弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
被告人Aを懲役1年10月に処する。
被告人Aに対し,未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
被告人Aから,横浜地方検察庁で保管中の覚せい剤1袋(同庁平成24
年領第2710号の23)を没収する。
本件公訴事実中恐喝の点については,被告人両名はいずれも無罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人Aは,
第1法定の除外事由がないのに,平成24年10月8日頃,神奈川県平塚市a
町b番c号所在の被告人A方居室内において,フェニルメチルアミノプロパン
の塩類若干量を含有する水溶液を自己の身体に注射し,もって覚せい剤を使用
した,
第2みだりに,同月9日,同居室内において,覚せい剤であるフェニルメチル
アミノプロパン塩酸塩約0.17グラム(横浜地方検察庁平成24年領第27
10号の23はその鑑定残量)を所持した。
(恐喝について無罪と判断した理由)
第1本件恐喝の公訴事実の要旨
「被告人Bは,人材派遣業「C」を実質的に経営していたもの,被告人Aは,
Cにおいて派遣した従業員の管理,監督を担当していたものであるが,被告人
両名は,Cの従業員であるD(当時48歳)に因縁を付け,借金返済の名目で
現金を脅し取ろうと企て,共謀の上,平成23年3月10日午後7時頃,神奈
川県平塚市a町d番e号メゾンEf号室のCの事務所において,同人に対し,
「借用書を書け。書かないと帰さないぞ。書かないと若い衆を使って半殺しに
するぞ。」などと申し向けて,DにCから34万200円を借用し,これを全
額返済する旨の借用書を作成させた上,さらに,「支払わずに逃げたら落とし
前をつけてもらう。逃げたらどこまでも追い込みをかける。踏み倒したら若い
衆を使って,絶対に探し出して,アンカー付けて海に沈めてやる。」などと語
気鋭く申し向けて現金の交付を要求し,もしこの要求に応じなければ,同人の
生命,身体等にいかなる危害を加えかねない気勢を示して脅迫し,同人を怖が
らせ,よって,その頃,同所において,同人から現金14万円を喝取した。」
第2基本的な事実関係と判断の要旨
1基本的な事実関係
この公訴事実のうち,被告人両名とCとの関係,平成23年3月10日
(以下,平成23年の出来事については年の記載を省略することがある。),
Cの事務所において,被告人Bに言われて,Dが34万200円の借用書を
書いたこと,現金14万円を被告人Bに交付したことについては,当事者間
に争いはなく,証拠上も優に認められる。
さらに,被告人両名の各公判供述,被告人Bの検察官調書(乙4),警察
官調書(乙3),被告人Aの検察官調書(乙18),警察官調書(乙12,
13),証人D,同Fの各公判供述,捜索差押調書(甲9),写し作成報告
書(甲11),捜査報告書(甲2,34),写真撮影報告書(甲3,10),
示談契約書写し(弁1),取下書写し(弁2,3),電話帳データ(甲3
9),押収してある計算書,借用書写し,領収証,メモ紙,給料支払明細書,
戸籍全部事項証明書,住民票写し,運転免許証写し各1枚(平成25年押第
6号の1ないし8)等の関係証拠によれば,以下の事実が認められる。
アDは,知り合いのFから紹介を受けて,被告人Bと面接の上,平成22
年11月15日からC(なお,Cは,「株式会社C」を名乗っているが,
会社登録は未了である。)で作業員として勤務していたが,平成23年2
月末日頃,被告人Bに辞職を申し出た。
イ3月1日,Dは,Cの事務所において,被告人両名とFが同席する中で,
Cを辞職する意思を明確に確認した(この時の話合いを「1回目の話合
い」ともいう。なお,この話合いの日について,Dは3月1日か2日と述
べたが,次に記載する内容証明郵便発送の日付,FとD,被告人Bとの連
絡状況等から,3月1日と認定できる。)。Dは,Cの給料支給日である
同月10日に,Cの事務所に出向くことになった。
ウ同月2日,Dが相談した弁護士Gは,C宛てに内容証明郵便で通知書を
送り,翌3日頃,被告人Bがこれを受け取った。通知書の内容は,Cに対
し,3月10日,Dに,2月分の給料14万円(1日7000円,20日
分)を支払い,DがCに預けた戸籍謄本,住民票等の返還を求めるなどす
るものであった。
エ3月10日午後7時頃,Cの事務所において,再び,被告人両名,F,
Dが集まった(この時の話合いを「2回目の話合い」ともいう。)。
まず,被告人Bは,Dに2月分の給料14万円と明細書の入った封筒を
渡した。Dは,封筒の中身を確認した。
オその後,被告人Bは,Dに対し,既に準備していた「計算書」なる書面
(平成25年押第6号の1はその原本。C作成名義で,D宛てのもの)を
示し,計算書に記載された項目,金額をDがCに返済すべきである旨説明
して,借用書を書くよう求めた。借金の額は,Dが借用していて当日持参
した仕事道具である腰道具一式が汚損するなどしていたため,その買取代
金2万円が付加されて,合計34万200円になっていた。Dは,被告人
Bが言う内容の借用書(同号の2はその写し)を作成した。借用書には,
DがCに対し,合計34万200円の借金があり,3月10日に14万円
を返済し,残金20万200円も3月,4月,5月各末日の3回に分割し
て返済することを約束する旨記載され,Dの署名,押印もあった。借金の
細目は,上記計算書を引用するような形になっていた。
カこの借用書の作成後,被告人Bは,Dに渡した2月分の給料14万円を
これはもらっておくなどと言って回収した。その際,Dは,被告人Bに,
全額を取られると困る旨言ったが,被告人Bはこれを無視した。Dにはそ
の領収証(同号の3)が渡された。
キまた,2回目の話合いの際,Cの事務所にあった戸籍全部事項証明書
(以下「戸籍謄本」という。),住民票写し,運転免許証の各コピーは,
Dに返却され,Dは,その受取書(メモ紙(同号の4))を作成し,被告
人Aに渡した。
クDは,平成23年4月1日に警察に恐喝の被害届を提出した(なお,借
用書記載の借金の残額については,Dが支払ったことも支払請求を受けた
こともなかった。)。
ケ被告人両名は,平成24年10月に本件恐喝の被疑事実で逮捕されたが,
同月27日,Dは,被告人Bの弁護人を介して,被告人両名が用意した示
談金20万円を受け取り,被告人両名に対する被害届を取り下げる旨記載
のある示談書(示談契約書写し(弁1))を作成し,被告人両名それぞれ
に対する恐喝被疑事件の被害届の取下書にも署名,押印した(取下書写し
(弁2,3))。しかし,Dは,その被害届を取り下げなかった。そして,
被告人両名は,同月30日,本件恐喝の公訴事実で起訴された。
2判断のポイント
Dは,14万円の現金を被告人Bに交付した時期について,借用書を書き
終えた後に,被告人Bがこれは先に取るからと言って(それ以外,特に何も
言わずに),先に渡された14万円の入った封筒ごと持っていかれた旨供述
しているところ,借用書にも,当日14万円は返済する(文言は「返済致し
ます」)ので残金は20万200円である旨記載されており,他に,Dの供
述と明確に異なるような供述をしている者もいないから,Dの上記供述は信
用できると思われる。これらによれば,14万円を被告人Bに取られたのは,
借用書作成の直後であって,借用書を作成した後,14万円を取られるまで
の間に何らかの脅迫があったとは考えられず,仮に借用書作成の後に脅迫が
あったとしても,それは現金交付の後にあったことになるから,その脅迫が
現金交付の原因となるとは考えられない。
したがって,現金交付の原因となる脅迫の有無を検討する上では,Dに借
用書を作成させるために借用書の作成前ないし作成中に脅迫があったかどう
かが重要である。
Dは,公判廷で,借用書を書く前に,被告人Aから脅し文句を言われた旨
供述し,他方,被告人両名は,いずれも脅し文句は一切言っていない旨述べ,
さらに,Fも,公判廷で,被告人両名と同旨の供述をしている。
したがって,本件は,Dの上記公判供述につき,借用書作成,ひいては現
金交付につながる脅迫があったと合理的な疑いを差し挟まない程度に確信さ
せるほどの高い信用性を肯定できるかどうかにかかっているといえる。
3判断の要諦
そこで,当裁判所は,Dの上記公判供述の信用性を,Fの公判供述及び被告
人両名の各供述の信用性とも対比しつつ,慎重に検討した。
その結果,Dの公判供述は,Fや被告人両名の各供述に比して,相対的には
信用性が高いといえるが,疑念を抱かせる点もあり,他方,Fの公判供述も,
直ちにDの供述の信用性を左右するほどの信用性は認め難いものの,軽視し難
い面があり,さらに,被告人両名の各供述も,いずれも直ちに信用し難いもの
の,一定の排斥しにくい部分もあり,それらを総合すると,Dの公判供述につ
いては,脅迫があったと合理的な疑いを差し挟まない程度に確信させるほどの
高い信用性は肯定し難いとの判断に至った。
以下,詳述する。
第3各供述の信用性に関する基本的な評価
1Dの公判供述について
供述内容の要旨
ア2月20日過ぎに,被告人Aに,会社で使うから戸籍謄本等を持ってく
るよう言われた。入社して大分たつので,理由を聞いたら返事がないので,
ごねていたが,結局しょうがないと思い,戸籍謄本,住民票,運転免許証
の各コピーを被告人Aに渡した。その時,被告人Aから,中国に行って偽
装結婚すると70万円くらい入るなどと,偽装結婚を持ち掛けられた。一
般社会の話じゃない,断ったらどうなるかなどとも言われた。被告人Bや
Fから,Cは,暴力団幹部であるHの指定企業みたいな存在であると聞い
ており,ヤクザとつながりがある話だと思い,怖かったので,偽装結婚の
話についてはうやむやな返事をした。
イCでは同月28日まで仕事をしたが,偽装結婚の話が出て怖くなってお
り,同日仕事を終えてCの事務所に行った際,ちょうど被告人Bに,3月
から仕事がない(仕事が一時なくなる)と言われたので,けじめも付くと
思い,その日,被告人Bに辞職を申し出た。すると,被告人Bは,Hに電
話をして,「Dの馬鹿が辞めると言うんだけど,どうしよう。」と言って
いた。被告人Aから「この野郎」と言われ襟をつかまれて殴られそうにな
ったり,被告人両名から,俺の顔に泥を塗るのかと言われたりした。その
日は考え直せと言われて帰ったが,もう一度話し合うことになった。
ウそれで,3月1日か2日に,Cの事務所に集まった。被告人両名とFが
同席していた。やっぱり辞めると告げた。被告人両名から,「俺の顔に泥
を塗るのか。」などと言われた(被告人Aからは,「アンカー,脅し文句
で」言われた。)。Fも「俺の顔に泥を塗るのか。」と言っていたが,F
には偽装結婚の話を持ち掛けられたことは言っていなかった。帰りがけに,
FがHに電話をかけ,「Dが辞めるって言うんだけど,顔に泥を塗ってす
みません。」などと会話していた。
エその後,知り合いの紹介で弁護士に相談し,3月10日に,2月分の給
料の支払と戸籍謄本のコピー等の返還を求める内容証明郵便を送ってもら
った。
オ3月10日は,自分のことなので迷惑を掛けたくないと思い,一人でC
の事務所に行った。被告人両名,Fが同席する中,被告人Bから給料を受
け取った。安心して帰ろうとしたら,被告人Bは,計算書を見せ,借用書
を書くよう言ってきた。書かないで立ち去ろうとすると,若い者を連れて
いってぼこぼこにするなどと言われ,怖くなって,やむを得ず借用書を書
いた。被告人Bに内容を言われながら書いた。書き終えるとすぐに,被告
人Bに「これは先に取るから。」と言われ,先ほどもらった14万円を明
細書を除いて封筒ごと無理矢理取られた。「生活できなくなるから困
る。」とごねたが,返してもらえなかった。被告人Bは,「踏み倒したら
どうなるか分かってるな。」などと脅してきた。また,この話合いで,内
容証明郵便についても,被告人Bから「こんなの送りやがってふざける
な。」と言われた。
信用性
アまず何より,Dの供述内容は,Dが14万円を被告人Bに交付するなど
した状況と整合している。
Dは,弁護士に相談し,2月分の給与14万円の支払を確実に受けら
れるよう備えた上で,2回目の話合いに臨んだにもかかわらず,結局1
4万円を持ち帰ることができなかったばかりか,さらに20万円余りの
借金返済を約する借用書まで作成した。
しかも,借用書作成の基となった計算書記載の請求内容には,正当な
根拠があるといえないものが多く含まれている。被告人Bは,後述のと
おり,供述を不合理に変遷させてまで,その正当性を主張したいようで
あるが,被告人Aも請求内容の不合理性を認める旨の供述をしており,
以下に見るように,その請求内容の大半が正当な根拠に基づかないこと
は明らかである。
借用書が引用する計算書記載の借金の内訳は,通勤バイクのリース料,
腰道具一式のリース料,食事代金,3月分食材費,仮払金,アパート清
掃,片付け,冷蔵庫運搬費,冷蔵庫代金,腰道具一式の買取費である。
①このうち,仮払金2万円は,Dが給与の前借りをしていたものであ
り,Cに返済すべきものである。
②また,2月20日から同月末までの間の食事代1万6200円も,
Dは,料金のことは言われず,食べていけと言われ,厚意に甘えた旨
供述するが,2月20日以降,DがスナックIで食事をするようにな
った経緯は明らかではない(被告人Aは,被告人Bに言われて,Dに,
手持ちの現金がなくても給料で精算できるからと,スナックIに連れ
ていった覚えがある旨述べており,その供述する経緯は,Dの供述と
比べてもより自然なものである。)。いずれにせよ,9日間はスナッ
クIにおいて一日3食を賄ってもらったことは間違いなく,被告人A
を含め他の従業員も一日二食で1500円の代金を支払っているので
あるから,Dが9日間分の食事代の請求を受けてもやむを得ないし,
一日3食で1800円という金額も不当に高いとまではいえない。
③冷蔵庫代金も,Dは被告人Aから要らなくなった中古をもらった旨
供述し,真偽は定かでないが,5000円(金額は1万円となってい
るが,冷蔵庫を提供した被告人Aの供述によっても5000円にとど
まる。)はやむを得ないだろう。
④バイクのリース料については,事前にリース料の話がなかったと認
められる上,被告人B自身,リース料の日額を1000円とする根拠
は特にない旨述べており(検察官調書(乙4)。公判廷で,電車等を
使った場合の運賃と比較して1000円という金額を出したと述べた
が,後付けの理由にすぎないし,日当7000円に比して高額に過ぎ
る。),被告人Aはリース料をとるようなバイクではない,自分も借
りているがリース料を払っていないと述べていることからも,不当な
請求である。
⑤また,腰道具のリース料についても,事前にリース料の話はなかっ
たと認められる上,リース料の日額も500円とする根拠がなく,汚
損したなどとして請求した買取費2万円も併せて,高額に過ぎること
は明らかである。
⑥さらに,3月分の食材費3万円は,明らかに不当な請求である。被
告人Bは,月極で食事をする予定であったため,スナックIの経営者
Jが既に調達してしまった食材費であり,いわばキャンセル料である
と説明するが,明らかに不合理である。
⑦Dのアパートの清掃費も,被告人両名の2日間分,危険作業費を入
れて日額2万円,合計8万円の請求となっているが,Dが負担する日
当が発生するとは事前に告げていない上,不当に高額である(Dによ
れば,ほとんど自分でやったと述べたが,被告人両名は,冷蔵庫をD
方に運んだ際に「ゴミ屋敷」となっていて驚き,掃除をしたが,1日
で終わらず,2日かかったというのであって,手袋等を準備して2日
目も出向いたことなども含む被告人両名の各供述は排斥し難い。なお,
日当については,被告人Aは通常の日当の8000円程度と考えてい
た旨供述している。)。
なお,被告人Bは,14万円を受け取りながら,2月分の食事代をJ
に支払っていない。冷蔵庫代金等,被告人Aに支払われるべき分も一切
支払われていない(この点については,被告人Bは,翌3月11日の東
日本大震災のためにうやむやになったなどと述べている。)。
さらに,一方では,CがDに返還すべき金員もある。平成22年12
月分と平成23年1月分の給与からは,10%の源泉徴収がされており
(合計3万800円),これらは精算時にDに返還すべきものである
(被告人Bによると,Cが源泉徴収分を納税していなかったため,2月
分以降は,他の従業員に関しても源泉徴収を廃止したという。)。
以上によると,計算書に基づく借金返済の請求は,その大半が正当な
根拠に基づくものでなく,正当な精算といえるものではないことは明白
である(被告人Bの弁護人は,退職に当たって優遇措置の精算を行うこ
とはあり得る旨主張するが,到底採用できない。)。
2月分の給料を受け取りに来たはずのDがなぜこのような借用書を作
成したのか,確かに疑問がある。そして,Dがそのような借用書を作成
するには何らかの事情があり,そのような事情として,Dが供述する脅
迫されたという筋書きは一応筋の通るものである(この点は,検察官も
何らかの不当な働きかけがあったとして,Dの供述が信用でき,F,被
告人両名の各供述が信用できないことの根拠として特に強調してい
る。)。
イさらに,全体的に見ても,その供述内容は,具体性を持ったものであり,
大筋において不自然なところや客観的な資料と決定的に矛盾するようなと
ころはない。
Dは,Cを辞める理由として,偽装結婚の話を持ち掛けられて怖くな
ったことと3月から仕事がないと言われたことを挙げている。
偽装結婚の話については,それ自体具体的な内容であり,被告人Aも,
Dにそのような話をしたこと自体は否定していない(ただし,後述のと
おり,冗談で言ったなどと供述している。)。Dは,2月22日付けの
戸籍謄本,住民票写し(平成25年押第6号の6,7)の各コピーと裏
面に同日付け住居変更の記載がされた運転免許証写し(同号の8)のコ
ピーを被告人Aに渡し(渡した時期は,2月22日以降ということにな
る。),2回目の話合いの際に返却された。このことも偽装結婚の話と
整合する。被告人Aは,公判廷で,Cの仕事の元請け先に提出するため
必要であったと供述するが,DがCで勤務し始めて3か月以上経過して
おり,時期が不自然であるし,戸籍謄本まで必要とも思われない。また,
被告人Aは,捜査段階では,車購入のためにD名義で融資を受けること
にし,身元確認のための資料を出させたという話もしているところ(警
察官調書(乙13)),被告人Bはそのような話は知らない旨述べてい
る。被告人Aが公判廷で述べるように,偽装結婚の話が単なる冗談レベ
ルの話であるならば,被告人Bが否定するような別の話を持ち出してま
で,それを否定する必要はないはずであり,却って偽装結婚の話が冗談
などではなかったことをうかがわせる(さらに,次のような見方も不可
能ではない。本件において,被告人Bは,明らかに不当な内容の計算書
を準備するなどして,Dに借用書を書かせ,高額の借金を負わせるとい
う形を作っているが,そのような無理をした理由が今一つ明らかではな
い。検察官は,DがCを辞めることへの報復,因縁付けと推測しており,
確かに,被告人両名がDの急な辞職の意思表示に怒りを覚えたというこ
ともありそうではあるが,Dの供述によれば,被告人Bは,Dに怒りを
ぶつけてもろくなことはないという旨の発言もしていたのであり,辞職
の意思表示から2回目の話合いまで9日間もの時間もあり,内容証明郵
便が来たことを考えても,犯罪を犯すほどまでに怒りが持続したという
のも腑に落ちないところである。いずれにせよ,Hから指示があったと
すると,説明がつかないわけではないが,むしろ,偽装結婚の話に絡む
何らかの思惑が背景にあったのではないかとも推察され(例えば,Dが
偽装結婚の話を断ったことにより何らかの損失が生じたことから,これ
を補填するなどしようとする意図等が考えられる。),そうであるとす
れば,偽装結婚の話がより一層現実味を帯びるのである。)。被告人A
の弁護人は,Dの偽装結婚の話は虚偽であると主張するが,そうとは断
じ難いというべきである。
また,3月から仕事がないと言われたことについては,被告人両名と
も,3月初めに一時仕事が切れるだけであり,仕事の予定も入っていた
と供述しており,3月も仕事がなかったわけではないと思われる。しか
し,Dとしては,一時的に仕事が切れることを言われ,また仕事に関し
て注意を受けてこのままでは仕事がなくなるという趣旨で言われたこと
を,3月から仕事がないというふうに受け取ったとしても,不自然とま
ではいえない。
暴力団組員であるH(Cを被告人Bとともに興したKの母親Jが付き
合いのあった人物が組長を務めていた暴力団の組員である。Cは,Kを
更生させるために興したものであり,HはCの顧問的な立場にあったと
いう(被告人Aの検察官調書(乙18)等)。)の関与に関しては,D
は,CはHの指定企業みたいなものであると聞いていた旨述べ,初めて
被告人Bに辞職の意思表示をした後,被告人BがHに電話をかけて話し
ていた,また,1回目の話合いの後,FがHに電話をかけて話していた
旨も供述した。HのCへの関与について被告人両名はいずれも否定して
いる(被告人Aは,上記のとおり,捜査段階でHはCの顧問である旨述
べたが,公判廷ではCへの実質的な関与は全くないと供述した。)。そ
して,Fも,DをCに紹介したことに関して,Hから求人を頼まれたの
ではないかと問われ,それを否定しており,さらに,自身のHとの関わ
りを聞かれた際も,おやじと付き合いがあったなどと述べて,自身との
付き合いを否定するかのような供述をしている。
この点,3月1日午後8時5分頃,Fの携帯電話からH(捜査報告書
(甲34)の「携帯電話スライド票」上の「名義人L」)の携帯電話に
電話をかけて1分42秒通話した記録があり(DがCに雇われた平成2
2年11月も初旬にFとHが電話で通話している。),Dの供述には一
定の裏付けがあることになる。
また,最初に辞職の意思表示をした後の被告人BのHへの電話につい
ては,その日が2月28日であるとすると,被告人BからHに同日夜に
電話をかけたという通話記録は残されていない。しかし,Dは,1回目
の話合いが3月1日なのか2日なのか,明言しない一方で,辞めたいと
被告人Bに言ったのは2月28日(2月の最後の仕事帰り)であること
を前提とした供述をしているが,3月2日には相談した弁護士から同日
付けの内容証明郵便による通知書が発送されており,1回目の話合いも
夜であること,Fが3月1日の午後,被告人BやDと通話していること
などを考えると,その話合いは3月1日に持たれたとしか考えられない。
しかるに,Dが3月2日かもしれない旨を述べるのは,初めて辞めたい
と言ってから1回目の話合いまでの間に1日入っていたような記憶があ
るからではないかとも推測される。すなわち,Dが初めて辞めたいと言
ったのは,2月27日である可能性がある(もっとも,被告人Bは,D
が日曜に勤務したことがなかったことなどを根拠に挙げて,2月27日
を明確に否定する。しかし,勤務日の分かる日報等の証拠は提出されて
おらず,真偽は不明である。)。そして,それが2月27日であるとす
ると,午後7時54分頃に被告人BがHに電話をかけ,21秒とわずか
であるが通話した記録がある。そうすると,この点も,Dの供述が客観
的な資料と矛盾するとまでは断定できない。
ウまた,Dは,証人尋問において淡々と質問に答えていた。自己の仕事に
関する評判について,自分なりに頑張っていたと述べつつも,スコップも
使えないなどと言われていることも聞いたし,たまにどやされたことがあ
ったことも認めた。仕事場への足として貸してもらったバイクを私的にも
使っていたことを認めている。このように自己の印象を悪くするような事
情についても供述しており,供述態度にも大きな不審は感じられなかった。
Dは,偽証罪の制裁はもとより,暴力団組員が背後にいると聞いている中
で,あえて虚偽の供述をするというのも一般的には考えにくいといえる。
エそうすると,Dの供述にはかなり高い信用性を肯定できるように思われ
る。
2Fの公判供述について
供述内容の要旨
ア被告人Bとは人材派遣の仕事をしている人を通して知り合った。被告人
Aとは付き合いはない。Dとは,同人がホームレスの雑誌販売をしている
時に知り合い,(かわいそうなので)いろいろ面倒を見ていた。仕事を探
していると言うので,(Mという人から)求人していると聞いていたCを
紹介した。
イ平成23年3月1日か2日(1回目の話合い)の前だったと思うが,被
告人Bから電話があり,Dが辞めると言っている,連れてきてくれと言わ
れた。それまでは,Dに電話をしてはいなかったが,その時は,Dに連絡
した。Dは,辞める理由として,仕事ができなくて怒られるのが嫌になっ
たと言っていた。Dから偽装結婚の話は聞いていない。
ウ1回目の話合いには,Dと一緒に行った。紹介者の立場で同席した。D
に,「俺の顔に泥を塗るのか。」と言ったが,辞めることに決まった。辞
めるなら辞めていいが,前借り等があるので,また給料日の3月10日に
集まることになった。それ以外に,被告人両名が特に言っていたことはな
い。
エ3月10日の2回目の話合いも同席したが,私自身は,借金の項目,金
額は一つ一つ確認しておらず,分からない。34万幾らの合計金額も聞い
ていない。他人の借金のことは気にならないので,余り聞いていなかった。
借用書を書き出す直前のやり取りは覚えていないが,Dが自分で書くと言
っていた。被告人Bは,「これはもらっておくぞ。」と言って14万円を
取った。Dは「支払があるのに。」と言ったが,被告人Bは無視した。借
用書を書いた後,被告人Bが「逃げたら追い掛けるぞ。」と言い,Dは
「分かりました。」と言った。話合いの間,被告人両名からの脅迫は一切
なかった。言ってないから記憶にないのであって,絶対に言っていない。
自分は,この時も,Dに,「俺の顔に泥を塗るのか。」と言った。また,
「借金があるならちゃんと返せよ。」と言った。被告人両名は,顔に泥を
塗るといったことは言っていない。
オ平成24年終わり頃に本件について警察官による取調べを受けた。それ
までは警察から連絡はなかった。警察官には,自分がDに「俺の顔に泥を
塗るのか。」と言ったことを述べた。「俺も逮捕しないんですか。」と聞
いたら,「逮捕する必要はない。」と言われた。被告人両名による恐喝や
脅しは全くなかったと供述した。調書の作成は拒否していない。「調書は
書かないんですか。」と聞いたら,調書はいいと言っていた。検察庁から
の呼出はなかった。
信用性
アFは,俺の顔に泥を塗るのかなどとDに言ったほか,14万円をその場
で回収されたことに関しても,借りたものを返すのは当たり前であり,そ
れで生活できないのもしょうがないとも述べている。少なくとも本件時に
おいては,Dに対して良い感情を持っていなかったことがうかがわれる。
イ計算書の説明や借用書の作成については,2回目の話合いの主たる会話
内容であったと考えられるのに,それらについてはよく聞いていなかった
し,借用書を書き出す直前のやり取りについても覚えていないと述べるが,
上記のとおり,これらには不当な請求が含まれており,詳しい事情までは
分からないとしても,Dにかなり酷な請求をするものであることくらいは
容易に分かるはずである。そのようなことに関しては,関心がない,覚え
ていないなどと供述する一方で,被告人両名の脅迫文言については,明確
になかったと否定しているのは,やや不自然な感を否めない。
ウHとの関係については,Fは,供述を避けているようである。「うちの
おやじと付き合いがあったと思う。」などと供述したが,1回目の話合い
の後の時刻頃,FからHに電話をかけた記録があり,通話記録と整合しな
い嫌いがある(上述のように,この通話記録はDの供述と整合する。)。
なお,被告人Bから,Dが辞めると言っていることを知らせる電話があっ
たと述べている点については,被告人Bも,2月28日,Dから辞めると
言われて,すぐにFに電話をした旨供述しているが,そのような通話記録
はない(もっとも,Fは,2月28日夜に被告人Bから電話を受けたとは
述べておらず,Dが辞めることを電話で聞いたのが3月1日なら,同日午
後3時59分にFから被告人Bに,午後4時にFからDに通話した記録が
あるから,通話記録と矛盾するとまではいえない。)。
エDがCに勤め出してからFがDと連絡を取っていなかったというのは,
通話記録とそごしている(2月中も数回電話をかけている。)。
オ取調べに関する供述もやや不自然である。警察官に自分も逮捕しないの
かと聞いたというのは,何らやましいことがないとすると,唐突で不自然
であることは否めない。
カ以上によると,脅迫文言がなかったとのFの供述に高い信用性までは認
め難い。
3被告人Bの供述について
供述内容の要旨
被告人Bは,公判廷で以下のような供述をした。
ア偽装結婚の話は一切聞いてない。Cで車を購入するためのローンをD名
義で組むという話も聞いてない。Dの戸籍謄本等のコピーを被告人Aを通
じて提出してもらったことはない。被告人Aから事務所で預かってくれと
言われて,預かった記憶はある(Dの身元をはっきりさせたり,給料の前
借りを踏み倒して逃げた場合に備えたりするために,それらの書面が必要
と考えていたので,被告人Aに指示を出したかもしれないとも供述す
る。)。
イ2月28日,Dが日報をCの事務所に届けに来た際,被告人Aが,メモ
を取れなどという指導に従わないDに,「どうするんだ。このままでは仕
事もなくなるよ。」などと注意した。私も,いろいろクレームを受けてい
たので,Dに対し,「仕事がどんどん薄くなるよ。」などと言った。する
と,Dは,突然「辞めさせてくれ。」と言った。すぐにFに電話して,ど
う考えるかを聞いたら,「明日時間を作ってくれ。」と言われたので,D
に,3月1日午後7時過ぎにFが来るので,もう一度来てほしいと伝えた。
バイクは事務所に置いていかせた。Hには一切電話をしていない。被告人
AがDの胸ぐらをつかむような暴行は一切なかった。
ウ1回目の話合いで,Dは,気持ちは変わらない,辞めるということだっ
た。Fは,「何でだ。もうちょっと頑張ってみたら。」「俺の顔をつぶす
のか。」というようなことを言った。Dが帰りがけに今給料が欲しいと言
ったが,給料日は決まっているし,精算すべきものがあるから,給料日に
支払うと言ったら,Dは了解した。
エ2回目の話合いの際,Dが腰道具を持ってきたが,使えなくなっている
ものもあったので買ってもらうことにした。その買取代金をあらかじめ作
っていた計算書に加えた。バイクのリース料については,往復運賃が10
00円以上なので1000円にしたとか,3月分の食材費についてはJが
困るなどと,一つ一つ項目ごとに説明した。Dは何も言わなかった。請求
が過大だとは思わない。借用書を作成してほしいと言うと,Dは「分かり
ました。書きます。」と言った。文面は私が口頭で言ってDに書いてもら
った。脅し文句は私も被告人Aも一切言っていない。極力言葉は必要以外
話さず,被告人Aにも,腹が立つのは分かるが,余計なことは言わないよ
うに言っていた。
オ私が14万円を取った際,Dは,嫌という素振りはなかったが,「支払
があるので。」とは言っていた。私は,関係ないと言った。借金は,返済
されるとは思わなかったが,「払ってもらえないと捜さないといけないの
で,きちんと払ってください。」と言った。受け取った14万円について
は,Jに渡す分は分けたが,翌日大震災があって,その後どうしたか覚え
ていない。
14万円については,G弁護士が間に入ってくれば,譲歩するつもりは
あった。
カ恐喝は一切していないが,示談については,私が逮捕されてからCを任
せていた被告人Aを一刻も早くCに復帰させるために行った。
キHは,稲川会の人と聞いたことがあるが,おみこしの会の先輩として付
き合っている。Cとは関係ない。JとHが懇意にしているという話も聞い
ていない。2月末頃にHに電話をしたのはお祭りの関係である。
信用性
被告人Bは,捜査段階(検察官調書(乙4),警察官調書(乙2,3))
で,計算書に記載された内容は,正当な請求代金であり,Dは,何も言わず,
不満そうな顔もしなかった,借用書を書いた後,踏み倒したらどこまでも追
い掛けるとは言っていないなどと供述した。F等の供述とそごしている上,
計算書が正当な請求代金である旨述べる点も含め,自己に不利益な事実を否
定する態度が顕著である。
公判供述は,捜査段階の供述に比べると,幾分そのような態度は緩和され
た感がある(しかし,このことは供述に変遷があったことを意味する。)が,
それでも計算書の内容が過大ではないなどと強弁している部分があるほか,
辞めると言われてすぐにFに電話したとの供述も通話記録との間でそごがあ
る。被告人Bは,Hに2月27,28日,3月5,7,8日に電話をかけた
通話記録があり(加えて,後述のとおり,3月1日に被告人Aが3回Hと電
話通話をしている。),Hとみこしの会の関係だけの付き合いというのも整
合しない嫌いがある。Dの戸籍謄本等のコピーに関しても曖昧な供述をして
おり,捜査段階の供述との間でも変遷があるなど,不自然である。
これらに照らすと,脅迫文言がなかったとする供述も,直ちにDの供述の
信用性を左右するほどの信用性は認め難い。
4被告人Aの供述について
供述内容の要旨
被告人Aは,公判廷で以下のような供述をした。
ア偽装結婚の話をDにしたことは覚えていないが,したとすれば,冗談で
出たかもしれない。交際相手を探すという話が発展したのかもしれない。
住民票と運転免許証のコピーを出すように言ったのは,次の現場の元請け
に作業員名簿を提出するためである。運転免許証のコピーは,働き始めた
当初から提出するように言っていたと思う。運転免許証のコピーの提出に
関しては,車を購入するためのローンをD名義で組むという話も出ていた。
そのことは,被告人Bにも話したと思う。戸籍謄本は,通常不要であるが,
素性(身元)のよく分からないDの家族等を把握するために出させた。被
告人Bにも身分証として取るように進言していた。
イ辞めると聞いたのは,2月28日だったと思う。事務所で日報を提出す
る際,Dの日報が泥まみれだったので,日報は金と一緒だと前から指導し
ていたのに,どういうことだと恫喝した。そうしたら,Dは,「じゃ辞め
る。」と言った。
胸ぐらをつかむような暴行はしていない。被告人Bは,引き止めるよう
なことを言っていた気がする。私は,Dの仕事ぶりについてクレームが多
かったので,辞めたいと言った時,正直肩の荷が下りた気がした。
その時,被告人Bが,誰かとの間で電話をかけたり受けたりしたかは覚
えていないが,重要な電話はしていないと思う。被告人Bが,Dに,明日
Fが来るといった話をしたかどうかについても覚えていない。
ウ被告人Bは,1回目でも2回目でも,俺の顔に泥を塗るのかというよう
なことは言っていない。
エ1回目の話合いの際に,Fが借金があるなら返した方がいいよと言って
いたような覚えがある。また,Fは,被告人Bに謝っていた覚えがある。
Dが被告人Bに今日給料を払ってくれと言ったというのは記憶になく,聞
いていない。被告人Bが,Dに,精算しなければならないものがあるとい
うような話はしていたと思う。Dは了解したと思う。
オ弁護士から来た内容証明郵便を被告人Bに見せられたが,なぜわざわざ
弁護士を頼むのか,一緒に不思議がっていた。被告人Bは,憤りも感じて
いたと思う。
カ2回目の話合いの際,Dに給料を渡した後,精算するものがあるという
ことで計算書が出てきた。計算書や借用書の内容は見ていないが,耳に入
った限りでは,Dの立場からすると多過ぎると思った。被告人Bが「払え
るだけ精算してもらう。」と言って14万円を取ると,Dは,一杯支払等
があるので全部は困るという意味合いのことを言っていたが,被告人Bは,
「そちらの都合でこちらには関係ない。」というようなことを言っていた。
金に関しては,自分は口を出す立場ではないので,口を出さなかった。脅
し文句も言っていない。Fも口を出していなかった。被告人Bは,借用書
の借金が支払われなければ,捜さなくてはいけなくなるようなことを言っ
た。
Dのことを気の毒に思ったが,なぜDがそんなに多過ぎる請求をされ,
14万円を取られるようなひどい扱いを受けたのか,その理由については
思い当たることはない。
Fは,2回目の話合いで顔に泥を塗るのかと言った。
キ2回目の話合いの後,G弁護士から何らかのアクションがあると思って
いた。
クDとの示談については,恐喝を認めることが条件なら,応じなかった。
ケHは,Jと家族ぐるみの付き合いをしていることくらいしか,知らない。
暴力団組員であることは薄々分かっていた。Hは,Cの経営には関与して
いない(被告人Bが逮捕され,自分が実質的に経営を取り仕切っていたと
きもHからの指示は全くないし,Hへの報酬もない。)。
3月1日,Hに電話をかけたことは覚えていないが,かけたなら,みこ
しの会の待ち合わせの関係だと思う。3月は祭りが多いので,週5回くら
いかけることもある。みこしの会以外の用件でかけることはないと思う。
信用性
被告人Aは,計算書の内容が高額に過ぎると述べるなど,自己又は被告人
Bに不利益な内容の供述もしているし,被告人Bが述べていることでも知ら
ないことは知らないと述べている。また,捜査段階から供述内容にさほど大
きな変遷はない。被告人Bの供述に比べると,信用性を低くみるべき要素は
少ない。
しかし,戸籍謄本等のコピーを出させた経緯については,車のローンの話
等,被告人Bも否定している話を出しており,偽装結婚の話についても,捜
査段階ではDはすぐに断ったとまで述べながら,公判廷では,Dに言ったか
どうか覚えておらず,言ったとすれば冗談で言ったなどという曖昧な供述も
している。さらに,やはりHについては,用件は不明であるが,3月1日午
後に3回電話をかけており(合計通話時間も6分半に及ぶ。),被告人Aの
説明と整合しない嫌いがある。そして,結局,被告人Bがなぜ無理をしてま
でDに高額に過ぎる請求をし14万円を回収したのかについて,何ら思い当
たることがないというのも不自然な感を否めない。
これらに照らすと,脅迫文言がなかったとする供述もにわかに相応の信用
性を認めるわけにはいかない。
5小括
以上によれば,Dの公判供述は,Fや被告人両名の各供述に比して相対的に
は信用性が高く,その供述するとおり,借用書を作成する直前に脅迫があった
可能性はかなり高いとはいえる。
第4D供述の信用性の程度
1しかし,Dの供述には,子細に見ると,やや不自然さが感じられる部分が幾
つか含まれている。
上述のとおり,借用書の作成前ないし作成中の脅迫の有無が重要であると
ころ,その点についてのDの供述をつぶさに見ると,Dは,「14万円を渡
され,安心して帰ろうとしたら,被告人Bに計算書を見せられてこれを払え
と言われ,借用書を書けと言われた。一切書かないで立ち去ろうとしたが,
被告人Aがいい加減にしろ,若い者を連れていってぼこぼこにするとかいう
言葉があって脅され,怖くなってやむを得ず書いた。被告人Aからは,半殺
しとか,アンカーって言われ,襟首もつかまれたが,被告人Bが,こんなや
つ殴ってもすぐ警察に行くからやめろと止めに入った。そういうことがあっ
たので怖くて借用書を書いた。脅されて,書かないと帰れないので,借用書
を書いた。納得できないと話したが,アンカーとか埋めてやるとか言われて
怖くなって書いた。」などと供述した。Dは,借用書の作成中の状況につい
て,「頭がパニックだったので,書くだけは書いた。」とか,「これは何,
何と聞きながら書いた。」「説明を受けたが,納得できないので,書くのも
ごねていた。」「携帯で漢字を調べながら書いた。」などとも供述している。
しかし,Dは,ほかにも,複数の機会に特に被告人Aから脅迫や暴行を受
けた旨供述している。
アまず,2月28日,最初に辞めると言った時,被告人Aが怒って「こ
の野郎」と言われ,襟をつかまれて殴られそうになったり,「俺の顔に
泥を塗るのか。」と言われたりしたが,被告人Bが,「この馬鹿,殴っ
ても警察に行くだけだからやめろ。」と言っていたと供述した。
イ1回目の話合いの際も,被告人両名から脅されたと供述している。具
体的には,被告人Bが「やっぱり泥を塗るのか。」とか言い,被告人A
も,アンカーという言葉を入れて,「この野郎,俺の顔に泥を塗るの
か。」などといろいろ脅し文句を言われた旨供述している(ちなみに,
Fからは,「俺の顔に泥を塗るのか」ということしか言われていないと
供述した。)。
ウ3月10日,借用書を書き終えた後,被告人Bが,「踏み倒したらど
うなるか分かっているな。どこまでも捜して追い込みをかける。」と言い,
被告人Aが,「踏み倒したら若い衆を使って半殺しにする。アンカーを付
けて海に埋めてやる。」と言ったとも供述した。
さらに,同日,被告人両名から,「俺の顔に泥を塗るのか。」とも言わ
れたが,被告人Bは,自分が中途半端に辞めると言ったため,仕事もな
いのに今まで世話してやったのに急にいい加減なこと言うなという趣旨
であろうし,被告人Aは,単に脅せばいいと思っていたんだろうと思う
とも供述している。
エちなみに,2月20日過ぎに,戸籍謄本等のコピーを被告人Aに渡し
た後,偽装結婚を持ち掛けられた際も,断ったらどうなるとか半殺しと
か言われた旨供述している。
もちろん,これらの借用書作成前ないし作成中を含むすべての機会に,被
告人両名から脅されるなどした可能性もある。しかし,別の機会の脅迫や暴
行の内容が類似しており,しかも,被告人Bが,早い段階で被告人Aの行為
を制止していたにもかかわらず,それと同様のことが2回目の話合いの際に
もあったことになっているし,特に,2回目の話合いでは,Dが辞職するこ
とは前提となっているのに,俺の顔に泥を塗るのかというのをFが言うなら
ともかく(Fは,2回目の話合いでもそのように言った経緯についてそれな
りの説明をしている。),被告人両名も言ったというのはいささか不自然で
ある(その趣旨についての推測も納得し難い。)。このように見ると,Dが,
記憶の混同等から,借用書作成後を含むいずれかの機会の脅し文句や怒りの
文言を,借用書作成前ないし作成中のこととして供述した可能性があるので
はないかという疑念を抱かせる(例えば,借用書作成後については,Fも,
被告人Bが逃げたら追い掛けるということを言っていたと述べており,この
際にやや激しい文言が出たのを借用書作成前のこととして述べたことなどが
あるのではないかとも思われる。)。
加えて,Dは,上記のように,14万円を受け取った際,帰ろうとしたな
どと供述している。ほかに,仮払金2万円の精算について聞かれて,2万円
は,帰りがけに返そうと思っていたなどとも述べている。これは,まるで,
当日精算があることを分かっていなかったかのような供述である。しかし,
そもそも3月2日に弁護士を介して内容証明郵便で給料を支払うように求め
たのは,1回目の話合いの際に,給料の支払を受けられないおそれを感じた
からであろうと推測される。その時,被告人Bから精算がある旨告げられた
からこそ,そのように感じたとみるのが自然である。最低でも仮払金2万円
は精算する必要があることは当然分かっていたはずであるのに,精算をせず
に帰ろうとしたというのはやや不自然といえる。
このように,Dが脅迫されたと供述する借用書作成の直前における状況に
は若干の疑念や不自然さが感じられる。そして,このような疑問を持って見
ると,借用書を書かせるのに,アンカー(船のいかりのことと推察され
る。)という言葉まで出して海に沈めるようなことまで言ったというのはや
や飛躍があるようにも思われる。Dがよほど借用書の作成を頑強に拒んだな
どの事情があれば,そのような過激な脅し文句が出たことも得心しやすいが,
D本人も借用書の作成に激しく抵抗したというふうな供述はしておらず,D
がそれを頑なに拒んだという状況はうかがわれない。
逆に,Dは,14万円を取られた際,生活ができなくなるから困るとごね
たが,一切聞く耳を持ってくれなかったとも供述している(この点は,F,
被告人Aも同旨の供述をし,被告人Bも,公判廷では同様の供述をしている。
ただし,いずれも,生活できなくなるというのではなく,支払をするところ
がある旨言ったという。)。また,Dは,借用書作成中も書くのをごねてい
た旨も供述している。もし,生命を脅かされるような脅迫を受けていたら,
このような抵抗めいたことが言えるのか,いささか疑問である。
Dの「最初の調書」(4月1日付け警察官調書(甲4)と推察される。)
には,2回目の話合いの席に,Fが同席したことが記載されていなかったと
いう(証人尋問で被告人Aの弁護人がその点を追及した。)。Dは,捜査官
に,Fが同席していたことを述べたと供述したが,供述調書に記載がないと
すると,Fのことを述べなかった可能性が高い(そうでなければ,捜査官が
何らかの意図又は失念によりFの同席を供述調書に記載しなかったことにな
るが,Fがどのような供述をするか不明の段階で,しかもどちらかというと
Dの理解者であると思われるのに,捜査官がそのような脱漏をする可能性は
低いと考えられる。)。
なお,Fは,平成24年終わり頃まで警察官からの連絡はなかったと供述
している。その真偽は定かではないが,もしこれが真実であれば,被告人両
名が逮捕されたのは,同年10月であり,被告人両名が取調べを受けて,F
が同席していた旨述べたことにより,捜査官がFから事情を聴くことにした
ということも考えられ,Dは,被害届を提出した最初の頃,Fが2回目の話
合いに同席していたことを供述していなかった可能性が大きくなる(もっと
も,これは,捜査段階の初期におけるDの他の供述調書に,Fの同席が記載
されていないことを前提とする推測である。)。
Dが,実際に脅迫されたのに,それを聞いているはずのFの同席をあえて
供述しなかったというのは理解し難い面がある。このことも,Dの供述に一
定の疑念を生じさせるといえる。
Dは,本件後,第三者に相談し,市の市民相談センターに行ったところ,
被害届を出すよう勧められ,4月1日に警察に本件の被害届を提出している。
しかし,14万円を受け取りに行って,脅迫を受けて借用書を書かされ,そ
のために全く現金を受け取れなかったとすれば,真っ先にG弁護士や警察に
相談に行くということが考えられるのに,G弁護士を紹介した知人に相談し
たとしながら,まずはアパートの退室手続等,居住場所の確保に動いたとい
うのである(見方によっては,給料を取り戻すのを諦めているかのようにも
思える。)。むしろ,被告人両名ともに,G弁護士による何らかの介入を予
想していたというのに,やや理解し難い行動である。
更に幾つかの細かい部分についても疑問がある。
辞職の理由に関して,3月から仕事がないと言われたとも供述しているが,
「仕事が一時なくなる」と言われた旨も述べており,その趣旨は曖昧である。
仕事のやり方について被告人Aから叱責されたとすれば,それは仕事の継続
を前提とするものであるし,被告人両名とも,3月から仕事が一切なくなる
という状況ではなかったというのであり,これは排斥し難い。辞職の理由に
ついて,FがDから聞いたと述べる事情も,被告人両名が推測する事情もい
ずれも怒られるのが嫌になったという点で符合している。
また,14万円を交付したのに対し,領収証を受け取ったことを覚えてい
ない,もらっていないと思うなどとも供述した。領収証を受け取ったことは
明らかであるのに,なぜこのような曖昧な供述をするのか理解し難い。
上述のとおり,Dの供述は不自然とまではいえないけれども,Dが被告人
両名の発言をやや誇張したり自分の主張に沿うように解釈して供述すること
があることをうかがわせる。
以上の諸点に照らすと,Dの供述には,若干の疑念を禁じ得ないところが
ある。
2同時に,Fの供述も軽視し得ない面がある。
Fは,DがCで働く前,雑誌を路上で売って月わずか四,五万円を得てい
た時期に,Dにジュース代や御飯代を渡したり,1度日雇いの仕事を提供し
たりした。Dが金がないというので,就労先としてCも紹介した。Dも,公
判廷で,Fのことを雑誌を売っていた時の客,理解者であると述べ,2回目
の話合いで被告人両名が脅し文句を言ったかどうかについては,Fに聞いて
もらえば分かる旨も供述した。
また,Fの供述内容を見ると,Dの供述と符合する部分がかなりあるし,
被告人両名にとって不利益な供述もしている。Dと食い違う点でも,Fの供
述内容の方が成り行きとして自然であると思われる部分もある。
アDは,偽装結婚の話をFにはしていない,自分がCを辞めることについ
て,Fが,俺の顔に泥を塗るのかと言っていたのは偽装結婚の話を知らな
いからであるなどと供述している。Fは,Dからは辞める理由として,怒
られるのが嫌だからというふうに聞いたと供述しており,これはDの供述
と符合する。また,2回目の話合いでの同席者の発言内容については,俺
の顔に泥を塗るのかと言ったのは,自分だけであると述べている。これは,
Dが俺の顔に泥を塗るのかというのは,被告人両名も言っていたとの供述
をしているのと対比すると,Fの供述の方が自然である。
イFは,Dが借用書を書いた後,被告人Bが「借用書を書いたんだから逃
げたら追い掛けるぞ。」と言ったと供述している。被告人Bは,捜査段階
でどこまでも追い掛けるなどと言っていない旨供述しており(公判供述で
はもっと柔らかい表現ながら同旨の発言をしたことは認める。),これは,
被告人Bに不利益な供述もしていることを意味する。
また,被告人Bが「これはもらっておくぞ。」と14万円を回収した,
Dは「支払があるのに。」と不満を言ったが,被告人Bは無視した旨も供
述している。被告人Bが捜査段階で,Dは不満そうな顔もせず,何も言わ
なかったと供述しているのと比べると(公判廷では異なる供述をしてい
る。),これも被告人Bに不利益な供述である。
ウまた,1回目の話合いと2回目の話合いの関係について,Fは,1回目
の際に,Dが辞める意思が固いことから,辞めるなら辞めていいが精算が
あるので,10日の給料日に集まって話そうということになったと供述し
ている。これは合理的な流れである(この点については,被告人両名も同
旨の供述をしている。)。
確かに,Fは,Hとの関係については,供述を避ける態度が明らかに見て
取れる。しかし,Hは,暴力団組員である。実際に本件との関わりが薄く,
ありのままに供述したとしても,客観的にはさして影響のないように思える
場合であっても,全く無関係であるかのような供述をすることもあり得ると
ころである。Hとの関わりについて虚偽を含む供述をしているとしても,被
告人両名がHに指示されてDを脅したということまでをも推測できるわけで
はないし,それを認めるに足りる証拠があるわけでもない。
Fは,捜査段階において供述調書が作成されていない。Fが,捜査官に,
被告人両名からの脅迫があったと述べながら,被告人両名や背後者からの報
復を恐れて,調書の作成を拒否した可能性もあるが,そもそもFは,自らが
供述するように,捜査官にも脅迫はなかった旨供述した可能性も否定できな
い。Fは,公判廷で,自分も逮捕されるのかと聞いたと吐露し,既述のよう
に,何らかの不正の存在をうかがわせるが,他方で,調書は作成しなくてい
いのかと捜査官に告げた旨も供述しているのである。
以上のように,Fの供述は,Dとの関係のほか,内容的にも第三者的な立
場からのものと理解できる点を含んでいること,Hとの関係について回避的
な供述をしていることを必ずしも重視できないことなどに照らすと,信用性
が乏しいと断ずるにはいささかためらいを覚えるのであり,Fが被告人両名
による脅迫を否定していることを直ちに軽視し難い面がある。
3その上,被告人両名,特に被告人Bが,内容証明郵便を送ってきた弁護士の
存在を意識していたことは明らかである。だからこそ,内容証明郵便による通
知書で求められた2月分の給与14万円の支払を実行した形をとるために,従
前の給与では前借り分である仮払金を控除して渡していたのに,仮払金を控除
していない明細書を準備していたし,借用書を作成させたのもその14万円の
返還を受ける書類上の根拠を揃えている(借用書と一体となる計算書について
は,借用書はコピーを渡し,D宛ての計算書は原本(平成25年押第6号の
1)を交付するなど,書類の授受に関しても周到な念の入れようである。もち
ろん,14万円の領収証も作成して,Dに交付している。)。いずれもDの背
後に弁護士がいることを意識したものと解されるのであって,Dに請求した内
容こそ正当性に欠けるものが多いものの,このような準備をした被告人Bなら,
あからさまな脅迫を行うのも控えるのではないかとも考えられる(被告人両名
ともに,後に問題とならないよう,穏やかに事を進めようと考えていた旨供述
している。)。Dが14万円を受け取れずに帰るわけであるから,弁護士等に
相談に行く可能性はかなり高いといえるのであり(被告人両名とも,本件後に
G弁護士からの何らかの介入等があることを予期していた旨供述している。),
そのようなあからさまな違法行為を行えば,それを弁護士あるいは警察に告げ
られる可能性が高いのである(もちろん,Fをいざというときに脅迫を否定す
る供述をする第三者として確保した上で,脅迫を行ったということも考えられ
ないではない。しかし,被告人BとFとが3月1日から同月10日までの間に
数度通話した記録があることなどから推測し得ることには限度があり,Fが確
実にそのような被告人Bの意に沿う供述をする人物であるとの立証もされては
いない。)。
4借用書作成につながる脅迫がなかったとすると,説明に窮するような事情が
ないかどうかについて改めて検討する。
まずは,借用書作成の経緯である。借用書記載の借金の内容は,正当な根
拠のないものが多いから,Dが何らかの特別な心理状態にあって借用書を作
成したことは間違いない。
検察官が主張するように,現場にいた被告人両名とDとの関係,Fの発言
(さらには,Dの供述を信用できるとして,内容証明郵便を送ったことに関
してした被告人Bの発言)等を考えると,借用書作成時に威圧的な状況があ
ったことも肯認してよいであろう。しかし,現金の交付について本件恐喝が
成立するには,その原因となる程度の脅迫行為が存在したことが必要であっ
て,何らかの威圧的状況だけでは,恐喝を認定することはできない。
Dが,それまでの被告人両名との関係等を考え,仮払金という正当な請求
に加え,項目としては何らかの返済義務があることは否定し難いものも含ま
れる計算書を示されて,動揺し(本人も頭がパニックになったと供述してい
るが,なぜパニックになったのかは供述上不明確である。),逐一文句や反
論を言うことができず,あるいは,文句等を言っても聞き入れてもらえない
と諦めて,借用書作成に渋々ながら応じた可能性も考えられないではない。
さらに,Dが脅迫されたと供述した理由である(そもそも恐喝の被害届を
出した理由とも関係する。)。上記のように,偽証罪の制裁,背後の暴力団
組員による報復も予想される中で,あえて被告人両名に不利な虚偽の供述を
するかという疑問である。しかも,本件恐喝の起訴がされる直前には,示談
金20万円を受け取っており,今更恐喝があったことを立証しても,Dが更
に何らかの利益を得られる見込みは乏しいと思われる。しかし,示談したに
もかかわらず,被害届を取り下げなかった理由について,Dは,示談の際に
被告人Bの弁護人から被告人両名が恐喝の事実を認めたと聞いたのに,検察
官から電話で被告人両名が認めていないと聞いたからである旨供述したが,
この説明は,示談契約書に被告人両名が事実を認めた旨の記載がないことと
整合しない。Dの説明を全くの虚偽とは断じ難いにしても,示談契約書の記
載内容と整合しないDの説明のとおりの経緯であったともいえない。このこ
とも考えると,供述の一貫性維持,被告人両名に対する何らかの屈折した感
情,Dの性格,記憶の混同,誤った記憶の形成等が原因となって,Dが事実
と異なる供述をしたことも考えられないではないのである(被害届の提出に
関しても,上述した3月10日以降のDの行動を見ると,いろいろと相談す
るうち,脅されるようなことでもなければ,そのような借金を背負わされる
ことはないはずであると指摘され,14万円を取り戻そうと動いたというこ
となどが考えられないわけではない。)。
なお,被告人Bが,Dに対し正当な根拠のない高額過ぎる請求をし,14
万円を回収した理由がもう少し明らかになれば,別の認定もできるかもしれ
ない。しかし,差し当たり,前述のように,偽装結婚の話に絡む何らかの思
惑が背景にあったことなども推測できないわけではないものの,証拠上それ
は明らかでないといわざるを得ない。
5以上を要すると,前述のように,脅迫があった可能性はかなり高いとはいえ
るが,これを認定するには合理的な疑いを差し挟まない程度に脅迫があったと
の確信に至ることが必要である。Dの供述に対する疑念は,個々に見れば,い
ずれもわずかなもので,他の説明も不可能ではないが,これらが重なると,一
定の疑いとなって残る。そして,Fの供述や被告人両名の各供述も,軽視ない
し排斥し難い面を持っており,Dの供述の信用性をある程度揺るがす要素とな
り得る。さらに,脅迫がなかったとしても,必ずしも説明に窮するとまでいえ
るような事情は存しない。それらを併せ考えると,Dの供述に,現金交付につ
ながる脅迫があったと上記の程度に確信させるほどの,すなわち本件恐喝を認
定し得るほどの高い信用性は肯定し難いといわなければならない。
第5結論
よって,Dが現金14万円を交付するに当たり,被告人両名が脅迫を行った
と認めることはできないので,被告人両名に対する本件恐喝の公訴事実につい
ては犯罪の証明がないことになるから,刑訴法336条により被告人両名に対
し無罪の言渡しをする。
(法令の適用)
被告人Aについて
罰条
判示第1の所為覚せい剤取締法41条の3第1項1号,19条
判示第2の所為同法41条の2第1項
併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(犯情の重い判示
第1の罪の刑に加重)
未決勾留日数の算入刑法21条
没収覚せい剤取締法41条の8第1項本文
(量刑の理由)
被告人Aは,平成15年に覚せい剤取締法違反を含む罪により実刑に処せられ
て服役し,平成17年に仮出所したが,仮出所中に覚せい剤を使用し,同年7月,
懲役1年6月に処せられた。それにもかかわらず,前刑終了後5年余りで,また
しても本件覚せい剤の使用,所持の各犯行に及んだ。仕事や人間関係のことで現
実逃避したくなり,覚せい剤の薬理作用を利用しようとしたものであり,その動
機の安易さやこれまでの覚せい剤使用歴等を考えると,被告人Aの覚せい剤に対
する依存性,親和性は高く,その規範意識の希薄さも顕著である。
そうすると,被告人Aの刑責を軽くみることはできないが,覚せい剤取締法違
反の各事実について素直に認め,反省の態度を示していること,今度こそ二度と
覚せい剤を使用しないと誓っていること,仕事は真面目にしていたことなど,被
告人Aのために斟酌すべき事情もあるので,それらを十分考慮して,被告人Aに
は主文掲記の刑を科するのが相当であると判断した。
(被告人Aに対する恐喝と併せた求刑懲役4年,覚せい剤1袋の没収)
平成25年7月30日
横浜地方裁判所第6刑事部
裁判官景山太郎

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