弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
         理    由
 弁護人矢野茂郎の上告趣意について。
 第一点 所論の要旨は、本件犯行当時施行されていた(イ)薪炭需給調整規則は
その後木炭需給調整規則の公布施行に伴い廃止となり、その附則には廃止前にした
行為に関する罰則の適用についてはなお従前の例による旨を定めていたが、(ロ)
さらにその後木炭需給調整規則は廃止となり、その附則には廃止前にした行為に対
する罰則の適用についてはなお従前の例による旨を定めているが、(ハ)この後者
の附則に「廃止前にした行為」とは木炭需給調整規則の施行された後廃止に至るま
での行為に限定さるべきものであるに拘わらず、本件犯行は該規則施行前のもので
あるから、本件犯行後に刑の廃止があつたものとして免訴にすべきだと主張するの
である。
 しかしながら、本件犯行は昭和二三年九月八日頃のものであり、(一)当時施行
されていた薪炭配給統制規則(昭和一八年五月一日農林省令二四号。原判決もこれ
を適用している。論旨は薪炭需給調整規則が施行されていたように主張するが、そ
れは誤解である。該規則は昭和二三年八月二一日農林省令七三号として公布されて
いるが、その施行は九月二〇日で犯行の後のことである)は、その後の薪炭需給調
整規則の施行に伴い廃止となり、同四一条二項には廃止前にした行為に関する罰則
の適用についてはなおその効力を有する旨を定めている。ついで所論のように(二)
前記薪炭需給調整規則はその後木炭需給調整規則の施行に伴い廃止となり、その附
則には廃止前にした行為に関する罰則の適用についてはなお従前の例による旨を定
めている。さらに(三)前記木炭需給調整規則は廃止となりその附則には廃止前に
した行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による旨を定めているのであ
る。かように、相ついで二回以上に亘つて互に連関をもつ法令の廃止があると共に、
その度毎に廃止前の行為に対する罰則の適用についてはなお従前の例による旨が定
められた場合においては、その各法令の廃止前にしたすべての行為に対する罰則の
適用については、なお従前の例すなわち犯行当時の各法令によつて所罰すべき趣旨
を有するものと解するを相当とする。所論のごとく狭く限定的に解することはあま
りにも形式的な物の見方であると言わねばならぬ。論旨は、それ故に理由がない。
 第二点 所論は、臨時物資需給調整法は昭和二一年一〇月一日法律三二号として
公布、即日施行せられ、その後昭和二二年三月三一日その一部を改正して「この法
律は昭和二三年四月一日又は経済安定本部の廃止の時の何れか早い時にその効力を
失う」と公示し、さらにその後同法の失效時期を一年延長して昭和二四年四月一日
とする旨改正し、これを昭和二三年三月三一日付で実際には同年四月九日の官報号
外に登載して配付され同日公布されたのであるから、同法は昭和二三年四月一日に
失效したと主張するのである。
 しかしながら、問題となつている前記後者の改正法律案は、昭和二三年三月三一
日衆議院及び参議院の両議院で可決され、同日法律となつたのである(憲法五九条
一項)。従つて、これによつて前記前者の改正法律は改正されたのであるから、臨
時物資需給調整法が昭和二三年四月一日に失効するわけはないのである。されば、
所論によるも前記後者の改正法律の公布(四月九日)の後に属する昭和二三年九月
八日頃に行われた本件犯行に対し、臨時物資需給調整法を適用処断したのは正当で
あつて所論のような違法はない。
 よつて旧刑訴四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員の一致した意見である。
 検察官 福島幸夫関与
  昭和二六年三月一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    眞   野       毅
            裁判官    澤   田   竹 治 郎
            裁判官    齋   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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