弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人田中重仁、同海老原夕美の上告理由第一点について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審
の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用するこ
とができない。
 同第二点について
 有責配偶者からされた離婚請求であつても、夫婦の別居が両当事者の年齢及び同
居期間との対比において相当の長期間に及び、その間に未成熟の子が存在しない場
合には、相手方配偶者が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛酷な状態に
おかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえるような特段
の事情の認められない限り、当該請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事を
もつて許されないとすることはできないものとするのが当裁判所の判例である(昭
和六一年(オ)第二六〇号同六二年九月二日大法廷判決・民集四一巻六号登載予定)。
所論引用の判例は、右判例によつて変更されたものである。
 原審の適法に確定した事実関係によれば、(1) 上告人と被上告人とは、昭和二
七年六月六日婚姻届出をした夫婦であり、その間に、昭和二八年七月二日出生の長
女Dがあり、そのほかに子はいない、(2) 上告人と被上告人とは、婚姻届出当時
ともに小学校教員をしていたが、性格等の違いから家庭内は明るい雰囲気とはいえ
ない状態であつたところ、被上告人は、飲食店の女店主と親密な関係になつたとの
噂が広まつたため、右女店主の夫から脅迫され、また、かねて教職には適していな
いと考えていたことから、昭和三一年四月九日ころ、右脅迫から免れるためと、更
にこの際適職を見つけて生涯の仕事に就くために、上告人や学校関係者に行先を知
らせず単身上京した、(3) 被上告人は、昭和三二年の終わりころ、妻子のいるこ
とを明かしたうえ訴外Eと付合いを始め、二、三か月ののちに同棲を始めた、(4)
 上告人は、昭和三三年春ころ、上京して被上告人のもとを訪ね、初めて被上告人
とEの同棲の事実を知つて驚き、被上告人に元に戻つてほしいと懇願したが、被上
告人は帰つてくれというばかりであり、その後も何回か話合いがもたれたが、まと
まらなかつた、(5) 昭和四八年ころ、上告人は、既に東京で働いていたDの勧め
により、四九歳で小学校教員を退職して上京し、Dと同居することとなつたが、そ
の際、被上告人は、荷物の運搬を手伝つたり、種々の手続をするなどして上告人を
援助し、その後も、上告人とDの借家の家賃を援助したりし、昭和五五年には、D
が現在上告人の住んでいる住居を一六〇〇万円で購入するに当たり、三〇〇万円を
負担したほか、昭和五九年一月以降は、事実上Dの借り入れた住宅ローンの支払い
をしている、(6) 上告人は、昭和五六年春以来、現住居で一人で生活し、年金収
入により普通の生活をしているが、昭和三一年ころに転落事故に遭つて以来、病気
がちで、現在では脳水腫に罹患していて、頭痛に悩まされることがあり、また、被
上告人の再三の離婚申入れに対し、結婚した以上どんなことがあろうと戸籍上の夫
婦の記載を守り抜きたいという気持からこれを拒否しつづけている、(7) 他方、
Eは、被上告人や上告人に対し離婚を要求したりすることなく、上告人やDに対す
る配慮から妊娠を避け、長年にわたつて被上告人に尽くしてきて既に老境を迎えて
おり、被上告人は、こうしたEの誠意、愛情に応える気持から、Eから求められた
わけでもないのに、上告人に対し夫婦関係調整の調停の申立をしたが、上告人が四
度の調停期日に一度も出頭せず不調となつたため、本件訴訟を提起するに至つた、
というのである。
 右事実関係のもとにおいては、上告人と被上告人との婚姻については、夫婦とし
ての共同生活の実体を欠き、その回復の見込みが全くない状態に至つたことにより、
民法七七〇条一項五号所定の婚姻生活を継続し難い重大な事由があると認められる
ところ、被上告人は有責配偶者というべきであるが、上告人と被上告人との別居期
間は原審の口頭弁論終結時(昭和六一年一〇月一五日)まででも約三〇年に及び、
同居期間や双方の年齢と対比するまでもなく相当の長期間であり、しかも、両者の
間には未成熟の子がなく、上告人が離婚により精神的・社会的・経済的に極めて苛
酷な状態におかれる等離婚請求を認容することが著しく社会正義に反するといえる
ような特段の事情が存するとは認められないから、冒頭説示したところに従い、被
上告人の本訴請求は、有責配偶者からの請求であるとの一事をもつて許されないと
すべきではなく、これを認容すべきものである。
 以上と同旨に帰する原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に
所論の違法はなく、論旨は、右と異なる見解に立つて原判決の違法をいうものであ
つて、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主
文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    長   島       敦
            裁判官    伊   藤   正   己
            裁判官    安   岡   滿   彦
            裁判官    坂   上   壽   夫

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