)に入院加療約23日間を要する気道熱傷,熱傷等の傷害を負わせた。
(量刑の理由)
本件は,ギャンブルにのめり込んで生活保護費や借金等の大半を費消して生活に困窮
した被告人が,借金の返済や今後の生活に悩んで将来を悲観し,自殺を決意すると同時
に身の回りの物も一緒に処分するために,本件建物内の自室に放火し,本件建物の2階を
全焼させるとともに,他の居住者2名を死亡させ,1名に傷害を負わせたという事案であ
る。
被告人は,パチンコや競輪といったギャンブルにのめり込み,青森市からの生活保護費
や消費者金融からの借金の他,実兄から送金してもらった金銭のほとんどすべてをギャン
ブルに充てたため,生活に困窮し,将来を悲観して本件犯行に及んだものであり,本件建
物が古い木造家屋で自己の部屋に放火すれば建物全体に火が燃え移ることを認識し,か
つ,他の居住者の生命を奪う可能性もあることを十分に認識した上での犯行であることに
鑑みれば,その動機は安易かつ身勝手で自己中心的であり,酌量の余地はない。犯行態
様も,住宅密集地における集合住宅への放火であり,かつ,本件建物は築40年以上の古
い木造家屋であって,火の回りの早いことは容易に認識できたこと,にもかかわらず,ポリ
タンクや石油ストーブのカートリッジ内に残っていた少なくとも約10リットルもの灯油全部を
撒いた上で放火していること,被告人は本件建物の2階部分に身体の不自由な人や高齢
者が居住していることを熟知していたこと,犯行直前に自室のドアを開けて廊下を見た際,
他の居住者が寝静まっていることを認識し,かつ,本件建物の居住者らが寝静まっている
時間帯に本件犯行を敢行したことからして,はなはだ危険かつ悪質である。被告人が本件
犯行に使用した灯油は,本件建物の大家の妻が真冬に灯油も買えないほど金銭に困窮し
ている被告人を心配して暖を採ることができるようにとの配慮から貸してくれたものであり,
被告人はまさに恩を仇で返したものである。本件被害者2名は突然生命を奪われることに
つき何らの落ち度もないのであって,その尊い命が失われたことは,誠に遺憾というほかな
い。燃えさかる居室内で,足が不自由なため逃げたくても逃げられず,隣室との境の壁を
必死に叩いて助けを求めるしかできずに命を絶たれた被害者丙,逃げる途中で力尽きて
倒れ,猛烈な火で焼かれて死んでいった被害者丁の無念さは計り知れず,その遺族らの
憤りは大きい。また,被害者戊の傷害の程度も決して軽いとは言えない。さらに,本件犯行
により本件建物の2階部分がほぼ全焼した上,隣接住宅にも財産的被害が生じている他,
住宅密集地であることによる公共の危険の発生も軽視できず,近隣住民が多大な恐怖を
感じたことは容易に想像できる。被告人は,本件犯行後,火の回りが思いのほか早かった
ことに驚いて我先にと逃げ出したものであるが,被告人の犯行に気付かずに寝ている他の
居住者,隣接住宅の居住者らに対し,火災を知らせることもせず,消火活動や119番通報
すらせずに逃げており,非難されてしかるべき行為である。にもかかわらず,被害者及び遺
族に対する被害弁償の目途は全くない。
以上によれば,被告人の刑事責任は重大というべきであり,本件犯行が計画的なもので
はないこと,被告人は犯行後自ら警察に出頭し,捜査当初から本件犯行を素直に認めて
反省し,被害者や本件建物の大家に申し訳ない旨述べていること,被告人には前科・前歴
がないこと等被告人に有利な情状を最大限考慮したとしても,主文掲記のとおり,無期懲
役刑を科すのが相当であると判断した。
  青森地方裁判所刑事部
         裁判長裁判官  髙 原   章
             裁判官  室 橋 雅 仁
             裁判官  香 川 礼 子
(求刑 無期懲役)

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