弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
     原判決中、被上告人の請求に係る部分を破棄し、第一審判決中、右請求
に係る部分を取り消す。
     被上告人の訴えを却下する。
     被上告人の請求に係る訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
         理    由
 職権をもって調査するのに、被上告人の提起した本件新株発行不存在確認の訴え
は、不適法で却下を免れないものというべきである。その理由は、次のとおりであ
る。
 商法上の特別の訴えとして、同法二八〇条ノ一五以下に規定されている新株発行
無効の訴えは、新株発行の日から六箇月内にのみ(同条一項)、株主、取締役又は
監査役に限り(同条二項)、会社を被告として提起することのできる形成の訴えで
あり、新株発行を無効とする判決は第三者に対してもその効力を有するが(同法二
八〇条ノ一六において準用する一〇九条一項)、新株は将来に向かってのみその効
力を失う(同法二八〇条ノ一七第一項)。商法が、このように、出訴期間及び原告
適格の制限があるとともに、認容判決に対世効がある一方で遡及効はない特別の訴
えを創設した趣旨は、新株発行は、会社と取引関係に立つ第三者を含めて広い範囲
の法律関係に影響を及ぼす可能性があるために、新株発行に無効原因がある場合で
あっても、その新株発行を前提として形成されていく新たな法律関係をいつまでも
覆し得ることとし、あるいは遡及して覆し得ることとするのは相当でなく、また、
認容判決の効力が訴訟当事者間においてのみ相対的に生ずるとするのも相当でない
ことから、新株発行に伴う法律関係を早期かつ画一的に確定することにあると解さ
れる。
 商法は、このように新株発行無効の訴えを創設しているが、新株発行不存在確認
の訴えについては何ら規定するところがない。しかしながら、新株発行が無効であ
るにとどまらず、新株発行の実体が存在しないというべき場合であっても、新株発
行の登記がされているなど何らかの外観があるために、新株発行の不存在を主張す
る者が訴訟によってその旨の確認を得る必要のある事態が生じ得ることは否定する
ことができない。このような新株発行の不存在は、新株発行に関する瑕疵として無
効原因以上のものであるともいうことができるから、新株発行の不存在についても、
新株発行に無効原因がある場合と同様に、対世効のある判決をもってこれを確定す
る必要がある。したがって、商法の明文の規定を欠いてはいるが、新株発行無効の
訴えに準じて新株発行不存在確認の訴えを肯定する余地があり、この場合、新株発
行無効の訴えに対比して出訴期間、原告適格等の訴訟要件が問題となるが、この訴
えは少なくとも、新株発行無効の訴えと同様に、会社を被告としてのみ提起するこ
とが許されるものと解すべきである。
 これを本件について見ると、被上告人の本件新株発行不存在確認の訴えは、新株
を引き受けた株主である上告人を被告として提起したもので、会社以外の者を被告
とするものであることが明らかであるから、不適法であるといわなければならない。
 したがって、上告理由について判断するまでもなく、原判決中被上告人の新株発
行不存在確認の請求を認容した部分は既にこの点において破棄を免れず、第一審判
決中右請求を棄却した部分を取り消して、被上告人の訴えを却下すべきである。
 よって、民訴法四〇八条、三九六条、三八六条、九六条、八九条に従い、裁判官
可部恒雄、同千種秀夫の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のと
おり判決する。
 裁判官可部恒雄、同千種秀夫の補足意見は、次のとおりである。
 新株発行の不存在についても、新株発行に無効原因がある場合と同様に、対世効
のある判決をもってこれを確定し得ることとする必要があることは、法廷意見の説
示するとおりで、商法の明文の規定を欠いてはいるが、新株発行無効の訴えに準じ
て新株発行不存在確認の訴えを肯定すべきであると考える。その場合、明文の規定
がないにもかかわらず、新株発行無効の訴えに準じてこれを認めるのであるから、
被告適格の点だけでなく、出訴期間、原告適格等の訴訟要件を始め、出訴期間経過
後の措置、判決の効力等についても、可能な限り新株発行無効の訴えに準ずべきこ
とはむしろ当然であろう。したがって、商法が法的安定性の見地から新株発行無効
の訴えについて出訴期間を設けた趣旨に鑑みれば、出訴期間の制限なしに、何時ま
でも新株発行不存在確認の訴えを独立して提起し得るものとすることには躊躇を覚
える。その反面、新株発行不存在確認の訴えを必要とする実情に照らせば、右の出
訴期間の経過後においても、新株発行の不存在を前提として株主権の不存在確認を
求める等の別訴を提起することを妨げる理由も見出し難い。そして、そのような判
決が確定したときは、登記等の新株発行の外観を除去するための方途も同時に考慮
されなければなるまい。
 このような問題点を考えると、新株発行無効の訴えに関する規定を何処まで類推
適用すべきかについては、なお議論の余地があるが、本件においては、いずれの当
事者からもこの点についての主張はなく、したがって原審も判示せず、論旨もまた
特段の言及をしていないところであるから、それらについては今後の検討にまつこ
ととし、被上告人の本件訴えについては、被告適格を欠く点において不適法である
とし、これを却下するのが相当である。
     最高裁判所第三小法廷
         裁判長裁判官    可   部   恒   雄
            裁判官    園   部   逸   夫
            裁判官    大   野   正   男
            裁判官    千   種   秀   夫
            裁判官    尾   崎   行   信

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