弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人高島三蔵、同稲田克巳、同吉井洋一の上告理由について
 一 本件は、被上告人が上告人に対し、本件土地の所有権に基づき、根抵当権設
定登記の抹消登記手続を求めるものである。原審が確定した事実関係の大要は、次
のとおりである。
 1 本件土地は、もと被上告人の祖父D(以下「D」という。)の所有に属して
いた。Dには、妻E並びに長男F(以下「F」という。)及び二男G(以下「G」
という。)外の子がおり、Fには、妻H(以下「H」という。)並びに長男の被上
告人及び長女Iがいた。Dが昭和五一年六月九日に、Fが同年九月三日に、Eが同
五二年一月九日に相次いで死亡したため、Gを中心にしてDらの遺産についての分
割協議がされ、本件土地並びにDの住居であった建物及びその敷地などを被上告人
が取得し、賃貸中の集合住宅及びその敷地などをHが取得することを内容とする協
議が成立した。そして、Gは、その後、Hの依頼を受けて、右協議に基づく各登記
手続を代行し、Hが取得した右集合住宅の管理をするなど、諸事にわたりHら母子
の面倒をみていた。
 2 昭和五八年ないし同五九年当時、被上告人は未成年者であり、被上告人の母
Hが親権者であった。
 3 Hは、被上告人の親権者として、上告人に対し、昭和五八年一〇月三一日、
被上告人の所有する本件土地につき、上告人が株式会社J(Gが代表者として経営
する会社。以下「J」という。)に対して保証委託取引に基づき取得する債権を担
保するため、債権極度額八四〇〇万円を最高限度とする根抵当権を設定することを
承諾した。そして、Hは、Gに対し、Hを代行して、右合意につき契約書を作成す
ること及び登記手続をすることを許容していたところ、Gは、Hを代行して、債権
極度額を三〇〇〇万円とする同年一一月九日付け根抵当権設定契約証書(乙第一号
証)を作成した上、根抵当権設定登記手続をした。
 4 Hは、被上告人の親権者として、上告人に対し、昭和五九年二月二二日、右
根抵当権の債権極度額を三〇〇〇万円から四五〇〇万円に変更することを承諾した。
そして、Gは、3と同様にHを代行して、債権極度額を三〇〇〇万円から四五〇〇
万円に変更する旨の同月二五日付け根抵当権変更契約証書(乙第二号証)を作成し
た上、右根抵当権変更の付記登記手続をした。
 5 Jは、株式会社K銀行(以下「K銀行」という。)から、昭和五八年一一月
一一日に二五〇〇万円を、同五九年二月二五日に一五〇〇万円を借り受けたが、そ
の使途はJの事業資金であって、被上告人の生活資金、事業資金その他被上告人の
利益のために使用されるものではなかった。また、被上告人とJとの間には格別の
利害関係はなかった。
 6 上告人は、5のJの各借受けにつき、Jとの間で信用保証委託契約を結び、
K銀行に対し、Jの右各借受金債務を保証する旨約した。
 7 上告人は、3の根抵当権設定契約及び4の極度額変更契約(以下両契約をま
とめて「本件各契約」という。)の締結に際し、5の事実を知っていた。
 二 原審は、右事実関係の下において、Hが被上告人の親権者として本件各契約
を締結した行為は、専ら第三者であるJの利益を図るものであって、親権の濫用に
当たるところ、上告人は、本件各契約の締結に際し、右濫用の事実を知っていたの
であるから、民法九三条ただし書の規定を類推適用して、被上告人には本件各契約
の効果は及ばないと判断して、被上告人の請求を理由があるとした。
 三 しかし、原審の右判断は是認することができない。その理由は、次のとおり
である。
 1 親権者は、原則として、子の財産上の地位に変動を及ぼす一切の法律行為に
つき子を代理する権限を有する(民法八二四条)ところ、親権者が右権限を濫用し
て法律行為をした場合において、その行為の相手方が右濫用の事実を知り又は知り
得べかりしときは、民法九三条ただし書の規定を類推適用して、その行為の効果は
子には及ばないと解するのが相当である(最高裁昭和三九年(オ)第一〇二五号同
四二年四月二〇日第一小法廷判決・民集二一巻三号六九七頁参照)。
 2 しかし、親権者が子を代理してする法律行為は、親権者と子との利益相反行
為に当たらない限り、それをするか否かは子のために親権を行使する親権者が子を
めぐる諸般の事情を考慮してする広範な裁量にゆだねられているものとみるべきで
ある。そして、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務の担保に
供する行為は、利益相反行為に当たらないものであるから、それが子の利益を無視
して自己又は第三者の利益を図ることのみを目的としてされるなど、親権者に子を
代理する権限を授与した法の趣旨に著しく反すると認められる特段の事情が存しな
い限り、親権者による代理権の濫用に当たると解することはできないものというべ
きである。したがって、親権者が子を代理して子の所有する不動産を第三者の債務
の担保に供する行為について、それが子自身に経済的利益をもたらすものでないこ
とから直ちに第三者の利益のみを図るものとして親権者による代理権の濫用に当た
ると解するのは相当でない。
 3 そうすると、前記一1の事実の存する本件において、右特段の事情の存在に
ついて検討することなく、同一5の事実のみから、Hが被上告人の親権者として本
件各契約を締結した行為を代理権の濫用に当たるとした原審の判断には、民法八二
四条の解釈適用を誤った違法があるものというべきであり、右違法が判決に影響す
ることは明らかである。
 四 以上の次第で、論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、右の
点について更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻すこととす
る。
 よって、民訴法四〇七条一項に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判
決する。
     最高裁判所第一小法廷         裁判長裁判官    橋  
 元   四 郎 平
            裁判官    大   堀   誠   一
            裁判官    味   村       治
            裁判官    小   野   幹   雄
            裁判官    三   好       達

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