弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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主文
1被告和歌山県は,Aに対し,2919万4416円及びこれに対する平成1
6年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告和歌山県は,Bに対し,2919万4416円及びこれに対する平成1
6年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3A及びBのその余の請求並びにCの請求をいずれも棄却する。
4訴訟費用は,A,B及び被告和歌山県に生じた費用の9分の5を同被告の,
同原告らに生じたその余の費用を同原告らの,Cに生じた費用を同原告の,並
びに同被告に生じたその余の費用及び被告国に生じた費用を原告らのそれぞれ
負担とする。
5この判決は,第1項及び第2項に限り,仮に執行することができる。ただし,
被告和歌山県が,A及びBに対し各2400万円の担保を供するときは,その
仮執行を免れることができる。
事実及び理由
第1請求
1被告らは,Aに対し,連帯して5192万7252円及びこれに対する平成
16年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告らは,Bに対し,連帯して5192万7252円及びこれに対する平成
16年4月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告らは,Cに対し,連帯して600万円及びこれに対する平成16年4月2
0日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,和歌山県和歌山東警察署(以下「和歌山東署」という。)の留置担
当官らによる戒具(防声具・鎮静衣)の使用に起因して死亡したDの相続人又
は兄である原告らが,(Ⅰ)被告国に対しては,(i)国家公安委員会に,戒具の
使用を認める被疑者留置規則を改正するなど防声具・鎮静衣の使用を廃止する
措置を執るべき義務を怠る過失があった,(ii)警察庁長官に,戒具の使用方法
等に係る教育・教養を行う義務を怠る過失があったと主張し,(Ⅱ)被告和歌山
県に対しては,(i)和歌山県警察本部(以下「和歌山県警本部」という。)の
留置管理官並びに和歌山東署の署長及び留置主任官並びに和歌山県公安委員会
委員及び和歌山県警察本部長に,戒具の使用方法等に係る教育・教養を行う等
の義務を怠る過失があった,(ii)和歌山東署の署長及び副署長に,戒具の使用
を不許可にする義務を怠る過失があった,(iii)同署の留置主任官代理及び当
直責任者に,戒具の使用に係る指導監督義務を怠る過失があった,(iv)同署の
留置担当官又は一般当直担当官らの故意又は重大な過失による不要・不適切な
戒具の使用等があったと主張し,これら各公務員等の違法行為によりDが死亡
したとして,国家賠償法1条1項,4条,民法719条に基づき,被告らに対
し,Dから相続した損害賠償請求権及び遺族固有の損害賠償請求権に係る損害
金並びにこれに対する上記戒具の使用がされた日である平成16年4月20日
から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の連帯支払を求め
る事案である。
2法令等の定め等(法令及び訓令は,この項に指摘するものに限らず,特に断
らない限り,平成16年4月20日当時施行されていたものである。)
(1)戒具の使用に係る法令等の定め等
ア監獄法は,在監者に逃走,暴行若しくは自殺のおそれがあるとき又は監
外にあるときには戒具の使用を許可しており(同法19条1項),同法
(同条2項)の委任を受けた同法施行規則は,戒具の種類について,鎮静
衣,防声具,手錠及び捕じょうの4種類を規定する(同規則48条1項)。
イ国家公安委員会が警察法12条及び警察法施行令13条1項に基づき制
定した被疑者留置規則は,看守者が,留置人につき逃亡,暴行,自殺等の
おそれがあり,その防止のため必要と認めるときは,警察署長の指揮を受
けて留置場内において戒具を使用することができるとし(同規則20条),
戒具の種類について,手錠,捕じょう,防声具及び鎮静衣の4種類を規定
し(同規則20条の2第1項),戒具の制式及び使用手続は,警察庁長官
の定めるところによると規定している(同2項)。上記各規定は,被疑者
又は被告人を代用監獄としての留置場に収容する場合についても準用され
る(同規則35条1項前段)。
ウ警察庁長官が被疑者留置規則20条の2第2項に基づき定めた「留置場
において使用する戒具の制式および使用手続きに関する訓令」(昭和46
年10月28日付け警察庁訓令18号。以下「戒具訓令」という。)は,
以下の内容の定めを置いている(なお,戒具訓令は,平成14年3月20
日付け警察庁訓令第3号(平成14年4月1日施行)により一部改正され
たが,同訓令附則2項は,防声具及び鎮静衣の制式については,当分の間,
なお従前の例によることができるとしているので,戒具の制式については,
同改正前の制式と改正後の制式を挙げる。)。
(ア)戒具の制式(2条)
a防声具
(改正前の制式)口及び上下のあごを完全にふさぐ大きさの半截楕円
形のマスク型で,口部を固定させる装置を備えたものとする(改正前
の制式による防声具を,以下「旧型防声具」という。)。
(改正後の制式)口及び上下のあごを完全にふさぐ大きさの半截楕円
形のマスク(口部を固定させる装置を備えたものに限る。)と頭部を
保護する装置を組み合わせたものとする(改正後の制式による防声具
を,以下「新型防声具」という。)。
b鎮静衣
(改正前の制式)頸部以下の身体をつつみ,適宜の通気孔を設けた袋
状のものとする。
(改正後の制式)頸部以下の身体をつつみ,適宜の通気孔を設けた袋
状のもので,内部に上腕部,前腕部,大腿部及び下腿部を固定し,保
護するための適当な大きさのベルトを備えたものとする。
c手錠及び捕じょうの制式(省略)
なお,防声具及び鎮静衣の形状は,別紙戒具訓令新旧対照表の別図
のとおり(実際の構造・形状の詳細は後記カのとおり)。
(イ)戒具の使用手続(3条)
戒具のうち,手錠及び捕じょうは逃走,暴行又は自殺のおそれのある
留置人,防声具は制止をきかず大声を発する留置人,鎮静衣は暴行又は
自殺のおそれのある留置人に対してそれぞれ使用することができる(1
項)。
看守者は,戒具の使用に当たっては,警察署長の指揮を受けなければ
ならない。ただし,緊急を要し警察署長の指揮を受けるいとまのないと
きは,幹部の指揮を受け,使用後速やかに警察署長に報告しなければな
らない(2項)。
(ウ)使用上の留意事項(4条)
戒具の使用に当たっては,その必要性及び留置人の健康状態を考慮し
て適正に使用しなければならない(1項)。
防声具及び鎮静衣は,6時間以上継続して使用してはならない(2
項)。
防声具及び鎮静衣の使用中は,留置人の動静について常に注意を払わ
なければならない(3項)。
エ(ア)戒具訓令の制定及び施行に当たり作成された「被疑者留置規則の一部
を改正する規則の制定および留置場において使用する戒具の制式および
使用手続きに関する訓令の制定について」(昭和46年10月28日付
け乙刑発第9号,乙保発第14号,乙交発第10号,乙備発第8号警察
庁次長通達。以下「昭和46年戒具通達」という。)には,戒具使用の
一般的留意事項として,(Ⅰ)使用に際しては戒具使用指揮簿により警察
署長(緊急の場合は,これに代わる者又は留置主任官)の指揮を受ける
こと,(Ⅱ)必要最小限度の使用にとどめること,戒具の使用は,留置人
の身体に対する直接強制であり,苦痛及び危険が伴うものであるから,
留置人の健康状態を考慮し,その目的に沿った必要最小限度の使用にと
どめ適正な使用を図ること,(Ⅲ)戒具の使用中は留置人の動静に注意す
ること,戒具を使用した場合は,できるだけ他の留置人と隔離して留置
して,その動静に綿密な注意を払うとともに,留置人の精神的安定を図
り,戒具使用の早期終了に努めること,(Ⅳ)戒具使用の状況を明確にし
ておくこと,(Ⅴ)取調べに対する任意性の確保に配意することが挙げら
れている。また,戒具使用の個別的留意事項として,各戒具ごとに留意
事項が記載されている(なお,防声具と鎮静衣に関する留意事項は,後
記(イ)の平成14年戒具通達で改められており,その内容は後記(イ)のと
おりである。)。
(イ)戒具訓令の前記改正に伴い発出された「留置場において使用する戒具
の制式および使用手続きに関する訓令の一部を改正する訓令の制定に伴
う戒具の使用上の留意事項について(通達)」(平成14年3月20日
付け丁総発第64号警察庁長官官房総務課長通達。以下「平成14年戒
具通達」といい,昭和46年戒具通達と併せて,以下「戒具通達」とい
うことがある。)には,同改正により制式の改められた防声具及び鎮静
衣について,以下の内容の使用上の留意条項が挙げられている。
a防声具の使用上の留意点
(a)使用に当たっては,被留置者に呼吸器系統の疾患等がある場合は,
使用に耐えうるか否かを慎重に判断し,必要があると認めるときは,
医師の診断を受けさせること
(b)防声具を効果的に使用するため必要があるときは,手錠又は捕じ
ょうを同時に使用することができること
(c)鼻孔からの呼吸を困難にしていないか,また,頸動脈及び頸静脈
を圧迫していないかを確認すること
(d)口の内部には綿布等を絶対に入れないこと
(e)使用する場合は,単独居室に入れること
(f)使用時間は,3時間以内にとどめ,それ以上の使用を必要とする
場合には,さらに警察署長(都道府県警察本部に設置されている留
置場に関しては主務課長。以下同じ。)の指揮を受けること。警察
署長は,特に継続の必要があると認めるときは,その使用の期間が
通じて6時間を超えない範囲で,これを延長することができること
(g)使用することにより,食事,用便等を制限することのないよう
にすること
(h)使用中は,監視に便利な場所に位置して対面監視等を行い,呼
吸障害を来していないかなど,その動静について綿密に視察するこ

(i)使用中の者については,進んで精神の安定を図るための働き掛
けを試み,早期に解除できるよう努めること
b鎮静衣の使用上の留意点
(a)使用に当たっては,被留置者がこれに耐えうるか否かを慎重に判
断し,必要があると認めるときは,医師の診断を受けさせること
(b)他の戒具では措置できないなどやむを得ない場合に限り,必要最
小限度の範囲内で使用し,かつ,手錠,捕じょう,防声具と同時に
使用しないこと
(c)保護ベルトは,被留置者の態様に応じて必要な部位に使用するこ

(d)使用中は,監視に便利な場所に位置して対面監視等を行い,胸部
を圧迫し呼吸困難を来していないかなど,その動静について綿密に
視察すること
(e)前記aの(e),(f),(g)及び(i)に同じ。
オ戒具訓令及び戒具通達を受けて,和歌山県警察被疑者等留置規程(平成
3年6月6日付け本部訓令第10号。以下「和歌山県留置規程」とい
う。)は,戒具の使用について,次のとおりの定めを置いている(その具
体的内容は,以下に指摘する点を除き,ここまでに挙げた戒具訓令及び戒
具通達の規定とほぼ同内容である。)。
(ア)戒具の使用(54条)
署長又は留置主任官は,看守勤務員から戒具使用の伺いがあったとき
は,戒具の種類,使用方法等について具体的に指揮するとともに,被留
置者に対し,あらかじめ使用する理由を告げ警告させなければならない。
(イ)戒具使用上の留意事項(55条)
防声具及び鎮静衣の使用時間は,原則2時間以内にとどめること(2
項3号カ及び4号オ)。
カ実際の防声具及び鎮静衣の構造・形状(甲1の20・90,乙6)
(ア)防声具の構造・形状
旧型防声具は,頭頂部カバー,ベルト付きの防声用マスク及び額部分
に巻き付けるベルトから構成される。頭頂部カバーは,皮製で,その4
か所の穴に,防声用マスクに取り付けられた4本のベルトを通す構造と
なっている。防声用マスクは,厚さ約5ミリメートル(縁部分のみ約8
ミリメートル)の合成ゴム製で,半切楕円形をしており,その大きさは,
縦約9センチメートル,横約14センチメートル,深さ約6センチメー
トルで,被使用者の口及び上下のあごを完全にふさぎ,口部を固定させ
ることのできる構造となっている。上記4本のベルトは,いずれも伸縮
性のあるゴム製で,防声用マスクの上辺及び下辺にそれぞれ2本ずつ取
り付けられている。上記4本のベルトの各先端(頭部側)には,いずれ
もマジックテープが取り付けられており,各ベルトの先端を,頭頂部カ
バーを通した後にそれぞれマジックテープで接着する構造となっており,
その接着面の大きさを変えることにより,防声具全体の奥行きを調節す
ることができる。額部分に巻き付けるベルトも,伸縮性のあるゴム製で,
その両方の先端にマジックテープが取り付けられ,同ベルトを輪状にし
てマジックテープ部分を接着する構造となっており,接着面の大きさを
変えることにより,輪の大きさを調節することができる。
新型防声具は,頭部全体を覆うヘッドカバー及びベルト付きの防声用
マスクから構成される。ヘッドカバーは,表生地が合成樹脂製,裏生地
がポリエステル製で,裏生地の内部には,厚さ約1センチメートルのス
ポンジ様のクッションが詰められており,左右の側頭部には,耳カバー
が取り付けられている。また,同側頭部の前方左右及び後方左右の4か
所に,受け口となるバックル付きのベルト4本が取り付けられている。
防声用マスクは,旧型防声具のものと同じ材質・形状で,その上辺及び
下辺それぞれに,長さの調節が可能なベルトが2本ずつ取り付けられ,
これらの先端に付属する差込用のバックルと上記受け口となるバックル
を結合させる構造となっている。
(イ)鎮静衣の構造・形状
鎮静衣は,合成樹脂製で,上端部及び下端部がいずれも開口した寝袋
様の形状をしており,被使用者の胸部,腰部及び大腿部に当たる各部分
には,鎮静衣本体を一周する合成樹脂製のバンドが取り付けられている。
上記各バンドの一方の先端には,いずれも金属製のDカンが取り付けら
れ,その他方の先端を同Dカンに通し,引っ張ることにより,鎮静衣本
体を締め付ける構造となっている。なお,戒具訓令の前記改正に伴い,
鎮静衣の制式が改められ,その構造について,本体の内部に,上腕部,
前腕部,大腿部及び下腿部を固定し,保護するための適当なベルトを備
えること,本体を一周するバンドのバックルをワンタッチ式の樹脂製の
ものとすること等の変更があった(本件でDに使用された鎮静衣は,上
記改正前の制式に係るものである。)。
(2)警察教養に係る法令等の定め
ア警察教養について,警察法は,警察教養に関する事項は国家公安委員会
が統轄し(同法5条1項),「警察教養施設の維持管理その他警察教養に
関すること」について警察庁を管理し(同法5条2項15号),警察庁は,
国家公安委員会の管理の下に警察教養に関する事務をつかさどる(同法1
7条)としている。また,警察庁長官は,国家公安委員会の管理に服し,
警察庁の庁務を統轄し,警察庁の所掌事務について,都道府県警察を指揮
監督すると定めている(同法16条2項)。
イそして,国家公安委員会が定めた警察教養規則(平成12年1月25日
付け国家公安委員会規則第3号)は,(Ⅰ)警察庁長官は,警察を取り巻く
諸情勢の変化を踏まえ,警察教養の重点を示すものとし(5条1項),
(Ⅱ)警察庁長官,警察庁の各付属機関及び地方機関の長,警視総監並びに
道府県警察本部長は,警察庁長官により示された警察教養の重点に関する
事項について,計画的に警察教養を実施しなければならないとし(同条2
項),(Ⅲ)(i)同規則に定めるもののほか,警察教養制度に関し必要な
事項は,警察庁長官が定め(6条1項),(ii)同規則及び(i)に基づ
き警察庁長官が定めるもののほか,都道府県警察の職員に対する警察教養
に関し必要な事項は,都道府県公安委員会規則で定めることとしている
(同条2項)。
ウ和歌山県留置規程は,警察教養について,次のとおりの定めを置いてい
る(11条)。
(ア)留置管理官は,署の留置管理係,補勤要員及び女性看守補助者に対し,
講習会を開いて看守勤務の基本事項,勤務要領,被留置者の処遇及び事
故防止に関する教養をしなければならない(1項)。
(イ)署長は,所属の職員に対し,留置業務の管理運営に関する事項につい
て,随時,指導教養をしなければならない(2項)。
(ウ)留置主任官(署長を補佐し,留置管理係,補勤要員及び女性看守補助
者を指揮監督するとともに,被留置者の留置及び留置場の管理につきそ
の責に任ずる者(和歌山県留置規程5条))は,留置管理係,補勤要員
及び女性看守補助者に対し,前記(ア)に規定する事項について,月1回
以上,計画的に教養をしなければならない(3項)。
(エ)留置主任官は,新たに任用した看守専務員(兼務員を含む。)並びに
新たに指名した補勤要員及び女性看守補助者に対し,任命又は指名後速
やかに前記(ア)に規定する事項について教養をしなければならない(4
項)。
(オ)留置主任官及び留置主任補助者は,看守勤務員の就勤時に看守上の留
意事項を具体的に指示するとともに必要な事項について教養しなければ
ならない(5項)。
3前提事実(争いのない事実並びに掲記の証拠(甲1を除き,枝番のあるもの
は枝番を含む。)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)アDは,昭和26年12月26日生まれの韓国籍を有する男性であり
(甲2),平成16年4月21日午前1時25分ころまでに,和歌山東署
において死亡した。
イA,B,E,Fは,Dの子,Gは,Dの妻であり,以上5人がDの全
相続人である(甲2,6ないし9,33,乙1)。A及びBは,上記相続
人らの遺産分割協議により,Dの遺産を,それぞれ2分の1ずつ取得した
(甲10,32,34)。
ウCは,Dの兄である(甲2)。
(2)Dの逮捕及び勾留
アDは,平成16年4月18日午後11時10分ころ,現住建造物等放火
未遂罪の現行犯人として逮捕(以下「本件逮捕」という。)され,和歌山
東署に連行された。Dは,同署において弁解を録取された後,同月19日
午前1時30分ころ,和歌山県和歌山北警察署(以下「和歌山北署」とい
う。)に押送され,同署に留置された。
イDは,同月20日,和歌山地方検察庁(以下「和歌山地検」という。)
検察官に送致され,同検察官は,同日,Dの弁解を録取した後,和歌山地
方裁判所(以下「和歌山地裁」という。)に対し,Dの勾留を請求した。
和歌山地裁裁判官は,勾留質問(以下「本件勾留質問」という。)をした
後,勾留場所を和歌山東署としてDを勾留する裁判をした。
(3)平成16年4月20日の宿直勤務(午後5時45分から翌21日の午前9
時まで)における和歌山東署の警察官で,Dに対する戒具の使用に関わった
者は,次のとおりである(甲1の15ないし18・60・62・70・90。
原告らと被告和歌山県との間では争いがない。)。
アH
和歌山東署の交通課長であり,当日の当直責任者(留置業務については
留置主任官の職務を代行する(和歌山県留置規程7条1号))
イI
同署の留置管理係長であり,同日の留置担当官
ウJ
同署の留置管理係主任であり,同日の留置担当官
エK
一般当直担当官
オL
同署の留置管理担当の警務課長代理であり,留置主任官代理(和歌山県
留置規程5条の2第1項)
なお,Lは,同日の勤務を終えて帰宅していたが,同日午後11時30
分ころ,再び同署に登庁した。
(4)Dに対する戒具等の使用(甲1の1・2・15ないし18。原告らと被告
和歌山県との間では争いがない。同使用を,以下「本件戒具使用」とい
う。)
アDは,平成16年4月20日午後6時過ぎころ,和歌山北署から和歌山
東署に押送され,同署留置場の6号室(以下「本件6号室」という。)に
留置された。Dは,同署に押送された時から,すでに意味不明の大声を上
げ続けていた。
イJ,I及びK(併せて,以下「Jら」ということがある。)は,同日午
後9時30分ころ,本件6号室に入り,Dに対し,ベルト手錠,鎮静衣
(Dに使用された鎮静衣は,戒具訓令の前記改正前の制式に係るものであ
る。)及び旧型防声具を装着した(Dに装着した戒具を,以下「本件ベル
ト手錠」,「本件旧型防声具」などといい,これら(後記ベルトも含
む。)を一括して,以下「本件戒具」ということがある。)。このとき,
本件ベルト手錠は,正規の取り付け方と表裏が反対に取り付けられた。J
は,Dの頭から体にかけて布団をかぶせた。
ウDに戒具が装着されてから10分程度経過すると,本件旧型防声具がD
の口からずれたので,J及びIは,本件旧型防声具をDの口の位置に戻し,
Jは,さらにその上に重ねて,本件新型防声具を装着し,Dの頭から体に
かけて布団をかぶせた。
エDは,同日午後10時40分ころ,本件戒具を装着された状態で失禁し
た。Jらは,Dの同房者から指摘を受けてこれを知り,本件6号室内に入
り,Dに装着した本件鎮静衣等を外し,小便の後始末をした。その後,J
らは,Dに本件鎮静衣を再び装着することはしなかったが,代わりに,ベ
ルト(正規の戒具ではない。以下「本件ベルト」という。)をDの脛あた
りで両足が固定されるように装着した。この際も,Jは,Dの頭から体に
かけて布団をかぶせた。
(5)Dの死亡
Dは,長時間にわたり防声具を二重に付けられた上,布団を上からかぶせ
られ,胸部を圧迫するうつ伏せ寝の体勢により,呼吸困難な状態が継続した
ため,平成16年4月21日午前1時25分ころまでに,遷延性の窒息によ
り死亡した(甲1の1・2・10・11。原告らと被告和歌山県との間では
争いがない。)。
(6)和歌山簡易裁判所は,平成16年10月20日,同月14日付けのH,I
及びJに対する,本件戒具使用に係る事実を公訴事実とする公訴提起に基づ
き,同人らにつき業務上過失致死罪としてそれぞれ罰金50万円に処する旨
の略式命令を発し,同命令は,同年11月9日確定した(この刑事事件に係
る刑事確定記録を,以下「本件刑事確定記録」という。)。
4本件の争点
(1)国家公安委員会の規則改正等義務違反の有無
(2)警察庁長官の戒具の使用方法等に係る教育・教養義務違反の有無
(3)ア和歌山県警本部の留置管理官並びに和歌山東署の署長及び留置主任官
並びに和歌山県公安委員会委員及び和歌山県警察本部長の戒具の使用方法
等に係る教育・教養等義務違反の有無
イ前記アの義務違反とDの死亡との間の因果関係の有無
(4)和歌山東署の署長及び副署長の戒具の使用不許可義務違反の有無
(5)L及びHの戒具の使用に係る指導監督義務違反の有無
(6)Jらの行為の具体的態様(故意か否かを含む)及び違法性の有無・内容
(7)D及び原告らの損害額
5争点に関する当事者の主張
(1)争点(1)について
ア原告ら
(ア)戒具の危険性
a防声具は,そのマスク部分が被使用者の口を直接ふさぐものであり,
また,その固定部分が頚部等を圧迫するものであるから,その使用に
より,被使用者が呼吸障害を起こす危険がある。さらに,被使用者は,
自由に声を発することができなくなり,生命の危険を感じる状態に陥
ったとしても,助けを求めることは困難である。
b鎮静衣は,被使用者を袋に入れた状態で両手足を固定する戒具であ
り,その使用により,被使用者は直立不動の状態で固定され身動きが
とれなくなるという,極めて拘束力の強い戒具である。鎮静衣の周囲
には締め付け強度を調整するためのベルトが巻かれており,その強度
次第では,被使用者が,その胸部を圧迫され呼吸困難を来すことがあ
る。さらに,被使用者は,何らかの原因で呼吸障害に陥ったとしても,
自力で体位を変えて,そこから脱することはできないのである。
c以上のとおり,防声具及び鎮静衣は,いずれも,被使用者の生命・
身体に対して極めて大きな危険を及ぼす戒具である。
(イ)被疑者留置規則20条の2第1項は,看守者が,留置場内において,
留置人に対して防声具及び鎮静衣を使用することを認めている。しかし,
前記(ア)のとおり,防声具は口を塞ぎ言葉をまともに発することができ
ない状態にし,鎮静衣は直立不動で手足の自由がきかない状態におくも
のであるから,防声具及び鎮静衣を使用することは,憲法で禁止された
被使用者に対する奴隷的拘束又は公務員による拷問に当たるというべき
である。
したがって,同項は,憲法18条及び36条に違反し,警察法12条
及び同法施行令13条の委任の範囲を超える無効な規定である。
(ウ)また,防声具又は鎮静衣の使用は,市民的及び政治的権利に関する国
際規約(以下「自由権規約」という。)7条において規定された「拷問
又は残虐な,非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰」
にも当たるというべきである。さらに,拷問は,拷問及び他の残虐な,
非人道的な又は品位を傷つける取扱い又は刑罰に関する条約(以下「拷
問等禁止条約」という。)においても禁止されている。そして,国連拷
問禁止委員会は,2007年(平成19年)5月9日及び10日に開催
された第767回及び第769回会議において,日本国政府が提出した
拷問等禁止条約の実施状況に係る第1回報告書を審査し,同月16日及
び18日に開催された第778回及び第779回会議において,同審査
における結論及び日本国政府に対する勧告を採択し,これらを最終見解
(以下「国連拷問禁止委員会最終見解」という。)として表明したが,
同見解においては,「深刻な懸念を有する点」の一つとして,「警察拘
禁施設において,防声具が使用されていること」が挙げられ,「警察留
置場における防声具の使用を廃止するべきである」との勧告がされてい
るのである(甲25)。
したがって,被疑者留置規則20条の2第1項は,自由権規約7条及
び拷問等禁止条約に違反する。
(エ)1998(平成10)年11月19日,国連人権委員会が,日本国政
府に対して,日本の行刑施設における制度に関し,「革手錠等,残虐か
つ非人道的取扱いとなり得る保護措置の頻繁な使用」を問題にする見解
を表明し,これを契機として,「戒具の使用及び保護房への収容につい
て(通達)」と題する通達(平成11年11月1日付け矯保第3329
号法務省矯正局長通達。以下「平成11年法務省通達」という。)が発
出され,同通達によって,刑務所及び拘置所で防声具及び鎮静衣をいず
れも使用しないこととされた。平成11年法務省通達発出以降,法務省
管轄下の収容施設においては,防声具及び鎮静衣はいずれも使用されて
おらず,現在まで,使用を認める方向での通達の発出は何ら検討されて
いない。このことは,防声具及び鎮静衣の使用が,被使用者に肉体的・
精神的苦痛を与えるだけのものであって,行刑施設において必要とされ
るものではないことを示しているが,それにもかかわらず,代用監獄に
おいては依然として防声具及び鎮静衣の使用が認められている。すなわ
ち,そもそもその存在自体が拷問等禁止条約に違反し,無罪推定の原則
に抵触するおそれのある代用監獄(国連拷問禁止委員会最終見解におい
て,代用監獄の広汎かつ組織的な利用は,被拘禁者の勾留及び取調べに
対する手続的保障が不十分であることとあいまって,被拘禁者の権利に
対する侵害の危険性を高めるものであり,無罪推定の原則に反するおそ
れがある旨の指摘がされている。)において,前記(ア)のとおりの危険
性を有する防声具及び鎮静衣が使用されるという状態が続いているので
ある。
(オ)以上のとおり,防声具及び鎮静衣の使用を認める被疑者留置規則20
条の2第1項は,憲法及び条約に違反するものであり,遅くとも平成1
1年法務省通達の発出された平成11年11月1日以降は,同項の憲法
及び条約違反は明白となっていたのであるから,国家公安委員会には,
同規則を改正して防声具及び鎮静衣を廃止するか,少なくとも留置場内
でのこれらの使用を禁止する旨の通達等を発する義務を負っていたとい
うべきである。それにもかかわらず,漫然と防声具及び鎮静衣の使用を
認め,上記義務を怠った国家公安委員会の不作為には,国家賠償法上の
違法があるというべきである。
イ被告国
(ア)戒具の危険性に対して
戒具訓令及び戒具通達は,戒具の制式,使用手続,使用上の留意事項
等を定めており,これに従って適正に使用される限り,防声具及び鎮静
衣は,いずれも直ちに被拘禁者の生命・身体に対して危険を及ぼすもの
であるとはいえない。すなわち,これらによれば,鎮静衣については,
呼吸困難に陥ることのないよう,戒具通達によって,防声具等の他の戒
具と同時に使用しないこと,使用中は監視に便利な場所に位置して対面
監視等を行い,胸部を圧迫して呼吸困難を来していないかなど動静につ
いて綿密に観察することとされているし,防声具については,戒具通達
の留意事項を遵守して適正に装着すれば,鼻孔部を覆うことなく,鼻呼
吸ができ,呼吸障害を起こすことはないし,鼻孔からの呼吸を困難にし
ていないかにつき対面監視等を行うこととされている。
(イ)そもそも「未決勾留は,刑事訴訟法の規定に基づき,逃亡又は罪証隠
滅の防止を目的として,被疑者又は被告人の居住を監獄内に限定するも
のであって,右の勾留により拘禁された者は,その限度で身体的行動の
自由を制限されるのみならず,前記逃亡又は罪証隠滅の防止の目的のた
めに必要かつ合理的な範囲において,それ以外の行為の自由をも制限さ
れることを免れないのであり,このことは,未決勾留そのものの予定す
るところでもある。また,監獄は,多数の被拘禁者を外部から隔離して
収容する施設であり,右施設内でこれらの者を集団として管理するにあ
たっては,内部における規律及び秩序を維持し,その正常な状態を保持
する必要があるから,この目的のために必要がある場合には,未決勾留
によって拘禁された者についても,この面からその者の身体的自由及び
その他の行為の自由に一定の制限が加えられることは,やむをえないと
ころというべきである」(最高裁昭和52年(オ)第927号同58年6
月22日大法廷判決・民集37巻5号793頁参照)。戒具の使用は,
留置場における規律及び秩序の維持という合理的目的のために必要な範
囲でされるものであるから,憲法18条の「奴隷的拘束」,同36条の
「拷問」,自由権規約7条の「拷問又は残虐な,非人道的な若しくは品
位を傷つける取扱い若しくは刑罰」及び拷問等禁止条約1条1項の「拷
問」のいずれにも該当しない。
平成11年法務省通達は,刑務所及び拘置所での防声具及び鎮静衣の
使用を認めていないが,鎮静衣については,その後の法律にも規定され
ている(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律78条の拘束
衣が鎮静衣に相当する。)。また,防声具について,刑務所及び拘置所
で使用しないこととされているのは,防声具を使用しなくとも,隔離す
る施設があることなど代替措置をとることが可能であることによる。
(ウ)したがって,被疑者留置規則の改正による防声具及び鎮静衣の廃止を
せず,留置場内でのこれらの使用を禁止する旨の通達等を発しなかった
ことをもって,国家公安委員会に職務上の法的義務違反があったという
ことはできない。
(2)争点(2)について
ア原告ら
(ア)警察庁長官は,全国の警察署及び警察官を指揮監督する立場(警察法
16条2項)から,戒具訓令において戒具の制式,使用手続等を定めて
いる。また,警察教養規則5条においては,警察庁長官は,計画的に警
察教養を実施しなければならない旨定められている。警察庁長官が,警
察の業務に関して,何らかの基準を策定した場合には,その基準は実際
上,全国の各警察署や個々の警察官をも拘束する。
したがって,警察庁長官には,戒具の危険性及び使用方法について,
その実際の使用状況等を調査した上で,全国の警察署及び警察官に対し,
適切な教育・教養を実施する義務があるというべきである。それにもか
かわらず,警察庁長官は上記義務を怠った。
(イ)仮に,警察庁長官は,現場の警察官に対して直接の教育・教養実施義
務を負うものではないとしても,戒具の使用状況等を調査した上で,そ
の使用に関し,(Ⅰ)全国的に一定水準以上の教育・教養についての基準
を策定すること,(Ⅱ)戒具を使用するためないし留置担当者として勤務
するための資格等を設定すること及び(Ⅲ)都道府県警察において現実に
教育・教養が行われているか監督を行うなどして,戒具の適正使用が現
実に遵守されるための制度整備や,教育・教養の監督を行うこと,との
義務を負うというべきである。それにもかかわらず,警察庁長官は,次
のとおり,上記義務を怠った。
a(Ⅰ)について,被告国が,警察庁長官により全国的に一定水準以上
の教育・教養についての基準が策定されていることの根拠として挙げ
る以下の通達等は,いずれも到底十分なものとはいえない。
まず,戒具訓令は,戒具の制式及び使用手続に関する訓令にすぎず,
何ら教育・教養についての基準を策定しているものではない。たとえ,
戒具訓令において,厳格な制式・使用方法が定められていたとしても,
それが厳守されるための制度整備がされていなければ,被使用者の生
命・身体に対する危険を防止することはできない。
次に,「戒具の整備等について」と題する通達(平成7年2月10
日付け丁総発第31号警察庁総務課長通達)は,戒具の整備の徹底・
確認を主たる趣旨とする通達であり,戒具の使用に関する教育・教養
については,抽象的に教育訓練の徹底が記載されているにすぎない。
さらに,「看守任用教養基準の制定について」と題する通達(昭和
56年3月13日付け丁総発第58号,丁教発第56号警察庁総務課
長,同教養課長通達)は,都道府県警察に対して「看守任用教養基
準」と同基準の運用上の留意点を示したものであるが,看守任用者に,
戒具の使用方法に関する教養を受けることを義務付けておらず,教養
対象者の定めが不適切である上,戒具の使用に関する教養は,講義も
省略されわずか2時間の実習のみとされており,教養期間及び内容が
不十分であって,一定水準以上の教育・教養についての基準が定めら
れているものということはできない。
b(Ⅱ)について,警察庁長官は,戒具と同様に被使用者の生命・身体
に対して危険を及ぼすおそれのあるけん銃,特殊銃等の使用の場合と
異なり,戒具の使用に関して資格の設定や相当の訓練の実施をしてお
らず,戒具について何らの知識もない者が戒具を使用することを認め
る結果になっている。
c(Ⅲ)について,被告国は,警察庁は,「警察庁の行う監察に関する
訓令」(昭和33年7月14日付け警察庁訓令第14号)に基づき,
都道府県警察に対して,毎年度計画を立てて監察を行い,「留置場巡
回視察要綱の制定について」と題する通達(昭和59年6月1日付け
丙総発第47号警察庁官房長通達)に基づき,毎年巡回視察を行って
いたと主張するが,教育・教養の監督については,単に監察等を実施
するのみならず,その監察等の結果,都道府県警察における教育・教
養の状況を把握し,必要な指導,助言等を行うことが必要不可欠であ
るというべきである。被告国は,このような教育・教養に対する監督
が実施されていたことについて必要な立証をしていない。
d戒具の適正使用を確保するための教養を実施する義務を果たす上で,
その実際の使用状況等を調査することが必要であるが,警察庁長官は
これを怠った。
(ウ)以上のとおり,警察庁長官は,戒具の使用等に係る教育・教養義務に
違反しており,同違反には国家賠償法上の違法があるというべきである。
イ被告国
(ア)警察庁の所掌事務は,警察法17条において,「警察庁は,国家公安
委員会の管理の下に,第5条第2項各号に掲げる事務をつかさどり,及
び同条第3項の事務について国家公安委員会を補佐する。」と定められ
ているとおりであって,警察庁長官は,「国家公安委員会の管理に服し,
警察庁の庁務を統括し,所部の職員を任免し,及びその服務についてこ
れを統督し,並びに警察庁の所掌事務について,都道府県警察を指揮監
督する」(同法16条2項)ものである。
したがって,警察庁長官は,都道府県警察に属する個々の警察官や各
警察署(の長)を直接に指揮監督する権限を有しない。
また,戒具については,国家公安委員会が,その制式及び使用手続に
ついては警察庁長官に委ねているので(被疑者留置規則20条の2第2
項),これを受けて警察庁長官は,戒具訓令,戒具通達等を定め,これ
らに基づき都道府県警察の長を指導し,各警察本部の長は,これらの訓
令,通達に従うことになるのである。つまり,戒具訓令及び戒具通達は,
都道府県警察等の長を指導するためのものであって,都道府県警察に属
する個々の警察官や各警察署に対するものではない。
よって,警察庁長官は,戒具の危険性及び使用方法について,全国の
個々の警察官や各警察署に対し,適切な教育・教養を実施する義務を負
うものではない。
(イ)原告らは,警察庁長官は,戒具の使用に関し,(Ⅰ)全国的に一定水準
以上の教育・教養についての基準を策定すること,(Ⅱ)資格等を設定す
ること及び(Ⅲ)都道府県警察における教育・教養の監督を行うこと,と
の義務を負っているにもかかわらず,上記義務を怠った旨主張する。
しかし,警察庁長官は,以下のとおり,戒具の使用等について,都道
府県警察に対し,一般的基準を定め,適切な教育・教養を実施するよう
指導・監督している。
まず,警察庁長官は,戒具使用の一般的留意事項が規定された戒具訓
令を定めており,その細則・解釈指針に当たるものとして発出された戒
具通達には,戒具使用の個別的留意事項等が挙げられている。また,戒
具使用の要件,手続,方法等について,日ごろから留置担当官に教養訓
練を徹底するよう,「戒具の整備について」という通達が発出されてい
る。さらに,看守任用者に対する教養の基準について,「看守任用教養
基準の制定について」という通達が発出され,同通達は,看守任用教養
基準(効果的かつ全国的に斉一な看守任用教養を実施するとともに,都
道府県警察学校における看守任用専科の適正な管理運営を期すための基
準)の内容及び制定の趣旨,同基準の運用上の留意事項(教養対象者,
教養期間及び教養内容),実施計画の報告等について定めを置いている。
また,都道府県警察に対する監督について,警察庁は,「警察庁の行
う監察に関する訓令」と「留置場巡回視察要綱の制定について」という
通達に基づき,都道府県警察に対して,毎年度計画を立てて監察と巡回
視察を行っており,その過程で改善すべき事項を認知した場合には,そ
の都度,都道府県警察に対し書面又は口頭で改善を求めている。
(ウ)以上によれば,警察庁長官に,原告ら主張の義務違反はなく,国家賠
償法上の違法は存しない。
(3)争点(3)について
ア原告ら
(ア)注意義務の存在及び内容
自由権規約についての規約委員会による一般的意見20(44)10
及び拷問等禁止条約10条1項に照らせば,拘禁施設の管理者は,その
職員に対し,適切な訓練や教育・教養を実施する義務があり,その対象
には戒具の使用方法等も含まれるというべきである。また,最高裁昭和
47年5月25日第一小法廷判決・民集26巻4号780頁は,拘禁施
設の管理者が被拘禁者の生命・身体の安全を確保する義務を負うことを
明らかにしており,同義務には,同施設の拘禁担当者に対し,必要かつ
十分な教育をする義務も含まれると解される。そして,戒具の使用が被
使用者の生命・身体に対する重大な危険を伴うものであることにかんが
みれば,拘禁施設の管理者等は,(Ⅰ)上記教育義務の一環として,拘禁
担当者に対し,戒具の使用方法,危険性等について,教育,教養を行う
義務,(Ⅱ)戒具の使用方法,危険性等の教育のためのカリキュラムの整
備,資格制度の整備をするなどの制度設計をする義務,(Ⅲ)戒具の使用
につき教育・教養を受けていない者を宿直員として配置しない義務を負
うというべきである。
(イ)教育・教養義務の主体
和歌山県警察本部の部設置に関する条例(1条,2条18号),和歌
山県警察本部組織規則(1条,6条6号,51条)及び和歌山県留置規
程(11条1項ないし5項)によれば,被告和歌山県において前記
(Ⅰ)の教育・教養義務を負うべき主体は,和歌山県警本部の留置管理官
並びに各警察署の署長及び留置主任官である。また,警察教養規則5条
3項は,都道府県警察本部長は「教養内容に応じて,学識経験者その他
適当と認められる者による教養を行うことに留意しなければならない」
とし,同規則6条2項は,「都道府県警察の職員に対する警察教養に関
し必要な事項は,都道府県公安委員会規則で定める」と規定するので,
被告和歌山県において前記(Ⅱ)の義務を負うのは,和歌山県公安委員会
委員及び和歌山県警察本部長である。さらに,和歌山県留置規程8条2
号,10号からすれば,前記(Ⅲ)の義務を負うのは,各警察署の留置主
任官である。
(ウ)教育・教養義務等違反及び因果関係の存在
a被告和歌山県では,戒具の使用方法・危険性について,留置担当官
に対する計画的な教養が実施されておらず,教養規程についても,本
件戒具使用後の平成16年7月27日になって初めて和歌山県警察教
養規則(公安委員会規則第6号)が制定された。また,平成16年4
月20日当日の和歌山東署の留置担当官であったJ及びIは,いずれ
も,本件戒具使用に先立って,戒具の使用に関する訓練,教育等を受
けたことは一切なく,その実物を見たことさえなかった。以上のとお
り,(Ⅰ)ないし(Ⅲ)の義務違反は明らかである。
bその結果,Jらは,戒具使用の不適格者であるDに対し,防声具を
二重に装着した上で,鎮静衣をも同時に使用し,さらに,Dの身体に
布団をかぶせて,呼吸の状態等動静の監視を十分に行わず,Dが失禁
した後も漫然と戒具の装着を継続するという違法性の高い態様で本件
戒具を使用し,Dを死に至らしめたのである。
c以上によれば,和歌山県警本部の留置管理官並びに和歌山東署の署
長及び留置主任官並びに和歌山県公安委員会委員及び和歌山県警察本
部長の義務違反により,Dが死亡したというべきである。
イ被告和歌山県
(ア)注意義務の内容
拘禁施設の管理者が,拘禁担当者に対し,戒具の使用方法・危険性等
について,教育・教養を実施する義務を負うことは認める。
(イ)教育・教養義務の主体
被告和歌山県において,各警察署の留置主任官が戒具の使用について
の教育・教養義務を負い,和歌山県警本部留置管理官及び各警察署の署
長が同使用についての一般的な教育・教養義務を負うことは認める。
(ウ)教育・教養義務違反及び因果関係の存在に対して
a被告和歌山県では,和歌山県警察教養規則制定前においても,昭和
34年5月19日和歌山県警察教養規程を定め,同規程を受けた和歌
山県警察教養細則も制定しており,これらに基づき計画的な警察教養
が実施されていた。留置関係業務に係る教養は,和歌山県警本部留置
管理係が,毎年教養計画を策定した上でこれを実施しており,平成1
6年における実施状況は,別紙「平成16年警察本部留置管理関係教
養実施状況」のとおりである。
b和歌山県警本部留置管理官は,和歌山東署に対しても警察署巡回教
養を行って,戒具使用の教養を実施しており,前記教育・教養義務に
違反していない。
c和歌山東署の署長及び留置主任官が,本件戒具使用に先立って,J
及びIに対して戒具使用教養を実施していなかったことは認める。和
歌山東署においては,毎年計画的に,留置関係業務に係る教養が実施
されているが(平成16年における実施状況は,別紙「平成16年和
歌山東警察署留置管理関係教養実施状況」のとおりである。),J及
びIは,本件戒具使用に先立って,戒具の使用方法に関する教養を受
けたことはなかった。しかし,このことがDの死亡の直接の原因とな
ったわけではない。すなわち,Dは,本件戒具の使用方法の不適正に
よるのではなく,その身体に布団をかぶせられたために,Jらが体位
の移動,身体状態の異常な変化等に気付かなかったことにより,死亡
するに至ったのである。「戒具の被使用者に対して布団をかけてはい
けない」というような事項は,使用者の常識により判断されるべきこ
とであって,J及びIに対し戒具使用について教養を実施したとして
も,その教育内容とはなっていなかったものと考えられる。したがっ
て,和歌山東署の署長及び留置主任官が,J及びIに対して戒具使用
に関する教養を実施していたとしても,本件戒具使用によるDの死亡
という結果は回避できなかったというべきであるから,Dの死亡と,
同署長及び留置主任官によるJ及びIに対する戒具使用教養の未実施
との間には,相当因果関係は認められない。
(4)争点(4)について
ア原告ら
被疑者留置規則,戒具訓令,昭和46年戒具通達及び和歌山県留置規程
は,戒具の使用に当たり,警察署長の指揮を受けなければならない旨定め
ている。
本件刑事確定記録中のHの供述調書(甲1の18・64)によれば,本
件においては,Hが,本件戒具の使用に当たり,和歌山東署副署長に電話
をし,同副署長から戒具使用の許可を受け,その際,同副署長は,自分か
ら和歌山東署署長に連絡をしておく旨述べたとのことである。
上記Hの供述には何の裏付けもなく,本件戒具が和歌山東署の署長及び
副署長の指揮の下に使用されたことが真実であるかどうかは疑わしいが,
真実であるとすると,同署長及び副署長は,留置担当官であるHから戒具
使用の申入れがあった以上,具体的な事情を詳細に聴取した上で,戒具の
危険性に照らして,その使用が真に必要な場合かどうかを考慮し,使用を
許可するか否かを慎重に判断する義務を負うというべきところ,後記(6)
ア(イ)d(b)のとおり,Dは戒具使用の不適格者であったのであるから,同
署長及び副署長は,Hからの上記申入れに対し,これを不許可とする義務
を負っていたというべきである。
それにもかかわらず,和歌山東署署長及び副署長は,Dの状況について
具体的に聴取することなく,安易に戒具の使用を許可したのであるから,
上記の戒具使用不許可義務を怠ったというべきである。
イ被告和歌山県
和歌山東署の署長及び副署長が,留置担当官から戒具使用の申入れがあ
った場合,具体的な事情を詳細に聴取した上で,戒具の危険性に照らして,
その使用が真に必要な場合かどうかを考慮し,使用を許可するか否かを慎
重に判断する義務を負うことは認める。
しかし,和歌山東署の署長及び副署長による本件戒具の使用許可自体は
妥当なものであって,同人らに上記義務違反はない。
(5)争点(5)について
ア原告ら
(ア)Lについて
Lは,本件戒具使用当時,留置主任官代理として,留置担当官らに対
し,被留置者の生命・身体に対する十分な配慮の下,法令を遵守して留
置業務を遂行するよう指導・監督する義務を負っていた。
それにもかかわらず,Lは,Jらにより戒具を装着されたDの状態を
直接確認することなく,Jらに対して,後記(6)アのとおりの違法な戒
具使用の中止を指示せず,漫然とこれを放置したのであるから,上記の
指導監督義務を怠ったというべきである。
(イ)Hについて
平成16年4月20日夜の当直責任者であるHは,留置主任官の職務
を代行して留置担当官らを指揮監督する立場にあり,戒具が使用される
事態が生じた場合には,留置担当官らに対し,戒具を適切に使用するよ
う指導・監督する義務を負っていた。
それにもかかわらず,Hは,Jらによる後記(6)アのとおりの違法な
戒具使用を承認し,漫然とこれを放置したのであるから,上記の指導監
督義務を怠ったというべきである。
イ被告和歌山県
(ア)Lについて
Lは,本件戒具使用当時,留置主任官代理の立場にあったが,留置主
任官代理は,留置主任官の職務のうち,和歌山県留置規程5条の2第2
項において除外されたもの(特別要注意者及び準特別要注意者の指定,
戒具の使用指揮等)を除く職務を行う者であり,その職務は多岐にわた
るのであるから,常に現場において,留置担当官を監督する義務を負う
ものではない。
Lは,平成16年4月20日午後11時30分ころ,和歌山東署に登
庁しているが,和歌山県留置規程は,夜間,日曜日,休日等(執務時間
外)においては,当直責任者が留置主任官の職務を代行する旨定めてお
り(和歌山県留置規程7条1項),平成16年4月20日の勤務を終え
て帰宅したLには,職務を行う義務はない。それにもかかわらず,Lが
同日当庁したのは,同日午後9時50分ころ,Hから,Dに対して戒具
を使用したとの電話連絡を受け,その後,電話で,Jに対して戒具使用
に関する注意事項を指示したものの,和歌山県警本部への報告や戒具使
用に当たり留意すべき規定等がないか確認をするためであった。したが
って,職務命令を受けて当庁したのではないLには,本件戒具使用の状
況を確認する等の義務はない。
また,上記のとおり,Lは,Jに対し,戒具の使用に関する注意事項
を指示しており,JらがDに対して防声具を二重に使用し,その身体に
布団をかぶせたこと等は,全く予想していなかった。
したがって,Lは,留置主任官の職務を代行して留置担当官らを指揮
監督する義務に違反していない。
(イ)Hについて
Hが,平成16年4月20日夜の当直責任者であって,留置担当官ら
を指揮監督する立場にあり,戒具が使用される事態が生じた場合には,
留置担当官らに対し,戒具を適切に使用するよう指導・監督する義務を
負っていたことは認める。
しかし,Hは,Jから戒具使用の伺いを受け,留置場でDの状況を確
認した上で,和歌山東署副署長に戒具使用の伺いを立てた。また,Hは,
本件戒具が使用されてからは,Jらに対し,Dの監視を徹底するよう指
示した。したがって,Hは,上記の指導監督義務を怠っていない。
(6)争点(6)について
ア原告ら
(ア)Jらの行為の具体的態様
a客観的態様
(a)Jらは,平成16年4月20日午後9時30分ころ,Dの両手を
本件ベルト手錠で縛り,本件鎮静衣を着せ,さらに本件防声具をD
の口に二重に装着した上で,Dの頭から身体にかけて布団をかぶせ
た。
Jらによる上記行為により,Dは,全く身動きがとれなくなり,
苦痛を訴えることもできない状態となった。さらに,布団を全身に
かぶせられたために,外部からDの顔付近や体勢を確認することも
できない状態となった。
(b)Lは,同日午後10時30分ころ,Jに電話で,鎮静衣と防声具
を同時に使用することは禁じられている旨伝え,Jは,Iにもこの
ことを伝えたが,J及びIは,どの戒具が鎮静衣又は防声具なのか
わからなかったため,この時点では,Dから本件鎮静衣及び本件防
声具をいずれも外すことはしなかった。
(c)Dは,前記(a)のとおりの状態であったため,同日午後10時4
0分ころ,失禁した。その後始末をする際,Jらは,Dから本件鎮
静衣を脱がしたが,服を着替えさせることも,布団やシーツを交換
することもなかった。また,Jらは,その後は,本件鎮静衣を使用
する代わりに,本件ベルトをDの脛あたりで両足が固定されるよう
に装着させ,再び頭から身体にかけて布団をかぶせておいた。これ
により,Dが身動きをとることも苦痛を訴えることもできず,また,
外部からDの顔付近やDの体勢を確認することもできない状態が維
持された。
(d)Dに本件戒具を装着する際,Dが留置されていた本件6号室の同
房者(以下「本件同房者」という。)は,一時的に本件6号室から
出されることになったが,本件同房者が,J及びIに対し,戒具を
使用するところを見たいから本件6号室の斜め前にある8号室(以
下「8号室」という。)に入れてほしいとの希望を述べたところ,
J及びIは,漫然とこれに従い,本件同房者を8号室に収容した。
そして,本件戒具の装着後,本件同房者は,再び本件6号室に戻さ
れた。Jらは,本件同房者に対し,Dの様子を見て変化が有れば教
えるよう依頼した。
(e)その後,Dに対する本件戒具の使用は,同月21日午前0時50
分ころまで継続され,Dは,同使用に起因する遷延性の窒息により
死亡した。
b主観的態様(故意又は重過失)
Jらは,前記aの行為の際,(Ⅰ)Dに対して不法な有形力を行使す
ること,(Ⅱ)同行為によりDは身体を拘束され,呼吸困難に陥る可能
性があることを認識していたのであるから,同行為は,故意の不法行
為というべきである。仮に,Jらの前記aの行為が故意の不法行為に
当たらないとしても,Jらは,わずかな注意を払いさえすれば,Dの
死亡という結果発生を回避できたのであるから,Jらには重過失があ
ったというべきである。
(イ)Jらの行為の違法性
Jらの前記(ア)の行為は,以下に述べるとおり,極めて違法性の高い
行為である。
a自由権規約7条違反
前記のとおり,Jらの前記(ア)の行為により,Dは,留置場という
閉鎖された空間の中で,他の被留置者も見つめる中,身体を束縛され,
失禁し,窒息死してしまったのである。上記行為は,まさに「拷問」
であり,また,非人道的でDの品位を大きく傷つける行為であるとい
える。
したがって,上記行為は,自由権規約7条が禁止する「拷問又は残
虐な,非人道的な若しくは品位を傷つける取扱い」に該当し,違法で
あるというべきである。
b拷問等禁止条約違反
拷問等禁止条約において禁止される拷問行為とは,(Ⅰ)重い苦痛を
故意に与えること,(Ⅱ)一定の目的や動機が存在すること,(Ⅲ)公務
員その他の公的資格で行動する者が関与していることの3要件を満た
すものとされる。
Jらの前記(ア)の行為は,公務員であるJらが,Dが大声を上げる
のをやめさせるという目的の下,故意に,Dに多大な身体的・精神的
苦痛を与えるものというべきである。
したがって,上記行為は,拷問等禁止条約において禁止される拷問
行為に該当し,違法であるというべきである。
c憲法18条違反
Jらの前記(ア)の行為は,Dの人格を全く無視したものであり,も
はや自由な人格者であることと両立しない程度の身体の自由の拘束と
いえるから,憲法18条の禁止する「奴隷的拘束」に当たる。
仮に,上記行為が,「奴隷的拘束」に当たらないとしても,Dが苦
痛を訴えたり,呼吸,排便等を行うことを阻害するものであるから,
少なくとも,同条の禁止する「意に反する苦役」に当たるというべき
である。
d戒具使用自体の違法性
(a)被疑者留置規則20条及び戒具訓令3条1項によれば,鎮静衣を
使用することができるのは,留置人について,暴行又は自殺のおそ
れがある場合に限られる。
本件において,Dは,大声を上げることはあっても,暴れたりす
ることはなく,他の被留置者や留置担当官に暴行を加えるおそれは
全くなかった。また,Dに,自傷行為のおそれはあっても,自殺に
まで至るおそれはなかった。したがって,Jらの前記(ア)の行為は,
Dに対して鎮静衣を使用したこと自体が上記の規定に反し違法とい
うべきである。
(b)Dは,(Ⅰ)「チョウ」「キンイチ」「キンゼロ」等の意味不明な
奇声を発する,(Ⅱ)検察庁に押送される途中,警察車両内で,自分
のズボンにたんつばを吐き,それを食べる,(Ⅲ)取調中に,机等に
けがをするまで自分の手をたたき付ける,(Ⅳ)本件戒具を装着され
る際,大きな抵抗をせず,大声で意味不明な言葉を叫び続けるなど
といった異常な行動を,本件逮捕当初から繰り返しており,何らか
の精神疾患が疑われる状態にあった。
戒具の使用は,被使用者の身動きを完全に止めてしまうものであ
り,被使用者の生命・身体に極めて大きな危険を及ぼす。特に,防
声具は,被使用者の呼吸を困難にするおそれがあり,その使用には,
特に注意を要するものといえる。そして,精神疾患のない者であれ
ば,呼吸が困難になった際に,その旨を他人に知らせることが可能
であるが,精神疾患のある者は,必ずしも呼吸が困難であることを
他人に伝えることができるとは限らない。また,精神疾患のある者
は,特にそれが拘禁反応等によるものであった場合,戒具を使用し,
身体を拘束することによって,さらにその疾患が重篤なものになる
おそれがある。
したがって,上記のとおり精神疾患が疑われる状態にあったDは,
戒具使用の不適格者であって,いかなる理由であれ,Dに戒具を使
用すること自体が許されるべきものではない。
(c)以上によれば,前記(ア)のJらの行為は,Dに戒具を使用したこ
と自体が違法であるというべきである。
e戒具の使用方法に係る違法性
(a)戒具使用方法調査義務違反
戒具は,被使用者の生命・身体に極めて大きな危険を及ぼすもの
であるから,その使用に当たっては,使用者は,こうした危険が現
実化しないよう,使用方法に係る法令等の定めを厳守しなければな
らない。そして,これを可能とするため,使用者には,戒具訓令,
和歌山県留置規程等の戒具使用に係る定めや戒具使用の解説書を調
べるなどして,最も危険性の少ない戒具の使用方法を調査する義務
があるというべきである(戒具使用方法調査義務)。
Jら(とりわけ,JとIは平成16年4月1日に留置管理係に着
任したばかりで,戒具を使用した経験も戒具について教養を受けた
経験もなかった。)は,いずれも,戒具の使用方法を何ら調査する
ことなく漫然と本件戒具を使用したのであって,Jらの前記(ア)の
行為には,戒具使用方法調査義務違反の違法があるというべきであ
る。
(b)使用方法等の誤り
Jらの前記(ア)の行為は,(Ⅰ)鎮静衣とベルト手錠及び防声具を
併用する,(Ⅱ)Dの鼻孔,頚動脈及び頚静脈を圧迫するような態様
で防声具を装着する,(Ⅲ)防声具を二重に装着する,(Ⅳ)ベルト手
錠を裏表逆に装着する,(Ⅴ)法令に定めのないベルトを戒具として
使用する,(Ⅵ)戒具を装着され身動きのとれない敏郎の上に布団を
かぶせて頭まで覆う,(Ⅶ)戒具を使用されたDを単独で留置するこ
となく,本件同房者と同室に留置するというものであって,戒具訓
令,戒具通達及び和歌山県留置規程における戒具の使用方法に係る
定めに反し,違法である。
f戒具の使用継続に係る違法性
(a)監視義務違反
留置担当官は,被留置者の生命・身体の安全を確保する義務を負
う。そして,戒具が被使用者の生命・身体に極めて大きな危険を及
ぼすものであることに照らせば,留置担当官は,被留置者に戒具を
継続して使用する場合,その生命・身体の安全に特段の配慮をする
ことが要請され,被使用者の動静を監視する義務を負うというべき
である。それゆえ,戒具訓令,戒具通達及び和歌山県留置規程は,
戒具の使用について,対面監視等により被使用者の動静を綿密に視
察することを留意事項として定めているのである。
それにもかかわらず,Jらは,Dに布団をかぶせ,その身体の向
きや戒具の位置等を確認することができない状態を作出し,Dの動
静を監視していなかったのであるから,上記監視義務を怠ったとい
うべきである。
(b)用便の制限
Dは,本件戒具使用により身動きをとることができない状態とな
り,さらに,精神疾患又は何らかの原因により尿意を訴えることが
できなかったため,失禁した。戒具通達及び和歌山県留置規程は,
戒具の被使用者の用便を制限してはならない旨定めているから,前
記(ア)のJらの行為は,これらに違反し,違法であるというべきで
ある。
(c)違法使用の継続
前記のとおり,Jらが戒具使用の不適格者であるDに対して違法
な態様で戒具を使用したため,Dは,尿意を訴えることなく失禁す
るなど,肉体的・精神的に極限の状態にあり,戒具の使用に耐えら
れないことは明白となっていた。それにもかかわらず,Jらは,違
法な戒具使用を継続したのであるから,Dを1人の人間として扱っ
ていなかったものというべきであり,その行為の違法性は極めて大
きい。
gプライバシーの侵害
前記(ア)のとおり,Jらは,Dに対して本件戒具を装着する際,本件
同房者から戒具を使用するところを見たいと言われ,同人を本件6号
室から斜め向いの8号室に一時的に移し,その後,同人を本件6号室
に戻しているが,戒具を使用するときに同房に他の被留置者を入れる
こと自体,和歌山県留置規程55条4号に違反する。また,戒具によ
り拘束されているところを第三者に見られることは屈辱的なことであ
るから,留置担当者は被使用者のプライバシーに配慮し,その様子を
無関係な第三者から見えないように配慮すべき義務を負っているとい
うべきである。Jらが,本件同房者の興味本位の申出に応じて,8号
室に移して戒具を装着する様子を見せたほか,本件同房者にDの動静
を監視するよう依頼したことは,上記義務に違反する違法な行為であ
る。
イ被告国
原告の主張に係るJらの行為の具体的態様及び違法性については,不知
又は争う。
ウ被告和歌山県
(ア)Jらの行為の具体的態様について
a客観的態様についてはおおむね認める。
ただし,Jらは,Dに布団をかける際には,Dが呼吸できるように,
顔と布団の間にすき間を作っておき,さらに,Dの状態が監視できる
よう,頭頂部が外から見えるようにしておいた。
b主観的態様について
故意とは,結果発生の認識・認容を意味する。Jらは,本件におけ
る不法行為の結果である「Dの死」を認識・認容しつつ,本件戒具使
用に及んだわけではないから,Jらの不法行為は故意のものではない。
(イ)Jらの行為の違法性
本件戒具使用に係るJらの行為に,国家賠償法上の違法があったこと
自体は争わない。ただし,以下に述べるとおり,上記行為の違法性の内
容に係る原告らの主張の一部については争う。
a自由権規約7条違反について
争う。
b拷問等禁止条約違反について
争う。拷問等禁止条約の「拷問」につき,同条約1条は,その目的
を「本人若しくは第三者から情報若しくは自白を得ること,本人若し
くは第三者が行ったか若しくはその疑いがある行為について本人を罰
すること,本人若しくは第三者を脅迫し若しくは強要すること」と規
定している。Jらが本件戒具を使用したのは,Dの大声の発生継続を
防止するためであり,上記の目的がないから,「拷問」には当たらな
い。
c憲法18条違反について
争う。
d戒具使用自体の違法性
(a)本件戒具使用時,Dには暴行及び自殺のおそれが認められたので
あるから,Dに鎮静衣を使用したこと自体に違法はない。
(b)Dが,平成16年4月19日午前1時ころに和歌山北署に移送さ
れて以降,何らかの精神疾患が疑われる状態にあったことは認める。
しかし,被留置者が戒具の使用に耐えうるかどうかは,呼吸器系統
の疾患の有無などといった身体の健康状態から判断するものであっ
て,当該被留置者に精神疾患の疑いがあるからといって,その者に
対する戒具の使用の許否を決定する際,当然に医師の診断を受けさ
せる必要があるわけではない。本件戒具使用時には,Dに呼吸器系
統の疾患はなく,戒具の使用に耐えうるかどうかにつき医師の診断
を要するほどの身体的疾患を示す徴候はなかった。
したがって,Dは,戒具使用の不適格者ではなかったというべき
である。
(c)以上によれば,JらがDに戒具を使用したこと自体に違法はない。
e戒具の使用方法に係る違法性について
(a)戒具使用方法調査義務違反について
認める。
(b)使用方法等の誤りについて
Jらが,本件戒具使用において,戒具の使用方法等を誤ったこと
自体は認める。ただし,原告らの主張に係る使用方法等の誤りのう
ち,Dの鼻孔,頚動脈及び頚部静脈を圧迫するような態様で防声具
を装着したとの点については否認する。
f戒具の使用継続に係る違法性について
(a)監視義務違反について
J及びIは,本件戒具の装着後,本件6号室前の通路から,交代
でDに対する対面監視を行っていた。ただし,JがDの身体に布団
をかぶせてしまったために,上記監視が不十分であったことは認め
る。
(b)用便の制限について
Jらは,Dから用便の申出があれば,当然許していたのであって,
ことさらに用便を制限したわけではない。
(c)違法使用の継続について
Dは,本件戒具の装着後も,仰向けのまま身体を回転させ,大声
を上げ続けていたが,その内容は助けを求める趣旨のものではなく,
Jらは,Dが肉体的・精神的に極限の状態にあると判断することが
できなかったために本件戒具使用を継続したのであって,その行為
の違法性が極めて大きいとはいえない。
gプライバシーの侵害について
留置場内は身体の自由を拘束する場所であり,一定の制約の下にあ
ることから,戒具の装着の様子が被留置者から垣間見ることができた
としても受忍限度を超えるものではない。本件同房者を一時的に8号
室に移したのは,同人が本件6号室にいては戒具が装着できなかった
からであり,8号室にはもともと他の被留置者がいたのであるから,
本件同房者を8号室に移したからといって,Dのプライバシーを侵害
したことにならない。
(7)争点(7)について
ア原告ら(ただし,後記(ア)は,Cを除く原告らの主張である。)
(ア)Dの損害
a葬儀費用150万円
b逸失利益4835万4504円
Dは,死亡時(当時52歳),腰のヘルニアの治療のため配管業の
仕事を休職していたものの,平成16年5月には手術を受けることを
予定しており,治癒後は,従前どおり配管業に従事して稼働する予定
であった。
したがって,Dの死亡による逸失利益は,基礎年収665万490
0円(平成15年賃金センサス産業計・企業規模計・男性労働者・学
歴計・50歳∼54歳の平均年収額),生活費控除率30%,就労可
能期間15年のライプニッツ係数10.380を前提に算出するのが
妥当であって,その結果は,次のとおり,4835万4504円であ
る。
(計算式)6,654,900×(1-0.3)×10.380=48,354,504
c死亡慰謝料2800万円
本件における前記各公務員等による義務違反行為は,様々な職務上
の義務に違反して人を死に至らしめるという極めて違法性の強いもの
であり,また,Jらの前記(6)ア(ア)の行為は,故意の不法行為でもあ
る。したがって,過失による交通死亡事故等の事案と比べ,Dが受け
た精神的苦痛ははるかに大きいものであるというべきであって,これ
を慰謝するには,少なくとも2800万円の支払をもってするのが相
当である。
dプライバシー侵害による慰謝料200万円
(6)ア(イ)gのとおり,JらはDのプライバシーを侵害したので,こ
れによりDが受けた精神的苦痛を慰謝するには,少なくとも200万
円の支払をもってするのが相当である。
e以上の合計金額は,7985万4504円であるところ,A及びB
の相続分はそれぞれ2分の1ずつであるから,A及び同Bは,相続に
よりそれぞれ3992万7252円ずつの損害賠償請求権を取得した。
(イ)遺族固有の慰謝料各原告500万円
本件は,留置場内において,警察官が,被留置者に対し,故意に防声
具を二重に装着し,これにより同人を窒息死させたという前代未聞の事
件であり,社会的注目を受けたため,遺族である原告らは,マスコミ等
の対応に負われるなど特別な精神的苦痛を受けた。また,原告らは,信
頼していた警察に裏切られたのであり,その憤りや無念さは,察するに
余りあるものである。
他方,H,I及びJは,本件について,業務上過失致死罪による罰金
50万円という軽微な処分を受けたに過ぎない。また,直接の関与者で
あるJら及びHは,遺族である原告らに対して,何ら謝罪をしていない。
したがって,原告らの遺族感情はまったく慰謝されていないというべき
である。
以上のとおり,原告らは,それぞれ多大な精神的苦痛を被っており,
これを慰謝するには,各原告に対し,少なくともそれぞれ500万円の
支払をもってするのが相当である。
(ウ)弁護士費用
被告らの違法な公権力の行使と相当因果関係のある弁護士費用は,A
及び同Bにつき各700万円,Cにつき100万円を下らない。
(エ)以上によれば,被告らが連帯して各原告に支払うべき損害金の額は,
次のとおりである。
aA5192万7252円
bB5192万7252円
cC600万円
イ被告国
争う。
ウ被告和歌山県
(ア)Dの損害について
a葬儀費用について
不知。
b逸失利益について
争う。
Dは,相当以前からヘルニア等による腰痛のため就労することがで
きない状態にあり,平成16年2月に生活保護を申請し,同年4月2
1日に死亡するまで,保護を受けていた。Dの年齢や以前に一度手術
をしていることを考えれば,再手術を受けたとしてもDが就労可能な
状態にまで回復するとは考えがたく,Dは,死亡時において,将来所
得を得るだけの身体能力・労働能力を保有していなかったというべき
である。加えて,Dは,本件当時,何らかの精神疾患を発症していた
可能性があり,この点からも,就労により所得を得ることが困難な状
態にあったといえる。
また,Dは,現住建造物等放火未遂罪により現行犯人として逮捕・
勾留されていたが,Dには昭和60年に強盗等で懲役5年に処せられ
た前科があったため,上記放火未遂罪で実刑に処せられていた可能性
も否定できず,そうなった場合,収容中は就労による所得を得ること
は不可能である。
c死亡慰謝料について
金額については争う。2000万円が相当である。
Jらの不法行為が故意のものでないことは,(6)ウ(ア)bで述べたと
おりである。
dプライバシー侵害
争う。仮に,プライバシー侵害があったとしても,慰謝料を生ずる
ほどの損害は生じていない。
(イ)遺族固有の慰謝料
争う。仮に認める場合,相続人であるA及び同Bにつき各100万円
が相当である。
(ウ)弁護士費用
争う。被告和歌山県は,損害賠償義務の存在自体は争っていない。
第3当裁判所の判断
1被告国の責任について
(1)争点(1)について
ア原告らは,防声具及び鎮静衣の使用を認める被疑者留置規則20条の2
第1項は,憲法及び条約に違反するものであり,これを廃止する等の措置
を執らない国家公安委員会の不作為は違法である旨主張する。
(ア)憲法18条及び36条違反について
未決勾留は,刑事訴訟法の規定に基づき,逃走又は罪証隠滅の防止を
目的として,被疑者又は被告人の居住を留置施設内に限定するものであ
るところ,留置施設内においては,多数の被留置者を収容し,これを集
団として管理するにあたり,その内部における規律及び秩序を維持し,
正常な状態を保持するよう配慮する必要がある。このためには,被留置
者の身体の自由を拘束するだけではなく,上記目的に照らし,必要な限
度において,被留置者のその他の自由に対し,合理的制限を加えること
もやむを得ないところである。そして,この制限が必要かつ合理的なも
のであるかどうかは,制限の必要性の程度と制限される自由の内容,こ
れに加えられる具体的制限の態様及び程度との衡量のうえに立って決せ
られるべきものというべきである(最高裁昭和40年(オ)第1425号同
45年9月16日大法廷判決・民集24巻10号1410頁,同昭和5
2年(オ)第927号同58年6月22日大法廷判決・民集37巻5号79
3頁参照)。
第2の2(1)ウ,カに記載した防声具及び鎮静衣の制式及び実際の構造
・形状からすれば,防声具は,被使用者の口及び上下のあごを完全にふ
さぎ,口部を固定させるというものであり,呼吸が困難になるおそれや
頸動脈及び頸静脈をベルト等が圧迫するおそれがあり,その使用により,
被使用者に相当の身体的苦痛・心理的圧迫を与えるものであると解され
る。また,鎮静衣は,被使用者の身体を寝袋状の本体で包み込み,さら
にベルトで拘束するというもので,その使用により,被使用者は,手足
を自由に動かすことや起き上がることができなくなるから,やはり相当
の身体的苦痛・心理的圧迫を与えるものと解されるのであり,これらの
使用方法如何によっては,被使用者の生命・身体に大きな危険を及ぼす
可能性があることは否定できない。
しかし,被留置者が制止をきかず大声を発する場合や,被留置者に暴
行又は自殺のおそれのある場合に,留置施設内の規律及び秩序の維持の
ために,必要最小限度の範囲で,被使用者の発声を防ぎ,あるいは身体
を拘束することはやむを得ないところというべきであり,防声具及び鎮
静衣の有する前記の危険性にかんがみて,被使用者の生命・身体に対す
る危険を避けるために必要な留意事項が定められ,使用者がこれを遵守
することが義務付けられている限りにおいて,これらを使用することは
許容されると解するべきである。そして,被疑者留置規則20条の2第
2項に基づき制定された戒具訓令及びその運用上の留意点を明らかにし
た戒具通達は,防声具の使用を被留置者が制止をきかず大声を発する場
合のみに限定し,また,鎮静衣の使用を被留置者に暴行又は自殺のおそ
れのある場合のみに限定した上で,前記第2の2(1)ウ,エに記載したよ
うに,使用者は,被使用者が使用に耐えうるか否かを慎重に判断し,必
要があると認めるときは被使用者に医師の診断を受けさせなければなら
ない,使用に際しては警察署長等の指揮を受けなければならない,使用
時間は3時間以内にとどめ延長する場合も6時間を超えてはならない,
鎮静衣と防声具を同時に使用しない等の定めを置いて,使用目的・使用
条件を限定した上で,使用中は,被使用者に対面監視等を行いその動静
に注意し,被使用者に,防声具の使用により呼吸障害が生じていないか,
鎮静衣の使用により胸部圧迫による呼吸困難が生じていないかを注意す
るなど,被使用者の生命・身体の安全に対する危険を避けるための留意
事項を定めており,使用者に対して,これらの規定に従うことを義務付
けているものと解される(国家公務員法98条1項,地方公務員法32
条)。
防声具及び鎮静衣の使用は,これらの規定を遵守し,必要最小限度の
使用にとどまる限り,留置施設内の規律及び秩序の維持のため必要かつ
合理的な範囲内において被使用者の発声及び身体の自由を制限するもの
であるというべきである。したがって,戒具として防声具及び鎮静衣を
定めた被疑者留置規則20条の2第1項が憲法18条又は36条に違反
するということはできない。
なお,原告らは,平成11年法務省通達により,刑務所及び拘置所で
は鎮静衣及び防声具のいずれも使用しないこととされていることと比較
して,国家公安委員会が被疑者留置規則20条の2第1項を改廃しない
ことを非難するが,刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律
(平成17年法律第50号)78条2項は,被収容者が自身を傷つける
おそれがある場合において,他にこれを防止する手段がないときは,刑
事施設の長の命令により,拘束衣を使用することができると規定してい
るところ,拘束衣は鎮静衣と同様の戒具であるから,刑務所及び拘置所
についても鎮静衣に相当する戒具の規定が存在することになるので,原
告らの非難は当を得ない。また,刑務所及び拘置所において防声具の使
用が認められないのは,これらの施設では,制止をきかず大声を出す被
収容者を隔離できる保護室が整備されているからであると解され,留置
保護室の整備が十分ではない留置施設において同一に解することはでき
ない。しかし,前述した防声具の危険性にかんがみれば,留置保護室の
整備された留置施設では防声具を使用すべきではないし,将来的には,
速やかにすべての留置施設に留置保護室を整備し,防声具の使用を認め
ないこととすることが望ましいというべきである。
(イ)自由権規約7条及び拷問等禁止条約違反について
(ア)で説示したとおり,防声具及び鎮静衣の使用は,戒具訓令及び戒具
通達の各規定を遵守したものである限り,留置施設内の規律及び秩序の
維持のため必要かつ合理的な範囲内において被使用者の身体の自由等を
制限するものであるというべきであるから,拷問又は残虐な,非人道的
な,若しくは品位を傷つける取扱い若しくは刑罰には当たらないという
べきである。
したがって,被疑者留置規則20条の2第1項が,自由権規約7条又
は拷問等禁止条約に違反するということはできない。
イ以上によれば,国家公安委員会につき不作為の違法がある旨の原告らの
主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
(2)争点(2)について
ア警察教養について,警察法は,警察教養に関する事項は国家公安委員会
が統轄し(同法5条1項),警察教養に関する事務について警察庁を管理
し(同法5条2項15号),警察庁は,国家公安委員会の管理の下に警察
教養に関する事務をつかさどる(同法17条)としている。また,警察庁
長官は,国家公安委員会の管理に服し,警察庁の庁務を統括し,警察庁の
所掌事務について,都道府県警察を指揮監督すると定めている(同法16
条2項)。
そして,国家公安委員会が定めた警察教養規則は,警察庁長官は,警察
を取り巻く諸情勢の変化を踏まえ,警察教養の重点を示すものとし(5条
1項),警察庁長官,警察庁の各付属機関及び地方機関の長,警視総監並
びに道府県警察本部長は,警察庁長官により示された警察教養の重点に関
する事項について,計画的に警察教養を実施しなければならないとし(同
条2項),同規則に定めるもののほか,警察教養制度に関し必要な事項は,
警察庁長官が定めるとし(6条1項),そのほか,都道府県警察の職員に
対する警察教養に関し必要な事項は,都道府県公安委員会規則で定めるこ
ととしている(同条2項)。
また,警察法36条2項は,都道府県警察は,その管轄区域について同
法2条の警察の責務に任ずると規定しており,同法においては,警察職務
の執行は,基本的には都道府県警察の権限に属するとされている。
これらの規定によれば,警察教養は,基本的には都道府県警察の行うべ
き警察職務であるが,全国的に均質な警察活動の遂行を実現するためには
警察教養の水準の統一的な維持向上が必要であるとの見地から,中央機関
である国家公安委員会が,警察庁を通じて,都道府県警察に対し,警察教
養について一定の統制を及ぼすべきものというべきである。したがって,
警察庁の長である警察庁長官は,都道府県警察に属する個々の警察官又は
各警察署に対し,直接,教育・教養を実施する職務上の義務を負うもので
はないが,警察教養の水準の統一的な維持向上を実現するため,警察教養
についての基準を策定し,都道府県警察がこれを実施するよう指揮監督す
る職務上の義務を負うというべきである。
イ警察庁長官による基準の策定と都道府県警察に対する指揮監督
(ア)証拠(甲1の90,丙1ないし4)によれば,警察庁長官ないし警察
庁は次の基準を定めていることが認められ,この認定に反する証拠はな
い。
a戒具訓令及び戒具通達
警察庁長官は,留置場において使用する戒具の制式及び使用手続に
つき戒具訓令を定め,戒具の使用上の留意事項について戒具通達を定
めて,都道府県警察等に対し,戒具の使用目的・使用条件,使用上の
留意事項等を示している(その具体的内容は,第2の2(1)ウ及びエで
述べたとおりである。)。
b「戒具の整備等について」と題する通達(平成7年2月10日付け
丁総発第31号警察庁総務課長通達)
同通達は,都道府県警察に対する留意条項として,留置担当者に対
し,日ごろから,戒具使用の要件,手続,方法等について教養訓練を
徹底しておくこと等を指示している。
c「看守任用教養基準の制定について」と題する通達(昭和56年3
月13日付け丁総発第58号,丁教発第56号警察庁総務課長,同教
養課長通達)
同通達は,効果的かつ全国的に斉一な看守任用教養を実施するため,
新たに看守に任用される予定の者又は任用教養を受けないで看守に任
用された者を教養の対象とし,看守として必要な留置人の処遇,勤務
要領,事故防止等に関する基礎的な知識,技術の習得を図ることを教
養の目的とする看守任用教養基準を定め,都道府県警察に対し,同基
準の内容及び制定の趣旨を示し,他の学校教養の課程との調整を図り
つつ,可能な限り同基準に従った看守任用教養を実施するよう特段の
配慮をすること等を指示するものである。
上記基準においては,留置業務一般,被収容者の処遇,看守(護
送)勤務等が教授要目とされ,教養時間は講義及び実習併せて88時
間とそれぞれ定められている。その中には,被疑者留置規則,警察庁
通達,都道府県警察の訓令等を含む留置業務関係法令の講義4時間及
び戒具の使用基準・使用方法につき実習2時間が含まれている。また,
教養内容については,看守任用教養基準の内容に沿って,各府県の特
色を加味した指導案を作成するなど効果的な教養に努めることとされ
ている。
(イ)証拠(丙5ないし7)及び弁論の全趣旨によれば,警察庁の都道府県
警察の教育・教養に関する監督について次の事実が認められる。
a警察庁は,「警察庁の行う監察に関する訓令」(昭和33年7月1
4日付け警察庁訓令第14号。最終改正は,平成12年警察庁訓令第
4号(平成12年4月1日施行)によるもの)に基づき,毎年度,監
察計画を作成した上で都道府県警察に対して監察を行っていた。同訓
令によれば,監察の実施状況は,監察責任者から警察庁長官に報告さ
れ,同長官は,各報告の内容をとりまとめ,国家公安委員会に報告す
ることとされ,監察責任者は,監査の結果に基づき,業務の改善等必
要な事項を監察対象部署の長に指示することとされている。
b警察庁は,留置場の適正な管理運営を確保しつつ,留置人に対する
処遇の斉一を図るため,「留置場巡回視察要綱の制定について」と題
する通達(昭和59年6月1日付け丙総発第47号警察庁官房長通
達)に基づいて,毎年度,警察庁及び管区警察局の視察担当官による
都道府県警察の留置場の巡回視察を行っていた。視察事項の中には,
留置場の管理運営に関する教養の実施状況も含まれている。視察の結
果は,視察担当官から警察庁長官官房長に報告することとされていた。
caの訓令に基づき,警察庁が平成15年6月2日及び3日に和歌山
県警本部及び和歌山県和歌山西警察署に対して行った監察における実
施項目中には,「留置管理業務の適正な実施」があり,同署における
戒具の使用訓練の実施状況についても監察の対象とされていた。また,
警察庁は,上記監察の結果を,「和歌山県警察に対する総合・随時監
察の実施結果について」と題する文書(丙7)によって和歌山県警本
部に通知しており,その中には,監察により判明した改善点の指摘等
も含まれていた。
ウ上記認定のとおり,警察庁は,戒具訓令,戒具通達によって,都道府県
警察等に対し,戒具の使用目的,使用条件,使用上の留意事項等を示し,
前記イ(ア)bの通達により都道府県警察に対し,留置担当者に対する教養訓
練の徹底を指示し,また,イ(ア)cのとおり,新たに看守に任用される者に
対しても,戒具の使用基準,使用方法につき教養を実施するよう指示して
いるのであるから,戒具の使用に関する教養水準の統一的な維持向上を実
現するための基準を策定し,都道府県警察がこれを実施するよう指揮して
いたことが認められる。
また,前記イ(イ)のとおり,警察庁長官ないし警察庁は,毎年度,監察計
画を作成し,これに従って都道府県警察に対する監察を実施しており,こ
れらの監察の対象には,都道府県警察における戒具の使用訓練の実施状況
も含まれていたのであって,また,警察庁は,視察担当官を派遣し,都道
府県警察について留置場の巡回視察を行っており,その視察事項には,留
置場の管理運営に関する教養の実施状況も含まれているのであるから,都
道府県警察による教養の実施状況につき必要な監督が行われていたものと
いうべきである。
これに対し,原告らは,警察庁長官ないし警察庁が定めた基準は,看守
任用の際の戒具に関する教養時間が短いなど内容が十分ではないし,戒具
使用について資格の設定もない,都道府県警察の教養の実施状況に関し監
督が行われていないし,戒具の使用状況も調査されていないと主張する。
しかし,戒具の適正使用を確保するために必要な教養の程度,戒具使用
についての資格設定の要否といった事項に対する判断は,警察運営に関す
る専門的・技術的知識が必要とされるものであって,警察庁の専門的な裁
量が認められるものというべきである。そして,前記認定の基準は,戒具
使用に関する教養の一般的な基準を定める上で合理性を欠いているとはい
えないから,原告らの前記主張は理由がない。また,都道府県警察の教養
の実施状況について警察庁長官の監督が行われていることは前記認定のと
おりであるし,毎年度,監察や留置場の巡回視察が実施され,巡回視察に
おいては,留置人の処遇の状況,留置場の管理運営の状況等が視察事項と
されていることからすれば,警察庁長官は戒具の使用状況についても調査
を行っているものと推認される。したがって,原告らの前記主張は理由が
ない。
以上のとおり,警察庁長官に,戒具の使用方法等の教養に関し,前記ア
の義務違反があったということはできない。
(3)よって,被告国に,原告らに対する国家賠償法に基づく損害賠償責任があ
るということはできない。
2被告和歌山県の責任について(争点(3)ないし(6)について)
(1)前記前提事実,証拠(甲1の1・2・4ないし18・20・21・24・
27ないし35・37ないし68・70ないし88・92,甲27,乙6,
証人J,同I)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められ,この
認定を左右するに足りる証拠はない。
ア逮捕後のDの言動等
(ア)Dは,平成16年4月18日午後11時10分ころ,居酒屋ののれん
に火を付けたとの被疑事実で,現住建造物等放火未遂罪の現行犯人とし
て逮捕された後,和歌山東署に連行された。和歌山東署に向かう捜査用
車両の中での事情聴取の際,Dは,放火をした理由は何かとの質問に対
して「全部燃えたらええんや」と答えるなど,問いに対する回答と理解
することができる発言をほとんどせず,また,同車両が高速道路を走行
していなかったにもかかわらず,「ここは高速か」などと述べた。本件
逮捕時,Dは,12万4000円の現金,外国人登録証明書,キャッシ
ュカード,携帯電話等を所持していた。
(イ)Dは,和歌山東署において弁解を録取される際,当初は突然大声を出
すなど興奮した様子であったが,しばらくすると落ち着き始め,「腹が
立ったので火を付けた」などと供述した。Dの態度から,Dが飲酒して
いることが疑われたため,飲酒検知が実施されたが,その結果は,Dは
飲酒をしていないというものであった。飲酒検知終了後,Dは再び興奮
し始め,手を振り上げて殴りかかるような姿勢をしたり,取調官の頭を
左腕で抱え込んだりしたため,和歌山東署の警察官数名に取り押さえら
れて床に組み伏せられたりしたが,その後は,暴れ出すことはなかった。
このころ,和歌山東署の留置場の房には空きがなかったため,Dは,同
月19日午前1時30分ころ,和歌山北署に押送され,同署に委託留置
されることとなった。
Dは,和歌山北署の留置場に入場した後,身体検査等を受けたが,そ
の際,大声で叫ぶなどしていた。その後,Dは,上記留置場の中で唯一
防音効果のあるガラス戸が設置された6号室(以下「北署の6号室」と
いう。)に留置されたが,そこでも大声で叫び続けたり,うめき声を上
げたりした。Dの声は留置場内に響き渡っており,他の房の被留置者の
中には,眠ることができず,留置担当官に苦情を述べる者もいた。Dの
叫び声の内容は,「ギャク」「ドロップ」「ハニー」「アンド」「帰
れ」等の単語を繰り返すというものであった。また,Dは,時折,北署
の6号室の壁や鉄格子を殴る,蹴るなどしていた。
Dは,同日の起床時間(午前7時25分)以降も,時折大声でわめく
などしており,午前10時ころからは,「ギャク」「ハイ」「間違いな
い」「アンド」「たちつてと」「キュー」等の単語を繰り返し大声で叫
び,留置担当官に注意されるといったんは叫ぶのをやめるものの,また
しばらくすると叫び始めるという状態であった。また,Dは,朝食のパ
ンを北署の6号室内の便器のそばに捨てるなどしていた。
Dは,同日の午前中に和歌山北署において取調べを受けたが,その際,
「チョウ,チョウ,チョウ」と叫んだり,天井や壁を見つめて,「あの
世が見える」「何も聞こえない」と繰り返し小声でしゃべったりしてお
り,取調官の質問に答えることはなかった。加えて,Dは,指の先を机
の上の端の部分にたたき付ける,右手首を机の角にたたき付けるといっ
た自損行為をしており,そのため,Dの指先は血がにじんだ状態であっ
た。
Dは,同日の午後にも和歌山北署において取調べを受けたが,その際
にも,「人を殺した」「虐殺した」といった言葉を繰り返し述べ,取調
官の質問に答える態度を見せなかった。しかし,取調官が,Dに対して,
精神病の振りをするのを止めるよう注意したところ,Dは,「分かりま
した」などと言い,自らの身上・経歴について説明を始めたものの,自
己の犯歴に質問が及ぶと再び質問に答えなくなった。そのため,この取
調べは同日午後3時ころに中止され,Dは,北署の6号室に戻されたが,
このころは,ほとんど大声を出さない状態であった。その後,Dは,夕
食の際,正座をし,身体を前につんのめるような姿勢でおかずのみを食
べていた。
Dは,同月20日午前零時ころ,再び,従前と同じような単語を繰り
返し大声で叫び始め,このときは,留置担当官に注意されても叫ぶのを
やめることはなかった。北署の6号室のガラス戸は閉じられていたが,
Dの声は,留置場内に響き渡っていた。
(ウ)他の留置者や和歌山北署の警察官の中には,同署での上記のとおりの
Dの言動から,Dが精神疾患にり患しているのではないかとの疑いを持
つ者もいた。
イ検察官送致,勾留質問等におけるDの言動等
Dは,同日午後1時15分ころ,検察官送致のため,北署の6号室から
退室することになり,その際,留置担当官から被留置者金品出納簿に署名
押印するよう求められたが,「キュー」「名前,名前」などと大声で叫び,
署名押印をすることはなかった。また,Dは,和歌山北署の留置場から退
場する際には,Tシャツの上にランニングを着用し,大声でわめくなどし
た。
Dは,和歌山地検に向かう捜査用車両の中で,「カッコ」「プラス」
「マイナス」「チョウ」等の単語を大声で叫ぶ,たんつばを自分のズボン
に吐きかけ,そのズボンに付着したたんつばを食べるなどしていた。
和歌山地検に到着後,Dは,検察官による弁解録取が始まるのを待って
いる間,たんつばを吐いてそれを手の中でこねくり回す,手の甲にある傷
をなめたり噛んだりする,その傷から出る血液を自分の顔に付けるなどし
ていた。また,Dは,送致を担当する警察官に対し,「殺すぞ」などと言
いつつ,他方では,「すみません」と謝ることもあった。
和歌山地検検察官は,Dに対する弁解録取を行ったが,その際,Dは,
被疑事実については黙秘し,弁解録取書兼供述調書に対する署名指印を拒
否した。その後,和歌山地検検察官は,和歌山地裁に対し,Dの勾留を請
求し,本件勾留質問が実施された。Dは,本件勾留質問の際,「プラス,
カッコ,プラス」などの言葉を繰り返し叫び,人定質問に対して回答せず,
被疑事実については黙秘し,勾留質問調書に対する署名指印を拒否した。
和歌山地裁裁判官は,勾留場所を和歌山東署としてDを勾留する裁判を
した。
ウ本件戒具使用に至る経緯
(ア)和歌山東署の留置場の房に1名分の空きができたため,Dは,和歌山
東署に押送され,同日午後6時過ぎころ同署に到着した。その際,Dは,
和歌山東署の駐車場において大声で叫び,これを聞いた同署署長は,L
に対し,Dを準特別要注意者(異常な言動等から,その動静に注意し,
事故防止上必要な措置を講じるべき対象者をいう。)に指定するよう指
示した。
当時和歌山東署の留置担当官であったJ及びIは,Hの立会いの下,
Dの身体検査,所持品検査,写真撮影等を行ったが,その際,Dは,
「サラニ」「キン」「サラニゼロ」「ギャクヤ」「サラニワン」「マイ
ナス」「タダシ」等の単語を大声で叫ぶのみで,既往症等の問診に対し
て,全く答えようとはしなかった。また,Dは,被留置者金品出納簿の
署名押印にも応じようとしなかったため,同日夜の当直責任者である立
会人のHが署名押印した。Dは,写真撮影の際には,撮影者に対して挑
みかかるような表情をすることがあった。Jは,Dに精神疾患があるの
ではないかと疑い,取調べ担当のM係長に対し,Dが精神異常かどうか
確認したところ,Mは,「勾留状が出ているので,芝居をしているので
はないか」との趣旨の応答をした。
Dは,遅くとも同日午後7時15分ころには,準特別要注意者に指定
された。
(イ)Dは,同日午後6時40分ころ,本件6号室に留置されたが,その後
しばらくして,「キンオールゼロ」「サラニゼロ」「サラニキン」「キ
ンイチ」「キンゼロ」「ホウガク」「ただし」「ギャク」「間違いな
い」等の単語を繰り返し大声で叫び始めた。J及びIは,Dに対し,静
かにするよう注意をしたが,Dはこれを全く聞き入れなかった。また,
Dは,本件6号室において,(Ⅰ)叫び声を上げる際,正座をしながら土
下座するように自分の額を床につける姿勢を取る,(Ⅱ)室内に入れられ
た布団をくしゃくしゃに丸め込んだり,上下に振ったり,持ち上げて床
に投げつける,(Ⅲ)自分の着ていたTシャツを引っ張り上げて頭にかぶ
り,しばらくして頭から外すといった動作をするなどしており,洗面時
間(午後7時30分から午後8時までの間)にも房の外に出ることはな
かった。
Dは,従前から本件6号室に留置されていた本件同房者から静かにす
るように言われた際,しばらく声を上げるのをやめることもあり,また,
被留置者の一人が,洗面時間に房の外に出た際,Dに対して「静かにせ
え」と言いつつ本件6号室の鉄格子を蹴ったのに対し,「ちゃうねん,
ちゃうねん」と受け答えをすることもあったが,基本的には,他の被留
置者や留置担当官の呼び掛け等に対し,通常の受け答えをすることはな
かった。
洗面時間中,JとHとは,Dがこのまま叫び続けるようなら,Dに対
して戒具を使用する可能性がある旨の話をし,Kは,Jに対し,留置場
に備え付けられていた戒具の使用に関する解説書の中の,戒具の使用方
法等が記載された部分を見せたが,Jが同部分を読むことはなかった
(同留置場には,留置業務ガイダンス,留置業務関係質疑応答集等が備
え付けられていたが,KがJに見せた解説書がそのうちのどれに当たる
かは明らかではない。)。
Dは,同日午後9時の消灯時間以降も大声を出し続けていたため,他
の被留置者の中には,怒り出す者や,留置担当官であるI及びJに対し
て大声で苦情を言い,何らかの対応を要請する者もいた。また,他の被
留置者の中には,Dが何らかの精神疾患にり患しているか,または,薬
物中毒ではないかとの疑いを持つ者もいた。
和歌山東署の留置場は男性房8室,女性房2室であり,1室2名の定
員で,同日は満員の状態であった。女性房は男性房から扉を隔てた場所
にあったが,女性房にもDの大声が聞こえていた。
Jは,Dが大声を出し続けるのを放置すれば,他の被留置者が騒ぎ出
すなど留置場全体の平穏が害されることになると考え,同日午後9時2
0分ころ,Hに対し,Dに対して戒具を使用することの了承を求めた。
Hは,これを了承し,Jに対し,和歌山東署署長の許可は自分が取って
おく旨述べ,電話で同副署長に対し,Dが留置場内において大声で叫び
続けており,そのために他の被留置者が罵声を上げるなどし,留置場内
の雰囲気が悪くなっているとの説明をした上で,Dに対する戒具使用の
伺いを立てた。和歌山東署副署長は,Dに対する戒具の使用を許可し,
同署長の許可は自分が取っておく旨述べた。和歌山東署署長は,同副署
長からの戒具使用伺いを受け,Dに対する戒具の使用を許可した。
エ本件戒具使用の状況
(ア)Jらは,同日午後9時30分ころ,Dに戒具を装着するため,本件6
号室に入り,本件同房者を本件6号室から別の房に移すことにした。そ
の際,本件同房者が,戒具を使用するところを見たいから本件6号室の
斜め前にある8号室に入れてほしいとの要望を述べたところ,Jらはこ
の要望を聞き入れ,本件同房者を8号室に移した。その後,Jらは,ま
ず始めに,Dに本件ベルト手錠を装着したが,その際,本件ベルト手錠
は,本来であれば外側になるべき輪の部分が内側(被使用者の身体側)
になるような形で装着された。次に,Jらは,Dに本件旧型防声具を装
着したが,そのマスク部分とDの口元の間にすき間ができていたため,
装着後も,周囲に聞こえるDの声の大きさは,あまり変わらなかった。
さらに,Jらは,Dに本件鎮静衣を装着し,Dを,足を房の入口の方に
向けた姿勢で寝かせた。Dは,上記のとおりに戒具を装着される間,足
をばたつかせるなど多少の抵抗をしたが,大きな抵抗の態度は示さなか
った。
Jは,本件旧型防声具装着後も,周囲に聞こえるDの声の大きさがあ
まり変わらなかったため,Dの頭部も含む身体全体を覆うように掛け布
団をかぶせた。
Hは,Dに対して戒具を装着している状況を,本件6号室のすぐ前の
あたりの位置で見ており,Jに対し,Dにかぶせた布団の中に空気が通
るようにしておくよう指示し,Jは,同布団を少し持ち上げて,Dの顔
との間にすき間を作っておき,Dの頭頂部が外部から見えるようにして
おいた。
Dに戒具を装着する際,本件6号室の扉は開いたままとなっており,
本件同房者及び8号室の被留置者はその様子を見ていた。
Jらは,Dに対する戒具の装着を終えた後,本件同房者を本件6号室
に戻したが,その際,Jは,本件同房者に対し,Dの様子を時々確認す
るよう頼んだ。
(イ)Dは,戒具を装着されてからも,従前と同様の意味不明な言葉を叫び
続け,さらに,仰向けになったまま両足のかかとを床に打ちつけてドン
ドンと踏みならしたり,体を左右に回転させたりしていたので,Jら及
びHは,本件6号室の前で,Dの様子をしばらく監視することにした。
(ウ)Dに戒具が装着されてから約10分後,本件旧型防声具がDの口元か
らあごの方にずれてきており,本件同房者からそのことを告げられたJ
及びIは,本件6号室に入って,本件旧型防声具をDの口の位置に戻し
た。そして,Jは,本件旧型防声具装着後も,周囲に聞こえるDの声の
大きさがあまり変わらなかったため,本件旧型防声具の上に重ねて,本
件新型防声具を装着した。本件防声具を二重に装着したことにより,周
囲の者に聞こえるDの声の大きさはやや小さくなったが,それでも留置
場全体に響き渡る状態であった。そのため,Jは,再び,Dの頭部を含
む身体全体を覆うように掛け布団をかぶせた。その際,Jは,最初にD
に布団をかぶせたときと同様,上記布団を少し持ち上げて,Dの顔との
間にすき間を作っておき,Dの頭頂部が外部から見えるようにしておい
た。
Hは,本件6号室の入口のすぐ前辺りで,Jが本件旧型防声具の上に
重ねて,本件新型防声具を装着し,さらに,Dに布団をかぶせる様子を
見ていたが,これらを制止することはせず,Jに対し,同布団の中に空
気が通るようにしておくよう指示した。また,Hは,勤務を終え帰宅し
ていたL及び和歌山東署副署長に電話で,Dに戒具を使用したことを報
告したが,具体的にどの戒具を使用したかについての説明はしなかった。
和歌山東署副署長は,Hに対し,十分にDの動静を監視すること,戒具
の使用は2時間以内とされている点に留意することを指示した。
その後,留置担当官でないH及びKは,留置場から退場したが,その
際,Hは,J及びIに対し,和歌山東署副署長からの上記指示内容を伝
え,Dの動静監視を徹底することを指示したが,Dにかぶせた布団を取
るようにとの指示はしなかった。
(エ)H及びKが留置場から退場した後,J及びIは,Dに対する対面監視
を開始したが,その具体的な方法は,本件6号室の入口の前に折り畳み
式のパイプいすを置き,J及びIが交替でいすに座り,Dの動静を見守
るというものであった。その際,本件新型防声具のヘッドカバーは布団
の外に露出していたため,J及びIは,Dが体勢を変えていたことを認
識することはできたが,具体的にどのような体勢をとっているかを明確
に把握することはできず,また,Dの表情や顔色,本件防声具のマスク
部分の状態を認識することはできなかった。このころも,Dは,大声で
叫び続け,足をばたばたさせて壁を蹴ったり,体を左右に回転させたり
していた。
(オ)和歌山東署副署長は,同日午後9時55分ころ,電話でIに対し,戒
具使用は2時間が限度であり,それ以上の使用にはその都度更新の許可
が必要である点に留意すること,Dに対する対面監視を徹底することを
指示した。
(カ)Lは,同日午後10時30分ころ,留置場に電話をし,Jに対し,鎮
静衣と防声具を同時に使用してはならないことを伝え,Dに対する対面
監視を徹底するよう指示した。Jは,本件戒具のうちのどれが防声具又
は鎮静衣に当たるかを理解していなかったため,この時点では,Dの身
体から本件防声具又は鎮静衣を外すことはしなかった。また,上記指示
があったことをJから聞いたIは,鎮静衣とベルト手錠は一体として使
用するものであると誤解していたため,鎮静衣を外せばベルト手錠をも
外すことになり,そうすると,Dは自由になった両手で防声具を外して
しまうことなるので,上記指示は不可解なものであると考え,これに従
うことはなかった。
(キ)Dは,同日午後10時40分ころ,本件戒具を装着されたまま,用便
の申出をすることもなく失禁した。本件同房者からそのことを伝えられ
たJらは,本件6号室に入り,Dにかぶせてあった布団を取り,本件鎮
静衣及び本件ベルト手錠を外し,小便の後始末をした。
(ク)その後,Jらは,Dに対し,本件ベルト手錠を本来あるべき向きに装
着し直した。また,Jらは,Dに本件鎮静衣を再び装着することはしな
かったが,Dが足を上下に動かして繰り返し床に打ち付けるのを止める
ため,合成樹脂製の本件ベルトをDの脛あたりで両足が固定されるよう
に装着し,Dを,頭を房の入口の方に向けた姿勢で寝かせた。Jらが本
件ベルトを装着する際,Dは,全く抵抗しなかった。
Jは,Dの頭から上半身全体にかけて掛け布団をかぶせ,下半身に敷
き布団をかぶせた。
(ケ)J及びHからDに対する戒具使用の延長許可の伺いを立てるよう依頼
されていたN(同日夜における一般当直担当官。)は,同日午後11時
15分ころ,和歌山東署副署長に対し,Dが大声で叫び続けている状況
が依然として続いている旨報告し,上記延長許可の伺いを立てた。和歌
山東署副署長は,これを許可するとともに,Dに対する動静監視を徹底
することを指示し,Nは,Jに対し,この指示を伝えた。
(コ)Lは,同日午後11時30分ころ,和歌山東署に登庁し,J及びIに,
Dに対する対面監視及び動静注視を徹底するよう指示した。
(サ)同月21日零時30分ころになると,Dは,大声を出さなくなり,寝
息を立てるときのような「スー」という呼吸音と,鼻からいびきのよう
な「ガーガー」「ゴー」といった音を発するとともに,時折「ウェウ
ェ」といった声を出すようになった。
Dが大声を出さなくなったため,Jは,Hに対し,Dに対する戒具使
用の解除の伺いを立て,Dから戒具が外されることになった。同日午前
零時50分ころ,上記伺いを立てに行っていたJが,H及びKとともに
留置場に入場し,J及びIは,本件6号室に入り,Dにかぶせられてい
た布団を取り,本件新型防声具を外した。Dは,頭を入口の方に向け,
体の右側を下にして横たわっており,本件旧型防声具のマスクは,あご
の方にずれている状態であった。このとき,Dが息をしていない状態で
あったため,Hの指示の下,JがDに心臓マッサージをし,Kは,留置
場の電話で,一般当直担当官に救急車を呼ぶよう依頼した。
オDの死亡
Dは,長時間にわたり防声具を二重に付けられた上,布団を上からか
ぶせられ,胸部を圧迫するうつ伏せ寝の体勢により,呼吸困難な状態等が
継続したため,平成16年4月21日午前1時25分ころまでに,遷延性
の窒息により死亡した。Dの司法解剖の際,その前頸部に,防声具のマス
ク部分による圧迫痕が認められた。
カ本件戒具使用当時におけるJらの戒具に関する知識等
(ア)Jは,平成16年4月1日付けの人事異動により,和歌山東署の留置
管理係に配属された。Jは,これより前に留置管理係で勤務した経験は
なく,同係に配属された際に,留置場内の設備,留置管理係員としての
業務内容及び心構え,被留置者の取扱い等についての教養を受け,和歌
山東署における戒具の保管場所についての説明は受けたが,同教養には,
戒具の使用に関する事項は含まれていなかった。加えて,Jは,留置管
理係に配属される前に,戒具の使用に関する教養を含む看守任用専科を
受講していなかったため,実際に戒具を目にしたことはなく,その使用
方法を知らなかった。また,同月16日に和歌山県警本部の留置管理官
による巡回教養が実施され,同教養には戒具使用に関する項目も含まれ
ていたが,Jは,同日には押送勤務等に従事していて持ち場を離れるこ
とができず,同教養を受講しなかった。
Jは,本件戒具使用の直前,戒具使用指揮簿に,(Ⅰ)戒具の使用には
署長の許可が必要である,(Ⅱ)戒具の使用は2時間が限度である,
(Ⅲ)2時間を超えて戒具を使用する場合にはさらに署長の許可が必要で
ある旨の記載がされているのを見ており,このときに初めて,これらの
事項を認識した。
Jは,留置管理係に配属後,和歌山東署の留置場に備え付けられてい
た留置業務ガイダンス及び留置業務関連質疑応答集を読み始めていたが,
これらの文献の中で戒具の使用方法等が記載されている部分については,
読んでいなかった。また,Jは,本件戒具の使用に当たり,上記各文献
及びこれらと同様に和歌山東署の留置場に備え付けられていた留置業務
関係例規集のいずれも参照しなかった。
(イ)Iは,平成16年4月1日付けの人事異動により,和歌山東署の留置
管理係に配属された。Iも,J同様,これより前に留置管理係で勤務し
た経験はなく,同係に配属された際に,Jが受けたのと同じ教養を受け
たが,同係に配属される前に,戒具の使用に関する教養を含む看守任用
専科を受講していなかったため,実際に戒具を目にしたことはなく,そ
の使用方法を知らなかった。また,前記(ア)の巡回教養が実施された同
月16日は,和歌山東署における勤務ローテンション上,Iの休みの日
となっており,この日をIの日勤日とした上で別の日に休みを振り替え
ることが難しい状況であったため,Iは,同ローテーションどおり,同
日に休みをとり,同教養を受講しなかった。
Iは,他の留置担当官から戒具の使用について教えられたことがあり,
戒具の使用は原則2時間が限度であること,戒具の使用中は対面監視を
行わなければならないこと,戒具の使用には,まず当直責任者の許可が
必要であり,最終的には署長の許可が必要であることを認識していたが,
防声具と鎮静衣の同時使用が禁止されていることは知らなかった。
Iは,本件戒具使用に当たり,和歌山東署の留置場に備え付けられて
いた前記各文献のいずれも参照しなかった。
(ウ)Kは,和歌山東署において3年間留置管理係に配属されていた経験が
あり,同係に配属される前に,看守任用専科の講習を5日間受けており,
このときに戒具を装着した経験はあるが,実際に被留置者に対して戒具
を使用したことはなかった。また,Kは,戒具の使用方法等に係る戒具
訓令等の定めを十分に理解しておらず,防声具と鎮静衣の同時使用が禁
止されていることを知らなかった。
Kは,本件戒具使用に当たり,Jに対し,戒具の使用に関する解説書
をJに見せたが,和歌山東署の留置場に備え付けられていた前記各文献
により,戒具の使用方法を調査することはなかった。
(2)争点(6)について
ア前述のとおり,防声具は,呼吸が困難になるおそれや頸動脈及び頸静脈
をベルト等が圧迫するおそれがあり,鎮静衣は,その使用により,被使用
者は,手足を自由に動かすことや起き上がることができなくなるのであり,
これらの使用方法如何によっては,被使用者の生命・身体に大きな危険を
及ぼす可能性がある。そこで,戒具の被使用者の生命・身体の安全に対す
る危険を避けるため,戒具訓令,戒具通達等は,戒具使用上の留意事項に
係る定めを置いており,戒具の使用者は,これに従って戒具を使用するこ
とが職務上義務付けられているのである。
しかるに,Jらは,(Ⅰ)Dの失禁後に鎮静衣を外すまで,鎮静衣とベル
ト手錠及び防声具を併用し,(Ⅱ)当初,ベルト手錠を正規の使用方法とは
逆向きに装着し,(Ⅲ)旧型防声具の上に重ねて新型防声具を装着し,防声
具のマスク部分が下方にずれてDの前頸部を圧迫する結果を招いた(なお,
Iの証言には,本件防声具のマスク部分はDの頸部を圧迫していなかった
と述べる部分があるが,前記認定のとおり,Dの死体解剖時,その前頸部
に同マスク部分による圧迫痕が存在したことに照らして,信用することが
できない。)ものであり,このような戒具の使用は,いずれも戒具訓令,
戒具通達,和歌山県留置規程に定める使用方法等に違反するものである。
また,Jらは,本件ベルトでDの足を拘束したが,本件ベルトは,監獄法
施行規則及び被疑者留置規則に戒具として定められていない物であった。
さらに,Jは,Dの頭から体にかけて布団を掛けており,I,K,Hも
これを知りながら制止をする等の措置を執っていない。その結果,J,I
はDに対する対面監視を実施したものの,Dの身体に布団がかぶせられて
いたため,Dが具体的にどのような体勢をとっているかを明確に把握する
ことはできず,また,Dの表情や顔色,本件防声具のマスク部分の状態を
認識することはできなかったのであって,このような監視は,Dに対する
動静監視としては甚だ不十分なものであり,防声具及び鎮静衣の使用によ
って,呼吸障害や胸部圧迫による呼吸困難を来していないか,被使用者の
動静を綿密に視察すべきものとしている戒具通達,和歌山県留置規程に反
するものであった。また,布団を掛けることによって呼吸困難な状態を増
幅した可能性が高い。
以上のとおり,Jらの戒具の使用及び監視は,Jらが遵守すべき通達等
の規定に明らかに違反しており,Jらは職務上の義務に違反したというべ
きである。
イまた,Jらは,本件戒具使用当時,いずれも戒具の使用方法に関して十
分な知識を有しておらず,J及びIに至っては,実際に戒具を目にしたこ
ともなく,その使用方法について教養・説明を受けたことはほとんどなか
ったというのであり,それにもかかわらず,Jらは,本件戒具使用に先立
って,和歌山東署の留置場に備え付けられていた戒具の使用方法に関する
説明が記載された文献を参照するなどの調査をしなかったものである。
戒具の使用者は,その使用方法について十分な知識を有していない場合,
被使用者の生命・身体の安全に対する危険を避けるために通達等に定める
留意事項等を調査する職務上の義務を負うというべきであるところ,Jら
は,本件戒具使用当時,いずれも戒具の使用方法に関して十分な知識を有
していなかったのであるから,Jらは,本件戒具使用に先立って,和歌山
東署の留置場に備え付けられていた戒具の使用方法に関する説明が記載さ
れた文献を参照すべきであったというべきであり,Jらは,この調査をし
なかったのであるから,この点でも,職務上の義務に違反したというべき
である。
ウさらに,Dは,和歌山東署に到着したときから脈絡のない単語を繰り返
し,留置場内に響き渡るほどの大声で叫び続け,(1)ウ(イ)のような意味不
明の行動を取っており,何らかの精神疾患にり患している可能性がある状
態であったところ,精神疾患にり患している場合には,身体的な苦痛があ
ってもそれを外部に訴えることができないおそれがあると解されるのであ
るから,動静監視は通常以上に慎重かつ綿密にすべきであったというべき
であり,Jらにはこの点についても職務上の義務違反があったというべき
である。
エなお,原告らは,Dに対して戒具を使用したことそれ自体が違法である
と主張するが,前記認定のとおり,Dが午後9時の消灯時間以降も大声を
出し続けていたため,他の被留置者の中には,怒り出す者や,留置担当官
であるI及びJに対して大声で苦情を言い,何らかの対応を要請する者も
いたのであり,当日は留置場は満員の状態であり,そのまま被留置者の不
満が嵩じれば,留置場内が騒然となり,2人の留置担当者では対応できな
い状態になるなど,留置場内の規律と秩序が維持できない状態になるおそ
れがあったことは明らかであり,防声具の使用はやむを得ないところであ
ったというべきである。また,原告らは,Dは精神的疾患が疑われる状態
であったので戒具の使用は許されないと主張するが,Dが精神的疾患に罹
患していたかどうかは明確でなく,本件逮捕時のDの所持品(12万40
00円の現金,外国人登録証明書,キャッシュカード,携帯電話等)やA
の供述からすると,Dは,本件逮捕の前までは通常の社会生活を送ってい
たものと解され,前記(1)ア(イ)に記載した平成16年4月19日午後に行
われた和歌山県北署における取調べ時の応答からしても,本件逮捕以降の
異常行動は,何らかの理由で装ってしていたものである疑いもあり,前記
認定のとおり,JもMからその旨を聞いていたのであるから,Dに前述の
異常行動があったとしても,戒具の使用が許されないということはできな
い。
オまた,原告らは,本件戒具使用が故意の不法行為に該当すると主張する
が,Jらが本件戒具使用によるDの死亡を認識・認容していたことを認め
るに足りる証拠はないから,故意の不法行為とはいえず,原告らの主張は
認められない。
カ以上によれば,本件戒具使用は,Jらの職務上の義務に違反するもので
あり,国家賠償法上の違法の評価を免れない。
そして,上記義務違反とDの死亡との間に因果関係が存在することは明
らかであるから,その余の争点について判断するまでもなく,被告和歌山
県は国家賠償法1条1項に基づく損害賠償責任を免れない。
キプライバシー侵害について
Dは,本件戒具を装着された後も,本件同房者とともに本件6号室に留
置され,Jは本件同房者に対して,Dの様子を時々確認するよう頼んでい
る。この措置は,防声具及び鎮静衣を使用する場合には単独居室に入れる
こととする平成14年戒具通達及び和歌山県留置規程55条4号に反する
ものであるところ,同通達,規程の趣旨は,単独居室とすることによって
被使用者に同房者との関係で不測の事態が生ずることを防ぐことのほかに,
戒具が使用されている姿を必要以上に第三者にさらすことのないようにす
るとの配慮に出たものと解され,Jらの行為は,このような配慮に欠けた
行為といわざるを得ない。また,Jらは,Dに戒具を装着するために,本
件同房者を他の房に一時的に移す際,戒具を装着する様子を見たいとの本
件同房者の要望を聞き入れ,同人を本件6号室が見える8号室に収容して
いる。8号室以外の他の房に移すことのできた本件同房者を,あえて本件
6号室が見える8号室に移す行為は,上記の配慮に欠ける行為というべき
である。留置場は当日満員であって,本件同房者を本件6号室に留置せざ
るをえなかったこと(各房は定員2名で,その大きさは便器部分を除き幅
約1.95m,奥行き約2.35mであって3名を留置するには狭すぎる。
甲1の9・24),8号室にはもともと2人の被留置者がおり,同人らか
らも戒具を装着する姿が見えていたこと等からすると,Jらの上記行為を
もって,直ちにプライバシー侵害の違法行為と評価することは困難である
としても,上記の通達,規程違反の点や上記の配慮に欠けた点は,Dが死
に至る経過の事情として死亡慰謝料のなかで考慮されるべきものというべ
きである。
(3)以上のとおり,被告和歌山県の責任は明らかであるが,本件事案の問題性
にかんがみ,その余の争点について必要な範囲で念のために判断することと
する。
(4)争点(3)について
ア教育・教養義務違反について
(ア)原告らは,(Ⅰ)和歌山県警本部の留置管理官並びに各警察署の署長及
び留置主任官は,拘禁担当者に対し,戒具の使用方法,危険性等につい
て,教育,教養を行う義務を負う,(Ⅱ)和歌山県公安委員会委員及び和
歌山県警察本部長は,戒具の使用方法,危険性等の教育のためのカリキ
ュラムの整備,資格制度の整備をするなどの制度設計をする義務を負う,
(Ⅲ)各警察署の留置主任官は,戒具の使用につき教育・教養を受けてい
ない者を宿直員として配置しない義務を負う,と主張する。
(イ)まず,(Ⅰ)の主張について検討するに,和歌山県留置規程11条2項
ないし4項は,(a)警察署長は,同署の職員に対し,留置業務の管理運
営に関する事項について,随時,指導教養を実施する義務を,(b)留置
主任官は,新たに任用又は指名した同署の看守専務員等に対し,その任
命又は指名後速やかに看守勤務の基本事項等について教養を実施し,そ
の後も月1回以上,計画的に同事項について教養を実施する義務をそれ
ぞれ負うと定めている。そして,戒具がその使用方法如何によっては被
使用者の生命・身体に危険を及ぼす可能性のあるものであり,使用者が
これを避けるために定められた戒具訓令等の留意事項等に精通していな
ければ,被使用者の生命・身体が危険にさらされるおそれが生じること,
戒具は,逃走,暴行又は自殺のおそれがある場合や被留置者が大声を発
している場合など,留置施設等における規律及び秩序が害されるおそれ
が生じる事態において使用されるものであり,いつ使用が必要な状態が
生じるかの予測は困難であることに照らせば,警察署長及び留置主任官
は,戒具の使用方法等に係る教養を受けていない者が看守勤務員として
任命された場合,特段の事情がない限り,その者が留置場における実際
の勤務に就く前に,その者に対し,戒具訓令等の定める使用上の留意事
項を含む戒具の使用方法等に係る教養を実施する義務を負うというべき
である。
本件においては,(1)カで認定したとおり,J及びIは,いずれも留
置管理係に配属される前に戒具の使用方法等の教養を受けたことはなく,
留置管理係に配属後看守勤務員として留置場における実際の勤務に就く
前に,戒具の使用方法等の教養を一切受けていない。また,この点につ
いて上記特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
したがって,和歌山東署の署長及び留置主任官は,職務上負うべき戒
具の使用方法等に係る教育・教養義務を怠ったというべきである。
和歌山県警本部の留置管理官については,和歌山県留置規程11条1
項によれば,その警察教養に係る職務は和歌山県内の各警察署の留置担
当官に対する講習会を開いて看守勤務の基本事項に関する教養を実施す
ることであるところ,前記のとおり,同留置管理官は,本件戒具使用に
先立つ平成16年4月16日,和歌山東署において,戒具使用に係る項
目をその内容に含む巡回教養を実施しており(したがって,和歌山東署
の署長及び留置主任官はJ及びIがこの教養に参加できるよう手配すべ
きであった。),他方,本件において,同留置管理官による巡回教養等
の実施が不十分であった,又は巡回教養等の内容に戒具使用に係る項目
が含まれていなかったなどといった事情は現れておらず,同留置管理官
が,戒具の使用方法等に係る教育・教養義務を怠ったということはでき
ない。
(ウ)次に(Ⅱ)の主張について検討するに,和歌山県公安委員会については,
警察教養規則6条2項によれば,その警察教養に係る職務は和歌山県警
察の職員に対する警察教養に関し必要な事項について規則を制定するこ
とであるところ,同公安委員会が当該職務を怠ったことを根拠付ける事
実を認めるに足りる証拠はない。また,和歌山県警本部警察本部長につ
いては,同規則5条2項によれば,その警察教養に係る職務は警察庁長
官により示された警察教養の重点に関する事項につき計画的に警察教養
を実施することであるところ,和歌山県警察において,計画的な警察教
養が実施されていなかった,又は実施された留置業務関係の教養等の内
容に戒具使用に係る項目が含まれていなかったなどといった事情は現れ
ておらず,同警察本部長が,戒具の使用方法等に係る教育・教養義務を
怠ったということはできない。
(エ)(Ⅲ)の主張は,要するに看守勤務員に対しては,実際の勤務に就く前
に,戒具の使用方法等について教養を実施すべきであったというところ
に帰するから,(Ⅰ)で主張された留置主任官の教育・教養義務の内容と
同一であると解されるところ,留置主任官の義務違反が認められること
は,前記(イ)のとおりである。
イ前記の義務違反とDの死亡との間の因果関係について
被告和歌山県は,和歌山東署の署長及び留置主任官の教養義務違反とD
の死亡との間には,相当因果関係が認められない旨主張する。
しかし,和歌山東署の署長及び留置主任官が,本件戒具使用に先立って,
J及びIに対し,戒具訓令等の定める使用上の留意事項を含む戒具の使用
方法等に係る教養を実施すれば,同人らは,戒具がその使用方法如何によ
っては被使用者の生命・身体に大きな危険を及ぼす可能性のあるものであ
り,その使用の際,戒具訓令等の定める留置事項を厳守し,被使用者の状
態を十分に確認することが重要であることを認識するに至った可能性が高
いというべきである。そして,J及びIが,そのような認識を有していれ
ば,防声具を二重に装着したり,Dの身体に布団をかぶせ,その体勢,表
情・顔色及び本件防声具のマスク部分の状態を認識することができない状
況を作出するなどの行為には出ず,本件戒具使用によるDの死亡という結
果が発生しなかった可能性が高いというべきである。
したがって,和歌山東署の署長及び留置主任官が,前記教育・教養義務
を尽くしていれば,本件戒具使用によるDの死亡という結果の発生を回避
し得たと考えるのが相当である。よって,和歌山東署の署長及び留置主任
官の上記教育・教養義務違反とDの死亡との間には相当因果関係があると
いうべきであり,被告和歌山県の上記主張は採用することができない。
(5)争点(4)について
前記のとおり,本件において戒具を使用したこと自体は適法というべきで
あるから,原告らの主張は理由がない。
(6)争点(5)について
アLについて
Lは,留置主任官代理であるが,平成16年4月20日は,勤務を終え
ていったん帰宅しており,同日午後11時30分ころに登庁したのは,自
発的に登庁したものに過ぎず,職務命令を受けて登庁したものではない。
また,和歌山県留置規程は,夜間,日曜日,休日等(勤務時間外)におい
ては,当直責任者が留置主任官の職務を代行する旨規定しているから(7
条1号),Lには,同日の当直時間においてJらを指揮監督する職務上の
義務を認めることができない。したがって,原告らの主張は前提を欠き理
由がない(仮に,LがJらによる本件戒具使用の具体的な態様を認識して
おれば,これを是正するよう指導すべき職務上の義務が肯定されるとして
も,Lは,前記認定のとおり,Jらに対し電話及び口頭で,鎮静衣と防声
具を同時に使用してはならないこと,対面監視を徹底することを指示して
いるものの,上記の具体的態様を認識していたことを認めるに足りる証拠
はないから,いずれにしても職務上の義務違反を認めることができな
い。)。
イHについて
(ア)Hは,平成16年4月20日夜における当直責任者であって,同日時
において,留置主任官の職務を代行して留置担当官らを指揮監督する職
務上の義務を負っていた(和歌山県留置規程7条1号,5条)。したが
って,Hは,本件戒具使用に当たり,Jらに対し,戒具訓令,戒具通達
等に定める戒具使用上の留意事項を遵守し,Dの生命・身体に危険が生
じないような態様で戒具を使用するよう指導・監督する義務を負ってい
たというべきである。
(イ)本件戒具使用は,留置担当官が遵守すべき事項に明らかに違反してお
り,Dの生命・身体に危険を及ぼすおそれのある態様のものであったこ
とは前述のとおりであり,また,(1)で認定した事実によれば,Hが,
本件戒具使用の具体的態様を十分認識しつつ,Jらに対し,防声具と鎮
静衣を併用すること,旧型防声具と新型防声具を重ねて装着すること,
Dの身体に布団をかぶせること等をやめるよう指示しなかったことは明
らかである。したがって,Hは,職務上負っている前記指導監督義務を
怠り,これにより本件戒具使用が継続され,Dが死亡するに至ったとい
うべきである。
3損害額について(争点(7)について)
(1)Dの損害
被告和歌山県の公務員の前記各違法行為により,Dは,次のとおり,合計
4708万8833円の損害を被ったと認められる。
ア葬儀費用150万円
前記各違法行為と相当因果関係のある葬儀費用としては150万円を相
当と認める。
イ逸失利益2058万8833円
(ア)証拠(甲2,11ないし16,23,24,乙2ないし5(枝番のあ
るものは枝番を含む。),C,A,調査嘱託の結果)及び弁論の全趣旨
によれば,次の事実が認められ,この認定を左右するに足りる証拠はな
い。
aDは,昭和42年3月に和歌山市内の市立中学校を卒業後,和歌山
県立工業高校の夜間部に入学したが,その後,同高校を中途退学して
おり,死亡時は52歳であった。
bDは,中学校を卒業後,配管・溶接業,冷凍設備の設計・施工等に
従事していたが,死亡時においては無職であった。
cDは,昭和63年ころから深刻な腰痛が発生し始め,平成13年5
月には手術を受け,一時軽快して働いていたが,平成16年当時は,
腰部脊柱管狭窄症のため通院をしており,同年2月18日,腰狭窄症
により稼働できない状態であることを申請理由として,生活保護を申
請し,同年4月21日に死亡するまで,生活保護を受けていた。Dは,
同月14日の時点では,自力歩行及び軽作業程度の稼働がいずれも可
能な状態であり,同年5月24日には和歌山県立医科大学附属病院に
検査入院をすることを予定しており,腰部の手術を受けることを計画
していた。
(イ)a(ア)で認定した事実によれば,Dは,死亡時は無職であり,腰痛の
ために働くことができず,生活保護を受けていたが,当時でも軽作業
程度の稼働は可能な状態であったこと,症状の改善を図り手術を受け
ることを具体的に計画し,病院を予約するなど稼働の意欲を有してい
たこと,死亡時の年齢が52歳であったことからすると,手術によっ
て稼働能力を回復することも期待できたと認められるので,これらの
事情を考慮すると,逸失利益を算定するに当たっては,基礎年収を,
平成16年賃金センサス第1巻第1表による産業計・企業規模計・学
歴計・男性労働者・50∼54歳の年収額661万1700円の6割
に相当する396万7020円とするのが相当である。
bそこで,Dの死亡時(52歳)からの就労可能期間15年に対応す
るライプニッツ係数10.380を用い,生活費控除を5割としてD
の逸失利益を算出すると,2058万8833円となる。
(計算式)3,967,020×(1-0.5)×10.380=20,588,833
c被告和歌山県は,Dは,死亡時において,将来所得を得るだけの身
体能力・労働能力を保有しておらず,さらに,本件当時何らかの精神
疾患を発症していた可能性があるから,就労により所得を得ることが
困難な状態にあった旨主張する。しかし,Dが死亡時において,労働
能力・意欲を喪失していなかったことは前記(イ)aのとおりであり,ま
た,前記のとおり,Dが精神的疾患にり患していたかどうかは明確で
なく,何らかの理由で異常行動を装っていたことも疑われるので,就
労により所得を得ることが困難な状態であったということはできない。
また,被告和歌山県は,Dは,昭和60年に強盗等で懲役5年に処
せられた前科があったため,本件逮捕の被疑事実である現住建造物等
放火未遂罪で実刑に処せられていた可能性が高く,そうなった場合,
収容中は就労による所得を得ることは不可能である旨主張する。しか
し,Dは,現住建造物等放火未遂罪により逮捕・勾留されたにすぎず,
有罪であること及び刑事施設へ収容されることが確定していたわけで
はないから,逸失利益の算定について,この点を考慮に入れることは
できない。よって,被告和歌山県の上記各主張は,いずれも採用する
ことができない。
ウ死亡慰謝料2500万円
前記のとおり,本件戒具使用は,戒具の使用に係る法令の定めに著しく
反するものであり,その違法性が明らかであること,その死亡原因は呼吸
困難な状態が継続したために生じた遷延性の窒息であり,死に至るまでの
苦痛が大きかったことは想像に難くないこと,その他前記2(2)キに記載し
た点を含む本件に現れた一切の事情を考慮すれば,Dの死亡による慰謝料
額は,2500万円が相当と認められる。
エ以上によれば,Dの損害額は合計4708万8833円であり,被告和
歌山県に対する同額の損害賠償請求権が発生するところ,A及びBは,こ
れを各2分の1ずつ(各2354万4416円)相続した。
(2)遺族固有の慰謝料
アA及びB各300万円
A及びBは,いずれもDの子であるところ,本件戒具使用に起因するD
の死亡により甚大な精神的苦痛を被ったものと認められ,本件に現れた一
切の事情を考慮すれば,上記各原告が被った精神的苦痛に対する慰謝料は,
各300万円が相当と認められる。
イC
被害者の父母,配偶者及び子が加害者に対し直接に固有の慰謝料を請求
することができることは,民法711条が明文をもって認めるところであ
るが,文言上同条に該当しない者であっても,被害者との間に同条所定の
者と実質的に同視することのできる身分関係が存し,被害者の死亡により
甚大な精神的苦痛を受けた者は,同条の類推適用により,加害者に対し直
接に固有の慰謝料を請求することができるものと解するのが相当である
(最高裁昭和49年(オ)第212号同年12月17日第三小法廷判決・民集
28巻10号2040頁参照)。しかしながら,本件において,CとDと
の間に,同条所定の者と実質的に同視することができるほどの身分関係が
存在したことを認めるに足りる証拠はない。
したがって,Cには,Dの死亡による固有の慰謝料請求権の発生を認め
ることができず,Cの請求には理由がない。
(3)弁護士費用
前記各違法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金は,本件事案
の性質,難易,認容額等諸般の事情を考慮すると,A及びBにつき,各26
5万円を相当と認める。
(4)損害額のまとめ
以上によれば,A及びBそれぞれの損害額は,各2919万4416円で
ある。
4結論
以上によれば,原告らの本訴請求は,A及びBが,被告和歌山県に対し,各
2919万4416円及びこれに対する本件戒具使用の日である平成16年4
月20日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を
求める限度で理由があるから,これを認容し,A及びBの同被告に対するその
余の請求,Cの同被告に対する請求及び原告らの被告国に対する請求は理由が
ないからいずれも棄却することとし,訴訟費用の負担につき民訴法64条本文,
61条,65条1項本文を,仮執行の宣言につき同法259条1項を,仮執行
免脱宣言につき同法259条3項をそれぞれ適用し,主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第8民事部
裁判長裁判官小野憲一
裁判官原司
裁判官飯島暁

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