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平成一〇年(ネ)第四九二六号 特許権侵害差止請求控訴事件(原審・東京地方裁判
所平成七年(ワ)第二二二九三号)
判         決
控    訴    人 A
右訴訟代理人弁護士    石    井    成    明
被控訴人  相生精機株式会社
右代表者代表取締役    B
右訴訟代理人弁護士    鳩    谷    邦    丸
     同              別    城    信太郎
主         文
    本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第一 控訴の趣旨
 一 原判決を取り消す。
二 被控訴人は、原判決別紙イ号物件目録、ロ号物件目録及びハ号物件目録記載
の各物件を、業として、製造し、譲渡し、又は譲渡若しくは貸渡しの申出をしては
ならない。
 三 被控訴人は、控訴人に対し、金二四〇万円及びこれに対する平成七年一一月
三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
 四 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
 五 三項につき仮執行宣言
 (なお、原判決の請求の趣旨第二項及び第三項の請求は取り下げられた。)
第二 事案の概要
 次のとおり、付加、削除するほか、原判決の「第二 事案の概要」(原判決三頁
五行ないし一六頁七行)と同一である。
 一 原判決三頁一〇行、一一行の「並びに被告各物件及びそのカタログの廃棄」
を削除する。
 二 原判決九頁五行の次に、改行して、次を加える。
「 ホッパーとは、物を差し入れるための筒ないし箱形状のものをいい、従前技術
においてもフープ材カッターの送入方向に対向せしめる部分にも実質上ホッパーは
存したものであるから、構成要件(三)のうちの「前記フープ材の送入方向に対向せ
しめて前記フープ材ガイドホッパーを設ける」との要件を右のように解しなけれ
ば、本件発明は、何ら独自性のある技術とはならないものである。」
第三 当裁判所の判断
一争点1(二)(ロ号物件及びハ号物件における構成要件(二)の充足性)につい

  当裁判所も、ロ号物件及びハ号物件はいずれも本件発明の構成要件(二)を充足
しないと判断するものであり、その理由は、原判決二一頁三行ないし二八頁五行と
同一である。
 二 争点1(一)(イ号物件における構成要件(三)の充足性)について
  1(一) 構成要件(三)のうちの「当該動刃の切断作用方向の前端に位置せし
め、前記フープ材ガイドホッパーを設ける」との要件は、フープ材ガイドホッパー
を設ける位置について、「動刃の切断作用方向の前端」とすることを定めた要件で
あるところ、ここでいう「動刃の切断作用方向の前端」とは、動刃は「固定刃に対
して偏心揺動して離接する」ものであるから、本件発明の特許請求の範囲の文言自
体から、「動刃が固定刃に接する位置にあるときの動刃の固定刃側の位置」を意味
するものと認められる。したがって、「当該動刃の切断作用方向の前端に位置せし
め、前記フープ材ガイドホッパーを設ける」ことは、被控訴人の主張するようなフ
ープ材ガイドホッパーと動刃とが連動する構成に限定されないものである。
   (二) そして、右のように解することは、本件明細書の発明の詳細な説明の
記載とも整合するものである。すなわち、本件明細書の発明の詳細な説明における
「しかも、またフープ材ガイドホッパー43を動刃40の切断作用方向の前端に位
置せしめ、かつ前記フープ材の送入方向に対向せしめて設置したので、動刃40の
切断作用方向に対して逆向方向からのフープ材の両刃40,44間への送入を適確
化することができる。」(原判決添付の本件公報四欄一五行ないし二〇行)との記
載によれば、フープ材ガイドホッパーを動刃の切断作用方向の前端に位置せしめる
のは、前記一で説示した動刃を固定刃に対してフープ材が送入される側に配置する
ことによって、フープ材の切断時に動刃がフープ材をその送入方向に対して押し上
げるように作用して切断が行われるようにし、フープ材の引込みを防止することを
確実にするためであると認められるところ、右目的を達成するためには、フープ材
は固定刃と動刃が接する位置に供給されれば足り、必ずしもフープ材ガイドホッパ
ーが動刃と連動する必要はないと認められる。しかも、本件明細書の発明の詳細な
説明における「尚また、本実施例の場合、ホッパー部分43及び47は動刃40と
連動するよう構成したがために、フープ材の導入をより一層円滑にできる効果を有
するものである。」(本件公報四欄二一行ないし二四行)との記載によれば、フー
プ材ガイドホッパーと動刃とが連動する構成は、飽くまでフープ材カッターの導入
を「より一層」円滑に行うための実施例として記載されているにすぎないものであ
る(なお、乙第四号証によれば、本件発明は、当初、「固定刃と、この固定刃に対
し偏心揺動して離接する動刃と、この動刃を駆動する駆動手段と、フープ材ガイド
ホッパーとから成るフープ材カッターにおいて、前記フープ材を前記動刃の切断作
用方向に対して逆向させつつ送り込み、当該フープ材を連続的に切断することを特
徴とする引張り作用を加えないフープ材切断方法。」を特許請求の範囲第1項とし
て、現在の特許請求の範囲第1項を特許請求の範囲第2項として出願され、その
後、当初の特許請求の範囲第1項が削除され、当初の特許請求の範囲第2項が第1
項となったものの、発明の詳細な説明の記載はさほど変更されなかったことが認め
られるが、この点を考慮しても、当初の特許請求の範囲第2項(現特許請求の範囲
第1項)の記載がフープ材ガイドホッパーと動刃とを連動させる構成を規定してい
ると解することはできない。)。
   (三) 被控訴人は、構成要件(三)のうちの「前記フープ材の送入方向に対向
せしめて前記フープ材ガイドホッパーを設ける」との要件をフープ材ガイドホッパ
ーが動刃と連動することを規定しているものと解しなければ、本件発明は何ら独自
性のある技術とはならない旨主張するが、フープ材の送入方向に対向せしめてフー
プ材ガイドホッパーを設け、固定刃に対して動刃を上側において離接せしめるよう
に配置し、かつ右のようにフープ材ガイドホッパーの設置位置を規定したものが本
件特許権の出願前に公知であったことを認めるに足りる証拠はないから、被控訴人
の右主張は採用することができない。
  2 原判決別紙イ号物件目録によれば、イ号物件におけるフープ材ガイドホッ
パーは、固定刃側に取り付けられたのものであるものの、動刃が固定刃に接する位
置にフープ材を供給するように設置されているから(同目録第4図、第5図参
照)、構成要件(三)のうちの「当該動刃の切断作用方向の前端に位置せしめ、前記
フープ材ガイドホッパーを設ける」との部分を充足するものと認められる。
 三 本件特許権の侵害の成否についてのまとめ
 以上によれば、ロ号物件及びハ号物件は構成要件(二)を充足せず、本件発明の技
術的範囲に属しないが、イ号物件は、構成要件(四)も含めすべての構成要件を充足
し、本件発明の技術的範囲に属する。
 四 イ号物件に係る損害について
 被控訴人がイ号物件を一台試作品として製造したことは、被控訴人の自認すると
ころである。そして、甲第四号証、乙第九号証及び乙第一〇号証の一並びに弁論の
全趣旨によれば、被控訴人は、控訴人から特許侵害の警告書(平成七年九月四日付
け。甲第四号証)が送付されたため、右試作品を平成七年九月一八日ころ廃棄した
ことが認められる。
 被控訴人が右一台の試作を超えて、イ号物件を製造、販売したことを認めるに足
りる証拠はない。
 したがって、イ号物件につき実施料相当の損害金の支払を求める控訴人の請求
は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
 五 イ号物件の差止請求について
 本件特許権は、その出願日は昭和五二年一一月一六日であるから、平成九年一一
月一六日の満了をもってその存続期間が終了したものである。
 よって、控訴人のイ号物件の差止請求は、その余の点について判断するまでもな
く理由がない。
六 結論
 よって、控訴人の請求はいずれも理由がなく、原判決の結論は結局正当であるか
ら、本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。
 (口頭弁論終結の日 平成一一年九月二八日)
 東京高等裁判所第一八民事部
 裁判長裁判官   永   井   紀   昭
 裁判官塩   月   秀   平
 裁判官市   川   正   巳

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