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平成17年2月16日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(ワ)第25621号 解約精算金請求事件
口頭弁論終結日 平成17年1月12日
判決
主文
1 被告は,原告に対し,31万0486円及びこれに対する平成16年8月20
日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は,仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
  主文と同旨
第2 事案の概要
 本件は,被告が開設する外国語会話教室に入学したが,中途解約をした原告から
被告に対し,上記中途解約によって上記入学時などに原告が被告に前払いした受講
料などの精算を求めるとともに,上記精算金に対する本件訴状送達の日の翌日であ
る平成16年8月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害
金を請求した事案である。
1 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に当該証拠等を掲記 
する。)
(1) 被告は,外国語会話教室を業とする会社である。被告が開設する外国語会話教
室は,「A」という校名であり,特定商取引に関する法律41条2項における「特
定継続的役務」に該当する(乙2,乙3,乙5の1ないし3の2,弁論の全趣
旨)。
(2) 原告は,平成13年9月13日,被告王子校において,600ポイントのレッ
スンポイントを75万6000円(消費税込み)で購入し,さらに10枚のVOI
CEチケットを2万1000円(消費税込み)で購入して,同校に入学した。被告
が発行するコースガイド(乙3)並びに「APPLICATIONFORM」(登
録申込書・乙2)の2枚目の生徒控及び3枚目のメモの裏面に記載された約款(乙
5の2の2,乙5の3の2)によると,「A」に入学するには,あらかじめレッス
ンを受講するためのレッスンポイントを一括して購入しなければならず,受講者は
これによって1ポイント当たり1回のレッスンを受講できるというシステムとなっ
ている。また,受講者は,上記レッスンとは別に被告の開設するVOICEルーム
で外国人スタッフ
と会話練習をすることもできるが,その場合もこれを利用するためのVOICEチ
ケットをあらかじめ一括して購入しなければならないシステムとなっている。
(3) 原告は,被告王子校入学後,10ポイントのレッスンポイントを3万1500
円(消費税込み)で3回にわたって購入した。したがって,原告が購入したレッス
ンポイントの価格は,前記(2)の金額と合わせて78万7500円となる。
(4) また,原告は,同じく被告王子校入学後,50枚のVOICEチケットを8万
4780円(消費税込み)で購入した。したがって,原告が購入したVOICEチ
ケットの価格は,前記(2)の金額と合わせて10万5780円となる。
(5) 原告は,被告に対し,平成16年7月24日にあらかじめ電話で中途解約の意
思を伝えた上,同月30日,中途解約の意思表示をした(甲1,甲2,弁論の全趣
旨)。
(6) 上記解約申入れの時までに原告が消化したレッスンポイントは386ポイント
であり,同じく原告が消化したVOICEチケットは25枚であった。
(7) 原告が入校した当時,レッスンポイントの料金については,以下のとおり購入
したポイント数が多くなるに従いポイント単価が安くなる制度となっていた。
ア 契約ポイント数600ポイントの場合 1ポイント当たり1200円
イ 契約ポイント数500ポイントの場合 1ポイント当たり1350円
ウ 契約ポイント数400ポイントの場合 1ポイント当たり1550円
エ 契約ポイント数300ポイントの場合 1ポイント当たり1750円
オ 契約ポイント数250ポイントの場合 1ポイント当たり1850円
カ 契約ポイント数200ポイントの場合 1ポイント当たり1950円
キ 契約ポイント数150ポイントの場合 1ポイント当たり2050円
ク 契約ポイント数110ポイントの場合 1ポイント当たり2100円
ケ 契約ポイント数80ポイントの場合  1ポイント当たり2300円
  上記の内容は,被告の発行するコースガイド(乙3)に表示されている。原告
が入校した時に購入したポイントは,前記のとおり600ポイントであったから,
ポイント単価は1200円であり,1200円×600ポイント=72万円に消費
税3万6000円を足した75万6000円がポイント購入料となった。
(8) 原告が入校した当時,被告が定めた約款には,中途解約時における精算につい
て,精算の際に差し引かれるべき消化済み受講料のポイント単価及び消化済みVO
ICE利用料のチケット単価について要旨以下のとおり定められていた(乙3,乙
5の2の2,乙5の3の2)。
ア 消化済み受講料
  消化済み受講料を算定する際に用いるべきポイント単価は,役務提供済みポイ
ント数以下で最も近いコースの契約時のポイント単価とし,デイタイム登録,スタ
ンダード登録,24時間登録の登録種別に該当する単価とする。ただし,消化済み
受講料は役務提供済みポイント数以上の最も近いコースのポイント総額を上限とす
る。
イ 消化済みVOICEチケット利用料
  VOICEチケット利用済み回数に2000円を掛けた金額
(9) 被告が定めた前記約款には,中途登録解除手数料について,前記差引計算後の
金額の2割(ただし,5万円を上限とする)とする旨の規定が存在する。
2 争点
  本件の争点は,原告の中途解約の際に前払金から精算されるべき消化済み受講
料のポイント単価及び消化済みVOICEチケット利用料の単価がいくらになるべ
きかという点である。被告は,約款の定めの適用を主張し,原告は,上記約款の定
めは,特定商取引に関する法律49条2項1号イに違反するものであるから同項の
定める上限額以上の金額を精算することはできないと主張している。争点に関する
当事者双方の主張の要旨は以下のとおりである。
(1) 消化済み受講料のポイント単価について
(原告の主張)
ア 特定商取引に関する法律49条2項1号は,役務提供開始後に中途解約された
際に精算できる金額を「イ 提供された特定継続的役務の対価に相当する額」及び
「ロ 当該特定継続的役務提供契約の解除によって通常生ずる損害の額として第4
1条第2項の政令で定める役務ごとに政令で定める額」にこれらに対する法定利率
による遅延損害金の額を加算した金額と限定しており,役務提供事業者は,特定継
続的役務の提供を受ける者に対し,これを超える額の金銭の支払を請求することは
できないと定めている。なお,上記ロの政令で定める額は,「語学の教授」につい
ては,5万円又は契約残額の100分の20に相当する金額のいずれか低い額とさ
れている。
イ 特定商取引に関する法律には,前記の「提供された特定継続的役務の対価に相
当する額」につき,購入した時の単価と異なる単価で精算することを認める規定は
ない。前記第2,1(2)及び同(7)のとおり,原告は,入校時,1ポイント当たりの
単価を1200円としてレッスンポイントを購入したのであるから精算に当たって
も上記単価に消化済みポイントを掛けた金額を「提供された特定継続的役務の対価
に相当する額」として差し引くべきであり,これと異なる単価に基づく金額を精算
することはできない。
ウ 既に消化したレッスンポイントに応じた料金の精算に当たり,ポイント料金を
購入した際のポイント単価に従って算定する方が社会通念に沿う。特定商取引に関
する法律の「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」は,社会通念によっ
て解釈されるべきである。
エ 被告は,価格表記をするに当たり,レッスンポイント購入数に応じた1ポイン
ト当たりの単価のみを表示している。このようにポイント単価を強調してレッスン
ポイントを販売した以上,受講者が中途解約に際しても購入時の単価で精算をして
もらえると信じるのは当然である。特定商取引に関する法律は,役務提供事業者が
中途解約における前払金の精算に際して控除する金額を限定しようとしているもの
であるところ,上記のようにポイント単価のみをことさら強調している本件にあっ
ては,少なくとも購入時のポイント単価よりも受講者に不利なポイント単価を使用
することは,同法の趣旨に沿わないことは明らかである。
オ 被告が指摘するJR定期券やNHKテレビ受信料は,受けるサービスの内容が
本件と異なり,特定商取引に関する法律の適用を受けるものではない。このように
前提を異にする制度をもって被告の約款の合理性を論じることはできない。
カ 以上によれば,被告が消化済み受講料として前払金から控除できるのは,前記
第2,1(7)アの1ポイント当たり1200円(消費税を含めると1ポイント当たり
1260円)に,消化済みレッスンポイント(386ポイント)を掛けた48万6
360円となる。
(被告の主張)
ア 特定商取引に関する法律49条2項1号イは,特定継続的役務提供契約が中途
解約された際に役務提供事業者が役務提供を受ける者に請求できる金額を「提供さ
れた特定継続的役務の対価に相当する額」と定めているのみであって,その算定の
基礎となる単価については,何も規定しておらず,個々の契約に委ねている。した
がって,本件においては,被告が定めた約款中にある前記第2,1(8)アの定めが適
用されるべきである。
イ 本件のように一度の購入量が多ければ多いほど割引率が大きくなるという大量
購入に伴う割引制度は,一般によく見られる料金体系であり,それ自体,何ら不合
理な点はない。そして,そのような料金体系の下で前記第2,1(8)のように,中途
解約に際して消化済みポイント数(すなわち,現に提供を受けた役務の数量)に応
じたポイント単価により「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」を算定
してこれを前払金から控除できるとすることにも十分な合理性がある。
ウ すなわち,「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」を仮に当初大量
購入した際のポイント単価により算定しなければならないとすると,たとえば同じ
200ポイントを消化する場合でも,当初から200ポイントだけ購入した者は,
前記第2,1(7)カのとおり,ポイント単価1950円で総額39万円で受講するこ
とになるのに対し,当初600ポイント購入して200ポイント消化後に中途解約
する者は,前記第2,1(7)アのとおり,ポイント単価1200円で総額24万円を
前払金から控除されるのみとなり,結果的には割引料金でレッスンを受講できたと
いうことになる。かかる帰結は,同じポイント分だけレッスンを受講した者の間で
不公平を生じる。そればかりでなく,このような制度の下では,最初から200ポ
イント分しか使うつ
もりがなくても,とりあえず600ポイントを購入して,200ポイントを消化し
た時点で中途解約をすれば,ポイント単価1200円で受講するということが可能
となり,そもそも被告が設けている大量購入に伴う割引制度の意義が無に帰する結
果を生じる。このような帰結が是認されるのであれば,実質的に大量購入に伴う割
引制度それ自体を否定する結果となり,その不合理は明らかである。
エ このように将来期間分を一括支払をした者が中途解約する際に一括支払による
割引単価ではなく,使用済み期間に応じた単価で精算をするという制度は,JR定
期券の中途解約,NHKテレビ受信料の中途解約においても見られるところであ
り,この点からも被告の定める約款の合理性が裏付けられる。
オ 以上によれば,被告が控除できる金額は,前記第2,1(8)アの約款の定めによ
り,原告が消化したレッスンポイントである386ポイント以下で最も近いコース
である同(7)エの300ポイント購入コースのポイント単価である1ポイント175
0円に,消化したレッスンポイントである386ポイントを掛け,消費税を合算し
た金額である70万9275円となるべきところ,この金額は,上記約款のただし
書きにより,役務提供済みポイント数以上の最も近いコースである同ウの400ポ
イント購入コースの購入ポイント総額である65万1000円と比べるとこれを上
回っているので,結局,控除額は65万1000円となる。
(2) 消化済みVOICEチケット利用料について
(原告の主張)
ア 前記第2,1(6)のとおり,原告が中途解約の意思表示をした時点で原告が消化
したVOICEチケットは25枚であったところ,その購入代金は当初の10枚が
2万1000円(消費税込み),追加購入分の50枚が8万4780円であるか
ら,消化済みのVOICEチケット代金は,当初購入した10枚分の2万1000
円と追加購入分8万4780円の50分の15に当たる2万5434円の合計4万
6434円となる
イ 被告は,これを上回る金額の控除を主張しているが,被告の定めた約款は,特
定商取引に関する法律49条2項1号に違反するものであり,被告は,上記金額を
超えた金額を控除することはできない。
(被告の主張)
ア 前記第2,1(8)イのとおり,被告の定めた約款によれば消化済みVOICEチ
ケット利用料は,VOICEチケット利用済み回数に2000円を掛けた金額とす
ることになっているから,本件における原告の消化済みVOICEチケット代金
は,既消化分の25枚に2000円を掛けた金額に消費税を合算した5万2500
円となる。
イ VOICEチケットについても前記第2,2(1)(被告の主張)アのとおり,被
告の上記約款の定めは,特定商取引に関する法律に違反するものではない。
第3 争点に対する判断
1 特定商取引に関する法律による特定継続的役務提供契約に対する規制の趣旨等
(1) 特定商取引に関する法律は,もともと訪問販売法という名称の法律であり,訪
問販売,通信販売,連鎖販売取引(マルチ商法)を規制対象として,これらの販売
形態における一定のルールを定めることにより,消費者被害の防止を図ることを目
的として昭和51年に制定された(その後,同法は,規制対象の多様化に伴い,平
成12年の改正(平成13年6月1日施行)によって,その名称を特定商取引に関
する法律と改めた。)。
(2) 同法制定後,サービス取引の多様化に伴い,エステティックサロン,外国語会
話教室,学習塾,家庭教師派遣等の継続的役務取引において,解約を巡るトラブル
が多発するという事態が目立つようになってきた。これら取引においては,長期多
数回のコース契約を締結する例が多いところ,実際にサービスを受けてみると広告
や勧誘時における説明の際に受けたイメージと異なり,当初期待した成果が得られ
ないなどの理由で中途解約を申し出た者に対し,業者が中途解約制限特約,多額の
違約金特約などの適用を主張し,紛争が生じるという例が多発した。そこで,平成
11年の同法改正(平成11年10月22日施行)により,同法の新たな規制対象
として「特定継続的役務提供」の章が設けられ,政令により,エステティックサロ
ン,外国語会話教室
,学習塾,家庭教師派遣の4業種が規制対象として指定された。これら業種に共通
する「特定継続的役務」の性格として,同法41条2項は,①役務の提供を受ける
者の身体の美化又は知識若しくは技能の向上その他のその者の心身又は身上に関す
る目的を実現させることをもって誘引が行われるもの(同項1号),②役務の性質
上,前号に規定する目的が実現するかどうか確実でないもの(同項2号)の2点を
掲げている。
(3) 同法による規制の一つとして,クーリングオフ期間経過後に利用者側が中途解
約をした場合の違約金等の上限規制がある。その内容は,前記第2,2(1)(原告の
主張)アのとおりであり,要するに中途解約に際して事業者が前払いを受けた役務
の対価に相当する金額を精算するに当たって請求,控除できる金額の上限を規制し
ようとするものである。この規制の趣旨は,前記のとおり,継続的役務取引におい
て,中途解約を申し出た者に対し,継続的役務提供業者が,多額の違約金特約など
の適用を主張し,紛争が生じるという例が多発していたため,このような上限規制
を設けることにより,利用者側が違約金等の請求を恐れて中途解約権の行使をため
らうことがないようにして,中途解約権を実質的にも行使可能なものとするという
ことにある。したが
って,上記規定を現実の事例に適用するに当たっては,中途解約の際の精算につい
て業者の定める特約の内容が合理的なものであるか,また,その内容が利用者側の
中途解約権の行使を必要以上に制限する内容となっていないかといった観点からそ
の適用の有無を判断し,これに反する特約は,その効力を否定する(同法49条7
項)ことにより,上記規制の趣旨を活かすべきである。
(4) 前記違約金等の上限規制の中で事業者が請求,控除できる金額として「提供さ
れた特定継続的役務の対価に相当する額」が掲げられている。これは,中途解約の
効果が非遡及的なものであることから中途解約の時点で既に提供済みの役務の対価
相当額については事業者が正当に請求,控除することが可能であることを確認的に
記載したものである。したがって,事業者が役務の対価を前払金として受領してい
て,その中から既に提供された役務の対価に相当する部分を控除して返還するとい
う場合において,前払金の授受に際して役務の対価に単価が定められていた場合
は,その単価に従って提供済みの役務の対価を算出するのが原則と解すべきであ
り,合理的な理由なくこれと異なる単価を用いて上記「提供された特定継続的役務
の対価に相当する額」を
控除することは,提供済み役務の対価の精算の趣旨を超えて,事実上,違約金を収
受するに等しいものとして上記制限規定に触れるというべきである。この点,被告
は,前記第2,2(1)(被告の主張)アのとおり,上記規定は,「提供された特定継
続的役務の対価に相当する額」を請求,控除できると定めているのみであって,そ
の算定の基礎となる単価については何も規定していないのであるから,個々の契約
に委ねる趣旨であると主張している。しかし,いかなる単価も自由に定めることが
できるというのであれば,中途解約の際の精算に際して非常に高額な単価に基づき
「提供された特定継続的役務の対価に相当する額」を算定し,事実上,違約金の上
限規定を潜脱することも許すということにつながりかねないのであり,相当でな
い。したがって,上記
のとおり,利用者が前払金を支払ったときは,中途解約に当たっても「提供された
特定継続的役務の対価に相当する額」を前払時の単価をもって算定することを原則
とし,合理的な理由があり,利用者側の中途解約権の行使を必要以上に制限する内
容となっていない場合に限り,これと異なる定めを約款等の中に置くことが許され
ると解すべきである。
2 争点(1)について
(1) そこで,上記のような観点に立って,本件において被告が主張する消化済み受
講料のポイント単価についての約款の内容の合理性について検討する。
ア 被告主張の約款をみると,その内容は,契約当初の単価よりも高額な単価に基
づく役務提供分の対価を算定する点において,中途解約をしようとする者に不利に
働くことは否めない。その単価の差は,最大で1.9倍を超えるのであり,利用者
側が中途解約をしようとする場合に,上記約款の存在がこれを制約する機能を果た
すことも容易に推認できるところである。
イ 被告は,前記約款の趣旨として,前記第2,2(1)(被告の主張)ウのとおり,
大量購入に伴う割引制度を悪用して,当初から購入したポイントを全部受講する意
思がないのに,これを偽って割引価格で大量購入をして,中途解約により,割引価
格をもって少数回の受講だけをすることを防止し,上記制度の意義を無にすること
がないようにするということを挙げる。
ウ しかしながら,大量購入をしながら中途解約を申し出る者がすべて上記のよう
な目的をもって解約の意思表示をするとは限らない。前記第3,1(2)のとおり,特
定商取引に関する法律41条2項が「特定継続的役務提供」業種(エステティック
サロン,外国語会話教室,学習塾,家庭教師派遣等)に共通する「特定継続的役
務」の性格として,①役務の提供を受ける者の身体の美化又は知識若しくは技能の
向上その他のその者の心身又は身上に関する目的を実現させることをもって誘引が
行われるもの(同項1号)とともに,②役務の性質上,前号に規定する目的が実現
するかどうか確実でないもの(同項2号)を掲げていることからも裏付けられるよ
うに,上記業種は,いずれも利用者側からみて,契約時においては,期待するよう
なサービスが受けられ
るか否か,サービスを受けた結果として期待するような成果が得られるか否かにつ
いて必ずしも明らかでないことに特徴があるのであり,上記業種において,現実に
利用を開始したところ,期待したようなサービスが受けられない,あるいは期待し
ていた成果が得られないといった理由で中途解約権を行使しようとする者が相当数
いることも推認するに難くない。また,長期にわたる利用を前提として多額の利用
料を前払いしたもののやむを得ない都合により中途で利用を断念せざるを得ない者
が一定割合いることも考えられる。だからこそ,同法は,中途解約権を保障し(同
法49条1項),さらに精算に当たっての違約金等の上限規制などを通じてその実
質的な保障を図ろうとしているものと解される。仮に被告主張のように,大量購入
に伴う割引制度を悪
用する者がいるとしても,中途解約をしようとする者がすべてそのような者とは限
らない以上,被告主張のような約款の存在は,被告主張の目的を超えて,同法が想
定し,保障しようとしている中途解約権の行使を制約する方向に働く結果となる。
したがって,被告主張の約款の内容は,その目的との関係において必要以上に中途
解約権を制約するものといわざるを得ない。
エ 被告は,当初から少量のポイントを購入して受講した者と大量購入をして中途
解約をした者との公平を図る必要があるとも主張している。しかし,当初,多額の
前払金を納入した者がそのことによって優遇された単価で受講できることが不公平
とはいえないのと同様に,その者が中途解約をするに際しても既に多額の前払金を
支払っていたという理由によって優遇された単価で提供済み役務の対価を受けたと
してもあながち不公平とは言い得ない。したがって,上記の被告の主張は本件約款
の合理性を基礎付けるものとはいえない。
オ さらに,被告は,同様の制度は,JR定期券の中途解約,NHKテレビ受信料
の中途解約においても見られるところであり,この点からも被告の定める約款の合
理性が裏付けられると主張する。しかし,特定商取引に関する法律の規制対象とな
る業種によって提供される役務とJR定期券若しくはNHKテレビ受信料によって
提供される役務とでは,役務の内容に関する予測可能性を含めその性質を異にする
のであり,これによって被告の約款の合理性を基礎付けることもできない。
(2) 以上によれば,被告の約款は,合理的な理由があるとはいえず,その実質的機
能において利用者側が中途解約権を行使するに当たってこれを制約する役割を果た
す点において前記の特定商取引に関する法律49条2項1号の定める上限規制に反
する。したがって,被告が,本件において,原告に返還する金額から控除できるの
は,前払金支払時の単価である1ポイント当たり1200円(消費税を含めると1
ポイント当たり1260円)に消化したレッスンポイントである386ポイントを
掛けた48万6360円であり,これを超える金額を控除することは許されない
(同法49条2項,同7項)。
3 争点(2)について
(1) 争点(1)において判断した理由は,レッスンポイントのみならず,消化済みV
OICEチケット利用料についても当てはまる。被告が中途解約の際の精算に当た
って,既に提供されたVOICEチケットによる役務の対価を算定する際に,購入
時の単価にかかわらず,単価2000円にVOICEチケット利用済み回数を掛け
て算定した金額とする約款は,合理性がなく,その実質的機能において利用者側が
中途解約権を行使するに当たってこれを制約する役割を果たす点において前記の特
定商取引に関する法律49条2項1号の定める上限規制に反する。
(2) したがって,被告が,本件において,原告に返還する金額から控除できるの
は,原告が中途解約の意思表示をした時点で既に消化していた25枚のVOICE
チケットの購入代金に相当する金額(当初の10枚が2万1000円(消費税込
み),その余の15枚については追加購入分の50枚分の代金である8万4780
円の50分の15に当たる2万5434円,以上合計4万6434円)であり,こ
れを超える金額を控除することは許されない(同法49条2項,同7項)。
4 以上によれば,被告が原告から支払を受けたレッスンポイントの購入代金78
万7500円から控除可能な提供済み役務の対価48万6360円を差し引いた金
額(30万1140円)とVOICEチケットの購入代金10万5780円から同
じく控除可能な提供済み役務の対価4万6434円を差し引いた金額(5万934
6円)の合計は,36万0486円である。したがって,前記第2,1(9)の約款の
定めにより,被告が原告に請求できる中途登録解除手数料は,前記36万0486
円の2割に相当する金額が同法49条2項1号ロ(前記第2,2(1)(原告の主張)
ア)の上限額5万円を超えるため,5万円となる。よって,被告が原告に精算すべ
き金額は,前記36万0486円から5万円を差し引いた31万0486円とな
る。
第4 結論
以上によれば,原告の請求は理由があるからこれを認容することとし,主文のとお
り判決する。
東京地方裁判所民事第48部
裁 判 官    水  野  邦  夫

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