弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件再上告を棄却する。
         理    由
 弁護人鍛治利一、同池辺甚一郎上告趣意第一点及び弁護人池辺甚一郎上告趣意第
四点について。
 記録を調べてみると、憲法及び刑訴応急措置法の施行前の第二審第一回公判期日
において、弁護人から証人A外六名の尋問及び検証の申請をしたのに対し、裁判所
は証人B外四名の尋問及び検証の申請を採用し、証人A外一名の申請を却下する旨
の決定を言渡している。そして、前記法律施行前公判廷外において右採用した五名
の証人尋問及び検証を行つた。ついで、前記法律施行後の第二回公判期日において、
十五日以上開廷しなかつたことを理由として公判手続の更新があり、同期日におい
ては証人Aに対する尋問の申請はなく、同人の供述を録取した第一審公判調書の証
拠調等を修了した。そして、第二審判決は、前記公判調書中の証人Aの供述記載を
証拠として採用してゐる。論旨は、この証拠の採り方を問題としたのである。しか
し、同証人の供述は公判廷外のものではなく第一審の公判廷において被告人の面前
でなされたものであるから、被告人はすでにその供述の内容を知り悉しおり、被告
人にはすでに同証人尋問の機会は与えられているのである。従つて、第二審におい
て同証人の申請を却下しておきながら、その供述記載を証拠にとつても、別段刑訴
応急措置法第一二条又は憲法第三七条第二項に違反するものと言うことはできない
(昭和二三年(れ)第七一号、同年六月一〇日第一小法廷判決)。されば、この点
に関する第二審判決及びこれを是認している原上告判決は結局正当だということに
帰着する。論旨は採用し難い。
 同第二点及び弁護人池辺甚一郎上告趣意第一点について。
 所論の憲法第三七条第一項にいわゆる「公平な裁判所の裁判」とは、偏頗のおそ
れのない公正な組織と構成をもつた裁判所の裁判を意味するものであつて、個々の
具体的な裁判が常に公平な結果を得ていることを保障した意義を有するものでない
ことは当裁判所の判例とするところである。本論旨に主張するような事実が、仮に
あつたとしても、それをもつて憲法第三七条第一項に違反するものと言うことはで
きない。論旨を採るを得ない。
 弁護人池辺甚一郎上告趣意第二点について。
 本論旨は、弁護権の行使を不当に制限した違憲があると主張するけれども、仮り
に所論のような事実があつたとしても、それは単に違法を招来する可能性があると
いうだけの話であつて、これをもつて違憲を来たすものとは、到底考えることがで
きぬ。論旨は、再上告の理由としては採用するを得ない。
 同第三点、第五点、第六点について。
 第三点論旨の前段については、弁護人鍛治利一、同池辺甚一郎上告趣意第一点に
ついて、すでに述べたとおりである。第三点論旨の後段及び第五点、第六点につい
ては、仮りにかかる事実があつたとしても、それは単なる違法を招来するだけで違
憲となるべきものではない。されば、論旨は、再上告の理由として採ることはでき
ぬ。
 よつて旧刑訴第四四六条に従い主文のとおり判決する。
 この判決は裁判官全員一致の意見である。
 検察官 十蔵寺宗雄関与。
  昭和二四年三月三一日
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    真   野       毅
            裁判官    沢   田   竹 治 郎
            裁判官    斎   藤   悠   輔
            裁判官    岩   松   三   郎

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