弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成17年(行ケ)第10280号 特許取消決定取消請求事件
平成17年(行ケ)第10285号 特許取消決定取消請求参加事件
平成17年6月30日判決言渡,平成17年6月2日口頭弁論終結
     判    決
 原 告 JFEミネラル株式会社(旧商号:川鉄鉱業株式会社)
 参加人 JFEケミカル株式会社
 原告及び参加人訴訟代理人弁理士 渡辺望稔,三和晴子,福島弘薫,高見憲,竹
本洋一
 脱退原告 JFEスチール株式会社(旧商号:川崎製鉄株式会社)
 被 告 特許庁長官 小川洋
 指定代理人 酒井美知子,沼澤幸雄,一色由美子,林栄二,大橋信彦,井出英一
郎,柳和子
     主    文
 原告及び参加人の請求を棄却する。
 訴訟費用は,原告及び参加人の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告及び参加人(以下「原告ら」という。)の求めた裁判
 「特許庁が異議2001-73067号事件について平成15年2月19日にし
た異議の決定を取り消す。」との判決。
第2 事案の概要
 本判決においては,書証等を引用する場合を含め,公用文の用字用語例に従って
表記を変えた部分がある。
 本件は,後記本件発明の特許権者である原告らが,特許異議の申立てを受けた特
許庁により本件特許を取り消す旨の決定がされたため,同決定の取消しを求めた事
案である。
 1 特許庁における手続の経緯
 (1) 本件特許(甲3)
 特許権者:本件特許は,平成13年6月8日,特許権者を川崎製鉄株式会社及び
川鉄鉱業株式会社として設定登録された。その後,川崎製鉄株式会社は,JFEス
チール株式会社に商号が変更されたが,平成15年5月19日,参加人に対し同社
の有する持ち分を譲渡し(自らは脱退した。),その旨の登録がなされた(丙
2)。また,川鉄鉱業株式会社は,平成16年7月,商号変更によりJFEミネラ
ル株式会社となった。
 発明の名称:「積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉」
 特許出願日:平成7年3月10日
 設定登録日:平成13年6月8日
 特許番号:第3197454号
 (2) 本件手続
 特許異議事件番号:異議2001-73067号
 異議の決定日:平成15年2月19日
 決定の結論:「特許第3197454号の請求項1ないし2に係る特許を取り消
す。」
 決定謄本送達日:平成15年3月10日(川崎製鉄株式会社及び川鉄鉱業株式会
社に対し)
 2 本件発明の要旨(以下,請求項1及び2記載の発明をいう場合には「本件発
明1及び2」又は単に「本件発明」といい,各請求項記載の発明を個別にいう場合
には,請求項の番号に対応して「本件発明1」などという。)
【請求項1】平均粒径が0.1~1.0μmで,かつタップ密度が(2)式(以下「(2)式」と
いう。)で表される条件を満足し,さらに粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下,かつ
平均結晶子径が平均粒径の0.2倍以上であることを特徴とする積層セラミックコンデ
ンサー用ニッケル超微粉。
 タップ密度≧-2.5×(平均粒径)2
+7.0×(平均粒径)+0.8・・・(2)式
【請求項2】塩化ニッケル蒸気の気相水素還元方法によって製造されたことを特徴
とする請求項1記載の積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉。
 3 決定の要旨
 決定は,本件発明1及び2は,刊行物2(特開平4-365806号公報,本訴
甲5)に記載された発明であるから特許法29条1項(平成11年法律第41号に
よる改正前の特許法29条1項。以下同様。)に違反するとともに,本件明細書の
詳細な説明は実施可能要件を充足していないのであるから,特許法36条4項(平
成6年法律第116号附則6条2項の規定により「なお従前の例による」ものとさ
れる同法による改正前の特許法36条4項。以下同様。)にも違反するとした。 
(1) 特許法29条1項の規定違反について
 ア 刊行物2の記載
 「塩化ニッケル蒸気と水素との化学反応によりニッケル微粉を製造する方法にお
いて,塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ1004℃(1277K)~
1453℃(1726K)の温度で化学反応させることを特徴とする球状ニッケル超微粉の
製造方法。」(特許請求の範囲)
 「【0002】【従来の技術】粒度分布が狭く,平均粒径が0.1~数μmの範囲に
あり,粒子が球状の金属超微粉は,ペースト性状が良好でかつ電子回路の導体形成
に用いたとき,導体部の微細パターン化あるいは薄層化が可能であることから,近
年このような粉末がますます要望されている。
【0003】例えば,積層セラミックスコンデンサーは,セラミックス誘電体と内
部電極とを交互に層状に重ねて圧着し,これを焼成して一体化させて作られる
が,・・・」(1欄12~20行)
 「【0005】ところで,内部電極の厚みは,用いるペースト中のフィラーの粒
径に制限される。すなわち,粒径より薄くすることはできない。したがって,粒径
の小さなフィラー粉末を使用すればよいが,平均粒径が1μmより小さな粉末でも,
内部電極ペースト印刷時のフィラーの充填が十分でなく密度が低いため・・・また,焼
成時にデラミネーションが発生することが多かった。」(1欄33~40行)
 「【0011】【発明が解決しようとする課題】上述したような従来技術に鑑み
て,本発明は,平均粒径が0.1~数μmの範囲にある球状のニッケル超微粉の安価な
製造方法を提供することを目的とするものである。」(2欄29~32行),
 「【0018】反応温度の上限はニッケルの融点1453℃(1726K)以下に限定さ
れる。これは融点以上では,生成粒子が液滴で存在するため,異常に巨大に成長し
た粒子が発生することがあり,粒度分布が広がり,また反応器の壁への付着が増大
するからである。また蒸発部での塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)の上限は,0.3に限
定される。濃度が0.3超では,粒径が粗大化し,所望の粒径が得られない。また,粗
大化すると晶癖が発生しやすくなる。
【0019】また塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)の下限は,0.05に限定される。濃
度が0.05未満では,粒成長が遅く,晶癖が発生しやすくなる。」(3欄34~45行)
 「【0020】【実施例】実施例1 図1に示すような反応器1を用い,蒸発部
2の石英ボート3に原料の塩化ニッケルを10g入れ,2l/分のアルゴンガス4中に濃
度(分圧)が5.0×10ー2
になるよう蒸発させた。この原料混合ガスを1030℃(絶対温
度でニッケル融点の0.755倍)に設定した反応部5へ輸送し,反応中央ノズル6から
1l/分の割合で供給される水素と接触・混合させ反応を起こさせた。反応部の温度
を石英管で保護された熱電対8によって測定したところ1065℃(同0.775倍)まで上
昇した。」(3欄47行~4欄8行)
 「【0023】実施例4 実施例1において,蒸発温度を1000℃(絶対温度でニ
ッケル融点の0.74倍),濃度(分圧)を8.5×10ー2
とした以外は同じ条件でニッケル
粉を製造した。熱電対8によって測定したところ1053℃(同0.77倍)まで上昇し
た。発生したニッケル粉の比表面積は2.9m2
/gであり,電子顕微鏡観察によれば,
平均粒径0.23μmの球状粉であった。」(4欄31~38行)
 イ 本件発明と刊行物2に記載された発明との対比
決定は,本件発明1及び2と刊行物2に記載された発明とを対比して,一致点及
び相違点を以下のとおり認定した。
 (ア) 一致点
 「本件請求項1及び2に係る発明と刊行物2に記載された発明とを対比すると,
両者は,「平均粒径が0.1~1.0μmである積層セラミックコンデンサー用ニッケル超
微粉。」である点で一致し,「塩化ニッケル蒸気の気相還元方法によって製造され
た」点でも一致する」
 (イ) 相違点
 「本件請求項1及び2に係る発明が,「タップ密度が上記(2)式で表される条件を
満足し,さらに粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下,かつ平均結晶子径が平均粒径の
0.2倍以上である」のに対して,刊行物2には,タップ密度,粒度分布の幾何標準偏
差,平均結晶子径が示されていない点で相違する。」
ウ 相違点についての判断
 「上記相違点について検討するに当たり,本件請求項1及び2に係る発明のニッ
ケル超微粉の製造条件と刊行物2に記載された発明のニッケル超微粉の製造条件と
を対比・検討する。
 本件特許明細書(判決注:本訴甲3。以下,決定の引用部分も含め,「本件明細
書」という。)の発明の詳細な説明には,「上記特徴を持つニッケル粉を効率よく
製造するために,反応器を用いて塩化ニッケル蒸気と水素を化学反応させる方法が
適している。具体的には,塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ
塩化ニッケル蒸気と水素を1004℃(1277K)~1453℃(1726K)の温度で化学反応
させる。」(5欄22~27行)と記載されており,一方,刊行物2にも,「塩化ニッケ
ル蒸気と水素との化学反応によりニッケル微粉を製造する方法において,塩化ニッ
ケル蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ1004℃(1277K)~1453℃(1726
K)の温度で化学反応させることを特徴とする球状ニッケル超微粉の製造方法。」
(特許請求の範囲)と記載されているから,両者の基本的な製造条件は一致してい
る。
 そして,本件明細書の実施例1においては,塩化ニッケル蒸気濃度8.0×10ー2
(0.08),温度1050℃の条件で反応させて,比表面積が2.7m2
/g,平均粒径が
0.25μm,粒度分布の幾何標準偏差が1.4,平均結晶子径が0.2μm,タップ密度が
2.5g/cm3
のニッケル超微粉を得ており,反応させる際に,「10リットル/分のアル
ゴンガス」,「反応部5の中央ノズル6から下向きに5リットル/分の割合で供給さ
れる水素7」という条件を採用している。
 一方,刊行物2の実施例4においては,塩化ニッケル蒸気濃度8.5×10ー2
(0.085),温度1053℃の条件で反応させて,比表面積が2.9m2
/g,平均粒径が
0.23μmのニッケル超微粉を得ており,反応させる際に,「2l/分のアルゴンガ
ス」,「反応中央ノズル6から1l/分の割合で供給される水素」という条件を採用
している。
 本件明細書の実施例1及び刊行物2の実施例4とを対比すると,塩化ニッケル蒸
気濃度,反応温度は,ほぼ同一であり,比表面積,平均粒径もほぼ同程度であるか
ら,粒度分布の幾何標準偏差,平均結晶子径,タップ密度もほぼ同程度のものが得
られているものと認められる。
 そこで,刊行物2の実施例4で得られたニッケル超微粉について,本件請求項1
に記載された(2)式の右辺を計算すると,-2.5×(0.23)2
+7.0×(0.23)+0.8=-
0.13+1.61+0.8=2.28となり,これが,本件明細書の実施例1で得られたものと同
程度のタップ密度であるとすれば,2.5g/cm3
程度であるから,本件請求項1に記載
された(2)式を満たしているといえる。
 また,刊行物2の実施例4で得られたニッケル超微粉は,平均粒径が0.23μmであ
り,本件明細書の実施例1で得られたニッケル超微粉(平均粒径0.25μm)よりも平
均粒径が若干小さく,タップ密度も若干小さくなっていることが予測されるところ
(本件明細書の実施例2は,塩化ニッケル蒸気濃度1.0×10ー1
,反応温度1070℃,実
施例4は,塩化ニッケル蒸気濃度1.2×10ー1
,反応温度1020℃であり,得られたニッ
ケル超微粉は,それぞれ,比表面積が,1.7m2
/g,1.5m2
/g,平均粒径が,0.4μ
m,0.45μm,タップ密度が,3.7g/cm3
,4.0g/cm3
でほぼ同程度であるが,平均粒径
が大きくなると,それに比例してタップ密度も大きくなることが示されてい
る。),刊行物2の実施例4で得られたニッケル超微粉のタップ密度が,平均粒径
に比例して,本件明細書の実施例1における2.5g/cm3
よりも小さくなっていると仮
定した場合には,2.3g/cm3
となるが,その場合でも,本件請求項1に記載され
た(2)式を満たしている。
 なお,上記両実施例においてはアルゴンガス及び水素の流量が相違し,刊行物2
には水素を下向きに供給することが示されていないが,上記審尋において指摘した
とおり,本件明細書に記載された比較例1,2では,アルゴンガス,水素の流量条
件(10リットル/分のアルゴンガス,5リットル/分の水素)及び水素を下向きに供
給することは実施例1と同じであり,かつ,塩化ニッケル蒸気濃度は,それぞれ
2.2×10ー1
(0.22),1.4×10ー1
(0.14),反応温度は1110℃,1170℃であり,いずれ
も上記ニッケル超微粉の基本的な製造条件を満たしているにもかかわらず,いずれ
も,タップ密度は(1)式(以下「(1)式」という。)を満たしているが,(2)式を満た
していない,すなわち,本件請求項1,2に係る発明の条件を満たしていないもの
となっているから,タップ密度が(2)式を満たすニッケル超微粉を得るために,「10
リットル/分のアルゴンガス」,「反応部5の中央ノズル6から下向きに5リットル
/分の割合で供給される水素7」という条件は本質的なものではなく(比較例1,
2において,塩化ニッケル蒸気濃度及び反応温度を変更せずにタップ密度が(2)式を
満たすニッケル超微粉を得るためには,アルゴンガス及び水素の
流量,水素の供給方法を変更する必要がある。),刊行物2に記載された実施例4
のニッケル超微粉は,アルゴンガス及び水素の流量,水素の供給方法が相違するこ
とでタップ密度が(2)式を満たさないとはいえない。
 また,取消理由で引用した刊行物1(「第3回新素材交流会議講演集」,平成6
年7月,日本鉱業協会発行,特許異議申立人Zが提出した甲第1号証)(判決注:
本訴甲6)には,CVD法(塩化ニッケル蒸気と水素を化学反応させる方法)によ
るニッケル超微粉の一般的な特徴として,「粒度分布の幾何標準偏差が1.3~1.5で
あり,平均粒径は0.1~0.5μmの範囲で任意にコントロールできる」こと,「平均結
晶子径は0.1μm以上であり,単結晶あるいは内部に双晶を含む高結晶性の粒子であ
る」ことが記載されており(10頁1~17行),さらに,本件明細書の実施例において
も,塩化ニッケル蒸気濃度5.0×10ー2
~2.0×10ー1
,反応温度1010~1070℃の範囲で,
得られたニッケル超微粉の粒度分布の幾何標準偏差は1.4~1.6,平均結晶子径は
0.1~0.2μmであり,ほとんど差異はなく,刊行物2の実施例4で得られたニッケル
超微粉も,この範囲を大きく外れることはあり得ないから,粒度分布の幾何標準偏
差は2.0以下,かつ平均結晶子径は平均粒径の0.2倍以上であると認められる。
 以上のとおり,刊行物2に記載された発明のニッケル超微粉は,本件請求項1及
び2に係る発明のニッケル超微粉と同一の条件で製造されたものを含み,タップ密
度,粒度分布の幾何標準偏差,平均結晶子径が本件請求項1,2に係る発明と重複
するものと認められるから,両者は,上記の点で実質的に相違するとはいえない。
 したがって,本件請求項1及び2に係る発明は,刊行物2に記載された発明であ
る。」
 (2) 特許法36条4項の規定違反について
 「1)本件請求項1及び2に係る発明
 ・・・
 本件特許の出願時の請求項1に係る発明は,
 「【請求項1】平均粒径が0.1~1.0μmで,かつタップ密度が(1)式で表される条
件を満足する積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉。
 タップ密度≧-2.5×(平均粒径)2
+7.0×(平均粒径)+0.6・・・(1)式」であった
のに対して,原審で拒絶理由を回避するため,補正により,上記(1)式を上記(2)式
に限定すると共に,「粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下,かつ平均結晶子径が平均
粒径の0.2倍以上である」という要件を付加して,本件請求項1としたものである
が,この限定に対応して,タップ密度が「(1)式を満たしているが,(2)式を満たし
ていない」出願時明細書における実施例7及び実施例8を,比較例1及び比較例2
としたものである。
 そして,本件明細書には,「(1)式を満足する領域ではクラック,デラミネーショ
ン発生率が10%以下である。また,タップ密度が(2)式を満たすのが好ましく,この
場合のクラック,デラミネーション発生率は5%以下となっている。」(段
落【0011】),「粒度分布の幾何標準偏差が2.0を超えると粗大な粒子が混入するの
で,膜厚が不均一となってクラックの原因となり好ましくない。結晶子径は結晶性
を意味し,粒子の焼結の難易と関係する。すなわち,結晶子径が小さいほど粒子は
焼結しやすく,積層セラミックスコンデンサーの焼成時,結晶子径が小さいニッケ
ル粉を電極層として用いた場合,ニッケル層が過焼結により収縮してしまうのであ
る。発明者らは,許容結晶子径を求めるべく実験を繰り返した結果,平均粒径が
0.1~1.0μmの範囲で粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下,かつ平均結晶子径が平均
粒径の0.2倍以上であれば,焼成時にデラミネーションやクラックが発生しないこと
を見い出した。」(段落【0012】)と記載されている。
 すると,補正による上記請求項1の限定は,積層セラミックコンデンサー焼成時
におけるクラック,デラミネーション発生率をより少なくする目的で行われたこと
は明らかであり,タップ密度が「(2)式を満たしている」ニッケル超微粉のみを実施
例とし,タップ密度が「(1)式を満たしているが,(2)式を満たしていない」ニッケ
ル超微粉を実施例から外して比較例1及び2としたのは,この目的に沿うものであ
るから,特許権者の主張するように本来本件特許発明の趣旨を逸脱したものとはい
えない。
 以上のとおりであるから,本件請求項1及び2に係る発明は,積層セラミックコ
ンデンサー焼成時におけるクラック,デラミネーション発生率をより少なくするた
めに,ニッケル超微粉のタップ密度が満たすべき条件を,「タップ密度≧-2.5×
(平均粒径)2
+7.0×(平均粒径)+0.6・・・(1)式」から「タップ密度≧-2.5×(平均粒
径)2
+7.0×(平均粒径)+0.8・・・(2)式」に限定した点にこそその眼目があるという
ことができる。
 したがって,本件明細書の発明の詳細な説明には,タップ密度が「(2)式を満たし
ている」本件請求項1及び2に係る発明のニッケル超微粉の製造条件が,タップ密
度が「(1)式を満たしているが,(2)式を満たしていない」ニッケル超微粉の製造条
件と区別して当業者が容易に実施をすることができる程度に記載されていなければ
ならないといえる。
 2)本件明細書の発明の詳細な説明の記載
 ・・・本件請求項1及び2に係る発明のニッケル超微粉の基本的な製造条件として,
本件明細書の発明の詳細な説明には,「上記特徴を持つニッケル粉を効率よく製造
するために,反応器を用いて塩化ニッケル蒸気と水素を化学反応させる方法が適し
ている。具体的には,塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ塩化
ニッケル蒸気と水素を1004℃(1277K)~1453℃(1726K)の温度で化学反応させ
る。」(5欄22~27行)と記載されている。
 そして,本件明細書に記載された実施例においては,この塩化ニッケル蒸気濃度
及び反応温度の範囲に含まれる数値を採用し,すなわち,実施例1においては,塩
化ニッケル蒸気濃度8.0×10ー2
(0.08),反応温度1050℃,実施例2においては,塩
化ニッケル蒸気濃度1.0×10ー1
(0.1),反応温度1070℃,実施例3においては,塩化
ニッケル蒸気濃度2.0×10ー1
(0.2),反応温度1010℃,実施例4においては,塩化ニ
ッケル蒸気濃度1.2×10ー1
(0.12),反応温度1020℃,実施例5においては,塩化ニ
ッケル蒸気濃度5.0×10
ー2
(0.05),反応温度1015℃を採用し,それぞれ,平均粒径
が,0.25μm,0.4μm,0.6μm,0.45μm,0.15μmで0.1~1.0μmの範囲内にあり,
粒度分布の幾何標準偏差が,1.4,1.5,1.5,1.6,(実施例5は不明)で2.0以下で
あり,平均結晶子径が,0.2μm,0.2μm,0.2μm,0.15μm,0.1μmで平均粒径の
0.2倍以上であり,いずれもタップ密度が(2)式を満たしているニッケル超微粉を得
ている。
 これに対して,比較例3においては,塩化ニッケル蒸気濃度は5.0×10ー2
(0.05)
であるが,反応温度が950℃で上記の範囲外であるため,得られるニッケル超微粉
は,平均粒径は0.15μmであるが,タップ密度が(1)式を満たしていない(より厳し
い条件である本件請求項1及び2に係る発明の(2)式も満たしていない)というもの
である。また,比較例4においては,反応温度は1110℃であるが,塩化ニッケル蒸
気濃度が4.0×10ー2
(0.04)で上記の範囲外であるため,得られるニッケル超微粉
は,タップ密度は(1)式を満たしているが,平均粒径は1.1μmで本件請求項1及び2
に係る発明の範囲内にないというものである。
 したがって,実施例1~5,比較例3~4から,本件請求項1及び2に係る発明
のニッケル超微粉を得るためには,「塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3
とし,かつ塩化ニッケル蒸気と水素を1004℃(1277K)~1453℃(1726K)の温度
で化学反応させる」ことが必要であることはわかる。
 一方,上記審尋において指摘したとおり,比較例1,2では,アルゴンガス,水
素の流量条件(10リットル/分のアルゴンガス,5リットル/分の水素)及び水素を
下向きに供給することは実施例1と同じであり,かつ,塩化ニッケル蒸気濃度は,
それぞれ2.2×10ー1
(0.22),1.4×10ー1
(0.14),反応温度は1110℃,1170℃であ
り,いずれも上記のニッケル超微粉の基本的な製造条件を満たしているにもかかわ
らず,いずれも,タップ密度は(1)式を満たしているが,(2)式を満たしていない,
すなわち,本件請求項1及び2に係る発明の条件を満たしていないものとなってい
る。
 3) 本件明細書の記載に基づいて実施することの容易性
 ・・・特許権者は,平成11年8月30日付けの意見書中でアルゴンガス及び水素の
流量は生成する金属ニッケル粉の物性に大きな影響を及ぼす旨を主張しているので
あるから,かかる主張を前提とすれば,本件請求項1及び2に係る発明のニッケル
超微粉を実施するためには,アルゴンガス及び水素の流量をどのように設定すれば
よいのかが明確でなければならないが,本件明細書の発明の詳細な説明中には,実
施例に記載されているアルゴンガスが10リットル/分であり水素が5リットル/分で
ある条件以外の条件についてはどのように設定すればよいのか何ら記載されていな
い。
 例えば,上記比較例1,2において,塩化ニッケル蒸気濃度及び反応温度を変更
しないで,タップ密度が(2)式を満たすようにするには,アルゴンガス及び水素の流
量を変更する必要があるが,どのように変更すればよいのか示されていない。
 この点に関し,特許権者は,原審において平成13年4月23日に提出した意見
書中で,引用文献1(「第3回新素材交流会議講演集」,平成6年7月,日本鉱業
協会発行,取消理由通知の刊行物1に同じ)の図4に生成ニッケル超微粉粒径のキ
ャリアガス流量依存性が示されており,かつその9頁8~9行に「キャリアガス流量を
変えることにより平均粒径を0.1~0.5μmの範囲で任意にコントロールすることが可
能である。」と記載されていることからみて,キャリアガス(アルゴンガス)及び
水素の流量がニッケル超微粉の粉体特性に影響を及ぼすことは本件特許の出願時の
技術常識であり,当業者に期待し得る程度以下の試行錯誤を行うだけで,本件請求
項1及び2に係る発明を実施することができる旨の主張をしている。
 しかしながら,引用文献1の図4には,キャリアガス(アルゴンガス)流量が
1l/minから4l/minまで増えるにしたがって,平均粒径が約0.45μmから約0.2μmま
で減少することが示されているだけで,本件明細書の実施例のようにアルゴンガス
流量が10l/min程度と大きい場合に平均粒径にどのような影響を及ぼすのかは明ら
かでなく(・・・本件明細書の実施例1においては,塩化ニッケル蒸気濃度8.0×10ー2

温度1050℃,アルゴンガス流量10l/min,水素流量5l/minという条件で反応させ
て,平均粒径が0.25μmのニッケル超微粉を得ており,一方,刊行物2の実施例4に
おいては,塩化ニッケル蒸気濃度8.5×10ー2
,温度1053℃,アルゴンガス流量2l/
分,水素流量1l/分という条件で反応させて,平均粒径が0.23μmのニッケル超微
粉を得ており,両者の塩化ニッケル蒸気濃度及び反応温度は,ほぼ同一であるか
ら,引用文献1の図4に示された傾向が,キャリアガス(アルゴンガス)流量が大
きい範囲についても当てはまるとすれば,本件明細書の実施例1のニッケル超微粉
は,刊行物2の実施例4のものより平均粒径がかなり小さくなるはずであるが,同
程度の平均粒径であり,アルゴンガス流量の影響は不明である。),ま
た,アルゴンガス流量がタップ密度にどのような影響を及ぼすのかは示されていな
いから,この引用文献1の記載によっても,得られるニッケル超微粉のタップ密度
が(2)式を満たすようにするために,アルゴンガス及び水素の流量をどのような範囲
に設定すればよいのかは明らかでない。
 以上のとおりであるから,「タップ密度≧-2.5×(平均粒径)2
+7.0×(平均粒径)
+0.8・・・(2)式」を満たしている本件請求項1及び2に係る発明のニッケル超微粉
を,タップ密度が「(1)式を満たしているが,(2)式を満たしていない」ニッケル超
微粉と区別して製造するためには,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された
「塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ塩化ニッケル蒸気と水素を
1004℃(1277K)~1453℃(1726K)の温度で化学反応させる」,「10リットル/
分のアルゴンガス」,「反応部5の中央ノズル6から下向きに5リットル/分の割合
で供給される水素7」といった条件では足りず,塩化ニッケル蒸気濃度及び反応温
度を上記範囲内でさらに特定の条件とする必要があり,また,塩化ニッケル蒸気濃
度及び反応温度だけでなくアルゴンガス及び水素の流量を特定の範囲に設定する必
要があると認められるが,本件明細書の発明の詳細な説明には,これらの製造条件
については記載されていない。
 したがって,当業者が,本件明細書の実施例1~5に示された以外の条件で本件
請求項1及び2に係る発明を実施しようとした場合,タップ密度が(2)式を満たして
いるニッケル超微粉を製造できるかどうかも不明のまま,塩化ニッケル蒸気濃度,
反応温度,アルゴンガス及び水素の流量を変更して不相当に多くの試行錯誤をしな
ければならないことになるから,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて
当業者が本件請求項1及び2に係る発明を容易に実施し得るとはいえない。
 4) 本件特許の出願時の公知技術との関係
 上記審尋において引用した刊行物2(特開平4-365806号公報)には,
「塩化ニッケル蒸気と水素との化学反応によりニッケル微粉を製造する方法におい
て,塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ1004℃(1277K)~
1453℃(1726K)の温度で化学反応させることを特徴とする球状ニッケル超微粉の
製造方法。」(特許請求の範囲)が記載されており,そして,上記範囲内の塩化ニ
ッケル蒸気濃度及び反応温度を採用することにより,平均粒径0.18~0.8μmのニッ
ケル超微粉が得られることが実施例として示されている。
 また,同じく引用した1991年(平成3年)12月18日に公開された刊行物
3(欧州特許出願公開第461866号公報)にも,同様の記載がある。
 してみると,本件請求項1及び2に係る発明のニッケル超微粉の製造条件と刊行
物2及び3に記載されたニッケル超微粉の製造条件とは,「塩化ニッケル蒸気濃度
(分圧)を0.05~0.3とし,かつ塩化ニッケル蒸気と水素を1004℃(1277K)~
1453℃(1726K)の温度で化学反応させる」点で一致し,この条件を採用すること
により,平均粒径が0.1~1.0μmの範囲内にあるニッケル超微粉を得る点でも一致す
るから,刊行物2及び3に記載された発明においても,「タップ密度が(2)式で表さ
れる条件を満足し,さらに粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下,かつ平均結晶子径が
平均粒径の0.2倍以上である」本件請求項1及び2に係る発明と同一のニッケル超微
粉が得られている蓋然性が極めて大きいといい得る。
 そうである以上,本件明細書の発明の詳細な説明において記載不備が問題となる
のは,公知技術である刊行物2及び3に記載されたニッケル超微粉の製造条件と区
別するための具体的な製造条件であり,塩化ニッケル蒸気濃度及び反応温度を上記
の範囲でどのようなさらに限定された条件とするのか,アルゴンガス及び水素の流
量をどのような範囲に設定するのかなどであるが,3)で述べたとおり,本件明細書
の発明の詳細な説明には,これらの条件は記載されていない。
 5) まとめ
 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,「塩化ニッケル蒸気濃度
(分圧)を0.05~0.3とし,かつ塩化ニッケル蒸気と水素を1004℃(1277K)~
1453℃(1726K)の温度で化学反応させる」こと,この化学反応において,「10リ
ットル/分のアルゴンガス」,「反応部5の中央ノズル6から下向きに5リットル/
分の割合で供給される水素7」を用いることが記載されているが,「タップ密度
が(2)式で表される条件を満足し,さらに粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下,かつ
平均結晶子径が平均粒径の0.2倍以上である」ニッケル超微粉を得るために必要な,
塩化ニッケル蒸気濃度及び反応温度の範囲並びにアルゴンガス及び水素の流量の範
囲については記載がなく,当業者が,上記発明の詳細な説明の記載に従って製造し
ようとしても,製造できるかどうかも不明のまま不相当に多くの試行錯誤をしなけ
ればならないことになるから,当業者が,「タップ密度が(2)式で表される条件を満
足し,さらに粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下,かつ平均結晶子径が平均粒径の
0.2倍以上である」ニッケル超微粉を容易に製造することができるとすることはでき
ず,このような発明の詳細な説明の記載について,「その発明の属する技
術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程
度」に記載されているということはできない。」
 (3) 結論 
 決定は,以下のとおり,結論付けた。
 「したがって,本件請求項1及び2に係る発明の特許は,特許法29条1項の規
定に違反してされたものであるから,同法113条2号に該当し,取り消されるべ
きものである。
 また,本件請求項1及び2に係る発明の特許は,特許法36条4項に規定する要
件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,同法113条4号に
該当し,取り消されるべきものである。」
第3 原告らの主張の要点
 決定は,本件発明が,刊行物2に記載された発明であるから特許法29条1項の
規定に違反し,また,特許法36条4項に規定する要件を満たしていないものであ
るから,取り消されるべきであると判断したが,この判断は,いずれも誤りである
から,取り消されるべきである。
 1 取消事由1(新規性についての判断の誤り)
 (1) 一般に,粉体の製造では,特定の粉体特性の粉体のみを100%製造するこ
とは不可能で,ある条件の分布幅を持つ粉体群として製造される。本件発明は,こ
のような幅を持った粉体特性のうち,①平均粒径が0.1~1.0μm,②粒度分布の幾
何標準偏差が2.0以下,③平均結晶子径が平均粒径の0.2倍以上であるニッケル超微
粉が,前記(2)式の関係を満たせば,積層セラミックコンデンサー製造工程における
クラックや剥離の発生しにくい積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉とし
て有用であることを見出した発明であり,新規な物質の発明ではない。本件請求項
1に記載された粉体特性,とりわけタップ密度と平均粒径との関係は,積層セラミ
ックコンデンサーを製造する工程でクラックや剥離が発生しにくいニッケル超微粉
を選択するための指標とでもいうべきものである。
 他方,刊行物2には,タップ密度と平均粒径との関係が(2)式を満足するとの記載
はなく,積層セラミックコンデンサー製造工程でクラック,デラミネーションが5
%以下であるという効果を持つ,積層セラミックコンデンサー用に特に適した構造
を有しているニッケル超微粉についての記載もない。刊行物2の実施例4に記載さ
れた製造条件が,本件発明の実施例の製造条件の範囲内であるとしても,刊行物2
の実施例4記載の製造方法に従って製造されたニッケル微粉が,積層セラミックコ
ンデンサー製造工程でクラックや剥離が発生しにくいという効果を持つ積層セラミ
ックコンデンサー用に特に適した構造を有しているとは限らない。
 (2) 決定は,本件明細書の実施例1と刊行物2の実施例4とを対比し,種々の仮
定をした上で,刊行物2の実施例4で得られたニッケル微粉は,本件請求項1に記
載された(2)式を満たしていると結論している。しかしながら,決定が行った仮定
は,本件特許発明の結果から演繹して思いついた後知恵であり,合理的な根拠に基
づくものではない。仮に,これらの仮定が正しいとしても,刊行物2に記載された
製造方法でつくられたニッケル超微粉の一部が本件請求項1記載の粉体特性を満た
す可能性があることを示すにすぎない。
 (3) 原告らは,刊行物2記載の方法により製造されたニッケル超微粉が本件請求
項1に係るニッケル超微粉とは異なることを示すために追試実験を行った。この追
試実験は,刊行物2の実施例1及び4,本件発明の実施例1,本件発明の図1の×
点,△点,○点の6種類の追試実験をして,得られたニッケル超微粉の平均粒径,
粒度分布の幾何標準偏差,平均結晶子径,タップ密度を測定し,本件発明の(2)式の
値を計算したものである。すると,刊行物2の実施例4の条件に従って製造したと
しても,本件請求項1記載のすべての特性を満たす範囲のものが製造できるとは限
らないとの結果を得た(甲7の表2)。
 被告は,甲7の実験報告書について,客観性や信憑性に欠けると主張する。しか
しながら,上記追試実験は,刊行物2記載の発明及び本件発明の出願当時の事情を
考慮して実験条件を定めたものである。すなわち,刊行物2記載の発明について
は,当該発明の当時使用した装置に近い装置を用いるために,直径50mmの石英管
を反応管とし,反応管の反応部の長さ/直径(以下「装置L/D」という。)の数
値を「6」としたものである。他方,本件発明については,その出願当時入手できた
石英管の管径(直径65mm)を採用し,さらにその当時には反応部の長さを長くして
一定の特性を持ったニッケル超微粉をまとまった量製造する必要があったことを考
慮し,装置L/Dの数値を「13.7」としたものである。このように,甲7の実験報
告書のデータの装置L/Dの条件設定は合理的なものであり,刊行物2の実施例で
得られた物と本件発明の物が同一物ではなく,その有用性が異なることを説明ない
しは証明するために最もわかりやすい条件として現時点で設定したものにすぎな
い。
 (4) 以上によれば,決定が「本件明細書の実施例1及び刊行物2の実施例4とを
対比すると,塩化ニッケル蒸気濃度,反応時間はほぼ同一であり,比表面積,平均
粒径もほぼ同程度であるから,粒度分布の幾何標準偏差,平均結晶子径,タップ密
度もほぼ同程度のものが得られているものと認められる。」とした上で,本件発明
1及び2には新規性がないと判断したことは誤りである。
 2 取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)
(1) 前記のとおり,本件発明は新規な物の発明ではなく,有用性の高い用途を持
つニッケル微粉を選択する指標を与えるものである。このような指標が提示されれ
ば,当業者は,通常の試行錯誤の範囲内で,本件明細書に記載された製造方法内に
おいて,特定の製造装置ごとに細部の技術的条件を変化させ,その結果得られた粉
体の特性と指標とを比較しながら,適した製造条件を決定することができる。ま
た,得られた粉体群から特定の指標に基づいて分級して所定の条件を持つ粉体を選
択してもよい。
 この点,決定は,タップ密度が平均粒径の二次関数で定義されていることから,
製造条件の設定が困難であるとする。しかしながら,工業的な技術の研究において
特性間の関係式を見出すには,各特性ごとに指数関数で表す一般式を仮定し,実験
結果からその指数の値や他の必要な定数を決定する方法が最も一般的であり,その
結果が二次関数で表されるからといって製造条件の設定が至難であるとはいえな
い。
 (2) 本件明細書に記載されている実施例1ないし5と比較例1ないし4とを対比
すると,本件請求項1を満たすニッケル超微粉は,塩化ニッケル蒸気濃度0.05~
0.2の範囲で,反応温度1010℃~1070℃の範囲で好適に製造できることが理解でき
る。被告は,比較例1及び2は,いずれも本件明細書に記載された塩化ニッケル蒸
気濃度0.05~0.3,反応温度1004℃~1453℃の範囲内にあるにもかかわらず,(2)式
を満足していないなどと主張するが,当業者であれば,実施例に記載された範囲内
である塩化ニッケル蒸気濃度0.05~0.2及び反応温度1010℃~1070℃の製造条件のも
とで,請求項1に記載されたニッケル超微粉が好適に製造されることを直ちに理解
できるというべきである。
 (3) 仮に,被告の主張するとおり,本件請求項1記載の粉体特性を持つ粉体群を
高収率で製造する方法が特定されていないとしても,本件請求項1に記載された条
件が明確である以上,本件明細書の記載に従って製造された粉体特性が請求項1の
範囲内であるか範囲外であるかは本件明細書の記載に従って各特性を測定すること
により明快に判別し得るのである。したがって,本件明細書の記載が実施可能要件
を満たしていないとの被告の主張は失当である。
 (4) 決定は,「本件明細書の発明の詳細な説明には,タップ密度が「(2)式を満
たしている」本件請求項1及び2に係る発明のニッケル超微粉の製造条件が,タッ
プ密度が「(1)式を満たしているが,(2)式を満たしていない」ニッケル超微粉の製
造条件と区別して当業者が容易に実施をすることができる程度に記載されていなけ
ればならないといえる。」(決定書11頁25~29行)とする。しかしながら,(1)式
と(2)式の差は出願時明細書に記載されるように,本発明のニッケル超微粉を用いて
積層セラミックコンデンサーを製造する際にクラック,デラミネーション発生率が
10%以下であるか,5%以下であるかの差である。このような粉体群の製造に際
して両方を区別して製造できる画期的な製造方法があれば,製造方法の発明として
特許されるべきものであり,ニッケル超微粉の用途又は評価の指標の発明である本
件発明において両者を区別する製造方法の記載を求めるのは誤りである。
 (5) 決定は,一方で刊行物2に記載されたニッケル超微粉は本件発明に係るニッ
ケル超微粉と同一の製造方法で製造された物を含むとして,本件明細書記載の方法
により請求項1に係るニッケル超微粉を製造することができることを前提としなが
ら,他方で本件明細書の詳細な説明には,当業者が本件特許を容易に製造できる程
度にその具体的な製造方法が記載されているとはいえないとしているが,この説示
は相互に矛盾している。
 (6) さらに,決定は「刊行物2及び3に記載された発明においても,・・・本件請
求項1及び2に係る発明と同一のニッケル超微粉が得られている蓋然性が極めて大
きいといい得る」とした上で,「そうである以上,本件明細書の発明の詳細な説明
において記載不備が問題となるのは,公知技術である刊行物2及び3に記載された
ニッケル超微粉の製造条件と区別するための具体的な製造条件であり,塩化ニッケ
ル蒸気濃度及び反応温度を上記の範囲でどのようにさらに限定された条件とするの
か,アルゴンガス及び水素の流量をどのような範囲に設定するのかなどである
が,3)で述べたとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,これらの条件は記載
されていない。」としている(決定書14頁下から4行~15頁8行)。しかし,「本件
請求項1及び2に係る発明と同一のニッケル超微粉が得られている蓋然性が極めて
大きい」という決定の前提が誤っていることは前記のとおりである。
 (7) 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載が特許法36条4項の
要件に違反するという決定の判断は誤りであり,取り消されるべきである。
第4 被告の主張の要点
 本件発明1及び2が特許法29条1項及び36条4項に違反するとした決定の認
定判断に誤りはなく,原告らの取消事由は理由がない。
 1 取消事由1(新規性についての判断の誤り)に対して
 原告らは,刊行物2の実施例4について追試実験を行ったところ,甲7の実験報
告書に示すとおり,同実施例のニッケル超微粉は,本件発明のタップ密度に係る(2)
式の関係を満足しないことが明らかになったから,本件発明が刊行物2に記載され
た発明であるとした決定の判断は誤りである旨主張している。
 そこで,上記実験報告書を検討すると,本件特許公報の図1の×点,△点及び○
点に関する追試実験,刊行物2の実施例1及び4の追試実験のデータを対比する
と,図1に関する追試実験の場合には装置L/D以外の条件を同一にして実験が行
われ(装置L/Dの数値は,×点が6,△点が8.9,○点が13.7),○点だけがタッ
プ密度の(2)式を満たしている。これに対し,刊行物2の実施例の場合は,装置L/
Dの数値を「6」と設定して実験を行い,タップ密度に関する(2)式を満たさなかっ
たとされている。このような実験結果に照らすと,装置L/Dの数値がタップ密度
の特性に関与していることは明らかであるが,刊行物2の実施例について設定され
た「6」という装置L/Dの数値は,刊行物2の発明者の装置に近いと実験者が考え
た装置から算出された客観性に欠ける数値であり,本件発明の実施例について設定
された「13.7」という数値も本件明細書に記載のない根拠のない数値である。本件
特許公報の図1に関する実験において,L/Dの数値が「6」の場合に(2)式を満た
さず,「13.7」の場合に(2)式を満たしていることを考慮すると,実験者は刊行物2
の実施例について(2)式を充足しない数値をあえて採用したと考えら
れなくもない。
 そうすると,原告らが提出した実験報告書は,それ自体が客観性や信憑性に欠け
るものであり,しかも,本件明細書及び刊行物2の記載に基づかないものであるか
ら,このような実験報告書のデータによって決定の新規性に関する判断が否定され
るものではない。
 したがって,原告らの主張は根拠を欠くものである。
 2 取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)に対して
 (1) 金属粉は,積層セラミックコンデンサー用のほかに,一般的な粉末冶金の原
料粉として広く使用されているが,その金属粉の代表的な特性は,粒径(粒度),
粒度分布,粒形(球状,鱗片状,針状等),見掛密度,タップ密度,流動度,圧縮
性及び焼結性等である(乙1)。また,このような金属粉の特性は,製法ごとに異
なるものであり,中でも粒形,粒径,粒度分布,見掛密度,タップ密度,流動度等
は,その製造法の違いにより著しく異なることから,金属粉をその種類や特性によ
って分類する際に,製造法の名称をとり,例えばアトマイズ粉,還元粉,電解粉等
と分類されることも周知の事項である。
 また,金属粉の特性は,個々の金属粉の特性を示しているわけではなく,粉体の
集合体(粉体群)としての特性を意味する。このような粉体群の金属粉は,工場に
おいて大量生産されるので,前記諸特性は製法によって一義的に決定されることに
なる。したがって,金属粉の諸特性は,その製法と切り離すことができない密接不
可分な関係にあることは周知であり,ある特性を有する金属粉を大量に得ようとす
る場合には,その特性に適した製造法を選択し,製造条件を綿密に設定しなければ
ならないのが実情である。
 (2) 本件発明に係るニッケル超微粉も,一般的な金属粉の特性を表す粒径,粒度
分布,平均結晶子径及びタップ密度に関するものであるから,このニッケル超微粉
の製造法と密接不可分な関係にある。とりわけ,本件発明に係るニッケル超微粉
は,その平均粒径が0.1~1.0μmと極めて微細なものであり,通常の製法により得る
ことは困難である。本件明細書によれば,従来の湿式法では本件発明に係るニッケ
ル超微粉を得られないために,塩化ニッケルの気相水素還元法が採用されたという
のであり,本件発明に係るニッケル超微粉と塩化ニッケルの気相水素還元法は密接
不可分の関係にある。しかも,上記製造方法を採用しても,その設定条件によって
は本件請求項1記載の特性を満たさないことがあるというのであるから,具体的な
製造条件の設定が重要であるところ,本件発明のタップ密度は平均粒径の二次関数
で定義されるものであるから,その製造条件の具体的な設定についてまで明らかに
されなければ,当業者といえども本件請求項1の条件を備えたニッケル超微粉を容
易に製造することはできない。本件発明のように「物」の発明であっても,その物
を当業者が容易に製造することができない場合には,社会における産
業の発達に寄与する程度に発明を公開したことにならないというべきである(東京
高裁平成14年2月7日判決,平成12年(行ケ)第120号最高裁HP参照)。
 (3) 本件明細書記載にかかる実施例1ないし5と比較例1ないし4を比較する
と,実施例1ないし5と比較例1及び2とは,塩化ニッケルの気相水素還元法の製
造条件が本件明細書の段落【0013】に具体的に開示された範囲内において設定され
ている点で共通しているが,その結果を対比すると,実施例1ないし5に係るニッ
ケル粉は本件請求項1記載の特性をすべて満たしているのに対して,比較例1に係
るニッケル粉はタップ密度と粒度分布の特性を満たさず,比較例2に係るニッケル
粉はタップ密度と平均結晶子径/平均粒径の特性を満たしていない。このことは,
気相水素還元法においてアルゴン流量と水素供給量を一定とした場合に,塩化ニッ
ケルの蒸気分圧と反応温度の2条件だけをそれぞれ本件明細書記載の範囲内に設定
しただけでは本件請求項1の特性を満たすニッケル超微粉を製造することができな
いことを意味している。
 このような齟齬が生じた原因としては,塩化ニッケルの蒸気分圧と反応温度の2
条件のほかに第3の条件が影響したことが考えられる。この第3の条件としては,
決定が挙げるアルゴンガス及び水素の流量,刊行物1(甲6)が示唆するアルゴン
ガス流量,川鉄鉱業株式会社作成に係る「機能素材商品案内」(甲8)が示唆する
反応時間等が考えられるが,その条件をどのような範囲に設定すればよいかについ
て本件明細書には全く記載されておらず,当業者が容易に設定することができるよ
うなものではない。さらに,前記実験報告書(甲7)によれば,装置L/Dの数値
がタップ密度の特性に関与しているとも考えられる。
 以上のとおり,請求項1の特性をすべて満たすニッケル超微粉を製造するために
は本件明細書に記載された製造条件では不足であり,同明細書の記載や技術常識を
もってしても当業者が製造することができないのであるから,本件明細書には決定
が判断するとおりの記載不備がある。
 (4) 原告らは,本件発明は,特定の用途に特定の物性が大きな影響を持つことを
見出した発明であり,新規な物質の発明ではなく,積層セラミックコンデンサーと
いう特定の用途に供するために適した超微粉としての指標(粉体特性)を見出した
ものであると主張する。しかしながら,本件発明は,少なくとも本件請求項1記載
の特性を持つニッケル超微粉である点で新規な物の発明である。
 (5) 原告らは,本件発明に係るニッケル超微粉は製造装置の細部の技術的な条件
を決定すれば容易に製造することができると主張しているが,特性が新規な粉体は
その製造条件を工夫してはじめて製造することできるものである。本件発明のニッ
ケル超微粉の場合も,塩化ニッケルの気相水素還元法の製造条件を綿密に設定する
ことによって製造されるものであり,少なくとも従来技術の湿式法では製造するこ
とができない特性の超微粉であることは前記のとおりである。本件発明に係るニッ
ケル超微粉は,原告らの主張するような当業者の試行錯誤の範囲内で簡単に製造す
ることができるようなものではなく,本件明細書の記載からはどのような条件設定
をすれば製造が可能となるのか明らかではない。
 (6) 原告らは,得られた粉体群から特定の指標に基づいて分級して所定の条件を
持つ粉体を選択してもよいと主張している。しかしながら,本件明細書には,公知
の多種類の製造方法により製造された種々のニッケル超微粉の中から本件請求項1
記載の特性を満たす超微粉を選別して入手し得るとの記載は存在しない。得られた
ニッケル超微粉体群から分級して(ふるい分けして)得られる特性は,せいぜい平
均粒径と粒度分布の特性を持つ粉体だけであって,例えば平均粒径の二次関数によ
って定義されるタップ密度や平均結晶子径と平均粒径の比を満たす粉体を分級によ
って選別して入手できるとは考えられない。
 (7) 原告らは,本件請求項1記載の特性を持つニッケル超微粉は,公知の多種類
の製造方法によって偶然に製造される可能性があるとも主張している。しかしなが
ら,本件明細書には,ニッケルの気相水素還元法以外の公知の製造法で製造するこ
とができるとは一切記載されていない。むしろ,本件明細書の比較例5及び6に
は,公知の「湿式法」では請求項1記載の特性を持つニッケル超微粉を製造するこ
とができないことが示されているのであって,原告らの上記主張は根拠がない。原
告らは偶然に製造することができる可能性についても主張しているが,偶然に製造
することができてもその反復性に乏しい場合には特許法に規定する実施可能要件を
満たしているとはいえない。
 (8) 以上によれば,本件明細書は「その発明の属する技術の分野における通常の
知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度」に記載されているもの
とはいえないのであるから,本件請求項1及び2に係る特許が特許法36条4項に
違反するとした決定の判断は正当である。
第5 当裁判所の判断 
 1 取消事由1(新規性についての判断の誤り)について
 (1) 特許法29条1項各号は新規性を有しない発明を類型化して規定していると
ころ,決定は,本件発明1及び2は刊行物2に記載された発明であるから,特許法
29条1項3号に該当するので特許要件を充足しないと判断し,原告らはこの判断
は誤りであると主張する。同号にいう「刊行物に記載された発明」とは,刊行物に
記載されている事項及び刊行物の記載から当業者が把握し得る事項をいうと解すべ
きところ,刊行物2には以下の記載がある。
 (ア) 「塩化ニッケル蒸気と水素との化学反応によりニッケル微粉を製造する方法
において,塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ1004℃(1277K)
~1453℃(1726K)の温度で化学反応させることを特徴とする球状ニッケル超微粉の
製造方法。」(特許請求の範囲)
 (イ) 「【従来の技術】粒度分布が狭く,平均粒径が0.1~数μmの範囲にあり,
粒子が球状の金属超微粉は,ペースト性状が良好でかつ電子回路の導体形成に用い
たとき,導体部の微細パターン化あるいは薄層化が可能であることから,…例えば
積層セラミックコンデンサーは,…」(段落【0002】~【0003】)
 (ウ) 「【発明が解決しようとする課題】上述したような従来技術に鑑みて,本発
明は,平均粒径が0.1~数μmの範囲にある球状のニッケル超微粉の安価な製造方法
を提供することを目的とするものである。」(段落【0011】)
 (エ) 「【実施例】実施例1 図1に示すような反応器1を用い,蒸発部2の石英
ボート3に原料の塩化ニッケルを10g入れ,2l/分のアルゴンガス4中に濃度(分
圧)が5.0×10ー2
になるよう蒸発させた。この原料ガスを1030℃(絶対温度でニッケ
ル融点の0.755倍)に設定した反応部5へ輸送し,反応中央ノズル6から1l/分の
割合で供給される水素と接触・混合させ反応を起こさせた。…ニッケル粉の形状が
完全に近い球状であることがわかる。」(段落【0020】)
 (オ) 「実施例4 実施例1において,蒸発温度を1000℃(絶対温度でニッケル融
点の0.74倍),濃度(分圧)を8.5×10ー2
とした以外は同じ条件でニッケル粉を製造
した。熱電対8によって測定したところ1053℃(同0.77倍)まで上昇した。発生し
たニッケル粉の比表面積は2.9m2
/gであり,電子顕微鏡観察によれば,平均粒径
0.23μmの球状粉であった。」(段落【0023】)
 (2) 上記記載によれば,本件発明と刊行物2記載の発明は,物の発明か方法の発
明かの違いはあるものの,いずれも積層セラミックコンデンサー等に用いられるニ
ッケル超微粉についての発明であり,そこに記載されたニッケル超微粉の製造方法
は,塩化ニッケル蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ1004℃(1277K)~
1453℃(1726K)の温度で塩化ニッケル蒸気と水素とを化学反応させるというもので
あり,本件発明と基本的に一致しているということができる。
 そして,本件明細書の実施例1及び刊行物2の実施例4とを対比すると,両者の
塩化ニッケル蒸気濃度(前者は0.08,後者は0.085),反応温度(前者は1050℃,後
者は1053℃)はほぼ同一であり,その結果得られたニッケル粉の比表面積(前者に
つき2.7m2
/g,後者につき2.9m2
/g),平均粒径(前者は0.25μm,後者は0.23μm)
もほぼ同程度であると認められる。
 さらに,刊行物1(甲6)には,気相水素還元方法と同様の気相化学反応法によ
り製造されたニッケル超微粉の特徴は,粒度分布の幾何標準偏差が1.3~1.5であ
り,平均粒径が0.1~0.5μm,平均結晶子径は0.1μmであるとの記載があり(10
頁),これによれば,刊行物2の実施例4にはニッケル粉の粒度分布の幾何標準偏
差,平均結晶子径の数値についての測定結果が記載されていないものの,刊行物2
の実施例4に係るニッケル粉は,本件請求項1の粒度分布の幾何標準偏差,平均結
晶子径の条件を満たすというべきである。
 タップ密度についても,刊行物2には測定結果の記載はないが,本件明細書の実
施例1と刊行物2の実施例4は,基本的に同一の製造方法を採用し,その結果製造
されたニッケル粉の比表面積及び平均粒径もほぼ同一の数値が得られ,両実施例に
は製造されるニッケル粉のタップ密度に差が生じるような条件の差異も存在しない
のであるから,両実施例に係るニッケル粉のタップ密度はほぼ同程度であり,刊行
物2の実施例4に係るニッケル粉のタップ密度は,本件明細書の実施例1に係るニ
ッケル粉と同様に(2)式を満たすと認めるのが相当である(なお,本件明細書の実施
例1と刊行物2の実施例4ではアルゴンガス及び水素流量が異なっているが,決定
も説示するように,キャリアガス流量の条件の差がタップ密度等の数値に影響を及
ぼすとは認められない。)。
 以上によれば,刊行物2の実施例4に係るニッケル粉は,本件請求項1に記載さ
れたニッケル超微粉と同一であり,本件発明は刊行物2に記載された発明というこ
とができる。
 (3) これに対し,原告らは,刊行物2の実施例1及び4,本件明細書の図1の○
点,×点,△点のデータ,本件明細書の実施例1について追試実験した結果を記載
した実験報告書(甲7)を提出し,刊行物2の実施例4記載の条件に従って製造さ
れたニッケル粉は,本件特許の請求項1の特性をすべて満たすものではないと主張
する。
 しかしながら,この追試実験は,装置L/Dの数値を刊行物2の実施例につい
て「6」,本件発明について「13.7」と設定して行われている。他方,本件明細書の
図1の×点,○点,△点のデータ(本件明細書にはその具体的な製造条件について
記載がない。)に関する製造実験は,装置L/Dの条件のみを変え,他の条件は本
件明細書実施例4の記載に従って行われ,その結果,装置L/Dの数値をそれぞ
れ「6」及び「8.9」と設定した×点,△点については(2)式を満たさず,同数値
を「13.7」と設定した○点については(2)式を満たすとの結果を得ている。同実験結
果によれば,装置L/Dの数値はタップ密度の数値を左右する要素の一つであるこ
とが窺われる。
 上記追試実験において,刊行物2の実施例について装置L/D値を「6」とし,本
件発明の実施例について装置L/D値を「13.7」とした理由について,上記実験報
告書には刊行物2の記載や本件発明の開発経緯を参考にしたものであると記載され
ている。しかしながら,前記のとおり,装置L/D値はもとより,反応管径D及び
反応部長Lについても,本件明細書及び刊行物2には全く記載がないのであるか
ら,装置L/Dの数値をいかに設定するかは当業者に任された設計事項というべき
であり,刊行物2の実施例について装置L/D値を「6」(本件発明の図1の追試で
は装置L/D値を「6」とした場合にタップ密度が最も小さくなっている。)に設定
し,本件発明の実施例について装置L/D値を13.7(本件発明の図1の追試では装
置L/D値を「13.7」とした場合にタップ密度が最も大きくなっている。)と設定
すべき合理的な理由は見出すことができない。
 したがって,原告らの行った追試実験の結果は,刊行物2の実施例1及び4記載
の条件に従って製造されたニッケル粉の平均粒径,タップ密度,粒度分布の幾何標
準偏差,平均結晶子径を正確に示しているものと認めることはできない。
 (4)原告らは,仮に,決定の説示するとおり,刊行物2に記載された製造方法に
より製造されたニッケル超微粉が本件請求項1記載の特性を満たすことがあるとし
ても,それはごく一部にすぎず,それ以外の物は上記特性を満たさないと主張す
る。しかしながら,前記のとおり,本件発明は「新規な物の発明」であるから,刊
行物2に記載された製造方法に基づいて製造されたニッケル粉の一部が本件請求項
1記載の特性を満たすものであったとしても,本件発明は刊行物2に記載された発
明であると認定することを妨げないというべきである。
 (5) 以上のとおりであるから,本件発明は,刊行物2に記載された発明であると
した決定の判断に誤りはなく,原告らの主張する取消事由1は採用することができ
ない。
 2 取消事由2(実施可能要件についての判断の誤り)について
 (1) 我が国の特許制度は,産業政策上の見地から,自己の発明を公開して社会に
おける産業の発達に寄与した者に対し,その公開の代償として,当該発明を一定期
間独占的,排他的に実施する権利(特許権)を付与してこれを保護することにして
いる。特許請求の範囲,明細書及び図面は,特許発明の技術的内容を公開するとと
もに,その技術的範囲を明示する役割を担うものであるところ,特許法36条4項
は,明細書の発明の詳細な説明の記載について,その発明の属する技術の分野にお
ける通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に記載しなけ
ればならないとしている(なお,平成6年法律第116号による改正前の特許法3
6条4項は「当業者が容易にその実施をすることができる程度に」と規定し,改正
後の同条項は,「容易に」を削除し,「明確かつ十分に」と加えているが,要件が
過重又は緩和されたものではなく,解釈上も運用上も実質において差異はないもの
と解される。)。
 ここでいう「実施」とは,「物の発明」の場合,その物を製造,使用等すること
であるから,当業者がその物を製造することができる程度に記載しなければならな
いことはいうまでもなく,そのためには,明細書,図面全体の記載及び技術常識に
基づき特許出願時の当業者がその物を製造できるような場合を除き,具体的な製造
方法を記載しなければならないと解すべきである。
(2) ところで,原告らは,本件発明は新規な「物」の発明ではなく,新規で有用
性の高い用途を持つニッケル超微粉を選択するための「指標」に関する発明である
と主張する。
 しかしながら,本件発明の対象は,本件請求項1及び2の記載によれば,一定の
特性を有することを特徴とする「積層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉」
であるというのであり,さらに本件明細書にも以下の記載がある。
 (ア) 「【産業上の利用分野】 本発明は,積層セラミックコンデンサーの内部電
極にも用いられるニッケル超微粉に関するものである。」(段落【0001】)
 (イ) 「【従来の技術】 …特開平1-136910号公報には,純度99%以
上,粒径0.1~0.3μmのニッケル粉を湿式法で製造する方法が開示されているが,
実際にペーストを試作して電子部品の電極に使用したという記述はない。しかしな
がら,本発明者らの調査では,従来の湿式法によるニッケル粉をペーストにして積
層セラミックコンデンサーの電極とする場合,焼成時に体積変化が大きくデラミネ
ーションやクラックの発生が多発しやすいことが判明した。…」(段落【0003】)
 (ウ) 「【発明が解決しようとする課題】 本発明は,このような従来技術の問題
点に鑑み,積層セラミックコンデンサー製造工程におけるクラックや剥離が発生し
にくい,低抵抗な電極材料としてのニッケル粉を提供することを目的とする。」
(段落【0006】)
 (エ) 「【課題を解決するための手段】 本発明は,平均粒径が0.1~1.0μmで,
かつタップ密度が(2)式で表される条件を満足する積層セラミックコンデンサー用ニ
ッケル超微粉であり,その粒度分布の幾何標準偏差が2.0以下,かつ平均結晶子径が
平均粒径の0.2倍以上である。さらには塩化ニッケル蒸気の気相水素還元方法によっ
て製造されるのが望ましい。」(段落【0007】)
 (オ) 「【実施例】実施例1 図2に示すような反応器1を用い,蒸発部2のルツ
ボ3に原料の塩化ニッケルを入れ,10リットル/分のアルゴンガス4中に濃度(分
圧)が8.0×10ー2
なるように加熱,蒸発させた。この原料混合ガスを蒸発部2の下流
に位置する1050℃(1323K)に設定した反応部5へ輸送し,反応部5の中央ノズル6
から下向きに5リットル/分の割合で供給される水素7と接触・反応させて反応を起
こさせた。発生したニッケル粉はガスとともに冷却部9を通過させた後,図示省略
した捕集装置で回収した。…」(段落【0014】)
 本件特許請求の範囲及び明細書の上記記載によれば,本件発明は,積層セラミッ
クコンデンサー用ニッケル超微粉を提供することを目的とする「物の発明」であ
り,既存のニッケル超微粉から特定の物性を有するものを選択する「指標」に関す
る発明ということはできない。原告らが主張するように,本件発明が特定の用途に
特定の物性が大きな影響を与えることを見出した発明であるのなら,特定の用途に
用いるニッケル超微粉を特定の物性により選択する方法の発明として特許請求の範
囲を記載するとともに,その具体的な選択方法について明細書に記載すべきである
が,本件特許請求の範囲及び明細書にはそのような記載はなされていない。
 したがって,本件発明は,特定の用途に特定の物性が大きな影響を与えることを
見出した発明であるとはいえず,新規な物の発明というべきである。
(3) そこで,本件明細書の発明の詳細な説明に,新規な物の発明である本件発明
を当業者が容易に実施することができる,すなわち本件発明に係るニッケル超微粉
を容易に製造することができる程度にその製造方法が記載されているかどうかにつ
いて検討する。
 ア 本件明細書には,本件発明に係るニッケル超微粉の製造方法について,以下
の記載がある。
 「ニッケル純度は99.5重量%以上が好ましく,99.5重量%未満では焼成時にデラ
ミネーションやクラックが発生しやすいだけではなく,電極としての特性が低下
(比抵抗が大きくなる)する。このような特徴を持つニッケル粉の製造方法として
は,塩化ニッケルの気相水素還元法が挙げられる。従来の湿式法は,ニッケル粉の
製造温度が低温(<100℃)であるのに対し,塩化ニッケルの気相水素還元法は,製
造温度が高温(1000℃付近)であるため,結晶が大きく成長(微細な1次粒子の集
合体でない)することによって焼成時に過焼結が発生しにくい。また,気相水素還
元法では,粒形状が球状となり,純度99.5%以上のものが得やすい有利な点もあ
る。上記特徴を持つニッケル粉を効率よく製造するために,反応器を用いて塩化ニ
ッケル蒸気と水素を化学反応させる方法が適している。具体的には,塩化ニッケル
蒸気濃度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ塩化ニッケル蒸気と水素を1004℃(1277K)
~1453℃(1726K)の温度で化学反応させる。」
イ 上記記載によれば,本件明細書には,本件発明に係るニッケル粉を製造する
具体的方法として,塩化ニッケルの気相水素還元法を採用し,塩化ニッケル蒸気濃
度(分圧)を0.05~0.3とし,かつ塩化ニッケル蒸気と水素を1004℃(1277K)~
1453℃(1726K)の範囲内で化学反応させるという方法が記載されているということが
できる。その上で,本件明細書には,実施例1ないし5,比較例1ないし6が開示
されている。このうち,実施例1ないし5と比較例1及び2に係るニッケル粉は,
いずれも塩化ニッケルの気相水素還元法を用い,塩化ニッケルの蒸気濃度(分圧)
と反応部温度を上記数値の範囲内に設定し,他の条件は同一にして製造されたもの
であるが,その結果を見ると,実施例1ないし5のニッケル粉のタップ密度は(2)式
(タップ密度≧-2.5×(平均粒径)2
+7.0×(平均粒径)+0.8)を満たしているが,
比較例1及び2のニッケル粉のタップ密度は(1)式(タップ密度≧-2.5×(平均粒
径)2
+7.0×(平均粒径)+0.6)は満たすものの,(2)式は満たしていない。このこと
は,本件明細書に記載された上記製造方法に従ってニッケル粉を製造したとして
も,本件請求項1記載の特性を満たすニッケル粉が製造できるとは限らな
いことを示しているということができる。
 ウ さらに,本件特許については,その出願時の請求項1は,
「平均粒径が0.1~1.0μmで,かつタップ密度が(1)式で表される条件を満足する積
層セラミックコンデンサー用ニッケル超微粉。
 タップ密度≧-2.5×(平均粒径)2
+7.0×(平均粒径)+0.6 ・・・(1)式」
であったが,その後の手続補正により上記(1)式は(2)式に限定されるとともに,粒
度分布の幾何標準偏差,平均結晶子径についての要件が付加され,それに伴い,出
願当初の明細書の実施例7及び8は比較例1及び2に変更されたという経緯がある
(この点は当事者間に争いがない。)。そして,本件明細書には,(1)式を満たすニ
ッケル粉と(2)式を満たすニッケル粉の違いについて,前者はクラック,デラミネー
ション発生率が10%以下であるのに対して,後者は同発生率が5%以下であると
記載されている(段落【0011】)。
 このように,本件発明は積層セラミックコンデンサー焼成時におけるクラック,
デラミネーション発生率をより少なくするために,ニッケル超微粉のタップ密度が
満たすべき条件を(1)式から(2)式に限縮したものであるから,それに伴い,(2)式を
満たすニッケル粉を当業者が製造することが可能となる具体的な製造方法を明細書
に記載しなければならないことは当然である。ところが,前記のとおり,本件明細
書の発明の詳細な説明に記載された製造方法に従って製造されたニッケル粉は(1)式
は満たすものの,(2)式については必ずしも満たすとは限らないのであるから,本件
明細書の発明の詳細な説明に記載された製造方法は,当業者が容易に本件発明を実
施をすることができる程度に記載されているということはできない。
 (4) これに対し,原告らは,当業者が本件明細書に接すれば,本件発明に係るニ
ッケル超微粉の製造条件が,実施例に記載された条件の範囲である塩化ニッケル蒸
気濃度0.05~0.2及び反応温度1010℃~1070℃であると直ちに理解できると主張して
いる。
 しかしながら,本件発明にかかるニッケル粉の製造方法,とりわけ塩化ニッケル
蒸気濃度と反応温度については,本件明細書の段落【0013】にその上限値と下限値
とからなる範囲(塩化ニッケル蒸気濃度につき0.05~0.3,反応温度につき1004℃~
1453℃)が明記されているのであり,実施例はその範囲内の数値を採用して実施し
たことを示すにすぎず,実施例に記載された塩化ニッケル蒸気濃度と反応温度の最
高値と最低値をもって本件明細書が製造条件を記載したものとは到底理解できな
い。
 (5) 原告らは,本件請求項1に記載された指標が提示されれば,当業者であれ
ば,通常の試行錯誤の範囲内で,本件明細書に記載された製造方法の範囲内におい
て,特定の製造装置ごとに細部の技術的条件を変化させ,その結果得られた粉体の
特性と指標とを比較しながら,適した製造条件を決定することができると主張す
る。
 しかしながら,当業者が本件請求項1記載の特性を満たすニッケル超微粉を製造
するために本件明細書に記載された製造条件のほかにいかなる条件設定をすべきか
については,本件明細書及び図面に何ら示唆はない。そして,刊行物1(甲6)に
はキャリアガス流量により平均粒径が変化する旨の記載が存在し,甲8には反応時
間の設定が平均粒径に影響を与える旨の記載がなされ,前記実験報告書(甲7)に
は装置L/Dの数値がタップ密度の特性に関与していることが示されているよう
に,塩化ニッケル蒸気濃度及び反応温度以外のいかなる条件が平均粒径又はタップ
密度に影響を与えるのかについては,本訴で提出された証拠からも明らかとはいえ
ず,まして本件特許の出願当時にかかる条件設定についての技術常識が存在したこ
とを示す的確な証拠もない。したがって,当業者は,本件発明を実施するに際し
て,本件明細書に記載された塩化ニッケル蒸気濃度及び反応温度のほか,様々な条
件を設定・変更して不相当に多くの試行錯誤をしなければならないことは明らかで
あって,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が本件請求項1及
び2に係る発明を容易に実施し得るということはできない。
 (6) 原告らは,本件発明は新規な物の発明ではなく,有用性の高い用途を持つニ
ッケル微粉を選択する指標を与えるものであるとの前提に立ち,本件明細書記載の
製造方法であれ,従来の製造方法であれ,本件請求項1記載の指標が明確である以
上,当業者は製造された粉体から本件請求項1の粉体特性を有する粉体群を選択す
ることができるのであるから,当業者が本件発明を実施するのは可能であると主張
する。
 しかしながら,本件発明は新規な物の発明であり,有用性の高い用途を持つニッ
ケル微粉を選択する指標に関する発明ではないことは前記のとおりであり,原告ら
の主張はその前提において失当である。本件発明は,新規な物の発明である以上,
本件明細書の発明の詳細な説明には,当業者がその発明を実施し得る程度にその製
造方法を記載すべきところ,本件明細書はその要件を満たしていないことは前記判
示のとおりである。 
 (7) 原告らは,そもそも,微粉体の製造においては,特定の粉体特性の粉体のみ
を100%製造することは不可能であり,(1)式を満たすニッケル粉と(2)式を満た
すニッケル粉を区別する製造方法の記載を求めるのは誤りであると主張する。
 しかしながら,発明を実施する際に一定の特性を具備する粉体のみを現実に10
0%製造することが可能かどうかは別としても,原告らが本件請求項記載の特性を
有するニッケル粉について特許権の付与を求める以上,少なくとも(1)式を満たすニ
ッケル粉と区別して(2)式を満たすニッケル粉を当業者が製造し得る具体的な方法を
本件明細書に記載すべきは当然であり,そのような記載を求めることが誤りである
ということはできない。
 (8) 原告らは,決定が,一方で刊行物2に記載されたニッケル超微粉は本件請求
項1及び2のニッケル超微粉と同一の製造方法で製造された物を含むとしながら,
他方で本件明細書の詳細な説明には当業者が本件発明を容易に実施できる程度に記
載されていないとしているのは,矛盾していると主張する。
 しかしながら,本件発明が刊行物2に記載されているかどうかの判断と,本件発
明に係るニッケル超微粉の製造方法が当業者が容易に実施し得る程度に記載されて
いるか否かの判断とは,異なる事項に関する判断であり,本件明細書の詳細な説明
に本件発明の製造方法が当業者が実施可能な程度に記載されていないという判断を
しつつ,他方で本件発明が刊行物2に記載されていると判断したとしても,何ら矛
盾するものではない。
 (9) 以上のとおりであるから,本件明細書の発明の詳細な説明は,特許法36条
4項に違反しているというべきである。したがって,原告らの取消事由2の主張は
理由がない。
 3 結論
 以上のとおり,原告らの主張する取消事由はいずれも理由がないので,原告らの
請求はいずれの見地からも棄却されるべきである。
  知的財産高等裁判所第4部
        裁判長裁判官
                   塚   原   朋   一
           裁判官
                   田   中   昌   利
           裁判官
                   佐   藤   達   文

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛