弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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       主   文
1 被申請人が申請人に対し、昭和五四年一〇月一日付でなした特別休職処分及び
本社人事部付を命ずる配置転換の効力を仮に停止する。
2 被申請人は申請人に対し四五万円及び昭和五五年七月以降本案判決確定に至る
まで毎月二五日限り五万円仮に支払え。
3 申請人のその余の申請を却下する。
4 申請費用はこれを五分し、その一を申請人、その余を被申請人の各負担とす
る。
       理   由
一 当事者の求める裁判
 申請人は、「被申請人は申請人を特別休職処分の付着しない被申請人薬理研究所
に勤務する従業員として仮に取扱え。被申請人は申請人に対し、一二二万六四二五
円及び昭和五五年七月分以降毎月二五日限り一四万一四九九円の金員を仮に支払
え。」との裁判を求め、被申請人は、「本件仮処分申請を却下する。」との裁判を
求めた。
二 当事者双方の主張
 申請人の申請理由の要旨は、被申請人は薬品、医薬品の製造、販売等を目的とす
る株式会社であり、滋賀県野洲郡<以下略>に医薬品の開発研究等を行なう薬理研
究所を付設している。申請人は、昭和四五年三月、被申請人との間で雇傭契約を結
んで被申請人に入社して以来後記本件処分を受けるまで右薬理研究所に勤務してい
た。
 ところで、申請人は、昭和五四年九月九日告示、同月一六日投票の野洲郡中主町
議会議員選挙に立候補、当選し、同年一〇月一日同町議会議員に就任したものであ
るが、同年九月一八日被申請人から申請人が同町議会議員に当選したことを理由に
同年一〇月一日付をもつて申請人を特別休職処分(以下本件休職処分という。)と
し、あわせて本社人事部付とする旨の配置転換命令(以下本件配転命令といい、右
両者をあわせていう場合には単に本件処分という。)を受けた。しかし、本件処分
は、労働者の公民権行使を保障した労働基準法七条の規定に違反し無効である。し
かるに、被申請人は、本件処分を有効なものとし、昭和五四年一〇月一日以降申請
人に対し、右期間に対応する給与を支払わない。申請人は、右町議会議員に就任す
る以前は、被申請人より支給される賃金のみによつてその生計を維持していたが、
本件休職処分を受けてから以後は、右賃金を得ることができなくなり、現在におけ
る収入としては、右町議会議員に支給される月額九万円の議員報酬しかなく、生活
に困窮している。
 申請人は、本件処分以前の昭和五四年七月度ないし九月度の各給与として通勤手
当を除き、七月度一三万五五二六円、八月度一四万八九六四円、九月度一四万〇〇
〇六円の支給を受けており、これを平均すると一か月約一四万一四九九円になる。
被申請人における賃金計算期間は、前月二一日から当月の二〇日までであり、その
分が当月二五日に支払われるものである。そこで無効な本件休職処分により、申請
人は本年六月分まで夏季一時金以外に一二二万六四二五円〔14万1499円×
(2/3か月+8か月)〕の給与の支払を受けていないし、また同年七月以降にお
いては毎月二五日限り支払を受けるべき月額一四万一四九九円の賃金請求権を有す
る。
 よつて、申請の趣旨記載の仮処分命令を求める、というものである。これに対
し、被申請人は、本件処分は有効である旨主張するので、以下検討する。
三 本件処分の効力について
1 被申請人は、薬品、医薬品の製造、販売を目的とする株式会社で、滋賀県野洲
郡<以下略>に医薬品の開発研究所等を行なう薬理研究を付設していること、申請
人は、高校を卒業した昭和四五年三月被申請人に雇傭されるとともに薬理研究所に
配属され、以来昭和五四年九月三〇日までの間一貫して動物飼育管理を主とする業
務に従事し、同日現在では同研究所第一研究室第六グループに所属していたこと、
申請人は、同年七月三日被申請人に対し労働協約の定めにしたがつて後記立候補の
届出をなしたうえ、同年九月九日告示、同月一六日投票の野洲郡中主町議会議員の
選挙に立候補、当選し、同年一〇月一日同町議会議員に就任したこと、被申請人
は、同年九月一八日被申請人の就業規則二二条二号及び被申請人と森下製薬労働組
合との間の労働協約六三条二号に基づき、申請人が同町議会議員に当選したことを
理由に申請人を本件処分に付したこと、以上の各事実は、当事者間に争いがない。
2 疎明によると、被申請人は、その就業規則において、従業員が知事、市町村
長、国会及び地方議会議員、その他公共団体の有給公務員に就任したときは当該従
業員を右議員などの任期満了までの間特別休職とし(二二条二号)、その期間中の
賃金は無給とする旨定め、更に運用として、右特別休職に付する従業員に対しては
右処分とあわせて本社人事部付とする配置転換をすることとしており、また、被申
請人と森下製薬株式会社労働組合との労働協約にも右就業規則と同様の規定が置か
れていることが一応認められる。
 ところで、労働基準法七条本文(使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その
他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求し
た場合においては、拒んではならない。)は、労働者の労働時間中における公民権
の行使を実質的に保障しており、右規定の置かれた趣旨及びその意義並びに右規定
に違反する使用者の行為に対しては罰則が定められていることからすると、使用者
において、労働者が労働時間中に公民権行使に要した時間について無給としたり、
賞与等の計算に当つて右時間を勤務していないものとして取扱うことなどは現に右
時間は労務を提供していないものであるうえ、労働基準法等において右時間を有給
とする旨定めていないことからして同法に抵触するものではないが、その行使例え
ば地方議会議員への就任ということだけを理由として、当該労働者を、解雇、休職
その他の不利益処分に付することは許されないものと解するのが相当であるが、労
働者が公共団体の公務員に就任したことによつて労働契約上の義務を遂行すること
が困難となり、使用者の業務遂行が阻害されるような場合にあつては、このことを
理由として、使用者が当該労働者に対し、右阻害の程度に応じて、解雇したり、休
職としたりすることはなんら前記公民権行使を保障した規定に抵触するものではな
く、許容されるものと解するのが相当である。
3 そこで、以下申請人の中主町議会議員就任のもたらす影響の程度について検討
するに、疎明によれば
(一) 申請人は、昭和五四年九月三〇日当時前記第六グループに所属し、ビーグ
ル犬及び野犬の飼育管理、SPF施設(無菌状態での動物飼育施設)関連外部作
業、動物、器具及び資材の需給管理、その他の業務に従事していたものであるが、
右各業務はそれらの作業内容等からしてもまた過去における実績からしても代替性
があり、右第六グループ所属の正社員三名及びいわゆるパートタイマー七名によつ
て適当に業務を分担することによつて少なからぬ融通性を確保することは可能であ
る。
(二) 他方議員としての活動は議会内活動に限られるものではなく、各種の議会
外活動が存するものであり、またこれらの活動が強制されているわけでもなく、結
局当の議員がどの程度の議員活動をするかはその意思一つにかかつているものでは
あるが、少なくとも大方の議員が行なうものと推認される議会内活動を、中主町議
会における正副議長たる議員以外の議員についてみると、議会の定例会及び臨時会
に要する日数は、年間おおよそ一〇日、各議員がいずれかに所属すべきものとされ
ている常任委員会のうち現在申請人が所属している産業土木常任委員会に要する日
数は、年間約五日前後であり、全員協議会についてみると昭和五四年一〇月一日か
ら昭和五五年七月九日までの開催日数は五日となつている。また、議員は、このほ
か一人当り平均して四以上の各種委員会、協議会等に所属し、そのための活動をし
ているが、これを申請人についてみるに、申請人は、童子、家棟川改修促進協議
会、農業構造改善事業協議会及び農業振興地域促進協議会に所属し、これらの協議
会の前記期間内における開催日数は五日となつている。更に各種研修会、視察等が
年間数日多い年で一〇日前後開催ないし実施されている。以上申請人の場合を例に
とつて推計したうえ単純計算すると、各種研修会、視察等以外の前記各議会内活動
に要する年間の合計日数はおおよそ二七日となり、これに右研修等を加算すると年
間おおよそ三〇ないし四〇日ということになる。ただこれらの会議、会合等は全て
が全日にわたつて行なわれるものではなく、本会議を初めとして半日だけ開催され
る場合があり、特に各種協議会は半日開催というのが常態といえる。
(三) ところで被申請人はいわゆる週休二日制を採用しておつて、正社員は土曜
日も公休日とされているところ、前記各種協議会などは土曜日に開催されることが
あるし、また前記各会議や会合が連続して開催されるのは年間を通じまれにしかな
く、定例会においてはその開催月が三月、六月、九月、一二月と定まつているう
え、定例会を含めた前記各会議や協議会の開催は、少なくとも三日前までには各議
員に通知されることになつている。
(四) 申請人は、本件休職処分がなかつたならば、昭和五四年一〇月一日以降に
おいては、年一六日間の有給休暇権が認められていたもので、このうちの一定の時
間を議会活動等に充てる考えでいるうえ、各種研修、視察等については、右研究所
における業務との両立を考慮しながら、出席の必要性について判断し、できる限
り、右業務への影響を軽減することを考えている。
 以上の各事実を一応認めることができ、以上認定の諸事実を総合すると、申請人
の意思によつて議員活動に要する日数の多寡が左右され、それにしたがつて被申請
人の業務遂行に及ぼす影響の程度も異なつてくるという不確定要素はあるものの、
申請人の中主町議会議員への就任及びそれに伴なう活動が被申請人の業務遂行にあ
る程度の支障をきたすものであることを否定することはできないが、右支障の程度
が、申請人に対し、無給となる休職処分を課するに値するほどのものとは認めるこ
とができない。したがつて、右のような事由があるものとしてなされた本件休職処
分は、その要件の存否の認定を誤つた無効なものといわざるをえない。なお、被申
請人は、申請人に対し、本件休職処分とあわせて本件配転命令をしているところ、
疎明によると、右配置転換は、従業員を休職処分とする場合にはこれと一体となつ
て当該従業員に対しなされるものであるから、本件休職処分の理由がない以上本件
配転命令も無効なものといわざるを得ない。
四 申請人の賃金請求権について
 本件処分が無効である以上、申請人はなお被申請人の薬理研究所に勤務する従業
員たる地位を有し、かつ被申請人に対し賃金請求権を有するものというべきとこ
ろ、疎明によると、申請人は、本件処分当時、毎月二五日払いで月額平均一四万一
四九八円(但し、通勤手当を除く。)の賃金の支払を受けていたこと、被申請人は
申請人に対し、昭和五四年一〇月一日以降右期間に対応する賃金を支払つていない
ことが一応認められるから、申請人は被申請人に対し、同日から同月二〇日までの
期間に対して支払われるべき賃金九万四〇〇〇円及び同年一一月以降毎月二五日限
り一四万一四九八円の賃金の各支払請求権を有することは明らかである。
五 保全の必要性について
 本件処分以降被申請人が申請人を薬理研究所に勤務する従業員として取扱うこと
及び昭和五四年一〇月一日以降現在に至るまで右期間に対する賃金を支払うことを
拒否していることは当事者間に争いがなく、疎明によると、申請人は借家住いの独
身であり、本件処分以前においては被申請人から支払われる賃金のみによつて生計
を維持していた労働者であり、本件処分以後においては、昭和五四年一〇月から同
年一二月までは月額八万円、昭和五五年一月以降は月額九万円(ただし、手取額は
六、七万円)の町議会議員として受領する報酬しか収入がなく、生活に困窮してい
ることが一応認められる。
 以上の事実関係からすると、本案判決確定に至るまで本件処分の効力を停止する
とともに、被申請人から申請人に対し、前記平均賃金額と議員報酬額との差額に見
合う程度の金員を仮に支払われるべき必要性があり、その余の申請は、その必要性
を認めるに足りる疎明がないものと認めるのが相当である。
六 結論
 以上の次第で、申請人の本件仮処分申請は主文1、2項で認容した限度でその理
由があるから、事案に照らし保証を立てさせないでこれを認容することとし、その
余は理由がないからこれを却下することとし、申請費用の負担について民事訴訟法
八九条、九二条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判官 小北陽三 大津卓也 小松平内)

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