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平成30年2月22日判決言渡
平成29年(行ケ)第10092号審決取消請求事件
口頭弁論終結の日平成29年12月19日
判決
原告株式会社ルートジェイド
同訴訟代理人弁護士飯田圭
同訴訟代理人弁理士須田洋之
同訴訟代理人弁護士佐竹勝一
被告マクセルホールディングス株式会社
(審決時の商号日立マクセル株式会社)
同訴訟代理人弁理士鷺健志
主文
1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間
を30日と定める。
事実及び理由
第1請求
特許庁が無効2013-800022号事件について平成28年12月27
日にした審決を取り消す。
第2前提事実(いずれも当事者間に争いがない。)
1特許庁における手続の経緯等
被告は,発明の名称を「扁平型非水電解質二次電池」とする特許第5072
123号(原出願平成11年8月27日(特願平11-240964号),
分割出願平成21年10月9日,設定登録平成24年8月31日。以下
「本件特許」という。)の特許権者である。
原告は,平成25年2月14日,特許庁に対し,本件特許を無効とすること
を求めて審判請求をした。これに対し,特許庁は,当該請求を無効2013-
800022号事件(以下「本件審判事件」という。)として審理をした上,
同年12月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした
(以下「本件第1次審決」という。)。
原告は,平成26年4月16日,当庁に対し,本件第1次審決の取消しを求
めて審決取消訴訟を提起したところ(平成26年(行ケ)第10097号審決
取消請求事件),当庁は,同年11月26日,本件第1次審決を取り消す旨の
判決をした(以下「本件第1次判決」という。)。
これを受け,被告は,同年12月18日,特許庁に対し,後記内容の訂正請
求(以下「本件訂正」という。)を行った。特許庁は,平成28年12月27
日,「特許第5072123号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された特
許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1-8]について訂正することを認
める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をした(出訴期間として
90日を附加。以下「本件審決」という。)。その謄本は,平成29年1月1
2日,原告に送達された。
原告は,同年4月28日,本件訴えを提起した。
2訂正前の特許請求の範囲
本件特許の訂正前の特許請求の範囲請求項1~8に係る発明(以下,請求項
1に係る発明を「本件発明」といい,特に訂正前のものを指す場合は「訂正前
の本件発明」という。また,本件特許に係る別紙明細書(図面を含む。)を
「本件明細書」という。)は,以下のとおりのものである。
【請求項1】
負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極ケー
スとが絶縁ガスケットを介して嵌合され,さらに前記正極ケースまたは負極ケ
ースが加締め加工により加締められた封口構造を有し,その内部に,少なくと
も,正極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて対向配置している電
極群を含む発電要素と,非水電解質とを内包した扁平形非水電解質二次電池に
おいて,
前記正極板は,導電性を有する正極構成材の表面に,正極作用物質を含有す
る作用物質含有層を有しており,
前記負極板は,導電性を有する負極構成材の表面に,負極作用物質を含有す
る作用物質含有層を有しており,
前記電極群は,前記正極板,前記負極板および前記セパレータが電池の扁平
面に平行に積層されており,かつ前記セパレータを介して対向している前記正
極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少なくとも
5面であり,
前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向
面積が,前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大きいことを特徴とする扁平形
非水電解質二次電池。
【請求項2】
正極板は,作用物質含有層が存在せずに,導電性を有する正極構成材の一部
が露出している通電部を有しており,
負極板は,作用物質含有層が存在せずに,導電性を有する負極構成材の一部
が露出している通電部を有しており,
前記正極板の各通電部が,電池の扁平面に平行な方向において同方向を向く
ように,かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配
置され,前記負極板の各通電部が,電池の扁平面に平行な方向において同方向
を向くように,かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するよ
うに配置されていて,前記各正極板同士,前記各負極板同士が,それぞれの通
電部の電気的接続によって接続されている請求項1に記載の扁平形非水電解質
二次電池。
【請求項3】
電極群における正極板の各通電部が,セパレータが配置されている箇所より
も外側に露出し,負極板の各通電部が,前記正極板の各通電部が露出している
位置に対向する位置において,セパレータが配置されている箇所よりも外側に
露出していて,前記各正極板同士,前記各負極板同士が,それぞれの通電部の
電気的接続によって接続されている請求項2に記載の扁平形非水電解質二次電
池。
【請求項4】
電極群の最外部に位置する正極板は,前記電極群の最外部側の面において,
導電性を有する正極構成材が露出していて,前記正極構成材が直接または電気
的に前記正極ケースに接続しているか,または,前記電極群の最外部に位置す
る負極板は,前記電極群の最外部側の面において,導電性を有する負極構成材
が露出していて,前記負極構成材が直接または電気的に前記負極ケースに接続
している請求項1~3のいずれかに記載の扁平形非水電解質二次電池。
【請求項5】
正極板における導電性を有する正極構成材および負極板における導電性を有
する負極構成材が,金属箔である請求項1~4のいずれかに記載の扁平形非水
電解質二次電池。
【請求項6】
正極板における金属箔がアルミニウム箔である請求項5に記載の扁平形非水
電解質二次電池。
【請求項7】
負極板における金属箔が銅箔である請求項5に記載の扁平形非水電解質二次
電池。
【請求項8】
正極板の通電部および負極板の通電部が,作用物質含有層の形成箇所よりも
幅の狭い張り出し部である請求項2に記載の扁平形非水電解質二次電池。
3本件訂正の要旨
(1)訂正事項(本件の取消事由に関係するもののみを示す。)
ア訂正事項1-2
特許請求の範囲の請求項1に「前記正極板は,導電性を有する正極構
成材の表面に,正極作用物質を含有する作用物質含有層を有しており」
とあるのを,
「前記正極板は,導電性を有し,直線状の2辺が対向する部分を有す
る正極構成材の表面に,塗工により正極作用物質を含有する作用物質含
有層を有し,かつ前記正極構成材の連続した一部である幅の狭い張り出
し部に,前記正極構成材が露出している通電部を有しており」に訂正す
る(下線部は訂正部分である。以下同じ。)。
イ訂正事項1-3
特許請求の範囲の請求項1に「前記負極板は,導電性を有する負極構
成材の表面に,負極作用物質を含有する作用物質含有層を有しており」
とあるのを,
「前記負極板は,導電性を有し,直線状の2辺が対向する部分を有す
る負極構成材の表面に,塗工により負極作用物質を含有する作用物質含
有層を有し,かつ前記負極構成材の連続した一部である幅の狭い張り出
し部に,前記負極構成材が露出している通電部を有しており」に訂正す
る。
ウ訂正事項1-5
特許請求の範囲の請求項1に,
「前記電極群は両端の最外部と中間部とからなり,少なくとも中間部に
位置する前記各正極板及び前記各負極板は,前記各正極構成材及び前記
各負極構成材の両面に前記各作用物質含有層を有しており,」を追加す
る(なお,本件訂正に係る訂正請求書の「訂正事項」の項では,上記
「前記各」はいずれも「各前記」とされているが,同請求書の他の記載
より「前記各」の明らかな誤記と認める。)。
(2)訂正後の特許請求の範囲
訂正後の本件発明に係る特許請求の範囲記載の事項により特定される発
明(以下,請求項1に係る発明を「本件訂正発明」といい,その余の発明は
請求項の番号順に「本件訂正発明4」のようにいう。)は,以下のとおりで
ある。
【請求項1】
負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金属製の正極
ケースとが絶縁ガスケットを介して嵌合され,さらに前記正極ケースまたは
負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有し,その内部に,
少なくとも,正極板と負極板とがセパレータを介し多層積層されて対向配置
している電極群を含む発電要素と,非水電解質とを内包し,前記絶縁ガスケ
ットの開口が円形である,コイン形又はボタン形の扁平形非水電解質二次電
池において,
前記正極板は,導電性を有し,直線状の2辺が対向する部分を有する正
極構成材の表面に,塗工により正極作用物質を含有する作用物質含有層を有
し,かつ前記正極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張
り出し部に,前記正極構成材が露出している通電部を有しており,
前記負極板は,導電性を有し,直線状の2辺が対向する部分を有する負
極構成材の表面に,塗工により負極作用物質を含有する作用物質含有層を有
し,かつ前記負極構成材の直線状の部分から連続した一部である幅の狭い張
り出し部に,前記負極構成材が露出している通電部を有しており,
前記正極板の各通電部が,電池の扁平面に平行な方向において同方向を
向くように,かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するよ
うに配置され,
前記負極板の各通電部が,前記正極板の各通電部が露出している位置に
対向する位置において,電池の扁平面に平行な方向において同方向を向くよ
うに,かつセパレータが配置されている箇所よりも外側に露出するように配
置されていて,
前記各正極板同士及び前記各負極板同士が,それぞれの通電部の電気的
接続によって接続されており,
前記電極群は両端の最外部と中間部とからなり,少なくとも中間部に位
置する前記各正極板及び前記各負極板は,前記各正極構成材及び前記各負極
構成材の両面に前記各作用物質含有層を有しており,
前記電極群は,前記正極板,前記負極板および前記セパレータが電池の
扁平面に平行に積層されており,かつ前記セパレータを介して対向している
前記正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面が少
なくとも5面であり,
前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との
対向面積が,前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大きいことを特徴とする
扁平形非水電解質二次電池。
【請求項2】(削除)
【請求項3】(削除)
【請求項4】
電極群の最外部に位置する正極板は,前記電極群の最外部側の面におい
て,導電性を有する正極構成材が露出していて,前記正極構成材が直接また
は電気的に前記正極ケースに接続しているか,または,前記電極群の最外部
に位置する負極板は,前記電極群の最外部側の面において,導電性を有する
負極構成材が露出していて,前記負極構成材が直接または電気的に前記負極
ケースに接続している請求項1に記載の扁平形非水電解質二次電池。
【請求項5】
正極板における導電性を有する正極構成材および負極板における導電性
を有する負極構成材が,金属箔である請求項1又は4に記載の扁平形非水電
解質二次電池。
【請求項6】
正極板における金属箔がアルミニウム箔である請求項5に記載の扁平形
非水電解質二次電池。
【請求項7】
負極板における金属箔が銅箔である請求項5に記載の扁平形非水電解質
二次電池。
【請求項8】(削除)
4本件審決の理由の要旨
本件審決の理由は,別紙審決書(写し)記載のとおりであるが,要するに,
本件訂正はいずれも特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し,本件明
細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許請求の範囲
を拡張し,又は変更するものではなく,また,本件訂正発明4~7は,いずれ
も特許出願の際独立して特許を受けられないものとはいえないとして,本件訂
正を認めた上で,原告主張に係る無効理由によっては本件訂正発明に係る発明
の特許を無効にすることはできないとし,このうち訂正事項1-2,1-3及
び1-5については,概略以下のとおり判断したものである。
(1)訂正事項1-2及び1-3について
ア訂正事項1-2及び1-3は,特許請求の範囲の減縮を目的とするもの
に該当する。
イ訂正事項1-2及び1-3は,本件明細書の「本発明の電池において,
実際に電極群を作製,収納する方法については,…セパレータを介して
正極板および負極板を積層する際に,正極板の通電部がセパレータの配
置されている箇所よりも外側に露出し,負極板の通電部が,正極板の通
電部が露出している位置に対向する位置において,セパレータの配置さ
れている箇所よりも外側に露出する形で積層した後,正極は正極同士,
負極は負極同士おのおのの通電部を溶接などの方法により電気的に接続
し電極群を形成し,電池内に収納する方法が好ましい。正極板の通電部
と負極板の通電部とを上記のように配置することで,コイン形やボタン
形などの小さな扁平型非水電解質二次電池においても,正極板の通電部
と負極板の通電部との接触による内部ショートを防止できる。」(【0
017】)との記載,「(実施例1)実施例1の電池の製造方法を図1
の断面図を参照して説明する。…これらの電極を幅13mm,長さ13
mmの正方形の一辺に幅6mm,長さ2mmの張り出し部が付いた形状に切
り出し,次にこの張り出し部に形成された作用物質含有層をこそげ落と
し,アルミニウム層または銅層をむき出しとして通電部とし,幅13mm,
長さ13mmの作用物質含有層が形成された両面および片面塗工の正極板
並びに負極板を作製した。次に,…正極板の通電部および負極板の通電
部をそれぞれ溶接して,電極群を作製した。作成した電極群を85℃で
12h乾燥した後,開口径が20mmであり,開口面積が3.14㎠であ
る絶縁ガスケット6を一体化した負極金属ケース5の内底面に,電極群
の片面塗工負極板の未塗工側…が接するように配置し…」(【0026】
~【0031】)との記載及び図1の記載に基づくものであるから,本
件明細書の記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許
請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
ウこの点について,原告は,本件明細書には,正極構成材及び負極構成材
の形状を正方形とすることにより,電極群の製造を容易にし,高効率な
形状で可及的に電極面積を最大化する技術が記載されているといえると
ころ,訂正事項1-2及び1-3により追加しようとしている「直線状
の2辺が対向する部分を有する形状に含まれる」,例えば対向する直線
状の2辺を結ぶ線が曲線であるような形を採用する場合には,電極群の
製造が困難であって,低効率な形状で究極的に電極面積を最大化する,
という新たな技術上の意義が追加される旨主張する。
しかし,本件明細書には,実施例として正方形の正極構成材及び負極
構成材を使用する扁平型電池のみが記載されているものの(【002
9】),全体を見ても,正極構成材及び負極構成材について,その形状
が正方形に限定される旨の記載はない。そして,図1に示されるように,
正極板の通電部と負極板の通電部は,正極は正極同士,負極は負極同士
おのおの接合され,電極群が形成されるものであるところ,それぞれの
正極板,負極板は,接合のために通電部の曲げを要するものであり,ま
た,この曲げられた通電部が,隣接する対極の端部と接触することを避
けるためには,正極構成材及び負極構成材の形状としては,少なくとも
「直線状の2辺が対向する部分を有」していればよく,それ以外の部分
については任意の形状でよいものと認められる。
加えて,本件明細書には,「正極構成材及び負極構成材の形状を正方
形とすることにより,電極群の製造を容易にし,高効率な形状で可及的
に電極面積を最大化する」旨記載されているわけではなく,原告のいう,
例えば「対向する直線状の2辺を結ぶ線が曲線であるような形状を有す
る電極群」の製造が,正方形の場合と比べて格別困難であるとも認めら
れない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(2)訂正事項1-5について
ア訂正事項1-5は,特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
イ訂正事項1-5は,本件明細書【0019】,【0021】,【003
0】,【0032】~【0034】の記載に基づくものであるから,本
件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであり,実質上特許
請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
ウこの点について,原告は,訂正前の本件発明の目的及びこれに対応する
構成と訂正事項1-5を含む本件訂正発明の目的及びこれに対応する構
成とを対比すると,訂正前は,重負荷放電特性が格段に優れた扁平型非
水電解質二次電池を提供することを目的とし,「セパレータを介して対
向している電極群内の正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物質
含有層との対向面を少なくとも5面とする」ことによってこの目的を達
成しているのに対し,訂正後は,容積効率が改善された扁平型非水電解
質二次電池を提供することを目的とし,「電極群の中間部に位置する各
正極板及び各負極板が,各正極構成材及び各負極構成材の両面に各作用
物質含有層を有する」ことによってこの目的を達成していることから,
訂正事項1-5を含む訂正は,特許請求の範囲に記載されている発明の
目的を変更するものである旨主張する。
しかし,本件訂正は,訂正前に記載されていた「セパレータを介して
対向している電極群内の正極板の作用物質含有層と前記負極板の作用物
質含有層との対向面を少なくとも5面とする」との事項に,「電極群の
中間部に位置する各正極板及び各負極板が,各正極構成材及び各負極構
成材の両面に各作用物質含有層を有する」との事項を直列的に付加する
ものであり,訂正後においても,重負荷放電特性が格段に優れた扁平型
非水電解質二次電池を提供することを目的としていることは明らかであ
って,訂正事項1-5を含む訂正が,目的を変更するものであるとはい
えないから,上記主張は採用できない。
第3当事者の主張
1原告の主張
(1)取消事由1(訂正の適否の判断における訂正事項1-2及び1-3につ
いての判断の誤り)
ア本件審決は,訂正事項1-2及び1-3について,本件明細書の【00
17】,【0026】~【0031】及び図1の記載に基づくものであ
るから,本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものであると
する。
しかし,以下のとおり,訂正事項1-2及び1-3は,新規な技術的
事項を導入するものであり,本件明細書に記載した事項の範囲内におい
てなされたものということはできず,特許法(以下「法」という。)1
34条の2第9項,126条5項所定の訂正の要件を欠き,不適法であ
る。
イ(ア)特許請求の範囲等の訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範
囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしなければならないところ
(法134条の2第9項,126条5項),願書に添付した明細書等の
全ての記載から導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項
を導入したとされる場合は,新規事項の追加となり,当該訂正は「明細
書又は図面に記載した事項の範囲内において」なされたものということ
はできないと解される。
(イ)本件において,訂正事項1-2は,正極構成材の形状を「直線状の
2辺が対向する部分を有する」ものとし,訂正事項1-3は,負極構
成材の形状を「直線状の2辺が対向する部分を有する」ものとするも
のである。
ここで,本件明細書の記載(【0009】,【0012】~【001
5】)によれば,本件明細書から導かれる本件発明の技術的意義は,小
型の扁平型非水電解質二次電池において,電極群内の正負極の電極面積
を増大させることによって,重負荷放電特性を従来にないレベルまで引
き上げるという課題を解決したことにあることが理解できる。また,電
極面積を増大させるための構成としては,扁平形電池の扁平面に対して
平行に正負極対向部を持つように電極を積層した電極群として収納する
構成が好ましいとされている。
このように,本件発明の技術的意義は,扁平形電池の扁平面に対して
平行に正負極対向部を持つように電極を積層した電極群として収納する
構成を採用し,電極面積を極力大きく取ることにより,従来よりも重負
荷放電特性を格段に向上させたところにある。そして,この目的を達成
するために,電極群を構成する正極構成材及び負極構成材の形状を極力
面積が大きくなるような形状とすることは,明細書等の明示的な記載が
なくとも当業者であれば当然に考えることであり,本件発明の技術的事
項となっている。
本件明細書には,実施例1として,正極構成材及び負極構成材の形状
を正方形とするものが開示されている(【0029】。なお,実施例2
~4も正極構成材及び負極構成材の形状は実施例1と変わらない。【0
032】~【0034】)。これは,コイン型の二次電池においては,
その内部の積層された電極群を構成する正極構成材及び負極構成材の形
状を正方形とすることにより,最も効率よく電極の面積を最大限に確保
し得,本件発明の目的を達成し得ることによる。そうすると,正極構成
材及び負極構成材の形状を円形内において正方形のように極力電極の面
積が大きくなる形状とすることは,本件発明の技術的事項を構成するも
のということができる。
他方,正極構成材及び負極構成材の形状を,同じ円形内において,正
方形ではなく,より面積が小さくなり得る形状(台形,長方形等)にす
ると,電極の面積を極力大きく取るという本件発明の目的と反すること
になるから,このような形状を採用することは本件発明の技術的事項に
含まれているとはいえない。本件明細書を見ても,正極構成材及び負極
構成材の形状を同じ円形内において正方形以外の正方形よりも面積が小
さくなり得る形状とし得ることを示唆する記載は存しない。そうすると,
正極構成材及び負極構成材の形状を同じ円形内において正方形以外の正
方形よりも面積が小さくなり得る形状とすることは,本件発明の技術的
事項との関係では新たな技術的事項を追加するものである。
そして,「直線状の2辺が対向する部分を有する」形状には,正方形
のみならず,長方形,台形等それ以外の四角形も含まれ,さらに,対向
する直線状の2辺を結ぶ線が曲線であるような任意の形も含まれ得る。
そうである以上,正極構成材及び負極構成材の形状につき上記形状と
訂正することは「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」さ
れたものということはできない。本件審決は,本件発明の技術的意義が
「電極の面積を極力大きく取る」ことにあることを看過し,誤った判断
をしたものである。このことは,訂正前の正極構成材及び負極構成材の
構成が正方形に限定されず,正方形よりも面積が大きい形状を含むと解
した場合でも同様である。
(2)取消事由2(訂正の適否の判断における訂正事項1-5についての判断
の誤り)
ア本件審決は,訂正事項1-5に係る訂正について,本件明細書の【00
19】,【0021】,【0030】,【0032】~【0034】の
記載に基づくものであるから,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変
更するものではないとする。
しかし,以下のとおり,訂正事項1-5は,訂正前の本件発明との関
係で新たな目的や効果を追加するものであって,実質上特許請求の範囲
を変更するものであるから,法134条の2第9項,126条6項所定
の訂正の要件を欠き,不適法である。
イ(ア)明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,実質上特許請求の範囲
を拡張し,又は変更するものであってはならない(法134条の2第9
項,126条6項)。ここで,実質的変更に該当するか否かの判断は,
訂正前後の発明の目的,効果を比較し,新たな別の目的,効果を追加し
たものであるかどうか,訂正前の発明の目的,効果を逸脱するようなも
のであったかなどを基準に行われるべきであり,新たな目的や効果を追
加するような訂正は,実質上特許請求の範囲を変更するものと解すべき
である。
(イ)訂正事項1-5は,少なくとも電極群の中間部に位置する正極構成
材及び負極構成材の「両面に」「作用物質含有層」を有する構成とす
る訂正であるが,これは,訂正前の本件発明との関係で,新たな目的
や効果を追加するものである。
すなわち,本件発明の技術的意義は,小型の扁平形非水電解質二次電
池において,扁平形電池の扁平面に対して平行に正負極対向部を持つよ
うに電極を積層した電極群として収納する構成を採用し,電極群内の正
負極の電極面積を増大させることによって,重負荷放電特性を従来にな
いレベルまで引き上げるという課題を解決したことにある。換言すれば,
本件発明の目的は,小型の扁平形非水電解質二次電池の重負荷放電特性
を如何にして従来にないレベルまで引き上げるかという課題を解決する
ために,重負荷放電特性が格段に優れた扁平形非水電解質二次電池を提
供することである(本件明細書【0009】)。
また,本件発明の効果は,扁平形電池の持つ電池サイズが小さく,か
つ生産性に優れるという利点を維持したまま,重負荷放電時の放電容量
を従来の電池に対し格段に大きくすることができるので,工業的価値の
優れた扁平形非水電解質二次電池を提供することができるというもので
ある(本件明細書【0015】)。
他方,訂正事項1-5は,少なくとも電極群の中間部に位置する正極
構成材及び負極構成材の「両面に」「作用物質含有層」を有する構成と
するものである。そして,本件審決が示す本件明細書の記載のうち【0
021】には「電極については正極板,負極板とも,…金属箔に作用物
質を含む合剤層を塗工した電極を用いる場合は,電極群の内部に用いる
電極は金属箔の両面に作用物質含有層を形成したものを用いることが,
容積効率の上から好ましく,…」(下線は原告が付したもの。)との記
載がある。この記載によれば,少なくとも電極群の中間部に位置する正
極構成材及び負極構成材の「両面に」「作用物質含有層」を有するとい
う訂正事項1-5に係る構成を採用した発明の目的は,「容積効率」を
改善することであり,この構成を採用することによって,容積効率の改
善という効果が生じるものと理解される。
そうすると,訂正前の本件発明は,重負荷放電特性が格段に優れた扁
平形非水電解質二次電池を提供するという目的を達成するために,扁平
形電池の扁平面に対して平行に正負極対向部を持つように電極を積層し
た電極群として収納する構成を採用することによって,電極の対向面積
の総和を大きくし,重負荷放電時の放電容量が従来の電池に対し格段に
大きくなるという効果を奏する発明であるのに対し,訂正事項1-5に
係る訂正後の本件発明は,容積効率が改善された扁平形非水電解質二次
電池を提供するという目的を達成するために,電極群の中間部に位置す
る正極構成材及び負極構成材の両面に作用物質含有層を有することによ
って,容積効率が改善されるという効果を奏する発明である,というこ
とができる。
そうすると,訂正事項1-5は,訂正前の本件発明との関係で,新た
な目的や効果を追加するものであって,実質上特許請求の範囲を変更す
るものとなる。したがって,訂正事項1-5は,法134条の2第9項,
126条6項所定の訂正の要件を欠き,不適法である。
(3)取消事由1及び2が存在することによる無効理由1の判断における本件
発明の認定の誤り
本件審決は,本件訂正を認めた上で,無効理由1(本件特許につき法2
9条の2違反とするもの)について,本件訂正発明は特開2000-164
259号公報(甲1。以下「甲1文献」という。)の願書に最初に添付され
た明細書及び図面に記載された発明と同一であるとはいえないとした。
しかし,取消事由1及び2として主張したとおり,訂正事項1-2,1
-3及び1-5は,いずれも訂正要件に違反するものであり,同一請求項内
の複数の訂正事項のうち1つでも訂正要件違反が認められる場合は,全体と
して訂正要件違反とされることから,請求項1に係る訂正は全体として訂正
要件違反となる。そうすると,本件においては,訂正事項1-1~1-5は
全て認められず,結局,判断の対象となるのは訂正前の本件発明となる。そ
して,本件第1次判決において認定されたとおり,訂正前の本件発明は,甲
1文献記載の発明と実質的に同一であり,新規性を欠く。
しかるに,本件審決は本件訂正を認め,本件発明が訂正後の特許請求の
範囲の請求項1に記載される事項により特定されることを前提に,本件発明
と甲1文献記載の発明とは同一であるとはいえないと認定・判断したもので
あり,本件発明の認定を誤った結果,新規性の判断を誤ったことから,取り
消されるべきである。
2被告の主張
(1)取消事由1(訂正の適否の判断における訂正事項1-2及び1-3につ
いての判断の誤り)に対し
ア特許請求の範囲の減縮を目的として特許請求の範囲に限定を付加する訂
正を行う場合において,付加される訂正事項が明細書もしくは図面に明
示的に記載されている事項又は明細書もしくは図面の記載から自明であ
る事項であるとき,そのような訂正は,新たな技術的事項を導入するも
のではなく「明細書又は図面に記載された事項の範囲内において」した
訂正であり,新規事項の追加に該当しないというべきである。原告が主
張するように,新規事項に当たるかどうかを願書に添付した明細書等の
全ての記載から導かれる技術的事項に含まれるか否かにより判断するの
は相当ではない。
イ本件審決が認定したとおり,本件明細書には,実施例として正方形の正
極構成材及び負極構成材を使用する扁平形の非水電解質二次電池のみが
記載されているものの(【0029】),その全体を見ても,正極構成
材及び負極構成材について,その形状が正方形に限定される旨の記載は
ない。
また,【図1】にも示されるように,本件発明の正極板及び負極板は,
該正極板の通電部と該負極板の通電部とが対向する位置になるよう交互
に積層され,その通電部は,正極は正極同士,負極は負極同士おのおの
接合され,電極群が形成されるものである。正極板の通電部と負極板の
通電部とをこのように配置することで,コイン形やボタン形などの小さ
な扁平形非水電解質二次電池においても,正極板の通電部と負極板の通
電部との接触による内部ショートを防止できる(【0017】)。それ
ぞれの正極板,負極板は,接合のために通電部の曲げを要するものであ
り,正極構成材,負極構成材のそれぞれにおいて,作用物質含有層を有
する部分と作用物質含有層のない露出部分との境界で曲げられている。
この曲げられた通電部が,隣接する対極の端部と接触することを避ける
ためには,正極構成材及び負極構成材の形状としては,少なくとも「直
線状の2辺が対向する部分を有する」形状であればよく,その他の部分
については任意の形状でよい。この点からも,正極構成材及び負極構成
材の形状が正方形に限定される理由はない。
さらに,本件明細書には,本件発明に係るコイン形やボタン形の扁平
形非水電解質二次電池が,従来のリチウムイオン電池のような円筒型あ
るいは角型の電池に比べ,生産性に優れ,小型化が可能であることは記
載されているものの(【0014】,【0018】,【0019】等),
原告が主張する「正極構成材及び負極構成材の形状を円形内において正
方形のように極力電極の面積が大きくなる形状とする」ことが訂正前の
本件発明の技術的事項ないし技術的意義である旨の記載もない。
したがって,訂正事項1-2及び1-3はいずれも新規事項の追加に
は当たらない。
ウまた,正極構成材及び負極構成材の形状を「円形内において極力電極の
面積が大きくなる形状とする」ためには,正方形よりも面積が大きい形
状として,例えば「対向する直線状の2辺の間を円形内縁に沿う曲線で
結んだ形状」とすることも可能である。扁平型非水電解質二次電池の実
際の製品としても,例えば被告においてそのような製品は存在する。
エ以上より,取消事由1は理由がない。
(2)取消事由2(訂正の適否の判断における訂正事項1-5についての判断
の誤り)に対し
ア実質上特許請求の範囲の拡張・変更となる訂正の禁止(法126条6項)
は,訂正前の特許請求の範囲には含まれない発明が訂正後の特許請求の
範囲に含まれることとなるのを禁止して,第三者に不測の不利益が生じ
ないことを担保する趣旨の規定であり,訂正事項により付加された目的
ないし作用効果が特許請求の範囲の減縮に伴って付随して生ずる副次的
なものにとどまる訂正は,訂正前の発明の目的ないし作用効果の範囲内
のものであるから,訂正前の特許請求の範囲を実質上変更するものでは
ないというべきである。原告が主張するように,訂正前の本件発明との
関係で新たな目的や効果を追加するものであるか否かにより判断するの
は相当ではない。
イ本件審決が正しく認定するように,本件訂正発明は,訂正前の請求項1
に記載されていた「セパレータを介して対向している電極群内の正極板
の作用物質含有層と前記負極板の作用物質含有層との対向面を少なくと
も5面にする」との構成を備えており,訂正事項1-5は,この構成を
前提として,更に「電極群の中間部に位置する各正極板及び各負極板が,
各正極構成材及び各負極構成材の両面に各作用物質含有層を有する」と
の構成を直列的に付加するものである。すなわち,訂正事項1-5に係
る訂正後の発明も,重負荷放電特性が格段に優れた扁平形非水電解質二
次電池を提供することを目的としていることは明らかであり,この目的
は訂正後においても失われていない。
また,訂正事項1-5は,上記のとおり構成を直列的に付加するもの
であり,特許請求の範囲の縮減を目的とするものであって,これにより
訂正前の本件発明に含まれない発明が訂正後の請求項1に含まれること
になるものではないから,第三者に不測の不利益を生じるおそれはない。
そうすると,訂正事項1-5により付加された「容積効率の改善」と
の目的ないし作用効果は,訂正事項1-5の前記構成が直列的に付加さ
れて特許請求の範囲の減縮がされたことに伴い,付随して生ずる副次的
な目的ないし作用効果であり,訂正前の本件発明の目的ないし作用効果
の範囲内のものということができる。
したがって,訂正事項1-5は,訂正前の特許請求の範囲を実質上変
更するものではない。取消事由2は理由がない。
(3)以上のとおり,訂正事項1-2,1-3及び1-5は,いずれも訂正要
件に違反するものではないから,本件審決による本件発明の認定に誤りはな
く,甲1文献記載の発明とは実質的に同一ではないから,本件審決に取り消
すべき理由はない。
第4当裁判所の判断
1本件発明
(1)本件発明に係る特許請求の範囲は,訂正前及び訂正後につき,それぞれ
前記(第2の2及び3)のとおりである。
(2)本件明細書の記載
本件明細書には,以下の記載がある(甲12)。
ア発明の属する技術分野
本発明は,扁平形非水電解質二次電池に関するものであり,特に,重
負荷放電特性の向上した扁平形非水電解質二次電池に関するものである。
(【0001】)
イ背景技術
正極作用物質にMnO2やV2O5などの金属酸化物,フッ化黒鉛などの無機
化合物,またはポリアニリンやポリアセン構造体などの有機化合物を用
い,負極に金属リチウム,リチウム合金,ポリアセン構造体などの有機
化合物,リチウムを吸蔵,放出可能な炭素質材料,またはチタン酸リチ
ウムやリチウム含有珪素酸化物のような酸化物を用い,電解質にプロピ
レンカーボネート,エチレンカーボネート,ブチレンカーボネート,ジ
エチルカーボネート,ジメチルカーボネート,メチルエチルカーボネー
ト,ジメトキシエタン,γ-ブチルラクトンなどの非水溶媒にLiClO4,
LiPF6,LiBF4,LiCF3SO3,LiN(CF3SO2)2,LiN(C2F5SO2)2などの支持塩を溶
解した非水電解質を用いたコイン形やボタン形などの電池総高に対して
電池最外径が長い扁平形非水電解質二次電池は既に商品化されており,
放電電流が数~数十µA程度の軽負荷で放電が行われるSRAMやRTCのバ
ックアップ用電源や電池交換不要腕時計の主電源といった用途に適用さ
れている。(【0002】)
これらのコイン形やボタン形などの扁平形非水電解質二次電池は,一
般に図2に示したような構造を有している。すなわち,負極端子を兼ね
る金属製の負極ケース5と正極端子を兼ねる金属製の正極ケース1とが
絶縁ガスケット6を介して嵌合され,さらに正極ケース1が加締め加工
により加締められた封口構造を有し,その内部に絶縁ガスケット6の開
口径より一回り直径が小さいタブレット状の正極2および負極4が,そ
れぞれ1枚ずつ,非水電解質を含浸させた単層または多層のセパレータ
3を介して対向配置された構造である。(【0003】)
上述のコイン形やボタン形などの扁平形非水電解質二次電池は製造が
簡便であり,量産性に優れ,長期信頼性や安全性に優れるという長所を
持っている。また,構造が簡便であることから,これらの電池の最大の
特徴として小型化が可能であることが挙げられる。(【0004】)
一方,携帯電話やPDAなどの小型情報端末を中心に使用機器の小型化
が加速されており,これに伴い主電源である二次電池についても小形化
を図ることが必須とされている。従来,これらの電源には正極作用物質
にコバルト酸リチウムなどのリチウム含有酸化物,負極に炭素質材料を
用いたリチウムイオン二次電池や,正極作用物質にオキシ水酸化ニッケ
ル,負極作用物質に水素吸蔵合金を用いたニッケル水素二次電池などの
アルカリ二次電池が使用されてきたが,これらの電池は金属箔または金
属ネットからなる集電体に作用物質層を塗布または充填し電極を形成後,
電極中心部にタブ端子を溶接し,その後,巻回または積層して電極群と
し,さらに電極群の中心部から取り出したタブ端子を複雑に曲げ加工を
行い,安全素子や封口ピン,電池缶などに溶接して電池を製作していた。
(【0005】)
上述したようにこれらの電池は,複雑な製造工程を経て製作されるた
めに作業性が劣り,また部品の小型化も困難であり,さらに,タブ端子
のショート防止に電池内に空間を設けたり,安全素子などの多数の部品
を電池内に組込む必要があり,電池の小型化に際しても現状ではほぼ限
界に達していた。(【0006】)
【図2】
ウ発明が解決しようとする課題
そこで,本発明者らは電池の小型化に際し円筒形や角形のリチウムイ
オン二次電池やニッケル水素二次電池の小型化ではなく,前段に述べた
扁平形非水電解質二次電池の高出力を図ることを試みた。まず,本発明
者らは,正極作用物質に高容量で高電位なコバルト酸リチウムを,負極
作用物質に高容量で電圧平坦性の良好な黒鉛化した炭素質材料をそれぞ
れ使用し,従来の扁平形非水電解質二次電池の製造や構造に従い,正極
および負極をガスケットより一回り小さいタブレット状に成形加工して
電池を作製した。(【0007】)
しかしながら,このように作製された電池は,従来の扁平形非水電解
質二次電池に比べて優れた特性は得られたものの,小型携帯機器の主電
源として要求される大電流で放電した場合の特性に対しては遥かに不十
分であり,小型携帯機器の主電源としては到底満足できるレベルではな
かった。(【0008】)
小型の扁平形非水電解質二次電池の重負荷放電特性を如何にして従来
にないレベルまで引き上げるかが本発明の課題であり,重負荷放電特性
が格段に優れた扁平形非水電解質二次電池を提供することが本発明の目
的である。(【0009】)
エ課題を解決するための手段
本発明者らは前述の扁平形非水電解質二次電池の重負荷放電特性の向
上に関し鋭意研究を重ねた結果,従来の扁平形非水電解質二次電池に比
べて電極面積を格段に大きくすることで重負荷放電特性が飛躍的に向上
することを見出した。(【0010】)
すなわち,負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる
金属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介し嵌合され,さらに前記正
極ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を
有し,その内部に,少なくとも,正極板と負極板とがセパレータを介し
て対向配置している電極群を含む発電要素と,非水電解質とを内包した
扁平形非水電解質二次電池において,前記電極群内の正極板の作用物質
含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積(以下,「正負極の対向
面積」や,単に「対向面積」と省略する場合がある。)を,前記絶縁ガ
スケットの開口面積よりも大きくすることで,重負荷放電特性が著しく
優れた扁平形非水電解質二次電池を提供できることを見出した。(【0
011】)
重負荷放電特性を向上させるためには電極面積を増大させることが有
効であると推察されるが,従来の扁平形非水電解質二次電池ではタブレ
ット状の正極および負極をそれぞれ1枚ずつ絶縁ガスケットに内接する
形で電池内に収容していたため,正負極がセパレータを介して対向する
対向面積はどうしても絶縁ガスケットの開口面積より一回りほど小さく
せざるを得なかった。ガスケットを肉薄にするなどして多少の電極面積
の拡大を図ることは可能であるが,ガスケットの開口面積を上回るよう
な対向面積を持つ電極を電池内に収納することは理論的に不可能であっ
た。(【0012】)
そこで,本発明者らは従来技術からの大胆な発想の転換を図り,コイ
ン形やボタン形などの非常に小さな扁平形電池の電池ケース内に電極を
多層配置することで,電極群内の正負極の対向面積の総和が絶縁ガスケ
ットの開口面積よりも大きな電極群を収納することを可能にした。つま
り,円筒形や角形などの容積の大きな二次電池では数十層を有する電極
を収納している例があるが,これらの電池は前述のように構造が複雑で
あり,そのままの電池の電池構造をコイン形やボタン形などの小型の扁
平形非水電解質二次電池に適用することは困難であった。また,たとえ
適用したとしても小型であることや生産性に優れるといった扁平形非水
電解質二次電池の利点を維持することは不可能であるため,コイン形や
ボタン形などの小型の扁平形非水電解質二次電池に絶縁ガスケットの開
口面積よりも大きな正負極の対向面積を有する電極群を収納しようとい
う取組みは過去にされなかった。(【0013】)
以下,如何にして本発明者らが本発明の扁平形非水電解質二次電池を
実現したかを説明する。まず,正負極の対向面積がガスケットの開口面
積より大きな電極を扁平形非水電解質二次電池内に収納する形態につい
ては種々の形態が考えられるが,その中で扁平形電池の扁平面に対して
平行に正負極対向部を持つように電極を積層した電極群として収納する
ことが好ましいことが分かった。なぜなら,優れた重負荷放電特性を得
るためには,電極面積を極力大きくとることと,部品点数を極力減らし,
小さな電池内のスペースを有効に活用し,電極群と放電に必要な量の非
水電解質を電池内に収納する必要があり,上記のような扁平面に対して
平行に正負極対向部を持つように電極を積層した電極群とするような収
納方法,例えば正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層とが
セパレータを介し対向している正負極対向面を少なくとも3面有する電
極群とするような収納方法とすることでこれらを実現できることが分か
った。また,この収納方法によると電極を除く電池の組立方法が従来の
タブレット状電極を用いた扁平形電池の製造方法に近く,従来の生産設
備の一部流用が可能である上,生産性やコストといった実用面において
も優れており量産する上でも好ましい。(【0014】)
オ発明の効果
本発明によれば,扁平型電池の持つ電池サイズが小さく,かつ生産性
に優れるという利点を維持したまま,重負荷放電時の放電容量が従来の
電池に対し格段に大きくすることができるので,工業的価値の優れた扁
平型非水電解質二次電池を提供することができる。(【0015】)
カ発明を実施するための形態
本発明の電池において,実際に電極群を作製,収納する方法について
は,電極の一部に通電部を設けた正極板および負極板を用意し,セパレ
ータを介して正極板および負極板を積層する際に,正極板の通電部がセ
パレータの配置されている箇所よりも外側に露出し,負極板の通電部が,
正極板の通電部が露出している位置に対向する位置において,セパレー
タの配置されている箇所よりも外側に露出する形で積層した後,正極は
正極同士,負極は負極同士おのおのの通電部を溶接などの方法により電
気的に接続し電極群を形成し,電池内に収納する方法が好ましい。正極
板の通電部と負極板の通電部とを上記のように配置することで,コイン
形やボタン形などの小さな扁平形非水電解質二次電池においても,正極
板の通電部と負極板の通電部との接触による内部ショートを防止できる。
(【0017】)
次に,電極群と外部端子を兼ねる電池金属ケースとの接続方法につい
て説明する。前述したように,円筒形や角形などの比較的大きなリチウ
ムイオン二次電池では電極群の中心部や巻き芯部にタブ端子を溶接して
それを曲げ加工して安全素子や封口ピンに溶接し集電を行っている。し
かしながら,曲げ工程は工程自体が複雑なために生産性に劣る上,内部
ショートを防止するため電池内に空間を持たせたり,電極群との間に絶
縁板を挿入する必要があった。また,タブ端子を電極に溶接している部
分に応力が加わるとセパレータを突き破ったり,電極の変形が起こるた
め絶縁テープで保護したり,巻き芯部に空間を設ける必要があり,電池
の内容積を有効に使用することはできなかった。そのため,電池の内容
積が小さなコイン形やボタン形の扁平形非水電解質二次電池ではこれら
の集電方法は適用できず,新たな集電方法を考案する必要があった。
(【0018】)
そこで,本発明者らは電極群の最外部に位置する正極板において,金
属箔などの導電性を有する正極構成材を露出させ,電極群の最外部に位
置する負極板において,金属箔などの導電性を有する負極構成材を露出
させた形状を持つ電極群を作製し,おのおのの電極構成材を正極および
負極の電池ケースに接触させることにより,電極群と電池ケースとの集
電を確保することを見出した。この方法によれば,電極群と電池ケース
との間に無駄な空間や絶縁板を設ける必要もなく,放電容量を増やすこ
とができる。また,電池ケースや電極とタブ端子がショートを起こすこ
ともなく,安全性や信頼性も優れている。(【0019】)
更に,本発明のような封口構造を持つ扁平形電池では,電池ケースの
加締め加工によって負極ケースと正極ケースの扁平面に対して垂直方向
に応力が加わっており,本集電方法によると電極群の平面方向に均一な
加圧力が加わり,充放電を円滑に行うことができる。なお,電極群の電
極構成材露出部と電極ケースの接触は直接,接していてもよいし,金属
箔や金属ネット,金属粉末,炭素フィラー,導電性塗料などを介して電
気的に間接的に接していてもよい。(【0020】)
電極については正極板,負極板とも,肉薄電極の作製が行い易いとい
う点で金属箔にスラリー状の合剤を塗布,乾燥したものがよく,さらに
それを圧延したものを用いることもできる。上記のような金属箔に作用
物質を含む合剤層を塗工した電極を用いる場合は,電極群の内部に用い
る電極は金属箔の両面に作用物質含有層を形成したものを用いることが,
容積効率の上から好ましく,電極群の両端の電池ケースに接触する電極
構成材露出部については作用物質含有層でも構わないが,接触抵抗を低
減させるために電極構成材のうち,特に金属箔を露出させることが好ま
しい。これに関してはこの部分に限り片面にのみ作用物質含有層を形成
した電極を用いてもよいし,一旦両面に作用物質含有層を形成した後,
片面のみ作用物質含有層を除去してもよい。(【0021】)
一方,本発明の電池は電極を含めた電池の構造に主点をおいたもので
あり,正極作用物質については限定されるものではなく,MnO2,V2O5,
Nb2O5,LiTi2O4,Li4Ti5O12,LiFe2O4,LiMn2O4,Li4Mn5O12,Li0.33MnO2,コバ
ルト酸リチウム,ニッケル酸リチウム,マンガン酸リチウムなどの金属
酸化物;フッ化黒鉛;FeS2などの無機化合物;ポリアニリンやポリアセン
構造体などの有機化合物;など,あらゆるものが適用可能である。ただ
し,この中でも,作動電位が高くサイクル特性に優れるという点で,コ
バルト酸リチウム,ニッケル酸リチウム,マンガン酸リチウムやそれら
の混合物,それらの元素の一部を他の金属元素で置換したリチウム含有
酸化物がより好ましく,長期間に亘り使用されることもある扁平形非水
電解質二次電池においては,高容量で電解液や水分との反応性が低く化
学的に安定であるという点で,コバルト酸リチウムがさらに好ましい。
(【0022】)
また,本発明の電池の負極作用物質については限定されるものではな
く,金属リチウム;Li-Al,Li-In,Li-Sn,Li-Si,Li-Ge,Li-Bi,Li-Pbなどの
リチウム合金;ポリアセン構造体などの有機化合物;リチウムを吸蔵,
放出可能な炭素質材料;Nb2O5,LiTi2O4,Li4Ti5O12やLi含有珪素酸化物や
Li含有錫酸化物のような酸化物;Li3Nのような窒化物;など,あらゆるも
のが適用可能であるが,サイクル特性に優れ,作動電位が低く,高容量
であるという点で,Liを吸蔵,放出可能な炭素質材料が好ましく,特に放
電末期においても電池作動電圧の低下が少ないという点で,天然黒鉛や
人造黒鉛,膨張黒鉛,メソフェーズピッチ焼成体,メソフェーズピッチ
繊維焼成体などの,d002の面間隔が0.338nm以下の黒鉛構造が発達し
た炭素質材料がより好ましい。(【0023】)
なお,これまで,本発明の電池について,主としてコイン形やボタン
形などの電池総高に対して電池最外径が長い扁平形電池について説明し
たが,本発明電池はこれのみに限定するものではなく,小判形や角形な
どの特殊形状を有する扁平形電池も本発明の電池に包含される。(【0
024】)
キ実施例及び比較例
(ア)実施例1
実施例1の電池の製造方法を図1の断面図を参照して説明する。
(【0026】)
まず,LiCoO2100質量部に対し,導電剤としてアセチレンブラ
ック5質量部と黒鉛粉末5質量部を加え,結着剤としてポリフッ化ビニ
リデン5質量部を加え,N-メチルピロリドンで希釈,混合し,スラリ
ー状の正極合剤を得た。次に,この正極合剤を,正極集電体2aである
厚さ0.02mmのアルミニウム箔の片面にドクターブレード法により
塗工,乾燥を行い,アルミニウム箔表面に正極作用物質含有層2bを形
成した。以後,作用物質含有層の塗膜厚さが0.39mmとなるまで塗
工,乾燥を繰り返し,片面塗工正極板を作製した。次に,この片面塗工
正極板と同様の方法によりアルミニウム箔の両面に正極作用物質含有層
の塗膜厚さが片面当たり0.39mmとなるように両面塗工し正極板を
作製した。(【0027】)
次に,黒鉛化メソフェーズピッチ炭素繊維粉末100質量部に結着剤
としてスチレンブタジエンゴム(SBR)とカルボキシメチルセルロース
(CMC)とを,それぞれ2.5質量部添加し,イオン交換水で希釈,
混合してスラリー状の負極合剤を得た。この負極合剤を負極集電体4a
である厚さ0.02mmの銅箔に作用物質含有層4bの厚さが0.39
mmとなるように正極の場合と同様に塗工,乾燥を繰り返し実施し,片
面塗工負極板を作製した。次に,この片面塗工負極板と同様の方法によ
り銅箔の両面に負極作用物質含有層の塗膜厚さが片面当たり0.39
mmとなるように両面塗工負極板を作製した。(【0028】)
これらの電極を幅13mm,長さ13mmの正方形の一辺に幅6mm,
長さ2mmの張り出し部が付いた形状に切り出し,次にこの張り出し部
に形成された作用物質含有層をこそげ落とし,アルミニウム層または銅
層をむき出しとして通電部とし,幅13mm,長さ13mmの作用物質
含有層が形成された両面および片面塗工の正極板並びに負極板を作製し
た。(【0029】)
次に,片面塗工正極板の正極作用物質含有層形成部に,厚さ25µm
のポリエチレン微多孔膜からなるセパレータ3を介し両面塗工負極板を
通電部が先の正極板と対向する位置に設置し,さらに,セパレータ3を
介し,両面塗工正極板を通電部が先の正極板と同方向に向くように設置
し,さらにセパレータ3を介し,このセパレータ面に負極作用物質含有
層4bが接するように片面塗工負極板の通電部が先の負極板と同方向に
向くように設置し,正極板の通電部および負極板の通電部をそれぞれ溶
接して,電極群を作製した。(【0030】)
作製した電極群を85℃で12h乾燥した後,開口径が20mmであ
り,開口面積が3.14㎠である絶縁ガスケット6を一体化した負極金
属ケース5の内底面に,電極群の片面塗工負極板の未塗工側(すなわち,
負極集電体4a)が接するように配置し,エチレンカーボネートとメチ
ルエチルカーボネートを体積比1:1の割合で混合した溶媒に支持塩と
してLiPF6を1mol/lの割合で溶解させた非水電解質を注液し,さらに電
極群の片面塗工正極板の未塗工側(すなわち正極集電体2a)に接する
ようにステンレス製の正極ケース1を嵌合し,上下反転後,正極ケース
に加締め加工を実施し,封口して,厚さ3mm,直径φ24.5mmの
実施例1の扁平形非水電解質二次電池を作製した。この電池のセパレー
タを介した正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向
面の面数は計3面であり,正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質
含有層との対向面積の総和は5.1㎠である。(【0031】)
【図1】
(イ)実施例2
電極群内の正極板および負極板の片面当たりの作用物質含有層の塗膜
厚さがそれぞれ0.22mmであり,かつ電極群中間部の両面塗工正極
板および両面塗工負極板の積層枚数がそれぞれ2枚であること以外は実
施例1と同様に電池を作製した。この電池のセパレータを介した正極板
の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面の面数は計5面
であり,正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面
積の総和は8.5㎠である。(【0032】)
(ウ)実施例3
電極群内の正極板および負極板の片面当たりの作用物質含有層の塗膜
厚さがそれぞれ0.15mmであり,かつ電極群中間部の両面塗工正極
板および両面塗工負極板の積層枚数がそれぞれ3枚であること以外は実
施例1と同様に電池を作製した。この電池のセパレータを介した正極板
の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面の面数は計7面
であり,正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面
積の総和は11.8㎠である。(【0033】)
(エ)実施例4
電極群内の正極板および負極板の片面当たりの作用物質含有層の塗膜
厚さがそれぞれ0.11mmであり,かつ電極群中間部の両面塗工正極
板および両面塗工負極板の積層枚数がそれぞれ4枚であること以外は実
施例1と同様に電池を作製した。この電池のセパレータを介した正極板
の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面の面数は計9面
であり,正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面
積の総和は15.2㎠である。(【0034】)
(オ)比較例1
LiCoO2100質量部に対し導電剤としてアセチレンブラック5質
量部と黒鉛粉末5質量部と加え,結着剤としてポリ4フッ化エチレン5
質量部を加え,混合後,粉砕して,顆粒状の正極合剤を得た。次にこの
正極顆粒合剤を,直径19mm,厚さ1.15mmに加圧成形を行い,
正極タブレットとした。(【0035】)
次に黒鉛化メソフェーズピッチ炭素繊維粉末100質量部に結着剤と
してSBRとCMCとを,それぞれ2.5質量部を添加,混合し,乾燥後,
さらに粉砕して顆粒状の負極合剤を得た。この負極顆粒合剤を,直径1
9mm,厚さ1.15mmに加圧成形し,負極タブレットとした。
(【0036】)
次に,これらの正負極タブレットを85℃で12h乾燥した後,開口
面積3.14㎠の絶縁ガスケットを一体化した負極ケースに負極タブレ
ット,ポリプロピレンからなる厚さ0.2mmのポリプロピレン不織布,
正極タブレットの順に配置し,エチレンカーボネートとメチルエチルカ
ーボネートを体積比1:1の割合で混合した溶媒に支持塩としてLiPF6
を1mol/lの割合で溶解させた非水電解質を注液し,さらにステンレス
製の正極ケースを嵌合し,上下反転後,正極ケースに加締め加工を実施
し,厚さ3mm,直径φ24.5mmの比較例1の扁平形非水電解質二
次電池を作製した。この電池のセパレータを介した正負極対向面の面数
は1面であり,正負極の対向面積の総和は2.8㎠である。(【003
7】)
(カ)比較例2
電極群内の正極板および負極板が片面塗工電極板のみであり,作用物
質含有層の塗膜厚さがそれぞれ1.24mmであること以外は実施例1
と同様に電池を作製した。この電池のセパレータを介した正極板の作用
物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面の面数は計1面であり,
正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面積の総和
は1.7㎠である。(【0038】)
(キ)以上の通り作製した本実施例および比較例の電池について,4.2V,
3mAの定電流定電圧で48h初充電を実施した。その後,30mAの定
電流で3.0Vまで放電を実施し重負荷放電容量を求めた。その結果を
表1に示す。
(ク)表1(【0040】)
(ケ)評価
表1より明らかであるが,本実施例の各電池は比較例1の従来の顆粒
合剤成形法により作製したタブレット状の電極を用いた正負極の対向面
積がガスケットの開口面積よりも小さい電池や比較例2の正極板の作用
物質含有層と負極板の作用物質含有層との対向面が1面しかなく,対向
面積が小さい電池に比べて,著しく重負荷放電時の放電容量が大きい。
(【0041】)
ク本件発明の適用について
なお,本発明の実施例では,非水電解質に非水溶媒を用いた扁平形非
水溶媒二次電池を用いて説明したが,非水電解質にポリマー電解質を用
いたポリマー二次電池や固体電解質を用いた固体電解質二次電池につい
ても当然適用可能であり,樹脂製セパレータの代わりにポリマー薄膜や
固体電解質膜を用いることも可能である。また,電池形状については正
極ケースの加締め加工により封口するコイン形非水電解質をもとに説明
したが,正負極電極を入れ替え,負極ケースの加締め加工により封口す
ることも可能である。さらに,電池形状についても真円である必要はな
く小判形や角形などの特殊形状を有する扁平形非水電解質二次電池にお
いても適用可能である。(【0042】)
2取消事由1(訂正の適否の判断における訂正事項1-2及び1-3につい
ての判断の誤り)について
(1)訂正事項1-2及び1-3が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに
該当するとの本件審決の認定・判断については,当事者間に争いがない。
(2)本件明細書に記載した事項の範囲内においてしたものか否かについて
ア「明細書又は図面に記載した事項」とは,当業者によって,明細書又は
図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項を意味し,
このようにして導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事
項を導入しないものであるときは,当該訂正は「明細書又は図面に記載
した事項の範囲内において」するものということができると解される。
イ(ア)本件発明の課題及びその解決手段
本件明細書の記載(【0007】~【0009】)によれば,本件発
明の課題は,「小型の扁平形非水電解質二次電池の重負荷放電特性を如
何にして従来にないレベルまで引き上げるかが本発明の課題であり,重
負荷放電特性が格段に優れた扁平形非水電解質二次電池を提供すること」
であると認められる。
また,その解決手段について,本件明細書には「従来の扁平形非水電
解質二次電池に比べて電極面積を格段に大きくすること」(【001
0】),「負極端子を兼ねる金属製の負極ケースと正極端子を兼ねる金
属製の正極ケースとが絶縁ガスケットを介し嵌合され,さらに前記正極
ケースまたは負極ケースが加締め加工により加締められた封口構造を有
し,その内部に,少なくとも,正極板と負極板とがセパレータを介して
対向配置している電極群を含む発電要素と,非水電解質とを内包した扁
平形非水電解質二次電池において,前記電極群内の正極板の作用物質含
有層と負極板の作用物質含有層との対向面積…を,前記絶縁ガスケット
の開口面積よりも大きくすること」(【0011】),「コイン形やボ
タン形などの非常に小さな扁平形電池の電池ケース内に電極を多層配置
することで,電極群内の正負極の対向面積の総和が絶縁ガスケットの開
口面積よりも大きな電極群を収納すること」(【0013】),「正負
極の対向面積がガスケットの開口面積より大きな電極を扁平形非水電解
質二次電池内に収納する形態については種々の形態が考えられるが,そ
の中で扁平形電池の扁平面に対して平行に正負極対向部を持つように電
極を積層した電極群として収納することが好ましいこと」(【001
4】)との記載がある。すなわち,本件発明における課題解決手段は
「正極板と負極板とがセパレータを介して対向配置している電極群を含
む発電要素と,非水電解質とを内包した扁平形非水電解質二次電池にお
いて,前記電極群内の正極板の作用物質含有層と負極板の作用物質含有
層との対向面積を,前記絶縁ガスケットの開口面積よりも大きく」する
ために,「コイン形やボタン形などの非常に小さな扁平形電池の電池ケ
ース内に電極を多層配置することで,電極群内の正負極の対向面積の総
和が絶縁ガスケットの開口面積よりも大きな電極群を収納」することと
認められる。
(イ)正極構成材及び負極構成材の形状について
正極構成材及び負極構成材の形状については,本件明細書の記載によ
れば,「本発明の電池において,実際に電極群を作製,収納する方法に
ついては,電極の一部に通電部を設けた正極板および負極板を用意し,
セパレータを介して正極板および負極板を積層する際に,正極板の通電
部がセパレータの配置されている箇所よりも外側に露出し,負極板の通
電部が,正極板の通電部が露出している位置に対向する位置において,
セパレータの配置されている箇所よりも外側に露出する形で積層した後,
正極は正極同士,負極は負極同士おのおのの通電部を溶接などの方法に
より電気的に接続し電極群を形成し,電池内に収納する方法が好まし
い。」(【0017】)とされているとともに,実施例において「実施
例1の電池の製造方法を図1の断面図を参照して説明する。」(【00
26】),「これらの電極を幅13mm,長さ13mmの正方形の一辺
に幅6mm,長さ2mmの張り出し部が付いた形状に切り出し,次にこ
の張り出し部に形成された作用物質含有層をこそげ落とし,アルミニウ
ム層または銅層をむき出しとして通電部とし,幅13mm,長さ13
mmの作用物質含有層が形成された両面および片面塗工の正極板並びに
負極板を作製した。」(【0029】)とされ,また,実施例2~4も,
この点についてはいずれも「実施例1と同様に電池を作製した。」
(【0032】~【0034】)とされている。すなわち,正極構成材
及び負極構成材は「セパレータを介して正極板および負極板を積層する
際に,正極板の通電部がセパレータの配置されている箇所よりも外側に
露出し,負極板の通電部が,正極板の通電部が露出している位置に対向
する位置において,セパレータの配置されている箇所よりも外側に露出
する形で積層した後,正極は正極同士,負極は負極同士おのおのの通電
部を溶接などの方法により電気的に接続し電極群を形成し,電池内に収
納する方法」で作製され,実施例として「電極を」「正方形の一辺に」
「張り出し部が付いた形状に切り出し」,「作用物質含有層をこそげ落
とし」,「両面および片面塗工の正極板並びに負極板を作製」したもの
が挙げられている。
ウ検討
上記認定に基づいて検討するに,当業者であれば,本件明細書の記載
から,扁平形電池の電池ケース内に電極を多層配置することで,電極群
内の正負極の対向面積の総和が絶縁ガスケットの開口面積よりも大きな
電極群を収納することにより,重負荷放電特性の引き上げという本件発
明の課題を解決することができること,すなわち,課題の解決のために
は,電池ケース内に電極を多層配置することが技術的な中核部分をなす
ことを理解することができるといえる。そして,訂正事項1-2及び1
-3は,訂正前の発明に,正極構成材,負極構成材の「直線状の2辺が
対向する部分を有する」という構成を付加するものであるが,この構成
は,本件発明本来の課題が達成されていることを前提に,電極を多層積
層したことに伴い正負極それぞれを電気的に接続する通電部を構成しや
すくするというある意味副次的な効果を付与するのにとどまるものと理
解される。また,本件明細書には,実施例として,正極構成材及び負極
構成材の形状が正方形であるものが記載されているが,その形状を正方
形に限定していると解することの根拠となる記載はないから,その記載
は,「直線状の2辺が対向する」形状のうち,正方形以外の形状も含み
得るものである。
そうすると,訂正事項1-2及び1-3は,本件明細書の記載を総合
することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事
項を導入するものには当たらないというべきである。
したがって,訂正事項1-2及び1-3は,「明細書又は図面に記載
した事項の範囲内において」なされたものと認められる。この点に関す
る本件審決の判断に誤りはない。
なお,訂正事項1-2及び1-3につき,原告は,実質上特許請求の
範囲を拡張し,又は変更するものと主張しておらず,また,そのように
見るべき事情もない。
エこれに対し,原告は,本件発明の技術的意義は電極面積を極力大きく取
ることにより従来よりも重負荷放電特性を格段に向上させたところにあ
り,この目的を達成するために,電極群を構成する正極構成材及び負極
構成材の形状を,円形内において正方形のように極力電極の面積が大き
くなる形状とすることは,本件発明の技術的事項を構成するところ,正
極構成材及び負極構成材の形状を,正方形ではなく,より面積が小さく
なり得る形状にすることは,電極の面積を極力大きく取るという本件発
明の目的に反することから,このような形状を採用することは本件発明
の技術的事項に含まれているとはいえないなどと主張する。
しかし,前記のとおり,本件発明の目的ないし課題は重負荷放電特性
の引き上げにあることに鑑みると,電極面積はこれを達成し得るもので
あればよく,電極面積を極力大きく取ることまでは必ずしも求められて
いないものと理解される。実際,本件明細書の記載を見ても,本件発明
において電極面積を極力大きく取ることが不可欠であることをうかがわ
せるものは見当たらない。
その他原告がるる主張する点を考慮しても,この点に関する原告の主
張は採用し得ない。
3取消事由2(訂正の適否の判断における訂正事項1-5についての判断の
誤り)について
(1)訂正事項1-5が特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当すると
の本件審決の認定・判断については,当事者間に争いがない。
(2)ア原告は,訂正前の本件発明は,重負荷放電特性が格段に優れた扁平型
非水電解質二次電池を提供するという目的を達成するために,扁平型電池
の扁平面に対して平行に正負極対向部を持つように電極を積層した電極群
として収納する構成を採用することにより,電極の対向面積の総和を大き
くし,重負荷放電時の放電容量が従来の電池に対し格段に大きくなるとい
う効果を奏する発明であるのに対し,訂正事項1-5に係る訂正後の本件
発明は,容積効率が改善された扁平型非水電解質二次電池を提供するとい
う目的を達成するために,電極群の中間部に位置する正極構成材及び負極
構成材の両面に作用物質含有層を有することによって,容積効率が改善さ
れるという効果を奏する発明であるから,訂正事項1-5は,訂正前の本
件発明との関係で,新たな目的や効果を追加するものであるなどと主張す
る。
イ容積効率の改善について
まず,電極群が両端の最外部と中間部とからなることは,本件明細書
【0019】及び実施例1~4に記載されており,本件明細書に記載さ
れた事項であると認められる。
その上で,容積効率の改善について,本件明細書には「電極について
は正極板,負極板とも,肉薄電極の作製が行い易いという点で金属箔に
スラリー状の合剤を塗布,乾燥したものがよく,さらにそれを圧延した
ものを用いることもできる。上記のような金属箔に作用物質を含む合剤
層を塗工した電極を用いる場合は,電極群の内部に用いる電極は金属箔
の両面に作用物質含有層を形成したものを用いることが,容積効率の上
から好ましく,電極群の両端の電池ケースに接触する電極構成材露出部
については作用物質含有層でも構わないが,接触抵抗を低減させるため
に電極構成材のうち,特に金属箔を露出させることが好ましい。これに
関してはこの部分に限り片面にのみ作用物質含有層を形成した電極を用
いてもよいし,一旦両面に作用物質含有層を形成した後,片面のみ作用
物質含有層を除去してもよい。」(【0021】)との記載がある。す
なわち,本件明細書によれば,本件発明につき,容積効率の改善の観点
からは「電極群の内部に用いる電極は金属箔の両面に作用物質含有層を
形成したものを用いることが,容積効率の上から好まし」いとされてい
ることが認められる。
ウ検討
本件明細書の上記記載によれば,当業者であれば,電極の両面に作用
物質含有層を形成したものは容積効率が向上すると理解することができ
る。また,前記のとおり,当業者であれば,本件明細書の記載から,扁
平形電池の電池ケース内に電極を多層配置することで,電極群内の正負
極の対向面積の総和が絶縁ガスケットの開口面積よりも大きな電極群を
収納することによって,重負荷放電特性の引き上げという,本件発明の
課題を解決することができること,すなわち,課題の解決のためには,
電池ケース内に電極を多層配置することが技術的な中核部分をなすこと
を理解し得る。
そうすると,本件明細書の記載によれば,当業者は,本件発明に係る
扁平型非水電解質二次電池において,電極の両面に作用物質含有層を形
成したものとすることにより,本件発明の上記課題を解決し得ると同時
に,容積効率も向上するものと理解し得るということができ,かつ,容
積効率の向上は,重負荷放電特性の引き上げという本件発明の目的に付
随するものと位置付けられるものといってよい。
したがって,訂正事項1-5は,本件発明の課題である重負荷放電特
性の引き上げを達成し得るとともに,付随的な目的である容積効率の向
上を図るものであるところ,これらはともに本件明細書に記載された事
項であるから,訂正事項1-5は,実質上特許請求の範囲を拡張し,又
は変更するものではなく,本件審決の判断に誤りはない。この点に関す
る原告の上記主張は採用し得ない。
なお,訂正事項1-5につき,原告は,「明細書又は図面に記載した
事項の範囲内において」なされたものでないと主張しておらず,かつ,
そのように見るべき事情もない。
4まとめ
以上より,訂正事項1-2,1-3及び1-5は,いずれも特許請求の範囲
の減縮を目的とするものに該当し,本件明細書の記載を総合することにより導
かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく,
本件明細書に記載した事項の範囲内においてなされたものであり,かつ,実質
上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものではない。
したがって,本件訂正は,法134条の2第1項ただし書1号に掲げる事項
を目的とするものであり,同条9項,126条5項及び6項に適合し,他の要
件についてもこれを違法と見るべき事情はないことから,適法な訂正と認めら
れる。
本件における原告の主張は,訂正要件違反を前提として,本件特許を無効と
するものであるから,その前提を欠く以上,原告の主張は採用し得ない。
5結論
よって,原告の請求は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとお
り判決する。
知的財産高等裁判所第3部
裁判長裁判官
鶴岡稔彦
裁判官
杉浦正樹
裁判官
寺田利彦

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