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平成22年2月25日判決言渡
平成21年(行ケ)第10259号審決取消請求事件
平成22年1月21日口頭弁論終結
判決
原告三菱電機株式会社
訴訟代理人弁理士高橋省吾
同稲葉忠彦
同湯山崇之
同井上みさと
同萩原亨
被告株式会社東芝
被告東芝コンシューマエレクトロニクス・
ホールディングス株式会社
被告東芝ホームアプライアンス株式会社
被告ら訴訟代理人弁護士高橋雄一郎
被告ら訴訟代理人弁理士堀口浩
同小川泰典
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2009−800043号事件について平成21年7月27日
にした審決を取り消す。
第2争いのない事実
1特許庁における手続の経緯
被告らは,発明の名称を「洗濯機用水準器」とする特許第3388095号
(平成8年6月18日出願,平成15年1月10日設定登録,請求項の数5,
以下「本件特許」という)の特許権者である。。
原告は,平成21年2月20日,本件特許の請求項1に係る発明の特許を無
()。効とすることについて無効審判を請求した無効2009−800043号
特許庁は,平成21年7月27日「本件審判の請求は,成り立たない」,。
との審判をし,その謄本は,同年8月6日,原告に送達された。
2特許請求の範囲
本件特許の明細書(以下,図面とともに「本件明細書」という)の特許請。
求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本件特許
発明」という。。)
「円筒状のケースと,このケースに密に結合された蓋体と,これらの内部に気
泡と共に封入された液体と,前記ケースに一体に形成された係合部を具え,こ
,,の係合部により洗濯機上面部の取付部に取付けられると共にケースの外方に
ケース及び蓋体よりも下方へ突出する外部ケースを一体に有し,この外部ケー
スの下端面を取付部の内底面に当接させて基準面とすることを特徴とする洗濯
機用水準器」。
3審決の理由
()別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,本件特許発明は,1
甲1に記載された発明(以下「引用発明」という)を主引用例とし,これ。
に周知技術(甲2ないし甲8)を適用しても,当業者が容易に発明をするこ
とができなかったと判断した。また,審決は,甲6に記載された発明を主引
用例とし,これに周知技術(甲1ないし5,甲7,甲8)を適用しても,当
業者が容易に発明をすることができなかったとの判断も加えている。
,,甲1ないし甲8はいずれも本件特許の出願前に頒布された刊行物であり
以下のとおりである。
甲1実願昭63−156708号(実開平2−77612号公報)の
マイクロフィルム
甲2実願昭60−45412号(実開昭61−164691号公報)
のマイクロフィルム
甲3実願昭61−154400号(実開昭63−60916号公報)
のマイクロフィルム
甲4実願昭63−119312号(実開平2−41112号公報)の
マイクロフィルム
甲5実願昭49−28189号(実開昭50−117674号公報)
のマイクロフィルム
甲6実願昭50−9581号(実開昭51−90676号公報)のマ
イクロフィルム
()甲7実願昭60−196776号実開昭62−104779号公報
のマイクロフィルム
甲8特開平7−68080号公報
()審決が上記の結論を導く過程において認定した引用発明の内容,本願発2
明と引用発明の一致点,相違点は,次のとおりである。
ア引用発明の内容
円筒状の気泡管本体1と,この気泡管本体1に完全に嵌着された中蓋5
及びキャップ7と,これらの内部に気泡2を残して充填された油性液体3
とを備え,気泡管本体1の外周部分が中蓋5及びキャップ7より下方へ突
出している測量機等に使用する水平器。
イ一致点
円筒状のケースと,このケースに密に結合された蓋体と,これらの内部
に気泡と共に封入された液体と,を備えた対象物に用いられる水準器。
ウ相違点
(ア)相違点ア
本件特許発明に係る水準器は「前記ケースに一体に形成された係合,
部」を備えているのに対し,引用発明に係る水平器(水準器)は,こ「」
のような係合部を備えていない点。
(イ)相違点イ
本件特許発明に係る水準器は,用いられる対象物が「洗濯機」である
のに対し,引用発明に係る水平器(水準器)は,用いられる対象物が「」
「測量機等」である点。
(ウ)相違点ウ
本件特許発明に係る水準器は「ケースの外方に,ケース及び蓋体よ,
りも下方へ突出する外部ケースを一体に有し」ているのに対し,引用発
明に係る水平器(水準器)は,気泡管本体1(ケース)の外周部「」「」
分が中蓋5及びキャップ7(蓋体)より下方へ突出している点。「」
(エ)相違点エ
本件特許発明に係る水準器は「係合部により洗濯機上面部の取付部,
に取付けられる」ものであり「外部ケースの下端面を取付部の内底面,
に当接させて基準面とする」ものであるのに対し,引用発明に係る水平
器(水準器)は,測量機等にどのように取付けられるかについては必「」
ずしも明らかでなく,しかも,測量機等の取付部の内底面に当接させて
基準面とすることについては全く不明である点。
第3取消事由に関する原告の主張
審決は,相違点ウに関する認定の誤り(取消事由1,相違点アに関する容易)
想到性の判断の誤り(取消事由2,相違点エに関する容易想到性の判断の誤り)
(取消事由3)があるから,違法として取り消されるべきである。
1相違点ウに関する認定の誤り(取消事由1)
審決は「本件特許発明に係る水準器は『ケースの外方に,ケース及び蓋体,,
よりも下方へ突出する外部ケースを一体に有し』ているのに対し,引用発明に
係る水平器(水準器)は,気泡管本体1(ケース)の外周部分が中蓋5『』『』
及びキャップ7(蓋体)より下方へ突出している点」を相違点と認定した『』。
点に誤りがある。その理由は,以下のとおりである。
()引用発明は,以下のとおり「ケースの外方に,ケース及び蓋体よりも下1,
方へ突出する外部ケースを一体に有し」た構成を備える。
本判決別紙図1(以下「別紙図1」という)は,説明の便宜上,引用発。
明に係る甲1の実施例図面(第1図)に,原告が点線を施して作成した図で
ある。別紙図1において,気泡管本体1の点線四角で囲まれた内側部分(以
下「中心部分」という)は,本件特許発明の「ケース」に該当し,点線の。
外側部分(以下「外周部分」という)は,本件特許発明の「外部ケース」。
に該当する。
甲1の気泡管本体1の「中心部分」は「外周部分」とは独立に存在し得,
る。そして,気泡管本体1の「中心部分」は,本件特許発明の「円筒状のケ
ースと,このケースに密に結合された蓋体と,これらの内部に気泡と共に封
入された液体」との構成を備えるから,本件特許発明の「ケース」に該当す
る。
気泡管本体1の「外周部分」は,中心部分の外側に,一体となって,下方
。,「」,へ突出するようになっているしたがって気泡管本体1の外周部分は
本件特許発明の「外部ケース」に該当する。
本件特許発明において「外部ケース」は「ケース」及び蓋体よりも下方,,
へ突出し「ケース」の外方に「ケース」と一体となっているものである。,
ここにいう「一体」とは「一つの体。同一体(広辞苑第4版)という意味,」
であり「外方」とは「そと側。外部(広辞苑第4版)という程度の意味,,」
である。本件明細書の図7に記載された本件特許発明の実施例においては,
「ケース」と「外部ケース」は,上方において接続片によって接続され,そ
れによって一体となっている。しかし,このような接続片は,本件特許発明
の構成要素ではなく,例えば,本件明細書の図7に記載された実施例におい
て,接続片を除き「外部ケース」を「円筒状のケース」側面に直接接着さ,
せたものであっても(本判決別紙図2「ケース」の外方に「外部ケース」),
が存在することに変わりはなく,このような形態は,引用発明と同じ形態で
ある。
以上のとおり,引用発明に係る気泡管本体1の「中心部分」は,本件特許
「」,「」,発明のケースに該当し引用発明に係る気泡管本体1の外周部分は
本件特許発明の「外部ケース」に該当するといえる。
したがって,引用発明も「ケース」の外方に「ケース」及び蓋体よりも,,
下方へ突出する「外部ケース」を一体に有しているから,審決が,この点を
相違すると認定した点には誤りがある。
()なお,審決が,一方で「本件特許発明の係合部は液体を封入するケース2,
に直接,一体に形成されているものと解される(審決7頁30行ないし3。」
1行)と認定したにもかかわらず,他方で「本件特許発明に係る実施例で,
は,係合部43は外部ケース41に設けられており,外部ケース41はケー
ス31にそのケース31の外方に一体に設けられているから,ケース31と
係合部43との関係についてみると,係合部43はケース31に一体に形成
されているということができる審決9頁26行ないし29行としケ。」(),「
ースに直接形成されておらず,ケースとは異なる外部ケースにのみ形成され
ている係合部もケースに一体に形成された係合部に含まれる」と認定した点
は,矛盾した説示である。
2相違点アに関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)
審決は,相違点アに係る本件特許発明の構成は,引用発明及び甲3,甲4に
記載された係合部についての周知技術に基づいて,容易に想到し得たとはいえ
,。,。ないと判断したが同判断には誤りがあるその理由は以下のとおりである
甲3には「ハウジング2(本件特許発明の「ケース」に相当する)の外方,。
に,一体ではなく有している円筒状のケーシング7(本件特許発明の「外部’
ケース」に相当する)に一体に形成された弾性クリップ16(本件特許発明。
の「係合部」に相当する」が記載され,甲4には「液玉4(本件特許発。),’’
明の「ケース」に相当する)の外方に,一体ではなく有している筒状ケーシ。
ング3(本件特許発明の「外部ケース」に相当する)に一体に形成された’’。
(「」。)」。弾接フック15本件特許発明の係合部に相当するが記載されている
そうすると,甲3,甲4には「外部ケース」に一体に形成された係合部が記,
載されている。
他方,引用発明は,前記1()のとおり「ケース」の外方に「ケース」及1,,
び蓋体よりも下方へ突出する「外部ケース」を一体に有しているものであるか
ら,このような引用発明を前提として,これに,甲3,甲4に記載されたよう
な「外部ケース」に一体に形成された係合部を適用するならば「ケースに一,
体に形成された係合部」という相違点アに係る本件特許発明の構成を想到する
ことは容易である。
引用発明に,甲3,甲4に記載されたような「外部ケース」に一体に形成さ
れた係合部を適用して,本判決別紙図3(以下「別紙図3」という)のよう。
,。,,にすることは当業者が容易に想到することができるそして別紙図3では
「外部ケース」に相当する外周部分は,内側部分より下方に突出しており,外
周部分に係合部が一体に形成されているから,審決の「本件特許発明に係る実
施例では,係合部43は外部ケース41に設けられており,外部ケース41は
ケース31にそのケース31の外方に一体に設けられているから,ケース31
と係合部43との関係についてみると,係合部43はケース31に一体に形成
されているということができる(審決9頁26行ないし29行)という考え。」
に基づくならば,係合部は「ケース」に相当する円筒状の内側部分に一体に,
形成されていることに他ならない。
3相違点エに関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)
審決は,相違点エに係る本件特許発明の構成は,引用発明及び甲8に記載さ
れた基準面についての周知技術に基づいて,容易に想到し得たとはいえないと
判断したが,同判断には誤りがある。その理由は,以下のとおりである。
甲8には「基準面」との文言は記載されていない。しかし,甲8の水準器,
の目的が,洗濯機が水平に設置されているか確認することにあるのは明らかで
あり,その目的に即して用いる場合に,洗濯機が水平であるかどうかが分かる
ように洗濯機に水準器を取り付けなければならないことも明らかである。そし
て,甲8には,実施例において「気泡39と液体40とを封入するケース本体
38b,蓋体38c及び栓体38dから構成される水準器37が,全自動洗濯
機のフロントパネル22と操作パネル22aとで構成される収納部に,枠体1
の上端面と平行をなして取り付けられること」が記載されており,図4にその
具体的態様が示されているところ,水準器37は,洗濯機が水平に設置されて
いるか確認するためのものであることからすれば,その下端面を構成する蓋体
38c及び栓体38dを収納部の内底面に当接させて,洗濯機が水平であるか
どうかが分かるように設置されているはずであるそうすると甲8には水。,,「
準器の下端面を収納部の内底面に当接させて基準面とすること」との周知技術
が記載されている。
そして,引用発明は,前記1()のとおり「ケース」及び蓋体よりも下方へ1,
突出する「外部ケース」を一体に有しているものであるから,このような引用
発明の技術に,甲8に記載されたような「水準器の下端面を収納部の内底面に
当接させて基準面とすること」を適用するならば「外部ケースの下端面を取,
付部の内底面に当接させて基準面とする」という相違点エに係る本件特許発明
の構成を容易に想到することができる。
第4被告の反論
審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は,いずれも理由がな
い。
1相違点ウに関する認定の誤り(取消事由1)に対し
()本件特許発明の「円筒状のケース」と「外部ケース」は,後者が前者の1
,,,外方にあるとされているから構成上別のものでありそのことに照らすと
本件特許発明の「ケースの外方に,ケース及び蓋体よりも下方に突出する外
部ケースを一体に有し」との文言は「ケース」とは別の「外部ケース」を,
「ケース」の外方に備えており,その「外部ケース」は「ケース」及び蓋体
よりも下方へ突出していて,しかも「ケース」に一体になっている趣旨と,
解される。
本件明細書の発明の詳細な説明の実施例の記載及び図7,図8を参酌して
も「ケース(ケース31)と「外部ケース(外部ケース41)から,」「」」「」
構成される二重の筒が,上端で接続されることによって一体に形成されてお
り「ケース」と「外部ケース」が構成上別のものであることが示されてい,
る。
本件特許請求の範囲の請求項1において「外方」という文言は,孤立し,
て存在するのではなく「ケースの外方に」として「円筒状のケース」の外,,
方にある「外部ケース」という文脈で用いられているから「外方」とは,,
その物体よりも外側に存在することを示している。
他方,別紙図1に示された引用発明の実施例においては,一つの「円筒状
のケース」が存在するにすぎず,その内側と外側が構造上分かれているとは
認められない。原告が主張するように「円筒状のケース」の内側,外側のそ
れぞれを「ケース「外部ケース」と称するのであれば「ケース」と「外」,,
部ケース」を構成上別のものとして示した意味が失われてしまう。
別紙図1に示された引用発明の実施例において,本件特許発明の蓋体に相
当するものは,中蓋5とキャップ7であり,仮に,原告主張のとおり,気泡
管本体1の「中心部分」及び「外周部分」がそれぞれ本件特許発明の「ケー
ス「外部ケース」に当たるとしても,外周部分が中心部分よりも下方に突」,
出しているとはいえないから,別紙図1に示された引用発明の実施例は本件
特許発明と構成が異なる。
()審決は「本件特許発明の係合部は液体を封入するケースに直接,一体に2,
。」(),形成されているものと解される審決7頁30行ないし31行とするが
本件特許発明の実施例においても「ケース」と「外部ケース」がひと続き,
,「」,に一体に形成されているから外部ケースに係合部が設けられていても
係合部が「ケース」に直接,一体に形成されているということができ,審決
の上記解釈は,本件特許発明の実施例との関係でも矛盾はない。
2相違点アに関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対し
甲3,甲4記載の水平器(水準器)は「ケース」を計測装置等の対象機器,
に取り付けるために別部品を要する従来技術に係るものであり,いずれにも,
「ケース」に一体に形成された係合部は記載されていない。また,引用発明に
甲3,甲4記載の水平器(水準器)を組み合わせても,本件特許発明の作用効
果である「取付けに別部品を要せず安価に,且つ精度良く取付けることができ
る(本件明細書【0021)という効果を奏することができない。したがっ」】
て,引用発明に甲3,甲4を組み合わせても「ケースに一体に形成された係,
合部」という相違点アに係る本件特許発明の構成を容易に想到することはでき
ない。
3相違点エに関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対し
甲8には,基準面という文言は記載されておらず,甲8の発明の詳細な説明
の実施例に関する記載及び図4を参照しても,水準器37のケース本体38b
がフロントパネル22及び操作パネル22eの二つの部材と当接し,水準器3
7の蓋体38cと栓体38dの二つの部材がフロントパネル22と当接してい
るため,どの箇所が基準面となるか不明であり,甲8には「外部ケース」の,
下端面を取付部の内底面に当接させて基準面とすることは記載されていない。
そして,引用発明に甲8記載の水準器を組み合わせても,水準器の取付けの精
度を良くする(本件明細書【0015【0021)という本件特許発明の】,】
作用効果を奏することができない。したがって,引用発明に甲8記載の水準器
を組み合わせても「外部ケースの下端面を取付部の内底面に当接させて基準,
面とする」という相違点エに係る本件特許発明の構成を容易に想到することは
できない。
第5当裁判所の判断
1相違点ウに関する認定の誤り(取消事由1)について
審決が「本件特許発明に係る水準器は『ケースの外方に,ケース及び蓋体,,
よりも下方へ突出する外部ケースを一体に有し』ているのに対し,引用発明に
係る水平器(水準器)は,気泡管本体1(ケース)の外周部分が中蓋5『』『』
及びキャップ7(蓋体)より下方へ突出している点」を相違するとした認『』。
定には誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
()本件特許発明の「外部ケース」について1
ア特許請求の範囲の記載
本件明細書の特許請求の範囲の請求項1には「円筒状のケースと,こ,
のケースに密に結合された蓋体と,これらの内部に気泡と共に封入された
液体と,前記ケースに一体に形成された係合部を具え,この係合部により
洗濯機上面部の取付部に取付けられると共に,ケースの外方に,ケース及
び蓋体よりも下方へ突出する外部ケースを一体に有し,この外部ケースの
下端面を取付部の内底面に当接させて基準面とすることを特徴とする洗濯
機用水準器」と記載されている。。
上記特許請求の範囲の記載によれば,本件特許発明における「洗濯機用
水準器」は,以下の三つの部分,すなわち,①「円筒状のケース(単に」
「ケース」とも表示されている,②「蓋体」及び③「外部ケース」から。)
構成されるものである。そして,特許請求の範囲の記載によれば,②,③
の部分と①「円筒状のケース」との関係について,②の「蓋体」は「円,
筒状のケース」と密に結合される旨規定され,また,③の「外部ケース」
は,a「円筒状のケース」の外方に,b「円筒状のケース」及び蓋体より
も下方へ突出し,c「円筒状のケース」と一体に設けられる旨規定されて
いる。
以下「外部ケース」と「円筒状のケース」との関係についての技術的,
意義をより明確に理解するために,本件明細書の発明の詳細な説明の記載
を参酌する。
イ発明の詳細な説明の記載
本件明細書の発明の詳細な説明には,次のとおりの記載がある。
(ア)「0001【発明の属する技術分野】本発明は主として取付構造を【】
改良した洗濯機用水準器に関する。
【0002【従来の技術】従来より,洗濯機においては,設置時の水】
平度を正確に出すために水準器を装備したものが供されている。この
ものの水準器は,図9及び図10に示すように,円筒状のケース1に
蓋体2を密に結合して,これらの内部に液体3を気泡4と共に封入し
た構造で,この気泡4の位置で洗濯機の水平度を見る(気泡4が中心
部に位置したときが水平であり,このようになるように洗濯機の水平
度を調整する)のであるが,この水準器5を,図9に示す取付構造で
は,洗濯機6のトップカバー7に装着した透視板8に下方より当て,
更にその下方から押え板9をねじ10止めして水準器5を透視板8に
押え付けることにより,取付けるようになっている。
【0003】一方,図10に示す取付構造では,水準器5を,トップカ
バー7に形成した凹部11に収納し,その上から透視カバー12を凹
部11に嵌合し,該透視カバー12の爪13を凹部11の孔14に係
合させて水準器5を押え付けることにより,取付けるようになってい
る。
【】【】,0004発明が解決しようとする課題上記従来のものによると
水準器5の取付けに1ないし複数個の別部品が必要でコスト高になっ
ていた。又,水準器5がそれらの別部品を使用して取付けられている
ため,その各部品間の組立て誤差により,取付けの精度が劣って,水
準器5としての精度も劣るという問題点を有していた。更に,水準器
5の上方を別部品で覆うため,視認性にも劣るという問題点を有して
いた。
【0005】本発明は上述の事情に鑑みてなされたものであり,従って
その目的は,取付けに別部品を要せず安価に,且つ精度良く取付ける
ことができると共に,視認性にも優れる洗濯機用水準器を提供するに
ある。
【】【】,0006課題を解決するための手段上記目的を達成するために
本発明の洗濯機用水準器においては,円筒状のケースと,このケース
に密に結合された蓋体と,これらの内部に気泡と共に封入された液体
と,上記ケースに一体に形成された係合部を具え,この係合部により
洗濯機上面部の取付部に取付けられると共に,ケースの外方に,ケー
ス及び蓋体よりも下方へ突出する外部ケースを一体に有し,この外部
ケースの下端面を取付部の内底面に当接させて基準面とすることを特
徴とする。
【0007】このものによれば,水準器はケースと一体の係合部で取付
けられるもので,取付けに別部品を要しない。従って,その各部品間
の組立て誤差も生じず,更に,水準器が上方を別部品で覆われること
もない。又,ケースの外方に形成した外部ケースの下端面を取付部の
内底面に当接させて基準面とするようにしたことで,取付けの水平度
の精度を良くすることができる」。
(イ)また,実施例図面(図7,図8)においては,外部ケース41につ
いて,ケース31と,上端周囲部47によって接続され,ケース31の
外方に向けて伸びて,さらに下方に屈曲し,ケース31及び蓋体32よ
りも下方にまで突出した形状のものが示されている。
ウ「外部ケース」と「円筒状のケース」との関係についての判断
上記の本件明細書の記載に照らすならば,従来例によると,水準器を洗
,,濯機本体に取り付けるには取り付けのために別の部品が必要となるため
各部品間の組み立て誤差が生じ,取付け精度が劣るなどの問題点が存在し
たこと,本件特許発明は,そのような課題を解決するために「外部ケー,
ス」を「円筒状のケース」と一体のものとして設け「外部ケース」は,,,
「円筒状のケース」の外方に位置し「円筒状のケース」及び蓋体よりも,
下方にまで突出し「外部ケース」の下端面を取付部の内底面に当接させ,
て基準面とすることとしたものである。
そうすると「外部ケース」は,上記のとおり「円筒状のケース」と一,,
体に形成されたものであるが,同時に「円筒状のケース」とは異なる機,
能・構造・形状を有する部材(部分)であると認められる。
()引用発明について2
ア引用発明における「外部ケース」の有無について
(ア)引用発明は「円筒状の気泡管本体1と,この気泡管本体1に完全,
に嵌着された中蓋5及びキャップ7と,これらの内部に気泡2を残して
充填された油性液体3とを備え,気泡管本体1の外周部分が中蓋5及び
キャップ7より下方へ突出している測量機等に使用する水平器」であ。
る(当事者間に争いがない。。)
引用発明においては,本件特許発明の「円筒状のケース」に相当する
のは,気泡管本体1の全体であると解するのが自然である。すなわち,
甲1において,気泡管本体1の特定の一部のみを「円筒状のケース」,
に相当する部分とは区別して,機能・構造・形状・技術的意義において
「円筒状のケース」とは異なる性質のものとして認識させるような記載
及び示唆はないしたがって引用発明においては本件特許発明の外。,,「
部ケース」に相当するものは存在しないと解すべきである。
(イ)原告は,自己の主張を説明するために,自ら,引用発明に係る甲1
の実施例図面(第1図)に点線を施した別紙図1を作成して,別紙図1
に示した気泡管本体1の中心部分(点線の内側)のみが,本件特許発明
の「ケース(円筒状のケース)に相当し,気泡管本体1の外周部分」「」
(点線の外側)が,本件特許発明の「外部ケース」に相当すると主張す
る。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,甲1においては,①気泡管本体1は,複数の部材(又は部
分)から構成されているものではなく,単一の部材として記載されてい
ること,②中心部分と外周部分とをどのような基準により区分するかに
ついて記載も示唆もないこと,③この点,原告は,キャップ7と係合す
るための段差部分をもって,中心部分と外周部分を区分するための基準
としているようにも推測されるが,そのような基準に,何らかの技術的
な意義を認めることはできないこと等を総合考慮すれば,引用発明にお
いて,本件特許発明の「外部ケース」に相当するものが存在するとはい
。,,,えないしたがって原告の上記主張を採用することができずその他
引用発明に,本件特許発明の「外部ケース」に相当するものがあると認
めるに足りる証拠はない。
以上のとおり,引用発明には本件特許発明の「外部ケース」に相当す
るものは存在しないというべきである。
イ審決の説示について
なお,原告は,審決の「本件特許発明の係合部は液体を封入するケース
に直接,一体に形成されているものと解される(審決7頁30行ないし。」
31行)との説示は「本件特許発明に係る実施例では,係合部43は外,
部ケース41に設けられており,外部ケース41はケース31にそのケー
ス31の外方に一体に設けられているから,ケース31と係合部43との
関係についてみると,係合部43はケース31に一体に形成されていると
いうことができる(審決9頁26行ないし29行)との説示と矛盾する。」
旨主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり理由がない。
審決は「本件特許発明の係合部は液体を封入するケースに直接,一体,
に形成されているものと解される」と説示しているが,同説示は,相違。
点アに係る容易想到性の判断の前提として,本件特許発明と甲3及び甲4
,,とを対比するに際してその相違を指摘するために述べた部分であるから
審決が上記のような説示をしたからといって,本件明細書の図7,図8の
実施例(係合部が,ケースの外方にあってケースと同一の部材からなる外
部ケースに形成されている態様)を,本件特許発明から除外すべきである
趣旨を述べたと解する根拠にはならない。
他方,審決は「本件特許発明に係る実施例では,係合部43は外部ケ,
ース41に設けられており,外部ケース41はケース31にそのケース3
1の外方に一体に設けられているから,ケース31と係合部43との関係
についてみると,係合部43はケース31に一体に形成されているという
ことができる」と説示しているが,同説示は,本件明細書の図7,図8。
の実施例のように,係合部が「ケース」の外方にあって「ケース」と同,
一部材からなる「外部ケース」に設けられている場合も「ケースに一体,
に形成された係合部」に該当することを示したものと認められる。
したがって,審決の「本件特許発明の係合部は液体を封入するケースに
直接,一体に形成されているものと解される」との説示部分と「本件特。
,,許発明に係る実施例では係合部43は外部ケース41に設けられており
外部ケース41はケース31にそのケース31の外方に一体に設けられて
いるから,ケース31と係合部43との関係についてみると,係合部43
はケース31に一体に形成されているということができる」との説示部。
分とは矛盾するものではなく,原告の上記主張は,採用することができな
い。
()小括3
以上のとおり,引用発明には本件特許発明の「外部ケース」に相当するも
のが存在しないから,審決が「本件特許発明に係る水準器は『ケースの外,,
方に,ケース及び蓋体よりも下方へ突出する外部ケースを一体に有し』てい
るのに対し,引用発明に係る水平器(水準器)は,気泡管本体1(ケー『』『
ス)の外周部分が中蓋5及びキャップ7(蓋体)より下方へ突出してい』『』
る点」を相違点ウとした認定には誤りはない。したがって,原告主張の取。
消事由1は,理由がない。
2相違点アに関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について
原告は,引用発明が「ケース」の外方に「ケース」及び蓋体よりも下方へ,,
「」,,,突出する外部ケースを一体に有していることを前提としてこれに甲3
甲4に記載されたような「外部ケース」に一体に形成された係合部を適用する
ならば「ケースに一体に形成された係合部」という相違点アに係る本件特許,
発明の構成を容易に想到することができると主張する。
しかし,前記1()のとおり,引用発明には本件特許発明の「外部ケース」2
に相当するものが存在しないから,引用発明に本件特許発明の「外部ケース」
に相当するものが存在することを前提とする原告の上記主張は,その前提にお
いて,採用することができない。
別紙図3は,本件特許発明の「外部ケース」に相当するものが存在しないか
ら,本件特許発明に該当するとはいえない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,取消事由2は理由が
ない。
3相違点エに関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)について
原告は,引用発明が「ケース」の外方に「ケース」及び蓋体よりも下方へ,,
突出する「外部ケース」を一体に有していることを前提として,これに,甲8
に記載された「水準器の下端面を収納部の内底面に当接させて基準面とするこ
と」との周知技術を適用するならば「外部ケースの下端面を取付部の内底面,
に当接させて基準面とする」という相違点エに係る本件特許発明の構成を容易
に想到することができると主張する。
しかし,前記1()のとおり,引用発明には本件特許発明の「外部ケース」2
に相当するものが存在しないから,引用発明に本件特許発明の「外部ケース」
に相当するものが存在することを前提とする原告の上記主張は,その前提にお
いて,採用することができない。
したがって,その余の点について判断するまでもなく,取消事由3は理由が
ない。
4結論
以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他審決にこ
れを取り消すべき違法はない。よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
飯村敏明
裁判官
中平健
裁判官
上田洋幸
別紙
図1
図2
図3

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