弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告人及び上告補助参加代理人村田裕の上告理由について
 昭和五七年法律第八一号による改正前の公職選挙法は、参議院議員の選挙につい
て、衆議院議員のそれとは異なる選挙制度の仕組みを設け、参議院議員を全都道府
県の区域を通じて選挙される全国選出議員と都道府県を単位とする選挙区において
選挙される地方選出議員とに区分していた(四条二項、一二条一項、二項)。地方
選出議員の定数配分を定めた同法別表第二の規定は、昭和四六年法律第一三〇号に
より沖縄の復帰に伴い新たに議員数二人が付加されたほかは、参議院議員選挙法(
昭和二二年法律第一一号)別表の定めをそのまま維持したものであつて、その制定
経過に徴すれば、憲法が参議院議員は三年ごとにその半数を改選すべきものとして
いることに応じて、各選挙区を通じその選出議員の半数が改選されることになるよ
うに配慮し、定数一五二人のうち最小限の二人を四七の各選挙区に配分した上、残
余の五八人については人口を基準とする各都道府県の大小に応じ、これに比例する
形で二人ないし六人の偶数の議員数を付加配分したものであることが明らかである。
 右の選挙制度の仕組みは、参議院議員については、国民代表としての実質的内容
ないし機能に衆議院議員とは異なる独特の要素を持たせるべく、全国選出議員につ
いては職能代表的な色彩を持たせ、また、地方選出議員については地域代表の要素
を加味しようとする趣旨で定められたものであつて、国民各自、各層の利害や意見
を公正かつ効果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえ
ず、国会の有する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとは断じ
えないものであり、右のような選挙制度の仕組みを採用した結果、各選挙区の議員
一人当たりの選挙人数に較差が生じ、そのために選挙区間における選挙人の投票の
価値の平等がそれだけ損なわれることになつたとしても、これをもつて直ちに議員
定数の配分の定めが憲法一四条一項等の規定に違反して選挙権の平等を侵害したも
のとすることはできないといわなければならない。すなわち、右のような選挙制度
の仕組みの下では、投票価値の平等の要求は、人口比例主義を基本とする選挙制度
の場合と比較して一定の譲歩、後退を免れないのである。また、社会的、経済的変
化の激しい時代にあつて不断に生ずる人口の異動につき、それをどのような形で選
挙制度の仕組みに反映させるかなどの問題は、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断
を要求するものであつて、その決定は、右の変化に対応して適切な選挙制度の内容
を決定する責務と権限を有する国会の裁量に委ねられているところである。したが
つて、議員定数配分規定の制定後人口の異動が生じた結果、それだけ選挙区間にお
ける議員一人当たりの選挙人数の較差が拡大するなどして、当初における議員定数
の配分の基準及び方法と現実の状況との間にそごを来したとしても、その一事では
直ちに憲法違反の問題が生ずるものではなく、その人口の異動が当該選挙制度の仕
組みの下において投票価値の平等の有すべき重要性に照らして到底看過することが
できないと認められる程度の投票価値の著しい不平等状態を生じさせ、かつ、それ
が相当期間継続して、このような不平等状態を是正するなんらの措置をも講じない
ことが、複雑かつ高度に政策的な考慮と判断の上に立つて行使されるべき国会の裁
量的権限に係るものであることを考慮してもその許される限界を超えると判断され
る場合に、初めて議員定数の配分の定めが憲法に違反するに至るものと解するのが
相当である。
 以上は、当裁判所の判例(最高裁昭和五四年(行ツ)第六五号同五八年四月二七
日大法廷判決・民集三七巻三号三四五頁)の示すところである。昭和五七年法律第
八一号による公職選挙法の改正により参議院議員の選挙について拘束名簿式比例代
表制が導入され、参議院議員は、都道府県を単位とする選挙区ごとに選出される選
挙区選出議員と各政党等の得票に比例して選出される比例代表選出議員とに区分さ
れることとなつたが、選挙区選出議員は従来の地方選出議員の名称が変更されたに
すぎないものであり、比例代表選出議員も、全都道府県の区域を通じて選挙される
ものである点においては、従来の全国選出議員の場合と変わりがないということが
でき、右改正後の選挙制度の仕組みは、国民各自、各層の利害や意見を公正かつ効
果的に国会に代表させるための方法として合理性を欠くものとはいえず、国会の有
する立法裁量権の合理的な行使の範囲を逸脱するものであるとは断じえない。
 ところで、原審の確定したところによれば、本件議員定数配分規定につき人口の
異動に対応した是正措置が講ぜられなかつたことにより、昭和五八年六月二六日の
本件参議院議員選挙の当時においては、選挙区間における議員一人当たりの選挙人
数の較差が最大一対五・五六に拡大し、かつ、いわゆる逆転現象も一部の選挙区の
間に生じていたというのである。しかしながら、選挙区選出議員の議員定数の配分
と選挙人数に右のような不均衡が存したとしても、それだけではいまだ違憲の問題
が生ずる程度の著しい不平等状態が生じていたとするに足りないというべきことは、
前記大法廷判決の趣旨に徴して明らかであり、したがつて、将来右較差が更に拡大
し、当該選挙制度の仕組みの下においても到底看過することができないと認められ
る程度の投票価値の著しい不平等を生じさせ、かつ、その状態を相当期間放置した
ことが国会の立法裁量権の限界を超えると判断される場合は格別として、本件選挙
当時においては、いまだ本件議員定数配分規定が憲法に違反するに至つていたもの
とすることはできない。
 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、採用す
ることができない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第一小法廷
         裁判長裁判官    大   内   恒   夫
            裁判官    角   田   禮 次 郎
            裁判官    高   島   益   郎
            裁判官    佐   藤   哲   郎
            裁判官    四 ツ 谷       巖

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