弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中被告人Aに関する部分を破棄する。
     被告人Aを懲役一年に処する。
     原審における訴訟費用は全部被告人Aと被告人Bの連帯負担とする。
     被告人両名の本件控訴はいずれもこれを棄却する。
         理    由
 被告人Aに関する原判決に対する検祭官の本件控訴の趣意は末尾添附の千葉地方
検察庁検事正代理検事入戸野行雄名義の控訴趣意書記載のとおりであり、これに対
する被告人Aの答弁は末尾添附の弁護人柴田睦雄提出の答弁書記載のとおりであ
り、被告人両名の本件控訴の趣意は末尾添附の弁護人柴田陸雄提出の控訴趣意書記
載のとおりであるからここにこれを引用する。これに対する当裁判所の判断は左の
とおりである。
 被告人両名の弁護人の控訴趣意について。
 原判決の認定した被告人両名の詐欺の事実は、原判決引用の証拠によりこれを認
めるに足り、記録を精査検討し当審における事実取調の結果に徴しても原判決の右
事実の認定が所論のように誤認であるとは認められない。すなわち原判決引用の証
拠によると、被告人両名は多年本邦に在住する朝鮮人夫婦で、長男Cが東京都台東
区a町b番地D株式会社に自動車運転者として勤務して得る収入により生計をたて
ていたところ、昭和二八年八月上旬頃右Cがパチンコ営業を経営するため同会社を
退社したことから、同人及び同人の妻E(昭和二九年一月二三日死亡)と相謀り世
帯主C名義で千葉市長の委任を受けた千葉市福祉事務所長に対しCが同会社におい
てこれまで月収一五、〇〇〇円位を得ていたが自動車事故で退職したので収入の見
込がなく、現在失業中で家族が多いため最低生活の維持ができないから生活保護法
による保護を得たい旨を申請して保護決定を受け、同年九月一日から生活扶助料と
して月額五、〇五五円を支給されていたが、同年一一月下旬右Eが千葉市福祉事務
所係員に対し世帯主の名義を被告人Aに変更して夫Cは職探しに出たまま音信不通
行方不明となり現在無収入であるから最低生活費全額の支給を受けたい旨申請し、
同年一二月一日から生活扶助料として月額一二、〇〇〇余円乃至一三、〇〇〇余円
を支給されているうち、右Cは昭和二九年四月頃旧職場であるD株式会社に自動車
運転者として復帰し月収手取金平均約二〇、〇〇〇円を得るようになつたので、被
告人両名は被保護者としてこのような収入その他生計の状況及び世帯の構成に変動
があつた旨をすみやかに千葉市長又は千葉市福祉事務所長に届け出なければならな
い義務があるにかかわらず、従前と同様生活扶助料を得る意図の下に互に意思相通
じてこの届け出をなさず、昭和二九年五月一〇日以降昭和三〇年一月一〇日までの
間二一回に亘り同事務所係員を通じ同市長に対し右のような変動のあつた事情を秘
し、依然Cが行方不明で被告人両名及び被保護者である家族全部が無収入で困窮の
ため最低生活を維持することができないもののように装い生活扶助料の支給方を請
求し、同係員を通じ同市長をして従前同様に生活扶助料の給付を要するものと誤信
させ、生活扶助料名下に合計二五四、二六〇円を給付させたことを認めることがで
きるのである。そして生活保護法第一条はこの法律は日本国憲法第二五条に規定す
る理念に基き国が生活に困窮するすべての国民に対しその困窮の程度に応じ必要な
保護を行いその最低限度の生活を保障すると共にその自立を助長することを目的と
すると規定し、同条にいう国民とは日本国民を指称し、外国人である朝鮮人でわが
国に在住する者をこの国民に含ませることができないからこのような朝鮮人に対し
同法を適用することができないことは所論のとおりてあるが、所論の厚生省社会局
長通牒によれば生活に困窮する外国人に対しては当分の間日本国民に対する生活保
護法に基く生活保護の決定、実施の取扱に準じて必要と認める保護を行う行政措置
が採られていて、被告人両名及びその家族等もこの行政措置により前記のような生
活扶助料の支給を受けていたものであつて、もともと生活保護法による保護は被保
護者の最低限度の生活を保障するため困窮の程度に応じて必要な限度において行な
われるべきものであり、保護の適正な実施を計るには被保護者の生活の実態が常に
保護の実施機関に明らかにされていることを要するので、保護の実施機関の側にお
ける職権調査が重要であると共にこれに対応して被保護者の側においても生活の実
態を保護の実施機関に告知することが要請されることとなるのは当然であり、この
見地から同法第六一条は被保護者は収入、支出その他生計の状況について変動があ
つたとき、又は居住地若しくは世帯の構成に異動があつたときは、すみやかに保護
の実施機関又は福祉事務所長にその旨を届け出なければならないと規定しているの
であ<要旨>る。この被保護者の届出義務は、保護の適正な実施を計るためには日本
国民が生活保護法により保護を受ける場合であると、外国人である朝鮮人が
日本国民の生活保護法に基く生活保護の決定実施の取扱に準じた保護を受ける場合
であることによつて異同のあるべきいわれなく、被保護者のひとしく負担すべき義
務というべきであり、日本国民が被保護者である場合においては生活保護法第六一
条による法律上の義務、外国人である朝鮮人が被保護者である場合においては行政
措置によつて受ける保護に伴い同条の規定するところに準じ条理上当然課せられる
義務であると解すべきものである。又この届出義務は生活保護法第六一条の文理上
被保護者各自に課せられたものと解することができるのであるから、被告人両名は
各自条理上この届出義務を負担するものといわねばならない。そして詐欺罪につい
ての欺罔行為が他人に対し真実の事実を告知する義務ある者においてこれを秘する
ことによつて相手方に錯誤を起さしめるにある場合に、その真実の事実を告知する
義務は、必ずしも法律上の義務に限られるものではなく、右のような条理上当然相
手方に告知すべき義務も亦これにあたるものと解するを相当となるのであるから、
被告人両名が前記のように収入その他生計の状況の変動世帯の構成の異動を千葉市
長又は千葉市福祉事務所長に届け出なければならない義務があるにかかわらず、従
前と同様活扶助料を得る意図の下に互に意思相通じて届出をなさず、右の変動のあ
つた事情を秘し依然慮在方が行方不明であり、被保護者である家族全員が無収入で
最低限度の生活を維持することができないもののように装い、生活扶助料の請求を
したのは、同事務所係員を通じて千葉市長に対し欺岡行為に出たものに外ならない
のである。なお原判決が被告人両名は生活保護法第六一条の命ずるところに従い収
入その他生計の状況及び世帯の構成に変動があつた旨を千葉市長又は千葉市福祉事
務所長に届け出なければならない義務を負うに至つたものと判示しているのは所論
のとおりであり、被告人等の告知義務が法律上の義務であると判示しているものと
も解せられ、措辞明確を欠き妥当ではないが、原判決は被告人両名に被保護者とし
て生計状況の変動、世帯構成の異動についての告知義務の存することを判示しこれ
を前提として被告人両名にこれら変動及び異動を秘することによる欺罔行為の成立
することを認定判示しているものであることは判文上自ら明らかであるから、結局
被告人両名に詐欺の事実を認定するについては所論のように法令の解釈適用を誤つ
たものということはできない。しからば原判決の事実誤認並びに法令適用の誤を主
張する論旨は理由がない。
 (その他の判決理由は省略する。)
 (裁判長判事 加納駿平 判事 吉田作穂 判事 山岸薫一)

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