弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
     当審における未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入する。
     当審における訴訟費用は全部被告人の負担とする。
         理    由
 本件控訴の趣意は、弁護人森尻光昭が提出した控訴趣意書に記載されたとおりで
あるから、これを引用する。
 これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。
 第一、 控訴趣意第一点について
 所論は、被告人の司法警察員および検察官に対する各供述調書は、検察官に対す
る英文の供述調書一通を除いて、いずれも翻訳文が添付されていないから証拠能力
がない。捜査官が、日本語を理解しない外国人を被疑者として取り調べ、日本語の
供述調書を作成する場合には、これに被疑者の理解する外国語の翻訳文を添付し、
その翻訳文を被疑者に読ませて理解させたうえ、その翻訳文に被疑者の署名押印を
求めなければ、供述内容の記載の正確性や通訳の正確性を担保する保障がない、と
いうのである。
 そこで、考えてみるのに、なるほど所論のように、日本語の供述調書を作成する
にあたり、同時に被疑者の理解できる言語に翻訳された供述調書の訳文をも作成
し、これを被疑者に読ませるなどして理解させたうえ署名押印を求めておけば、被
疑者の供述内容の記載の正確性と取調ないし供述調書作成の際の通訳の正確性が客
観的に担保されることになり、また、後日その点の審査、検討に資することができ
ることにもなって、所論の保障に役立つことになり、したがつて、実務上このよう
な取調ないし取扱いがなされれば、これが望ましいものであることは原判決も指摘
しているとおりであるが、問題は、日本語を解しない被疑者から通訳人の口頭通訳
によつて得た供述を日本語で記載して作成した供述調書は、その内容を被疑者の理
解できる言語に翻訳した文書を同時に作成し、かつ、これに被疑者の確認の署名ま
たは押印を得ておかないかぎり、その一事を欠くことだけで刑訴法三二二条一項所
定の被疑者の署名押印のある供述調書とはなし得ないとすべきかどうかであ<要旨>
る。もとより、日本語を理解しない被疑者の取調にあたり立会わせた通訳人をして
被疑者の供述を日本語に通訳させ、さらに日本語で記載された供述調書の内
容を被疑者に通訳させてこれを理解させ、日本語の記載が被疑者の供述に符合して
いることを確認させて日本文調書に署名等を求めるという方式にとどめる場合に
は、右の過程で供述と記載の間に二重のそごが生じる可能性があり、しかもその発
生原因となると思われる当該通訳人の通訳人としての一般的能力や通訳時における
通訳の正確性あるいは通訳人としての公平性などを供述調書と翻訳文のそれぞれの
記載自体を対比するという方法によつて事後に吟味をすることができないという問
題があつて、この点から完壁さを欠くことになることは否み得ないところではある
けれども、他面、通訳が多分に機械的、技術的な性質のものであることを考える
と、これら通訳人の能力や通訳時の正確性さらには公平性などは、当該通訳人や取
調官などを証人として尋問し、あるいは被疑者に対する本人質問を行うなどの方法
によつて事後的に吟味・確認することができるものであるから、翻訳文を欠くから
といつて、ただちに通訳の正確性などは事後の確認が不可能であるとして被疑者調
書としての証拠能力自体を否定し去るのは相当ではなく、翻訳文を欠く日本語の供
述調書であつても、事後の吟味、検討によつてその作成時の通訳の正確性等に疑問
のないことが確認できた場合には、所定の要件を備えているかぎりこれに刑訴法三
二二条一項に定める調書としての証拠能力を認めることができるものというべきで
ある。
 ところで、所論指摘の本件被告人の各供述調書はいずれも被告人が自ら閲読し、
または読み聞けられることによつては理解することのできない日本語によつて記載
されたものであるが、その末尾にはいずれも供述録取者が、録取のとおり通訳人を
介して読み聞け、あるいは単に読み聞けをした旨およびこれに対し被告人が誤りな
いことを申し立てて署名指印した旨の記載と被告人の署名指印があるほか、通訳人
が供述録取者や作成者とともにそれぞれ署名押印しているものであるところ、原審
における証拠調の結果によれば、本件においては右各供述調書に被告人の供述が録
取された取調の際、当該通訳者がそれぞれ被告人の理解できる英語によつて通訳に
あたり、録取された供述調書の内容を正確に通訳して被告人の理解を得たうえその
署名指印を受けたものであることを認めることができる一方、被告人の供述を含め
て全証拠を検討しても、右供述調書の作成の際通訳にあたつた各通訳人の通訳能力
や通訳内容の正確性などに疑義をさしはさむべき特段の状況は見出すことができな
いから、原審が右のような形式の被告人供述調書につき証拠調を経たうえでその作
成過程における通訳の正確性などを確認できたものとしてこれに証拠能力を認めた
のは相当であつて違法な点はないというべきである。論旨は理由がない。
 第二、 控訴趣意第二点について
 所論は量刑不当の主張であり、被告人は原判示第二の窃盗と放火の際は飲酒酩酊
によつて心神耗弱に近い状態にあつたから、このような状況下での犯行であること
を考えると原判決の量刑は重すぎて不当である、というのである。
 そこで、所論にかんがみ原審記録を精査、検討してみると、被告人の右犯行は飲
酒後のものであるけれども、被告人は犯行ならびにその前後の行動と気持の動きを
詳細に記憶していてこれを捜査官に供述しており、その内容は主要な点ですべて他
の証拠と符合しているばかりでなく、合理性があること、すなわち、暗やみ同然の
被害者方の階上、階下をライターの火だけでくまなく物色して窃取に値いする物だ
けを盗んでおり、窃取した物件が数多いのに、たとえば電気カミソリが被害者方の
どこにあつたかまで記憶していること、方法としてはやや特異と思われる放火の実
行行為についての自供内容がそのとおり可能であることが原判決挙示のAの鑑定書
などによつて裏付けられていること、被告人は放火後現場を離れてからも結果が気
になり、自己の所為が大事にいたらずに終つたらしいことを時間をかけて確めよう
としていたことなどが認められ、これらはいずれも被告人の当時の心神状態の正常
性を示すものであり、また、当時被告人が飲酒によつて酩酊していたことは認めら
れるけれども、原審鑑定人Bの鑑定書などによれば、その酔いの程度はいわゆる単
純酩酊にあたるもので異常酩酊の疑いはないことなどが認められるので、これらを
総合すれば、被告人が発揚性、意志不定性のいわゆる精神病質者であることを考慮
しても、被告人の本件第二の各所為は通常の人間の合理的な動機、目的によるもの
であり、かつ自らの意思と行動の制御が可能な状態におけるものとして十分理解で
き、その責任を問う障碍となるものはないばかりでなく、酩酊の故に右犯行が酌量
に値いするものとすることもできない。そして、本件犯行の動機、態様、結果とく
に窃盗の回数が多いことと放火の所為の危険性やその一般におよぼす影響が大きい
ことなどを考えると、本件についての被告人の責任は重大であり、原審の量刑は相
当であつて、重すぎて不当であるとは認められない。論旨は理由がない。
 よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却し、刑法二一条により当審におけ
る未決勾留日数中一五〇日を原判決の刑に算入し、当審における訴訟費用は刑訴法
一八一条一項本文を適用してこれを全部被告人に負担させることとし、主文のとお
り判決する。
 (裁判長裁判官 小松正富 裁判官 山崎宏八 裁判官 佐野昭一)

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