弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

         主    文
     原判決を取り消す。
     被控訴人の請求を棄却する。
     訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
         事    実
 控訴代理人は、主文と同趣旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求
めた。
 当事者双方の事実上の主張、証拠の提出援用認否は、つぎの(一)(二)(三)
に記載するところのほか、原判決事実らん記載のとおりである。
 (一) 控訴人の主張
 本件抵当権設定契約及びその登記は、被控訴人がその登記のとおりのAの債務の
ために抵当権設定をし、かつ登記手続をしたので、できたものである。かりに被控
訴人が自分でしたのでないとしても、被控訴人の権限ある代理人Aが抵当権設定の
意思表示をし、かつその委任にもとずき登記手続がされたのである。かりに右A
に、本件抵当権設定の意思表示及びその登記手続を被控訴人に代つてする権限がな
かつたとしても、そのころ、訴外Aは同人が訴外Bから金五万円を借り入れるにつ
いて、被控訴人から本件建物をその債務の担保に供することの承諾を得て、被控訴
代理人に代つて抵当権設定の意思表示及びその登記手続をする権限を与えられてい
たものであり、本件抵当権設定並に登記の当時訴外Aは、被控訴人から交付を受け
た本件建物に関する被控訴人の登記済証、被控訴人の印章(印顆)を所持してお
り、控訴人は、訴外Aに本件抵当権設定並に登記手続をする代理権があると信ずべ
き正当の理由を有したのである。
 本件登記は、訴外Cが控訴人の代理人となり、訴外Dが被控訴人の代理人となつ
て申請して、なされたものである。
 (二) 被控訴人の主張
 被控訴代理人は、控訴人の右主張事実を否認する。もつとも被控訴人は訴外Aの
求めにより、同人に被控訴人の印章(印顆)と本件建物の権利証とを二、三日間だ
けという約束で預けたことがあるが、被控訴人はAが二、三日たつてもこれらのも
のを返還しないので、きびしくその返還を要求していたものである。
 (三) 立証として控訴代理人は乙第五号証乙第六号証の一、二、三を提出し、
当審証人Eの証言を援用し、被控訴代理人は当審証人Fの証言および当審における
被控訴人本人の供述を援用し、乙第五号証の成立を認める、乙第六号証の一の成立
は否認する、同二の中G名下の印影が被控訴人の印章によるものであることは認め
る、その他の部分は否認する、同三の成立は不知と述べた。
         理    由
 被控訴人所有の鎌倉市a字bc番地所在家屋番号二五一番木造亜鉛メッキ鋼板葺
平家居宅一棟建坪一二坪六合二勺(本件建物)につき、控訴人会社(旧商号常盤無
尽株式会社)と被控訴人との間に、昭和二五年五月九日控訴人会社を債権者、訴外
Aを債務者とし、債権極度額金十五万円、一ケ月前の予告をもつて解約し得べく、
債務不履行の場合は金百円につき一日金六銭の割合による損害金を賠償すべき旨の
根抵当権設定契約がなされたものとして、同年七月七日横浜地方法務局鎌倉出張所
受付第二〇七九号をもつて右根抵当権設定登記がなされたことは当事者間に争がな
い。 被控訴人は、右根抵当権設定契約およびその登記は、被控訴人の関知しない
ものであると主張し、控訴人は右契約および登記は被控訴人により真実なされたも
のであると争うので、これを案ずるに、成立に争ない甲第三号証、原審証人H、
I、原審および当審証人Fの各証言、原審および当審における被控訴人本人の供述
をあわせると、被控訴人は自ら直接には右のような契約および登記には関与しなか
つたことが肯定され、これに反する原審証人J、K、原審および当審証人Eの各証
言は信用の価値なく、その他本件におけるすべての証拠によつても右認定をうごか
すことはできない。
 しかし、被控訴人名下の印影の成立については争なく、その余の部分の成立に争
のある乙第一、四号証の存在、成立に争ない乙第五号証前記I、Fの各証言、被控
訴人本人の供述と原審および当審証人Eの証言の一部を綜合すると、右根抵当権設
定契約およびその登記についてつぎの事実が存することが認められる。
 被控訴人は以前から訴外Aと知合で、Aに金十五万円を貸与しており、同人の営
む関東食品販売株式会社にもその取締役として名を列ねていたが、昭和二五年四、
五月ころ、同人から「訴外Bが、家の権利証と実印とを預りさえすれば、金五万円
貸してやる、といつているから、二、三日間だけ権利証と実印とを貸してくれ、そ
の五万円ができれば銀行との取引もできて前に被控訴人から借りた金十五万円も返
せる。」といつて本件建物に関する被控訴人の登記済証と被控訴人実印とをAに貸
すことをたのまれたので、被控訴人はこれを承諾し、Aにこれらのものを預けた、
ところがAはその言葉に反し、被控訴人に無断で昭和二五年五月九日ごろ、控訴人
会社との間に同会社から金十五万円を極度額として借受ける旨の金円借受契約を
し、即日金十万円を受領(その後金五万円を受領)すると同時に被控訴人の代理人
として右債務を担保するため本件建物につき根抵当権設定契約をした、そして当時
右契約を直接に取扱つた控訴人会社支店長Eの面前で被控訴人から預かつた印章を
押捺して被控訴人名義の右根抵当権設定契約証(乙第一号証)および委任状(乙第
四号証)を作成し、また右印章を使つて下附を受けた印鑑証明書を本件建物権利証
にそえてEに交付し、その結果後にくわしく説示するような順序で右根抵当権設定
登記がされたという次第である。
 被控訴人が前記認定のような事情でAに本件建物の登記済証書と印章を交付した
ことは、それがAの金員借入のためであることが明かであるから、これらの品が本
件建物について抵当権設定登記をするに必要なものであることと考え合せると、他
にとくだんの事情のない本件においては、被控訴人からAにたいして、少くとも被
控訴人の代理人としてBとの間にAの債務を担保するために本件建物に抵当権を設
定し、かつ、その登記のために適宜の処置をとる権限を与えたと解し得るのではあ
るが、控訴人にたいして本件建物に抵当権設定をすることについてはその権限を与
えたことはこれを認め得ないのであるから、Aの本件抵当権設定行為は右代理権の
範囲外であることはいうまでもない。しかし、右行為当時Aは被控訴人の印章印鑑
証明書及び本件建物の登記済証書を所持していて、これを控訴人会社代理人たるE
に示し、被控訴人の代理人であることを表明した以上、ほかにべつだんの事情の存
することの認められない本件においては、EにおいてAにこれらの権限ありと信ず
るにつき、正当の理由を有していたものであり、Eがかく信ずるにつきなんの過失
がなかつたものというべきである。
 されば被控訴人は民法第一一〇条第一〇九条によりAのした右根抵当権設定契約
については、その責に任ずべきものであつてこの契約による本件の根抵当権は被控
訴人のためにも有効に存するものと認めるのほかない。したがつて被控訴人の本件
抵当権の不存在の主張は採用することができない。 つぎに右抵当権の設定登記の
効力について判断する。
 乙第六号証の一は本件抵当権設定が登記された際の登記申請書であることは、そ
の記載内容及び登記所の受付印なること明かな受付印のあることによつて、これを
認め得る。(被控訴人が同証の成立を否認するというは被控訴人の代理人と表示さ
れる者の代理権を否認する意味で、代理人と称した人その人の作成文書たることを
否認するものでないことは弁論の全趣旨から明かである。)これによると、本件抵
当権設定の登記申請にあたつては登記義務者の地位に立つ被控訴人はDなる者によ
つて代理されている。この代理権を証する書面として添付された委任状は乙第六号
証の二であつて、その被控訴人名下の印影は被控訴人の印章のそれであることは被
控訴人の認めとるところである。以上の事実と、前段説示したとおり、被控訴人が
その印章を訴外Aに交付しておいた事実とをあわせて考えると、訴外Aは前記のと
おり抵当権設定契約証書(乙第一号証)の被控訴人名下に被控訴人の印章を押し、
かつ、委任事項、受任者氏名を記すべきところを白紙のまま委任状用紙に被控訴人
の印章を押し(乙第六号証の二)、これを控訴人の使用人のだれかに渡して、控訴
人に適当に代理人を依頼して登記をすることを承諾し、控訴人はこれにもとずき、
委任状に委任事項及び受任者(代理人)氏名Dを補充し、Dが登記義務者代理人と
して登記申請をし、本件抵当権設定登記がなされたものであると認められる。すな
わち、訴外Aは被控訴人に代つて控訴人にたいして、前記抵当権設定について登記
手続をすべき被控訴人の代理人を選任し、その代理人をして登記申請をなさしめる
ことを委任し、控訴人はその趣旨に従つて前記のとおり登記手続をはこんだのであ
り、訴外Aがかかる委任をすることはその代理権の範囲外であつたことは前段説示
の事情から明かであり、したがつて、前記Dは被控訴人を代理して本件登記申請を
する権限を有しなかつたこと明かである。しかして、登記簿上登記義務者たる者の
登記申請代理人について、代理権ありと信じた登記権利者が代理権ありと信ずべき
正当の理由を有する場合について民法第百一〇条の適用ないし準用はないと解すべ
きであるから、かかる手続によつてなされた登記は不動産登記法第二十六条第三十
五条第一項第五号に定める適法要件をそなえない申請による登記であるといわなけ
ればならない。
 <要旨>しかし、登記申請手続が前記法条その他法律に定められる適法要件を欠く
場合に登記官吏がこれを却下すべきものであることはもちろんながら、却下
せずにこれにもとずく登記をしてしまつた場合には、その登記を、不適法な申請手
続によるとの理由だけで、つねに無効であるとすべきものではない。けだし、登記
申請手続にいくつかの事項を適法要件と定めるのは、これらの事項を要することに
よつてなんらかの目的を達しようとするのであるから、不適法な申請によつて登記
がなされたことが、その場合の申請手続に欠けていた適法要件たる事項を適法要件
と定める法の目的を害しないかぎり、有効な登記と認めるのが相当である。ところ
で本件登記の申請手続に欠けているところの、不動産登記法第二十六条第三十五条
第一項第五号所定の要件は、登記手続に物権変動の当事者を関与させることによつ
て、したがつて代理人による場合にはその代理権を証する書面の提出することを要
求することによつて、登記の内容が物権変動と一致することを保障しようとするも
のであることは、もちろんであるが、これに尽きるものではない。登記は不動産の
物権変動を第三者に対抗するための要件にすぎないけれども、この要件をそなえる
ための行為は物権変動の中にふくまれるわけではなく、物権変動とは別個の行為で
あり、当事者の意思によつて登記をしないこととすることもさまたげない。かつま
たこの別個の行為は対抗要件のない物件変動を第三者に対抗し得るものに変ずる力
のある、つまり私法関係にある変動を及ぼすという性質を有するのである。これら
を考えあわせると不動産登記法の前記法条は、登記しようとする物権変動が当事者
間の関係において登記すべからざる場合でないことを保障し、かつ登記する行為が
前記のごとき性質であることから、一般に私法関係の形成を当事者の意思にかから
せる原則を尊重する趣旨において、登記は物権変動の当事者の意思にもとずくこと
を要するとするものと解せられる。
 (したがつて、たまたま実体法上の物権変動に一致する登記がされたとしても、
偽造文書行使によるなど、全く登記義務者の意思にもとずかない場合には、その登
記はなんらの効力を有しないとしなけれはならない。)
 ところで、本件において、被控訴人は訴外Aに建物登記済証書と実印とを交付し
たのである。この行為がAにたいして、Aが訴外Bからの借入金債務のため被控訴
人所有建物に抵当権を設定する代理権のみならず、その抵当権登記手続をすること
についても、被控訴人に代つて、適当の処置をとり得る権限をも与えたものと解す
べきこと前段に説示したとおりであるから、Aがその権限内において抵当権を設定
する場合に、その登記をする意思を有したものといわなければならない。かような
事情のもとに本件抵当権を設定したAの行為について民法第一一〇条により被控訴
人がその責に任ずべきものとされる以上、本件抵当権設定の登記はAの当初の権限
を越えるものではあるが、全然被控訴人の意思にもとずかないものとすることはで
きず、少くとも被控訴人の意思に源を発しこれに由来したものといわなければなら
ない。そして被控訴人はAのした抵当権設定そのものについて責に任ずる結果本件
抵当権について登記義務者となつたものであり、かつ登記を拒むことを正当とする
実体上の権利を有することを認めるべき事情はなんらあらわれていない。もしかり
に本件登記がされていないならば被控訴人の控訴人の請求に応じて登記申請に協力
すべき義務があるのである。
 以上の情況において前段認定のような経路によつてなされた登記申請は不動産登
記法第二十六条第三十五条第一項の要件を定める法目的を害しないと解するのが相
当であるから、本件抵当権設定登記はその申請手続に不適法の点はあるにかかわら
ず、これを有効な登記と認めるべきであり、被控訴人はその抹消を求める権利を有
しないのである。
 以上のようなわけであるから、被控訴人の、抵当権不存在確認並に抵当権設定登
記抹消の各請求は、いずれも理由がないとして、これを棄却するのほかなく、これ
と反対の原判決はこれを取り消し、訴訟費用は、第一、二審とも、敗訴者たる被控
訴人の負担とすべきものである。
 よつて主文のとおり判決する。
 (裁判長判事 藤江忠二郎 判事 原宸 判事 浅沼武)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛