弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件控訴を棄却する。
         理    由
 被告人及び被告人の弁護人高橋武夫同椢原隆一の各控訴の趣旨は末尾添附の控訴
趣意書記載のとおりである。
 弁護人高橋武夫の控訴の趣意第一点及び弁護人椢原隆一の控訴の趣意第一点の
(3)について
 原判決認定の事実は一見訴因以外の事実を認定したかの如き観があるけれども、
本件起訴状には被告人は、昭和二十五年八月四日午前八時頃徳山市a駅前において
「アメリカ帝国主義者はA連盟並にB同盟を彼等の侵略支配にとつて都合の悪い団
体であるとみるや暴力団体であると難癖をつけて解散させた。……B29の無差別
爆撃による朝鮮人同胞の殺傷をほしいままにしているのは彼等だ。敵はアメリカ帝
国主義者だ」等記載したビラ三枚を頒布し以つて占領国の占領目的に有害な行為を
したものであるとあつて、訴因としてはビラに記載された事項が連合国最高司令官
の日本政府に対する言論及び新聞の自由に関する覚書第三項(2)にいわゆる連合
国に対する破壊的な批評に該るとの見解の下に記載された事項中主要な点を抜粋摘
示したものであることが窺われ、しかも原審公判調書の記載によれば原審公判廷に
おいて検察官は右ビラを証拠物として提出し適法な証拠調がなされたことが認めら
れるので、被告人の防禦に毫も不利益を与えていないことは明らかである。それ故
原裁判所が原判示の如く起訴状に抜粋記載された事項の外に右ビラに記載された事
項をも連合国に対する破壊的な批評に該ると認定したとしても訴因以外の事実を認
定したことにはならない。原判決には所論のような違法はなく論旨は理由がない。
 弁護人高橋武夫の控訴の趣意第二点について。
 しかしながら原判示の本件文書の内容を仔細に検討すると連合国殊に米国の朝鮮
における政策行動を妨害しその名誉信用を傷付けるものであることは明らかである
から、一九四五年九月十日附連合国最高司令官の日本政府に対する言論及び新聞の
自由に関する覚書第三項(2)にいわゆる連合国に対する破壊的な批判に該るもの
といわねばならない。したがつてこれを頒布した以上破壊的な批判を論議したもの
と解すべきであるから、原審が之に対し昭和二十一年勅令第三百十一号違反を以つ
て処断したのは相当であつて、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由が
ない。
 同上第三点及び弁護人掴原隆一の控訴の趣意第二点の(3)(4)について。
 個人たるアメリカ人を批判することは自由であり右言論及び新聞の自由に関する
覚書第三項(2)の違反になら<要旨第一>ないことは所論のとおりであるが、ある
批判が一個入に対してなされたか、或は国家に対してなされたかは単
形式的な文言のみにより判断すべきではなく文言全体を通じその内容がその何れに
対してなされたかにより<要旨第二>判断すべきであると考える。なるほど本件文書
にはアメリカ帝国主義者なる文字が使用されているが、その全文を通読
すれば右はアメリカ合衆国の占領政策を誹謗したものであることは明らかであるか
ら、原審が右覚書第三項(2)に違背するものと認め右勅令第三百十一号第二条第
三項第四条により被告人を処断したのは相当であつて、原判決には所論のような違
法はない。各論旨は執れも理由がない。
 弁護人高橋武夫の握訴の趣意第四点について。
 言論出版等の自由は、憲法第二十一条に保障されているところであつて、みだり
にこれを侵すことの許されないことはいうまでもないがこれを濫用することも許さ
れないのである(憲法第十二条参照)。そして連合国のわが国に対する占領政策と
してはポツダム宣言の条項に従いわが国民の間における民主々義的傾向の復活強化
に対する一切の障碍を除去し言論出版の自由の確立をはかることを基本方針の一と
しているが、他面占領秩序の維持、連合国又は連合国占領軍の名誉、安全の保持等
の見地から言論の自由を濫用して占領秩序を混乱に陥れようとする者に対しては例
外的に制限を加えているのであつて、右言論及び出版の自由に関する覚書もその趣
旨から発せられたものに外ならない。そして原判示の如く連合国に対する破壊的な
批判を記載した交書を頒布した以上右党書第三項(2)に違反することは明らかで
あるので原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。
 同上第五点及び弁護人椢桐原隆一の控訴の趣意第一点の(2)について。
 占領軍が日本の管理方式として、原則としていわゆる間接管理の方法を採つてお
り右言論及び新聞の自由に関する覚書第一項には、日本国政府は新聞、ラジオ放送
又はその他の出版物等により真実に符合せず又は公安を害するニュースを頒布せざ
るよう必要な命令を発すべしと規定してあるか、今日までこの条項に基いて立法措
置がとられていないことは所論のとおりである。しかしながら、昭和二十一年勅令
第三百十一号第二条第三項には、この勅令において占領目的に有害な行為というの
は、連合国最高司令官の日本帝国政府に対する指令の趣旨に反する行為、その指令
を施行するために、連合国占領軍の軍、軍団又は師団の各司令官の発する命令の趣
旨に反する行為及びその指令を履行するために日本国政府の発する法令に違反する
行為をいうのであると規定してあるので言論及び新聞の自由に関する覚書第三項に
違反すれば、右勅令第三百十一号第二条にいわゆる占領目的に有害な行為として同
令第四条により処罰されることは明らかである。右と異る見解に立つ所論は採用の
限でない。
 弁護人高橋武夫の控訴の趣意第六点及び弁護人椢原隆一の控訴の趣意第二点の
(2)について。
 <要旨第三>しかしながら、右言論及び新聞の自由に関する覚書第三項にいわゆる
連合国に対する破壊的批判を論議するとは、単に口頭で第三者に対し談
話、討論、演説等により破壊的な批判を発表する場合のみでなく、文書に記載し若
しくは掲載して第三者に対し閲覧に供し掲示し若しくは頌布してこれを了知し得べ
き状態におく場合をも包含するものと解するので、被告人が判示のような破壊的批
判を記載した文書を頒布した以上いわゆる破壊的批判を論議したものに該るものと
いわねばならない。各論旨は執れも理由がない。
 弁護人高橋武夫の控訴の趣意第七点及び弁護人椢原隆一の控訴の趣意第三点につ
いて。
 記録を精査し、被告人の年令、性格、境遇、本件犯行の動機、罪質、犯罪後の情
況その他諸般の事情を綜合して検討すると、原審が被告人に対し懲役八月を科した
のは相当であつて刑の量定が不当と認むべき事由はない。論旨は理由がない。
 弁護人掴原隆一の控訴の趣意第一点の(1)について。
 <要旨第四>所論出版及び言論の自由伸長に關する件覚書第四項には、最高司令官
の命令あるに非ざればいかなる政策又は言論を表明した場合といえども
新聞又はその発行人若は使用人に対し日本政府において懲罰処分を執るべからず…
…と規定してあるが、その意味は右覚書により廃止等を要求せられた従来からの各
種の言論出版関係取締法令に基いて処罰、逮捕等をするには最高司令官の命令又は
事前認可を要するという趣旨であつて、言論及び新聞の自由に関する覚書の趣旨に
反する行為を昭和二十一年勅令第三百十一号により処罰又は逮捕する場合に関する
ものではないと解すべきのみならず、右勅令第二条第一項には占領目的に有害な行
為からなる罪に係る事件については公訴はこれを行わなければならないと規定して
いるので、原判決には所論のような違法はない。論旨は理由がない。
 同上第二点の(1)及び被告人の控訴の趣意について
 原判決挙示の証拠を綜合すれば優に原判示事実を認定することができるので、原
判決には所論のような違法はない。各論旨は孰れも理由がない。
 よつて刑事訴訟法第三百九十六条に従い本件控訴を棄却し、主文のとおり判決を
する。
 (裁判長判事 三瀬忠俊 判事 和田邦康 判事 小竹正)

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