弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     一 控訴人中勘工業株式会社(附帯被控訴人、以下「控訴会社」とい
う。)の本件控訴を棄却する。
     二 被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)の控訴会社に
対する附帯控訴及び請求の減縮に基づき、原判決中被控訴人の控訴会社に対する請
求に関する部分を次のとおり変更する。
     控訴会社は被控訴人に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について、
東京法務局足立出張所昭和四一年六月二三日受付第一八五九〇号をもつてなされた
停止条件付所有権移転仮登記の本登記手続をせよ。
     三 原判決中控訴人A、同Bの敗訴部分を取消す。
     被控訴人の控訴人A、同Bに対する請求をいずれも棄却する。
     四 第一、二審を通じ、訴訟費用は、被控訴人と控訴会社との間におい
ては、被控訴人に生じた費用の二分の一を控訴会社の、その余は各自の負担とし、
被控訴人と控訴人A、同Bとの間においては全部被控訴人の負担とし、参加によつ
て生じた費用は控訴会社補助参加人の負担とする。
         事    実
 第一 当事者の求めた裁判
 一 控訴人ら
 1 原判決中控訴人らの敗訴部分を取消す。
 被控訴人の請求を棄却する。
 2 本件附帯控訴を棄却する。
 3 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 との判決を求める。
 二 被控訴人
 1 本件各控訴を棄却する。
 2 原判決を次のとおり変更する。
 (一) (附帯控訴及び請求の減縮)
 控訴会社は被控訴人に対し、別紙物件目録(一)記載の土地について、東京法務
局足立出張所昭和四一年六月二三日受付第一八五九〇号をもつてなされた停止条件
付所有権移転仮登記の本登記手続をせよ。
 (二) (請求の減縮)
 控訴人Aは被控訴人から同目録(五)記載の土地について金八六八万七七六〇
円、同目録(六)記載の土地について金一五六九万三四八〇円、同目録(七)記載
の建物について金一六五万八四五九円の各支払を受けるのと引換えに、被控訴人に
対し、右各土地建物について横浜地方法務局溝口出張所昭和四一年六月三〇日受付
第一八九六五号をもつてなされた停止条件付所有権移転仮登記の本登記手続をせ
よ。
 (三) (請求の減縮)
 控訴人Bは同目録(四)記載の土地について、被控訴人から金二一三五万一三〇
三円の支払を受けるのと引換えに、被控訴人に対し、同地方法務局同出張所同年同
月同日受付第一八九六六号をもつてなされた停止条件付所有権移転仮登記の本登記
手続をせよ。
 との判決を求める。
 第二 当事者の主張
 一 請求原因
 1 被控訴人は、昭和四一年六月一五日控訴会社との間で、左記の内容の金銭消
費貸借契約を締結した。
 (一) 貸付限度額  金二五〇〇万円
 (二) 約定損害金  元本金一〇〇円につき一日八銭二厘の割合
 2 被控訴人は、右同日右契約上の控訴会社に対する債権を担保するために、控
訴会社との間で別紙物件目録(一)記載の土地につき、控訴人Aとの間で同目録
(五)、(六)記載の各土地及ひ同目録(七)記載の建物につき、控訴人Bとの間
で同目録(四)記載の土地につき、それぞれ元本極度額金二五〇〇万円の根抵当権
設定契約を締結するとともに、控訴会社が右契約上の債務の支払を遅滞したときは
右各物件の所有権を被控訴人に移転する旨の代物弁済の予約をなし、右各物件につ
いて根抵当権設定登記を経由するとともに、控訴会社所有の前記土地については東
京法務局足立出張所昭和四一年六月二三日受付第一八五九〇号をもつて、控訴人A
所有の前記土地建物については横浜地方法務局溝口出張所同年同月三〇日受付第一
八九六五号をもつて、控訴人B所有の前記土地については同地方法務局同出張所同
年同月同日受付第一八九六六号をもつてそれぞれ停止条件付所有権移転仮登記を経
由した。
 3 被控訴人は控訴会社に対し、右1記載の契約に基づき、別表(一)中「貸付
日」欄記載の日に「貸付金額」欄記載の金員を「弁済期」欄記載のとおり弁済期を
定めて貸付けた(右貸付金を以下「本件貸付金」という。)。
 4 控訴人は本件貸付金の一部を弁済したのみでその余の支払をしないので、被
控訴人は控訴人らに対し、昭和四三年一月二三日の原審第七回口頭弁論期日におい
て前記代物弁済予約完結の意思表示をした。
 5 本件代物弁済予約はいわゆる帰属清算型の担保契約であるから、目的物件の
価額と本件貸付金及びこれに対する遅延損害金の合計(以下「本訴請求債権」とい
う。)との差額清算をなすべきところ、被控訴人は、後記再抗弁2において主張す
る計算に基づき、控訴会社に対しては清算金支払義務が存在しないので無条件で別
紙物件目録(一)記載の土地について、控訴人Aに対しては金八六八万七七六〇円
の支払と引換えに同目録(五)記載の土地、金一五六九万三四八〇円の支払と引換
えに同目録(六)記載の土地、金一六五万八四五九円の支払と引換えに同目録
(七)記載の建物について、控訴人Bに対しては金二一三五万一三〇三円の支払と
引換えに同目録(四)記載の土地について、それぞれ前記所有権移転仮登記の本登
記手続をなすべきことを求める(なお、当審において原審における請求を以上のと
おり減縮する。)。
 二 請求原因に対する答弁
 請求原因1(金銭消費貸借契約の締結)、同2(根抵当権設定契約、代物弁済予
約の締結及び各登記の経由)、同3(本件貸付)はいずれも認める。
 三 抗 弁
 1 (一部弁済)
 本件貸付金のうち金六九万四四三四円は弁済により消滅している。すなわち、被
控訴人は被控訴人と控訴会社(債務者)、控訴人A、同B(以上いずれも連帯保証
人)との間で作成された東京法務局所属公証人C作成昭和四一年第二二七六号金銭
消費貸借契約公正証書による貸金四三〇〇万円の内金を請求債権として、控訴会社
の訴外D(以下「訴外D」という。)に対する債権金一二三八万円の差押、転付命
令を東京地方裁判所に申請し(同裁判所昭和四二年(ヲ)第一五五号事件)、昭和
四二年一月二五日同裁判所より右債権差押、転付命令(以下「第一次転付命令」と
いう。)を得、同月二七日同命令は第三債務者訴外Dに送達された。右転付命令の
請求債権金一二三八万円は、別表(二)のとおり本件貸付金とは別個の控訴会社に
対する一四口の再割引約束手形金債権(同表1ないし7、10ないし16)合計金
五九六万七〇〇〇円及びこれに対する日歩八銭二厘の割合による遅延損害金合計金
三九万六八八八円並びに二口の貸付金債権(同表8、9)合計金五〇〇万円及びこ
れに対する同割合による遅延損害金合計金三七万二二八〇円のほか、同表17のと
おり別表(一)の6の貸付金のうちの金六〇万円及びこれに対する同割合による遅
延損害金とされているが、右再割引約束手形金債権の遅延損害金は約定利率と同じ
日歩七銭又は八銭として計算し、合計金三四万六二八六円とすべてはきであるか
ら、右債権の元金及び遅延損害金は合計金六三一万三二八六円となるべき筋合いで
あり、これと右金五〇〇万円及び金三七万二二八〇円を合計した金一一六八万五五
六六円を前記金一二三八万円から差し引いた残余の金六九万四四三四円をもつて残
余の請求債権とすべく、したがつて、本件貸付金中別表(一)の6の元本のうち右
同額が弁済されたことになる。
 2 (弁済の提供及び供託)
 本件代物弁済予約は債権担保の目的でなされたいわゆる帰属清算型担保契約であ
るから、債務者は清算又は所有権移転登記の完了までいつでも弁済をなしうるとこ
ろ、原審係属中の昭和四七年九月初め控訴人ら代理人Eにおいて原審における被控
訴人の代理人であつたFに対し、また同月四日控訴会社代表者において被控訴人代
表者に対し、いずれも電話で「弁済の用意かできたので弁済したい」旨を申し入
れ、本訴請求債権について口頭による提供をなしたが、いずれの場合も受領を拒絶
された。
 ところで、債権者が予め弁済の受領を拒否しているときには、供託の要件として
の弁済の提供は口頭の提供をもつて足りるところ、代物弁済予約完結による所有権
取得を主張し、本登記手続を訴求している本件において、被控訴人が金銭による弁
済を予め拒否していることは明らかというべきであるから、本件の場合右電話によ
る各口頭の提供をもつて供託の要件は満たされたものというべきである。また、た
とえ口頭の提供をしても債権者の受領拒否にあい徒労に帰することが明白なときは
何らの提供なくして直ちに供託しても有効と解すべきところ、本件において被控訴
人は金銭による弁済を欲せず、ひたすら代物弁済により控訴人らの土地建物を奪わ
んとしており、たとえ控訴会社が口頭の提供をしてもその受領を拒否するであろう
ことは極めて明らかであつたから、右に主張した口頭による提供の事実が認められ
ず、また仮に右提供に若干のかしがあつたとしても、供託の要件は満たされていた
ものと解すべきである。
 そこで、控訴会社の物上保証人である控訴人Aは昭和四七年九月七日現在の控訴
会社の被控訴人に対する残債務を元金一四三〇万五五六六円及び遅延損害金二五二
八万七二〇一円合計金三九五九万二七六七円と計算し、控訴会社に代わつて右同日
右金額を供託した(この供託を以下「第一次供託」という。)。もつとも、控訴人
Aは右供託金額の計算に錯誤があつたのでこれを改め、また前記元本の一部弁済の
額を被控訴人主張にあわせて残元金を一四四〇万円とし、同月二五日現在の元金、
遅延損害金を合計金四〇〇七万七八〇八円と計算し、右同日第一次供託を取戻し、
右金額を改めて供託した(この供託を以下「第二次供託」という。)が、右は供託
局において取扱規則上金額の計算違いによる追加の供託を認めていないため、やむ
をえずこのような方法をとつたものであり、右取戻により第一次供託が一たん失効
したとしても即刻金額補正の上第二次供託を行つたのであるから、実質的には両者
は同一性を有し、第一次供託により本訴請求債権は消滅したものというべきであ
る。また仮に第一次供託が右取戻により実質的にも失効したとしても、第二次供託
はそれ自体独立して有効なものであり、遅くとも第二次供託によつて本訴請求債権
は消滅したということができる。
 3 (相 殺)
 仮に右主張が認められないとしても、本訴請求債権は以下に主張するとおり相殺
により消滅した。
 (1) 被控訴人は、前記1記載の金銭消費貸借契約公正証書による貸金四三〇
〇万円の内金を請求債権として、控訴人A(連帯保証人)が国に対して有する前記
第二次供託金の取戻請求権につき横浜地方裁判所川崎支部に対し、二度にわたり債
権差押、転付命令の申請をし、同裁判所より昭和四七年一一月二一日付をもつて右
供託金のうち金三二四六万四〇〇四円の取戻請求権につき、同月三〇日付をもつて
右供託金のうち金七六一万三八〇四円の取戻請求権につきそれぞれ差押、転付命令
を得、前者は同年一一月二二日、後者は同年一二月一日第三債務者に送達され(以
上二件の転付命令を以下順次「第二次転付命令の前者、後者」という。)、被控訴
人はこれらに基づき昭和四八年四月二八日第二次供託金四〇〇七万七八〇八円全額
の取戻を受けた。
 (2) ところで、被控訴人は、前記1において主張したとおり既に昭和四二年
一月二五日控訴会社の訴外Dに対する債権につき第一次転付命令を得ているとこ
ろ、右命令所定の被転付債権は、控訴会社と訴外D間の昭和四一年五月一四日付け
元本極度額金五〇〇〇万円とする手形割引及び消費貸借による根抵当権設定契約に
基づく債権合計金一二三八万円である。しかして、右転付命令当時控訴会社が訴外
Dに対し有していた債権は、右根抵当権設定契約にあたり訴外Dが控訴会社に対し
現在又は将来控訴会社が割引き所持する訴外村山物産株式会社、同株式会社大和製
作所同東商金属株式会社各振出の約束手形について、それが不渡りとなつた場合、
その手形債務を引受けることを特約し、その頃右の趣旨で訴外Dが約束手形合計八
九通(その一部が乙第二〇ないし第九二号証である。)に共同振出人として記名捺
印し、もつて右各振出人の控訴会社に対する手形債務を引受けたことによる債権合
計金三四三七万円及び別表(三)記載のとおり九回にわたり貸付けた合計金四九八
万円の貸付金債権であり、これらが前記金一二三八万円の限度で有効に転付された
ものである。
 しかるに、右第二次転付命令のうち前者(横浜地方裁判所川崎支部昭和四七年
(ヲ)第三六〇号事件)の請求債権の元金は右第一次転付命令のそれ(別表(二)
の一ないし17)と全く同一のものであり、既に同転付命令によつて消滅している
わけであるから、右第二次転付命令は無効であり、これによつて被控訴人が取得し
た金三二四六万四〇〇四円は法律上の原因に基づかない不当利得であるというべき
である。
 (3) また、第二次転付命令二件のうち後者(同裁判所昭和四七年(ヲ)第三
七六号事件)の請求債権はもともと不存在架空のものである。これについては、主
債務者である控訴会社がかつて債権不存在等を理由として被控訴人に対し請求異議
の訴を提起し(東京地方裁判所昭和四三年(ワ)第八〇九三号事件)、右請求債権
に基づく強制執行の不許を求めたところ、被控訴人は債権不存在を認めて請求を認
諾している。
 したがつて、第二次転付命令二件のうち後者もまた無効であり、これにより控訴
人が取得した金七六一万三八〇四円は法律上の原因に基づかない不当利得である。
 (4) また、民法四九六条二項によれば、供託によつて質権又は抵当権が消滅
した場合には、供託者は供託物取戻請求権を有しないものとされている。ところ
で、第二次供託は被控訴人の控訴会社に対する本訴請求債権の弁済のための供託で
あるところ、右債権は本件土地建物についての根抵当権及び代物弁済予約による担
保権を伴つており、したがつて右供託により右各権利はともに実質的に消滅したわ
けであるから、前記条項の適用により第二次転付命令の被転付債権である供託金取
戻請求権はもはや消滅したものであつて、転付命令によつてこれを取得できない筋
合いのものだつたのである。
 よつて、第二次転付命令は右の点からいっても無効であり、これにより被控訴人
が取得した金四〇〇七万七八〇八円は不当利得であるといわなければならない。
 (5) よつて、控訴会社の物上保証人である控訴人Aは、昭和四九年二月二二
日の当審第二回準備手続期日において、右(2)、(3)又は(4)の理由により
被控訴人に対して有する金四〇〇七万七八〇八円の不当利得返還請求権をもつて、
被控訴人の控訴会社に対する本訴請求債権とその対当額において相殺する旨の意思
表示をなした。
 4 (差額清算金との同時履行)
 仮に本訴請求債権の消滅が認められないとしても、本件代物弁済予約はいわゆる
帰属清算型のものであり、別紙物件目録(一)、(四)、(五)ないし(七)記載
の各土地建物(以下「本件土地建物」という。)の価額は右債権額を超えるから、
被控訴人はその差額を控訴人らに返還すべく、右差額清算金給付義務と控訴人らの
本件土地建物についての所有権移転仮登記の本登記手続をなすべき義務とは同時履
行の関係にあるものと解すべきである。よつて、控訴人らは被控訴人から右差額清
算金の支払を受けるまで右本登記手続を拒絶するものである。
 四 抗弁に対する答弁
 1 抗弁1(一部弁済)のうち、控訴人ら主張のとおり被控訴人が第一次転付命
令を得、同命令が第三債務者に送達されたこと、被控訴人が右転付命令の請求債権
を控訴人ら主張のとおりとしたことは認めるが、その余は争う。本件貸付金は右転
付命令によつて別表(一)の6の元本中金六〇万円が弁済されたことになるだけで
ある。すなわち第一次転付命令の被転付債権は、後述のとおり貸付金四九八万円が
存在したのみであつて、これを請求債権たる別表(二)の債権の一部に充当すると
同表の17の金六〇万円が弁済されたこととなり、したがつて本件貸付金中別表
(一)の6の金二〇〇万円中金六〇万円が弁済されたこととなるだけである。な
お、別表(二)の1ないし7、10ないし16の各再割引約束手形金債権の遅延損
害金については被控訴人と控訴会社間に日歩八銭二厘の約定があつたものである。
 2 抗弁2(弁済の提供及び供託)のうち、本件代物弁済予約がいわゆる帰属清
算型のものであること、控訴人Aが第一次供託をなし、その後これを取戻して第二
次供託をなしたこと、右第二次供託金額が被控訴人主張の昭和四七年九月二五日現
在の本訴請求債権額と一致することは認めるが、その余は否認する。
 被控訴人が控訴人らに対し本訴を提起したのは控訴会社に債務不履行があつたこ
とによるのであり、被控訴人において本訴を維持するからといつて金銭による弁済
の受領を予め拒絶していることになるいわれはないものというべく、控訴人らとし
ては被控訴人方に金銭を携帯して現実の提供をなし、同時に反対給付たる仮登記の
抹消手続の協力を求めるへきであつたのである。
 のみならず、仮に被控訴人が予め受領を拒否していたものとされ、口頭による提
供を経て有効に供託をなしうるものとしても、本件においては、控訴人ら代理人E
より原審における被控訴人の代理人Fに対し電話で「金を用意するから総額を減額
してくれないか」との申入れがなされた事実があるだけであり、右をもつては口頭
による提供があつたものということは到底できないから、第一次供託はその要件を
満たしていないというべきである。また、控訴人Aは第一次供託を全額取戻し、同
日改めて第二次供託をなしたのであるから、第一次供託は錯誤を理由とする取戻に
よつて無効となつたものとみるべく、第二次供託については、これに先立ち現実の
提供はもちろん口頭による提供も全くなされていないので、その要件を満たしてい
ないことが明らかである。
 3 (1) 抗弁3(相殺)(1)(第二次転付命令、供託金の取戻)はすべて
認める。
 (2) 同(2)(第二次転付命令二件のうち前者が二重転付であることを理由
とする不当利得)のうち、被控訴人が第一次転付命令を得たこと、右転付命令所定
の被転付債権が控訴人ら主張のとおりであること、右当時控訴会社が控訴人ら主張
の根抵当権設定契約に基づく債権として訴外Dに対し別表(三)記載のとおりの九
口の貸付金債権合計金四九八万円を有しており、右が有効に転付されたこと、第二
次転付命令のうち横浜地方裁判所川崎支部昭和四七年(ヲ)第三六〇号事件の転付
命令の請求債権の元金が第一次転付命令のそれと同一のものであること、右の第二
次転付命令によつて被控訴人が取得した金三二四六万四〇〇四円のうち、前記貸付
金四九八万円及びこれに対する約定遅延損害金に相当する額が不当利得となること
は認めるが、その余は否認する。
 (3) 同(3)(第二次転付命令のうち後者の請求債権の不存在を理由とする
不当利得)のうち、被控訴人が控訴人ら主張の別件訴訟において請求を認諾したこ
とは認めるが、その余は否認する。
 (4) 同(4)(第二次転付命令の被転付債権の不存在を理由とする不当利
得)は争う。
 4 抗弁4(差額清算金との同時履行)については、本件代物弁済予約がいわゆ
る帰属清算型のものであること、本件土地建物の価額が本訴請求債権額を超えるこ
と、被控訴人の差額清算金給付義務と控訴人らの本登記手続義務とが同時履行の関
係にあることは認める。
 五 再抗弁
 1 (供託の抗弁に対して)
 仮に、控訴人ら主張の供託がその要件を満たしているものとしても、被控訴人は
前記のように第二次転付命令に基づき昭和四八年四月二八日第二次供託による供託
金全額につき取戻を受けたから、これにより供託はなさざりしものとみなされるに
至つたものである。
 2 (差額清算金との同時履行の抗弁に対して)
 (1) 本件代物弁済予約の目的物件である本件土地建物の価額と本訴請求債権
との清算は当審の口頭弁論終結時である昭和五一年七月二七日を基準とすべきとこ
ろ、まず、右時点における本訴請求債権の額は次のとおりである。
 被控訴人は前記四抗弁に対する答弁3(2)のとおり第一次転付命令により控訴
会社の訴外Dに対する別表(三)記載の貸付金債権合計金四九八万円が有効に転付
され、右貸付金及びこれに対する約定遅延損害金(日歩八銭二厘)に相当する額を
限度として、第二次転付命令に基づき取戻した供託金について控訴人ら主張の不当
利得返還請求権か成立することを認めるので、本訴請求債権は、控訴人Aの相殺の
意思表示(三抗弁3(5))により右の限度で消滅しているものというべきとこ
ろ、本件貸付金中弁済期の最も遅いもの(別表(一)の6)は昭和四一年一〇月二
一日であり、右不当利得返還請求権の弁済期は右供託金取戻の時と解されるから、
右両債権の相殺適状の時期は昭和四八年四月二八日である。しかして、右同日現在
の右貸付金及びこれに対する約定遅延損害金は別表(四)、本訴請求債権は別表
(五)のとおりてあり、前者を後者のうち弁済期の早いものから損害金、元金の順
に相殺充当すると、別表(五)のうち、1の元金及び損害金の全額並びに2の損害
金及び元金中金二九二万〇六七三円は消滅するが、その余はそのまま残存し、本訴
請求債権の昭和五一年七月二七日現在の残存額は別表(六)のとおり合計金三七〇
九万一九一〇円となる。
 (2) 次に、本件土地建物の右同日現在の価額は別表(七)中「評価額」欄記
載のとおり合計金一億五〇四七万八〇〇〇円である。
 (3) ところで、本件は債権者が同一債権担保のため数個の不動産につき代物
弁済予約による担保権を有し、これに基づき同一訴訟手続内で本登記手続を求めて
いる場合であるから、各不動産の価額の割合に応じて右(1)の本訴請求債権の残
額を按分して各不動産ごとに本登記手続と引換えに給付すべき差額清算金の額を定
めるべきであり、右に従つて本件土地建物のそれぞれについて差額清算金を計算す
ると、別表(七)中「清算金」欄記載のとおりとなる。
 (4) しかして、控訴会社の被控訴人に対する差額清算金請求権金六六〇〇万
二五〇九円のうち、原判決において認定された金一六八〇万九九一七円は、控訴会
社の債権者訴外G、同H、同I、同Jの四名に対し、昭和四七年一一月二五日被控
訴人に送達された転付命令四件によつて転付されたので、被控訴人は右被転付債権
額については控訴会社に対して支払義務を負わず、控訴会社に対する差額清算金請
求権の残額は金四九一九万二五九二円となる。
 (5) 更に被控訴人は、別表(八)中「債権者」欄記載の控訴会社に対する各
債権者から控訴会社に対する同表中「元金」、「弁済期日」、「損害金の割合」欄
記載のとおりの元本合計金四二二二万九五七三円及びこれに対する遅延損害金債権
の譲渡をうけ(イ)は昭和五〇年五月二三日、(ロ)は同年二月三日、(ハ)は同
年五月二六日、(ニ)は同月二七日)、各譲渡人から昭和五一年三月五日到達の内
容証明郵便によつて控訴会社に対し債権譲渡の通知がなされた。
 そこで、被控訴人は、控訴会社に対し、同月六日到達の内容証明郵便によつて、
右譲受債権をもつて別表(八)記載の(ロ)、(ハ)、(ニ)の順序に従い、控訴
会社が被控訴人に対して有する差額清算金請求権残額と順次対当額で相殺する旨の
意思表示をなした。なお、右両債権の相殺適状が生じた時期は、前記債権譲渡の通
知が控訴会社に到達した昭和五一年三月五日であり、右同日現在の右譲受債権の元
本及び遅延損害金の合計は別表(八)中「元利合計(1)」欄記載のとおり金一億
〇四一五万八五二三円である。
 したがつて、控訴会社の被控訴人に対する差額清算金請求権は全額消滅した。
 (6) よつて、被控訴人は控訴会社に対しては、別紙物件目録(一)記載の土
地について差額清算金支払義務を負わず、控訴人Aに対しては、同目録(五)記載
の土地について金八六八万七七六〇円、同目録(六)記載の土地について金一五六
九万三四八〇円、同目録(七)記載の建物について金一六五万八四五九円、控訴人
Bに対しては、同目録(四)記載の土地について金二一三五万一三〇三円の限度で
右義務を負うものである。
 六 再抗弁に対する答弁
 1 再抗弁1(供託金取戻による供託の失効)については、被控訴人がその主張
のとおり供託金の取戻を受けたことは認めるが、その法律効果は争う。
 2 再抗弁2(差額清算金支払義務)のうち、控訴会社が被控訴人主張のとおり
四名の債権者に対し債務を負担していたこと、右四名から債権譲渡の通知のあつた
こと、被控訴人から相殺の意思表示のあつたことは認めるが、その余は争う。
 七 再々抗弁
 1 (供託金取戻による供託の失効について)
 (1) 本件第二次転付命令二件は、三抗弁3(相殺)の(2)及び(3)(請
求債権の不存在)又は(4)(被転付債権の不存在)において主張したように、い
ずれも無効のものであるから、これに基づいて被控訴人が第二次供託金の取戻を受
けたからといつて供託がこれをなさざりしものとみなされるに至るいわれはない。
 (2) 弁済充当の指定権は第一次的に弁済者に存し、弁済者が指定しないとき
初めて受領者が充当権を有するものであるところ、控訴人Aは本訴請求債権弁済の
ために第二次供託をなしたのであるから、受領者である被控訴人において弁済者の
右充当指定を無視して転付命令を得、右供託金を自己の他の債権の弁済に充当する
ことは許されないものというべく、かかる観点からも第二次転付命令は無効と解す
べきである。仮に、右の理由によつてはいまた転付命令自体は無効であるといえな
いとしても、被控訴人が充当変更のためいかに法的技巧を弄してもそれは要するに
被控訴人が一度弁済を受けた自己の金員に対し自ら無益な強制執行を弄んでいるに
過ぎず、弁済者の指定によつて生じた充当の効果の変更を来たすものではない。ま
た、仮に、第二次転付命令により充当変更の効果が生じたとしても、民法四八八条
二項但書を類推適用して弁済者(控訴人A)及び控訴会社の異議により受領者たる
被控訴人による充当変更はその効力を失つたものというべきである。
 2 (控訴会社に対する差額清算金支払義務の消滅について)
 控訴会社は訴外Kに対し、次のとおり合計金一一八万円の貸付金債権を有する。
      貸 付 日       貸付金額   弁済期
 (イ)昭和四一年 七月一八日  金四〇万円  同月三一日
 (ロ)同   年 九月一四日  金一一万円  定めなし
 (ハ)同   年一一月一五日  金一五万円  同月一八日
 (ニ)同   年一二月一五日  金 八万円  定めなし
 (ホ)      同月一七日  金一六万円  同右
 (ヘ)      同月二〇日  金 六万円  同右
 (ト)昭和四二年 一月二五日  金一二万円  同右
 (チ)同   年 七月二二日  金一四万円  同右
                 残金八万円
 (リ)同   年一一月二九日  金 弐万円  同右
 そこで、控訴会社は昭和五一年七月二七日の当審第二一回口頭弁論期日におい
て、右貸付金債権元本をもつて被控訴人が右訴外人より譲受けたと主張する控訴会
社に対する債権金三〇〇万円(別表(八)の(ニ))と対当額で相殺する旨の意思
表示をした。
 八 再々抗弁に対する答弁
 1 再々抗弁1、(1)、同(2)(第二次転付命令の無効等)はすべて争う。
 2 同2(相殺)については、控訴会社が訴外Kに対し控訴人ら主張のとおりの
貸付金債権を有していたことは認める。
 第三 証拠関係(省略)
         理    由
 一 請求原因1(金銭消費貸借契約の締結)、同2(抵当権設定契約及び代物弁
済予約の締結、各登記の経由)、同3(本件貸付)はいずれも当事者間に争いがな
く、被控訴人が控訴人らに対し、昭和四三年一月二三日の原審における第七回口頭
弁論期日において本件代物弁済予約完結の意思表示をしたことは訴訟上明らかであ
る。
 二 そこで、以下控訴人らの抗弁1ないし3について順次検討する。
 1 抗弁1(一部弁済)について
 被控訴人が被控訴人と控訴会社(債務者)、控訴人A、同B(以上いずれも連帯
保証人)との間で作成された東京法務局所属公証人C作成昭和四一年第二二七六号
金銭消費貸借契約公正証書による貸金四三〇〇万円の内金を請求債権として、昭和
四二年一月二五日控訴会社の訴外Dに対する債権金一二三八万円について第一次転
付命令を得、同命令が同月二七日訴外Dに送達されたこと、右転付命令の請求債権
金一二三八万円が控訴人ら主張のとおり別表(二)の一ないし16の各再割引約束
手形金、貸付金債権及びこれらに対する日歩八銭二厘の割合による遅延損害金のほ
か、同表17のとおり別表(一)の6の貸付金のうちの金六〇万円及びこれに対す
る同割合による遅延損害金とされていたことは当事者間に争いがない。控訴人ら
は、別表(二)の1ないし7、10ないし16の各再割引約束手形金債権の遅延損
害金を約定利率と同じ日歩七銭又は八銭として計算すべきであると主張するが、成
立に争いのない甲第一号証、乙第八号証に弁論の全趣旨を総合すれば、被控訴人と
控訴会社間の手形割引契約においては期限後の遅延損害金が日歩八銭二厘と定めら
れていたものと認められ、右認定を左右する証拠はない。しかして、後記3、
(2)において説示するとおり右転付命令所定の被転付債権は別表(三)記載の合
計金四九八万円の貸付金債権の限度で存在を認められ、後記のとおり法定充当の規
定に従つて、これを右転付命令の請求債権の弁済に充当すると、別表(二)の遅延
損害金の全額、1ないし7、17の元金全額及び8の元金の一部が消滅することに
なるから、本件貸付金債権は右転付命令によつて別表(一)の6の元本中金六〇万
円が弁済されたことになるものというべく、これを超えて控訴人らの一部弁済(金
六九万四、四三四円)の主張を認めるに足りる証拠はない。
 2 抗弁2(弁済の提供及び供託)について
 本件代物弁済の予約が債権担保の目的でなされたいわゆる帰属清算型の担保契約
であること、控訴会社の物上保証人である控訴人Aが昭和四七年九月七日現在の控
訴会社の被控訴人に対する残債務を合計金三九五九万二七六七円と計算し、第一次
供託をなし、その後これを取戻して同月二五日現在の残債務合計金四〇〇七万七八
〇八円を右同日供託(第二次供託)したことは当事者間に争いがないところ、控訴
人らは右供託当時被控訴人が予め金銭による弁済の受領を拒否していたものとし
て、たとえ口頭の提供をしても受領拒否にあうことは極めて明らかであつたから、
何らの提供なくして直ちに、また仮に提供を要するとしても口頭の提供を経て有効
に供託をなしうると主張する。
 しかしながら、右の第一次供託がなされたのは原審口頭弁論終結の直前であると
ころ、被控訴人が当時本件代物弁済予約が債権担保のための清算型のものであり、
仮に本件物件の評価額と本訴請求債権額との間に差額が存するとすれば、本件物件
の所有権を取得しその旨の登記を経由した後、これを換価処分又は評価し、差額を
控訴人らに返還する義務を負うべきことを自認していたことは記録上明らかであ
り、被控訴人が代物弁済予約の完結に伴う本件物件の取得により本訴請求債権は既
に決済されたとして右債権額以上の利益を得ることを意図していたものとはみられ
ないこと、また本訴請求債権の額については、当時被控訴人と控訴人らの間には右
1において検討した一部弁済の額に争いがあつただけで、被控訴人が過大な額を主
張していたわけでもないことを考えると、代物弁済予約完結による所有権取得を主
張し、本登記手続を訴求していることから直ちに当時被控訴人が債務の本旨に従つ
た現実の弁済の提供がなされてもその受領を拒否する態度をとつていたものとみる
ことはできない。また、当審証人Eは「控訴会社代表者Lが昭和四七年九月四日か
同月六日に被控訴人代表者Mに対し電話で全額を持参支払う旨申入れたところ受領
を拒絶されたことを、同月七日供託直前にLより聞知した」旨述べているか、同証
人が控訴人らの代理人として提出した昭和四七年九月九日付け準備書面(弁済供託
の主張を追加したもの)には、右の事実につき全く触れていないことに照らすと、
たやすく前記証言を信用できず、他に被控訴人が予め受領を拒否していたことを認
めるに足りる証拠はない。したがつて、控訴人らとしては、本訴請求債権を弁済し
て本件物件を受戻すには先ず現実の提供をなすべきであつたのであり、右現実の提
供に対し被控訴人の受領拒否があつたときに初めて有効に供託をなしえたものとい
わなければならないから、控訴人らの第一次又は第二次供託による本訴請求債権消
滅の主張はその余の点について判断するまでもなく採用できない。
 3 抗弁3(相殺)について
 (1) 被控訴人が前記1認定の金銭消費貸借契約公正証書による貸金四三〇〇
万円の内金を請求債権として、控訴人Aが国に対して有する第二次供託金の取戻請
求権につき第二次転付命令二件を得、前者が昭和四七年一一月二二日、後者が同年
一二月一日第三債務者に送達されたこと、被控訴人が昭和四八年四月二八日右に基
づき第二次供託金四〇〇七万七八〇八円全額の取戻を受けたことはいずれも当事者
間に争いがない。
 (2) そこで、第二次転付命令二件のうち前者が二重転付であることを理由と
する不当利得の主張について検討する。
 (イ) 被控訴人が既に昭和四二年一月二五日控訴会社の訴外Dに対する債権に
つき第一次転付命令を得ており、右命令所定の被転付債権が控訴会社と訴外D間の
昭和四一年五月一四日付け元本極度額金五〇〇〇万円とする手形割引及び消費貸借
による根抵当権設定契約に基づく債権合計金一二三八万円であること、第二次転付
命令のうち前者の請求債権の元金が第一次転付命令のそれ(別表(二)の1ないし
17)と同一のものであること、そして第一次転付命令当時控訴会社が右根抵当権
設定契約に基づく債権として訴外Dに対し別表(三)記載のとおりの九口の貸付金
債権合計金四九八万円を有しており、右が有効に転付されたことは当事者間に争い
がない。
 ところで、控訴人らは、控訴会社の訴外Dに対する債権として、右貸付金債権の
ほかに、右根抵当権設定契約にあたり訴外Dが控訴会社に対し、現在又は将来控訴
会社が割引き所持する訴外村山物産株式会社、同株式会社大和製作所、同東商金属
株式会社各振出の約束手形について、それが不渡りとなつた場合、その手形債務を
引受けることを特約し、その頃右の趣旨で訴外Dが乙第二〇ないし第九二号証を含
む約束手形八九通に共同振出人として記名捺印し、もつて右各振出人の控訴会社に
対する手形債務を引受けたことによる債権合計金三四三七万円が存在し、これが転
付されたと主張するところ、成立に争いのない甲第六一号証、甲第六五、六六号
証、甲第七八号証(原本の存在も争いがない。)、乙第一〇一号証の一、二、右甲
第六五号証、甲第七八号証によつて成立の認められる乙第一八号証に、乙第二〇な
いし第九二号証の各約束手形(訴外D作成名義部分を除き成立に争いがない。)の
記載自体を総合すれば、金融業を営む控訴会社は、昭和四一年五月中旬当時訴外村
山物産株式会社(以下「訴外村山物産」という。)、同株式会社大和製作所(以下
「訴外大和製作所」という。)から割引いた期日未到来の約束手形多数を所持して
いたが、同月一二日訴外大和製作所が、次いで同月一六日同訴外会社に対し訴外D
の仲介により融通手形を振出していた訴外村山物産が手形不渡りを出し、控訴会社
が所持する訴外村山物産振出の約束手形五九通(乙第二〇ないし第七八号証、額面
合計金二一三四万円)、訴外大和製作所振出の約束手形一四通(乙第七九ないし第
九二号証、額面合計金六八〇万円)もその後不渡りとなつたこと、控訴会社の代表
者Lと金融業を営む訴外宝産業株式会社の代表者であつた訴外Dとは古くから親し
い友人関係にあり、控訴会社と同訴外人との間には以前から控訴会社が同訴外人の
仲介により第三者の手形を割引き、同訴外人は割引料の一部を手数料として取得す
るなどの形で密接な金融取引があつたものであるが、昭和四一年五月一四日両者の
間に元本極度額を金五〇〇〇万円として前記根抵当権設定契約が締結されたこと、
控訴会社は右乙第二〇ないし第九二号証の各約束手形が不渡りとなつた頃、右各手
形の振出人の記名押印の横に訴外Dからかねて預つていた同訴外人の記名用のゴム
印及び印鑑を押捺したが、これについてはその都度同訴外人の承諾を得たものでな
いことが認められ、以上の認定に反する証拠はない(なお、右七三通以外に訴外D
の記名押印のなされた約束手形が存在することについては立証がない。)。そし
て、前記甲第七八号証によれば、控訴会社と訴外Dとの間には、かねてから同訴外
人は第三者の手形の割引を仲介するにあたり手形面に裏書をしないが、仲介した手
形が万一不渡りとなつた場合、仲介者としての責任上善処する旨の了解があつたこ
とはこれを認めることができるけれども、その了解が、Dが割引を仲介した手形に
ついて自ら当該手形債務を引受ける趣旨であり、同訴外人が控訴会社に同訴外人の
記名用のゴム印等を預けたのも、これを用いて共同振出人としての記名押印を顕出
させることを委ね、これにより振出人ないし保証人としての手形上の責任を負担
し、あるいは手形債務と同額の債務を引受けることを一般的に承諾していた趣旨で
あることについては、これにそう前記甲第六五、六六号証は甲第七八号証に照らし
にわかに採用し難く、他にこれを認めるに足りる証拠は存しない。また前記根抵当
権設定契約にあたり、控訴人ら主張の手形債務引受の特約がなされたことを認める
に足りる証拠もない。乙第一九号証は、これに記載されている金五〇二九万五八一
九円の貸借の内訳が不明であつて、甲第七八号証に照らし、控訴人らの主張事実を
肯認する証拠とするに足りない。
 しかして、前記甲第六一号証、成立に争いのない甲第六二号証によれば、前記乙
第二〇ないし第七八号証の訴外村山物産振出の約束手形五九通は、いずれも同訴外
会社が直接控訴会社に依頼して割引を受けたものであつて、訴外Dが割引を仲介し
たものではないと認められ、前記甲第六五号証、乙第一〇一号証の一、二中右認定
に反する部分は採用できず、他に右認定を左右する証拠はないから、この点で控訴
人らの主張は既に失当であり、また、前記乙第七九ないし第九二号証の訴外大和製
作所振出の約束手形一四通については、なるほど前記甲第六五号証、甲第七八号証
によれば、同訴外会社が訴外Dを介して控訴会社より割引を受けた際交付したもの
であると認められるけれども(なお、N名下の印影が同人の印章によるものである
ことは当事者間に争いがないので全部真正に成立したものと推認すべき甲第八〇号
証の一に「右手形一四通は同訴外会社が訴外Dを介して控訴会社から第三者振出の
受取手形の割引を受けるにあたり担保のため振出した手形であり、右割引を受けた
手形は振出人によつてすべて決済されている」旨の記載があり、弁論の全趣旨によ
つて成立を認むべき甲第七九号証によれば、右一四通のうちの乙第八六号証の約束
手形は右の趣旨の担保のための手形であることが認められるが、前記甲第七八号証
に照らし、他に的確な立証もないまま右の甲第八〇号証の一のみによつて、他の一
三通もまた担保のための手形であり、かつ右一四通に対応する割引手形が振出人に
よつてすべて決済されたものと断定することは困難である。)、右に説示したとこ
ろからすれば、右各手形になされた訴外Dの記名押印か同訴外人の意思に基づくも
のとして、同訴外人が控訴会社に対し手形上の債務ないし手形金額と同額の債務を
負うものとは認め難いというべきである。
 (ロ) 以上のとおり第一次転付命令所定の被転付債権は前記貸付金債権合計金
四九八万円の限度においてしかその存在を認められないというべきところ、右債権
が有効に転付されたことによる被控訴人の不当利得の額について検討するに、右債
権は第一次転付命令が第三債務者に送達された昭和四二年一月二七日に別表(二)
のとおりの第一次転付命令の請求債権の弁済に充当されたものというべく、その充
当関係につき特段の主張立証はないから、法定充当により先ず右請求債権中の右同
日までの遅延損害金合計金八一万七三八四円、次いで元金については弁済期の早い
ものから順次別表(二)の1ないし7、17の元金全額及び8の元金の一部五五万
二六一六円に充当され、右同日現在の右請求債権の元金は別表(二)中8が金二四
四万七三八四円、9ないし16がそのまま残存し、合計金七四〇万四三八四円とな
る。
 そして右残元金に対する昭和四二年一月二七日の翌日から第二次転付命令二件の
うちの前者が第三債務者に送達された昭和四七年一一月二二日までの二一二六日間
の日歩八銭二厘の割合による遅延損害金は一二九〇万八二一〇円(円以下切捨て)
であるから、同日現在の第一次転付命令の請求債権の元利合計は金二〇三一万二五
九四円であつたことになる。しかるに被控訴人は第一次転付命令と同一の元金につ
いて元利合計金三二四六万四〇〇四円を請求債権として右第二次転付命令を得、同
額の供託金取戻請求権の転付を受けたわけであるから、右両者の差額金一二一五万
一四一〇円が法律上の原因に基づかない不当利得であるというべきである。
 (ハ) よつて、控訴人らの第二次転付命令二件のうち前者が二重転付であるこ
とを理由とする不当利得の主張は、金一二一五万一四一〇円の限度でこれを認める
ことができ、その余は認めることができないといわなければならない。
 (3) 次に、第二次転付命令二件のうち後者の請求債権の不存在を理由とする
不当利得の主張について検討するに、成立に争いのない乙第一二号証の一、甲第九
五号証の一ないし三、甲第一〇〇号証、J作成名義部分については成立に争いのな
い甲第九三号証により同人名下の印影が同人の印章によるものであることが認めら
れるから全部真正に成立したものと推認すべく、被控訴人作成名義部分については
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認むべき甲第九二号証によれば、右転付
命令には請求債権として前記公正証書の執行力ある正本に基づく貸金四三〇〇万円
の内金七六一万三八〇四円と表示されているのみであるところ、被控訴人は昭和四
七年一一月二八日訴外Jから同訴外人の控訴会社に対する裁判上の和解による為替
手形金債権金二三五〇万円のうち金七六一万三八〇四円を譲り受けたことが認めら
れ、弁論の全趣旨(被控訴代理人提出の昭和五一年二月二日付け証拠説明書参照)
によれば、被控訴人は右譲受債権を右公正証書に基づく債権として前記転付命令を
得たものと推認され、右認定を左右する証拠はない。ところで、成立に争いのない
乙第八号証によれば、右公正証書(昭和四一年一〇月一日作成)には、同年六月一
五日被控訴人が控訴会社に対し金四三〇〇万円を貸付け、控訴会社は右債務を同年
一〇月一日限り弁済する旨及び控訴人Aは右債務を連帯保証する旨が記載されてい
るところ、原審における被控訴人代表者尋問の結果(第一、二回)によれば、右公
正証書記載の日に金四三〇〇万円の貸付が行われたわけではなく、右公正証書は、
被控訴人が右の日に控訴会社に対し限度額を金四三〇〇万円として貸付を行うこと
を約し、これによる債権の確保を図る趣旨で作成されたものであることが認めら
れ、前記認定の被控訴人が前記転付命令の請求債権としたような控訴会社に対する
第三者の手形金債権を被控訴人において約六年も経た後に控訴会社と全く無関係に
譲り受けたものまで右公正証書に表示された金四三〇〇万円の債権のうちに含まれ
るものと解すべき理由はないというべきである。成立に争いのない甲第一号証の記
載はこの点を肯定するための証拠として十分でなく、他に右認定を左右する証拠は
ない。
 したがって、第二次転付命令二件のうちの後者の請求債権は存在しないものとい
うべく、右転付命令によって被控訴人が取得した供託金取戻請求権金七六一万三八
〇四円は法律上の原因に基づかない不当利得であるといわなければならない。
 (4) なお、控訴人らは、第二次転付命令の被転付債権である供託金取戻請求
権は民法四九六条二項の適用によりもはや消滅したものであり、転付命令によつて
これを取得できない筋合いのものであつたとして、第二次転付命令の無効による不
当利得を主張するが、右主張は第二次供託が有効であることを前提とするものであ
り、それが有効と認められないことは先に2において判示したとおりであるから、
この点において既に理由のないことが明らかである。そして、この理は、再々抗弁
1(2)の前提とする転付命令無効の主張についても同様である。
 (5) 以上説示したとおり控訴人ら主張の第二次転付命令による被控訴人の不
当利得は、右(2)において認定した金一二一五万一四一〇円、右(3)において
認定した金七六一万三八〇四円の限度においてのみこれを認めることがてきるとい
うべきところ、前記甲第一号証、乙第八号証、原審における被控訴人代表者尋問の
結果(第一、二回)と口頭弁論の全趣旨を総合すれば、控訴人Aは控訴会社の本件
債務の物上保証人であるとともにその連帯保証人であることが認められるところ、
控訴人Aが昭和四九年二月二二日の当審第二回準備手続期日において被控訴人に対
して有する不当利得返還請求権をもつて被控訴人の控訴会社に対する本訴請求債権
とその対当額で相殺する旨の意思表示をなしたことは訴訟上明らかであり、右両債
権の相殺適状の時期は、右不当利得返還請求権が期限の定めのない債権として成立
した時、すなわち第二次転付命令が第三債務者に送達された時と解されるから、右
金一二一五万一四一〇円については昭和四七年一一月二二日、右金七六一万三八〇
四円については同年一二月一日である。
 しかして、控訴人Aは右相殺の意思表示にあたり特に充当の指定をしていないか
ら、法定充当の規定に従って、先ず別表(一)記載の順序で各貸付金の昭和四七年
一一月二二日現在の遅延損害金合計金二六三六万二六七二円(別表(九)中(1)
欄記載のとおり)につき金一二一五万一四一〇円の相殺充当を行うと、金一四二一
万一二六二円の残となり、次いで同年一二月一日現在の遅延損害金合計金一四三一
万七五三四円(右の相殺残に同表中(2)欄記載の同年一一月二三日から同年一二
月一日までの損害金合計金一〇万六二七二円を加えたもの)につき金七六一万三八
〇四円の相殺充当を行うと、金六七〇万三七三〇円の残となる。
 4 してみると、控訴人ら主張の抗弁1ないし3によつては本訴請求債権の全額
が消滅したものとは認められないことが明らかである。
 三 そこで、進んで被控訴人のした代物弁済予約完結の効果につき、控訴人ら主
張の差額清算金との同時履行の抗弁(抗弁4)及びこれに対する被控訴人の再抗弁
を中心に検討することとする。
 1 本件代物弁済の予約がいわゆる帰属清算型の担保契約であることは当事者間
に争いがなく、したがつて本件土地建物の価額が本訴請求債権額を超えるときは、
被控訴人において右物件の所有権を取得することにより本訴請求債権に対する優先
弁済の目的を達するためには、その差額を控訴人らに支払うべく、控訴人らは、被
控訴人の右差額清算金の支払と引換えにのみ本登記手続に応ずべき関係にあるもの
と解すべきところ、右清算の前提たる換価手続としてなされる目的物件の評価は、
それを訴訟手続によつて行う以上は、本来、清算実行時に接着する最終事実審たる
当審の口頭弁論終結時である昭和五一年七月二七日現在の時価によつてなされるべ
きものと解するのが、清算を必要とする趣旨に照らし、相当というべきである。
 2 そして、前記二、3、(5)において説示した相殺充当の結果、右基準日に
おける本件貸付金の遅延損害金の額は、計算上、昭和四七年一二月一日現在の前記
相殺残金六七〇万三七三〇円に別表(九)中(3)欄記載の同月二日から右基準日
までの損害金合計金一五七五万一八七二円を加えた金二二四五万五六〇二円とな
り、したがつて右基準日における本訴請求債権の額は、元金一四四〇万円と右遅延
損害金との合計金三六八五万五六〇二円となる。
 3 次に、本件土地建物の右基準時における価額について検討するに、当審にお
いて鑑定人不動産鑑定士Oは昭和四九年七月二〇日現在において別紙物件目録
(一)記載の土地を金九六四七万五〇〇〇円(更地価額)、同目録(四)記載の土
地を金三九四一万五〇〇〇円、同目録(七)記載の土地を金一五九三万六〇〇〇
円、同目録(六)記載の土地を金二八七八万九〇〇〇円、同目録(七)記載の建物
を金一〇七万五〇〇〇円と評価しており、一方当審証人Pの証言によつて成立の認
められる甲第五五号証の一、二によれば、不動産鑑定士Pは同年一一月八日現在の
右土地建物の評価額を順次金八九三六万七一六八円(更地価格)、金二八三三万二
〇〇〇円、金一一五二万九〇〇〇円、金二〇八二万七〇〇〇円、金二二〇万円と、
当審証人Qの証言によつて成立の認められる乙第一六号証によれば、不動産鑑定士
Qは同年一月一六日現在の別紙物件目録(一)記載の土地の評価額を金九五六三万
円(更地価格)としていることが認められる。なお、その他に原審における前記鑑
定人の鑑定の結果が存在するが、右はその評価時点が昭和四六年九月一四日てある
ので、当審口頭弁論終結時の時価を算定するための資料とはなし難いことが明らか
である。
 ところで、右乙第一六号証の評価については、殆ど決定的な資料とされている取
引事例の存在自体について成立に争いのない甲第五九号証の一ないし一二、甲第六
〇号証により疑問があること、当審証人Qの証言によつて認められる評価にあたつ
ての取引事例の収集方法、評価のなされた経緯等に照らし、これを採用すべきでな
いと判断するが、当審における前記鐘ヶ江鑑定及び甲第五五号証の一、二による評
価については、そのいずれも特にこれを不当として排斥すべき事由は見出せない
(右鑑定の結果については、弁論の全趣旨により成立の認められる甲第五六ないし
第五八号証によれば、別紙物件目録(一)記載の土地の評価に当たり資料とされた
近隣における取引事例について、その具体的内容、資料としての価値に異論の生ず
る余地のないてはない点がうかがわれるが、右鑑定は右の取引事例を評価額算出の
決定的な資料としているわけではなく、他に地価公示価格、精通者意見等をも勘案
して総合的に評価を行つているものであり、右の点をもつて右鑑定による評価を本
件土地建物の評価額算定のための資料となしえないとすることは相当でない。)一
方、そのいずれをもつて適正評価と認めるべきかもにわかに決し難いところであ
り、このような場合には、両者の評価額の平均値をもつて各物件の評価額とするの
が最も客観的かつ適正な結果を得るゆえんであると解する。そして、昭和四九年下
期以降においては地価がほぼ横ばいの傾向にあることは当裁判所に顕著な事実であ
るから、右両者の評価額の平均値、すなわち別紙物件目録(一)記載の土地につい
ては金九二九二万一〇八四円(なお、成立に争いのない甲第九六、九七号証、弁論
の全趣旨により成立の認められる甲第九八、九九号証によれば、右土地上にはかつ
て控訴会社所有の別紙物件目録(二)、(三)記載の各建物が存在したか、昭和五
〇年五月頃右各建物は登記簿上の所有名義人キムラ開発株式会社の依頼により被控
訴人がこれを取り殺し、右土地は現在更地になつていることを認めることができる
ので、その評価額としては右各評価中の前記更地価格を採用すべきである。右甲第
九八、九九号証によれば、被控訴人が右取毀費用として金二八三万円を負担してい
ることが認められ、前記鑑定、甲第五五号証の一においても、当時存在していた右
各建物につきその評価額を老朽化等を理由に零とする一方、その解体撤去等の費用
をそれぞれ金一三五万六〇〇〇円、金一六五万二〇〇〇円と算定し、これを更地価
格から控除して建付地価格を算出しているか、右の被控訴人が負担した取段費用に
ついては別途被控訴人と控訴会社この間で清算されるべき性質のものであり、右土
地の評価にあたつてはあくまでも現状が更地であることを前提とすべく、建付地価
格を採用すべきいわれはない。)、同目録(四)記載の土地については金三三八七
万三五〇〇円、同目録(五)記載の土地については金一三七三万二五〇〇円、同目
録(六)記載の土地については金二四八〇万八〇〇〇円、同目録(七)記載の建物
については金一六三万七五〇〇円をもつて昭和四九年下期以降(同目録(一)記載
の土地については前記のとおり更地となつた昭和五〇年五月以降)当審の口頭弁論
終結時である昭和五一年七月二七日に至る間における適正評価額と認めるべきであ
る。
 4 ところで、債権者が同一債権担保のため数個の不動産につき代物弁済予約に
よる担保権を有し、その実行として同一訴訟手続内で本登記手続を求め、全目的物
件の取得による担保目的の達成を意図している場合には、特別の事情がない限り換
価の基準時たる口頭弁論終結時における各不動産の価格の割合に応じて債権者の有
する債権額を按分し、各不動産について本登記手続と引換えに給付すべき差額清算
金の額を定めるのが相当である。
 <要旨第一>しかしながら、本件においては、前記のとおり、主たる債務者である
控訴会社の所有に係る別紙物件目録(一)記載の土地が、昭和五〇年五
月頃以降更地となり、その適正評価額は金九二九二万一〇八四円と認められるとこ
ろ、本訴請求債権は口頭弁論終結時までの遅延損害金を合算しても金三六八五万五
六〇二円となるにすぎず、右土地のみをもつてしても被担保債権たる本訴請求債権
額の倍額をも遙かに上廻る。一方、同目録四ないし(七)記載の土地建物はいずれ
も連帯保証人たる控訴人両名の所有物件であり、しかも、原審における控訴人B本
人尋問の結果によれば、現に右控訴人らの生活の本拠ないしその隣接地であること
が認められる。そして、右(一)記載の土地に関し、被控訴人にとつて、これを処
分するにせよ使用するにせよ、とくに不都合となるような事情は証拠上認められな
い。
 本訴提起時ないし原審口頭弁論終結時においてはともあれ、原判決が確定せず、
現実の換価、清算が未了のまま当審において前叙のような事実関係の認められる事
態となり、しかも、弁論の全趣旨に照らし、それが控訴人側のいわれなき不当抗争
の結果とは断じえない以上、被証訴人において、なおも目的物件全部の換価処分を
固執し、差額清算のうえでとはいえ、全物件を自己の所有に帰せしめようとするこ
とは、担保の趣旨に照らし相当でなく、過剰競売を防止する目的に出た民事訴訟法
六七五条、あるいは広く権利の濫用を禁止した民法一条三項の法意にももとるもの
というべきである。すなわち、右のような事態のもとにおいては、先ず主たる債務
者の所有に属する前記目録(一)記載の土地に対する換価処分権の行使により被担
保債権全額の満足をうけうべきことは明白であって、かかる方法による優先弁済目
的の達成を事実上困難にする特別の事由の認められない現段階において、右目録
(一)記載の土地とともに同目録(四)ないし(七)記載の物件についてまで、換
価処分権を行使して本登記手続を求めることは、前叙の理由から許されないところ
といわなければならない。
 したがつて、被控訴人の請求にもかかわらず、本件は同一訴訟手続によって全目
的物件の換価をすべき場合にあたらないこととなるから、債権額の按分による各不
動産についての清算金の算定をなすべき前提を欠き、被控訴人としては目録(一)
記載の物件についてのみ換価処分権を行使しうべく、その評価額から被担保債権た
る本訴請求債権の全額を差引いた残額についてのみ清算を了すれば足りることとな
る。
 5 ところで、原判決(昭和四七年一一月一八日言渡)は、控訴会社に対し、被
控訴人から合計金一六八〇万九九一七円の支払を受けるのと引換えに刷紙物件目録
(一)記載の土地、同目録(二)、(三)記載の各建物の本登記手続を命じている
ところ、成立に争いのない甲第二四ないし第二七号証によれば、原判決に対する控
訴期間内である同月二四日、いずれも被転付債権を原判決により控訴会社が被控訴
人に対して有する差額金返還請求権金一六八〇万九九一七円の内金と表示して、控
訴会社の債権者訴外G(東京地方裁判所昭和四七年(ル)第四三二二号、同年
(ヲ)第七一九一号)、同H(同裁判所同年(ル)第四三二三号、同年(ヲ)第七
一九二号)、同I(同裁判所同年(ル)第四三二四号、同年(ヲ)第七一九三
号)、同J(同裁判所同年(ル)第四三二五号、同年(ヲ)第七一九四号)のため
債権差押及び転付命令(被転付債権合計金一六八〇万九九一七円)が発せられ、そ
の頃被控訴人に送達されていることが認められ、被控訴人は、右各転付命令により
控訴会社に対する差額清算金のうち右被転付債権額については控訴会社に対して支
払義務を負わないこととなつたと主張する。
 よって検討するに、債権担保の目的に出た代物弁済予約に代表されるいわゆる仮
登記担保権の帰属清算方式による実行過程において、債権者に前叙のとおり差額清
算義務があるとされるのは、債権者がその目的物件の有する価値のうち債権額を超
過する部分を保有すべきいわれはなく、清算をしないまま終局的に目的物件の所有
権を債権者に取得させることは、担保の目的に照らして過ぎたるものを債権者に帰
属させる結果となるからであり、債権者か所有権を取得し本登記を経由するために
清算金の引換給付を強いられるのは、契約目的たる優先弁済の実現とそれに伴う清
算を一挙に行うのが、権利の実質に則し、公平の観<要旨第二>念に合致すると解さ
れるからにほかならない。したがって、債権者の予約完結により担保目的実現のた
の換価権行使の可能な段階に入ったからといって、直ちに債務者に具
体的金員の交付を求めうる清算金請求権が発生するわけではなく、債務者は、債権
者の権利実行の遅滞により不利益を被るような特段の事情がある場合を除いては、
債権者が換価処分の実行に着手するのを待ち、債権者が現実に本登記を経由し所有
権を取得する段階において、それに協力するのと引換えに、無清算帰属による不当
な権利状態の実現を未然に回避するため、当該時点における目的物件の時価を基準
とした差額清算の実行を求めうるにとどまる。してみれば、仮登記担保権者への所
有権移転前における清算金請求権なるものは、将来担保権者が目的物件の所有権を
取得すると同時に発生し、かつ履行期にあることとなる債権として観念しうるにと
どまり、これを公平の観点から担保権者の本登記手続や明渡の請求に対する引換給
付の抗弁権の前提としてのみ主張することが認められるものにすぎず、もとよりそ
の成否(債務者が被担保債権を弁済して仮登記担保権を消滅させれば、清算金請求
権の発生する余地はない。)も、金額(担保権者の権利行使による所有権取得時期
がいつになるかによつて、清算金額の基準となる目的物件の価額は当然に変動する
し、その時点までは物件価額から差引かれるべき被担保債権の遅延損害金の発生も
止まらない。)も、事前に決しうるものではない。それ故、かかる段階における清
算金請求権は、券面額のある債権にあたらず、差押の対象とはなりえても、転付命
令の対象となる適格はないものと解すべきである。
 もつとも、右担保目的実現のための本登記手続が訴訟上請求され、引換えに債務
者に支払われるべき清算金の額が口頭弁論終結時の時価を基準として判決をもつて
定められた場合には、担保権者の本登記手続請求権の存在及びその履行と引換給付
の関係に立つ清算金の額が確定されることとなるから、判決の確定後における清算
金請求権の被転付適格を肯定することは可能である。しかし、判決、まして本件の
ように一審判決の言渡があつたにとどまる段階においては、判決が確定し、その宣
するところに従つて換価、清算の実行がなされるべき関係はいまだ確立されておら
ず、現に本件控訴により原判決の確定は遮断され、原審の口頭弁論終結時を基準と
する清算金の算定はその意味を失い、清算金請求権の成否及びその金額に関する前
述した浮動状態には何らの変更も生じていないのである(上述した清算金請求権の
特殊性に照らし、すでに発生している法定地上権の内容たる成立時の地代を定める
ことを目的とする地代確定訴訟の判決に関する最高裁昭和四〇年三月一九日判決・
民集一九巻二号四七三頁は、本件には適切でない。)。
 よつて、前記認定の四件の転付命令によっては、そこで被転付債権とされた控訴
会社の被控訴人に対する差額清算金請求権合計金一六八〇万九九一七円なるものに
ついて転付の効果は生じるに由ないものというべく、被控訴人の前記主張は採用で
きない。
 6 次に、被控訴人主張の譲受債権による差額清算金請求権との相殺について検
討する。
 控訴会社が別表(ハ)中「債権者」欄記載の四名に対し、同表中「元金」、「弁
済期日」、「損害金の割合」欄記載のとおりの元本合計金四二二二万九五七三円及
びこれに対する遅延損害金債務を負担していたこと、右四名から昭和五一年三月五
日到達の内容証明郵便によつて控訴会社に対し、被控訴人に右債権を譲渡した旨の
通知がなされたこと、被控訴人が控訴会社に対し、同月六日到達の内容証明郵便に
よつて右譲受債権をもつて別表(ハ)記載の(イ)、(ロ)、(ハ)、(ニ)の順
序に従い、控訴会社が被控訴人に対して有する差額清算金請求権残額と順次対当額
で相殺する旨の意思表示をなしたことはいずれも当事者間に争いかなく、J作成名
義部分については前記甲第九三号証により同人名下の印影が同人の印章によるもの
であることが認められるから全部真正に成立したものと推認すべく、被控訴人作成
名義部分については弁論の全趣旨により真正に成立したものと認むべき甲第一〇一
号証、成立に争いのない甲第一一一号証により吉住正刀名下の印影が同人の印章に
よるものであることが認められるから全部真正に成立したものと推認すべき甲第一
〇五号証、甲第一〇九号証、成立に争いのない甲第一一五号証によりK名下の印影
が同人の印章によるものであることが認められるから全部真正に成立したものと推
認すべき甲第一一三号証によれば、被控訴人が別表(八)中(イ)の債権を昭和五
〇年五月二三日、(ロ)の債権を同年二月三日、(ハ)の債権を同年五月二六日、
(ニ)の債権を同月二七日に同表記載の各債権者から譲り受けたことか認められ、
右認定に反する証拠はない。
 一方、相殺の受働債権とされた控訴会社の清算金請求権については、右相殺の意
思表示がなされる前の段階においては、依然成否未定の将来の債権にすぎなかつた
といわざるをえないことは、前述したところから明らかである。しかし、すでに予
約完結権を行使した被控訴人は、いつでも控訴会社に対しその時点における目的物
件の適正評価額から被担保債権額を差引いた残額を清算金として提供し、その受領
と引換えに目的物件についての本登記手続を求めることができるし、本登記の履行
に先立つて清算金の支払をなすことをいとわなければ、その受領を求め、拒絶され
たときは弁済供託をすることにより、目的物件の完全な所有権を取得し、控訴会社
の受戻権を喪失せしめて換価、清算手続を結了することができる地位にある。そし
て、将来の債権ではあつても、右のように債務者の意思によりいつでもこれを現在
化してその履行をなしうる関係にあるときは、少なくともそれが相殺に供しようと
する自働債権の金額を上廻る場合でない限り、債務者において期限の利益を放棄し
うる債権についてと同様に、即時履行をなしうべき債権として、これを相殺の受働
債権とすることを妨げる理由はないものというべきであり(最高裁昭和五〇年九月
九日判決・民集二九巻八号一二四九頁は、仮登記担保の目的物件につき後順位者が
いない限り、被担保債権以外の債権を自働債権とする清算金支払債務との相殺を広
く認める趣旨と解される。ちなみに、本件においては、かかる後順位権利者が存在
することについての特段の主張はない。)、この場合には受働債権が現在化する相
殺の意思表示の到達時点をもって相殺適状時と解すべきである。
 そこで右意思表示が控訴会社に到達した昭和五一年三月六日の時点における双方
の債権額を検討するに、別紙物件目録(一)記載の土地の同日現在の時価は金九二
九二万一〇八四円と認められることは前述したとおりであり、同日現在の本訴請求
債権の額は、元金一四四〇万円と遅延損害金二〇七六万七〇五八円(昭和四七年一
二月一日現在の前記相殺残金六七〇万三七三〇円に別表(九)中(4)欄記載の同
月二日から昭和五一年三月六日までの損害金合計金一四〇六万三三二八円を加えた
もの)との合計金三五一六万七〇五八円であるから、同日換価、清算を結了させる
こととした場合に被控訴人から控訴会社に支払うべき清算金の金額は、その差額金
五七七五万四〇二六円となるところ、右同日現在の自働債権額は別表(八)中「元
利合計(2)」欄記載のとおりである(なお、同表中(イ)の債権についての遅延
損害金計算の算式は15,192,379円×0.05×(7年+21/365+
66/366)による。)から、これをもつて被控訴人主張の順序で右差額清算金
と対当額で相殺を行うと、右差額清算金請求権は全額消滅し、自働債権中別表
(八)の(イ)、(ロ)については元金及び遅延損害金の全額が、同(ハ)につい
ては遅延損害金のうち金一一五二万四三一七円が消滅することになる。
 なお、被控訴人は、本訴において本登記手続を求めている全目的不動産の価額の
割合に応じて本訴請求債権残額を按分したうえで算定されることを前提として、前
記目録(一)記載の土地につき控訴会社に支払うべきこととなる清算金債務に対す
る相殺を主張しているが、本件においては右按分計算によることなく、右(一)記
載の土地の価額から被担保債権全額を差引いた額をもつて清算金の額とすべきこと
は前叙のとおりであるところ、被控訴人の相殺の意思表示は、その前提とする清算
金算定方法が採用されない場合に、右土地に関し被控訴人が控訴会社に対して負う
こととなる清算金債務に対する相殺の意思も当然に含む趣旨と解される。
 また、控訴会社は、訴外Kに対する合計金一一万円の貸付金債権をもって、被控
訴人が同訴外人より譲り受けた控訴会社に対する債権(別表(八)の(ニ))との
相殺を主張するが、右に説示したところから明らかなとおり右譲受債権は前記相殺
にあたり相殺の用に供されていないのであるから、控訴会社の右相殺の主張はその
成否を判断する必要がないというべきである。
 四 以上説示したところによれば、被控訴人は控訴会社に対しては、別紙物件目
録(一)記載の土地について差額清算金支払義務を負わないことになるので無条件
で右土地につき本件所有権移転仮登記の本登記手続を求めうべく、控訴人A、同B
に対しては、その請求する本登記手続を求めることは許されないものというべきで
ある。
 したがつて、控訴会社の本件控訴は理由がないのでこれを棄却すべく、被控訴人
の控訴会社に対する附帯控訴及び請求の減縮(別紙物件目録(二)、(三)記載の
各建物に対する請求部分)に基づき、原判決中被控訴人の控訴会社に対する請求に
関する部分を主文第二項記載のとおり変更すべきであり、また控訴人A、同Bの本
件各控訴は理由があるので、原判決中同控訴人らの敗訴部分を取消し、被控訴人の
同控訴人らに対する請求をいずれも棄却すべきである。
 よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条本文、九四条
後段を適用して主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 室伏壮一郎 裁判官 横山長 裁判官 河本誠之)
(別 紙)
 物  件  目  録
(ハ)所在東京都足立区ab丁目
 地番 c番地d
 地目 宅地
 地積 八四六・二八平方米(二五六坪)
(ニ)所在 右同所c番地
 家屋番号 同町c番e
 木造瓦葺平家建居宅一棟 八九・五二平方米(二七坪八勺)
 同付属建物(1)木造スレート葺二階建工場事務所
 床面積一階二九七・六五平方米(九〇坪四勺)
 二階 二三・一四平方米(七坪)
 (2)木造スレート葺平家建浴場
 床面積 二九・七五平方米(九坪)
(三)右同所c番地
 家屋番号 同町c番f
 木造スレート葺ブロック造平家建
 床面積 一〇二・四七平方米(三一坪)
(四) 所在 川崎市g字h
 地番 i番j
 地目 宅地
 地積 六六一・一五平方米(二〇〇坪)
(五)所在 右同所
 地番 i番k
 地目 山林
 地積 二〇四・九五平方米(二畝二歩)
(六)所在 右同所
 地番 i番l
 地目 山林
 地積 三七〇・二四平方米(三畝二二歩)
(七) 所在 右同所i番m
 家屋番号 同大字n番
 木造瓦葺二階建居宅 一棟
 床面積 一階六五・二八平方米(一九坪七五)
 二階四八・三三平方米(一四坪六二)
 (別表(一)~(九)は省略する。)

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応募資格
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◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

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メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
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履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
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