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平成23年7月12日判決言渡同日判決原本領収裁判所書記官
平成23年(ネ)第10021号,第10032号特許実施料本訴請求・損害賠
償反訴請求控訴,同附帯控訴事件
(原審・東京地方裁判所平成21年(ワ)第28065号,平成22年(ワ)第9
264号)
口頭弁論終結日平成23年5月19日
判決
控訴人兼附帯被控訴人(本訴原告兼反訴被告)

被控訴人兼附帯控訴人(本訴被告兼反訴原告)
株式会社エムシー研究所
訴訟代理人弁護士片岡義夫
主文
本件控訴及び附帯控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とし,附帯控訴費用は附帯控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴及び附帯控訴の趣旨
1控訴の趣旨
「原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。被控訴人は,控訴人に対し,3238万
9640円を支払え。」との判決及び仮執行宣言
2附帯控訴の趣旨
「原判決中反訴請求に係る部分を次のとおり変更する。附帯被控訴人は,附帯控
訴人に対し,1000万円及びこれに対する平成22年8月20日から支払済みま
で年5分の割合による金員を支払え。」との判決並びに仮執行宣言
第2事案の概要
1本訴被告兼反訴原告(以下「被告」という。)の元取締役である本訴原告兼反
訴被告(以下「原告」という。)は,発明の名称を「血液フィルタおよび血液検査方
法並びに血液検査装置」とする特許権(第2685544号,本件特許権1)の共
有持分の譲渡残代金400万円及び名称を「血液回路及びこれを用いた血液測定装
置及び血液測定方法」とする特許発明(第2532707号,本件発明2)の実施
料2838万9640円の合計3238万9640円の支払を被告に求めた(本訴
請求)。
これに対し,被告は,反訴として,原告が被告の取引先等に対して電子メールを
送信する等して被告の名誉を毀損し,製品の売上げが減少する財産的損害(営業上
の損害)を被った旨主張して,不法行為に基づく損害賠償として,営業上の損害1
900万円及び弁護士費用相当額の損害100万円の合計2000万円並びにこれ
らに対する遅延損害金の支払を原告に求めた。
原告の譲渡残代金請求は,本件特許権1の原告の共有持分を代金900万円で被
告に譲渡し,うち500万円を被告が原告に先払し,後日原告に残金400万円を
支払うとの合意が成立したことを前提とするものであるが,原審は,この合意がさ
れた事実を認めるに足りる証拠はないとして,原告の譲渡残代金請求を棄却すると
ともに,被告装置は本件発明2の技術的範囲に属しないとして,原告の未払実施料
の請求を棄却した。また,原審は,原告による電子メールの送信行為の一部及びイ
ンターネット・ホームページへの書込み行為は,被告に対する名誉毀損行為に当た
り,摘示された事実が真実であることを認めるに足りる証拠がないとしたものの,
被告の財産的損害(営業上の損害)との間に相当因果関係があるとは認められない
として,被告の反訴請求を棄却した。
2争いのない事実等は原判決「事実及び理由」中の第2の2に記載のとおりで
あり,争点は同第2の3のとおりである。なお,被告は附帯控訴において,不法行
為の損害として慰謝料1000万円の損害賠償請求に変更した。原告はこの変更は
許されないとして争っている。
第3当事者の主張
当事者の主張は,次のとおり付加するほか,原判決「事実及び理由」中の「第3
争点に関する当事者の主張」に記載のとおりである。
1原審争点に係る追加主張
(1)譲渡代金を900万円とする譲渡合意の成否(争点1)
【原告の主張】
原告のみならず被告や株式会社日立製作所(日立。原告と共に本件特許権1の元
共有者)も,本件特許権1の原告の共有持分の譲渡代金額と被告の共有持分の譲渡
代金額が等しくあるべきものと認識していたのであって,日立が被告との間で日立
の上記共有持分の譲渡代金額を900万円と定めた時点で,原告の上記共有持分の
譲渡代金額も900万円に定まった。
被告は原告に対し,日立の共有持分の譲渡代金額よりも低い代金額で原告から共
有持分の譲渡を受けたい等と説明しなかったし,原審の審理の途中で,原告の共有
持分の譲渡代金額につき,当初500万円と主張していたのをその後500万円及
びストックオプション100個と変遷させていることにも照らすと,原告が被告と
の間で原告の上記共有持分の譲渡代金額を900万円とする旨の合意をした事実は
疑いようがない。
(2)実施料請求権の存否(争点2)
【原告の主張】
本件訴訟の前の時点では,被告も被告装置で用いられるチップが本件発明2を実
施するものであると認めており,本件発明2の実施料として原告に対し200万円
を支払った。また,上記の実施料が本件発明1の実施の対価であることにつき被告
は何ら証拠を示していない。したがって,被告装置が本件発明2の技術的範囲に含
まれることは明らかである。
また,被告装置で用いられるチップは「大きな流路に対し略直交方向に微細な溝
を形成することで,血液試料の一部のみを大きな流路から微細な溝に導く方式」を
採用していることは紛れもない事実であるところ,かかる方式は本件発明2で初め
て実現したものである。そして,本件発明2の目的を達成するのに,一つの窪みに
流入口と流出口の双方が設けられている必要も,流入口と流出口の双方がある窪み
が複数同一基板に設けられている必要もなく,これらの構成を欠いているからとい
って,本件発明2の技術的範囲に属しなくなるわけではない。
2当審争点に係る主張
(1)被告による慰謝料の追加請求が著しく訴訟手続を遅滞させるか否か(本案
前の主張)
【原告(附帯被控訴人)の主張】
被告は,原審で,原判決別紙「メール等一覧」記載1の文章の電子メールの送信
行為及び同別紙記載2の文章のインターネット・ホームページへの書込み行為の不
法行為により,1億円を下らない非財産的損害を被ったとし,うち一部の賠償を求
める旨の準備書面を提出したが,その後に取り下げた。被告の慰謝料の追加請求は,
訴訟の完結を遅延させることのみを目的とし,濫用的なものであることが明らかで
あるから,許されない。
【被告(附帯控訴人)の主張】
争う。
(2)慰謝料の有無及び額(本案の主張)
【被告(附帯控訴人)の主張】
原判決別紙「メール等一覧」記載1の文章の電子メールの送信行為及び同別紙記
載2の文章のインターネット・ホームページへの書込み行為の不法行為により,被
告は法人としての名誉権を侵害された。被告が受けた無形の損害を金銭に見積もる
ときは1000万円を下らない。
【原告(附帯被控訴人)の主張】
否認ないし争う。
第4当裁判所の判断
1本訴請求について
(1)本件特許権1の譲渡残代金の請求について
当裁判所も,本件特許権1の譲渡代金に関する本件合意が成立し,残代金が40
0万円であるとの原告主張事実を認めるに足りる証拠はないから,原告の被告に対
する本件特許権1の譲渡残代金の請求は理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり付加して判断するほか,原判決「事実及び理由」中の「第
4当裁判所の判断」の1(1)記載のとおりである。
ア原告が前記のとおり原判決認定について主張するところにかんがみて判
断するに,原告が最終的に被告との間で,本件特許権1の原告の共有持分の譲渡代
金額と日立の共有持分の譲渡代金額を等しくすることを合意した事実を認めるに足
りる証拠はないし,原審における被告代表者本人尋問の結果(調書1頁)に照らせ
ば,持分割合が等しいにもかかわらず,日立が特許取得等に要する費用を負担して
いたことを勘案して,原告の共有持分の譲渡代金額と日立の共有持分の譲渡代金額
とを異ならせることにしたことが認められ,かかる措置にも合理性があるから,原
告の上記主張はその前提を欠き,原判決認定を左右するものではない。
イ前記アのほか,原告が当審において本件合意の成立につき主張するとこ
ろをもってしても,原判決の認定判断を左右するものではない。
(2)本件特許権2の実施料の請求について
当裁判所も,被告装置は本件発明2の技術的範囲に属しないから,本件特許権2
にかかる原告の未払実施料の請求は理由がないものと判断する。
その理由は,次のとおり付加して判断するほか,原判決「事実及び理由」中の「第
4当裁判所の判断」の1(2)記載のとおりである。
ア原告は,本件訴訟の前の時点の被告の対応に基づき,被告装置が本件発
明2の技術的範囲に含まれることは明らかであると主張する。
しかしながら,被告が原告に対し何らかの対価を支払った事実があるとしても,
本件で請求されているのは,被告装置(原判決6頁(5))の製造販売が本件発明2の
実施に当たることについての実施料である。この点を上記のとおり認めることがで
きない以上,原告の上記主張をもってしても,被告に,原告主張の実施料支払義務
を認めることはできない。
イまた,原告は,被告装置で用いられるチップは「大きな流路に対し略直
交方向に微細な溝を形成することで,血液試料の一部のみを大きな流路から微細な
溝に導く方式」を採用しているし,本件発明2の目的を達成するのに,一つの窪み
に流入口と流出口の双方が設けられている必要等はなく,これらの構成を欠いてい
るからといって,本件発明2の技術的範囲に属しなくなるわけではないなどと主張
する。
しかしながら,原判決が認定判断するとおり(32~40頁),本件発明2の特許
請求の範囲には,「前記流入口と流出口とを結ぶ直線に対しほぼ直交する方向におい
て,窪み相互を連通する微小な溝を有してなる・・・」との構成が記載されている
だけでなく,「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪みを複数個並列配
置し,」との構成が記載されて発明が特定されていることは明らかであって,後者の
構成は本件発明2にいう「窪み」の一つずつが「流入口」と「流出口」の双方を備
えることを要求するものである。
したがって,被告製品は本件発明2の技術的範囲に属するものではなく,原告の
上記主張は特許請求の範囲の記載に基づかない失当なものというべきである。
(3)結局,原告の本訴請求はいずれも理由がなく,これらを棄却した原判決は
相当であるから,原告の本件控訴は棄却すべきである。
2反訴請求について
被告は,反訴状では売上げ減少分及び弁護士費用相当額の損害を原告による電子
メールの送信等の不法行為に基づく損害として主張し,その後の準備書面(平成2
2年5月12日付け,7月23日付け)においても同趣旨の主張を行い,平成22
年7月23日の第6回弁論準備手続期日において「反訴請求において,慰謝料等の
非財産的損害の請求はしない。」と述べていたものであったところ,弁論準備手続終
了後の平成22年8月6日に至り上記不法行為に基づく損害として非財産的損害1
900万円(1億円のうちの一部請求)を追加する旨の準備書面を裁判所に提出し
たものの,その後の弁論期日でこの準備書面に基づく主張をしなかった。
このような経緯で原審での被告の請求する損害が財産的なものに絞られたのに,
原判決がこの損害と不法行為との間の因果関係を認めなかったこと,原告からの控
訴提起があったことに応じてされた慰謝料の損害に基づく請求の追加は,訴訟手続
を著しく遅延させるものとして,これを許さないこととする。
そして,被告は財産的損害賠償請求を棄却した原判決に対して不服を申し立てて
いないから(被告の附帯控訴状には,財産的損害についての請求を取り下げる趣旨
の記載があるが,その点についてはそもそも附帯控訴の対象となっていない。),附
帯控訴は理由がなく,棄却すべきである。
第5結論
よって,主文のとおり判決する。
知的財産高等裁判所第2部
裁判長裁判官
塩月秀平
裁判官
真辺朋子
裁判官
田邉実

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