弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成17年1月19日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成16年(ハ)第4325号 取立金請求事件(以下「①事件」という。)
平成16年(ハ)第5975号 取立金請求事件(以下「②事件」という。)
平成16年(ハ)第6973号 取立金請求事件(以下「③事件」という。)
平成16年(ハ)第8653号 取立金請求事件(以下「④事件」という。)
口頭弁論終結の日 平成16年12月6日
          判        決
主        文
1 被告は,原告に対し,金480,000円を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
 事実及び理由
第1 請求の趣旨 主文同旨
第2 事案の概要
 1 請求原因の要旨
(1) 原告は,訴外Aに対する名古屋地方裁判所平成9年(ワ)第1651号貸金等請
求事件の債務名義に基づき,訴外A所有の別紙物件目録記載の建物(以下「本
件建物」という。)3階部分の賃借人である被告に対する賃料債権について,平
成16年3月17日に差押命令(名古屋地方裁判所平成16年(ル)第857号)を得
たところ,同命令正本は,同命令表示の第三債務者である被告に対しては平成
16年3月22日に,訴外Aに対しては平成16年3月24日に,それぞれ送達され
た。
原告は,訴外Aに対する同命令正本送達後1週間の経過により,被差押債権
につき取立権を取得した。
(2) よって,平成16年4月分から9月分の支払を求める。
2 争点
  抵当権(仮登記)付き建物の賃料債権の差押え後に建物を譲り受けた者が賃料債
権の取得を差押債権者に対抗できるか。
(1) 原告は,本件の場合にも,建物所有者の債権者が賃料債権を差し押さえ,そ
の効力が発生した後に,建物所有者が当該建物を他に譲渡し賃貸人の地位が
譲受人に移転した場合には,譲受人は,建物の賃料債権を取得したことを差押
債権者に対抗することができない(最判平成10年3月24日民集52巻2号399
頁)とする最高裁の判決が適用されるべきであると主張する。
(2) 被告は,抗弁として,訴外Aは,平成16年4月7日代物弁済により差押賃料の
対象となる本件建物の所有権を訴外有限会社Bに移転し,同日その登記がなさ
れたのであるから,本件差押命令の効力は,同日以降の賃料債権に及ばないと
して,次のとおり主張する。
   ア 債権差押命令は執行債務者に対し,被差押債権の処分を禁止する効力を有す
るにとどまり,基本たる法律関係を正当な理由に基づき消滅・変更させること
を妨げる効力はないとの一般理論がある。しかるに,賃料債権差押え後,賃
貸目的物を譲渡した場合に,所有権の移転と賃貸人たる地位の移転は認め
るが,賃料債権は取得できないというのではかかる一般理論に反する結果と
なる。すなわち,賃料債権は賃貸人たる地位の主要な要素と考えられるが,
原告の主張が通れば,基本たる法律関係の処分までも制限されてしまい,建
物所有者に著しく不利益であるのに対して,賃料債権を差し押さえたに過ぎな
い債権者を過大に保護する結果となるからである。さらに,賃料の差押えは
公示されないから,賃貸目的物の譲受人に不測の損害を与えるおそれがあ
る。賃料債権を包括的に差し押さえると,その後何があっても優先するという
のは明らかに不当である。むしろ,差押債権者も賃貸借契約の解除や期間満
了等により賃貸借契約の終了することを予定しているわけであるから,本件
のような賃貸人たる地位が移転する場合も当然予定していたはずであり,執
行妨害的な譲渡でもない限り差押債権者を保護する必要はない。
   イ これに対して,差押債権者を優先させないと,賃貸目的物を譲渡することにより
容易に執行妨害がなされてしまうとの反論が予想される。しかし,執行妨害的
な譲渡に対しては,詐害行為取消権の行使により個別に結論の妥当性を図っ
ていけばいいのであって,一律に差押債権者を有利にするような取り扱いは
認められない。本件でも,賃貸建物譲受人の訴外有限会社Bは,本件建物
に,賃料差押えがある10年以上も前である平成4年に抵当権設定仮登記を
しており,競売という手続をとる代わりに代物弁済を受けたものであるから執
行妨害的な譲渡ではあり得ない。
   ウ 上記に加え,本件建物には,抵当権設定仮登記がなされている(乙第1号証)。
抵当権設定登記後に賃料の差押えがあり,さらに遅れて建物が抵当権実行
により売却された場合,賃料差押債権者は買受人に対抗できないと解されて
いる。なぜなら,このように解することが,賃料の物上代位の場合で抵当権設
定登記後に賃料差押えがあったとき,抵当権者が賃料を優先的に取得すると
した判例(最判平成10年3月26目民集52巻2号483頁)の趣旨に適合する
からである。仮登記の場合でも,本登記に移行すれば同様の効力が認められ
るため,初めから本登記がされていた場合と同じ結論が導かれる。
   エ また,原告の主張からすれば,抵当権(仮登記)付き不動産が任意売却された
場合と,抵当権実行により売却された場合とで結論が異なってしまう。このよう
な結論では,所有者は,高値を付ける者がいて任意売却が適切な場合でも,
時間も費用もかかる抵当権実行の手続を選択をせざるを得ず,社会経済的
に見ても極めて不当であると言わざるをえない。
   オ 加えて,抵当権設定仮登記権利者がその後に本件建物の所有権を取得すれ
ば,混同により消滅するのが原則であるが,本件建物の抵当権設定仮登記
は賃料債権の差押えに対抗するという目的から所有権と両立させる価値があ
るので混同の例外となり,仮登記を本登記にすれば,建物譲受人は賃料債権
取得を原告に対抗できることになる。
第3 理由
 1 争いのない事実及び証拠によれば,請求原因事実をすべて認めることができる。
2 以下,抗弁について検討する。
  建物所有者の債権者が賃料債権を差し押さえ,その効力が発生した後に,所有
者が建物を他に譲渡し賃貸人の地位が譲受人に移転した場合には,譲受人は,
建物の賃料債権を取得したことを差押債権者に対抗することができないと解すべ
きであり(最判平成10年3月24日民集52巻2号399頁),本件のように本件建物
に抵当権(仮登記)が設定された後,賃料債権の差押えがなされ,その効力が発生
した後に,所有者が建物を他に譲渡し賃貸人の地位が譲受人に移転した場合も同
様に解するのが相当である。
   なお,建物の抵当権設定後に賃料債権の差押えがなされ,その後に建物が抵当
権実行により売却された場合には,賃料債権の差押えは買受人に対抗できないこ
とになるのに対し,建物が任意譲渡され,抵当権が建物譲受人に引受けとなる場
合には,賃料債権の差押えを建物譲受人に対抗できることとなるけれども,抵当権
者は抵当権に基づく物上代位による差押えをすれば,抵当権者が賃料を優先的に
取得する(最判平成10年3月26日民集52巻2号483頁)ことができるのであるか
ら,この結論の差異が不当であるとはいえない。
   また,上記の判断によれば,仮に本件建物の抵当権設定仮登記が本登記されて
も,建物譲受人はその賃料債権取得を原告に対抗できないのであるから,被告の
抗弁は理由がない。
名古屋簡易裁判所
裁判官   山   本   敏   治
(別紙物件目録省略)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛