弁護士法人ITJ法律事務所

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         主    文
       原判決を破棄する。                    
       本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 上告代理人井上善雄,同川村哲二,同中嶋弘,同市瀬義文の上告受理申立て理由
について
 1 本件は,大阪府(以下「府」という。)の住民である上告人らが,府が被上
告人日本下水道事業団(以下「事業団」という。)に委託した下水道施設建設工事
について,被上告人事業団が,被上告人株式会社B2(以下「B2」という。)及
び被上告人B3電機株式会社(以下「B3電機」という。)との間でそれぞれ請負
契約を締結して発注した各電気設備工事に係る各工事請負代金が,被上告人事業団
以外の被上告人ら(以下「被上告人9社」という。)が談合し,被上告人事業団が
これに加功したこと(以下,併せて「本件談合」という。)によって不当につり上
げられ,府がこれを負担することにより損害を被ったとし,府は,被上告人らに対
し,不法行為による損害賠償請求権を有しているにもかかわらず,その行使を違法
に怠っているとして,地方自治法(以下「法」という。)242条の2第1項4号
に基づき,府に代位して,怠る事実に係る相手方である被上告人らに対し,損害賠
償を求めている事案である。
 2 原審の確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 府は,平成3年7月10日,被上告人事業団との間で,田尻・泉南沿岸都
市下水路吉見ポンプ場(以下「吉見ポンプ場」という。)の建設工事委託に関する
協定及び泉南沿岸都市下水路中部ポンプ場(以下「中部ポンプ場」という。)の建
設工事委託に関する協定(以下,併せて「本件各委託協定」といい,委託に係る建
設工事を「本件各委託工事」という。)を締結した。
 被上告人事業団の業務方法書等によれば,被上告人事業団は,下水道施設の建設
を行うときは,これに要する費用を委託地方公共団体に負担させるものとされてい
る。そして,本件各委託協定においては,本件各委託工事に要する費用の額が定め
られており,その額は,所定の方法により積算した予定価格(直接費)と管理諸費
(直接費に一定の管理諸費率を乗じた金額)の合計額である。また,本件各委託協
定においては,賃金又は物価の変動等により協定で定めた費用の額では建設工事を
完成することが困難であると認めるときは,府と被上告人事業団が協議してその額
を変更し,又は委託の対象若しくはその内容を変更するため協定を変更するものと
すること,被上告人事業団は,工事が完成したときには,費用の精算を行うこと等
が定められている。
 (2) 被上告人事業団は,中部ポンプ場の建設工事のうち電気設備工事(以下「
中部ポンプ場工事」という。)につき,指名競争入札を実施し,その結果に基づい
て,平成3年8月6日付けで,被上告人B2との間で,代金額を4億1560万5
000円とする請負契約を締結した。その後,被上告人事業団と同B2との間の同
5年3月9日付けの契約で上記請負代金額は4億1107万3000円に変更され
た。
 被上告人事業団は,吉見ポンプ場の建設工事のうち電気設備工事(以下「吉見ポ
ンプ場工事」といい,中部ポンプ場工事と併せて「本件各工事」という。)につき
,指名競争入札を実施し,その結果に基づいて,同3年8月8日付けで,被上告人
B3電機との間で,代金総額を5億4178万円とする請負契約を締結した。なお
,このうち府が負担することとなる額は4億9440万円である。
 (3) 府は,被上告人事業団に対し,本件各委託協定(後に変更された部分を含
む。)に定められた費用として,第1審判決添付別紙のとおり,吉見ポンプ場につ
いては平成5年3月31日までに,中部ポンプ場については同年9月10日までに
本件各委託協定に定められた費用を支払い,いずれも本件各委託協定及び被上告人
事業団の受託業務精算事務処理要領に基づく精算も終了済みとして処理されている。
 (4) 府と被上告人事業団は,(1)のとおり本件各委託協定に定められた建設工事
の施行に要する費用の直接費よりも被上告人事業団が発注した工事の請負金額が低
額になったときには,被上告人事業団が府に対しその差額を還付する旨の精算の合
意をしていたが,本件各委託工事には電気設備工事である吉見ポンプ場工事及び中
部ポンプ場工事以外の工事も含まれており,還付がされるのはそれらの工事の直接
費の合計額よりも請負金額の合計額が低額になったときである。また,府は,被上
告人事業団が被上告人B2及び同B3電機との間で締結した請負契約の請負金額の
決定に介入することはできず,上記精算は,被上告人事業団がその受託業務精算事
務処理要領に従い実施するものであって,被上告人事業団が行った精算報告の内容
について府が諾否を決めることはできない。
 (5) 上告人らは,平成7年11月27日,府の監査委員に対して,本件各工事
につき,被上告人事業団から工事の件名と発注予定金額の呈示を受けた被上告人9
社が談合を行ったのであり,業者間に公正な競争が確保されていたなら,契約金額
は少なくとも20%は低くなったはずであり,被上告人らは,本件談合という共同
不法行為により契約金額を不当につり上げて,工事委託者として最終的に契約金額
を負担した府にその差額相当の損害を与えたのであるから,府知事らは,損害賠償
請求権等を行使して,府の被った損害を補てんする措置を講ずべきであるのにこれ
を怠っているとして,その措置を講ずべきことを勧告することを求める監査請求(
以下「本件監査請求」という。)をした。
 3 上記事実関係の下において,原審は,本件監査請求には法242条2項本文
の規定が適用されないとした上,次のとおり判断して,本件談合によって府が損害
を被ったとはいえないとし,上告人らの請求を棄却すべきものとした。
 本件各委託協定に基づき,府が被上告人事業団に支払った費用の額は,被上告人
事業団が指名競争入札によって被上告人B2及び同B3電機との間で締結した請負
契約の請負金額とは別個に定められ,その影響は受けないから,府が上記の費用を
支払ったことによって損害を被ったとは認められない。また,仮に,上告人らが主
張するように本件談合により本件各工事の請負金額が20%以上高額になっていた
としても,本件各委託協定で定められた本件各工事以外の工事の請負金額が明らか
でないから,本件各委託協定で委託された建設工事の直接費の合計額よりも請負金
額の合計額が低額であったとまで認めることはできない。そして,府は,被上告人
事業団が被上告人B2及び同B3電機との間で締結した請負契約の請負金額の決定
に介入することはできず,被上告人事業団が行った精算報告の内容に諾否を決める
ことはできないから,上記談合と府の損害との間に因果関係を認めることにも疑問
がある。
 4 しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
 本件各委託工事の内容は,電気設備工事である本件各工事のみならず,他の工事
をも含むものであるが,本件談合により他の工事の請負金額が変動するものではな
い。そうすると,【要旨】上告人ら主張のように,本件各工事の請負金額が本件談
合により不当につり上げられたものであり,本件談合がなく公正な競争が確保され
ていたなら,その金額は少なくとも20%は低額になったものであるということを
前提とするならば,本件談合という不法行為がなければ,被上告人事業団が支出す
る請負金額の合計額は,その差額(以下「本件差額」という。)に相当する分につ
いて減少し,本件差額相当分が被上告人事業団から府へ還付されたはずのものとい
うべきである。府が,被上告人事業団が発注する工事の請負金額の決定に介入する
ことはできず,被上告人事業団の精算報告の内容に諾否を決めることができないこ
とが,上記の点に影響を及ぼすものではない。したがって,本件談合という不法行
為によって本件差額が生ずるのであるならば,府に本件差額相当額の損害が発生す
るものというべきである。
 5 以上によれば,本件談合により本件差額が生ずるとしても,本件談合によっ
て府が損害を被ったとはいえないとした原審の判断には判決に影響を及ぼすことが
明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり,原判決は破棄を免れない。そして
,本件については,府の損害賠償請求権の成否につき,更に審理を尽くさせる必要
があるから,原審に差し戻すこととする。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
    最高裁判所第一小法廷
(裁判長裁判官 町田 顯 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 深澤
武久 裁判官 横尾和子)

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