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平成14年(行ケ)第39号 審決取消請求事件
     判    決
 原 告 株式会社ダスキン
 訴訟代理人弁理士 青山葆、河宮治、大森忠孝、田代攻治、大畠康
 被 告 クリーンテックス・ジャパン株式会社
 訴訟代理人弁理士 岩崎幸邦、原裕子
     主    文
 特許庁が平成11年審判第35111号事件について平成13年12月10日に
した審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
     事実及び理由
第1 原告の求めた裁判
 主文第1項同旨の判決。
第2 事案の概要
 1 特許庁における手続の経緯
 原告は、名称を「レンタル用靴拭きマット」とする特許第2667115号発明
(平成6年3月15日特許出願、平成9年6月27日設定登録。本件発明)の特許
権者であるが、被告は、平成11年3月12日、本件発明について無効審判請求を
し、平成11年審判第35111号事件として審理された。
 同審判事件について、平成11年11月15日、本件審判の請求は成り立たない
との審決(第1次審決)があり、その取消訴訟(東京高裁平成11年(行ケ)第4
38号。第1次訴訟)において、平成12年12月26日第1次審決を取り消す旨
の判決(第1次判決)があり、同審判事件について再度審理が行われた結果、平成
13年12月10日、「特許第2667115号の請求項1ないし8に係る発明に
ついての特許を無効とする。」との審決(第2次審決)があり、その謄本は同月1
9日原告に送達された。本訴はこの第2次審決の取消訴訟である。
 被告は、審判請求の理由として、本件発明1~8(請求項1~8に記載の各発
明)は、審判甲第1号証(特開平4-138126号公報)、審判甲第2号証(特
表昭61-501462号公報)、審判甲第3号証(特開平6-49763号公
報)、審判甲第4号証(特開平1-227715号公報)及び審判甲第5号証(特
開平4-71522号公報)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたと
主張している。
 2 本件発明の要旨
【請求項1】基布と、基布にタフト化されたマットパイルと、基布の非パイル面に
施されたエラストマーバッキングとを備えたレンタル用靴拭きマットにおいて、基
布幅方向のタフトステッチの列が、基布幅方向に対して斜めに若干傾斜して、一方
の折返し点から幅方向に所定の一定間隔及び長手方向に小間隔をおいた他方の折返
し点に至るようにジグザグ状に形成されていて、全体として基布長手方向に延びる
タフトステッチの帯状列を形成しており、タフトステッチの長手方向に隣り合った
前記折返し点を結ぶ境界線は、前記折返し点間ピッチよりも大きいピッチのジグザ
グ状境界線を形成しており、基布幅方向に隣り合ったタフトステッチの帯状列の折
返し点同士は共通のジグザク状境界線上に位置すると共に、一方の側の帯状列の折
返し点が他方の側の帯状列の長手方向に隣り合った折返し点の中間に位置し、マッ
トパイルは互いに色相の異なる複数のマットパイル面を有し、マットパイルには全
く死糸がなく、且つ隣り合った色相の異なるマットパイル面間には少なくとも1個
の非ステッチ部が介在していることを特徴とする靴拭きマット。
【請求項2】長手方向に隣り合ったタフトステッチの列が、互いに寸法が異なるよ
うに設けられている請求項1記載の靴拭きマット。
【請求項3】タフトステッチの基布幅方向の折返し点間の平均幅寸法(W)が20
乃至80mmで且つ長手方向の折返し点間のピッチ(Ps)が3乃至20mm及び
幅方向のずれ寸法(Ws)が2乃至16mmである請求項1または2記載の靴拭き
マット。
【請求項4】ジグザグ状境界線の基布幅方向の出入り寸法(Z)が5乃至25mm
であり、且つ長手方向ピッチ(Pz)が20乃至80mmである請求項1、2また
は3記載の靴拭きマット。
【請求項5】基布が延伸ポリエステルフィルムの偏平スリットヤーンの平織布から
成る請求項1記載の靴拭きマット。
【請求項6】基布が延伸ポリエステルフィルムの偏平スリットヤーンの平織布に合
成繊維の綿状繊維をニードルパンチングした基布から成る請求項1記載の靴拭きマ
ット。
【請求項7】マットパイルがナイロン繊維或いはアクリル繊維のマルチフィラメン
ト糸或いは紡績糸であり、その太さが500乃至5000デニール/本、撚数が5
0乃至300回/メートル及びパイル長が5乃至30mmである請求項1記載の靴
拭きマット。
【請求項8】基布へのマットパイルの打ち込み本数が5乃至15本/インチである
請求項1記載の靴拭きマット。
 3 審決の理由の要点
 (1) 本件発明1についての第2次審決の判断
 (1)-1 対比
 本件発明1と審判甲第3号証(特開平6-49763号公報)に記載の発明とを
対比すると、後者の「基布にタフト化されたパイル」、「織物製品」は、それぞれ
前者の「基布にタフト化されたマットパイル」、「マット」に相当している。
 そして、審判甲第3号証発明は、「模様入」織物製品であるから、「パイルは互
いに色相の異なる複数のパイル面を有し」たものといえる。
 さらに、審判甲第3号証発明における「タフトステッチの帯状列」は、その形状
から、「パイルには全く死糸がない」状態を生ずるものであることが明らかであ
る。
 したがって、両者は、
「基布と、基布にタフト化されたマットパイルとを備えたマットにおいて、基布幅
方向のタフトステッチの列が、基布幅方向に対して斜めに若干傾斜して、一方の折
返し点から幅方向に所定の一定間隔及び長手方向に小間隔をおいた他方の折返し点
に至るようにジグザグ状に形成されていて、全体として基布長手方向に延びるタフ
トステッチの帯状列を形成しており、タフトステッチの長手方向に隣り合った前記
折返し点を結ぶ境界線は、前記折返し点間ピッチよりも大きいピッチのジグザグ状
境界線を形成しており、マットパイルは互いに色相の異なる複数のマットパイル面
を有し、マットパイルには全く死糸がな(い)マット」
の点で一致し、
 a.マットに関し、本件発明1が、「基布の非パイル面に施されたエラストマー
バッキングを備えたレンタル用靴拭き」マットとしたのに対し、審判甲第3号証発
明は、そのようなマットの構成及び用途に特定されていない点(相違点1)、
 b.タフトステッチの帯状列に関し、本件発明1が、「基布幅方向に隣り合った
タフトステッチの帯状列の折返し点同士は共通のジグザグ状境界線上に位置すると
共に、一方の側の帯状列の折返し点が他方の側の帯状列の長手方向に隣り合った折
返し点の中間に位置」するのに対し、審判甲第3号証発明は、その配置関係が明確
にされていない点(相違点2)、
 c.本件発明1が、「隣り合った色相の異なるマットパイル面間には少なくとも
1個の非ステッチ部が介在している」のに対し、審判甲第3号証発明は、そのよう
な構成を有していない点(相違点3)、
 (1)-2 相違点1についての第2次審決の判断
 審判甲第3号証記載の課題をレンタル用靴拭きマットにおいても解決し、審判甲
第3号証記載の効果を奏するように、審判甲第3号証発明のマットの用途としてレ
ンタル用靴拭きマットを選ぶことは当業者が容易に推考し得るものというべきであ
る。
 (1)-3 相違点2についての第2次審決の判断
 審判甲第3号証発明において、第5図に示される、1本の針によって形成される
タフトと同一形状のタフトが、横断方向、すなわち、基布幅方向に間隔をあけて設
けた複数の各針により形成され、しかもタフト形成の際に、基布を隣接する針の間
隔に相当する距離だけ横断方向に移動させるものであるから、それら同一形状のタ
フトを基布幅方向に並べた場合を考察すれば、「基布幅方向に隣り合ったタフトス
テッチの帯状列の折返し点同士は共通のジグザグ状境界線上に位置すると共に、一
方の側の帯状列の折返し点が他方の側の帯状列の長手方向に隣り合った折返し点の
中間に位置」する配置関係となることは容易に理解されるところである。
 (1)-4 相違点3についての第2次審決の判断
 タフテッド織物製品等のマットにおいて、基布の幅方向の隣り合った色相の異な
るマットパイル面(「互いに異なる糸からなる複数のパイル領域」が相当。)間に
少なくとも1個の非ステッチ部(「糸を植えつけない位置」が相当。)を介在させ
ることにより、適宜の模様を形成することは、審判甲第2号証(特表昭61-50
1462号公報)に記載されているように周知技術(他に審判甲第4号証(特開平
1-227715号公報)も参照)であるから、審判甲第3号証発明において、か
かる周知技術を適用することは、当業者にとって容易である。
 (1)-5 本件発明1の効果についての第2次審決の判断
 次に、本件発明1により奏される効果について検討する。
 ア)位置ずれ防止について
 位置ずれ防止の点を本件明細書記載のとおりに本件発明1の効果として認めるこ
とは困難である。のみならず、審判甲第3号証記載のカーペットも同じタフトステ
ッチ組織から成る以上、本件発明1同様に位置ずれ防止という課題を達成している
ものと認めるべきものである。
 イ)波打ち防止について
 本件発明1の「使用・洗浄再生を反復したときの波打ちの発生を有効に防止する
ことができる。」という作用効果は、審判甲第3号証記載の基布の具体的用途とし
て記載されたカーペットに内在する作用効果でしかなく、審判甲第3号証から容易
に予測し得るものというべきである。
 ウ)その他の効果について
 糸の使用量の節減、パイルの柔軟性や風合い、ダスト吸着性やダスト保持性につ
いては、審判甲第3号証に記載の事項から、また、鮮明なパターンの形成について
は、審判甲第2号証に記載の事項から、それぞれ当業者が予測し得る範囲内のもの
と認められる。
 (1)-6 本件発明1についての第2次審決判断のまとめ
 以上のとおりであるので、本件発明1は、上記各審判甲号証に記載された発明に
基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。
 (2) 本件発明2~8についての第2次審決の判断
 本件発明2~8は、それぞれ規定されている事項を本件発明1に限定付加したも
のであるが、それらの事項はいずれも設計事項であることなどから、本件発明1と
同様に、上記各審判甲号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をする
ことができたものである。
 (3) 第2次審決のむすび
 以上のとおり、本件発明は、審判甲第1号証ないし審判甲第5号証に記載された
発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるので、本件発
明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであ
り、同法第123条第1項第2号に該当し、無効とすべきものである。
第3 原告主張の審決取消事由
 第2次審決は、本件発明1と審判甲第3号証記載の発明との間の相違点1~3に
ついての判断を誤り、本件発明1の作用効果の判断を誤ったものであり、その結
果、本件発明2~8についての容易推考性判断も誤ったものであって、取り消され
るべきである。
第4 当裁判所の判断
 以下、被告の反論及び積極的主張にも触れつつ審決取消事由について判断する。
 1 相違点1、2に関する第2次審決の判断について
 甲第8号証によれば、本件無効審判請求を成り立たないものとした第1次審決に
対する第1次訴訟において、その訴訟の被告であった本訴原告は、審判甲第3号証
に、本件発明の要旨にある特定の二重ジグザグ構造のタフトステッチ列が示されて
いるとした第1次審決の認定については特段の主張をせずに、「隣り合った色相の
異なるマットパイル面間には少なくとも1個の非ステッチ部が介在している」との
本件発明1の構成(第2次審決が、相違点3として認定した部分に係る構成)が、
審判甲第3号証には記載もなく示唆もないことを第1次訴訟で主張していたにとど
まることが認められる。特許権者である原告としては、第1次訴訟において審判甲
第3号証との間の構成の相違を主張するべき立場にあったことを踏まえて、上記の
第1次訴訟において判決に至った経緯にかんがみると、この非ステッチ部の介在に
関する構成以外の構成(第2次審決認定の一致点及び相違点1、2に係る構成)に
ついては、審判甲第3号証に記載があるか、又は審判甲第3号証から容易想到であ
ることは、第1次訴訟において既に審理が尽くされ、かつ第1次判決(甲第8号
証)で判断されていて、この判断は、再度されるべき審決に対して拘束力を有する
と評価すべきものである。相違点1、2に関してした第2次審決の判断は、第1次
判決のこの拘束力に従ってしたものであり、この判断の誤りをいう原告の審決取消
事由は理由がない。
 また、第2次審決がした本件発明1の効果に関する認定判断は、「マットの位置
ずれ防止及び波打ちの発生防止がレンタル用靴拭きマットに特有の課題であるとは
いえず、そのことについての本件発明の作用効果についても、そもそも効果として
認めることができないか、又は審判甲第3号証記載の発明から容易に推考し得るも
のにすぎないということができる。」とした第1次判決の理由に従った判断であ
り、第1次判決の拘束力に従ったものであるから、本訴において、この判断に誤り
があると主張することは許されない。
 2 相違点3についての第2次審決の判断について
 被告は、相違点3についての第2次審決判断も第1次判決の拘束力に従ったもの
であって、原告がその誤りを主張することは許されないかのように主張する。しか
し、甲第8号証によれば、第1次判決は、相違点3の容易想到性判断についての判
断をせずに、第1次訴訟の被告(本訴原告)の上記主張に基づき、審判において更
に審理がされることがあり得る旨示唆していることが認められるのであり、被告の
上記主張は理由がない。そこで、以下、相違点3についてした第2次審決の判断に
誤りがあるか否かについて検討する。
 (1) 相違点3に係る本件発明1の構成とは、「隣り合った色相の異なるマットパ
イル面間には少なくとも1個の非ステッチ部が介在している」との構成である。
 本件明細書(甲第2号証)には、「レンタル用靴拭きマットは、・・・ファッシ
ョン性のあるものが好まれており、タフトとして複数の色相のタフトパイルを用い
た色柄のものが使用されている。」(【0004】)、及び「本発明の目的
は、・・・色柄が鮮明で、・・・レンタル用色柄靴拭きマットを提供するにあ
る。」(【0009】)、及び「隣り合った色相の異なるマットパイル面間に、少
なくとも1個の非ステッチ部を介在させることにより、マットパイル面の境界部分
における色相の異なるマットパイルの混在を有効に防止することができ、これによ
り、鮮明で明確なパターンをマット表面に形成することができる。」(【002
4】、【0052】)との各記載のあることが認められる。
 これらの記載によれば、相違点3に係る本件発明1の構成は、複数の色相のタフ
トパイルを用いることを前提とし、異なる色相の境界部における色相の異なるマッ
トパイルの混在を防止するために採用された構成であって、同構成により鮮明で明
確な色パターンが得られるものと認められる。すなわち、相違点3に係る本件発明
1の構成は、複数の色相のタフトパイルを用いる構成と、非ステッチ部を設ける構
成との技術的関連に意義を有する技術構成であって、具体的には、異なる色相の境
界部には必ず非ステッチ部を形成することを意味し、非ステッチ部が存在する境界
部がひとつあればよいというものでないことは明らかである。
 (2) 第2次審決が、相違点3の判断において周知であることの例として挙げた審
判甲第2号証(甲第6号証)には、「本発明は、・・・異なる色または異なる嵩高
の糸を使った模様入りタフテッド製品を製造するための装置及び方法を提供す
る。・・・さらに本発明により各位置で異なる糸を、あるいは異なる糸の任意の組
合せを全部、0本の又は任意の本数で基布差込むように選択でき、この選択により
異なる色または異なる種類の糸を基布の異なる領域に配置することによって異なる
模様及び図案を作る独特の能力が得られるだけでなく、図案内の任意特定の領域で
タフトの密度を増減させる独特な能力も得られる。異なる位置でタフトを省略する
ことによって彫刻模様も容易に作ることができる。」(4頁左上欄~右上欄)との
記載のあることが認められる。
 この記載中の「異なる色・・・の糸を使った」、並びに「0本」及び「タフトを
省略する」が、本件発明1の「色相の異なるマットパイル面」、並びに「非ステッ
チ部」にそれぞれ相当することは明らかであって、審判甲第2号証には、複数の色
相のタフトパイルを用いる構成と、非ステッチ部を設ける構成が個別に記載されて
いること自体は認めることができる。しかし、それら技術を関連づけた上、異なる
色相の境界部には必ず非ステッチ部を形成する技術までもが、そこに記載されてい
ると認めることはできない。
 (3) 被告は、審判甲第2号証の第4図に、ステッチ部230と234の異なる糸
Y3,Y4間に「非ステッチ部232」が設けられており、「異なる糸」が「異な
る色または異なる嵩高の糸」であると主張する。しかし、同図には、糸Y1からな
るステッチ、糸Y5からなるステッチ、及び糸Y3からなるステッチが連続して形
成されることが図示されており、「領域230に示すように各連続タフトについて
異なる糸(例えばY1,Y5及びY3)」(8頁左下欄)との記載に照らすなら
ば、「異なる糸」を「異なる色の糸」と解するとしても、異なる色の糸であるY
1,Y5及びY3間に非ステッチ部が形成されていないから、異なる色相の境界部
に必ず非ステッチ部を形成する技術が記載されているということはできない。
 被告は、領域230と領域234が視覚的には互いに異なる色相の領域となる旨
主張する。確かに、領域230と領域234を構成する各糸が肉眼では識別できな
いほど微小であれば、各糸の色自体を識別することはできないから、糸の組合せに
よって各領域の色相が決定されるかもしれないが、同図に記載の各糸が肉眼視不可
能なほど微小であると認めることはできない。加えて、糸の組合せによって色相が
決定されるのであれば、審判甲第2号証の第4図に図示された糸の組合せが、連続
することで領域が形成されることになるが、審判甲第2号証にはそのような記載は
ない。
 被告の上記主張はいずれも理由がない。
 (4) 第2次審決は相違点3についての判断において、「本件明細書の【003
2】に、「本発明の靴拭きマットのタフト化は、特表昭61-501462号公報
(審判甲第2号証)記載の模様入りタフテッド製品の製造装置を使用し、タフト化
パターンを前述したように制御することにより行える。」と記載されているよう
に、審判甲第2号証記載の模様入りタフテッド製品の製造装置を用いることによ
り、本件発明1のタフト化が実現可能であることは、被請求人(本訴原告)も認識
しているところである。」との説示を付加しており(甲第1号証)、被告も同旨の
主張をする。しかしながら、本件明細書のこの記載は、本件発明1のマットを製造
するに当たり、審判甲第2号証記載の製造装置を使用できる旨記載したにとどま
り、相違点3に係る本件発明1の構成の容易性判断に影響を及ぼすものではない。
 (5) 被告は、審判甲第4号証に記載の「基布面が露出したパイルされない柄模様
部」は、本件発明の「非ステッチ部」に相当すると主張する。被告のこの主張は、
審判甲第4号証の「本発明の製造方法によれば、タフト中に、並列針における複数
本の針群を停止させることによって基布の所望個所に基布面が露出したパイルされ
ない柄模様部を形成することができ、この柄模様部と上記タフティングマシンによ
るパイルをタフトされた柄模様部とによって種々の図柄や模様を形成できると共に
該図柄や模様の強調したい部分に無パイル柄模様部を設けておくことができる。」
(公報5頁右上欄)の記載に基づくものである。
 しかしながら、甲第7号証によれば、審判甲第4号証には、「カーペット主体の
前記無パイル柄模様部に手作業によって前記タフティングマシンによるパイル柄模
様とは異色又は異質のパイルを植え付ける」(2頁左下欄)、「本発明の請求項③
に記載したカーペットの製造方法によれば、タフティングマシンの並列針に交互に
異色又は異質の糸条を挿通してこれらの針を一斉に或いは同色又は同質の糸条を挿
通している針のみを作動させることにより基布にパイル柄模様をタフトしていくと
共にそのタフト中に所望数の針群を不作動とすることによって基布の適所に基布面
が露出した無パイル柄模様部を有するカーペット主体を形成する」(5頁左上欄)
のほか、被告が援用する記載中の「本発明の製造方法によれば、・・・パイルされ
ない柄模様部を形成することができ、この柄模様部と上記タフティングマシンによ
るパイルをタフトされた柄模様部とによって種々の図柄や模様を形成できると共に
該図柄や模様の強調したい部分に無パイル柄模様部を設けておくことができる。」
(5頁右上欄)との各記載のあることが認められる。
 これらの記載によれば、「無パイル柄模様部」とは、タフティングマシンによっ
てはパイルが形成されない部位であるが、手作業によって別のパイルが形成される
部位であるから、これを本件発明1の「非ステッチ部」に相当すると直ちにいうこ
とはできない。被告は、審判甲第4号証を援用して相違点3に関する容易推考性を
主張するが、この点において既に理由がない。
 (6) 被告は、「カーペット、マット等において、様々な目的からパイル面間に非
ステッチ部を設けることは、上記審判甲第2号証、審判甲第4号証に加えて、乙第
1号証(特開平3-294564号公報)の「バックステッチ22の途切れる部分
20」にみるように、本件特許出願当時において一般的に行われていたことであ
る。このように、非ステッチ部の存在によりパイル領域間に間隔が空いていれば、
境界部分のパイルが混在しなくなることは、当業者には明らかな事実である。そし
て、その隣り合った領域同士の色相が異なっていれば色相の混在がない。」とも主
張する。しかし、乙第1号証には、「バックステッチ22の途切れる部分20」が
タフトを行わない部分であるとの記載のあることは認められず、被告のこの主張も
理由がない。
 (7) 結局、審判甲第2号証、審判甲第4号証及び乙第1号証のいずれも、相違点
3に係る本件発明1の構成(非ステッチ部を介在させるとの構成)を記載したもの
ではないから、これら証拠によってその構成が知られていたものと認めることもで
きず、他にこの事実を認めるべき証拠はない。
 したがって、相違点3に係る本件発明1の構成が周知であるとした第2次審決の
認定は誤りであり、その誤った認定に基づいて、「甲第3号証発明において、かか
る周知技術を適用することは、当業者にとって容易である。」とした第2次審決の
判断は誤りである。そして、相違点3に関する本件発明1の構成の採択が容易であ
ったことについては、本訴において立証されなかったことに帰するから、本判決確
定により再度審理されることになる本件無効審判請求においては、この構成は当業
者にとって容易に想到することができなかったものとして、本判決の拘束力を受け
るべきものである。すなわち、審判甲第3号証を基本とする本件審判請求において
は、相違点3に関する本件発明1の構成が容易想到であったことを立証する証拠の
再提出は許されないことになる。
 なお、甲第2号証(本件特許公報)によれば、本件明細書の【0024】に「隣
り合った色相の異なるマットパイル面間に、少なくとも1個の非ステッチ部を介在
させることにより、マットパイル面の境界部分における色相の異なるマットパイル
の混在を有効に防止することができ、これにより、鮮明で明確なパターンをマット
表面に形成することができる。」との記載があることが認められ、相違点3による
効果も本件明細書に明記されているところである。
第5 結論
 以上のとおり、第2次審決は本件発明1と審判甲第3号証記載の発明との相違点
3の判断を誤ったものであり、この誤りが本件発明1の進歩性の判断、ひいては本
件発明2~8の進歩性の判断に影響を及ぼすことは明らかであるから、第2次審決
を取り消すべきである。
(平成14年10月31日口頭弁論終結)
 東京高等裁判所第18民事部
         裁判長裁判官永   井   紀   昭
            裁判官塩   月   秀   平
裁判官古   城   春   実

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その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

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