弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
原判決を破棄する。
被上告人らの控訴をいずれも棄却する。
控訴費用及び上告費用は被上告人らの負担とする。
理由
上告代理人森竹彦ほかの上告受理申立て理由について
1本件は,学校法人である上告人に雇用され,その設置する私立学校に勤務す
る教職員である被上告人らが,上告人は平成14年度及び同15年度の各12月期
の期末勤勉手当(以下「本件各期末勤勉手当」という。)をいずれも一方的に減額
し,一部しか支払わなかったと主張して,上告人に対し,本件各期末勤勉手当の残
額及びこれに対する遅延損害金の支払を求める事案である。
2原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1)就業規則等の規定
上告人の就業規則には,「職員の給与ならびにその支給の方法については,給与
規程によりこれを定める。」との規定があり,これを受けて定められた上告人の給
与規程には,「期末勤勉手当は,6月30日,12月10日および3月15日にそ
れぞれ在職する職員に対して,その都度理事会が定める金額を支給する。」との規
定がある。なお,上記期末勤勉手当は,期末手当と勤勉手当とから成るものであ
る。
(2)従前の給与規程改定の経緯
上告人は,昭和51年ころから,人事院が行う一般職国家公務員の給与改定につ
いての勧告(以下「人事院勧告」という。)に倣って給与規程を改定してきた。平
成11年度までは人事院勧告が給与の引上げを勧告するものであったから,上告人
は,その勧告に倣って,毎年11月ころ,給与規程を改定して職員の給与を増額
し,その年の4月分から11月分までの給与については,実際に支払った金額と改
定後の給与規程によった場合の金額との差額を11月末ころに別途支給していた。
同12年度及び同13年度の人事院勧告は,俸給表の改定を行うべき旨を勧告せ
ず,上告人も給与規程の改定を行わなかった。
(3)平成14年度期末勤勉手当の支給
ア上告人は,平成14年5月30日,理事会において,平成14年度12月期
の教職員の期末勤勉手当(以下「平成14年度期末勤勉手当」という。)の支給額
を,期末手当につき,算定基礎額(本俸,扶養手当,調整手当及び教職調整額の1
か月分の合計額。以下,期末手当につき同じ。)の2.6倍,勤勉手当につき,算
定基礎額(本俸,調整手当及び教職調整額の1か月分の合計額。以下,勤勉手当に
つき同じ。)の0.6倍とし,同年度の人事院勧告を受けて同年11月開催の理事
会で正式に決定する旨議決した。
イ上告人は,同年6月20日,被上告人らを含む教職員に対し,平成14年度
期末勤勉手当の乗率を,期末手当につき2.6か月分,勤勉手当につき0.6か月
分と決定した旨の通知をした。
ウ同年8月8日に発表された同年度の人事院勧告は,月例給を2.03%,期
末勤勉手当を0.05か月分引き下げる旨を勧告する内容であった。
エ上告人は,同年11月14日,理事会において,上記人事院勧告に準拠して
給与規程を改定し,職員の月例給を引き下げることを決定するとともに,平成14
年度期末勤勉手当の支給額について,上記アの算定基礎額(ただし,上記改定後の
給与規程による。)及び乗率に従った上で,更に上記人事院勧告に倣って調整する
との決定をした。
オ上告人は,上記エの決定に基づき,同年12月10日,被上告人らに対し,
次の方法により算定した金額を平成14年度期末勤勉手当として支払った。その方
法は,期末手当の算定基礎額に2.6を,勤勉手当の算定基礎額に0.6をそれぞ
れ乗じ(ただし,各算定基礎額は,上記エで決定された改定後の給与規程に基づい
て算定する。),これらの合計額から,同年4月から11月までの間に支給した給
与と同期間についての上記改定後の給与規程によった場合の給与との差額を控除
し,同期間に支給した給与について徴収した源泉徴収税の金額と同期間についての
上記改定後の給与規程によった場合の給与に基づいて算定される源泉徴収税の金額
との差額を加えた金額をもって,支給額とするものであった。
(4)平成15年度期末勤勉手当の支給
ア上告人は,平成15年5月28日,理事会において,平成15年度12月期
の教職員の期末勤勉手当(以下「平成15年度期末勤勉手当」という。)の支給額
を,期末手当につき,算定基礎額の2.6倍,勤勉手当につき,算定基礎額の0.
6倍とし,同年度の人事院勧告を受けて同年11月開催の理事会で正式に決定する
旨議決した(以下,平成14年及び同15年の各5月に開催された理事会を「5月
理事会」という。)。
イ同年8月8日に発表された同年度の人事院勧告は,月例給を1.07%,期
末勤勉手当を0.25か月分引き下げる旨を勧告する内容であった。
ウ上告人は,同年11月10日,理事会において,上記人事院勧告に準拠して
給与規程を改定し,職員の月例給を引き下げることを決定するとともに,平成15
年度期末勤勉手当の支給額について,上記アの算定基礎額(ただし,上記改定後の
給与規程による。)及び乗率に従った上で,更に人事院勧告に倣って調整するとの
決定をした(以下,平成14年及び同15年の各11月に開催された理事会を「1
1月理事会」という。また,本件各期末勤勉手当において人事院勧告に倣ってされ
た調整を「本件調整」ということがある。)。
エ上告人は,上記ウの決定に基づき,同年12月10日,被上告人らに対し,
次の方法により算定した金額を平成15年度期末勤勉手当として支払った。その方
法は,期末手当の算定基礎額に2.6を,勤勉手当の算定基礎額に0.6をそれぞ
れ乗じ(ただし,各算定基礎額は,上記ウで決定された改定後の給与規程に基づい
て算定する。),これらの合計額から,本俸,扶養手当,調整手当,住居手当,通
勤手当,職務手当及び教職調整額の1か月分の合計額に1.07%及び4月から1
1月までの月数8を乗じた額と,同年度6月期の期末勤勉手当の支給額に1.07
%を乗じた額とを控除した金額をもって,支給額とするものであった。
3原審は,上記事実関係の下において次のとおり判断し,被上告人らの請求を
いずれも認容すべきものとした。
(1)毎年度の12月期に期末勤勉手当が支給されることは,上告人と被上告人
らとの労働契約の重要な内容となっており,その支給実績がその都度個別の労働契
約の中に取り込まれ,労働契約の要素と化しているから,毎年11月に開催される
理事会で具体的な支給額が決定されなかった場合における12月期の期末勤勉手当
については,従前の支給実績に基づいて請求権が発生する。
したがって,11月開催の理事会で従前の支給実績を下回る支給額が決定された
場合,労働契約の内容が労働者に不利に変更されることになるから,その決定が効
力を有するためには,原則として個別に労働者側の同意があることを要し,それが
ないときにおいては,その減額が必要やむを得ないものであるなど,特段の事情が
認められなければならない。
(2)本件各期末勤勉手当について,11月理事会の決定に基づいて被上告人ら
に支給された額は,いずれも従前の実績を下回るものであるところ,そのことにつ
いて労働者側の明示の同意があったとは認められない。もっとも,被上告人らは,
平成14年度及び同15年度の人事院勧告に準拠してされた給与規程の減額改定自
体や,本件各期末勤勉手当が減額改定された給与規程に基づいて算定されることに
ついては,黙示の同意をしているものと認められるが,本件調整による減額につい
ては,同意をしていないことは明白である。
しかるに,上告人は,本件調整について,人事院勧告に倣ったということ以上に
は何ら特段の事情を主張しないところ,それだけでは本件調整を合理的なものとす
ることはできず,他に上記のような特段の事情は認められない。
したがって,上告人がした本件調整をする旨の決定は,効力を有しないものとい
うべきである。
4しかしながら,原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次
のとおりである。
(1)前記事実関係によれば,上告人の期末勤勉手当の支給については,給与規
程に「その都度理事会が定める金額を支給する。」との定めがあるにとどまるとい
うのであって,具体的な支給額又はその算定方法の定めがないのであるから,前年
度の支給実績を下回らない期末勤勉手当を支給する旨の労使慣行が存したなどの事
情がうかがわれない本件においては,期末勤勉手当の請求権は,理事会が支給すべ
き金額を定めることにより初めて具体的権利として発生するものというべきであ
る。
ところで,前記事実関係によれば,本件各期末勤勉手当の支給額については,各
年度とも,5月理事会における議決で,算定基礎額及び乗率が一応決定されたもの
の,人事院勧告を受けて11月理事会で正式に決定する旨の留保が付されたという
のであるから,5月理事会において本件各期末勤勉手当の具体的な支給額までが決
定されたものとはいえず,本件各期末勤勉手当の請求権は,11月理事会の決定に
より初めて具体的権利として発生したものと解するのが相当である。
したがって,本件各期末勤勉手当において本件調整をする旨の11月理事会の決
定が,既に発生した具体的権利である本件各期末勤勉手当の請求権を処分し又は変
更するものであるということはできず,同決定がこの観点から効力を否定されるこ
とはないものというべきである。
(2)なお,仮に,5月理事会において議決された本件各期末勤勉手当の支給額
算定方法の定めが,上告人の就業規則の一部を成す給与規程の内容となったものと
解し,11月理事会の決定が,その算定方法による額から更に本件調整のための減
額をする点において,被上告人らの労働条件を不利益に変更するものであると解す
る余地があるとしても,前記事実関係によれば,上告人においては,長年にわた
り,4月分以降の年間給与の総額について人事院勧告を踏まえて調整するという方
針を採り,人事院勧告に倣って毎年11月ころに給与規程を増額改定し,その年の
4月分から11月分までの給与の増額に相当する分について別途支給する措置を採
ってきたというのであって,増額の場合にのみそ及的な調整が行われ,減額の場合
にこれが許容されないとするのでは衡平を失するものというべきであるから,人事
院勧告に倣って本件調整を行う旨の11月理事会の決定は合理性を有するものであ
り,同決定がこの観点からその効力を否定されることはないというべきである。
5以上によれば,本件各期末勤勉手当において本件調整をする旨の決定が効力
を有しないものであるとし,被上告人らの請求を認容すべきものとした原審の判断
には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は以上と同旨を
いうものとして理由があり,原判決は破棄を免れない。そして,以上説示したとこ
ろによれば,被上告人らの請求は理由がないから,これを棄却した第1審判決は正
当であり,被上告人らの控訴をいずれも棄却すべきである。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官近藤崇晴裁判官藤田宙靖裁判官堀籠幸男裁判官
那須弘平裁判官田原睦夫)

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