弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人Aの上告理由(後記)について。
 所論の要旨とするところは、上告人が本件訴において請求の趣旨に掲げる主文の
判決を求める理由は、昭和二三年六月一九日衆議院及び参議院が教育勅語等の失効
確認に関する決議をしたのは、これによつて教育勅語等が憲法九八条一項にいわゆ
る憲法の条規に違反する詔勅に該当するものとし、憲法施行と同時にその効力を失
つたことを確認する趣旨と認められるが、このような決議は、教育勅語等の性質か
らいつて、決議自体憲法に違反するものであり、上告人はこれがため基本的人権を
侵害されその生命にも拘わるべき著しき有形無形の損害を受けたという趣旨に帰す
るものと解せられる。しかしながらわが国現行の裁判制度は、特定の者の具体的な
法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることがで
きる趣旨であることは当裁判所大法廷のすでに判示するところである(昭和二七年
(マ)第二三号同年一〇月八日大法廷判決、集六巻九号七八三頁参照)。すなわち
わが国の裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟
を裁判する権限を有するものであるが(裁判所法三条)、その法律上の争訟とは、
当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であつて、且つそ
れが法律の適用によつて終局的に解決し得べきものであることを要するのである。
しかるに上告人が本件において訴権の存在を主張する具体的利益というのは、論旨
に従えば結局上告人の主観的意見又は感情に基く精神的不満であつて、これらをも
つて裁判所に訴を提起するための要件たる上告人の具体的な権利義務ないし法律関
係の存否に関する紛争の存在を認めることはできない。のみならず上告人が本件訴
において請求の趣旨として掲げるところは、衆参両院が専ら道義的又は政治的の見
地から自ら決すべき問題であつて、裁判所が法律の適用によつて終局的に解決し得
べき事項ではなく、これまた裁判所の権限に属するものと認めることはできない。
以上説明のとおり本件訴がすでに不適法であるから、上告理由が原判決の違憲を主
張する趣旨としても、これを判断するまでもなく、原判決は正当であつて論旨は理
由はない。
 その他の論旨は「最高裁判所における民事上告事件の審判の特例に関する法律」
一号ないし三号のいずれにも当らず、また法令の解釈に関する重要な主張を含むも
のと認められない。
 よつて、民訴四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のと
おり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    小   林   俊   三
            裁判官    本   村   善 太 郎

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