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平成28年12月15日宣告
平成27年(わ)第394号,440号,461号,平成28年(わ)第37号
昏酔強盗,詐欺被告事件
判決
公判出席検察官
(求刑懲役7年)
同私選弁護人
主文
被告人を懲役4年に処する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,
第1A(当時50歳)を昏酔させて金品を盗取しようと考え,平成27年6月1
1日午後6時頃から同日午後6時54分頃までの間,仙台市a区bc丁目d番
e号B仙台駅東口4階所在のC仙台東口店において,同人に対し,睡眠導入作
用を有する薬物をアイスクリームと共に食べさせ,同人を昏酔状態に陥らせた
上,同人管理のクレジットカード3枚を盗取した。
第2前記第1の盗取に係るA名義のクレジットカードを使用して商品をだまし取
ろうと考え,同年6月11日午後7時18分頃,仙台市f区gh丁目i番j号
D百貨店仙台店1階所在のE仙台店において,同店従業員Fに対し,真実は,
同クレジットカードの正当な使用権限がなく,同クレジットカードシステム所
定の方法により代金を支払う意思もないのに,これらがあるように装って,同
クレジットカードを提示した上,クレジットお買い上げ票等のご署名欄等に「G」
などと記載して,ブレスレット1個の購入を申し込み,同人にその旨誤信させ,
よって,その頃,同所において,同人からブレスレット1個(販売価格5万7
60円)の交付を受け,もって人を欺いて財物を交付させた。
第3H(当時44歳)を昏酔させて金品を盗取しようと考え,同年6月16日午
後6時35分頃から同日午後8時39分頃までの間,仙台市f区gh丁目k番
l号I6階所在のJ仙台駅前店において,同人に対し,睡眠導入剤であるブロ
チゾラム等を含有する薬物を混入したチョコレートを食べさせ,同人を昏酔状
態に陥らせた上,同人管理のクレジットカード1枚等2点を盗取した。
第4K(当時40歳)を昏酔させて金品を盗取しようと考え,同年6月20日午
後9時15分頃から同日午後9時51分頃までの間,前記第1記載のC仙台東
口店において,同人に対し,睡眠導入剤であるトリアゾラム等を含有する薬物
を混入したチョコレートを食べさせ,同人を昏酔状態に陥らせた上,同人管理
のクレジットカード2枚を盗取した。
第5L(当時52歳)を昏酔させて金品を盗取しようと考え,同年6月24日午
後6時5分頃から同日午後7時7分頃までの間,仙台市f区gm丁目n番o号
M3階所在のN仙台南町通り店において,同人に対し,睡眠導入剤であるトリ
アゾラム等を含有する薬物を混入したチョコレートを食べさせ,同人を昏酔状
態に陥らせた上,同人管理のクレジットカード2枚を盗取した。
(法令の適用)
1罰条
判示第1及び第3から第5までそれぞれ刑法239条,236条1項
の各所為
判示第2の所為刑法246条1項
2併合罪の処理刑法45条前段,47条本文,10条(刑
及び犯情の最も重い判示第1の罪の刑に
法定の加重)
3酌量減軽刑法66条,71条,68条3号
4宣告刑の決定懲役4年
(量刑の理由)
本件は,昏酔強盗4件及び詐欺1件の事案である。
まず,量刑上重視するべき判示第1及び第3から第5までの昏酔強盗についてみ
ると,その各犯行の手口は,被告人が,インターネット上の出会い系サイトを通じ
て被害男性と連絡をとって,一緒に飲食する約束をし,事前に自ら睡眠導入剤をチ
ョコレートに混入させて睡眠導入剤入りチョコレートを調合し,犯行当日,睡眠導
入剤入りチョコレートを持参した上で被害男性と待ち合わせて,一緒に居酒屋に入
店し,機会をうかがいながら,被害男性に前記チョコレートを食べさせ,被害男性
が昏酔状態に陥ったところでクレジットカードを持ち去るというものである。被告
人は,同様の手口を用いて,約2週間で4件もの犯行に及んでおり,いずれも計画
的かつ巧妙なもので,犯行態様は悪質である。各被害男性が短時間で昏酔状態に陥
り,記憶の一部に喪失がみられることからすると,被害男性の身体に対する大きな
危険性を伴う可能性もあったといえる。
昏酔強盗の各犯行により,被告人はクレジットカード合計9枚を盗取しているが,
犯行後,実際に被告人が一部のクレジットカードを使用して商品の購入等を行うこ
とができていることを踏まえると,盗取されたクレジットカードの財産的価値を軽
視することはできない。
被告人は,盗取したクレジットカードを用いてアクセサリーや衣服等の商品を購
入したり,キャッシングをして現金を引き出すなどの目的で,昏酔強盗の各犯行に
及んでおり,利欲を目的とした犯行の動機に酌むべき事情はない。この点について,
被告人を診察した精神科医は,犯行当時,被告人が特定不能の解離性障害及び摂食
障害に罹患しており,これらの精神障害が,被告人の抱えていた心理的重圧から一
時的に逃れるため,あるいは,金品を獲得するという目的達成のため,昏酔強盗に
及んだという,被告人の選択や行動に影響を与えていると指摘する。精神科医の供
述に従えば,被告人が精神障害に罹患していた可能性は否定できないが,各犯行に
至るまでの被告人の行動や犯行態様が計画的で合目的的であること,利欲的な犯行
の動機は精神障害の影響を考慮しなくても十分了解可能であることに鑑みると,精
神障害が被告人の是非弁別能力及び行動制御能力に大きな影響を与えていたとは認
められず,責任非難を減少させるものとはいえない。
また,被告人は,昏酔強盗の犯行で盗取したクレジットカードを使用して,約5
万円のアクセサリーを購入するという判示第2の詐欺の犯行にも及んでおり,本件
全体の犯情は相当に悪質といわざるを得ない。
さらに,4件にも上る本件昏酔強盗の犯行は,入手が比較的容易な睡眠導入剤を
使用したもので,模倣性が高く,社会的な影響を無視できない。
なお,昏酔強盗の各被害男性に対する被害弁償が行われ示談が成立し,被告人が
3人の被害男性から宥恕を得ている点は,量刑上,被告人に有利に考慮すべきであ
る。しかしながら,前記犯情等に照らせば,それでもなお被告人の刑事責任は重く,
本件が刑の執行を猶予することが相当な事案であるとはいえない。
弁護人は,精神科医の指摘を踏まえて,社会内での適切な治療こそが被告人の更
生のためには不可欠であって,治療の必要性を量刑上考慮すべきであると主張する。
被告人の精神障害について,今後も診察や治療の必要性があり,治療の結果,被告
人が本件各犯行に対する反省をさらに深めていく可能性があるとはいえるが,まず
はその刑事責任の重さに見合った刑に服する必要があるのであって,かかる事情を
量刑上考慮することには限界がある。
そこで,以上検討したところに加え,被告人に前科前歴がないこと,被告人の両
親が,被告人を支えてその更生に協力することを約束していること,被告人が反省
の態度を示していることなどの事情も考慮して,酌量減軽の上,被告人を主文の刑
に処するのが相当であると判断した。
平成28年12月15日
仙台地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官加藤亮
裁判官田郷岡正哲
裁判官楠山喬正

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