弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人の上告理由第一点について。
 所論は、原判決には国家公務員法一〇〇条一項の解釈適用を誤つた違法があると
いう。
 原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が、行政管理庁の行なう
行政監察制度の目的、行政監察業務の運営方法、秘密文書の取扱等についてした認
定判断は、挙示の証拠および関係法令の規定に照らして、是認することができる。
そして、右の事項その他原判決が適法に確定した事実に徴すれば、原判決が、本件
著書等の取材文書の内容は、検察官の論告内容を掲記したもの等判示部分を除き、
実質的に秘密事項に属するものであり、また、右取材文書は適式に指定された秘密
文書であるとした認定判断、さらに、原判決が、原審における上告人の主張にこた
え、行政監察制度の目的は非違の糾弾ではなく、行政運営の改善にあり、行政監察
の結果明らかとなつた行政機関の違法、不当の行為を含む業務実施上の欠陥は、行
政管理庁長官の行政機関に対する適切な意見ないし勧告等によつて改善しうべきも
のであつて、これを一般職員が上司の承認なくして公表することを禁止することに
は合理的理由があり、本件著書等の取材文書の内容もみだりに一般に公表すべきも
のではない等とした判断は、いずれも正当として首肯することができる。
 その他原判決に所論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、原審の適法にした事実
の認定を非難するか、または、原審の認定にそわない事実を前提とし独自の見解に
立つて原判決の違法を主張するものにすぎず、採用することができない。
 同第二点について。
 所論は、原判決は、本件における特殊性をかえりみず、一般論、形式論をもつて
律したため、上告人がその職に必要な適格性を欠くものと判断したというが、原判
決の所論判示その他これに関連する認定判断は、原判決の適法に確定した事実およ
び関係法令の規定に徴すれば、いずれも正当として首肯するに足りる。原判決に所
論の違法はなく、論旨は、ひつきよう、独自の見解に立脚して原判決を非難するも
のであつて、採用するに足りない。
 同第三点について。
 所論は、原判決には、国家公務員法七八条三号の適用を誤つた違法があるという。
 原判決の適法に確定した事実関係に照らせば、原判決が、本件著書等の内容が事
実をわい曲、ねつ造したものでなく、真実を伝えたものであるかどうかはこれを問
うまでもなく、本件著書等を刊行した上告人は、国家公務員法七八条三号に該当す
るとした判断は、正当として首肯することができ、また、原判決が、上告人は本件
著書等の刊行による秘密事項の公表について行政管理庁の明示の承認を得たことは
なく、かつ、黙示の承認があつたと認めるに足りる証拠もないとした認定は、挙示
の証拠関係に照らして、是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨
は、ひつきよう、独自の見解を主張するか、または、原審の適法にした証拠の取捨
判断、事実の認定を非難するに帰し、採用することができない。
 同第四点について。
 所論は、原判決は重要な事実の判断を遺脱し、かつ、最高裁判所の判例に違反し
ているという。
 本件記録に徴すれば、上告人は原審の口頭弁論において所論正当防衛の主張をし
ていないから、原判決にこの点の判断を遺脱した違法は存しない。なお、上告人は、
原審の口頭弁論において、本件著書等の刊行は、公共の福祉を増進する等のために
行なつたものであるし、また、行政監察の結果をすべて公表すべきである旨の上司
に対する上申が容れられなかつたためにあえて行なつたものである等の主張をし、
原判決は、これに対して、本件著書等の刊行が公共の福祉を増進するものではなく、
また、行政監察の結果は行政監察制度の目的に照らして処置さるべきであり、その
公表には慎重な考慮が必要である等の判断を示しているのであつて、原審の適法に
確定した事実関係および関係法令の規定に徴すれば、右判断は正当として首肯する
ことができる。所論は、原審でしなかつた主張を前提としもしくは独自の見解に立
つて原判決の違法をいうか、または、原審の適法にした事実の認定を非難するもの
にすぎない。なお、所論引用の当裁判所の判決は、事案を異にし本件には適切でな
い。論旨はすべて理由がなく、採用することができない。
 同第五点について。
 所論は、国家公務員法一〇〇条の規定自体は憲法二一条に違反するものではない
が、本件免職処分の理由は原処分庁によりねつ造されたものであり、したがつて、
本件著書等の刊行はなんら公共の福祉に反するものでないにもかかわらず、本件処
分が適法であると判断した原判決は、上告人の表現の自由を抑圧し憲法二一条に違
反しているという。
 しかしながら、原判決は、その適法に確定した事実関係に基づき、本件著書等の
取材文書は実質的にも形式的にも秘密事項に属し、また、上告人の本件著書等の刊
行は行政監察制度の目的に反し、公共の福祉を阻害する結果を招くおそれがある等
と認定判断し、その結果、上告人は行政管理庁行政監察局の職員としてその官職に
必要な適格性を欠くものとして国家公務員法七八条三号に該当するものと認め、本
件処分は適法であると判断しているのであつて、右認定判断はすべて首肯するに足
りる。したがつて、所論違憲の主張は、結局、その前提を欠くに帰するというべき
である。論旨は理由がなく、採用することができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員の一致で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   隅   健 一 郎
            裁判官    入   江   俊   郎
            裁判官    長   部   謹   吾
            裁判官    松   田   二   郎
            裁判官    岩   田       誠

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