弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件参加申立を棄却する。
     申立費用は申立人の負担とする。
         理    由
 一、 本件参加の理由の要旨は、申立人は控訴人に対し昭和二五年三月一七日訴
外ルナパーク演芸株式会社株式八、三〇〇株の贈与を約し、同年七月頃右八、三〇
〇株の株券を控訴人に引渡したものであるところ、控訴人は右贈与の年月日を争い
且つ引渡は未了であると主張し、申立人に対し神戸地方裁判所尼崎支部に右株券引
渡訴訟を提起しているから、頭書相続税確定決定取消請求事件の訴訟の結果につき
利害関係を有するものであるというのである。
 二、 ところで当庁昭和三四年(ネ)第一四七六号相続税確定決定取消請求事件
(以下本訴という)は、被控訴人芦屋税務署長が昭和三一年二月二七日控訴人に対
し、昭和二五年度相続税の課税価格金九、一九六、四〇〇円、税額金五、一〇一、
四八〇円、加算税金一、二七五、二五〇円、重加算税金二、五五〇、五〇〇円、税
額合計金八、九二七、二三〇円とした相続税確定決定並に右決定に対し控訴人のな
した審査請求につき、被控訴人大阪国税局長が昭和三二年一〇月一六日なした棄却
決定の取消を求めるもので、仮に控訴人が勝訴したとしても、同事件の判決主文で
確定せられるところのものは、右税務署長や国税局長のなした行政処分の全部また
は一部の違法なること、延いては控訴人の国に対する相続税債務の全部または一部
の不存在なることにすぎない。この事件における唯一主要の争点は、申立人主張の
ルナパ―ク演芸株式会社株式八、三〇〇株の贈与契約ないしその履行たる引渡しが
昭和二五年中になされたか否かにかかるものであるけれども、それはあくまでも判
決理由中に判断せられるところの前提問題たるに止り、このような前提問題たる事
実の存在は毫も判決主文で確定せられるものでなく、既判力を生ずるに由なきもの
である。
 三、 ところで補助参加の要件として、被参加訴訟の訴訟物自体が参加人の権利
義務ないし法律上の地位に影響を及ぼす、すなわち右訴訟物自体が論理上前提とな
つて参加人の権利義務ないし法律上の地位が決せられる場合たることを要するの
か、被参加訴訟の訴訟物自体ではなく、被参加人敗訴の理由となつた前提的な法律
上事実上の判断もまたこれが参加人の権利義務ないし法律上の地位に影響を及ぼす
場合に補助参加要件を充足するのかについては場合を分けて考える必要がある。
 (一) 共同訴訟的補助参加の場合、いまこの適例として債権者が債務者の第三
債務者に対する債務の履行を民法第四二三条により、代位行使する訴訟に債務者が
補助参加する場合を考えるに、この場合の補助参加の目的は、代位訴訟の判決の既
判力の及ぶ主観的範囲が債務者にまで拡張せられ、よつて債務者が、債権者のなす
訴訟の拙劣のため第三債務者に対する債権を喪失すると同じ結果を生ずることを防
止するにあり、この場合においては、補助参加要件としては、被参加訴訟の訴訟物
自体に利害を有する場合たることを必要とすることは理の当然であろう。
 (二) 通常の補助参加の場合、いまこの適例として債権者が主たる債務者の保
証人を訴求した場合における主たる債務者の補助参加について考えるに、この場合
保証人は将来当該訴訟に敗訴し弁済を余儀なくせられた場合に生ずる主たる債務者
に対する求償権を保全するため、これに訴訟告知をなして参加的効力を生ぜしめ、
求償権訴訟において主たる債務者をしてその債務の不存在なる事実の主張を封ずる
ことができるのであるが、保証債務請求訴訟の訴訟物は、あくまでも保証債務その
ものであつて主たる債務は保証債務特定の要素ではあるが、これにつき既判力を生
ずるものでなく、判決主文で確定せられる権利関係ではない。だから若し通常の補
助参加の場合においても共同訴訟的補助参加の場合と同様に厳密に判決主文で確定
せられる権利または法律関係に対する利害関係に拘泥するときは、右設例の場合に
補助参加要件を否定し、従つてまた訴訟告知要件をも否定せざるをえず、延いて訴
訟告知が許されると通常解せられている多くの場合、例えば買主から瑕疵担保責任
を追及せられた売主が更に自己の売主に対する瑕疵担保責任を保全しようとする場
合、代理人と称する者を通じて相手方と取引した債権者が相手方に対する履行請求
訴訟に敗訴した場合を虞つて代理人と称する者に対する民法第一一七条の責任追及
権を保全するためこれに告知する場合など、いずれも判決主文で確定せられる権利
でなく、敗訴の前提たる事実または法律関係(前者においては瑕疵の存在、後者に
おいては代理権の不存在)が参加的効力を生ずる事項であるから補助参加する者は
このような事項に利害を有しても参加することができず告知者はこのような者に対
し訴訟告知をなしえないこととなり、訴訟告知制度の妙味は全く失われてしまうと
いうも過言ではない。このように考えてくると、通常の補助参加においては、被参
加人の敗訴の前提となつた事実上または法律上の判断につき利害関係を有するにす
ぎぬものもまた補助参加をなしうるものと考えねばならぬとともに、右はあくまで
も訴訟告知および参加的効力との関係からこのように考えて来たものであり、参加
的効力は参加人と被参加人との間に生ずるものであるから、補助参加をなす利害関
係は右当事者間の利害関係に限定せられ、その主観的範囲を参加人と被参加人の相
手方との間の利害関係の如きものにまで及ぼすべきでないことも自明であろう。
 <要旨>四、 そこで次に右の如き立場から本件補助参加申立の適否を考えてみる
に、被控訴人ら敗訴の場合本訴の判決主文で確定せられるところのものは、
前記各行政処分の違法、延いては、控訴人の相続税債務の不存在にすぎず、このよ
うなことは専ら控訴人と国との間の利害関係事項であつて、申立人の権利義務ない
し法律上の地位が、右行政訴訟事件の訴訟物である権利関係の存否を前提として決
せられるべき関係にないから被参加訴訟が抗告訴訟なる場合は判決の形成的効力は
第三者にも及ぶものと解すると否とに拘らず本件参加申立は共同訴訟的補助参加と
しての要件を欠如し失当である。更に通常の補助参加としての要件を具備している
かどうかについて考えるに申立人は贈与契約ないしその履行の存否が申立人を被告
とし控訴人を原告とする前記尼崎支部係属の事件に影響を持つと主張するのみで申
立人と被参加人(被控訴人ら)との利害関係、すなわち若し被控訴人らが本訴で敗
訴すれば、その敗訴の前提理由となるべき前記贈与契約ないしその履行の不存在な
る事実に基因し被控訴人らから損害賠償、不当利得、求債権、担保の各請求などを
せられ、または申立人が被控訴人らに対し本来請求しうべかりし権利を失うの虞れ
の存することを何等主張しないのであるから、一般に補助参加人が自ら進んで訴訟
に参加し、または訴訟告知を受けて参加したものとみなされる場合に参加的効力を
生ずる事項(本件についていえば前記贈与契約ないしその履行の不存在の事実がこ
れに該当する)が被参加人(本件では被控訴人ら)と参加人(本件では申立人)間
において参加人にいかなる不利益を及ぼすのか不明であることに帰し、結局本件申
立は通常の補助参加の要件を具備せずその理由がないことが明らかである。
 五、 以上の次第によつて本件補助参加の申立は、以上いずれの立場に立つて補
助参加の要件を考えてみても、その理由なきものと言うべきであるからこれを棄却
することとし、主文のとおり決定した。
 (裁判長裁判官 宅間達彦 裁判官 増田幸次郎 裁判官 島崎三郎)

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