弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

○ 主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
○ 事実及び理由
第一 原告の請求
一 被告大阪府知事は、大阪府と被告社団法人大阪府原爆被害者団体協議会との間
で、原爆被爆者健康診断受診奨励金の支給事務を大阪府が被告社団法人大阪府原爆
被害者団体協議会に委託する契約を締結してはならない。
二 被告社団法人大阪府原爆被害者団体協議会は、大阪府に対し、四九四万四〇〇
〇円を支払え。
第二 事案の概要
一 争いのない事実
1 大阪府における受診奨励金制度
(一) 原子爆弾被爆者の医療等に関する法律(以下「原爆医療法」という。(に
基づいて実施されている原子爆弾被爆者(以下「被爆者」という。)の健康診断
(以下、単に「健康診断」という。)は、被爆者の健康保持向上を図るための制度
であり、これには年二回実施される定期の健康診断と、被爆者の申請により実施さ
れる健康診断がある。なお、健康診断には、それぞれ一般検査と一般検査の結果更
に精密な検査を行う必要のある者につき行われる精密検査がある。
(二) 大阪府は、昭和四八年一一月以降、健康診断の受診率の向上を図り、もっ
て被爆者の健康管理を促進することを目的として、春と秋の定期健康診断を受診し
た府下の被爆者に対し、その受診の都度一〇〇〇円の受診奨励金を支給することと
している。
2 受診奨励金の支給方法
(一) 大阪府は、昭和四八年一一月の制度開始以来、毎年委託契約を締結する方
法により、受診奨励金の支給事務を被告社団法人大阪府原爆被害者団体協議会(以
下、「被告被団協」という。)に委託している(以下、右の委託契約を「本件委託
契約」という。)。
(二) 被告被団協は、「原子爆弾によるすべての被害者の援護活動を行い、もっ
てその健康の保持増進と福祉の向上をはかること」を目的とし、大阪府の市区町村
を単位として組織された被爆者団体(以下、「単位会」という。)を会員とする社
団法人であるところ、被告被団協は、本件委託契約に基づき、大阪府から委託事務
の遂行に必要な事務費(以下「委託料」という。)の概算払いを受けたうえ、その
構成員である単位会を使って受診奨励金の支給事務を行っている。
(三) 単位会における具体的な支給事務は、被告被団協の指示に従い、健康診断
の検査日当日に単位会の役員が検査会場に赴き、受診の確認、受診奨励金の支給及
び請求書兼領収書の受取を行い、日程が終了すると、受診奨励金の残高と請求書兼
領収書を被告被団協に持参する方法によって行われている。
(四) 右手続きの過程において、被告被団協及びその職員並びに単位会及びその
役員らは、受診者の住所・氏名、被爆者手帳番号、健康診断受診日を知ることがで
きる。
3 委託科の支払
大阪府は、平成元年四月及び平成二年四月に締結された本件各委託契約に基づき、
被告被団協に対し、各年二四七万二〇〇〇円、合計四九四万四〇〇〇円の委託料を
支払った。
4 監査請求
原告は、肩書地に居住する大阪府の住民であり、被爆者である。原告は、平成二年
四月二六日、大阪府監査委員に対し、本件委託契約の締結及びこれに基づく委託料
の支払いが違法であるとして、これを中止させるべく、監査請求をしたが、同監査
委員は、平成二年六月二五日、請求に理由がないとして右監査請求を棄却し、原告
は、同日その旨の通知を受けた。
二 当事者の主張
1 原告は、本件委託契約の締結が違法であり、かつ、その結果本件委託契約が無
効であるとして、地方自治法二四二条の二第一項に基づき、被告大阪府知事に対し
将来の本件委託契約の締結の差止めを求めるとともに、被告被団協に対しては、前
記各委託契約に基づいて支払ずみの前記各委託料を大阪府に返還するよう求めてい
るものであるが、原告が本件委託契約の違法・無効事由として主張するのは次の四
点である。
(1) 地方自治法二四三条は、同法施行令一六五条の三、一六一条一項一号ない
し一二号、二項に定める例外を除き、公金支出を私人に委託することを禁止してい
るところ、本件の受診奨励金は、実質上の交通費であって、右例外にはあたらない
から、本件委託契約は地方自治法二四三条に違反する。
(2) 受診奨励金の支給事務は、現実には被告被団協から単位会に再委託されて
いるが、右再委託には法的根拠がなく、違法であり、しかも被告被団協が受診奨励
金を支給する事務を受託した場合、その職員数や組織構造上単位会にその事務を再
委託せざるを得ない状況にあることは明らかであるから、本件委託契約は被告被団
協から単位会への再委託を前提とするものであって、本件委託契約そのものも違法
である。
(3) 受診奨励金の支給事務を行うことにより、必然的に被告被団協の職員や単
位会の役員に被爆者の重要な個人情報(被爆者であること、その住所、氏名、電話
番号、被爆者健康手帳番号、健康診断受診の有無、精密検査が必要な病状にあるか
否か等の秘密一が漏れることになるから、本件委託契約は、地方公務員の守秘義務
を定めた地方公務員法三四条一項に違反し、かつ、被爆者の健康診断に関して知り
えた秘密の漏洩を処罰する旨の原爆医療法二三条に該当する行為を内容とする違
法・無効な契約である。
(4) 受診奨励金の支給事務が被告被団協に委託され、さらに現実の支給事務が
単位会に再委託されて実施されているために、単位会が被告被団協への上納金や単
位会自身の会費を徴求するという名目の下に受診奨励金全額を被爆者に対して直接
現実に交付せず、事実上受診奨励金を単位会が強制的に取り上げるという事態が恒
常化している。また、被告被団協は、被告被団協に属する単位会のない西淀川区の
受診被爆者及び単位会の会員でない受診被爆者に対しては、受診奨励金を健康診断
の検査会場で交付せず、郵便振替支払通知書を送付する方法によって送金している
が、右送金は、受診日から三、四か月も遅れてなされている。本件委託契約を締結
することにより、被爆者福祉を規定する原爆医療法一条に反するこのような事態が
招来されるのであるから、本件委託契約を締結する行為は、被告大阪府知事の合理
的な裁量権の範囲を逸脱するものである。
2 これに対し、被告らは、右(1)ないし(4)の違法事由を全て争い次のとお
り主張する。
(一) (1)について
本件受診奨励金は、地方自治法施行令一六一条一項七号の「報償金その他これに類
する経費」にあたる。原告は、本件受診奨励金は、事実上交通費であるというが、
被爆者が健康診断を受ける際の交通費の支給については、国の機関委任事務の一部
として大阪府知事が行う別個独立の制度があるうえ、交通費であれば実費に応じて
支払われるのが通常であるのに、本件受診奨励金は、全く交通費がかからない者に
対しても一律一〇〇〇円を支払うというものであるから、本件受診奨励金が実質上
の交通費でないことは明らかである。
(二) (2)について
単位会は、あくまで被告被団協の構成員どして受診奨励金の支給事務を行っている
のであって、単位会の事業として右事務を行っているわけではなく、単位会と被告
被団協との間には独立の委託契約も存在しない。したがって、再委託の事実はな
い。
(三) (3)について
被告被団協及び単位会は、各単位会の会員である被爆者の住所、氏名等を把握して
いる。したがって、原告の主張する被爆者の個人情報は、被告被団協及び単位会に
とっては「秘密」とはいえない。また、単位会の会員でない受診被爆者について
は、受診奨励金を検査会場で支給せず、郵便振替支払通知書を送付する方法によっ
て送金しているので、単位会の役員においてはその氏名等を知ることができず、こ
れを知ることができるのは、被告被団協の一、二名の職員のみである。
仮に右個人情報が「秘密」にあたるとしても、被告被団協及び単位会の役員は全員
被爆者であるから、被爆者の立場をよく理解しており、また、大阪府は、本件委託
契約を更新する度に、プライバシー保護について特段の注意をするよう被告被団協
に確認しているから、右役員らが被爆者の個人情報を他に洩らすなどして実害を発
生させる危険性は全くない。したがって、大阪府が被告被団協に対し、被爆者の氏
名等の個人情報を提供する行為は違法性を有しない。
(四) (4)について
単位会が会費名目で受診奨励金を取り上げているという事実はない。また、受診奨
励金の支給に長期間を要しているのは、西淀川区の受診被爆者に対してのみであ
り、その他の地域では、検査会場で支給を受けない受診者(単位会の会員でない
者)に対しても、被告被団協は、大阪府が直接支給事務を行うよりも速やかに支給
している。なお、西淀川区の受診被爆者に対する送金が遅れるのは、西淀川区にお
いては被告被団協に属する単位会がなく、単位会を手足として使えないために、や
むなく保健所、大阪市、大阪府の三者を経由して被告被団協から受診奨励金が支給
されるという事情があるためである。
(五) 仮に本件契約が違法であるとしても、本件委託契約による出損は年間二五
〇万円弱であるのに対し、仮に受診奨励金の支給事務を被告被団協に委託せず大阪
府のみで行うとすれば、職員の増大とそれによる経費の増大(年間約六〇〇万円以
上)は不可避であるから、本件委託契約の締結により大阪府に回復困難な損害が生
じるおそれはないというべきであり、したがって、地方自治法二四二条の二第一項
一号に基づく差止請求は認められない(同項但書)。
また、本件委託契約が違法であるとしても、私法上無効とまではいえないから、被
告被団協の委託料の受領について法律上の原因がないとはいえない6したがって、
同条一項四号に基づく被告被団協に対する不当利得返還請求も理由がない、,
3 右2(五)の被告らの主張に対する原告の反論
被告被団協はその財政基盤が薄弱であるから、本件委託契約に基づき今後も委託科
を払い続ければ、将来において被告被団協から右委託料相当の金員を回収すること
が事実上不可能となることが明らかである。したがって、本件委託契約の締結によ
り、大阪府は回復困難な損害を受けるおそれがあるというべきである。
また、前記1のとおりの違法事由があるから、本件委託契約は公序良俗に反し私法
上も無効である。
三 争点
1 本件受診奨励金は、地方自治法施行令一六一条一項七号の「報償金その他これ
に類する経費」に含まれるか。
2 被告被団協は、受診奨励金の支給事務を単位会に再委託しでいるか。
3 本件委託契約に基づき、被爆者の氏名等の個人情報を大阪府が被告被団協に提
供する行為は、地方公務員法三四条に違反し、または原爆医療法二三条に該当する
か。
4 本件委託契約を締結する行為は、被告大阪府知事の裁量権の範囲を逸脱した行
為といえるか。
5 本件委託契約の締結により、大阪府に回復困難な損害が生じるおそれがある
か。
6 仮に本件委託契約が違法であるとすれば、私法上の効力もないといえるか。
第三 判断
一 争点1について
1 本件受診奨励金の性格
乙四、証人Aの証言によれば、本件受診奨励金は、健康診断の受診率の向上を図
り、よって被爆者の健康管理を促進することを目的として、大阪府が「大阪府原爆
被爆者健康診断受診奨励金支給要綱」に基づき、健康診断を受診した者に対して支
給している奨励金であると認められる。原告は、本件受診奨励金は、実質的には交
通費であると主張するが、乙七、八、二六、二七、証人Aの証言によれば、健康診
断受診に際し、本件受診奨励金とは別に交通手当を受診者に支給する制度のあるこ
とが認められるうえ、本件受診奨励金は、交通費の有無に関係なく健康診断を受診
した者に一律に支払われるものであることに鑑みれば、本件受診奨励金が実質上の
交通費として支給されているものでないことは明らかである。
2 そこで、右のような性格を前提として、本件受診奨励金が地方自治法施行令一
六一条一項七号の「報償金その他これに類する経費」に含まれるか否かを検討す
る。
「報償」とは、一般には役務の提供や施設の利用などによって受けた利益に対する
代償(対価)を意味するものと解されているところ、健康診断を受けることは役務
の提供等とは異なるから、本件受診奨励金をもって報償金そのものということはで
きない。しかし、「報償金その他これに類する経費」にいう「類する経費」には、
警察官の犯人検挙の際の賞与金や優秀卒業生表彰金等の「賞賜金」が含まれると解
されており(地方自治法施行規則一五条二項の歳出予算に係る節の区分8参照)、
右「賞賜金」が、特定の行為を奨励する意義をも有することに鑑みれば、本件受診
奨励金は極めてこれに近い性格を有するものとして、「類する経費」に含まれるも
のとみることができる。そして、地方自治法施行令一六一条一項一号ないし一二
号、二項の各経費と対比すれば、本件受診奨励金を私人に地方公共団体の支出事務
を委託できる例外的な経費の中に含めて解することに特に問題はないと考えられ
る。
3 したがって、本件委託契約の締結は地方自治法二四三条に反しない。
二 争点2について
1 甲七、八、乙二二、証人A、同Bの証言によれば、次の事実が認められる(一
部争いのない事実を含む)
(一) 受診奨励金の支給手続きの流れ
ア 毎年四月に締結される本件委託契約に基づき、大阪府は被告被団協に受診奨励
金及び委託料を概算払いで支払っている。
イ 定期健康診断のうち、一般検査については、被告被団協が、各地区の単位会の
役員に対し、大阪府が作成する被爆者健康診断実施計画に基づき、当該地区の検査
日、時間、会場等を連絡し、支給事務を行うよう指示するとともに、検会日まで
に、過去の受診者数等を勘案しで、必要な受診奨励金の額を交付しでいる。
単位会の役員は、被告被団協の右指示に従って、健康診断の検査日当日に検査会場
に赴き、単位会の会員ないしは単位会に入会を希望する者について受診の確認、受
診奨励金の支給及び請求書兼領収書の受取を行い(単位会の会員でない者及び単位
会に入会を希望しない者については右事務を行わないが、その割合は極めて低
い)、日程が終了すると、受診奨励金の残高と請求書兼領収書を被告被団協に持参
して精算を行っている。なお、右支給事務に携わった単位会の役員に対しては、そ
の請求に基づき、支給事務を行った人数に応じた謝金が被告被団協から支払われて
いる。
ウ 単位会の会員でない者及び単位会に入会を希望しない者に対する受診奨励金の
支給、及び定期健康診断のうち、精密検査を受けた者に対する受診奨励金の支給
は、検査会場で直接支給することはせず、受診者から被告被団協に医療機関の受診
確認印が押印された請求書様式の葉書を送付させたうえ、被告被団協において、右
葉書を送ってきた受診者に対し、郵便振替支払通知書を送付する方法によって支給
している。
(二) 大阪府は、一般検査を受診する者に対する受診奨励金の支給について、被
告被団協がその構成員である単位会の役員を使って右のような方法により支給して
いることを認識しており、かつ、検査会場で現実に支給する右のような方法がとれ
ることに受診率の向上につながるなどの大きな利点があるとして、被告被団協に本
件受診奨励金の支給事務を委託している。
2 右(一)の事実によれば、単位会は、被告被団協の指示に基づいて、定期健康
診断中の一般検査に係る受診奨励金の支給事務のうち、単位会の会員ないしは単位
会に入会を希望する者について受診の確認、受診奨励金の支給及び請求書兼領収書
の受取という一部の事務を行っているにすぎず、被告被団協から委託を受け、その
責任において右事務を実施しているものとみることはできないから、再委託の事実
はないというべきであり、また、右(二)の事実によれば、もともと大阪府は、被
告被団協が大阪府下のほぼ全域において組織されている単位会を構成員としてお
り、単位会を使えば受診奨励金を検査会場において直ちに支給できることに着目し
て本件委託契約を締結しているものと認められるから、被告被団協が単位会をして
前記認定の事務を行わせることは、本件委託契約の趣旨に沿いこそすれ、これに反
するものではない。
3 したがって、被告被団協が単位会をして前記記定の事務を行わせていることに
より、本件委託契約の締結が違法となることはない。
三 争点3について
1 まず、一般的に、原告主張の被爆者に関する個人情報(被爆者であること、そ
の住所、氏名、電話番号、被爆者健康手帳番号、健康診断受診の有無、精密検査が
必要な病状にあるか否か)が、地方公務員法三四条及び原爆医療法二三条にいう
「秘密」にあたるか否かを検討するに、今日でも、被爆者であることは特別の社会
的差別の原因となりうる事項であるから、誰が被爆者で、その者が精密検査の必要
な病状にあるか否かといった事実はもちろん、その者の住所、氏名、電話番号、被
爆者健康手帳番号、健康診断受診の有無も、その者を特定し、または病状を知る手
掛かりを与えるものとして右「秘密」にあたるというべきである。
2 そこで、以下、本件委託契約締結の結果として、どのような個人情報が、いつ
いかなる者に対して知られることになるか、また、そのようにして知られる事態を
招くことが地方公務員法三四条に違反し、または原爆医療法二三条に該当するとい
えるか否かについて検討する。
甲七ないし九、乙七、八、二二、証人C、同Bの各証言、原告本人尋問の結果(一
部)によれば、次の事実が認められる(一部争いのない事実を含む。)。
(一) 大阪府は、最も簡単な手続で支給が受けられるという受診者の便宜、支給
事務が迅速確実に行われるという行政事務の効率的運用という二つの観点から、本
件受診奨励金の支給事務を被告被団協に委託している。ちなみに、大阪府は、定期
健康診断(一般検査及び精密検査)を受診した被爆者に対し、本件受診奨励金を支
給しているが、平成二年度の本件受診奨励金の支給件数は、延べ約一万一〇〇〇件
(一般検査一万件、精密検査一〇〇〇件)であった。また、右健康診断に関与する
医療機関は六一、検査会場は約二〇〇箇所に及んでいる。
(二) 被告被団協は、被爆者全体の援護活動を目的とする大阪府唯一の公益法人
であり、西淀川区及び西成区を除き、ほぼ大阪府下の市区町村ごとに組織された五
五の単位会を会員としており、本件受診奨励金の支給事務を行う適性と能力を有し
ている。
(三) 大阪府は、大阪府知事が被爆者健康手帳交付事務を行っていることによ
り、大阪府下の被爆者の住所、氏名、被爆者健康手帳番号を把握してその記録を保
持しており、右記録に基づいて各被爆者に対し、定期健康診断の通知等をしてい
る。
(四) 定期健康診断の一般検査の際の受診奨励金支給事務に携わることにより、
被告被団協の役員及び職員並びに単位会の役員らは、次のとおりの個人情報に接す
ることになる。
ア 西淀川区、西成区を除く単位会の役員は、検査当日、当該単位会の会員及び入
会を希望する者に対じ、受診奨励金を支給し、その際これと引換えに右の者より請
求書兼領収書を受け取るが、これにより、その者が被爆者であり右検査を受けたこ
と、及び右請求書兼領収書の記載から、その者の住所、氏名、電話番号、被爆者健
康手帳番号を知ることができる。
イ 西淀川区については、西淀川保健所から大阪府に対して受診者についての結果
報告があり、大阪府は、右報告に基づいて被告被団協に対し受診奨励金の支払を指
示する。被告被団協は、その職員二、三名を使って右指示に基づき、郵便振替通知
書により、各受診者に受診奨励金を支給する。被告被団協の職員は、右支給手続き
をする際に、支給の対象となった者が被爆者であり、右検査を受けたこと、及びそ
の者の住所、氏名、被爆者健康手帳番号を知ることができる。
ウ 西成区については、被告被団協の職員が、右アと同様の方法で受診奨励金を受
診者に支給している。これにより被告被団協の職員は、右アと同様の事実を知るこ
とができる。
エ 単位会の会員でない者については、検査会場での支給をせずに、その者から請
求書を被告被団協に送って貰ったうえ、被告被団協からその者に郵便振替通知書を
送付する方法により受診奨励金を支給する。その際被告被団協の職員は、右非会員
について、右イと同様の事実を知ることができる。
(五) 精密検査については、検査会場で直接支給することはせず、受診者から被
告被団協に医療機関の受診確認印が押印された請求書様式の葉書を送付させたう
え、被告被団協において、右葉書を送ってきた受診者に対し、郵便振替支払通知書
を送付する方法によって支給している。これにより被告被団協の職員は、精密検査
を受けた者の住所、氏名等を知ることができる。
(六) なお、被告被団協の一部の役員も、その職員が行う受診奨励金支給事務の
監督を通じて、右職員が知りえた前記各情報に接する機会がある。
(七) 被告被団協及び単位会の役員はすべで被爆者である。また、現在の被告被
団協の職員は、二名であり、うち一名は被爆者である。
(八) 単位会の役員は、当該単位会の会員の住所、氏名を把握している。
(九) 平成三年度の本件委託契約の契約書には、被告被団協の守秘義務が規定さ
れている。また、被告被団協が本件受診奨励金の支給事務を行うようになった昭和
四八年以降、大阪府に対しプライバシーに関して被爆者から苦情が寄せられたこと
はない。
3 右2(四)ないし(六)の事実によれば、本件委託契約に基づく事務を遂行す
ることにより、被告被団協の職員及び一部の役員は、西淀川区及び西成区の被爆者
及び単位会の会員でない被爆者で定期健康診断を受診した者の住所、氏名等、及び
精密検査を受診した者の住所氏名等の秘密を知ることができ、単位会の役員は、自
己の単位会に属する被爆者の健康診断受診の有無という秘密を知ることができるの
であるから(右2(八)のとおり、単位会の役員は、当該単位会の会員の住所、氏
名を把握しているから、受診の事実以外は単位会の役員にとって秘密とはいえな
い。)、大阪府は、本件委託契約を通じて右各情報を被告被団協に提供していると
いうことができる。
しかし、右2(一)、(二)の事実によれば、本件受診奨励金の支給事務を被告被
団協に委託することには高い合理性があると認められるうえ、右のとおり本件委託
契約に基づく事務を遂行することにより単位会の役員が知りうる個人情報は、秘密
としての重要度が低いと考えられる受診の有無にすぎないこと、また、被告被団協
の職員及び役員の知りうる個人情報は、被爆者であることや精密検査の必要な病状
にあることなどの重要な内容を含むものではあるが、これを知ることのできる者の
範囲は極めて限られているうえ、右2(二)、(七)、(九)の事実によれば、こ
れらの者によって、右情報が他に伝播するおそれは極めて低いと考えられることな
どを考え併せると、本件委託契約に基づき、被爆者の氏名等の個人情報を大阪府が
被告被団協に提供する行為をもって、地方公務員法三四条に違反し、原爆医療法二
三条に該当する違法な行為ということはできない。
四 争点4について
原告は、単位会が被告被団協への上納金や単位会自身の会費を徴求するという名目
の下に受診奨励金全額を被爆者に対して直接現実に交付せず、事実上受診奨励金を
単位会が強制的に取り上げるという事態が恒常化している旨主張するが、本件全証
拠によるも右主張事実を認めるに足りない。
また、原告は、西淀川区の受診被爆者及び単位会の会員でない受診被爆者に対する
受診奨励金の支給が受診日から三、四か月も遅れてなされていると主張するが、仮
にそうであるとしても、甲九、証人Bの証言及び原告本人尋問の結果によれば、一
回の定期健康診断について、その受診者の総数は概ね五〇〇〇名以上にのぼるとこ
ろ、これを受診する西淀川区の被爆者は概ね五〇名程度、単位会の会員でない被爆
者は三〇名程度にすぎないことが認められるから、前記のとおりの本件委託契約の
合理性に鑑みれば、右程度の不都合があることのみで、被告大阪府知事の本件委託
契約締結行為が裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとみることは到底できな
い。
五 以上認定説示したところによれば、本件委託契約の締結は適法であり、かつ、
本件委託契約については原告主張の無効事由は存しないというべきである。
よって、本件委託契約の締結が違法であることないしは本件委託契約が無効である
ことを前提とする原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の
負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松尾政行 庄司芳男 丼田 宏)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛