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平成14年(ワ)第4175号 所有権移転登記抹消登記手続等請求事件
口頭弁論終結日 平成16年10月28日
主文
1 被告は,別紙物件目録記載1ないし17,19ないし72,74ないし89及び92ないし1
97の各不動産について別紙登記目録記載1の所有権移転登記の抹消登記手続,同物
件目録記載18の不動産について同登記目録記載2の所有権移転登記の抹消登記手
続,同物件目録記載73の不動産について同登記目録記載3の所有権移転登記の抹消
登記手続をそれぞれせよ。
2 被告と訴外Aが同物件目録記載の不動産及び別紙什器備品目録記載の動産につ
いて平成14年5月29日に締結した贈与契約のうち,同物件目録記載90及び91の不
動産に係る贈与が無効であることを確認する。
3 被告は,上記訴外Aに対し,同什器備品目録番号2,3及び11ないし17記載の動産
をいずれも引き渡せ。
4 原告らのその余の請求を棄却する。
5 訴訟費用は被告の負担とする。
6 この判決は,3項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
(主位的請求)
1 主文1項に同旨。
2 主文2項に同旨。
3 被告は,訴外Aに対し,別紙什器備品目録記載の動産(以下「本件什器備品」とい
う。)を引き渡せ。
4 3項につき,仮執行宣言
(予備的請求)
1 被告と訴外Aが別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)及び本件
什器備品について平成14年5月29日に締結した贈与契約(以下「本件贈与」とい
う。)を取り消す。
2 主位的請求1項に同旨
3 主位的請求3項に同旨
4 3項につき,仮執行宣言
第2 事案の概要
本件は,本件贈与に関連して,訴外Aの運営する預託金会員制のゴルフクラブ「訴外A
倶楽部」(以下「訴外A倶楽部」という。)の会員である原告らが,被告に対し,(a)主位的
には,①訴外Aに対する預託金債権を被保全債権として訴外Aに代位し,訴外Aの所有
権に基づき,本件不動産について本件贈与を原因として被告への所有権移転登記の抹
消登記手続及び本件什器備品の引渡しを求めるとともに(債権者代位訴訟),②本件贈
与の一部無効確認を求め,(b)予備的には,本件贈与が上記預託金債権に対する詐害
行為に当たるとして,詐害行為取消権に基づき,本件贈与の取消しを求めるとともに,
上記所有権移転登記の抹消登記手続及び本件什器備品の引渡しを求めた(詐害行為
取消訴訟)事案である。
1 前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨によって容易に認定でき
る事実)
(1) 当事者
原告らは,本件贈与に先立ち,訴外Aに対し,それぞれ以下の金員を預託して訴外A倶
楽部に入会した会員であって,被告は,ゴルフ場の経営等を目的とする株式会社である
(争いのない事実)。
原告名  預託金額
B   700万円
C400万円
D400万円
E 500万円
F400万円
G1200万円
H1200万円
I700万円
J500万円
K500万円
L1200万円
(2) 事実経過
ア 平成3年5月21日,訴外Aは,本件不動産ほかの不動産をゴルフ場の敷地やクラブ
ハウス等として(以下,このゴルフ場のことを「本件ゴルフ場」という。),訴外A倶楽部の
運営を開始した。
イ 平成13年5月1日付けで,訴外Aは,被告に対し,被告に対する3億円の借受金の
返済に代えるとして,訴外A倶楽部の営業権及び本件什器備品を含む本件ゴルフ場に
関連する一切の動産を譲渡した(以下「本件営業権譲渡」という。甲5号証)。
ウ 同年9月付けで,被告は,訴外A倶楽部の会員に対して「組織変更のお知らせ」と題
する書面を交付し,被告が同年5月1日に訴外Aから訴外A倶楽部の営業権を譲り受
け,訴外Aに代わって訴外A倶楽部を運営することになった旨通知した(乙13号証の
1)。
エ 平成14年5月24日,被告は,津簡易裁判所に対し,被告と訴外Aとの間で,訴外A
が被告に対して訴外A倶楽部の営業権並びにこれに関連する不動産及び什器備品を
売り渡す旨の合意ができたとして,民事訴訟法275条に基づき,訴外Aを相手方とする
和解を申し立てた(同庁平成14年(イ)第11号事件。乙1号証)。
オ(ア) 同月29日,訴外Aは,被告に対し,訴外Aが所有していた本件不動産及び本件
什器備品を贈与するとともに,これに基づき,被告に対し,本件不動産及び本件什器備
品を引き渡した(争いのない事実)。
(イ) 同日受付で,本件不動産(ただし,別紙物件目録記載90及び91の不動産を除く。
なお,以下,同目録記載の不動産をそれぞれ「物件1」などと表示する。)について,同
日贈与を原因とする被告への所有権移転登記がされた(争いのない事実)。
カ 同月31日,訴外Aと被告は,本件営業権譲渡を解約した。
キ 同年6月6日,被告と訴外Aとの間で,訴外Aが被告に対して訴外A倶楽部の営業権
並びにこれに関連する不動産び什器備品を贈与する旨の裁判上の和解が成立した(以
下「本件和解」という。乙2号証)。
ク 同年10月8日,被告は,本件ゴルフ場において,ゴルフクラブ「M」の営業を開始し
た(乙3号証)。平成16年5月15日時点におけるMの会員数は1198名である(乙44
号証)。
ケ 平成14年11月13日,訴外Aの代表取締役であったNは,「Nは,訴外Aの預託金
債権者から訴外A所有の現金その他の動産が強制執行を受けるのを免れる目的で,被
告の実質的経営者であったOと共謀の上,平成13年5月16日ころ,訴外Aと被告との
間には金銭貸借がないにもかかわらず,訴外Aが被告から3億円を借り受け,これを返
済しなければ訴外A倶楽部の営業権及びこれに関連する什器備品を被告に譲渡する旨
の内容虚偽の金銭借用証書(以下「本件借用証書」という。甲5号証)を作成した上,強
制執行のために訴外A倶楽部を訪れた執行官に対して本件借用証書を示して,訴外A
倶楽部の営業権等を訴外Aから被告に譲渡した旨申し立て,もって強制執行を免れる
目的で財産を仮装譲渡した。」旨の公訴事実で名古屋地方裁判所に起訴され,平成15
年3月17日,上記公訴事実による強制執行妨害罪並びに公正証書原本不実記載及び
同行使罪により,懲役2年,執行猶予3年の判決を宣告された(同庁平成14年(わ)第2
777号。甲7号証及び8号証)。
(3) 登記
ア 本件不動産のうち,物件1ないし17,19ないし72,74ないし89及び92ないし197
には別紙登記目録記載1の所有権移転登記,物件18には同目録記載2の所有権移転
登記,物件73には同目録記載3の所有権移転登記がされている(争いのない事実)。
イ また,本件不動産(ただし,物件6ないし8,90及び91を除く。)には,別紙抵当権目
録記載①ないし⑤の抵当権が別紙抵当権一覧表の各抵当権目録欄記載のとおり設定
されている(争いのない事実)。
(4) 訴外Aの資産
本件贈与当時,訴外Aには,本件不動産及び本件什器備品以外に何ら資産がなく,現
在も,原告らの預託金債権を満足させるに足りる財産はない(争いのない事実)。
2 争点及び争点に対する当事者の主張
(1) 主位的請求
(原告らの主張)
ア 本件什器備品の占有について
被告は,本件什器備品を占有している。
イ 本件贈与について
本件贈与は,訴外Aと被告が通謀の上でした虚偽表示である。
(ア) Nは,平成13年5月16日ころ,訴外Aの預託金債権者による売上金や動産等に対
する強制執行から逃れるために,Oと共謀して,本件営業権譲渡を仮装し,訴外A倶楽
部の営業主体が被告であるかのように装った。
しかし,被告は,訴外A倶楽部の名称をそのまま使用して本件ゴルフ場の運営を継続し
たために,名称続用等の理由で訴外Aの預託金債権者から預託金の返還請求訴訟を
提起されて相次いで敗訴した。
そこで,被告は,訴外Aの預託金債権者からの追及を逃れるという口実で,本件不動産
について登記名義を訴外Aから被告に移転するとともに,本件ゴルフ場の名称も変更し
たのである。
(イ) このように,被告が本件不動産について登記名義を取得したのは,本件営業権譲
渡を仮装したことに端を発したものであって,訴外Aが被告に対して本件不動産を真に
贈与する理由は何ら見いだすことができないから,本件贈与は実体のない仮装譲渡で
あるといわざるを得ないものである。
(被告の主張)
ア 本件什器備品の占有について
本件什器備品のうち,別紙什器備品目録番号1及び4ないし10記載のものは平成14
年8月ころ廃棄され,現存していない。
イ 本件贈与について
本件贈与は,虚偽表示ではない。
(ア) Oは,Nの手形債務を裏書人として弁済したことでNに対して求償債権6540万円
を有することになったが,Nには何ら資産がなかったことから,平成13年5月1日,上記
求償債権の対価として訴外A倶楽部の営業権を譲り受けることになった。その際,Oは
被告の実質的な経営者であったことから,上記求償債権を被告に譲渡したことにして,
営業権の譲受人を被告にすることとした。そして,Oが訴外Aの代表取締役に就任する
ことで営業権を譲り受けた。その際,当時,ゴルフ場の営業権を譲渡する場合の相場が
3億円くらいであったことから,第三者から文句を付けられないようにするために,貸金
の額を3億円とする本件借用証書を作成したのである。
したがって,本件営業権譲渡は仮装譲渡ではない。この点,Oは,前記刑事事件の捜査
段階において,本件営業権譲渡が仮装である旨自白しているが,これは,刑事手続から
速やかに解放されることを望むあまりに虚偽の自白をしたものである。
(イ) その後,被告は,名称続用を理由とした預託金返還訴訟に相次いで敗訴したことを
契機に,抜本的に本件ゴルフ場の経営を立て直すこととしたが,そのためには,本件不
動産の所有権を取得した上で,ゴルフ場を改修し,本件不動産に設定された担保権の
問題を解決することが必要だったのである。その際,訴外Aと被告は,本件不動産の譲
渡に関して,本件贈与のほか本件和解もしているが,これは,被告が贈与契約の成立と
所有権の移転登記を急いだために,当事者間で合意に達した時点で口頭により贈与契
約を成立させた上,訴外Aと被告との間で後日紛争が起きることを避けるべく,本件贈
与を確認するために和解手続を利用したものである。
(ウ) このように,被告代表者及び訴外A代表者には,本件ゴルフ場を再建するために,
本件不動産を経営手腕の優れた被告へ譲渡するとの内心が存在したのである。
そして,本件贈与後,被告は,自己の名義,計算で本件ゴルフ場を経営しており,多額
の設備投資をしているのである。
(2) 予備的請求
(原告らの主張)
ア 詐害性
仮に,本件贈与が虚偽表示ではないとしても,詐害行為に該当するものである。
確かに,本件不動産にはその時価評価額を超える額の債権を被担保債権とする抵当
権が設定されており,競売になれば余剰価値はない。しかし,本件ゴルフ場の経営自体
からは収益をあげることができ,その収益から債権者に対してある程度の配当をするこ
とが可能である。
被告は,本件和解において,被告が本件不動産に付されている抵当権の抵当権者に対
し,訴外Aの負担する残債務を弁済するとの合意をしたことをもって,抵当権者の債権
回収により訴外Aの財産が減少することはない旨主張する。しかし,本件和解は偽装工
作にすぎないし,被告は債務引受をしたわけでもない。仮に,本件和解の内容どおりだ
ったとしても,本件ゴルフ場の収益により債権者の債権回収方法が認められる以上は,
責任財産の減少があるといわざるを得ない。
イ 受益者の善意
被告には本件贈与が詐害行為に当たるとの認識がなかった旨の被告の主張は争う。被
告は,本件贈与当時,訴外Aが本件不動産及び本件ゴルフ場施設内の什器備品以外
に何ら資産を有しないことを知っており,かつ,訴外A倶楽部の多数の会員から預託金
の返還請求を受けていたことも知っていたから,本件不動産やその什器備品を訴外Aか
ら無償で譲渡されれば,訴外Aの債権者の権利を害することを十分知っていたというべ
きである。
(被告の主張)
ア 詐害性
本件贈与は詐害行為に該当しない。
(ア) 本件不動産を全体として見ても,各部分を個別に見ても,本件不動産の評価額以
上の額の債権を被担保債権とする担保権が設定されていることは明らかであるから,売
却によって余剰を生じる余地はなく,本件不動産が一般債権者に対する責任財産を構
成することはない。また,詐害性は当該行為の時点で判断すべきであるから,将来の営
業収益などというものを判断材料にすることはできないというべきである。仮に,これを
判断材料にしたとしても,本件では,訴外Aに営業収益が出るような状況ではなかった。
なお,本件不動産に付された抵当権の抵当権者が抵当権を実行しないで,訴外Aから
債権回収すると,その責任財産が減少することになるが,本件和解において,被告が上
記抵当権者に対し,訴外Aの負担する残債務の弁済をするとの合意をしているから,抵
当権者によって訴外Aの責任財産が減少させられることはない。
(イ) 本件什器備品についても,資産価値は皆無であるから,詐害行為の対象にはなら
ない。
イ 受益者の善意
被告には,本件贈与によって訴外Aの責任財産が減少するとの認識がないのだから,
本件贈与が詐害行為に当たるとの認識もない。
ウ 取消しの範囲
仮に本件贈与が詐害行為に当たるとしても,原告らの債権額は総額7700万円である
から,詐害行為取消権の行使は,この範囲に限定されるべきであり,本件贈与の全体を
取り消すことはできない。
第3 当裁判所の判断
1(1) 前掲前提事実,証拠(甲1ないし3号証,5号証,10ないし14号証,16号証,18
号証,乙1ないし3号証,11号証の1,13号証の1,16号証,17号証の1ないし7,18
号証の1)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。
ア(ア) 訴外Aは,Nがゴルフ場営業を目的として父親から資金援助を受けて昭和48年1
月31日にP株式会社を設立し,昭和62年ころ,本件ゴルフ場の開発を開始するに際し
て商号変更したものであって,Nの父親が代表取締役,Nが専務取締役に就任してい
た。
(イ) 一方,被告は,Oが衛星放送の受信機等の製造,販売などを目的として,平成12
年2月21日に設立したものであって,Oが被告の実質的な経営者であった。
イ 訴外Aは,コース造成に約170億円,クラブハウス等の建設に約18億円,ゴルフ場
用地の買収に約40億円など,計約240億円をかけて本件ゴルフ場を開発した。
ウ これに並行して,訴外Aは,昭和62年10月ころから会員の募集を開始し,平成3年
5月ころまでに,会員数は約2800名になった。なお,訴外Aは,会員募集に当たって,
ゴルフ場の開場後10年間据え置くとの約定で会員から会員資格保証金を預かり,預託
金の総額は約260億円になったが,そのほとんどがゴルフ場の開発費に充てられた。
エ 訴外Aは,同年5月21日,本件ゴルフ場を正式に開場し,訴外A倶楽部の運営を開
始した(したがって,預託金の返還期限は平成13年5月21日になる。)。なお,訴外Aの
当時の代表取締役はNであり,その他の取締役及び監査役もNの血縁者であった。
オ その後,訴外Aは,平成7年ころから売上げが減少したことに加えて,金融機関から
の借受金の返済や経費などの支出のために,平成10年ころには資金繰りに窮するよう
になった。
カ そのため,訴外Aは,平成12年暮れころから平成13年初めにかけて,訴外Aが約
定の返還期限に預託金を返還することが期待できないとの理由で,訴外Aの預託金債
権者から預託金返還請求訴訟を相次いで提起され,次々とこれに敗訴した。
キ そこで,Nが同年3月下旬ころ,知人であったOに善後策を相談したところ,Oの発案
で,Oが訴外Aの代表取締役に就任して会員からの預託金の返還請求に対応すること
となり,Oは,同年5月1日,訴外Aの取締役及び代表取締役に就任した(同年6月15日
就任登記)。
ク しかし,執行官が同年5月1日に本件ゴルフ場へ強制執行のために訪れたという事
態を受けて,Nが同月15日,Oに善後策を相談したところ,訴外A倶楽部の営業権とこ
れに関連する什器備品を借金の返済に代えて譲渡したことにして強制執行を免れるし
かないと言われたことから,Oとの間で,真実譲渡する意思がないにもかかわらず,訴
外Aから被告へ訴外A倶楽部の営業権等を譲渡することを仮装する旨合意し,そのため
に必要な書類の作成をOに依頼した。
ケ(ア) そこで,Oは,同月16日ころ,訴外Aが同年2月1日,同年4月末日を支払期日と
して被告から3億円を借り受けたとする旨の本件借用証書を作成した。本件借用証書に
は,以下の特約が付された旨記載されている。
(a) 支払期日までに借受金を返済しなければ,訴外Aは訴外A倶楽部の営業権及びこ
れに関連する什器備品を被告に譲渡する。
(b) 前項の譲渡に伴い,
① 訴外Aは訴外Aが契約しているX組合との賃貸借契約を解除し,新たに,被告がX組
合と賃貸借契約を締結する。
② 被告と訴外Aは,訴外A所有の土地建物につき賃貸借契約を締結する。
(イ) また,Oは,つじつまを合わせるために,訴外Aの従業員に指示して,訴外Aが被告
から3億円を借り受けた旨の伝票を作成させ,平成13年3月期(平成12年4月1日から
平成13年3月31日まで)の決算報告書にもその旨記載させた。
コ Oは,同年5月末ころ,Nが訴外Aに残っていると訴外Aの債権者からの追及を逃れ
ることができないとの理由で,Nに訴外Aの取締役及び代表取締役を辞任させた(同年6
月15日辞任登記)。
サ その後,被告は,同年6月2日にゴルフ場経営等を設立目的に加え(同月25日変更
登記),同年7月16日には訴外A倶楽部事業部を設置すると,同月中に計4回,訴外A
倶楽部の会員を対象に説明会を開催し,以後,訴外Aからそっくり営業を引き継ぐ形で
訴外A倶楽部の運営を開始し,同年10月には,三重県内で一番多い入場者数を記録
するようになった。
シ しかし,被告は,同年12月ころから,訴外Aの預託金債権者から,被告が訴外A倶
楽部の名称を使用して本件ゴルフ場を運営していることなどを理由とする預託金返還訴
訟を相次いで提起され,平成14年4月ころ以降,相次いでこれに敗訴した。
ス 一方,訴外Aは,同年5月ころには,いずれも本件不動産に付された抵当権の抵当
権者である,株式会社Qに対して約6000万円,株式会社Rに対して約2000万円,株
式会社Sに対して約11億円,株式会社T及び株式会社Uに対して合わせて約38億円
の計約49億8000万円の債務を負っていたが,本件営業権譲渡を仮装したことによっ
て,名目上,本件不動産以外に資産はなかった。
セ 同年5月ころ,Nが訴外Aの代表取締役に就任し,被告に対して訴外A倶楽部の営
業権を訴外Aに返還して,同倶楽部から撤退するよう要求すると,被告は,同月24日,
津簡易裁判所に対し,被告と訴外Aとの間で以下の条項などを内容とする和解を成立さ
せることを目的として,民事訴訟法275条に基づく和解を申し立てた。
① 訴外Aは,被告に対し,訴外A倶楽部の営業権並びにこれに関連する土地建物及
び什器備品を代金12億円で売り渡す。
② 訴外Aは,被告に対し,同月31日限り,前項の代金が支払われるのと引き換えに,
前項の土地建物につき所有権移転登記手続をする。
③ 被告は,上記売買に際し,訴外A倶楽部の名称及び預託金の返還請求権を有する
会員に対する債権債務を一切引き継がないものとする。
④ 訴外Aは,上記代金をもって上記土地建物に付された抵当権付き債務の弁済をす
る。
ソ しかし,訴外A代表者Nと被告代表者Vは,平成14年5月29日,両者の間で本件不
動産につき贈与契約が成立したとして,贈与を原因とする所有権移転登記を申請し,同
日受付で,同日贈与を原因として本件不動産につき前掲前提事実(3)アのとおりの被告
への所有権移転登記がされた。
タ さらに,訴外A代表者Nと被告代表者Vは,同年6月6日,上記和解の申立てに係る
和解期日に出頭した上,下記の条項などを内容とする和解を成立させた。
(a) 訴外Aは,被告に対し,同日,次の財産を贈与する。
① 本件不動産及び本件什器備品等本件ゴルフ場に関連する一切の動産
② 本件ゴルフ場の営業に関する一切の権利(ただし,訴外A倶楽部の名称及び同倶
楽部の会員に対する債権債務を除く。)
(b) 訴外Aは,被告に対し,同月10日限り,本件不動産につき所有権移転登記手続を
するとともに,本件不動産及び前項①に係る動産を引き渡す。
(c) 被告は,本件不動産に付されている抵当権付き債務の,同月6日時点における残
額を訴外Aに代わって弁済する。
(2)ア 上記認定事実キないしケについて,被告は,本件営業権譲渡が仮装譲渡である
ことを争い,被告がOのNに対する求償債権の返済に代えて訴外A倶楽部の営業権を
譲り受けた旨主張し,O及び被告代表者Vは,その旨述べている(乙3号証,36号証,4
1号証,証人O悟)が,その内容は,結局のところ,OがNとの間で,訴外Aの代表取締
役に就任し,訴外A倶楽部を運営する旨合意したことを述べるにすぎないものと解され
るところであり(Oも被告代表者Vも,この合意を「営業権の譲渡」という言葉で表現して
いるにすぎない。),同人らの供述によっても,被告が訴外A倶楽部の営業権を訴外Aか
ら譲り受けたと認めることはできない。
イ そして,本件借用証書においては,本件営業権譲渡に伴い,被告がX組合及び訴外
Aとの間で,本件ゴルフ場の敷地等について賃貸借契約を締結する旨の特約を定めて
いるにもかかわらず,前者との間では平成14年4月1日に至るまで賃貸借契約を締結
しておらず(乙12号証の1),後者との間では,結局本件贈与によって被告が本件不動
産を取得したとされるまで賃貸借契約を締結した事実を認めることができないこと,上記
求償債権が存したことを裏付ける客観的な証拠が何ら提出されていないこと,本件営業
権譲渡の証拠として被告が提出した営業譲渡契約書(乙26号証)には,訴外A代表者
N名義の記名はあるものの押印がされていないこと,被告の株主総会において本件営
業権譲渡の承認決議がされた旨の臨時株主総会議事録は当時の被告代表取締役で
あったWに無断で作成されたものであること(甲14号証)等の事情を考慮すると,真実
被告がOのNに対する求償債権の返済に代えて訴外A倶楽部の営業権を譲り受けたも
のとは認めることができず,他に上記認定事実キないしケを覆すに足りる証拠はない。
2(1) そこで検討するに,上記認定事実によれば,そもそも本件は,訴外A代表者Nと被
告の実質的な経営者であるOが訴外Aの預託金債権者からの追及を免れるために本件
営業権譲渡を仮装したことに端を発したものであるところ,本件贈与当時,本件営業権
譲渡を仮装したことによって,今度は,被告の保管する現金や訴外A倶楽部に関連する
什器備品などに対して訴外Aの預託金債権者から強制執行されるおそれが生じていた
ものと認められる。
そうすると,本件贈与は,被告が訴外Aの預託金債権者からの追及を免れることを目的
にしてされたものといわざるを得ず,真実所有権を移転する目的でされたものとは認め
ることができないから,訴外Aと被告が通謀の上でした虚偽の意思表示であると解する
のが相当である。
(2)ア これに対し,被告は,本件贈与が仮装譲渡であることを争い,本件贈与は真実所
有権を移転する目的でされたものである旨主張し,O及び被告代表者Vは,その旨述べ
ている(乙3号証,36号証,41号証,証人O悟)。
イ(ア) しかし,被告が本件贈与に付随して履行を引き受けたとされる,本件不動産に付
されている抵当権付き債務が現在に至るまで履行されていないことは,被告も認めると
ころである上,履行引受の内容は被告にとって重要な事項であるにもかかわらず,本件
各証拠によっても,本件贈与の時点で訴外Aと被告との間で履行引受の具体的な内容
が話し合われたことはうかがわれず,現在に至っても,被告は,被告経理担当者からの
聴き取りを根拠に,上記債務の額を概数で主張するにとどまり,上記債務に係る契約書
や残額証明書等の客観的な証拠に基づいて具体的な数字を挙げることができない状態
である。
(イ) また,本件贈与を確認するためにしたとされる本件和解には,本件贈与を確認する
条項が存在しない一方で,すでに給付済みの債務について売買を原因とする給付条項
が規定されている上,第三者の所有する動産が贈与の対象にされている。この点に関
する被告の主張は,本件贈与及び本件和解に至る経緯や本件贈与当時の訴外Aの状
況に照らして,いずれも不合理な弁解であるといわざるを得ない。
(ウ) さらに,売買契約の成立を目的にして和解を申し立ててから,その数日後に契約の
内容を贈与に変更するに至った経緯も不自然であるといわざるを得ない。
(エ) これらの事情に加えて,本件においては前記のとおり,本件贈与以前にも,預託金
債権者からの追及を免れるために訴外Aと被告との間で営業権等の譲渡を仮装してい
ること等も考慮すると,O及び被告代表者Vの上記供述によっても,本件贈与が通謀虚
偽表示である旨の上記認定を覆すには足りない。
ウ また,本件ゴルフ場の改装工事費用等,被告が本件贈与後に本件ゴルフ場を運営
するために支出した費用については,真の所有者でなければ支出するはずのない費用
であるとは直ちに認めることができないことに加え,前記認定事実によれば,本件贈与
当時すでに被告が訴外A倶楽部の売上金収入を得ていたことがうかがわれることによる
と,本件贈与が真実所有権を移転する目的でされたものであると認めるには足りず,他
に上記認定を左右する証拠はない。
3 本件什器備品の占有について
被告が本件什器備品のうち,別紙什器備品目録番号2,3及び11ないし17記載のもの
を占有していることは当事者間に争いがなく,同目録番号1及び4ないし10記載のもの
については,被告が占有していると認めるに足りる証拠はない。
4 結論
以上の次第で,原告らの本件主位的請求は主文認容の限度で理由があるからこれを
認容し,その余の請求は理由がないから棄却することとし,訴訟費用の負担につき民事
訴訟法61条,64条ただし書を,仮執行の宣言につき同法259条1項をそれぞれ適用し
て,主文のとおり判決する。
名古屋地方裁判所民事第4部
裁判長裁判官 佐久間邦夫
裁判官倉澤守春
裁判官横山真通
別紙物件目録,別紙什器備品目録,別紙登記目録,別紙抵当権一覧表は省略

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