弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成11年(行ケ)第326号審決取消請求事件
平成13年4月17日口頭弁論終結
判決
  原      告日本ピラー工業株式会社
訴訟代理人弁理士鈴江孝一
同鈴江正二
  被      告特許庁長官 及 川 耕 造
指定代理人藤井俊二
同新井重雄
同大野覚美
同大橋良三
主文
 原告の請求を棄却する。
 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1 当事者の求めた裁判
1 原告
 特許庁が平成7年審判第12218号事件について平成11年8月17日に
した審決を取り消す。
 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
 主文と同旨
第2 当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経過
(1) 原告は,平成3年1月24日,発明の名称を「流体機器の管継手構造」と
する発明(以下「本願発明」という。)について特許出願をしたが,平成7年5月
16日に拒絶の査定を受けたので,同年6月15日,上記査定に対する不服の審判
を請求した。特許庁は,同請求を平成7年審判第12218号事件として審理した
結果,平成8年12月27日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決を
した(以下「前審決」という。)。原告は,前審決の取消しを求めて当庁に訴えを
提起し,当庁では,これを平成9年(行ケ)第33号事件(以下「前件訴訟」とい
う。)として審理した結果,平成10年6月24日,同審決を取り消す旨の判決を
し(以下「前判決」という。),その後,同判決が確定した。
(2) 特許庁は,平成7年審判第12218号事件を更に審理したうえ,平成1
1年8月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(以下「本
件審決」という。),同年9月6日,原告にその謄本を送達した。
2 特許請求の範囲
「内周面に流体管の一端押し込み部が挿入される流体通路より大径の受口を有
するとともに外周面に雄ねじ部を有し,耐薬品性および耐熱性に優れた特性をもつ
弗素樹脂により形成された流体機器本体の流体通路端部に一体形成された筒状の継
手本体部と,この継手本体部の受口に軸線に対して傾斜させて形成されたシール部
と,このシール部に当接するシール部を有する樹脂製シールリングと,上記継手本
体部の外周雄ねじ部に螺合可能で,螺進により上記両シール部に密封力を与える押
輪とを備え,かつ,上記シールリングが,流体の流動を妨げない状態で弗素樹脂製
流体管の一端部に圧入することにより該流体管の一端押し込み部を拡径するインナ
リングからなり,このインナリングの内端部および外端部にそれぞれ,上記継手本
体部における受口の奥部および入口部に軸線に対して傾斜させて形成された一次お
よび二次シール部に当接するシール部が形成されているとともに,上記インナリン
グの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されていることを特
徴とする流体機器の管継手構造。」(別紙図面(1)参照)
3 本件審決の理由
 別紙審決書の理由の写しのとおりである。要するに,本願発明は,実願平1
-69378号(実開平2-117494号)の願書に添付した明細書及び図面の
内容を撮影したマイクロフィルム(以下「引用刊行物1」という)に記載された技
術(以下「引用発明1」という。),実願昭47-25660号(実開昭48-1
02624号)の願書に添付した明細書及び図面の内容を撮影したマイクロフイル
ム(以下「引用刊行物2」という)に記載された技術(以下「引用発明2」とい
う。)及び特開昭63-57882号公報(以下「引用刊行物3」という)に記載
された技術(以下「引用発明3」という。)に基いて当業者が容易に発明をするこ
とができたものであるから,特許法29条2項に該当し,特許を受けることができ
ない,とするものである。
第3 原告主張の審決取消事由の要点
 本件審決の理由中,Ⅰ(手続の経緯・本願発明)を認める。Ⅱ(引用例)の
うち,引用発明1の認定の部分(審決書6頁11行~7頁13行)を争い,その余
を認める。Ⅲ(対比)のうち,本願発明と引用発明1との一致点の認定の部分(9
頁10行~10頁8行)を争い,その余は認める。Ⅳ(判断)及びⅤ(むすび)を
争う。
 本件審決は,引用発明1の認定及び同発明と本願発明との一致点の認定を誤り
(取消事由1),進歩性についての判断を誤り(取消事由2),そのうえ,行政事
件訴訟法33条1項,2項に違背しているものであり(取消事由3),これらの誤
りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,本件審決は取り
消されなければならない。
1 取消事由1(引用発明1の認定及び同発明と本願発明との一致点の認定の誤
り)
(1) 引用発明1の認定の誤り
 審決は,引用刊行物1について,「引用例1には,内周面に流体管の一端
押し込み部が挿入される流体通路より大径の受口を有するとともに外周面に雄ねじ
部13を有し,耐薬品性および耐熱性に優れた特性をもつ弗素樹脂により形成され
た筒状の継手本体1と,この継手本体1の受口に軸線に対して傾斜させて形成され
たシール部と,このシール部に当接するシール部を有する樹脂製シールリングと,
上記継手本体1の外周雄ねじ部13に螺合可能で,螺進により上記両シール部に密
封力を与える押輪4とを備え,かつ,上記シールリングが,流体の流動を妨げない
状態で管材5の一端部に圧入することにより該号材5の一端押し込み部を拡径する
インナリング2からなり,このインナリング2の内端部および外端部にそれぞれ,
上記継手本体1における受口の奥部および入口部に軸線に対して傾斜させて形成さ
れた一次および二次シール部11,12に当接する内端シール部22,外周シール
面25が形成されているとともに,上記インナリング2の内径が上記継手本体1の
流体通路の内径と同一径に設定されている管継手構造が,記載されている」(審決
書6頁11行~7頁13行)と認定した。
 しかしながら,引用発明1は,本願発明にいう「流体管」,「押し込み
部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」の構成
を有していない。現に,引用刊行物1には,「流体管」,「押し込み部」,「流体
通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」との用語は記載され
ていない。したがって,引用発明1が上記構成を有することを前提とした,審決の
引用発明1についての上記認定は,誤っている。
(2) 引用発明1と本願発明との相違点の看過
(イ) 引用発明1は,樹脂製管継手における継手本体の一部分の胴部14の
内径と,インナリングの内径とを同一径にしているものであるのに対して,本願発
明は,引用刊行物1に全く記載されていない流体機器を対象とし,流体機器本体の
流体通路の内径と,インナリングの内径とを同一径にしているものであり,かつ,
樹脂製管継手と流体機器本体の流体通路との接続を構成要素としているものであ
る。したがって,本願発明と引用発明1とは,本件審決が認定した相違点のほか,
①インナリングの内径を流体機器本体の流体通路の内径と同一径にするために流体
機器本体の流体通路より大径の受口を有するように継手本体部を構成すること,②
その継手本体部を流体機器本体の流体通路に一体形成で組み合わせること,という
点においても相違しているものである。
(ロ) 被告は,上記相違点が,本件審決認定の「(1)本願発明は,継手本体部
が流体機器本体の流体通路端部に一体形成されていて,インナリングの内径が上記
流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されているのに対し,上記引用例1
記載の発明は,前記構成が不明である」との相違点と同じであるとの趣旨の主張を
している。
 しかし,本願発明にいう「流体通路」とは,流体機器本体の流体通路のことであ
り,引用例1のように,樹脂製管継手(継手本体1)の胴部14の流体通路のこと
を意味するのではない。被告の上記主張は,本願発明にいう流体機器本体の「流体
通路」と,引用例1にいう樹脂製管継手における継手本体1の胴部14の「流体通
路」とを同一視し,本願発明の流体機器の継手本体部が引用例1の樹脂製管継手に
記載されているとしているものであり,失当である。
2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)
(1) 推考困難性についての判断の誤り
(イ) 本件審決は,引用発明1に,樹脂製管継手における継手本体1の胴部
14と管材5との間において流体の移動を円滑にする技術思想が示されていること
から,直ちに,同発明には,本願発明の樹脂製管継手と流体機器との接続との関連
でも,「各構成部材の流体通路の内径を同一に設定して流体の移動を円滑に行うよ
うにする技術思想が開示されて」いると認定したが,誤っている。
 引用発明1には,単に,樹脂製管継手における継手本体1の一部分の胴部14と
管材5との間において流体の移動を円滑にする技術思想しか示されていないから,
当業者において,同発明から,樹脂製管継手と流体機器がどのような状態で接続さ
れているとか,その接続においてどのような問題が生じるとかを把握することはで
きないのである。
(ロ) その他,引用刊行物2(甲第5号証,特に第1図)をみても,チュー
ブ14の外周に,おさえピース12を配置してチューブ14を流体機器の継手本体
部の先端部外周に接続する管継手構造であり,そこには,単に異なるタイプの継手
本体部を流体機器に一体形成することだけが示されているにすぎない。また,引用
刊行物3(甲第6号証,特に第7図)をみても,吐出管77の外周にフェルール7
5を配置させて吐出管77を流体機器の継手本体部の先端部外周に接続する管継手
構造であり,これも単に異なるタイプの継手本体部を流体機器に一体形成すること
だけが示されているにすぎない。
 このように,引用刊行物2及び同3においても,本願発明に係る樹脂製管継手と
流体機器の接続状態に関する問題点及びその解決策は示されていない。
(ハ) したがって,本件審決が,「上記の技術思想を適用して両者の内径を
同一に設定し,インナリングの内径と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に
設定することは当業者が容易に推考し得ることである。」(11頁12行~16
行)と判断したことは,その前提において誤っている。
(2) 顕著な作用効果の看過
 本願発明は,その構成を採用することによって,インナリングを用いて流
体管を流体機器に接続しても,①弗素樹脂よりなる流体管が抜けるのを強力に防止
できる,②流体の漏洩を防止できる,③樹脂製管継手における継手本体の脱落を防
止できる,④樹脂製管継手の継手本体と流体機器の本体との間に形成される流体の
変質をもたらす滞留段部もなくすことができる,⑤流体管の接続の作業性を向上さ
せることができる,という作用効果を達成することができる。そして,特に,本願
発明においては,流体管の一端押し込み部に圧入したインナリングの内径を流体機
器本体の流体通路と同一内径にさせる受口を有する継手本体部を流体機器本体の流
体通路端部に一体形成し,この継手本体部の受口に上記流体管の一端押し込み部に
圧入したインナリングを挿入して,そのインナリングの内径と上記流体機器本体の
流体通路の内径とを同一径に構成させることによって,流体管から流体機器本体の
流体通路まで流体の変質をもたらす滞留段部をなくし,流体の純度を高レベルに確
保できるという特有の効果を達成し得るのである。
 以上のような効果は,当業者において,引用発明1ないし同3から,到底予測し
得なかったものである。
3 取消事由3(行政事件訴訟法33条違背)
(1) 行政事件訴訟法33条1項違背
 前判決は,引用刊行物1には,「インナリングの内径と流体機器本体の流
体通路の内径とを同一径に設定した構成が,開示されていない」と認定し,これが
確定している。ところが,被告は,インナリングの内径と流体機器本体の流体通路
の内径とを同一径に設定した前提技術すら示さずに,前判決と同一の証拠である引
用刊行物1のみを前提にして,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内
径と同一径であると推認し,結局,本願発明の進歩性を否定している。
 本件審決の上記認定は,前判決の拘束力を無視するものであり,行政事件訴訟法
33条1項に違反している。
(2) 行政事件訴訟法33条2項違背
 前判決が前審決を取り消した趣旨は,本願発明と引用発明1との相違を明
示したうえで,本願発明の特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本
体の流体通路の内径と同一径である点について,そのタイプの継手の従来の周知技
術等を考慮し,当該構成の有する進歩性ないし容易推考性を検討すべきである,と
いうものであり,単に,本願発明における特徴的な構成である,インナリングの内
径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径である点について,その相違を明示し
て進歩性ないし容易推考性を検討すればよいというものではなかった。ところが,
本件審決は,従来の周知技術等を考慮せず,引用刊行物1のみから,本願発明にお
ける特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と
同一径であるという事実を推認し,この推認に基づいて本願発明の進歩性ないし容
易推考性を検討している。
 本件審決は,前判決の趣旨に従わず,前審決と同様の認定判断を繰り返している
のであり,このような認定判断は,行政事件訴訟法33条2項に違反するものであ
る。
 被告は,相違点について,引用刊行物2及び同3を追加して構成の有する進歩性
ないし容易推考性を検討しているという。しかし,引用刊行物2及び同3は,本件
審決認定の相違点(1)のうち,本願発明が「継手本体部が流体機器本体の流体通路端
部に一体形成されて」いるのに対して,引用発明1では,これが不明であるという
相違点に関するものであり,「インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路
の内径と同一径に設定されている」という相違点に関するものではない。したがっ
て,引用刊行物2及び同3は,前判決の趣旨に沿った引用例とはいえない。
第4 被告の反論の要点
 本件審決の認定判断は,すべて正当であり,同審決を取り消すべき理由はな
い。
1 取消事由1(引用発明1の認定及び同発明と本願発明との一致点の認定の誤
り)について
(1) 引用発明1の認定の誤りについて
 原告は,引用刊行物1に,「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,
「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」という用語が記載されていな
いことを,引用発明1が,本願発明にいう「流体管」,「押し込み部」,「流体通
路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」との構成を有していな
いことを裏付ける旨主張する。
 確かに,引用刊行物1には,「流体管」,「流体通路」,「継手本体部」,「シ
ールリング」,「管継手構造」という用語自体は記載されていない(「押し込み部」
は記載されている。)。しかし,引用刊行物1にいう「胴部14の内周」部分は,
流体が流れるのであるから「流体通路」であり,また,引用刊行物1の記載から,
引用刊行物1にいう「管材」,「挿し込み部」は,それぞれ本願発明における「流
体管」,「押し込み部」と同じであり,「インナーリング」は,その機能からみて
「シールリング」に相当することが明らかであり,さらに,引用刊行物1に「管継
手構造」が記載されていることは,引用刊行物1の記載自体から明らかである。
(2) 引用発明1と本願発明との相違点の看過について
 引用発明1に樹脂製管継手と流体機器との接続について記載されていない
ことは,事実である。
 原告主張の本願発明と引用発明1との相違点①は,本願発明の特許請求の範囲の
「内周面に流体管の一端押し込み部が挿入される流体通路より大径の受口を有す
る・・・継手本体部」,「インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内
径と同一径に設定されている」の記載に基づくものと,また,相違点②は,同特許
請求の範囲の「流体機器本体の流体通路端部に一体形成された筒状の継手本体部」
の記載に基づくものと思われる。
 そして,上記「内周面に流体管の一端押し込み部が挿入される流体通路より大径
の受口を有する・・・継手本体部」との構成は,引用発明1に存在するから,結
局,本願発明は,材質に関する相違点(本件審決の把握する相違点(2))を別にすれ
ば,「流体機器本体の流体通路端部に一体形成された筒状の継手本体部」との構成
及び「インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定さ
れている」との構成においてのみ,引用発明1と相違することになる。
 そこで,本件審決は,本願発明と引用発明1との相違点を,「(1)本願発明は,継
手本体部が流体機器本体の流体通路端部に一体形成されていて,インナリングの内
径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定されているのに対し,上記
引用例1記載の発明は,前記構成が不明である点」(審決書10頁9行~13行)
として把握しているのである。
 本件審決は,本願発明と引用発明1との相違点について看過していない。
2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について
(1) 推考困難性についての判断の誤りについて
 流体通路を形成する各構成部材の流体通路の内径を同一に設定して流体の
移動を円滑に行うようにする技術思想は,引用刊行物1に開示されている。
 流体機器本体の流体通路端部に継手本体部を一体に形成することは,引用刊行物
2及び同3に記載されている。
 引用発明1と同2及び同3とを組み合わせることを阻害するような要因もない。
 そうである以上,引用発明1を出発点として,継手本体部を流体機器本体
の流体通路端部に一体形成し,その際,流体の移動(流動)を妨げないように,イ
ンナリングの内径を流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定するようにする
ことは,当業者であれば容易に想到し得たことというべきである。
(2) 顕著な作用効果の看過について
 本件審決が,「本願発明が奏する効果は引用例1ないし3に記載された発
明及び周知事項から当業者が予測できる程度のことであって格別のものではな
い。」とした点に誤りはない。
3 取消事由3(行政事件訴訟法33条違背)について
 本件審決は,前判決の拘束力及び判決の趣旨に従って,本願発明における特
徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内径と同一径
である点を相違点として明示し,当該相違点について,引用刊行物2及び同3を追
加して,本願発明の有する進歩性ないし容易推考性を検討しているのであるから,
本件審決は,行政事件訴訟法33条1,2項に違反しているものでない。
第5 当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明1の認定及び同発明と本願発明との一致点の認定の誤
り)について
(1) 引用発明1の認定の誤りについて
(イ) 原告は,引用発明1は,本願発明にいう,「流体管」,「押し込み
部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」に係る
構成を有していない旨主張し,引用刊行物1において,「流体管」,「押し込み
部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリング」,「管継手構造」という
用語が用いられていないことをその根拠として挙げる。
 しかし,引用刊行物1において,「流体管」,「流体通路」,「継手本体部」,
「シールリング」,「管継手構造」という用語が用いられていないからといって
(「押し込み部」は用いられている。),直ちに,引用発明1が,本願発明にい
う,「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手本体部」,「シールリン
グ」,「管継手構造」に係る構成を有しないことになるわけではないことは,論ず
るまでもないところである。
(ロ) 甲第4号証によれば,引用刊行物1は,本願発明の出願人である原告
の出願によるものであることが認められる。
 そして,本願明細書等の図面,特に第3図(別紙図面(1)参照)と引用刊行物1の
図面,特に第1図(別紙図面(2)参照)を比較しながら,本願明細書等の発明の詳細
な説明の欄の記載,引用刊行物1の考案の詳細な説明の欄の記載をよく読めば,引
用発明1が,本願発明にいう「流体管」,「押し込み部」,「流体通路」,「継手
本体部」,「シールリング」,「管継手構造」と同様の構成を有していることを優
に認めることができる。別紙図面(1)と同(2)とを比較すれば明らかなとおり,引用
刊行物1の第1図は,流体機器本体が表示されていないことを除けば,本願発明と
同一であるということの許される構成なのである。
(ハ) したがって,引用発明1の認定の誤りをいう原告の主張は,失当であ
ることが明らかである。
(2) 引用発明1と本願発明との相違点の看過について
(イ) 原告は,本願発明と引用発明1とは,本件審決が認定した相違点のほ
か,①インナリングの内径を流体機器本体の流体通路の内径と同一径にするために
流体機器本体の流体通路より大径の受口を有するように継手本体部を構成させるこ
と,②その継手本体部を流体機器本体の流体通路に一体形成で組み合わせること,
という点においても相違している旨主張する。
 しかしながら,原告がいわんとするところは,結局,本願発明は,流体機器を対
象とし,その内径とインナリングの内径とを同一径にし,樹脂製管継手と流体機器
本体の流体通路とを接続することを構成要素としているということに帰するのであ
り,本件審決が認定した相違点,すなわち,「(1)本願発明は,継手本体部が流体機
器本体の流体通路端部に一体形成されていて,インナリングの内径が上記流体機器
本体の流体通路の内径と同一径に設定されているのに対し,上記引用例1記載の発
明は,前記構成が不明である点」(審決書10頁9行~13行)をよく読めば,同
審決が原告主張の相違点を相違点として把握していることが明らかである。
(ロ) この点について,原告は,上記のような見解は,本願発明にいう流体
機器本体の「流体通路」と,引用発明1にいう樹脂製管継手における継手本体1の
胴部14の「流体通路」とを同一視するものである旨主張する。
 原告の主張は,その趣旨が必ずしも明らかではないものの,もし,そのいわんと
するところが,引用発明1は,本願発明の有する「流体機器本体」の構成を持た
ず,したがって,「流体機器本体」の流体通路という構成を持つこともない,とい
うところに尽きるならば,無意味な主張という以外にないものである。また,「流
体通路」は,通常の用語法に従えば,流体の流れる通路を意味するものであり,こ
のような「流体通路」の有する技術的な意味が,本願発明にいう流体機器本体の場
合と,引用発明1にいう樹脂製管継手における継手本体1の胴部14の場合とで差
異があるとしなければならない格別の事情は,本件全証拠によっても見いだすこと
ができない。
 いずれにせよ,原告の上記主張は採用できない。
2 取消事由2(進歩性についての判断の誤り)について
(1) 推考困難性についての判断の誤りについて
(イ) 引用刊行物2(甲第5号証,特にその第1図)には,チューブ14の
外周に,おさえピース12を配置してチューブ14を流体機器の継手本体部の先端
部外周に接続する管継手構造が示されており,異なるタイプの継手本体部を流体機
器に一体形成することも示されていること,また,引用刊行物3(甲第6号証,特
にその第7図)には,吐出管77の外周にフェルール75を配置させて吐出管77
を流体機器の継手本体部の先端部外周に接続する管継手構造であり,異なるタイプ
の継手本体部を流体機器に一体形成することが示されていることは,原告自身が認
めるところである。
 そうだとすれば,引用発明1を出発点として,引用発明2及び同3にあるよう
に,継手本体部を流体機器本体に一体に形成するようにすることを,当業者が容易
に推考し得たことは,明らかというべきである。
(ロ) 流体通路のための接続構造について,段差がない方が流体の移動が円
滑となって好ましいことは,当業者のみならず一般通常人であっても,常識として
理解している事項である。
 引用刊行物1(甲第4号証)をみても,考案の詳細な説明の欄には,「このイン
ナリング2の内径は管材5の内径および継手本体1の胴部14の内径と同一に設定
して流体の移動(流動)を妨げないようにしている。」(11頁2行~5行),「イ
ンナリング2の内径寸法を管材5の内径寸法および継手本体1の胴部14の内径寸
法と同じ大きさに設定して,流体の移動を妨げないようにしているから,流路断面
が一様になって,流体を滞留させることなく円滑に移動させる流路特性を確保でき
るので,高純度液や超純水用配管の継手としても適用できる。」(15頁19行~
16頁5行)との記載があり,出願人である原告自身が,流体の移動(流動)を妨
げないようにするため,二つの管の内径を同一にすることを,自明のことと考えて
いることが明らかである。
 そうすると,引用発明1を出発点として,継手本体部を流体機器本体に一体に形
成するようにする際に,上記周知の技術を適用して接続部の内周面の段差をなくす
ことにし,継手本体部と流体機器本体の内径を同一に設定し,インナリングの内径
と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に設定することは,当業者が容易に推
考し得たことというべきである。
(ハ) 原告は,引用発明1には,単に,樹脂製管継手における継手本体1の
一部分の胴部14と管材5との間において流体の移動を円滑にする技術思想しか示
されていないから,当業者において,同発明から,樹脂製管継手と流体機器がどの
ような状態で接続されているとか,その接続においてどのような問題が生じるとか
を把握することはできない旨主張する。
 しかしながら,上述したとおり,継手本体部と流体機器本体の内径を同一に設定
し,インナリングの内径と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に設定すれ
ば,段差がなくなって流体の移動が円滑となることが周知の技術事項であることか
らすれば,引用発明1自体から,樹脂製管継手と流体機器がどのような状態で接続
されているとか,その接続においてどのような問題が生じるとかを把握することが
できるかどうかは,もともと論ずる必要のないことなのである。
(2) 顕著な作用効果の看過について
 原告主張の作用効果は,本願発明の構成を採用した場合のものとして自明
の作用効果である。
 原告主張の取消事由2も採用できない。
3 取消事由3(行政事件訴訟法33条違背)について
(1) 行政事件訴訟法33条1項違背について
(イ) 甲第7号証によれば,前判決は,本願発明と引用発明1との一致点の
認定に関して,「本願明細書の図4における従来技術の構成が,インナリングの内
径,継手本体の内径及び流体機器本体の内径を,すべて同一径に設定しているのと
は異なり,引用例自体においては,被告も自認するとおり,インナリングの内径と
流体機器本体の内径とを同一径に設定する構成が,開示されていないことが明らか
である。したがって,審決が,本願発明と引用例発明との一致点として,何の根拠
も示すことなく,「インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同
一径に設定されている」(審決書8頁8~9行)と認定したことは,誤りというほ
かない。」(15頁4行~15行),「被告は,引用例において,インナリングの
内径が流体機器本体の内径と同一径に設定されているか否かが不明であることを認
めながら,継手本体が設けられた流体機器本体において,流体機器本体と継手本体
との流体通路を同一径に形成することが周知技術であるとして,引用例発明におい
ては,インナリングの内径が継手本体の流体通路の内径と同一径に設定されている
ので,上記周知技術を適用すれば,インナリングの内径は,当然,流体機器本体の
流体通路の内径と同一径に形成されているとみることができるし,本願発明のこの
ような構成が,進歩性を有するものでもないと主張する。しかし,本願発明は,前
示のとおり,インナリングの内径を流体機器本体の流体通路の内径と同一径にし
て,管継手部の全長に亘る流路断面を一様にすることにより,流体の円滑な流動性
を保つことを,その重要な作用効果の1つとするものであり,このような本願発明
における特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通路の内
径と同一径である点について,引用例発明の構成が不明であるならば,まず,その
ことを相違点に明示した上で,従来の周知技術等を考慮し,当該構成の有する進歩
性ないし容易推考性を検討すべきものといわなければならない。このような相違点
の認定を行うことなく,しかも,審決で示されていない,流体機器本体と継手本体
との流体通路を同一径に形成するという周知技術を適用して,引用例発明の構成を
推認したり,当該構成の進歩性等を検討することは,許されるものではないから,
被告の上記主張を採用する余地はない。以上のとおり,審決は,上記の相違点の認
定及びそれについての検討を全く行っておらず,このことが審決の結論に影響を及
ぼすおそれがあることは明らかであるから,その余の点について判断するまでもな
く,審決は取消しを免れない。」(15頁16行~17頁7行)と判断して,前審
決を取り消したことが認められる。
 上記認定の記載によれば,前判決は,引用発明1には,インナリングの内径と流
体機器本体の内径とを同一径に設定する構成が開示されていないと認定し,この認
定を前提に,前審決が,上記相違点を看過したところに違法があるとし,上記相違
点を,相違点として認定したうえで,本願発明の進歩性ないし容易推考性を検討す
べきである旨判断したものであることが明らかである。
(ロ) これに対して,本件審決が,本願発明と引用発明1との対比におい
て,「本願発明は,継手本体部が流体機器本体の流体通路端部に一体形成されてい
て,インナリングの内径が上記流体機器本体の流体通路の内径と同一径に設定され
ているのに対し,上記引用例1記載の発明は,前記構成が不明である点」(審決書
10頁9行~13行)で相違していると認定し,その後に上記相違点について進歩
性ないし容易推考性の判断をしていることは,本件審決の説示自体から明らかであ
る。
 そうすると,本件審決が,正しく相違点を認定し,その相違点について進歩性な
いし容易推考性を検討していることは,明らかである。
(ハ) したがって,行政事件訴訟法33条1項違背を問題とする余地はな
く,この点についての原告の主張は,失当というほかない。
(2) 行政事件訴訟法33条2項違背について
 原告は,前判決が前審決を取り消した趣旨は,本願発明と引用発明1との
相違を明示したうえで,本願発明の特徴的な構成である,インナリングの内径が流
体機器本体の流体通路の内径と同一径である点について,そのタイプの継手の従来
の周知技術等を考慮し,当該構成の有する進歩性ないし容易推考性を検討すべきで
ある,というものであるのに,本件審決は,前判決の趣旨に従わず,前審決と同様
の認定判断を繰り返しているのであり,このような認定判断は,行政事件訴訟法3
3条2項に違反する旨主張する。
 本件審決が,前判決が指摘した相違点を認定していることは,前述のとおりであ
る。また,同審決が,同相違点について,「引用例1には,「インナリング2の内
径は管材5の内径および継手本体1の胴部14の内径と同一に設定して流体の移動
(流動)を妨げないようにしている」ことが記載されており,このように各構成部
材の流体通路の内径を同一に設定して流体の移動を円滑に行うようにする技術思想
が開示されており,」(11頁1行~7行)とし,「引用例1記載の発明におい
て・・・上記の技術思想を適用して両者の内径を同一に設定し,インナリングの内
径と流体機器本体の流体通路の内径とを同一径に設定することは当業者が容易に推
考し得ることである。」(11頁10行~16行)と判断していることは,審決の
説示自体から明らかである。
 そうすると,本件審決は,引用刊行物1に開示されている「各構成部材の流体通
路の内径を同一に設定して流体の移動を円滑に行うようにする技術思想」を考慮
し,当該構成の有する容易推考性を検討しているのであるから,行政事件訴訟法3
3条2項違背が問題となる余地はなく,この点についての原告の主張は,失当とい
うほかない。
 原告は,本件審決は,従来の周知技術等を考慮せず,引用刊行物1のみから,本
願発明における特徴的な構成である,インナリングの内径が流体機器本体の流体通
路の内径と同一径であるという事実を推認していると主張し,本件審決が引用刊行
物1のみにより本願発明の進歩性ないし容易推考性を判断したことを非難する。
 しかしながら,前述したとおり,本願発明における,インナリングの内径を流体
機器本体の流体通路の内径と同一とする構成は,引用刊行物1によるまでもなく,
一般通常人の常識からも容易に推考し得たものであるから,本件審決が内径の同一
性という構成との関連においては,引用刊行物1のみにより本願発明の容易推考性
を肯定したとしても,そこには,何ら非難されるべきところはないのである。
4 以上のとおりであるから,原告主張の審決取消事由はいずれも理由がな
く,その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
 よって,本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7
条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
  東京高等裁判所第6民事部
  裁判長裁判官山下和明
     裁判官宍戸充
     裁判官阿部正幸
別紙図面(1)
別紙図面(2)

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛