弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、記録に編綴してある弁護人阿久根幸吉作成名義の控訴趣意書
に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。
 控訴趣意第一点の(1)について。
 論旨は、原判示第二の(2)ないし(4)の各事実につき事実誤認を主張し、右
判示の各株券は、名義書換のために預り保管していたものではなく、各顧客から信
用取引のための保証金代用証券として差入れを受けていたものである、というので
ある。
 しかしながら、原判決挙示の関係各証拠を綜合すれば、被告人は、A株式会社の
代表取締役として、右各株券を、原判示のように、名義書換等のため預り保管して
いたものであることが認められ、記録を精査しても右認定を左右するほどの証拠が
ないから、原判決の右認定に誤認はない。(なお、仮りに所論のとおりであつたと
しても、本件が業務上横領罪を構成することは後述するところにより明らかであ
る。)論旨は理由がない。
 控訴趣意第一点の(2)について。
 論旨は、要するに、原判示第二の各事実につき事実誤認を主張し、被告人は、原
判示のように、各株券を他に売却又は現引株として交付したけれども、同銘柄同数
量の株券を買戻して返還する意思を持つていたのであつて、不法に領得する意思は
なかつた、というのである。
 よつて按ずるに、不法領得の意思とは、権利者を排除して、他人の物を自己の所
有物と同様にそのものとして利用し、又は処分する意思をいうのであるから、被告
人が、原判示のように、会社の経営資金に窮した結果、顧客より預り保管していた
株券を勝手に他に売却又は現引株として交付した以上、たとえ後日同銘柄同数量の
株券を買戻して返還する意思であつたとしても、(それは被害弁償の意思に過ぎな
い)すなわち不法領得の意思があつたものというべきである。のみならず、原判決
が説示する如く、関係証拠によると、被告人はいわゆる自転車操業的に本件各株券
を処分したものであることが認められるから、被告人に不法領得の意思があつたこ
とはいつそう明らかであつて、原判決がこの点に関する原審弁護人の主張を排斥し
たのは相当であり、原判決には所論のような誤認はない。論旨は理由がない。
 控訴趣意第二点について。
 論旨は、要するに、原判示第二の各事実につき事実誤認を主張し、保証金代用証
券の授受は消費寄託と解すべきであるのみならず、被告人は、各顧客より証券取引
法五一条に定める同意書のほか信用取引約諾書を徴していたのであるから、原判示
各株券を処分する正当の権限があつたものというべきであつて、これを他に売却又
は現引株として交付しても、横領罪を構成することはない、というのである。
 よつて按ずるに、原判示第二の(2)ないし(4)判示の各株券は、先きに認定
したとおり、被告人が顧客より名義書換等のため預り保管していたものであるか
ら、被告人が原判示のようにこれを勝手に他に売却又は現引株として交付した以
上、委託の趣旨に反し、その所為が業務上横領罪を構成することは明らかである。
そこで、所論の指摘する被告人が保証金代用証券を預り保管中売却した原判示第二
の(1)の所為か横領罪を構成するか否か<要旨>について審按する。思うに、保証
金代用証券は、証券業者が顧客の委託に基づき有価証券市場における信用取
引(売買取引の委託の媒介、取次、代理を含む)をなすに当り、その取引の代金債
権又は取引により生じる損害金請求権を担保するため保証金の代用として預託され
るものであるから、右預託は根担保質権の設定であると解すべきであつて、顧客の
大衆性に鑑み顧客の利益を保護するため証券業者を規制する趣旨で制定されたとみ
られる証券取引法五一条一項二項の法意に徴しても、右預託を消費寄託であると解
しうる余地はない。又所論の信用取引約諾書にしても、その条項を前後関連させて
通読すれば、顧客はその代用証券を証券業者において売却することの同意までは与
えていないことが明らかである。さすれば、被告人が、原判示のように、会社の経
営資金に窮した結果、顧客より代用証券として預つた原判示の各株券を勝手に他に
売却するが如きは、委託の本旨に背く権限外の行為に属し、その行為は業務上横領
罪を構成するものというべきである。この点に関する原審弁護人の主張に対する原
判決の判断は、明確を欠く嫌いがあるが、原判決が右主張を排斥したのは結局相当
であつて、原判決には所論のような誤認はない。なお、所論は、代用証券の預託が
消費寄託であるとの前提の下に原判示第三ないし第五の各事実につき詐欺罪を構成
しない旨主張しているものの如くであるが、その主張が失当であることは右により
自ら明らかである。論旨は理由がない。
 控訴趣意第三点について。
 論旨は、要するに、原判示第三ないし第五の各事業につき事実誤認を主張し、A
株式会社は、従前の母店であつたB株式会社が倒産したため、同会社を介しては信
用取引の媒介、取次業務をなし得なくなったとはいえ、C取引所の会員であるD株
式会社との契約により、本件当時、同会社を母店として右業務を再開し得る可能性
があつたのであるから、被告人が原判示のように各株券を代用証券として差入れさ
せたとしても、顧客を欺罔する意思はなかつた、というのである。
 よつて按ずるに、原判決挙示の関係各証拠を綜合すれば、原判示第三の冒頭記載
の如く、A株式会社においては、昭和三五年九月一日以降は、証券取引所のいずれ
の会員を介しても信用取引の媒介、取次、代理等の業務を全面的にしていなかつた
事実が認められるほか、これを再開する見透しさえ立たない状態であつたことが認
められる。又、代用証券は、前段記載のように、顧客が信用取引をなすため担保に
供するものであるから、証券業者が全面的に信用取引業務を取扱つていなければ、
顧客は、取引の注文もしないであろうし、まして代用証券を差入れるいわれもな
い。以上のことを併せ考えると、被告人があえて原判示の如き所為に出ている以
上、被告人には欺罔意思があつたものといわなければならない。従つて、原判決が
この点に関する原審弁護人の主張を排斥したのは相当であり、原判決には所論のよ
うな誤認はない。論旨は理由がない。
 控訴趣意第四点について。
 論旨は、原判決の量刑不当を主張し、被告人に対しては刑の執行を猶予するのが
相当であるというのである。
 よつて記録を精査して按ずるに、本件各犯行の罪質、態様、殊に被害者が多数で
あつて被害も多額であること、被告人が阪神方面から高知市方面に眼をつけ同市に
証券会社を設立した動機において既に不純なものがあり、本件はこれによる当然の
帰結であつたといえないこともないこと、被害弁償が被害の三割五分程度に止まつ
ていること等記録に現われた諸般の情状を考慮すると、所論の事情をしん酌して
も、原判決の量刑が過重であるとは言い難い。論旨は理由がない。
 よつて、刑訴三九六条一八一条一項本文により、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官 加藤謙二 裁判官 木原繁季 裁判官 加藤龍雄)

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