弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中有罪の部分を破棄し、事件を名古屋高等裁判所に差戻す。
         理    由
 弁護人岡崎源一上告趣意第一点について。
 記録を精査すると、原審が、判示第一の事実を認定するに当り、第一審(津地方
裁判所)第一回及び第三回公判調書中の被告人の判示同旨の供述記載を、原判決挙
示の他の証拠と共に綜合認定の資料となしていることは論旨の指摘するとおりであ
る。しかるに判示第三回公判調書の記載によれば第一審裁判所(判事生貝隆)は右
公判において、從前の審理は裁判所の構成が不適法であつたとの理由で検察官の公
訴事実の陳述をはじめ、その審理全部を最初から遣り直していることが認められる。
そしてその第一回(昭和二三年一月一二日)及び第二回(同月十九日)公判は、判
事都築一馬が地方裁判所の一人制の裁判官として裁判所を構成して審理したもので
あるが、職権を以て調査するに右判事は昭和二三年二月四日はじめて津地方裁判所
判事に補せられたものであり、右第一、二回の公判当時においては亀山簡易裁判所
判事に過ぎなかつたのであるから、同判事は当時津地方裁判所に繋属していた本件
を審判する権限を有しなかつたものであること勿論であり、從つて、同判事の審理
した第一、二回公判手続は不適法でありその効力なきものといわなければならない。
旧刑訴一二條には「訴訟手続ハ管轄違ヒノ理由ニ因リ其ノ効力ヲ失ハス」と規定さ
れているのであるが、この規定は本來裁判権を有する裁判所間に事件を分配するこ
とを目的とする事物及び土地の管轄に関する規定の違背があつても、唯それだけの
事由では訴訟手続を無効たらしめるものでないことを明らかにしたに過ぎないもの
であつて、管轄権ある裁判所を構成する裁判官その人が、その裁判所に繋属する事
件を審判する権限のなかつたような場合にまで拡張解釈して準用すべきものではな
いのである。されば原審が所論第一回公判調書中の被告人の供述記載を他の証拠と
共に不可分的に綜合認定の資料としたことは到底違法の磯を免れ得ないのである。
しかも前示第一回及び第三回公判調書の記載を精査するに、原判決判示第一の横領
金額については、第一回公判調書によれば被告人は金二九五五六円七〇銭と供述し
ているのに、第三回公判調書によればこれを金二九〇五六円七〇銭に過ぎないと自
供し第一審裁判所(判事生貝隆)は第三回公判調書の記載を証拠として、その横領
金額を金二九〇五六円七〇銭と認定したのに対し、原審は第一審第一回公判調書記
載の金二九五五六円七〇銭と認定しているのである。されば原審は無効である右第
一回公判調書の記載を事実認定上重要な資料となしたものといわざるを得ない。そ
して原審は判示第一及び第二の業務上横領の所爲を連続犯と認め、これを一罪とし
て処断しているのであるから、前示採証上の違法は原判決の主文中有罪の宣告をな
した部分全部に影響すること勿論であり、この点において原判決は全部破棄を免れ
得ない。論旨は理由がある。
 よつて爾余の上告趣意に対する説明を省略し旧刑訴四四七條四四八條ノニ、一項
に從い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 松本武裕関與
  昭和二六年一月二五日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    岩   松   三   郎
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔

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