弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     本件上告を棄却する。
     上告費用は上告人の負担とする。
         理    由
 上告代理人黒瀬正三郎の上告理由について
 労働委員会が不当労働行為により解雇された労働者の救済命令において解雇後原
職復帰までの間の得べかりし賃金相当額の遡及支払い(バツクペイ)を命ずる場合
に、被解雇者が右期間中他の職に就いて収入を得ていたときは、労働委員会は、解
雇により被解雇者が受けた個人的被害の救済の観点だけから右中間収入額を機械的
にそのまま控除すべきではなく、右解雇が使用者の事業所における労働者らの組合
活動一般に対して与えた侵害を除去し正常な集団的労使関係秩序を回復、確保する
という観点をもあわせ考慮して、合理的裁量により、右中間収入の控除の要否及び
程度を決すべきであり、そのいずれか一方の考慮を怠り、又は救済の必要性の判断
において合理性を欠くときは、その命令は、裁量権の限界を超え、違法とされるこ
とを免れない(当裁判所昭和四五年(行ツ)第六〇号、同六一号同五二年二月二三
日大法廷判決参照)。
 本件についてこれをみるに、原審が適法に確定したところによれば、訴外Dは、
一般旅客自動車運送業を営む被上告会社に自動車運転手として雇用されていた者で
あるところ、昭和四〇年一一月二五日解雇され、その後、昭和四一年一〇月一四日
E運輸株式会社に正規従業員として就職し、同日以降同社の営業用トラツクの運転
手として従前の賃金額を上回る収入を得ていたというのである。これによつてみる
ときは、右訴外人の得た中間収入は、従前の労務とほぼ同様の営業用自動車の運転
手として稼働したことによつて得たものであるから、たとえ訴外人の他会社への就
職が組合の指令に基づくものであり、訴外人が受けとつた賃金を一旦組合に交付し
組合から生活資金として一定額の貸与を受けるという形式をとつていたとしても、
解雇による個人的な経済的被害の救済という観点からは当然にその控除を考慮すべ
きものである。また、組合活動一般に対する侵害的効果の除去の観点からみても、
上記認定の諸事実と、当時の自動車運転手の雇用状況、特に他社への転職が比較的
頻繁かつ容易であつたこと等に照らせば、解雇による当該労働者の打撃は比較的軽
少であり、したがつてまた、被上告会社における労働者らの組合活動意思に対する
制約的効果にも通常の場合とかなり異なるものがあるとみるのが当然であるから、
特段の理由のないかぎり、バツクペイの金額を決定するにあたつて上記のような中
間収入の控除を全く不問に付することは、合理性を欠くものといわなければならな
い。しかるに、上告人は、本件バツクペイ命令において右中間収入の控除を全く不
要とすることにつき特段の理由を具体的に示すところがなく、また、本件にあらわ
れた資料によつても、このような理由を見出すことができない以上、本件バツクペ
イ命令は、結局において、上告人に認められた裁量権の合理的な行使の限度を超え
たものといわざるをえない。
 したがつて、原判決には、上記説示と異なる解釈をとつた点において法令の解釈、
適用の誤りがあるが、結論において、本件バツクペイ命令に違法があるとしたこと
は正当である。なお、当裁判所昭和三六年(オ)第一九〇号同三七年七月二〇日判
決(民集一六巻八号一六五六頁)は、解雇が無効である場合の被解雇者の賃金請求
権及びその金額と労働基準法二六条との関係に関するものであつて、労働委員会に
よる救済命令としてのバツクペイ命令の金額の問題とは直接の関係がないものであ
るから、所論のような抵触の問題は生じない。論旨は、結局、採用することができ
ない。
 よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官
本林讓の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 裁判官本林讓の反対意見は、次のとおりである。
 労働委員会が救済命令においてバツクペイを命ずる場合に、労働者が得た中間収
入の額を控除することの要否及びその程度の決定に関する私の意見は、当裁判所昭
和四五年(行ツ)第六〇号、同六一号同五二年二月二三日大法廷判決における私の
意見のとおりである。
 右の見解に立つて本件についてみると、私は多数意見のように被解雇者の個人的
な経済的被害の救済という観点を持ち出すことに反対であるのみならず、訴外人の
中間収入の取得を従前の就労の継続による賃金の取得と同等視すべきかどうか、こ
れによりどの程度被害の除去があつたとみるべきかについても、私は、多数意見の
述べるような両労務の性質、内容の同一性や転職の容易性、頻繁性のほかに、なお
さまざまな事情を考慮して判断されるべきものと解するのであり、私の見解におい
ては、多数意見の指摘する諸点から直ちに、バツクペイの額の決定にあたつて右の
中間収入の額を控除しないこととした上告人の決定が、上記諸事情を公正、誠実に
考慮した結果の判断とは考えられないほど明白な不合理性を有するものと断ずるこ
とはできない。そして、本件においては、他に右のような明白な不合理性の存在を
肯認させるような主張、立証がないのであるから、結局、本件バツクペイ命令を違
法とする被上告会社の主張は、理由がないとするほかはない。
 したがつて、右と異なる判断に立つ原判決中上告人敗訴部分を破棄し、第一審判
決中右部分を取り消し、右部分に関する被上告会社の請求を棄却する判決をすべき
ものと考える。
     最高裁判所第二小法廷
         裁判長裁判官    岡   原   昌   男
            裁判官    大   塚   喜 一 郎
            裁判官    吉   田       豊
            裁判官    本   林       讓
            裁判官    栗   本   一   夫

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