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平成20年6月24日判決言渡
平成19年(行ケ)第10405号審決取消請求事件
平成20年4月22日口頭弁論終結
判決
原告株式会社神田商會
同訴訟代理人弁理士井澤幹
同井澤洵
同山下彰子
被告特許庁長官肥塚雅博
同指定代理人田代茂夫
同伊藤三男
同小林和男
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
特許庁が不服2005−7958号事件について平成19年10月12日に
した審決を取り消す。
第2事案の概要
1特許庁における手続の経緯
原告は,別紙「商標目録」記載のとおりの立体商標について,指定商品を第
15類「弦楽器用駒(ブリッジ)その他弦楽器附属品及び弦楽器」として,商
願2004−50118号に係る商標登録出願をし(以下「本願商標」とい
う。),平成17年2月16日付け手続補正書により,指定商品を第15類「
弦楽器」に補正したが,同年3月25日付けの拒絶査定を受けたので,同年4
月28日,これに対する不服審判請求(不服2005−7958号事件)をし
た。
特許庁における審理の過程において,原告は,平成19年8月1日付けの手
続補正書により指定商品を「弦楽器(部品及び附属品を除く。)」と補正した
が,特許庁は,同年10月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」と
の審決をした。
2審決の内容
別紙審決書の写しのとおりであり,その要点は次のとおりである。
(1)商標法3条1項3号該当性について
本願商標は,その指定商品との関係においては「6弦の弦楽器用駒(ブリ
ッジ)」として予測し難いような特異な立体的形状や特別な印象を与える装
飾的な立体的形状であるということはできず,むしろ,「6弦の弦楽器用
駒(ブリッジ)」としての機能をより効果的に発揮させたり,美感をより優
れたものにするなどの目的で同種商品が一般的に採用し得る範囲内のものに
すぎないとみるのが相当である。してみれば,本願商標を,その指定商品「
弦楽器(部品及び附属品を除く。)」に使用した場合には,その一構成部分
である「6弦の弦楽器用駒(ブリッジ)」の形状を表したにすぎない。
(2)商標法3条2項該当性について
原告は(請求人)は,本願商標は「ZEMAITISギター」であること
を証明できる目印(識別標識)であって,この識別標識があることによって
はじめて「ZEMAITISギター」と認識されるなどと主張する。しか
し,原告の提出した証拠からは,本願商標と同様な「駒(ブリッジ)」を備
えたエレクトリックギターが確認できるものの,これらは,そのギター本体
又は掲載記事中に,「ZEMAITIS」,「ゼマイティス・ギター」及
び「菱形と欧文字Zの組み合わせよりなるマーク」等を伴って表示されてい
るものであって,本願商標が出所を識別しているとはいえず,その他,本願
商標の使用期間,使用地域,生産又は譲渡の数量,広告宣伝の方法,回数及
び内容等についての立証はされていないから,原告(請求人)の上記主張を
認めることができない。
第3取消事由に係る原告の主張
審決は,①商標法3条1項3号該当性の判断を誤り,②商標法3条2項該当
性の判断を誤ったものであり,取り消されるべきである。
1取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
本願商標は,花びらのような形状(ボルトを中心にして8つの扇状の図形が
円形に広がった形状)を有しているが,この形状はブリッジにはみられない形
状であるから,「予測し難い特異な立体的形状」又は「特別な印象を与える装
飾的な立体形状」といえるから,商標法3条1項3号に該当しない。
また,本願商標に係る指定商品は,「弦楽器(部品及び附属品を除く。)」
であり,ブリッジ等の部品,附属品は積極的に除外しているから,商標法3条
1項3号該当性の判断に当たり,「弦楽器用駒(ブリッジ)」との関係におい
て判断すべきではないにもかかわらず,審決は,ブリッジ形状として一般的で
あるか否かを判断している点で誤りがある。
以上のとおり,商標法3条1項3号に該当するとした審決の判断は誤りであ
る。
2取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
「ゼマティスギター」は,トニー・ゼマティスが独自のデザインで創作した
世界的に有名なハンドメイドギターであり,本願商標は,1978年(昭和5
3年)以降「ゼマティスギター」に使用されており,「ゼマティスギター」の
識別商標となっているから,商標法3条2項に該当する。したがって,同法3
条2項に該当しないとした審決の判断は誤りである。
第4被告の反論
審決の認定判断はいずれも正当であって,審決を取り消すべき理由はない。
1取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)に対し
(1)本願商標は,別紙「商標目録」のとおり,頭部が台形でマイナスの溝の
あるボルトを左右に2個配し,その周辺には,6個ないし8個の扇状の図形
がそのボルトを中心にして円形に広がり,その2個のボルトの間に,それよ
りやや小さい6個の,同じく頭部が台形でマイナスの溝のあるボルトと,六
角形のナットと,そのボルトには可動式と思われる四角形の部品(サドル)
を有する形状よりなる立体商標である。
そして,補正後の指定商品「弦楽器」に属する商品「エレクトリック・ギ
ター」との関係において,左右に2個の「頭部が台形でマイナスの溝のある
ボルト」は「弦高調整用ボルト」,このボルトよりやや小さい6個の「頭部
が台形でマイナスの溝のあるボルト」は「サドル調整用のボルト」,さら
に,6個の「四角形の部品」は小さいボルトにより可動式の「サドル」を,
それぞれ表すものであり,その他の部分と併せて全体としてみた場合に
は,「駒(ブリッジ)」と容易に認識できることから,これに接する取引
者,需要者には,本願商標は,「6弦の弦楽器(ギター)用駒(ブリッ
ジ)」を表したものと理解され得る形状である。
(2)本願の指定商品を取扱う業界において,ギターは,ボディ部分を始め,
ヘッド部分等,あらゆる部分が美感をより優れたものにするなどの目的で,
デザイン,加工が施され,広告・販売されている実情がある(乙2ないし1
3)。このような取引の実情によれば,本願商標は,その指定商品との関係
において,「6弦の弦楽器用駒(ブリッジ)」としての機能をより効果的に
発揮させたり,美感をより優れたものにするなどの目的で同種商品が一般的
に採用し得る形状の範囲内のものであって,「6弦の弦楽器用駒(ブリッ
ジ)」として予測し難いような特異な立体形状や,特別な印象を与える装飾
的な立体的形状とはいえない。本願商標を,指定商品「弦楽器(部品及び附
属品を除く。)」に使用した場合であっても,取引者,需要者は,その一構
成部である「6弦の弦楽器用駒(ブリッジ)」の形状を表したにすぎないも
のと認識すると解するのが相当である。
(3)原告の主張に対し
ア原告は,本願商標の花びらのような形状は,「予測し難い特異の立体的
形状」又は「特別な印象を与える装飾的な立体形状」であると主張する。
しかし,上記部分は「弦高調整用ボルト」の回転等操作を補助又は容易に
する機能,用途を有するものである。また,「ブリッジ」には振動をボデ
ィーに伝える機能もあるが(乙1の4),6個又は8個の扇状の図形の部
品の形状は,ブリッジの左右に位置し,ボディーに接触し,確実に固定さ
れ,振動をボディーに伝える目的で採用された形状といえる。したがっ
て,本願商標は,ブリッジの形状として普通に用いられる範囲内の形状で
あるといえるから,原告の上記主張は失当である。
イまた,原告は,本願商標に係る指定商品は,「弦楽器(部品及び附属品
を除く。)」であり,ブリッジ等の部品,附属品は積極的に除外されてい
るから,商標法3条1項3号該当性の判断に当たって,「弦楽器用駒(ブ
リッジ)」との関係において判断すべきではないと主張する。
しかし,その指定商品に属するギターについての広告,販売等の取引の
実情は,上記(2)のとおりであり,本願商標の指定商品は,それ自体単体
として取引される「弦楽器の部品及び附属品」が除かれてはいるもの
の,「弦楽器」本体には,ボディー部分,ヘッド部分等と共に,駒(ブリ
ッジ)部分も備えられているものであるから,本願商標の特徴をその指定
商品「弦楽器」との関係でみれば,「6弦の弦楽器」,すなわち,「ギタ
ー」用の「駒(ブリッジ)」の特徴を顕著に有するものであり,本願商標
は「6弦の弦楽器用駒(ブリッジ)」であると,容易に認識させるもので
ある。以上のとおり,本願商標の商標法3条1項3号該当性を,その指
定商品「弦楽器」との関係において判断すれば,同号に該当することは明
らかであるから,審決に誤りはなく,原告の主張は失当である。
2取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)に対し
原告は,本願商標は1978年(昭和53年)から現在に至るまであらゆる
デザインの「ゼマティスギター」に使用されていると主張する。しかし,証
拠(甲29,乙9)によると,本願商標のブリッジの形状とは全く異なるデザ
インのものが原告の製造,販売に係る「ゼマティスギター」に使用されてお
り,原告の上記主張は失当である
第5当裁判所の判断
当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由はないものと判断する。そ
の理由は,以下のとおりである。
1取消事由1(商標法3条1項3号該当性の判断の誤り)について
(1)立体商標における商品等の形状
ア商標法は,商標登録を受けようとする商標が,立体的形状(文字,図
形,記号若しくは色彩又はこれらの結合との結合を含む。)からなる場合
についても,所定の要件を満たす限り,登録を受けることができる旨規定
する(商標法2条1項,5条2項参照)。
ところで,商標法は,3条1項3号で「その商品の産地,販売地,品
質,原材料,効能,用途,数量,形状(包装の形状を含む。),価格若し
くは生産若しくは使用の方法若しくは時期又はその役務の提供の場所,
質,提供の用に供する物,効能,用途,数量,態様,価格若しくは提供の
方法若しくは時期を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商
標」は,商標登録を受けることができない旨を,同条2項で「前項第3号
から第5号までに該当する商標であっても,使用をされた結果需要者が何
人かの業務に係る商品又は役務であることを認識することができるものに
ついては,同項の規定にかかわらず,商標登録を受けることができる」旨
を,4条1項18号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又
は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商
標」は,同法3条の規定にかかわらず商標登録を受けることができない旨
を,26条1項5号で「商品又は商品の包装の形状であって,その商品又
は商品の包装の機能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商
標」に対しては,商標権の効力は及ばない旨を,それぞれ規定している。
このように,商標法は,商品等の立体的形状の登録の適格性について,
平面的に表示される標章における一般的な原則を変更するものではない
が,同法4条1項18号において,商品及び商品の包装の機能を確保する
ために不可欠な立体的形状のみからなる商標については,登録を受けられ
ないものとし,同法3条2項の適用を排除していること等に照らすと,商
品等の立体的形状のうち,その機能を確保するために不可欠な立体的形状
については,特定の者に独占させることを許さないとしているものと理解
される。
そうすると,商品等の機能を確保するために不可欠とまでは評価されな
い形状については,商品等の機能を効果的に発揮させ,商品等の美感を追
求する目的により選択される形状であっても,商品・役務の出所を表示
し,自他商品・役務を識別する標識として用いられるものであれば,立体
商標として登録される可能性が一律的に否定されると解すべきではなく(
もっとも,以下のイで述べるように,識別機能が肯定されるためには厳格
な基準を充たす必要があることはいうまでもない。),また,出願に係る
立体商標を使用した結果,その形状が自他商品識別力を獲得することにな
れば,商標登録の対象とされ得ることに格別の支障はないというべきであ
る。
イ以上を前提として,まず,立体商標における商品等の立体的形状が商標
法3条1項3号に該当するか否かについて考察する。
(ア)商品等の形状は,多くの場合,商品等に期待される機能をより効果
的に発揮させたり,商品等の美感をより優れたものとするなどの目的で
選択されるものであって,商品・役務の出所を表示し,自他商品・役務
を識別する標識として用いられるものは少ないといえる。このように,
商品等の製造者,供給者の観点からすれば,商品等の形状は,多くの場
合,それ自体において出所表示機能ないし自他商品識別機能を有するも
の,すなわち,商標としての機能を有するものとして採用するものでは
ないといえる。また,商品等の形状を見る需要者の観点からしても,商
品等の形状は,文字,図形,記号等により平面的に表示される標章とは
異なり,商品の機能や美感を際立たせるために選択されたものと認識
し,出所表示識別のために選択されたものとは認識しない場合が多いと
いえる。
そうすると,商品等の形状は,多くの場合に,商品等の機能又は美感
に資することを目的として採用されるものであり,客観的に見て,その
ような目的のために採用されると認められる形状は,特段の事情のない
限り,商品等の形状を普通に用いられる方法で使用する標章のみからな
る商標として,同号に該当すると解するのが相当である。
(イ)また,商品等の具体的形状は,商品等の機能又は美感に資すること
を目的として採用されるが,一方で,当該商品の用途,性質等に基づく
制約の下で,通常は,ある程度の選択の幅があるといえる。しかし,同
種の商品等について,機能又は美感上の理由による形状の選択と予測し
得る範囲のものであれば,当該形状が特徴を有していたとしても,商品
等の機能又は美感に資することを目的とする形状として,同号に該当す
るものというべきである。
けだし,商品等の機能又は美感に資することを目的とする形状は,同
種の商品等に関与する者が当該形状を使用することを欲するものである
から,先に商標出願したことのみを理由として当該形状を特定の者に独
占させることは,公益上の観点から適切でないからである。
(ウ)さらに,需要者において予測し得ないような斬新な形状の商品等で
あったとしても,当該形状が専ら商品等の機能向上の観点から選択され
たものであるときには,商標法4条1項18号の趣旨を勘案すれば,商
標法3条1項3号に該当するというべきである。
けだし,商品等が同種の商品等に見られない独特の形状を有する場合
に,商品等の機能の観点からは発明ないし考案として,商品等の美感の
観点からは意匠として,それぞれ特許法・実用新案法ないし意匠法の定
める要件を備えれば,その限りおいて独占権が付与されることがあり得
るが,これらの法の保護の対象になり得る形状について,商標権によっ
て保護を与えることは,商標権は存続期間の更新を繰り返すことにより
半永久的に保有することができる点を踏まえると,商品等の形状につい
て,特許法,意匠法等による権利の存続期間を超えて半永久的に特定の
者に独占権を認める結果を生じさせることになり,自由競争の不当な制
限に当たり公益に反するからである。
(2)本願商標の商標法3条1項3号該当性
アギターの種類及び構造について
本願商標は,弦楽器(部品及び附属品を除く)を指定商品とするもので
ある。証拠(乙1の1ないし6)によると,弦楽器に含まれるギターの種
類及び構造は,下記のとおりと認められる。
(ア)ギターには,①弦の振動を電気信号に変換し,アンプを通して音を
出す「エレクトリック・ギター」,②電気を通さないナマ音だけで鳴ら
す「アコースティック・ギター」,③アコースティック・ギターにピッ
クアップ(弦の振動を電気信号に変換するパーツ)を取りつけた「エレ
クトリック・アコースティック・ギター」がある。
(イ)ギターを構成している主な部品(パーツ)は,以下のとおりであ
る。①ヘッド
ギターの頭部でネックの先端の部分。ペグ(弦を巻きつけて固定す
ると同時に,締めたり緩めたりすることによってチューニングするパ
ーツ)が取りつけられ,弦のテンション(張力)を確保する役割を果
たす。ヘッドにはメーカーのロゴが書かれることが多い。
②ネック
弦を押さえて音程を決定する部分である。なおネックには6本の弦
が配される。
③ボディー
ギターの本体であり,弦の振動を共鳴させるという重要な役割を担
い,内部に空洞部分のないソリッド・ボディーと,中空のホロー・ボ
ディとがあり,また,トップが平らなものはフラット・トップ,中央
が緩やかに盛り上がっているものはアーチ・トップと呼ばれる。ボデ
ィーの一部をカットするカッタウェイという加工が施される場合があ
り,片側だけをカットしたものをシングル・カッタウェイ,両側をカ
ットしたものをダブル・カッタウェイと呼ばれる。
④ブリッジ(駒)
ボディー上で弦を支え,その振動をボディーに伝えるパーツ。テイ
ルピース(弦のボール・エンドを固定するパーツ)とブリッジとが一
体となっている一体型と,別になっている独立型がある。
ブリッジは,左右のネジで弦高(フレットからの弦の高さ)を調整
することができる。また,サドル部分では,ネジを回してサドルを前
後に移動させて,オクターヴ・ピッチを調整することができる。
イ本願商標の構成
本願商標は,別紙「商標目録」記載のとおりの以下の構成よりなるもの
であり(甲30),これによれば,本願商標は,指定商品「弦楽器(部品
及び附属品を除く。)」を構成するブリッジの立体的形状に係るものであ
り,同形状は,次のような特徴を有している。
A本体は,正面視では略長方形で,縦線が円弧状となっており,側面視
では略台形でその上部は円弧状となっており,本体の左右にはマイナス
の溝のあるボルトを2個配していること。
B本体の左右には,8個(2個は,本体に隠れているが,本願商標に係
るブリッジの分解写真(乙8)より8個と認める。)の扇状の図形がそ
のボルトを中心にして円形に配され,花びら様の外観を呈しているこ
と。
C本体の左右に設置された2個のボルトの間には,それよりやや小さい
6個の,同じく頭部が円形でマイナスの溝のあるボルトと,六角形のナ
ットと,そのボルトには四角形の部品(サドル)が接続されているこ
と。
ウ本願商標は,指定商品である弦楽器に含まれるギターの構成部分である
ブリッジの立体形状である。ところで,①本体の正面視が略長方形で縦線
が円弧状であることは,ギターのブリッジの通常の形状であり(甲11な
いし14,乙3,7),②左右にマイナスの溝のあるボルトを2個配して
いることは,弦高を調整するための機能上から採用された形状であり,③
2個のボルトには扇状の8個の図形が円形に配された花びら様の形状とし
たことは,美感上の観点から採用されたものと推認されるが,その選択に
さほど特徴があるとはいえず,④6個のボルト及びナットでサドルを接続
したことは6弦のギターのブリッジとしての機能を果たすためのものであ
るといえる(原告作成の「ゼマティスギター」のカタログ(乙8)に
も,「ブリッジは,太いスタッド・スクリューとフラワー・ナットによっ
て確実に固定され,ガタ付きや脱落といった問題点がなく,弦振動を確実
にボディへ伝達します。デュラルミンから削りだして作られたこのブリッ
ジとテールピースは,優雅なデザインと機能美を兼備え」との記載があ
る。)。
上記のとおり,本願商標の各特徴は,いずれも商品の機能又は美感に資
することを目的とするものであり,ギターのブリッジについて採用される
場合に,通常予測される範囲内の形状といえる。また,前記ア認定のとお
り,弦楽器に含まれるギターにおいて,需要者の目を惹くのはブリッジよ
りも,むしろギターの大部分を占めるカッタウェイを施したボディ部やヘ
ッド部(メーカーの名称等が記載される場合が多い。)であるといえる。
したがって,本願商標を指定商品「弦楽器」に付した場合に,需要者は,
本願商標を,専ら上記指定商品を構成するブリッジであると認識し,指定
商品の出所を表示する標識と認識することはないと解するのが自然であ
る。
なお,原告は,本願商標に係る指定商品は,「弦楽器(部品及び附属品
を除く。)」であり,ブリッジ等の部品,附属品は除外されているにもか
かわらず,審決が,商標法3条1項3号該当性の判断に当たり,「弦楽器
用駒(ブリッジ)」との関係において判断した点に誤りがあると主張す
る。しかし,前記アで認定したとおり,本願商標が弦楽器のブリッジとし
てごく一般的に採用し得る範囲内の形状のものであること,「弦楽器」(
例えばギター)には,ボディー,ヘッド等と共に,ブリッジも構成要素で
あること,そうすると,ブリッジを構成要素とする「弦楽器」の商標とし
てもごく一般的に採用される形状といえることは前記説示のとおりであ
る。したがって,審決は,商標法3条1項3号該当性の判断に当たり,そ
の指定商品「弦楽器」との関係において判断したものであるといえる。原
告のこの点の主張は失当である。
エ以上のとおりであるから,本願商標は,商品等の形状を普通に用いられ
る方法で使用する標章のみからなる商標として,商標法3条1項3号に該
当するものというべきである。
2取消事由2(商標法3条2項該当性の判断の誤り)について
(1)立体商標における使用による自他商品識別力の獲得
前記1(1)アのとおり,商標法3条2項は,商品等の形状を普通に用いら
れる方法で表示する標章のみからなる商標として同条1項3号に該当する商
標であっても,使用により自他商品識別力を獲得するに至った場合には,商
標登録を受けることができることを規定している(商品及び商品の包装の機
能を確保するために不可欠な立体的形状のみからなる商標を除く。同法4条
1項18号)。
立体的形状からなる商標が使用により自他商品識別力を獲得したかどうか
は,当該商標ないし商品等の形状,使用開始時期及び使用期間,使用地域,
商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,当該形状に類似し
た他の商品等の存否などの事情を総合考慮して判断するのが相当である。
そして,使用に係る商標ないし商品等の形状は,原則として,出願に係る
商標と実質的に同一であり,指定商品に属する商品であることを要する。
もっとも,商品等は,その製造,販売等を継続するに当たって,その出所
たる企業等の名称や記号・文字等からなる標章などが付されるのが通常であ
り,また,技術の進展や社会環境,取引慣行の変化等に応じて,品質や機能
を維持するために形状を変更することも通常であることに照らすならば,使
用に係る商品等の立体的形状において,企業等の名称や記号・文字が付され
たこと,又は,ごく僅かに形状変更がされたことのみによって,直ちに使用
に係る商標が自他商品識別力を獲得し得ないとするのは妥当ではなく,使用
に係る商標ないし商品等に当該名称・標章が付されていることやごく僅かな
形状の相違が存在してもなお,立体的形状が需要者の目につき易く,強い印
象を与えるものであったか等を総合勘案した上で,立体的形状が独立して自
他商品識別力を獲得するに至っているか否かを判断すべきである。
(2)本願商標の商標法3条2項該当性
原告は,本願商標は,有名な「ゼマティスギター」のブリッジとして19
78年(昭和53年)以降現在に至るまで使用され,「ゼマティスギター」
の識別商標となっているので,商標法3条2項に該当する旨主張する。
証拠(甲15ないし29,31ないし33)によれば,本願商標とほぼ同
一形状のブリッジが,1978年以降「ゼマティスギター」に使用されてい
ることが窺える。しかし,上記文献は「ゼマティスギター」の歴史を写真入
りで掲載し紹介したものであって,一般雑誌ではないこと,上記文献を子細
に検討しても,需要者の目につき易く強い印象を与えるのは,菱形図形に囲
まれた「ゼマティスギター」の頭文字の「Z」又は「ZEMAITIS」を
刻印したヘッド(甲18,21,23ないし28)や「A.C.ZEMAI
TIS」の刻印のあるカッタウエイを施したボディ全体(甲20,22,2
3,27)であり,これらと対比するとボディに施された本願商標の形状は
目につきにくいものであり,他に需要者が本願商標の形状に着目するとの事
情は何ら窺えない。かえって,上記雑誌の裏表紙(甲29,乙9)による
と,「ゼマティスギター」のブリッジの形状として本願商標と異なり,花び
ら様のナットを設けていないものや,花びら様のナットにおいて扇状の図形
が8個以上あるものも使用されていたことが推認される。本件全証拠をもっ
てしても,本願商標ないし本願商標が付された「ゼマティスギター」の使用
地域,商品の販売数量,広告宣伝のされた期間・地域及び規模,原告の類似
商品に対する対策等の一切は明らかでなく,本願商標が付された「ゼマティ
スギター」について,需要者への普及度及びその出所を識別する標識がどの
点に存在するのかも明らかでない。
以上によれば,本願商標は,本願商標の付された指定商品について,自他
商品識別力を獲得しているということはできず,商標法3条2項に該当しな
いものというべきである。
3結論
以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がない。原告はその他縷々
主張するが,審決を取り消すべきその他の誤りは認められない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決
する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官飯村敏明
裁判官中平健
裁判官上田洋幸
(別紙)
商標目録

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