弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人山根静人同矢部善夫同高橋吉家の上告趣意は末尾に添附した別紙記載の通
りである。
 弁護人山根静人上告趣意第一点同二点について。
 しかし、原判決が証拠として挙示した第一審第二回公判調書中の被告人の供述、
並に第一審第五回公判調書中のAの証言によれば、被害者B方はCという看板で待
合業を営んで居り、被害家屋はAが住んで居る母屋とは別棟で所謂離れではあるが、
同人の営業用に使用しているもので同建物には押入のある座敷があり、其押入には
常に寝具を準備してあつて被告人も同建物内に数回寝泊りした事実、並に犯行のあ
つた晩も同離れには一人の客が来て使用した事実を認め得る。以上の事実により、
同建物には昼夜間断なく人が現在するとはいえないがAの経営している待合業の為
め日夜人が出入し、且つ起臥寝食の場所として使用している建物であることを認め
得るから、被害建物は現に人の居住に使用して居ることの証拠がないとはいえない。
そして原判決は挙示の証拠によつて被害家屋は人の居住に使用している家屋である
と認定したのであり、前説明のとおりその認定には何等法則に違反するところは認
められないから、判示事実に対し刑法第一〇八条を適用したことは当然であつて、
所論のような擬律錯誤はない。従つて論旨は理由がない。
 同第三点について。
 前点について説明したとおり、被害家屋はA方の所謂離れであつて、Aの営業用
として日常家人は出入し且つ客人は同建物内に寝泊りをなし犯行のあつた晩も一人
の客人が同建物を使用したという点にかんがみて刑法第一〇八条の現に人の住居に
使用する建物に該当すると認定したものであつて、母屋と一体をなしていると認定
したものではなく、また客の住居であると認定したものでないことは判文上明白で
あるから論旨は理由がない。
 同第四点について。
 しかし論旨は原判決挙示の証拠の内被告人に対する検事聴取書を除けば、被告人
の放火の意思を認定すべき資料はないと主張する。なるほど所論のように、検事聴
取書以外の挙示の証拠を個々別々に観察すれば、それだけでは被告人に放火の犯意
のあつたことを認定することはできない、しかし原判決は挙示の証拠を綜合した判
示事実を認定したものであり、犯意の点については、被告人に対する検事聴取書の
真実性を確かめるため右聴取書以外の各証拠を補強証拠としたものであることを認
め得るから、所論のように被告人の自白を唯一の証拠としたものではない。そして
挙示の各証拠を綜合すれば、判示事実を認定し得る。従つて所論の如き違法はない。
論旨は理由がない。
 同第五点について。
 所論の如く被告人は犯行当夜酒を飲んでいた事実を認め得る、しかし原審におい
ては、被告人の供述其他諸般の状況を考え合せ、被告人は心神喪失の状況でもなく、
また心神耗弱の状態でもなかつたと認めたものであることを窺ひ知ることができる。
そして原審において被告人からもまた弁護人から心神喪失もしくは心神耗弱の状態
であつたことの主張をした形跡は認められないから、此点について特に判断を示さ
なかつたとしても、旧刑事訴訟法第三〇六条第二項に違反するものではない。論旨
は理由がない。
 同第六点について。
 論旨は原判決は控訴審制度に反した違法があると主張する。しかし原審において
は、法律の規定に従つて一切の公判手続を行い、第一審で訊問しなかつた証人の喚
問もして事実の審理につとめていることは記録上明らかである、従つて所論のよう
に、原判決の理由と証拠説示とが第一審判決と同様であつたとしても、証拠調の限
度並に証拠の採否を決することは原審の自由になし得るところであり且つ判決文の
作成もまた、法律の規定に反しない限り自由に決し得るところであるから、たまた
ま原判決が第一審判決と同様のものであるとしても、法則に違反しない限り、これ
を目して控訴審制度に反するものとはいえない、なお論旨は原判決は公判中心主義
に反した違法があると主張する、しかし原判決挙示の証拠は何れも公判において取
調をしたものであるから、所論公判中心主義に反するものではない、論旨は公判中
心主義並に控訴審制度に名をかりて原審の自由に決し得る証拠調の限度並に証拠の
採否について非難をなし結局事実誤認の攻撃をすることに帰着するから採用できな
い。
 弁護人矢部善夫同高橋吉家上告趣意第一点について。
 按ずるに論旨は、被告人に対する司法警察官の訊問調書は、強制、脅迫による被
告人の自白を録取したものであり、原判決において証拠として挙示した被告人に対
する検事聴取書は、右強制脅迫によつて作られた司法警察官の訊問調書(昭和二三
年三月二九日附)を基礎として粉飾補充せられて出来たものであると主張し、其然
る所以を説明したものである、しかし論旨に挙げている原審第一回公判調書中裁判
長が被告人に対し、(一)「検事に対しても同様に述べているではないか」と問を
発したのに対し被告人は「警察で作つた書類通りにいうたのです」と答えているだ
けである、もしも所論のように被告人に対する警察官の訊問調書並に検事の聴取書
が強制、脅迫によつて作成されたものとすれば、右裁判長の問に対し其旨を供述す
べき筈であるのに警察官に強制されたとか検事に強制されたとは一言も述べていな
い、従つて被告人の供述によつて検事聴取書は強制によつて作成されたものとは認
められない。次に(二)「被告人は検察庁でB方へ火を点けたことがあると述べて
いる様だがこれはどうしてか」と裁判長が問を発したのに対し、被告人は「それは
私が検事さんのお調べを受けて居る時検事さんは私にお前がDと一緒になる前B方
へ火を点けたことがあると言はなくては書類が出来ないと言はれたので私は言つて
しまつた丈けでありまして実際は斯様なことは絶対に致しておりません」と答えて
居ることは明らかであるが、右供述は本件犯行とは関係のない、昭和二一年一〇月
頃の被害者A方の丸窓の燃えたことに関するものであつて、検事の第三回聴取書作
成に際して為した被告人の弁解であつて、本犯行に関係のないことであり、且つ右
記載のある第三回検事聴取書は、原判決において証拠として挙示したものではない。
従つて右供述記載を根拠として原判決挙示の第二回検事聴取書は強制脅迫によつて
作成されたものと断ずることはできないから、これを証拠としても何等違法とはな
らない。従つて原判決挙示の検事聴取書は強制脅迫によつて作成されたということ
を前提として、原判決は憲法第三八条第二項、刑訴応急措置法第一〇条第二項に違
反するという論旨は、理由なきものである。
 同第二点について。
 しかし論旨にも挙げているように、被告人は相当酔つては居りましたがCに行つ
た時前後不覚という程度ではありませんでしたと述べているばかりでなく、所論E
と二人で焼酎を飲んだ以後の被告人の行動については、明確に陳述している等の点
から観察して、原審においては被告人犯行当時の精神状態は、心神喪失状態である
とか、心神耗弱状態であるとは認めなかつたことを窺い知ることができる、かよう
に精神状態の異状を疑うに足る合理的の理由のない場合において、特に精神鑑定を
なさしめないとか、証人調をして精神鑑定をなさしめないとか、証人調をして精神
状態を確かめる等のことをしないからとて、審理不尽であるとはいい得ない、論旨
は理由がない。
 同第三点について。
 按ずるに有罪判決をなすには、犯罪事実を認定するに足る証拠を挙示すればよい
のであつて、他の証拠を採用しなかつた理由を一々説明する必要はない。所論の遺
留物の存在したことは、記録上明白であるが、原審においては、本件犯罪事実を認
定する為めには直接影響なきものと判断して、所論遺留物を証拠としなかつたにす
ぎないものと認められる。そして所論遺留物は、放火罪の構成要件とは直接関係の
ないものであることは明らかであるからこれについて判断をしないからとて判断遺
脱の違法があるとはいえない。論旨は結局、原審の自由裁量にゆだねられている証
拠調の限度、並に証拠採否を非難することに帰するから、上告適法の理由とはなし
得ない。
 よつて旧刑事訴訟法第四四六条により主文のとおり判決する。
 以上は、裁判官全員一致の意見である。
 検察官 柳川真文関与
  昭和二四年六月二八日
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長 谷 川   太 一 郎
            裁判官    井   上       登
            裁判官    島           保
            裁判官    河   村   又   介
            裁判官    穂   積   重   遠

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