弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


戻る

平成28年10月3日宣告
平成27年(わ)第634号,681号,776号死体遺棄,殺人被告事件
判決
公判出席検察官
(求刑懲役16年)
同国選弁護人
(科刑意見懲役8年)
主文
被告人を懲役13年に処する。
未決勾留日数中230日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,宮城県宮城郡七ヶ浜町a番地b所在の被告人方において,実母である
A(昭和3年7月生)及び実兄であるB(昭和33年7月生)と同居していたとこ
ろ,
第1平成27年3月22日頃,前記被告人方において,Bに対し,殺意をもって,
その頭部を釘抜きハンマーで複数回殴打し,よって,その頃,同所において,
同人を頭蓋内損傷により死亡させて殺害した。
第2平成27年3月22日頃から同月末頃までの間に,前記被告人方において,
Bの死体を同所台所床下に隠匿し,もって死体を遺棄した。
第3平成27年7月27日頃から同年10月20日頃までの間に,前記被告人方
敷地内において,Aの死体を土中に埋め,もって死体を遺棄した。
(事実認定の補足説明)
検察官は,被告人がBの頭部をハンマーで殴打した回数は,少なくとも6回であ
ると主張している。他方,被告人は,殴打した回数は3回と記憶している旨供述し
ており,弁護人は,殴打した回数は3回であった疑いが残ると主張している。そこ
で,被告人がBの頭部を殴打した回数について検討する。
Bの頭蓋骨を分析した理学博士のCは,鈍器による打撃で頭蓋骨に衝撃が加わっ
た場合,一般的に,まず,打撃点が押し込まれて骨折した後,放射線状の骨折が形
成され,さらに骨が押し込まれて同心円状の骨折が形成されるという頭骨損傷のパ
ターンが存在し,このパターンに従ってBの頭蓋骨を分析すると,6か所の打撃痕
が認められ,いずれも同一の凶器によるものと考えて矛盾せず,凶器は金づちであ
る可能性が高いと供述する。また,Bの死体を解剖した医師のDも,Bの頭蓋骨に
は円形の骨折が2か所存在し,更に,2か所の骨折の間には大きく陥没した骨折が
あり,この骨折が1回の打撃で形成されるとは考えにくく,少なくとも4回以上の
打撃が加えられていると供述する。
C及びD医師の各供述は,専門的知見に基づくもので,Bの頭蓋骨の状態とも整
合している上,相互に裏付け合っていることから,信用でき,被告人がBの頭部を
ハンマーで殴打した回数は,少なくとも4回と認められる。前記内容の被告人の供
述は,曖昧である上,Bの頭蓋骨の状態と矛盾しており,信用できない。
もっとも,C博士が指摘する6か所の打撃痕のうち,2か所については,打撃点
の骨が欠損していたり,打撃点が不明であったりすることから,前記頭骨損傷のパ
ターンの全ての要素を満たしているわけではない。また,Bを殴打した後,死体を
遺棄するまでの間に,自宅内のどこかにBの頭部が衝突するなどして骨折が進行し
た可能性もあり,C博士もその可能性を否定していない。これらの事情によれば,
殴打の回数が少なくとも6回であるとまでは断定できない。
(法令の適用)
1罰条
判示第1の所為について刑法199条
判示第2の所為について刑法190条
判示第3の所為について刑法190条
2刑種の選択判示第1の罪につき有期懲役刑を選択
3併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(最も
重い判示第1の罪の刑に同法47条ただし書
の制限内で法定の加重)
4宣告刑の決定懲役13年
5未決勾留日数の本刑算入刑法21条
6訴訟費用の不負担刑事訴訟法181条1項ただし書
(量刑の理由)
本件は,被告人が,実兄及び実母と同居する中で,実母の介護や家事を手伝わず,
被告人に対する嫌味や実母の悪口を言うなどの実兄の言動に苛立ちや不満を募らせ
ていたところ,実兄との間でもめごとが起き,殺意をもって実兄の頭部をハンマー
で殴打して殺害し,数日後,実兄の死体を自宅の台所床下に隠したという殺人,死
体遺棄の事案(判示第1及び第2)と,その後,実母が亡くなり,同人の葬儀を行
えば実兄がいないことが知られ,実兄に対する犯行が発覚してしまうと考え,実母
の死体を自宅の庭に埋めたという死体遺棄の事案(判示第3)である。
量刑上最も重視すべき判示第1の実兄に対する殺人についてみると,被告人は,
「日常生活の中で,実兄に対する苛立ちや不満をため込んでいた。犯行直前に,実
兄が実母の脚を平手でたたいている様子を見て憤りを覚え,実母から引き離そうと
実兄を後ろから引っ張った。そうしたところ,実兄が尻餅をついて倒れ,もみ合い
となり,その際,実兄から首を絞められるなどして恐怖を感じた。もみ合いから逃
れ立ち上がった時,恐怖感に加え,実兄と同居している今の状況から逃れたいなど
の思いから,とっさに近くに置かれていたハンマーを手に取り,殺害行為に及んだ。」
などと述べる。
被告人が用いたハンマーは,打ちつける部分が金属製で,それなりに重く,使い
ようによっては人の身体に深刻なダメージを与え得るものである。被告人は,床に
両手をつき,両足を伸ばして座っていた無抵抗の実兄の頭部を目がけて,力を込め
てハンマーを振り下ろし,少なくとも4回は殴打しており,その行為は,突発的な
ものであったとはいえ,実兄を死亡させる危険性が相当に高く,悪質である。そし
て,このような態様からすれば,被告人は,実兄が死亡する可能性が相当に高いと
分かっていながら,犯行に及んだものと認められる。
被告人の供述する実兄殺害の動機・経緯は,殺害を正当化できる事情とはいえな
いし,殺害直前の実兄とのやり取りを踏まえても,殺害行為に及ぶほどの切迫した
状況があったとはいえず,この点において酌量の余地は乏しい。
これらの事情からすれば,配偶者,親,子以外の親族を凶器を用いて殺害した殺
人1件の事案の量刑傾向に照らし,判示第1の殺人の犯情だけをみても,本件は,
格段に重い部類とはいえないものの,軽い部類に属するともいえない。
そして,被告人は,殺人の犯行を隠し通そうという強い意思で,実母も生活して
いる自宅の台所床下の狭い空間に実兄の死体を押し込んで遺棄した上,長期間にわ
たり放置し,死体が腐敗するにまかせている。更に,実母の葬儀を行えば実兄に対
する犯行が発覚してしまうという身勝手な動機で,その後に亡くなった実母の死体
までも遺棄している。実母の死体については,その損壊には及んでおらず,ぞんざ
いに取り扱ったとまではいえないが,いずれも死体遺棄として非難の程度が軽いも
のとはいえず,被告人が死体遺棄の各犯行に及んだことも,本件各犯行の犯情を総
合評価する上で,一定程度重くみるべきである。
加えて,被告人の実姉が厳しい処罰感情を抱いていることも,本件各犯行による
結果の重さを評価する上で無視することはできない。
他方で,被告人が,犯行に至るまでの生活を振り返り,自分が何をしていれば犯
行を防ぐことができたのかについて思いを巡らせた上で,実兄,実母及び実姉に対
する謝罪の言葉を述べ,また,実姉の心情等を考え,社会復帰後も地元の宮城県に
は戻らないと述べていることは,現時点で,被告人としてできる限りの反省をして
いるものと評価できる。そこで,このような事情も考慮し,被告人に対し,主文の
刑に処するのが相当であると判断した。
平成28年10月3日
仙台地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官加藤亮
裁判官田郷岡正哲
裁判官楠山喬正

戻る



採用情報


弁護士 求人 採用
弁護士募集(経験者 司法修習生)
激動の時代に
今後の弁護士業界はどうなっていくのでしょうか。 もはや、東京では弁護士が過剰であり、すでに仕事がない弁護士が多数います。
ベテランで優秀な弁護士も、営業が苦手な先生は食べていけない、そういう時代が既に到来しています。
「コツコツ真面目に仕事をすれば、お客が来る。」といった考え方は残念ながら通用しません。
仕事がない弁護士は無力です。
弁護士は仕事がなければ経験もできず、能力も発揮できないからです。
ではどうしたらよいのでしょうか。
答えは、弁護士業もサービス業であるという原点に立ち返ることです。
我々は、クライアントの信頼に応えることが最重要と考え、そのために努力していきたいと思います。 弁護士数の増加、市民のニーズの多様化に応えるべく、従来の法律事務所と違ったアプローチを模索しております。
今まで培ったノウハウを共有し、さらなる発展をともに目指したいと思います。
興味がおありの弁護士の方、司法修習生の方、お気軽にご連絡下さい。 事務所を見学頂き、ゆっくりお話ししましょう。

応募資格
司法修習生
すでに経験を有する弁護士
なお、地方での勤務を希望する先生も歓迎します。
また、勤務弁護士ではなく、経費共同も可能です。

学歴、年齢、性別、成績等で評価はしません。
従いまして、司法試験での成績、司法研修所での成績等の書類は不要です。

詳細は、面談の上、決定させてください。

独立支援
独立を考えている弁護士を支援します。
条件は以下のとおりです。
お気軽にお問い合わせ下さい。
◎1年目の経費無料(場所代、コピー代、ファックス代等)
◎秘書等の支援可能
◎事務所の名称は自由に選択可能
◎業務に関する質問等可能
◎事務所事件の共同受任可

応募方法
メールまたはお電話でご連絡ください。
残り応募人数(2019年5月1日現在)
採用は2名
独立支援は3名

連絡先
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所 採用担当宛
email:[email protected]

71期修習生 72期修習生 求人
修習生の事務所訪問歓迎しております。

ITJではアルバイトを募集しております。
職種 事務職
時給 当社規定による
勤務地 〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
その他 明るく楽しい職場です。
シフトは週40時間以上
ロースクール生歓迎
経験不問です。

応募方法
写真付きの履歴書を以下の住所までお送り下さい。
履歴書の返送はいたしませんのであしからずご了承下さい。
〒108-0023 東京都港区芝浦4-16-23アクアシティ芝浦9階
ITJ法律事務所
[email protected]
採用担当宛