弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
    一 原判決中、上告人敗訴の部分を次のとおり変更する。
     第一審判決を次のとおり変更する。
     1 被上告人らは上告人に対し、各自二一六万六二二五円及びこれに対
する被上告人有限会社B1については平成二年七月一四日から、被上告人B2につ
いては同年三月三〇日から、各支払済みまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
     2 上告人のその余の請求をいずれも棄却する。
    二 本件附帯上告を却下する。
    三 第一項に関する訴訟の総費用(被上告人らの附帯控訴費用を除く)は、
これを七分し、その一を被上告人らの、その余を上告人の負担とし、附帯上告費用
は附帯上告人らの負担とする。
         理    由
 一 上告代理人村田敏、同伊藤重勝、同水野賢一の上告理由一、二の1、2、三
及び四並びに同五のうちこれらと同旨をいう部分について
 1 本件は、在留期間を超えて我が国に残留している外国人が、被上告人有限会
社B1で就労中に労災事故に被災して後遺障害を残す傷害を負ったため、使用者で
ある被上告会社等に対して損害賠償を求めるものである。
 2 財産上の損害としての逸失利益は、事故がなかったら存したであろう利益の
喪失分として評価算定されるものであり、その性質上、種々の証拠資料に基づき相
当程度の蓋然性をもって推定される当該被害者の将来の収入等の状況を基礎として
算定せざるを得ない。損害の填補、すなわち、あるべき状態への回復という損害賠
償の目的からして、右算定は、被害者個々人の具体的事情を考慮して行うのが相当
である。こうした逸失利益算定の方法については、被害者が日本人であると否とに
よって異なるべき理由はない。したがって、一時的に我が国に滞在し将来出国が予
定される外国人の逸失利益を算定するに当たっては、当該外国人がいつまで我が国
に居住して就労するか、その後はどこの国に出国してどこに生活の本拠を置いて就
労することになるか、などの点を証拠資料に基づき相当程度の蓋然性が認められる
程度に予測し、将来のあり得べき収入状況を推定すべきことになる。そうすると、
予測される我が国での就労可能期間ないし滞在可能期間内は我が国での収入等を基
礎とし、その後は想定される出国先(多くは母国)での収入等を基礎として逸失利
益を算定するのが合理的ということができる。そして、我が国における就労可能期
間は、来日目的、事故の時点における本人の意思、在留資格の有無、在留資格の内
容、在留期間、在留期間更新の実績及び蓋然性、就労資格の有無、就労の態様等の
事実的及び規範的な諸要素を考慮して、これを認定するのが相当である。
 在留期間を超えて不法に我が国に残留し就労する不法残留外国人は、出入国管理
及び難民認定法二四条四号ロにより、退去強制の対象となり、最終的には我が国か
らの退去を強制されるものであり、我が国における滞在及び就労は不安定なものと
いわざるを得ない。そうすると、事実上は直ちに摘発を受けることなくある程度の
期間滞在している不法残留外国人がいること等を考慮しても、在留特別許可等によ
りその滞在及び就労が合法的なものとなる具体的蓋然性が認められる場合はともか
く、不法残留外国人の我が国における就労可能期間を長期にわたるものと認めるこ
とはできないものというべきである。
 3 原審の適法に確定するところによれば、上告人は、パキスタン回教共和国(
パキスタン・イスラム共和国)の国籍を有する者であり、昭和六三年一一月二八日、
我が国において就労する意図の下に、同共和国から短期滞在(観光目的)の在留資
格で我が国に入国し、翌日から被上告会社に雇用され、在留期間経過後も不法に残
留し、継続して被上告会社において製本等の仕事に従事していたところ、平成二年
三月三〇日に本件事故に被災して後遺障害を残す負傷をしたものであり、その後も、
国内に残留し、同年四月一九日から同年八月二三日までの間は別の製本会社で就労
し、更にその後は、友人の家を転々としながらアルバイト等を行って収入を得てい
るが、出入国管理及び難民認定法によれば、最終的には退去強制の対象とならざる
を得ないのであって、上告人について、特別に在留が合法化され、退去強制を免れ
得るなどの事情は認められないというのである。
 原審は、右事実関係の下において、上告人が本件事故後に勤めた製本会社を退社
した日の翌日から三年間は我が国において被上告会社から受けていた実収入額と同
額の収入を、その後は来日前にパキスタン回教共和国(パキスタン・イスラム共和
国)で得ていた収入程度の収入を得ることができたものと認めるのが相当であると
したが、上告人の我が国における就労可能期間を右の期間を超えるものとは認めな
かった原審の認定判断は、右に説示したところからして不合理ということはできず、
原判決に所論の違法があるとはいえない。また、出国先ないし将来の生活の本拠、
労働能力喪失率等所論の点に関する原審の認定判断も、原判決挙示の証拠関係に照
らして是認するに足り、その過程に所論の違法はない。
 論旨は、違憲をいう点を含め、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定
を非難するか、又は右と異なる見解に基づき原判決の法令解釈の誤りをいうもので
あって、採用することができない。
 二 同二の3及び5並びに同五のうちこれらと同旨をいう部分について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、原審の裁量に属す
る過失相殺割合の量定の不当をいうか、又は独自の見解に基づき原判決を論難する
ものであって、採用することができない。
 三 同二の4及び同五のうちこれと同旨をいう部分について
 所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当とし
て是認することができる。慰謝料額の算定は、原則として、原審の裁量に属すると
ころ、所論は、上告人には、日本人以上の慰謝料額を認めるべき事情がある旨主張
するが、一部は原審の認定しない事実を前提とするものであるほか、その主張する
ところをもってしても、日本人以上の慰謝料額を認めなければならない事情がある
ということはできない。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができな
い。
 四 同二の6及び同五のうちこれと同旨をいう部分について
 労働者災害補償保険特別支給金支給規則(昭和四九年労働省令第三〇号)に基づ
く休業特別支給金、障害特別支給金等の特別支給金の支給は、労働者災害補償保険
法に基づく本来の保険給付ではなく、労働福祉事業の一環として、被災労働者の療
養生活の援護等によりその福祉の増進を図るために行われるものであり(平成七年
法律第三五号による改正前の労働者災害補償保険法二三条一項二号、同規則一条)、
使用者又は第三者の損害賠償義務の履行と特別支給金の支給との関係について、保
険給付の場合のような調整規定(同法六四条、一二条の四)もない。このような保
険給付と特別支給金との差異を考慮すると、特別支給金が被災労働者の損害を填補
する性質を有するということはできず、被災労働者が労働者災害補償保険から受領
した特別支給金をその損害額から控除することはできないと解するのが相当である
(最高裁平成六年(オ)第九九二号同八年二月二三日第二小法廷判決・民集五〇巻
二号二四九頁参照)。これと異なり、上告人が労働者災害補償保険から支給を受け
た特別支給金合計三五万三七八七円を上告人の財産的損害の額から控除した第一審
及び原審の判断には、法令の解釈適用を誤った違法があるといわなければならない。
 本件において、特別支給金を除いた労働者災害補償保険給付の額は一四二万三九
一〇円であり、填補の対象となる財産的損害の額は一六四万〇一三五円であるから、
財産的損害について、被上告人らには、なお二一万六二二五円の損害賠償債務が残
ることになる(なお、この場合においても、弁護士費用の額を二〇万円とした原審
の判断は相当である)。そうすると、上告人の請求は、被上告人らに対し、各自二
一六万六二二五円及びこれに対する被上告会社については平成二年七月一四日から、
被上告人B2については同年三月三〇日から、各支払済みまで年五分の割合による
金員の支払を求める限度でこれを認容し、その余を棄却すべきものであって、前示
違法は判決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。これと同旨をいう論旨は理
由があり、原判決のうち上告人の控訴を棄却した部分はこの限度において破棄を免
れず、右部分及び第一審判決は右の趣旨に変更すべきものである。
 五 附帯上告について
 附帯上告は、それが上告理由と別個の理由に基づくものであるときは、当該上告
についての上告理由書提出期限内に原裁判所に附帯上告状を提出してすることを要
するものであることは、当裁判所の判例とするところである(最高裁昭和三七年(
オ)第九六三号同三八年七月三〇日第三小法廷判決・民集一七巻六号八一九頁、最
高裁昭和六一年(オ)第一三〇四号・平成二年(オ)第一一八八号同三年六月一八
日第三小法廷判決・裁判集民事一六三号一〇七頁参照)。これを本件についてみる
に、本件附帯上告理由は、いずれも上告理由とは別個のものといわざるを得ないと
ころ、本件附帯上告状が、本件上告事件につき上告代理人に対し上告受理通知書が
送達された日から五〇日を超えた後の平成八年一一月一九日に提出されたことは、
記録上明らかである。したがって、本件附帯上告は、不適法であって、却下を免れ
ない。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、三八四条、九六条、九五条、八
九条、九二条、九三条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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