弁護士法人ITJ法律事務所

裁判例


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         主    文
       原判決のうち上告人の敗訴部分を破棄する。
       前項の部分につき本件を東京高等裁判所に差し戻す。
         理    由
 第1 本件の事実関係の概要等
 1 本件は,長野県北佐久郡a町所在の第1審判決別紙物件目録記載の山林52
8㎡(以下「本件土地」という。)を取得した被上告人が,同取得に関して受けた
不動産取得税賦課決定が違法であるとして,その取消しを求める事案である。
2 原審が確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
(1) 被上告人は,平成10年2月18日,本件土地の取得(以下「本件取得」と
いう。)をした。この時点において固定資産課税台帳に登録されていた本件土地の
価格は,基準年度である平成9年度の価格314万1024円であった。
(2) 本件土地が所在するb別荘地(以下「本件別荘地」という。)は,全域にわ
たって道路が設けられ,電気,水道が整備されているが,全体が急傾斜地であり,
本件土地付近における斜度は30度から40度に達している。本件別荘地は,景観
の良好な地域も限られており,開発後約30年を経過しているにもかかわらず,別
荘地として利用されている区画はごくわずかで,いわゆるバブル経済崩壊後は一層
利用されなくなった。
(3) a町長は,本件土地の平成10年度分の価格を決定するに当たり,同年度は
第2年度であるところ,a町の区域内の自然的及び社会的条件からみて類似の利用
価値を有すると認められる地域において地価が下落し,かつ,本件土地に係る同9
年度分の固定資産税の課税標準の基礎となった価格を同10年度分の固定資産税の
課税標準とすることが固定資産税の課税上著しく均衡を失すると認め,地方税法(
平成12年法律第4号による改正前のもの。以下「法」という。)附則17条の2
第1項の特例を適用し,修正前の価格を自治大臣が定める基準(「平成10年度又
は平成11年度における土地の価格に関する修正基準」(平成9年自治省告示第1
26号)。以下「修正基準」という。)によって修正した価格である295万23
22円(以下「本件修正価格」という。)を同10年度分の価格とする旨決定し,
これを固定資産課税台帳に登録した。
(4) a町長は,固定資産評価基準(昭和38年自治省告示第158号。平成11
年自治省告示第132号による改正前のもの。以下「評価基準」という。)及び修
正基準(以下,評価基準と併せて「評価基準等」という。)に従い,本件土地が別
荘用地であるものの下草や雑木が繁茂し放題の状況であって,宅地と認定すること
が不適当であることから雑種地と認定し,付近の土地の価額に比準してその価額を
求めることとした。そして,本件別荘地から標準宅地として選定した長野県北佐久
郡a町大字c字de番fの土地(以下「本件標準宅地」という。)について,平成
8年1月1日時点における不動産鑑定士による鑑定評価額である1㎡当たり1万0
500円を基にして,評価基準等に従って算定した1㎡当たりの価格6645円に
より,6645を平成10年度の単位地積当たりの評点数とした。同町長は,宅地
との比準割合につき,本件土地のような雑種地を建物を建築できる状況にするまで
に要する立木の伐採,間伐,下刈り,抜根等に要する経費を評価額から控除して求
めることとし,代表的な別荘地の単位地積当たりの価格から伐採等に要する単位地
積当たりの経費を控除し,これを代表的な別荘地の単位地積当たりの価格で除して
得られた数値である0.85をa町における宅地からみた別荘地(雑種地)の比準
割合とし,さらに,本件標準宅地が二方路線地であるのに対して本件土地は一方の
みの接道であることから本件土地の比準割合を0.99とし,これにより求められ
た単位地積当たりの評点数に地積の平米数528を乗じ本件土地の評点数を求め,
これに評点1点当たりの価額1円を乗じて本件修正価格を算出した。
上記鑑定評価額は,隣接するg町,小諸市の別荘地の類似性の高い基準地,標準地
の価格との均衡に配慮しながら,本件別荘地における同4年12月,同5年2月,
同年4月の実際の取引事例の価格から求められたものである。
(5) 上告人は,長野県知事から委任を受け,不動産取得税賦課決定に関する権限
を有するところ,平成10年4月3日に本件取得の事実を把握したが,その時点で
は本件土地の固定資産課税台帳には本件修正価格が登録されていたので,同価格を
基礎として,本件取得について,同年6月10日付けで課税標準を147万600
0円,税額を5万9000円とする不動産取得税賦課決定(以下「本件賦課決定」
という。)をした。
3 原審は,上記事実関係の下において,次のとおり判断した。
(1) 本件土地は,法73条の21第2項の「固定資産課税台帳に固定資産の価格
が登録されていない不動産」に当たり,長野県知事から委任を受けた上告人は,本
件土地に係る不動産取得税の課税標準となるべき価格を決定すべきであるが,上告
人は,a町長が算定し固定資産課税台帳に登録した価格に基づいて課税標準及び税
額を算定し本件賦課決定をしたものであり,本件賦課決定に当たって,本件土地に
係る不動産取得税の課税標準となる価格を決定したものと認めることができる。
(2) a町長の本件土地の価格の算定方法は,本件別荘地の全体が急傾斜地であり
,本件土地付近における斜度は30度から40度に達していること,景観の良好な
地域も限られていること,開発から30年を経過しているにもかかわらず別荘地と
して利用されている区画がごくわずかで,いわゆるバブル経済崩壊後は一層利用さ
れなくなったことなどから本件別荘地が別荘地としての開発に失敗したものである
にもかかわらず,このような現況を無視し,あくまでも通常の別荘地として評価し
ようとするものであって,客観性,合理性を欠く。したがって,a町長によって算
定された本件修正価格は,土地の現況を無視した不相当な評価方法によるものと認
められ,適正な時価と認めることはできない。
(3) 本件別荘地の総区画数の8割程度が別荘として現実に利用される状態になれ
ば,別荘地として通常の利用がされているものとみて,本件別荘地内の土地の平均
的な価格は,隣接する別荘地の取引事例価格の平均値である1㎡当たり2万241
9円に匹敵する価格となるが,反対に1区画も別荘地として利用されずに山林同然
の状態であったとすれば,全体が山林としての評価に止まることになり,1㎡当た
り100円程度の評価しかできないものとなる。そうすると,いまだ通常の別荘地
としての利用がされていない本件別荘地の評価に当たっては,地域全体における別
荘地としての利用率を考慮すべきであり,前者の2万2419円に実際に別荘地と
して利用されている区画数を乗じて求めた金額と,後者の100円に全体の区画数
の8割に相当する区画数から現実に別荘地として利用されている区画数を減じた区
画数を乗じて求めた金額との和を,総区画数の8割に相当する区画数で除して求め
た金額を本件別荘地の平均的な評価額と認めるのが相当である。したがって,2万
2419円に本件別荘地のうち現実に別荘地として利用されていると解される区画
数である50を乗じて求めた112万0950円と,100円に総区画数934の
8割である747から前記50を減じた697を乗じて求めた6万9700円との
和である119万0650円を747で除して求めた約1594円をもって,本件
別荘地の1㎡当たりの平均的な価格とするべきである。
上記により求められた1㎡当たり1594円という価格は本件標準宅地の単位地積
当たりの価格に近似するものである。本件土地は,本件標準宅地と比較して接道条
件の点で若干劣っていることが認められるのであって,少なくとも本件標準宅地を
条件的に上回るものではない。したがって,本件土地の単位地積当たりの価格は,
高くとも1㎡当たり前記1594円と認めるのが相当である。
本件土地の価格は,これに地積の平米数を乗じた84万1632円であり,課税標
準額は42万円,不動産取得税額は1万6800円となり,本件賦課決定は上記金
額を超える限度において違法である。
第2 上告代理人宮澤建治,同山崎勝巳の上告受理申立て理由第2について
【要旨1】法73条の21第2項に規定する固定資産課税台帳に固定資産の価格が
登録されていない不動産等については,同項に基づき評価基準によって決定された
価格が適正な時価を上回る場合にはその決定された価格に基づいてされた賦課決定
処分は違法となる。したがって,道府県知事が同項に基づき評価基準によって不動
産取得税の課税標準となるべき価格を決定し,賦課決定処分をした場合には,不動
産取得税を賦課された者は,当該価格が適正な時価を上回ると主張して課税標準た
る価格を争うことができると解するのが相当である。
これと同様の前提に立つ原審の判断は正当として是認することができる。所論引用
の判例は,固定資産課税台帳に固定資産の価格が登録されている不動産に係るもの
であって事案を異にし,本件に適切でない。論旨は採用することができない。
第3 上告代理人宮澤建治,同山崎勝巳の上告受理申立て理由第1について
1 道府県知事が法73条の13第1項の不動産の価格を決定するに当たって,法
73条の21第2項は,同項所定の不動産については,評価基準によってその価格
を決定する旨規定し,地方税法(平成10年法律第27号による改正前のもの)附
則11条の6は,当該不動産が法附則17条の2第1項の適用により修正基準によ
る修正を受けるべき土地である場合には,評価基準のほか修正基準によってその価
格を決定する旨規定している。
【要旨2】法は,不動産取得税の課税標準となるべき不動産の価格とは,不動産を
取得した時における適正な時価(法73条5号,73条の13第1項)をいう旨規
定し,固定資産税の課税標準である土地又は家屋の価格の意義について定める地方
税法(平成11年法律第15号による改正前のもの)341条5号,法349条1
項と同様の規定を置いている。そうすると,法73条の21第2項により決定され
るべき上記の不動産の価格とは,固定資産税の課税標準である土地又は家屋の価格
と同様に,正常な条件の下に成立する当該不動産の取得時におけるその取引価格,
すなわち,客観的な交換価値をいうと解される。そして,法は,評価基準等が適正
な時価を算定するための一つの合理的方法であるとするものであるから,評価基準
等に従って決定された不動産の価格が上記の客観的な交換価値を上回るものであれ
ば,当該価格の決定は違法となると解される(最高裁平成10年(行ヒ)第41号
同15年6月26日第一小法廷判決・民集57巻6号723頁参照)。
2 ところで,原判決が採用した前記第1の3(3)の本件土地の評価方法は,独自
のものであって,これによって本件土地の適正な時価を算定することができるもの
とは考えられない。
この算定方法によって算定した本件土地の価額に基づいて本件賦課決定を一部違法
とした原判断には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるものとし
て,破棄を免れない。論旨はこの趣旨をいうものとして理由がある。
なお,前記事実関係によれば,本件別荘地は,全体が急傾斜地であり,本件土地付
近における斜度は30度から40度に達しているなどというのである。上記事情は
,本件土地の客観的交換価値を低下させる要因であり,本件標準宅地に比準するこ
とが適切であるかどうか検討を要するし,仮に比準し得るとしても,傾斜の状況,
土盛り,削土,土止め等の加工の現況又は必要性等の価格を左右する要因において
有意な相違がある場合には,この点を考慮した上で適切に比準することが,評価基
準第1章第10節一による評価に当たって必要であるというべきである。
3 そこで,原判決のうち上告人敗訴部分を破棄し,更に審理を尽くさせるため本
件を原審に差し戻すこととする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 北川弘治 裁判官 福田 博 裁判官 梶谷 玄 裁判官 滝井
繁男 裁判官 津野 修)

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