弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決を破棄する。
     本件を新潟地方裁判所に差し戻す。
         理    由
 本件控訴の趣意は、検察官が提出した控訴趣意書に記載されたとおりであり、こ
れに対する答弁は、弁護人らが連名で提出した答弁書に記載されたとおりであるか
ら、これらを引用する。
 控訴趣意第一(理由不備の主張)について
 所論は、要するに、原判決は、「被告人、弁護人は、被告人が自衛隊員に拒否す
るよう呼びかけた本件起訴状記載の訓練は、特別警備訓練と称していたが、実は治
安出動の訓練であり、その治安出動は国民の権利を侵害し、正当なデモを鎮圧する
違法なものであるから、被告人の本件行為は正当行為であると主張している。その
ため、本件訓練が、果たして特別警備訓練であるか、治安出動の訓練であるか否か
が明らかにならなければ、被告人の本件行為が正当行為であるか否かを判断するこ
とができない。そして、この点を明らかにするためには、航空幕僚長が昭和四四年
六月二四日付で発した『特別警備実施基準について』と題する通達(以下単に「通
達」という)が公判廷に顕出されることが必要不可欠である。ところが、裁判所の
提出命令にもかかわらず、航空幕僚長、防衛庁長官がこれに応じないから、有罪判
決に至る可能性がない。」として、被告人に対し無罪の言渡をした。しかしなが
ら、本件訓練が治安出動の訓練である場合においては、なにゆえに、本件訓練の拒
否を呼びかけた被告人の行為が正当行為として犯罪の成立を阻却されるのか、原判
決は、その理由について全く判示していない。これでは、公訴事実の証明不十分を
理由とする無罪判決の立論の前提をなす判断が欠けているというべきであるから、
原判決には理由不備の違法があるというのである。
 原判決が、本件公訴事実につき無罪の言渡をした理由の概要は次のとおりであ
る。すなわち、原判決は、本件公訴事実中、被告人が自衛隊員に対して、拒否する
ようせん動した訓練が、「特別警備訓練」であるという点を除いては、略公訴事実
に沿う事実を認定したうえ、まず、「被告人、弁護人は、当時同警戒群で行なわれ
ていたのは、特別警備訓練と称していたが、実は治安出動訓練であつた、そして、
それは国民の集会等の権利を侵害し、正当なデモを鎮圧することを目的とする治安
出動の訓練であつたから、被告人はこれを拒否するよう自衛隊員に呼びかけたので
あつて、被告人の行為は正当な行為である、と主張する。そういう主張があれば、
裁判所としては、これについて判断しなければならない。ところが、特別警備訓練
と称して実施された訓練が、治安出動の訓練なのか、そうではないのかが明らかに
ならなければ、被告人の行為が正当行為であるか否かの判断ができないことになつ
てしまう。」として、本件訓練が治安出動の訓練であるか否かの点が、正当行為の
主張に対する判断の前提をなす旨を示した。そして、この点に関する証拠調の結
果、「特別警備訓練と治安出動の訓練とは同じものであるかもしれないし、そうで
ないとしても、かなり類似し、紛らわしいものではないか、一部重なる点があるの
ではないか、という疑問を拭い去ることができない。そこで、右の疑問を拭い去る
ためには、特別警備実施基準に関する航空幕僚長通達が公判廷に顕出されることが
必要不可欠である」という判断に到達した旨を述べ、さらに、原審が右の「通達」
について提出命令を発したにもかかわらず、航空幕僚長は刑訴法一〇三条によりこ
れに応じないため、その監督官庁である防衛庁長官にその承諾を求めたが、これま
た、それを承諾しなかつた経過を説明して、結局、右の「通達」の内容が明らかに
されないかぎり、被告人に有罪を宣告し得ないから、もはや、本件は検察官請求の
残りの証人の取調をするまでもなく、公訴事実の証明が十分でないとして、被告人
に対し無罪の言渡をする旨を説示している。
 なるほど、所論が指摘するとおり、治安出動といえども、自衛隊法七八条一項、
及び同法八一条一項に法的根拠を有するものであり、その訓練は、防衛庁設置法五
条二一号、航空自衛隊の教育訓練に関する訓令にもとづいて行なわれるものである
から、それらは、いずれも法令上、一応適法なものといわざるを得ない。したがつ
て、たとえ、本件訓練が特別警備訓練ではなく、治安出動の訓練にあたるとして
も、そのことのみをもつて、ただちに、それが違法なものということはできない筋
合である。それゆえ、もし、自衛隊員に対して治安出動の訓練を拒否するよう呼び
かけた被告人の本件行為が、正当な行為にあたるか、ないしは、それにあたる疑い
があるというためには、本来、その前提として、治安出動の訓練は違憲、違法なも
の、ないしは、その疑いがある旨の判断が示されてしかるべきであろう。ところ
が、原判決はこの点に関して、なんらの判断をも明示していないことは所論の指摘
するとおりである。しかしながら、なぜ、そのように解されるのか、その論拠につ
いての具体的な説示に欠ける点はひとまずおいて、原判決が、治安出動は国民の権
利を侵害し、正当なデモを鎮圧する違憲、違法なもの、ないしは、その疑いのある
ものであり、したがつて、その訓練についても同様であるから、たとえ、自衛隊員
に対してこれを拒否するよう呼びかけたとしても、その行為は正当行為にあたる
か、ないしは、その疑いがあるものとの見解に立つていることは、その判文から容
易に看取することができる。しかも、刑訴法三三六条が要求する無罪判決の理由と
しては、被告事件が罪とならないか、もしくは、被告事件について犯罪の証明がな
いかのいずれかひとつによつて無罪の言渡をするものであることを示しさえすれ
ば、それで一応、必要最少限度の要件は充たされるものと解されるところ、原判決
は無罪の理由として、公訴事実の証明が十分でないから、右条項に則り無罪の言渡
をする旨を判示している以上、同条項が定める無罪判決の理由として判示すべき要
件は、これによつてすでに具備しているものといわなければならない。したがつ
て、この点に関する原判決の認定と判断について、のちに、その当否の問題、すな
わち事実誤認ないし法令解釈適用の誤りの問題を生ずることはあるにしても、原判
決は判決の理由に不備がある場合にはあたらない。したがつて、原判決には所論の
ような理由不備の違法はなく、論旨は理由がない。
 控訴趣旨第二(審理不尽の主張)について
 所論は、要するに、原判決のいうように、原審で取調べた証拠によつて、本件訓
練が治安出動の訓練であるか否か、いまだ明らかではないとするならば、原審とし
ては、検察官が右「通達」の趣旨、内容などを立証するためにした証人Bらの取調
請求を採用して、右の点についての審理を尽すべきであつた。それにもかかわら
ず、右の証拠調請求を却下して直ちに審理を終結した原審の措置は、裁判所の裁量
権の範囲を著しく逸脱して、検察官から立証の機会を奪つたものであり、刑訴法一
条、二九八条などに違反する。それゆえ、原判決には、この点において判決に影響
を及ぼすことの明らかな訴訟手続の法令違反があり、審理不尽の違法がある、とい
うのである。
 一、 記録によれば、原審が本件の審理を終結するに至つた経過の概要は、次の
とおりであることが認められる。すなわち、本件当時第四六警戒群司令兼佐渡分と
ん基地司令であつた証人Aは、原審公判廷において、特別警備という概念は、前記
の「通達」に記載されていたとして、右「通達」の内容の一部を供述したことか
ら、原審は弁護人側の申立にもとづき、航空幕僚長に対して右「通達」の提出を命
じた。右の提出命令に対して航空幕僚長は、右「通達」には、別冊として「特別警
備実施基準」および「特別警備実施基準の解説」が添付されているが、右「特別警
備実施基準」は、基地等に所在する部隊等に対し、防衛出動又は治安出動が命ぜら
れていない場合において、多数集合の相手方又は少数せん鋭な相手方による基地等
への不法な侵(潜)入及びこれに伴う不法行為(そのおそれのあるときを含む。)
に対する基地警備(これを特別警備という。)の実施にあたり、予想される各種の
不法行為の態様に応じて、それぞれとるべき具体的な警備方針や対応措置を示して
おり、右「特別警備実施基準の解説」は、これをさらにふえんして解説したもので
あつて、それらは、いずれも秘文書の指定がされており、これを公開すれば、れい
下の各部隊の特別警備の実施に重大な支障を生じ、ひいては国の重大な利益を害す
るという理由で、刑訴法一〇三条により、その提出に応じなかつた。そこで、原審
はさらに、その監督官庁である防衛庁長官に対し、右提出の承諾を求めたが、同長
官は、右「通達」は自衛隊に出動が命ぜられていない場合において、航空自衛隊の
基地等に対して、多数集合又は少数せん鋭な相手方が不法侵入し、あるいは不法行
動をとつた場合に、当該基地等の司令等が施設管理権にもとづいて基地等の警備を
行なう際の準拠を示したもので、現に効力を有し、秘文書の指定をしており、現下
の社会情勢にかんがみると、今後航空自衛隊の基地等に対する不法侵入、あるい
は、不法行動が発生するおそれがないとはいえないから、前同様の趣旨でこれを公
開すれば、国の重大な利益を害するという理由でこれを承諾しなかつた。そこで、
原審は、第三四回公判期日において、このような訴訟の現状の下では、特別警備な
いし特別警備訓練の実態が真偽不明であり、このままの状態が続くかぎり、被告人
に対して有罪判決を宣告するにいたる可能性がなく、したがつて、本件につき証拠
調を続行する必要はない。よつて、検察官側の立証未了の段階で本件の証拠調をす
べて打ち切る旨を告げ、これに対する検察官の異議を棄却した。その後、検察官
は、期日外において、特別警備訓練が治安出動の訓練でないことを立証するため、
右の「通達」にかえて、その起案者であるBを、後記「教程、航空自衛隊新隊員課
程」の作成者であるCほか一名とともに証人として取調を請求したが、原審は第三
五回公判期日において、右の請求を却下し、検察官側の立証未了のまま審理を終結
するに至つた。以上のような経過が認められる。
 二、 原判決が本件起訴状記載の第四六警戒群において昭和四四年一〇月当時、
特別警備訓練として実施された本件訓練の内容について、「五〇人ないし一〇〇人
の侵入者に対処できること、ならびに、不法侵入者が火炎びんやラムネ弾を用いる
程度のことを想定し、その阻止排除の手段として、徒手、木銃又は拒馬の使用を考
えたが、右の「通達」にある放水や催涙ガスの使用は、その器具がないので考えな
かつた。」という事実を正当に認定しながら、なお、「特別警備訓練といつても、
その実態は、治安出動の訓練と同じものか、ないしは、かなり類似し、紛らわしい
もの、あるいは一部重複する部分があるのではないか」という疑いを抱くに至つた
のは、次の二つの事由によるものであることがその判文に照らして明らかである。
すなわち、そのひとつは、右の「通達」が定めた特別警備の手段の中には、放水や
催涙ガスの使用なども含まれているところ、これらは治安出動時にも用いられる手
段であること、および証人Aは原審公判廷において、たとえ、治安出動時でも、暴
動などの態様が重大でない場合には、特別警備と同じ程度の対処方法で足りること
もありうると述べていることにかんがみると、特別警備訓練と治安出動の訓練との
間には、その行動の態様や手段につき、なにがしかの共通点があることは否定でき
ないという点であり、いまひとつは、山口県防府市にある航空自衛隊第一航空教育
隊および埼玉県熊谷市にある同第二航空教育隊で、新たに採用した隊員を教育する
隊の教科書として、昭和四二年以来用いられてきた「教程、航空自衛隊新隊員課
程」(当庁昭和五〇年押第二四七号の三四、三五、以下単に「教程」という)で
は、特別警備とは、治安出動時の警備として説明されているという点である。そし
て、原判決は前記の疑いを払拭するためには、右の「通達」が公判廷に顕出され、
その記載内容自体を明らかにすることが必要不可欠であるというのである。
 三、 そこで、まず、原判決の指摘するように、果たして、特別警備訓練が、治
安出動の訓練と同一ないしは、かなり類似し、紛らわしいもの、あるいは一部重複
するものであることの疑いがあるか否か、あるとすれば、その疑いを払拭するため
には、右の「通達」が公判廷に顕出され、その記載内容自体が明らかにされること
が必要不可欠であるか否かが検討されなければならない。
 (1) 証人Aが原審公判廷において、「特別警備」という概念は、右の「通
達」に記載されていたもので、その詳細は記憶していないが、それには特別警備の
手段、すなわち、基地内へ不法に侵入した者を阻止、排除するための手段として、
放水や催涙ガスを使用しうる場合も定めてあつたほか、自衛隊法九五条にもとづく
武器防護のための武器使用や、正当防衛、緊急避難のため、武器の使用が許される
場合をも定めてあつたように記憶している旨を供述していることは記録上明らかな
ところである。なるほど、特別警備といつても、それは本来、基地の建物、施設の
管理権を法的根拠として、これにもとづく基地警備をいうのであるから、基地内へ
の不法侵入者を阻止し、排除するための手段としては、原則として、武器を使用す
るなどの強制力を行使し得ないものであることはいうまでもない。しかしながら、
右の供述に徴すると、右の「通達」は、特別警備の対象として、武器等の防護をも
含めていたことが窺われるから、特別警備の手段として、自衛隊法九五条にもとづ
いて、武器等の防護のための武器使用が許容される場合もありうるはずである。そ
れにまた、基地の警備に際し、基地内へ不法に侵入した者らから受ける加害行為の
態様、程度のいかんによつては、自衛隊員の職務の執行に関連して、正当防衛、緊
急避難、ないしは自救行為として、放水、催涙ガス程度の用法上の武器を使用する
ことが許容される場合もありうるものと思われる。したがつて、特別警備の手段
は、単に、基地の管理権にもとづくもののみにかぎらないのであるから、右の「通
達」が特別警備の手段として、たとえ放水、催涙ガス程度の用法上の武器を使用し
うる場合を定めてあつたからといつて、ただちに、それが特別警備の手段として許
容される範囲を超えたもので、治安出動時の武器使用であると推断することはでき
ない。もちろん、それが用法上の武器にすぎないとはいえ、特別警備の手段とし
て、放水や催涙ガスの使用できる場合を定めてある以上、原判決が指摘するよう
に、治安出動時の武器使用と一部共通する点のあることは否定できないところであ
る。しかしながら、たとえ、同じく武器使用が許される場合であるといつても、本
来、特別警備の手段としての武器使用と、治安出動時のそれとでは、武器使用の法
的根拠を異にするのであるから、当然、それに伴なつて、武器使用の目的、対象、
方法、場所的範囲、および武器使用の許容される前提条件が異なるはずである。
 したがつて、この点の区別を明確にするためには、右の「通達」の起案者に対
し、特別警備の手段としての武器使用が、右の諸点につき、どのように定められて
いたかを取調べるべきであり、そうすることによつて、おのずから、それが、果た
して基地内へ不法に侵入し、あるいは侵入しようとする者を阻止し、排除するため
の基地警備の手段として許容されるべきものであるか、それとも、もはや基地警備
のため許容される範囲を超え、治安出動時であることを前提としてはじめて是認さ
れるものであるかが明らかになると思われる。このような観点に立つてこれを区別
するかぎり、原判決が指摘する治安出動時でも暴動などの態様が重大でない場合に
は、特別警備と同じ程度の対処方法で足りることもありうることなど両者に共通し
た面が存在するという事情は、なんら特別警備訓練と治安出動時の基地防衛の訓練
との区別に関する判断の障碍となるものではない。
 (2) また、なるほど、右の「教程」の三九二頁から三九九頁には、基地の警
備を、平時における基地の警備と非常時における基地の警備とに区分し、前者を
「普通警備」、後者を「特別警備」と呼称し、「非常時とは、(1)火災、災害、
(2)威力侵入、(3)暴動」の事態が発生した場合を指す旨の記載と、排除行動
に際しての「武器使用上の着意事項」として、「(1)隊法九〇条の規定、(2)
隊法九五条の規定、(3)警職法七条規定準用……」と記載されていることが認め
られる。右の記載は、著しく簡略で、しかも項目の列記のみにとどまるため、その
趣旨は甚だ不明瞭であるが、右の記載をあわせ読むと、「威力侵入、暴動」という
事態が発生し、これによつて治安出動が命ぜられた場合には、自衛隊法九〇条、八
九条二項、警察官職務執行法七条にもとづいて武器の使用が許容されるという趣旨
にとれないこともない。いいかえれば、右の「教程」にいう非常時における「特別
警備」という観念は、単に、平常時の基地警備のみならず、治安出動時の基地防衛
をも含むという趣旨に解されないこともないのである。しかしながら、他面、かり
に「威力侵入、暴動」という事態が発生したとしても、必らずしもただちに、治安
出動が命じられるというわけのものではなく、一般の警察力をもつて治安を維持し
うるかぎりは、これによつて威力侵入、暴動の鎮圧に対処すべきものである。それ
に、右の「教程」には、非常時における特別警備に関する説明に先立つて、非常時
における特別警備も、平常時における普通警備と同様、「基地警備」の観念に属す
るものである旨が解説され、そこには、有事、すなわち、防衛出動および治安出動
時における「基地防衛」の観念をも包含する趣旨であるという説明はみあたらない
ばかりでなく、「非常時」という概念を説明するにあたつても、単に、「火災、災
害、威力侵入、暴動」を例示するのみで、それが治安出動時であること、ないし
は、それをも含む趣旨であるという点には全く触れていないのである。これらの諸
点にかんがみると、右の「教程」がいう非常時という概念は、威力侵入、暴動とい
う事態が発生しながら、いまだ治安出動が命ぜられない場合をさすものと解しうる
余地がないわけではない。そしてまた、「武器使用上の着意事項」として、武器等
の防護のための武器使用に関する自衛隊法九五条のほか、治安出動時の武器使用に
関する同法九〇条や、警察官職務執行法七条の準用がある旨を列記したのも、武器
使用上留意すべき事柄として、たとえ、それが基地警備に関するものであると、ま
た、治安出動時に関するものであるとを問わず、およそ、武器使用に関係のあるす
べての条文を比較対照させて、武器使用の許容される要件に差異のあることを認識
せしめ、これによつて、基地警備に関し、武器使用が許容される場合の要件を正確
に理解させようとの意図によるものと解すべき余地もある。したがつて、必ずし
も、原判決のいうように、右の「教程」では、特別警備という観念が治安出動時の
警備として説明されているとまでは解し難いのである。また、かりに、右の「教
程」の特別警備に関する説明が、治安出動時における基地防衛をも含むという見解
のもとに記載されたものであるとしても、果たして、そのような見解が、右の「通
達」を発した航空幕僚長ないしは、航空幕僚監部の承認を受け、あるいは、その公
式見解にもとづくものであるか否かの点が、いまだ明らかではない。この点につい
て、原判決は次のようにいう。
 「しかしながら、自衛隊は、外敵に対してわが国を防衛することを主な任務とす
る組織であるから、他のどのような組織よりも、指揮命令関係が明確で、全部隊が
一糸乱れない統制のもとに行動するのでなければ、その任務を達成することはでき
ない。そのような自衛隊の中で、特別警備という、かなり重要な用語につき、まち
まちな理解がなされて来たとは、普通考えられないことのように思われる。こと
に、右の新隊員用の教程は、航空幕僚監部が監修しなかつたにせよ、幕僚監部は、
その存在と内容、ことに、その中で特別警備という用語が用いられていることを知
つていたはずである。そうであるならば、昭和四四年六月に、航空幕僚長が特別警
備実施基準について通達を発する際に、それまで新隊員教育用の教程で用いられて
来た特別警備という用語を、廃止ないし改正する配慮があつてしかるべきであつた
と思われる。」
 なるほど、本来、自衛隊内のすべての組織において、重要な用語の趣旨を統一的
に理解すべきものであり、また、右の「教程」にあらわれた用語のうち、右の「通
達」の趣旨に反するものについては、これを廃止し、ないしは改正する配慮が加え
られるべきであることは、原判決の指摘するとおりであろう。しかしながら、本来
そのようにあるべきだからといつて、現実が必ずしもすべてそうであるとはかぎら
ない。現に、証人Aは原審公判廷において、「航空幕僚監部を通じて調査したとこ
ろ、右の『教程』は、山口県防府市所在の第一航空教育隊と、埼玉県熊谷市所在の
第二航空教育隊の各航空教育隊長が協議の結果、隊員の教育に使用するため、右の
『通達』が作成された昭和四四年六月以前である同四二年に作成され、それ以後同
四七年まで、単に表紙を変えただけで、同一の内容のまま毎年作成、使用されてき
たものであるが、その記載内容については、航空幕僚長の承認を得たものではない
ということであつた。」旨を供述しているのである。右の「教程」にいう特別警備
および非常時の概念が、治安出動時の基地防衛をも含むものであるか、そうである
とすれば、その見解が航空幕僚監部の承認を受け、あるいは、その公式見解にもと
づくものであるか否かの点につき、いまだ、十分な審理が尽されていない現段階に
おいては、原判決のいうような論理に立つて、たやすく右供述の信憑性を否定する
ことはできない。してみると、たとえ、右の「教程」がいう特別警備の概念が、治
安出動時の基地防衛をも含むものであるとしても、もしそれが、航空幕僚監部の承
認を受けたものでもなく、また、その公式見解にもとづくものでもないとするなら
ば、右の「教程」に用いられたいわば非公式な概念を根拠として、右の「通達」に
いう特別警備訓練という観念もこれと同様に治安出動時の基地防衛の訓練をも含む
趣旨であると推論することはできないし、また、そのような疑いをいれる事由とす
ることもできない。したがつて、この点を解明するためには、なによりもまず、右
の「教程」の作成者に対し、右の「教程」にいう特別警備という概念が、治安出動
時の基地防衛をも含む趣旨であるか否か、もしそうであるとすれば、それは航空幕
僚監部の承認を受けたものであるか、あるいは、その公式見解にもとづいて用いら
れたものであるか否かの点の取調がなされるべきである。この点の審理を尽さない
まま、右「教程」中の特別警備に関する前記の記載内容を捉えて、ただちに特別警
備訓練は治安出動の訓練と同じものか、ないしは、かなり類似し、紛らわしいもの
があるのではないかという疑問を抱くに至つた原判決の判断には、その前提におい
て著しい飛躍があるといわなければならない。
 <要旨>四、 このようにみてくると、右「通達」の起案者や、右「教程」の作成
者らについて、前記の事項の取調が行なわれていない現段階においては、い
まだ右「通達」にいう特別警備訓練という概念が治安出動時の基地防衛の訓練であ
ることを前提としてはじめて是認されるような内容の訓練をも含むものではないか
という疑いがあること自体は否定できないけれども、その疑いの内容と程度は、あ
えて右の「通達」を公判廷に顕出して、その記載内容を明らかにしないかぎり、も
はやこれを容易に払拭しがたいというほど重大なものでないことは、これまで述べ
てきたところから明らかである。したがつて、右の疑問を解消するためには、原審
が右の「通達」の起案者らを取調べることによつて、右の事項について信憑性のあ
る供述が得られるかぎり、容易にこれを解明し得たものと思われる。もちろん、右
の「通達」そのものが取調べられない以上、原判決がいうように、その記載内容の
一部は明らかにされないままで被告人に有罪を宣告するという事態も生じうるであ
ろうし、また、その一部に特別警備と治安出動との関連についての重要事項の記載
が含まれているかもしれない。
 しかしながら、右の「通達」の起案者らから、前記の事項について、それぞれ信
憑性のある供述が得られるかぎり、原判決が疑問とした特別警備訓練というもの
が、実際は治安出動時の訓練であることを前提としてはじめて是認しうる部分をも
含むものではないかという点は当然解明されるはずであつて、右「通達」の内容が
悉く明らかにされないかぎり、右の疑問が解消されないといういわれはない。した
がつて、原判決のいうように、右の「通達」を公判廷に顕出することが、右の疑問
を拭い去るために必要不可欠であるとは考えがたいのである。それゆえ、原審とし
ては、検察官が、右の「通達」を起案した経緯およびその内容を明らかにするため
証人として申請した右「通達」の起案担当者のB、ならびに右「教程」を立案した
経緯およびその用語の意味内容を明らかにするために証人として申請した右「教
程」の作成担当者であるC、そしてさらに航空第二教育隊における新隊員に対する
基地警備教育の内容を明らかにするため、証人として申請した右航空教育隊警備幹
部のDの三名を取調べるべきであり、(原審における審理の経過にかんがみると、
原審検察官の右証人三名の取調を請求した時期が、原審の証拠調の打切りを宣言し
た後になされたものであるという事情は、右の判断を左右すべき事由とは認められ
ない。)そうすれば、同人らの供述によつて、右の疑問の点は当然に解明されたも
のと思われる。また、その結果、たとえ特別警備訓練が、本来、基地警備の訓練と
して許容される限度を逸脱し、治安出動の訓練であることを前提として、はじめて
是認しうる部分を含んでいたとしても、そのことのために、ただちに、本件訓練が
国民の集会等の権利を侵害し、正当なデモを鎮圧することを目的とするものという
ことはできないから、被告人の本件行為の正当性について、さらに審理を要すべき
ことはいうまでもない。それにもかかわらず、前記のとおり右の疑問を払拭するた
めには、右の「通達」を公判廷に顕出して、その内容を明らかにすることが必要不
可欠であるという誤つた前提に立つて右の証人三名の取調請求を却下し、かつ、本
件行為の正当性に関する立証未了のまま審理を終結して、検察官に対して十分な立
証の機会を与えなかつた原審の訴訟手続は、結局、証拠調請求の採否に関する裁判
所の合理的裁量の範囲を著しく逸脱した違法があることに帰し、この違法が判決に
影響を及ぼすことは明らかである。それゆえ、その余の論旨に対する判断をするま
でもなく、原判決はすでにこの点において破棄を免れない。論旨は理由がある。
 よつて、刑訴法三九七条一項、三七九条、四〇〇条本文を適用して主文のとおり
判決する。
 (裁判長裁判官 小松正富 裁判官 片岡聰 裁判官 佐野昭一)

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残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
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71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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